JP2011058105A - ホース補強用繊維コード及びホース - Google Patents

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Abstract

【課題】低収縮かつ寸法安定性に優れ、耐疲労性の向上したホース補強用繊維コード及びそれを用いてなるホースを提供すること。
【解決手段】ポリエステル繊維から構成されたホース補強用繊維コードであって、該ポリエステル繊維が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むホース補強用繊維コード。さらには、該層状ナノ粒子がZn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を含む化合物から構成されていることが好ましい。また、該層状ナノ粒子が金属−リン化合物であることや、その該リン化合物がフェニルホスホン酸誘導体であることが好ましい。またポリエステル繊維を構成するポリエステル中の主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものであることが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明はホース補強用繊維コードに関するものであり、さらに詳しくは低収縮で寸法安定性に優れ、かつ耐久性に優れるホース補強用繊維コード及びそれを用いてなるホースに関する。
ポリエステル繊維は、高強度、高ヤング率を有しており、それを活かした用途としてタイヤ、ホース、ベルトなどのゴム補強用繊維として広く利用されている。特に、ホース補強用途においては、補強繊維に対して強力が高いこと、寸法安定性が良好なこと、疲労性に優れていることが要求されており、これら特性のバランスに優れたポリエステル繊維が広く使用されている(例えば、特許文献1など)。
しかしながら、近年、自動車のエンジンルーム内等の繊維補強ホースが使われる状況がより厳しいものとなってきている。エンジンルームがよりコンパクトになり、またエネルギー効率を高めるためにより高温化が進んできたためである。またブレーキシステム配管用などの用途に対し、ホースの大きさが変化しないように高温や張力がかけられた状態における補強繊維コードの寸法安定性も、これまでにも増して要求されるようになってきており、さらなる高性能なホース補強用繊維コードの開発が求められるようになった。
特開平09−132817号公報
本発明は、低収縮かつ寸法安定性に優れ、耐疲労性の向上したホース補強用繊維コード及びそれを用いてなるホースを提供することにある。
本発明のホース補強用繊維コードは、ポリエステル繊維から構成されたホース補強用繊維コードであって、該ポリエステル繊維が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを特徴とする。
さらには該層状ナノ粒子が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を含む化合物から構成されていることや、該層状ナノ粒子が金属−リン化合物であることが好ましく、該リン化合物がフェニルホスホン酸誘導体であることが好ましい。
また、該ポリエステル繊維を構成するポリエステル中の主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものであることや、ホース補強用繊維コードが、撚糸された繊維コードであることが好ましい。
もう一つの本発明のホースは、上記のホース補強用繊維コードと、ゴムまたは樹脂から構成されるホースである。
本発明によれば、低収縮かつ寸法安定性に優れ、耐疲労性の向上したホース補強用繊維コード及びそれを用いてなるホースが提供される。
本発明のホース補強用繊維コードは、ポリエステル繊維から構成されたホース補強用繊維コードであって、使用されるそのポリエステル繊維が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを必須とするものである。
ここで本発明に使用されるポリエステル繊維を構成するポリエステルポリマーとしては、産業資材等、特にゴム補強用繊維として優れた特性を有する汎用的なポリエステルポリマーが用いられる。中でもポリエステルの主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものであることが好ましく、とりわけ物性に優れ、大量生産に適したポリエチレンテレフタレートからなることが好ましい。ポリエステルの主たる繰返し単位としては、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対して、その繰り返し単位が80モル%以上含有されていることが好ましい。特には90モル%以上含むポリエステルであることが好ましい。またポリエステルポリマー中に少量であれば、適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
そして本発明に使用されるポリエステル繊維は上記のようなポリエステルからなる繊維であって、かつ1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを必須とする。さらには層状ナノ粒子が金属含有層状ナノ粒子であることが好ましく、特には二価金属とリン化合物からなる層状ナノ粒子であることが最も好ましい。通常ポリエステル繊維は、そのエステル交換触媒・重縮合触媒として用いられた球状の触媒含有粒子を含むことが多いが、本発明で使用されるポリエステル繊維に含有される触媒含有粒子の形状が、層状ナノ粒子であることにその最大の特徴がある。この本発明の作用機構は定かではないが、ポリマー中の粒子形状が層状構造をとることにより、球状粒子に比べてその表面積が大きくなり表面エネルギー活性も高く、結晶核剤としての作用を促進させるためであると考えられる。そしてこの触媒含有の微粒子が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmとの微小構造をとることによりさらにポリマーの結晶性が向上し、結晶構造の均一化や微分散化が促進され、分子配向を適切に抑制するため、繊維の物性が著しく向上するとともに優れた耐久性、寸法安定性を発揮するものであると考えられる。
この層状ナノ粒子の一辺の長さとしてはさらには6〜80nmであることが好ましく、10〜60nmであることがさらに好ましい。このような本発明に適用されるポリエステル繊維中の層状ナノ粒子は透過型電子顕微鏡(TEM)により確認することができる。層状ナノ粒子の大きさが100nmより大きいと繊維中で異物として作用し断糸や単糸切れが発生しやすく、強度やモジュラス等の機械特性やホースとしたときの耐久性などの低下を引き起こしてしまう。一方、粒子が小さすぎる場合には、ポリマーの結晶性向上や製糸性向上などの効果が得られにくく、得られる繊維の物性が低下するばかりでなく、ホースの耐久性や寸法安定性も低下する。
また層状ナノ粒子の各層の層間間隔としては1〜5nm、さらには1.5〜3nmであることが好ましい。層状ナノ粒子の一辺の長さが長すぎると微小構造とならずに欠点が目立つようになる。また一辺の長さが小さすぎると層状構造をとりにくくなる。一方、この層状ナノ粒子の層間間隔としては主に金属元素から成る層と、それ以外の元素である炭素、リン、酸素などの元素からなる層の間隔であり通常1〜5nm、さらに多くは1.5〜3nmの範囲をとることが好ましい。また層状構造とは、各層が少なくとも3層以上、好ましくは5〜100層並行して並んでいる状態である。またその各層の間隔は、各層の配列のほぼ直角方向に、各層の長さの1/5以下の間隔にて並んでいる状態であることが好ましい。
本発明に使用されるポリエステル繊維はこのような層状ナノ粒子を含むことを必須とするが、好ましくは粒子の50%以上が層状構造をとることが好ましく、さらには70%以上が、最も好ましくは全ての触媒含有粒子が層状構造であることが好ましい。
さらに、本発明に使用されるポリエステル繊維は、繊維の赤道方向の広角X線回折(XRD回折)において、2θ(シータ)=2〜7°に回折ピークを有することが好ましい。この数値は、nmオーダーの層間間隔を有する層状ナノ粒子が繊維軸方向に規則正しく配向していることを示すものである。このように層状ナノ粒子が繊維軸方向に特異的に配向することによって、本発明に使用されるポリエステル繊維は、さらにポリエステル製糸工程での断糸が極めて低くなり、得られたポリエステル繊維に欠点が少ないものとなった。そしてその物性が極めて高いレベルであるゆえに、耐久性、寸法安定性に優れたポリエステル補強繊維が得られ、それを用いたホースの耐久性や寸法安定性を向上することが可能となったのである。
また、本発明の層状ナノ粒子中に含まれる金属元素としては、二価金属であることが好ましい。さらには周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。さらには層状ナノ粒子としては、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を含む化合物から構成されていることが好ましい。このような金属元素は、本願の微小な層状ナノ粒子を構成しやすいとともに、触媒活性が高く好ましい。
さらに本発明のポリエステル繊維中に存在する層状ナノ粒子は、金属及びリン化合物から構成されていることが好ましい。そしてリン化合物としては、下記一般式(化I)で表されるリン化合物由来であることが好ましい。
Figure 2011058105
(上の式中、Arは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子、またはOH基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を示す。)
ちなみに式中で用いられているArは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子、またはOH基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を挙げることができる。さらにはRの炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、ベンジル基であることが好ましく、それらは未置換のもしくは置換されたものであっても良い。このときRの置換基としては立体構造を阻害しないのであることが好ましく、例えば、ヒドロキシル基、エステル基、アルコキシ基等で置換されているものを挙げることがきる。また上記(化I)のArで示されるアリール基は、例えば、アルキル基、アリール基、ベンジル基、アルキレン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子で置換されていても良い。中でもアリール基を有するリン化合物を添加すると、高い結晶性向上効果が現れる傾向にあり、好ましい。
特にリン化合物としては、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸およびそれら誘導体であることが最適であり、中でも下記式で表されるフェニルホスホン酸およびその誘導体は使用量も少なくて済むため有効である。また、得られるポリエステルの色相・溶融安定性、製糸性、高い層状ナノ粒子の形成能などの好ましい物性面、ポリエステル製造工程での副生成物が発生しない面、作業性の面からもフェニルホスホン酸であることが最も好ましい。
Figure 2011058105
(上の式中、Arは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を示す。)
このような水酸基を有するリン化合物は、沸点が高く、真空下で飛散しにくいため特に好ましい。飛散した場合には、添加したリン化合物がポリエステル中に残存する量が減り効果が得られない傾向となる。飛散性が高い場合には、真空系の閉塞が発生しやすく、高温で溶融・吐出される紡糸工程において、ポリマーから遊離・溶出する現象が発生し、口金に固着した異物を形成しやすい欠点があり、長期間での製糸の安定性を悪化させる原因となり、好ましくない。また、水酸基を有す場合には、リンに直接結合するため、エステル交換触媒・重合触媒などの金属化合物を失活する能力が高く、得られるポリマーの溶融安定性・色相の安定化に資する。
本発明のコード中に存在する金属含有の層状ナノ粒子は金属成分とリン成分からなることが好ましいが、この場合本発明に用いられているポリエステル中の金属およびリンの含有量としては、下記の数式(I)式及び数式(II)式を満たしていることが好ましい。
10≦M≦1000 数式(I)
0.8≦P/M≦2.0 数式(II)
(ただし、式中Mはポリエステルを構成するジカルボン酸成分に対する金属元素のミリモル%、Pはリン元素のミリモル%を示す。)
金属含有量が少なすぎると、結晶核剤として機能する層状ナノ粒子の量が不十分であり、ホース補強用繊維コードならびにそれを用いてなるホースの物性向上の効果が得られにくい傾向にある。逆に多すぎると異物として繊維中に残存し物性を低下させ、ポリマーの熱劣化が激しくなるなどの傾向にある。また式(II)で示されるP/M比が小さすぎる場合には、金属化合物濃度Mが過剰となり、過剰金属原子成分がポリエステルの熱分解を促進し、熱安定性を著しく損なうため好ましくない。一方、P/M比が大きすぎる場合には、逆にリン化合物が過剰となり、過剰なリン化合物成分がポリエステルの重合反応を阻害し、繊維物性が低下する傾向にある。さらに好ましいP/M比としては0.9〜1.8であることが好ましい。
本発明のホース補強用繊維コードを構成するポリエステル繊維の強度としては、4.0〜10.0cN/dtexであることが好ましい。さらには5.0〜9.5cN/dtexであることが好ましい。強度が低すぎる場合にはもちろん、高すぎる場合にも耐久性に劣る傾向にある。また、ぎりぎりの高強度で生産を行うと製糸工程での断糸が発生し易い傾向にあり工業繊維としての品質安定性に問題がある傾向にある。
得られるポリエステル繊維の単糸繊度には特に限定は無いが、製糸性の観点から0.1〜100dtex/フィラメントであることが好ましい。特に、強力、毛羽低減の観点から、1〜20dtex/フィラメントであることが好ましい。
総繊度に関しても特に制限は無いが、10〜10,000dtexが好ましく、特にホース補強用繊維コードとしては、250〜6,000dtexであることが好ましい。また総繊度としては、紡糸、延伸の途中、あるいはそれぞれの終了後に合糸を行うことも好ましい。
さらに本発明のホース補強用繊維コードは、撚糸された繊維コードであることが好ましい。例えば上記のようなポリエステル繊維をマルチフィラメントとし、撚りを掛けてコードの形態として利用するものであることが好ましい。マルチフィラメント繊維に撚りを掛けることにより、強力利用率が平均化し、その疲労性が向上するからである。撚り数としては50〜1000回/mの範囲であることが好ましく、撚係数としては、K=T・D1/2(Tは10cm当たりの撚数、Dは撚糸コードの繊度)が990〜2,500で有ることが好ましい。
また、下撚りと上撚りを行い合糸したコードであることも好ましく、合糸する前の糸条を構成するフィラメント数は50〜3000本であることが好ましい。このようなマルチフィラメントとすることにより耐疲労性や柔軟性がより向上する。ただし繊度が小さすぎる場合には強度が不足する傾向にある。逆に繊度が大きすぎる場合には太くなりすぎて柔軟性が得られない問題や、紡糸時に単糸間の膠着が起こりやすく安定した繊維の製造が困難となる傾向にある。
さらにはこれらのホース補強用繊維コードは、その表面に接着剤を付与したものであることが好ましい。例えばゴム補強用途にはRFL系接着処理剤を処理することが最適である。
本発明のホース補強用繊維コードの強力としては80〜260Nで有ることが好ましい。また2cN/dtex応力時の伸度(中間荷伸)と180℃乾熱収縮率の和で表す寸法安定性指数が8.0%以下であることが好ましい。本発明のホース補強用繊維コードは、このように寸法安定性に優れ、高度の耐疲労性を有する優れた補強用繊維コードとすることができるのである。ここで、寸法安定性指数はその値が低いほどモジュラスが高く、乾熱収縮率が低いことを表す。さらには、本発明のホース補強用繊維コードの強力は100〜260N、寸法安定性指数は6.0〜8.0%であることが好ましい。
そして上記のような本発明のホース補強用繊維コードは、従来のポリエステル繊維を使用したコードに比べ耐熱性や寸法安定性に優れているため、ホースとしたときの成形性に非常に優れたものとなる。特にゴムをマトリックスとして用いた場合にその効果は大きく、各種ゴムホースに好適に用いられる。
本発明のホース補強用繊維コードは上記のような特徴を有するものであるが、特に本発明で用いられる層状ナノ粒子を含むポリエステル繊維は、より具体的には例えば下記のような製造方法にて得ることができる。
まず、ポリエステル繊維を構成するポリエステルポリマーは、例えばテレフタル酸あるいはナフタレン−2,6−ジカルボン酸またはその機能的誘導体を触媒の存在下で、適当な反応条件の下に重合することができる。また、ポリエステルの重合完結前に、適当な1種または2種以上の第3成分を添加すれば、共重合ポリエステルが合成される。
適当な第3成分としては、1個及び2個のエステル形成官能基を有する化合物が挙げられ、3個の場合も重合体が実質的に線状である範囲内で使用可能である。
また、前記ポリエステル中には、各種の添加剤、たとえば二酸化チタンなどの艶消剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤、耐衝撃剤の添加剤、または補強剤としてモンモリナイト、ベントナイト、ヘクトライト、板状酸化鉄、板状炭酸カルシウム、板状ベーマイト、あるいはカーボンナノチューブなどの添加剤が含まれていても良いことはいうまでもない。
より具体的にこのようなポリエステルポリマーの製造方法を述べると、従来公知のポリエステルポリマーの製造方法を挙げることができる。すなわち、酸成分として、テレフタル酸ジメチル(DMT)あるいはナフタレン−2,6―ジメチルカルボキシレート(NDC)に代表されるジカルボン酸のジアルキルエステルとグリコール成分であるエチレングリコールとでエステル交換反応させた後、この反応の生成物を減圧下で加熱して、余剰のジオール成分を除去しつつ重縮合させることによって製造することができる。あるいは、酸成分としてテレフタル酸(TA)あるいは2,6−ナフタレンジカルボン酸とジオール成分であるエチレングリコールとでエステル化させることにより、従来公知の直接重合法により製造することもできる。
エステル交換反応を利用した方法の場合に用いるエステル交換触媒としては、上記の層状ナノ粒子を構成する金属を用いることが効率的であるが、それ以外の金属を用いてもよく、中でも、ポリエステルの溶融安定性、色相、ポリマー不溶異物の少なさ、紡糸の安定性の観点から、マンガン、マグネシウム、亜鉛、チタン、コバルト化合物が好ましく、さらにマンガン、マグネシウム、亜鉛化合物が好ましい。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。
重合触媒については、アンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム化合物が好ましい。中でも、ポリエステルの重合活性、固相重合活性、溶融安定性、色相に優れ、かつ得られる繊維が高強度で、優れた製糸性、延伸性を有する点で、アンチモン化合物が特に好ましい。
なお、テレフタル酸のごとき芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールのごときグリコール成分とを直接エステル化反応させる方法においては、上記のようなエステル交換触媒やその直接エステル化反応の際の触媒は一般には不要である。しかし本発明では、あえて層状ナノ粒子を形成しうる金属成分を含有せしめることが必要となる。金属成分の含有量としては、ポリエステルを構成する全繰返し単位に対して10〜1000ミリモル%の範囲内であることが好ましい。
また、層状ナノ粒子を生成するためにはこれら金属成分が存在するポリエステル中にリン化合物を添加する必要がある。このリン化合物の添加時期は、特に限定されるものではなく、ポリエステル製造の任意の工程において添加することができる。好ましくは、エステル交換反応又はエステル化反応の開始当初から重合終了する間であり、より好ましくはエステル交換反応又はエステル化反応の終了した時点から重合反応の終了時点の間である。
あるいは、ポリエステルの重合後に、混練機を用いて、リン化合物を練り込む方法を採用することもできる。混練する方法は特に限定されるものではないが、通常の一軸、二軸混練機を使用することが好ましい。さらに好ましくは、得られるポリエステル組成物の重合度の低下を抑制するために、ベント式の一軸、二軸混練機を使用する方法を例示できる。この混練時の条件は特に限定されるものではないが、例えばポリエステルの融点以上、滞留時間は1時間以内、さらに好ましくは1分〜30分である。また、混練機へのリン化合物、ポリエステルの供給方法は特に限定されるものではない。例えばリン化合物、ポリエステルを別々に混練機に供給する方法、高濃度のリン化合物を含有するマスターチップとポリエステルを適宜混合して供給する方法などを挙げることができる。
このように重合された、ポリエステルのポリマーは、紡糸直前の樹脂チップの極限粘度としては、公知の溶融重合や固相重合を行うことによって、ポリエチレンテレフタレートでは0.80〜1.20、ポリエチレンナフタレートでは0.65〜1.2の範囲とすることが好ましい。樹脂チップの極限粘度が低すぎる場合には溶融紡糸後の繊維を高強度化させることが困難となる。また極限粘度が高すぎると固相重合時間が大幅に増加し、生産効率が低下するため工業的観点等からも好ましくない。極限粘度としては、さらにはそれぞれ0.9〜1.1、0.7〜1.0の範囲内であることが好ましい。
本発明のホース補強用繊維コードに用いるポリエステル繊維を製造するためには、このようにして得られたポリエステルポリマーを溶融紡糸することによって得ることができる。より具体的には得られたポリエステルポリマーを285〜335℃の温度にて溶融し、紡糸口金としてはキャピラリーを具備したものを用いて紡糸することができる。また、紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度以上の加熱紡糸筒を通過することが好ましい。加熱紡糸筒の長さとしては10〜500mmであることが好ましい。紡糸口金から吐出された直後のポリマーはすぐに配向しやすく、単糸切れを発生しやすいため、このように加熱紡糸筒をもちいて遅延冷却させることが好ましい。
加熱紡糸筒を通過した紡出糸条は、次いで30℃以下の冷風を吹き付けて冷却することが好ましい。さらには25℃以下の冷風であることが好ましい。次いで、冷却された糸状については、油剤を付与することが好ましい。
また、このようにして溶融ポリマー組成物を紡糸口金から吐出し成形する場合、紡糸速度としては300〜6000m/分であることが好ましい。さらには紡糸後さらに延伸する方法が、高効率の生産が行える点から好ましい。
特にこのようなポリエステル繊維は、高速にて紡糸することが好ましく、紡糸速度としては1500〜5500m/分であることが好ましい。この場合、延伸前に得られる繊維は部分配向糸となる。通常はこのように高速にて紡糸して繊維を高度に配向結晶化させた場合、紡糸段階で断糸することが多かった。しかし上記の層状ナノ粒子をポリマー中に分散形成し含有せしめる本発明では断糸は少ない。配向結晶化が均一に進み紡糸欠点を低減することができたものと推定される。そしてこのように製糸性が大幅に向上した結果として、結果的に本発明では、ホース補強用繊維コードおよびそれを用いてなるホースとして特筆すべき優れた機械特性や耐久性、寸法安定性などを発揮することとなったのである。
また紡糸された繊維を延伸する条件としては、紡糸後に1.5〜10倍に延伸することが好ましい。このように紡糸後に延伸することによって、より高強度の延伸繊維を得ることが可能である。従来は例え低倍率で紡糸したとしても延伸時に結晶の欠点に起因する強度の弱い部分が存在するため、断糸が起こることが多かったのである。しかし本発明では層状ナノ化合物の存在により延伸による結晶化において微細結晶が均一に形成されるため、延伸欠点が発生しにくく、高倍率に延伸でき、繊維を高強度化することが可能となったものである。
このようなポリエステル繊維を得るための延伸方法としては、引取りローラーから一旦巻取って、いわゆる別延伸法で延伸してもよく、あるいは引取りローラーから連続的に延伸工程に未延伸糸を供給する、いわゆる直接延伸法で延伸しても構わない。また延伸条件としては1段ないし多段延伸であり、延伸負荷率としては60〜95%であることが好ましい。延伸負荷率とは繊維が実際に断糸する張力に対する、延伸を行う際の張力の比である。
延伸時の予熱温度としては、ポリエステル未延伸糸のガラス転移点の20℃低い温度以上、結晶化開始温度の20℃以上低い温度以下で行うことが好ましい。延伸倍率は紡糸速度に依存するが、破断延伸倍率に対し延伸負荷率60〜95%となる延伸倍率で延伸を行うことが好ましい。また、繊維の強度を維持し寸法安定性を向上させるためにも、延伸工程で170℃から繊維の融点以下の温度で熱セットを行うことが好ましい。さらには延神時の熱セット温度が170〜270℃の範囲であることが好ましい。
このような製造方法においては、ポリエステルポリマーが本発明特有の層状ナノ粒子を含有することにより、ポリマー組成物の結晶性が向上し、溶融し、紡糸口金から吐出する段階で、微小結晶を多数形成することとなる。そしてこの微小結晶が、紡糸及び延伸工程で生じる粗大な結晶成長を抑制し結晶を微分散化させるため、各工程での断糸率を大幅に低下させ、結果として得られる繊維の物性が向上したのであると考えられる。
このようなポリエステル繊維は、繊維の極限粘度IVの低下が少なく、破断紡糸速度が非常に高い上、高強度、低荷伸(高モジュラス)かつ強伸度のバラツキが小さく、さらに低乾収の繊維であるにもかかわらず毛羽欠点が少なく、製糸性や後工程通過性も良好となる。
この本発明の層状ナノ粒子の効果を発揮するメカニズムは必ずしも明確ではないが、微小な層状ナノ粒子を含有し、この微粒子が分散することにより、ポリエステルポリマーが補強され、あるいは欠点への応力の集中を抑制し、繊維の構造的欠陥が低減したためであると考えられる。また、本発明のコードを構成するポリエステル繊維では、層状ナノ粒子が繊維軸に平行に特異的に配向していることが好ましいが、それによりポリマー分子が規則的に配向し、破断紡速の向上、毛羽欠点の低減、製糸性の向上、物性バラツキの減少などの効果を発揮しているものと考えられる。
本発明のホース補強用繊維コードは、上記のような製造方法などにより得られたポリエステル繊維を含む繊維から構成されたホース補強用繊維コードである。
また本発明のホース補強用繊維コードとしては、例えばこのようなポリエステル繊維を撚糸したり、合糸することにより、所望の繊維コードとして用いたものである。さらには繊維構造体の表面に接着処理剤を付与することも好ましい。接着処理剤としては、たとえばゴム補強用途にはRFL系接着処理剤を処理することが最適である。
より具体的には、このような繊維コードは、上記のポリエステル繊維に、常法に従って撚糸を加え、あるいは無撚の状態でRFL処理剤を付着させ、熱処理を施すことにより得ることができ、このような繊維はゴム補強用に好適に使用できる処理コードとなる。すなわち、該ポリエチエステル繊維を撚係数K=T・D1/2(Tは10cm当たりの撚数、Dは撚糸コードの繊度)が990〜2,500で合撚して撚糸コードとなし、該コードを接着処剤処理に引き続き230〜270℃で処理する。
このような本発明のホース補強用繊維コードは、各種ホース、特にゴムホースとして最適に用いられる。
もう一つの本発明のホースは、上記のホース補強用繊維コードと、ゴムまたは樹脂から構成されるホースである。
このようなホースは、上記のようにして得られた本発明のホース補強用繊維コードを、例えばゴムホースであれば、次のように用いることにより製造することができる。まず、チューブゴムよりなる内層の上にブレーダーにより所定密度になるよう、得られた繊維コードを所定の角度を付けて配設する。次いで、この上に層間ゴムシートを配した後、再度繊維コードをブレーダーにより配設し、これを所定回数行う。最後に外側補強繊維を保護するためのカバーゴムからなる外層を配設した後、これを例えば蒸気加硫釜中で蒸気加硫してゴムホースとなす。さらには、上記繊維コードの配設はスパイラル構造とすることが好ましい。
得られた本発明のホースは、その補強用繊維の物性により、強度と寸法安定性に優れ、ホース内の圧力変動等による耐疲労性に優れたホースとなる。
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
(1)X線回折
ポリエステル組成物・繊維のX線回折測定については、X線回折装置(株式会社リガク製RINT−TTR3、Cu‐Kα線、管電圧:50kV、電流300mA、平行ビーム法)を用いて行った。なお、層状ナノ粒子の層間距離d(オングストローム)は、2θ(シータ)=2〜7°の赤道方向に現れる回折ピークから2θ(シータ)-d換算表を用いて算出した。
(2)層状ナノ粒子の解析
層状ナノ粒子の有無、構成元素の確認は、ポリエステル樹脂・繊維を、常法によって厚さ50〜100nmの超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(FEI社製TECNAI G2)加速電圧120kVで観察し、透過電子顕微鏡(日本電子(株)製 JEM−2010)加速電圧100kV・プローブ径10nmで元素分析を行った。得られた画像から粒子の1片の長さを求めた。
(3)マルチフィラメント繊維の強度
引張荷重測定器((株)島津製作所製オートグラフ)を用い、JIS L−1013に従って測定した。
(4)コードの強伸度、中間荷伸および180℃乾熱収縮率
JIS L−1017に従って測定した。なお、中間荷伸は2cN/dtex応力時の伸度であり、180℃乾熱収縮率は、乾燥機内で180℃×30分熱処理し、熱処理前後の試長差より算出した。
(5)寸法安定性指数
上記(4)の処理コードの中間伸度及び180℃乾熱収縮率を和して求めた。
(6)ホース疲労性
ホース内の圧力が3.5kg/cmなるよう圧力を加え、85°に屈曲させた状態で、850rpmの回転数で29分毎に回転方向を変え、ホースが破裂するまでの時間を計測した。
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル194.2質量部とエチレングリコール124.2質量部(DMT対比200mol%)との混合物に酢酸マンガン・四水和物0.0735質量部(DMT対比30mmol%)を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、フェニルホスホン酸0.0522質量部(DMT対比33mmol%)を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後反応生成物に三酸化アンチモン0.0964質量部(DMT対比33mmol%)を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、290℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行い、ポリエステル組成物を得た。さらに常法に従いチップ化した。得られたポリエステルチップを透過型電子顕微鏡にて観察したところ、長さ20nm、層間距離1.5nmの層状ナノ粒子を含有していた。結果を表1に示す。
得られたポリエステルチップを、窒素雰囲気下160℃にて3時間の乾燥、予備結晶化し、さらに230℃真空下にて固相重合反応を行い、極限粘度1.0のポリエチレンテレフタレート組成物チップを得た。
これをポリマー溶融温度296℃にて口径直径1.0mm、500孔数の紡糸口金より紡出し、口金直下に具備した長さ200mmの280℃に加熱した円筒状加熱帯を通じ、次いで吹き出し距離500mmの円筒状チムニーより20℃、65%RHに調整した冷却風を紡出糸条に吹き付けて冷却し、さらに脂肪族エステル化合物を主体成分とする油剤を、繊維の油剤付着量が0.5%となるように油剤付与したのち、表面温度55℃のローラーにて3200m/minの速度で引き取った。
3200m/minの速度で紡糸した吐出糸条を一旦巻き取ることなく引き続いて表面温度60℃の第一ローラーと表面温度75℃の第二ローラーとの間で1.4倍の第一段延伸を行い、次いで第3ローラーとの間で1.4倍の第二段延伸を行い、表面温度190℃の第3ローラー上に走行糸条を巻き付け熱セットを施し、巻取速度5000m/minで巻き取りポリエステル繊維を得た。
得られたポリエステル繊維を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、長さ20nm、層間距離1.5nmの平均11層の層状ナノ粒子を含有しており、一般的な粒子状の金属含有粒子は観察されなかった。酢酸マンガン由来の金属含有量は30mmol%、フェニルホスホン酸由来のリン含有量は30mmol%、P/M比は1.0であった。また、層状ナノ粒子は繊維軸に平行して配向していることが、透過型顕微鏡観察やX線回折から観察された。得られた繊維物性を表1に併せて示す。
さらに、得られた延伸糸に470回/mのZ撚を与えた後、これを2本合わせて470回/mのS撚を与えて、1100dtex×2本のホース補強用繊維コードとした。このホース補強用繊維コードを接着剤(RFL)液に浸漬し、240℃で2分間緊張熱処理し、接着処理ホース補強用繊維コード(ディップコード)を得た。さらに、上記ディップコードを未加硫ゴムを用いてホース成形し、ついで153℃下で35分間蒸気加硫してゴムホースを得た。結果を表1に示す。
[実施例2]
実施例1において、マルチフィラメントの総繊度を1000デシテックス/500フィラメントから、1670デシテックス/750フィラメントとし、コード作製の際の撚り数を470回/mから、390回/mとしたこと以外は実施例1と同様に実施し、ホース補強用繊維コード及びホースを得た。評価結果等を表1に併せて示す。
[比較例1]
実施例1において、フェニルホスホン酸の代わりに亜リン酸を添加したこと以外は実施例1と同様に実施し、ホース補強用繊維コード及びホースを得た。評価結果等を表1に併せて示す。
Figure 2011058105
本発明のホース補強用繊維コードは、中間伸度や乾熱収縮率が低く寸法安定性に優れ、また物性バラツキが少ないためにホース補強用、特にゴムホース補強用に最適であり、この本発明のホース補強用繊維コードを用いたホースは、疲労性に優れた実用性の高いホースとなる。

Claims (7)

  1. ポリエステル繊維から構成されたホース補強用繊維コードであって、該ポリエステル繊維が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを特徴とするホース補強用繊維コード。
  2. 該層状ナノ粒子が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を含む化合物から構成されている請求項1記載のホース補強用繊維コード。
  3. 該層状ナノ粒子が金属−リン化合物である請求項1あるいは請求項2記載のホース補強用繊維コード。
  4. 該リン化合物がフェニルホスホン酸誘導体である請求項3記載のホース補強用繊維コード。
  5. 該ポリエステル繊維を構成するポリエステル中の主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものである請求項1〜4のいずれか1項記載のホース補強用繊維コード。
  6. ホース補強用繊維コードが、撚糸された繊維コードである請求項1〜5のいずれか1項記載のホース補強用繊維コード。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項記載のホース補強用繊維コードと、ゴムまたは樹脂から構成されるホース。
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