JP2011058114A - ホース補強用コード及びホース - Google Patents

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Abstract

【課題】低収縮で寸法安定性に優れ、かつ耐疲労性に優れたポリエチレンナフタレート繊維を含有するホース補強用コード及びそれを用いてなるホースを提供すること。
【解決手段】ポリエチレンナフタレート繊維を撚糸してなるホース補強用コードであって、該ポリエチレンナフタレート繊維のX線広角回折より得られる結晶体積が100〜200nmであり、かつ結晶化度が30〜60%であるホース補強用コード。さらには、該ポリエチレンナフタレート繊維が、リン原子をエチレンナフタレート単位に対して0.1〜300mmol%含有するものであることや、該ポリエチレンナフタレート繊維が、金属元素を含むものであること、さらには該金属元素が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明はポリエチレンナフタレート繊維を含有するホース補強用コードに関し、さらに詳しくは低収縮で寸法安定性に優れ、かつ耐疲労性に優れるホース補強用コード及びそれを用いてなるホースに関する。
ポリエステル繊維は、高強度、高ヤング率を有しており、それを活かした用途としてタイヤ、ホース、ベルトなどの弾性体補強用繊維として広く利用されている。特に、ホース補強用途においては、補強繊維に対して強力が高いこと、寸法安定性が良好なこと、疲労性に優れていることが要求されており、これら特性のバランスに優れたポリエステル繊維が広く使用されている(例えば、特許文献1など)。
しかしながら、近年、自動車のエンジンルーム内等の繊維補強ホースが使われる状況がより厳しいものとなってきている。エンジンルームがよりコンパクトになり、またエネルギー効率を高めるためにより高温化が進んできたためである。またブレーキシステム配管用などの用途に対し、ホースの大きさが変化しないように高温や張力がかけられた状態における補強繊維コードの寸法安定性も、これまでにも増して要求されるようになってきているのである。
それらの要求を満たす素材として高強度、高弾性率および優れた熱寸法安定性を示し、産業資材として極めて有用な繊維であるエチレン−2,6−ナフタレート単位を主たる構成成分とするポリエチレンナフタレート繊維を用いたホース用コードが例えば特許文献2に開示されている。
しかしポリエチレンナフタレート繊維は分子が剛直で繊維軸方向に配向し易いため、他の汎用合成繊維に比べて繰返し応力に対する疲労性が低くなり、実使用条件下での力学特性が低下しやすいという欠点がある。従来のポリエチレンナフタレート繊維の使用では、ホース物性を十分に向上させることができなかったのである。
この問題に対して、例えば特許文献3では、引取ローラーと第1延伸ローラーとの間において、繊維温度が80℃〜120℃であり、プリストレッチ張力が0.05〜0.3N/dtexの条件を満たしたプリストレッチを行い、第1延伸時の第1延伸ローラーと第2延伸ローラー間において、繊維温度が130℃〜180℃であり、延伸張力がプリストレッチ張力以下である条件にて第1延伸し、その後の延伸も含めた総延伸倍率を5倍以上とし、最後にストレッチ率0〜2%の緊張熱処理を行うことを特徴とする製造方法によって、疲労性の向上が示されている。しかし、その効果は後工程加工条件の最適化に過ぎず、まだ満足のいくものではなかった。
つまり従来公知のポリエチレンナフタレート繊維を用いた場合には、いまだ充分に物性、特に耐疲労性に優れるホース補強用コードやホースは得られていなかったのである。
特開平09−132817号公報 特開2000−178848号公報 特開2008−208504号公報
本発明は、低収縮で寸法安定性に優れ、かつ耐疲労性に優れたポリエチレンナフタレート繊維を含有するホース補強用コード及びそれを用いてなるホースを提供することにある。
本発明のホース補強用コードは、ポリエチレンナフタレート繊維を撚糸してなるホース補強用コードであって、該ポリエチレンナフタレート繊維のX線広角回折より得られる結晶体積が100〜200nmであり、かつ結晶化度が30〜60%であることを特徴とする。
さらには、該ポリエチレンナフタレート繊維が、リン原子をエチレンナフタレート単位に対して0.1〜300mmol%含有するものであることや、該ポリエチレンナフタレート繊維が、金属元素を含むものであること、さらには該金属元素が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。
またもう一つの本発明のホースは、上記の本発明のホース補強用コードにより補強されたホースである。
本発明によれば、低収縮で寸法安定性に優れ、かつ耐疲労性に優れたポリエチレンナフタレート繊維を含有するホース補強用コード及びそれを用いてなるホースが提供される。
本発明のホース補強用コードは、ポリエチレンナフタレート繊維を撚糸してなるホース補強用コードであるが、使用されるポリエチレンナフタレート繊維のX線広角回折より得られる結晶体積が100〜200nmであり、かつ結晶化度が30〜60%であることを必須とするものである。
ここで本発明に用いられるポリエチレンナフタレート繊維は、主たる繰返し単位がエチレンナフタレートであるポリマーであり、好ましくはエチレン−2,6−ナフタレート単位を80%以上、特には90%以上含むポリエチレンナフタレートであることが好ましい。他に少量であれば、適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
また、前記ポリエチレンナフタレート中には、各種の添加剤、たとえば二酸化チタンなどの艶消剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤、耐衝撃剤の添加剤、または補強剤としてモンモリナイト、ベントナイト、ヘクトライト、板状酸化鉄、板状炭酸カルシウム、板状ベーマイト、あるいはカーボンナノチューブなどの添加剤が含まれていてもよい。
そして本発明に用いられるポリエチレンナフタレート繊維は、上記のようなポリエチレンナフタレートからなる繊維であって、X線広角回折より得られる結晶体積が100〜200nm(10万〜20万オングストローム)であり、結晶化度が30〜60%であることを必須とする。さらには結晶化度としては35〜55%であることが好ましい。
ここで繊維の結晶体積とは、繊維の赤道方向の広角X線回折において、回折角が15〜16度、23〜25度、25.5〜27度の回折ピークから得られる結晶サイズの積である。ちなみにこのそれぞれの回折角はポリエチレンナフタレート繊維の結晶面(010)、(100)、(1−10)における面反射によるものであり、理論的には各ブラッグ反射角2θに対応するものであるが、全体の結晶構造の変化により若干シフトしたピークを有するものである。また、このような結晶構造はポリエチレンナフタレート繊維に特有のものである。例えば同じポリエステル繊維ではあっても、ポリエチレンテレフタレート繊維には存在しない。
また、繊維の結晶化度(Xc)とは、比重(ρ)とポリエチレンナレフタレートの完全非晶密度(ρa)と完全結晶密度(ρc)とから下記の数式(1)により求めた値である。
結晶化度 Xc={ρc(ρ−ρa)/ρ(ρc−ρa)}×100 (数式1)
式中
ρ :ポリエチレンナフタレート繊維の比重
ρa :1.325(ポリエチレンナレフタレートの完全非晶密度)
ρc :1.407(ポリエチレンナレフタレートの完全結晶密度)。
本発明で用いられるこのポリエチレンナフタレート繊維は、従来の高強力繊維と同様の高い結晶化度を維持しながら、従来に無い結晶体積が200nm(20万オングストローム)以下という微細な結晶体積を実現したものである。このことによりこの繊維は高い強力と寸法安定性を得ることができるようになった。微小結晶で均一な構造を形成させることにより、ポリエチレンナフタレート繊維ポリマー中の微細な欠点が極めてわずかになり、優れた耐疲労性を発揮することができるようになったのである。また結晶化度は高いほど有効であり、30%未満では高い引張強度やモジュラスを実現することができない。一般に結晶化度を高めるためには結晶体積を増加させる手段をとるが、本発明では結晶体積が小さいにもかかわらず結晶化度が高い点に最大の特徴がある。
このように繊維の結晶体積を小さくするためには、紡糸時の口金下温度を高く保ちながら、高速紡糸する方法が有効である。一般に、紡糸ドラフト比や延伸倍率等を高め、繊維が引き伸ばされる場合には結晶体積は大きくなる傾向にあるが、紡糸時の口金下温度を高い温度に保って高速紡糸することにより、結晶の成長を妨げることができる。
繊維の結晶化度を高めるためには、紡糸ドラフト比や延伸倍率等を高め、繊維を高倍率に引き伸ばすことによって得ることができる。しかし結晶化度が高くなると剛直な繊維であるポリエチレンナフタレート繊維はますます断糸しやすくなる。そこで本発明では、断糸を防止するためと、得られる繊維の結晶体積を小さくするために、紡糸前のポリマーの段階で、微小で均一な結晶構造を形成させることが重要である。大きな結晶が存在しないことと、微小で均一な結晶構造であるために、応力集中による断糸を防止し、耐疲労性を高めることができる。たとえば特有のリン化合物をポリマーに含有させることによってそのような微小で均一な結晶構造を実現させることが可能となる。
さらに本発明で用いられるポリエチレンナフタレート繊維としては、X線広角回折の最大ピーク回折角が23.0〜25.0度の範囲にあることが好ましい。結晶面である(010)、(100)、(1−10)のうち、この(100)面の結晶が大きく成長することにより、結晶の均一性が増し寸法安定性と高強力が高いバランスで両立するのであると考えられる。
また本発明で用いられるポリエチレンナフタレート繊維は、リン原子をエチレンナフタレート単位に対して0.1〜300mmol%含有するものであることが好ましい。さらには、リン原子の含有量が10〜200mmol%であることが好ましい。リン化合物により結晶性をコントロールすることが容易になるからである。逆に多すぎる場合には紡糸時の異物欠点が発生するために製糸性が低下し、併せて物性が低下する傾向にある。
また、通常ポリエチレンナフタレート繊維は触媒としての金属元素を含むものであるが、本発明においても金属を含むことが好ましく、さらには二価金属であることが好ましい。そして、この繊維に含まれる金属元素が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。特には繊維に含まれる金属元素が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。理由は定かではないが、これらの金属元素をリン化合物と併用した場合に特に結晶体積のばらつきが少ない均一な結晶が得られやすくなる。
このような金属元素の含有量としては、エチレンナフタレート単位に対して10〜1000mmol%含有するものであることが好ましい。そして前述のリン元素Pと金属元素Mの存在比であるP/M比としては0.8〜2.0の範囲であることが好ましい。P/M比が小さすぎる場合には、金属濃度が過剰となり、過剰金属成分がポリマーの熱分解を促進し熱安定性を損なう傾向にある。逆にP/M比が大きすぎる場合には、リン化合物が過剰のため、ポリエチレンナフタレートポリマーの重合反応を阻害し、繊維物性が低下する傾向にある。さらに好ましいP/M比としては0.9〜1.8であることが好ましい。
そして本発明で用いられるポリエチレンナフタレート繊維の強度としては6.0〜11.0cN/dtexであることが好ましい。さらには7.0〜10.0cN/dtex、より好ましくは7.5〜9.5cN/dtexであることが好ましい。強度が低すぎる場合にはもちろん、高すぎる場合にも耐久性に劣る傾向にある。また、ぎりぎりの高強度で生産を行うと製糸工程での断糸が発生し易い傾向にあり工業繊維としての品質安定性に問題がある傾向にある。
180℃の乾熱収縮率は、4.0〜10.0%であることが好ましい。さらには5.0〜9.0%であることが好ましい。乾熱収縮率が高すぎる場合、加工時の寸法変化が大きくなる傾向にあり、繊維を用いた成形品の寸法安定性が劣るものとなりやすい。
繊維の融点としては265〜285℃であることが好ましい。さらには270〜280℃であることが最適である。融点が低すぎる場合には耐熱性、寸法安定性が劣る傾向にある。一方高すぎても溶融紡糸が困難になる傾向にある。
本発明のホース補強用コードに用いられる繊維の単糸繊度には特に限定は無いが、ホース補強用コードに用いられる繊維の安定生産性の面からは0.1〜100dtex/フィラメントであることが好ましい。さらにゴムホース補強用繊維としては、強力、耐熱性や接着性が要求されるため、1〜20dtex/フィラメントであることが特に好ましい。
総繊度に関しても特に制限は無いが、ホース補強用コードとしては10〜10,000dtexが好ましく、特に特にゴムホース補強用繊維としては、250〜6,000dtexであることが好ましい。また総繊度としては例えば1,000dtexの繊維を2本合糸して総繊度2,000dtexとするように、紡糸、延伸の途中、あるいはそれぞれの終了後に2〜10本の合糸を行うことも好ましい。
さらに本発明のホース補強用コードは、撚糸された繊維コードであることが必須で有る。例えば上記のようなポリエチレンナフタレート繊維をマルチフィラメントとし、撚りを掛けてコードの形態として利用するものであることが好ましい。マルチフィラメント繊維に撚りを掛けることにより、強力利用率が平均化し、その疲労性が向上するからである。撚り数としては50〜1000回/mの範囲であることが好ましく、撚係数としては、K=T・D1/2(Tは10cm当たりの撚数、Dは撚糸コードの繊度)が990〜2,500で有ることが好ましい。
また、下撚りと上撚りを行い合糸したコードであることも好ましく、合糸する前の糸条を構成するフィラメント数は50〜3000本であることが好ましい。このようなマルチフィラメントとすることにより耐疲労性や柔軟性がより向上する。ただし繊度が小さすぎる場合には強度が不足する傾向にある。逆に繊度が大きすぎる場合には太くなりすぎて柔軟性が得られない問題や、紡糸時に単糸間の膠着が起こりやすく安定した繊維の製造が困難となる傾向にある。
さらにはこれらのホース補強用コードは、その表面に接着剤を付与したものであることが好ましい。例えばゴム補強用途にはRFL系接着処理剤を処理することが最適である。
本発明のポリエチレンナフタレート繊維から得られる処理コードは、強力が100〜200N、2cN/dtex応力時の伸度(中間荷伸)と180℃乾熱収縮率の和で表す寸法安定性指数が5.0%以下であることが好ましい。本発明のホース補強用繊維コードは、このように寸法安定性に優れ、高度の耐疲労性を有する優れた補強用繊維コードとすることができるのである。ここで、寸法安定性指数はその値が低いほどモジュラスが高く、乾熱収縮率が低いことを表す。さらには、本発明のホース補強用繊維コードの強力は120〜170N、寸法安定性指数は4.0〜5.0%であることが好ましい。
そして上記のような本発明のホース補強用コードは、従来のポリエチレンナフタレート繊維を用いたコードに比べ結晶体積が極めて小さく、欠点が発生しにくい。また強力や寸法安定性に優れているため、ホースとしたときの成形性に非常に優れたものとなる。特にゴムをマトリックスとして用いた場合にその効果は大きく、各種ゴムホースに好適に用いられる。
本発明のホース補強用繊維コードは上記のような特徴を有するものであるが、特に本発明で用いられるポリエチレンナフタレート繊維は、より具体的には例えば下記のような製造方法にて得ることができる。
すなわち、主たる繰り返し単位がエチレンナフタレートであるポリマーを溶融し、紡糸口金から吐出するポリエチレンナフタレート繊維の製造方法であって、溶融時のポリマー中に下記一般式(1)であらわされる少なくとも1種類のリン化合物添加した後に紡糸口金から吐出し、紡糸速度が4000〜8000m/分であり、紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度より50℃を超える高い温度の加熱紡糸筒を通過し、かつ延伸する製造方法により得ることできる。
Figure 2011058114
[上の式中、Arは炭素数6〜20個の炭化水素基であるアリール基であり、Rは水素原子又は炭素数の1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、Xは、水素原子または−OH基である。]
製造に用いられる主たる繰返し単位がエチレンナフタレートであるポリマーは、従来公知のポリエステルの製造方法に従って製造することができる。すなわち、酸成分として、ナフタレン−2,6―ジメチルカルボキシレート(NDC)に代表される2,6−ナフタレンジカルボン酸のジアルキルエステルとグリコール成分であるエチレングリコールとでエステル交換反応させた後、この反応の生成物を減圧下で加熱して、余剰のジオール成分を除去しつつ重縮合させることによって製造することができる。あるいは、酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸とジオール成分であるエチレングリコールとでエステル化させることにより、従来公知の直接重合法により製造することもできる。
エステル交換反応を利用した方法の場合に用いるエステル交換触媒としては、特に限定されるものではないが、ポリエステルの溶融安定性、色相、ポリマー不溶異物の少なさ、紡糸の安定性の観点から、マンガン、マグネシウム、亜鉛化合物が好ましい。また重合触媒も、特に限定されるものではないが、ポリエステルの重合活性、固相重合活性、溶融安定性、色相に優れ、かつ得られる繊維が高強度で、優れた製糸性、延伸性を有する点で、アンチモン化合物が特に好ましい。
溶融時のポリマー中に含まれるリン化合物である一般式(1)の好ましい化合物としては、例えばフェニルホスホン酸やフェニルホスフィン酸を挙げることができる。
さらに一般式(1)中で用いられているRの炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、ベンジル基であることが好ましく、それらは未置換のもしくは置換されたものであっても良い。このときRの置換基としては立体構造を阻害しないのであることが好ましく、例えば、ヒドロキシル基、エステル基、アルコキシ基等で置換されているものが好ましい。また上記(1)のArで示されるアリール基は、例えば、アルキル基、アリール基、ベンジル基、アルキレン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子で置換されていても良い。
中でも結晶性を向上させるためにはこのリン化合物としては、下記一般式(2)で表されたフェニルホスホン酸およびその誘導体あることが好ましい。
Figure 2011058114
[上の式中、Arは炭素数6〜20個の炭化水素基であるアリール基であり、Rは水素原子又は未置換もしくは置換された1〜20個の炭素元素を有する炭化水素基である。]
本発明で用いられるポリエチレンナフタレート繊維では、これら特有のリン化合物を溶融ポリマー中に直接添加することにより、ポリエチレンナフタレートの結晶性が向上し、その後の製造条件の下で結晶化度を高く保ちながら、結晶体積の小さいポリエチレンナフタレート繊維を得ることができたのである。これはこの特有のリン化合物が、紡糸及び延伸工程で生じる粗大な結晶成長を抑制し結晶を微分散化させる効果であると考えられる。また従来ポリエチレンナフタレート繊維を高速紡糸することは非常に困難であったが、これらのリン化合物が添加されることにより、紡糸安定性が飛躍的に向上し、かつ断糸が起きない点から実用的な延伸倍率を高めることによって繊維を高強度化することができるようになった。
また安定生産のためには、式(1)を例に説明すると、Rの炭素数としては4個以上、さらには6個以上であることが好ましく、特にアリール基であることが好ましい。またXが水素原子または水酸基であるために、工程中の真空下では飛散しにくい効果がある。
また、高い結晶性向上の効果を示すためには、Rがアリール基であることが、さらにはベンジル基やフェニル基であることが好ましく、この製造方法では、リン化合物がフェニルホスフィン酸またはフェニルホスホン酸であることが特に好ましい。中でもフェニルホスホン酸およびその誘導体であることが最適であり、作業性の面からもフェニルホスホン酸が最も好ましい。フェニルホスホン酸は水酸基を有するため、そうでは無いフェニルホスホン酸ジメチルなどのアルキルエステルに比べて沸点が高く、真空下で飛散しにくいというメリットもある。つまり、添加したリン化合物のうちポリエステル中に残存する量が増え、添加量対比の効果が高くなる。また真空系の閉塞が発生しにくい点からも有利である。
このような製造方法にて本発明で用いられるポリエチレンナフタレート繊維は得られるが、ポリエチレンナフタレート繊維としては、リン原子をエチレンナフタレート単位に対して0.1〜300mmol%含有するものであることが好ましい。
また、このようなリン化合物と共に、二価金属が含まれていることが好ましく、さらには周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素が溶融ポリマー中に添加されていることが好ましい。特には繊維に含まれる金属元素が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。これらの金属元素は、エステル交換触媒や重合触媒として添加しても良いし、別途添加することも可能である。このような金属元素の含有量としては、エチレンナフタレート単位に対して10〜1000mmol%含有するものであることが好ましい。そして前述のリン元素Pと金属元素Mの存在比であるP/M比としては0.8〜2.0の範囲であることが好ましい。
本発明で用いられる結晶体積が100〜200nmであり、結晶化度が30〜60%であるポリエチレンナフタレート繊維は、上記のようなポリエチレンナフタレートポリマーを溶融し、紡糸速度が4000〜8000m/分であり、紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度より50℃を超える高い温度の加熱紡糸筒を通過し、かつ延伸することなどによって得ることができる。
溶融時のポリエチレンナフタレートポリマーの温度としては285〜335℃であることが好ましい。さらには290〜330℃の範囲であることが好ましい。紡糸口金としてはキャピラリーを具備したものを用いることが一般的である。
また繊維の紡糸速度としては4000〜8000m/分であることが好ましく、さらには4500〜6000m/分であることが好ましい。このような超高速紡糸を行うことにより、結晶化度を高め、高強力と高い寸法安定性を両立することができる。
そして紡糸ドラフトとしては100〜10,000で行うことが好ましい。さらには1000〜5000のドラフト条件であることが好ましい。紡糸ドラフトとは、紡糸巻取速度(紡糸速度)と紡糸吐出線速度の比として定義され、下記(数式2)で表されるものである。
紡糸ドラフト=πDV/4W (数式2)
(式中、Dは口金の孔径、Vは紡糸引取速度、Wは単孔あたりの体積吐出量を示す)
さらにこの製造方法では、紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度より50℃を超える高い温度の加熱紡糸筒通過することが好ましい。加熱紡糸筒の温度の上限としては溶融ポリマー温度の150℃以下であることが好ましい。また、加熱紡糸筒の長さとしては250〜500mmであることが好ましい。加熱紡糸筒の通過時間は1.0秒以上であることが好ましい。このような高い温度の加熱紡糸筒を用いることにより、ポリエチレンナフタレート繊維の結晶体積を小さいまま高速紡糸することができる。高温の紡糸筒中ではポリマー中の分子運動が激しく運動し、大きな結晶の生成が阻害されるからである。
従来ポリエチレンナフタレート繊維の製造方法においては、上記のように超高速紡糸を行った場合には、極めて単糸切れを起し易く、生産安定性に欠ける傾向にあった。剛直なポリマーであるポリエチレンナフタレートポリマーは、紡糸口金から吐出された直後にすぐに配向しやすく、単糸切れを極めて発生しやすいのである。
しかし本発明で用いられるポリエチレンナフタレート繊維では、上記のような特定のリン化合物を用い、さらに加熱紡糸筒により遅延冷却を行う方法を採用している。そのようにすることにより、従来にないポリマーの微小結晶を形成させ、同じ配向度であっても均一な構造とすることが可能となった。均一構造であるがゆえに4000〜8000m/分という超高速紡糸を行った場合にも単糸切れが発生せず、高い製糸性を確保することが可能となったのである。そしてこのように微小結晶で均一なポリマー構造を形成させることにより、本発明で用いられるポリエチレンナフタレート繊維は優れた耐疲労性を発揮することができるようになった。
加熱紡糸筒を通過した紡出糸条は、次いで30℃以下の冷風を吹き付けて冷却することが好ましい。さらには25℃以下の冷風であることが好ましい。冷却風の吹出量としては2〜10Nm/分、吹出長さとしては100〜500mm程度であることが好ましい。次いで、冷却された糸状については、油剤を付与することが好ましい。
その後延伸を行うが、微小結晶のポリマーを超高速紡糸して得た繊維であるために、高い結晶化度と、極めて小さな結晶体積が両立した繊維を得ることができる。延伸は、引取りローラーから一旦巻取って、いわゆる別延伸法で延伸してもよく、あるいは引取りローラーから連続的に延伸工程に未延伸糸を供給する、いわゆる直接延伸法で延伸しても構わない。また延伸条件としては1段ないし多段延伸であり、延伸負荷率としては60〜95%であることが好ましい。延伸負荷率とは繊維が実際に断糸する張力に対する、延伸を行う際の張力の比である。延伸倍率や延伸負荷率を上げることによって、結晶化度を有効に高くすることができる。
延伸時の予熱温度としては、ポリエチレンナフタレート未延伸糸のガラス転移点以上、結晶化開始温度の20℃以上低い温度以下にて行うことが好ましく、120〜160℃が好適である。延伸倍率は紡糸速度に依存するが、破断延伸倍率に対し延伸負荷率60〜95%となる延伸倍率で延伸を行うことが好ましい。また、繊維の強度を維持し寸法安定性を向上させるためにも、延伸工程で170℃以上、繊維の融点以下の温度で熱セットを行うことが好ましい。さらには延神時の熱セット温度が170〜270℃の範囲であることが好ましい。
上記の製造方法では、特定のリン化合物を用いることによって、ポリエチレンナフタレート繊維の溶融紡糸工程において、超高速紡糸を安定して行うことができるようになったのである。ちなみに上記のような特定のリン化合物を用いない場合には、紡糸速度を下げるしか工業的に安定生産を行う手段がなく、本発明で必要とされる高い寸法安定性と高い強力を両立させた、耐疲労性に優れた繊維を得ることはできなかったのである。
このような製造方法にて得られたポリエチレンナフタレート繊維は、微小な結晶体積と共に高い結晶化率を実現しており、高強度とともに高い寸法安定性を有し、さらには優れた耐疲労性をも満たす繊維となり、本発明のホース補強用コードに有効に用いることができる。
また本発明のホース補強用コードとしては、例えばこのようなポリエチレンナフタレート繊維を撚糸したり、合糸することにより、所望の繊維コードとして用いたものである。さらには繊維構造体の表面に接着処理剤を付与することも好ましい。接着処理剤としては、たとえばゴム補強用途にはRFL系接着処理剤を処理することが最適である。
より具体的には、このような繊維コードは、上記のポリエチレンナフタレート繊維に、常法に従って撚糸を加え、あるいは無撚の状態でRFL処理剤を付着させ、熱処理を施すことにより得ることができ、このような繊維はゴム補強用に好適に使用できる処理コードとなる。すなわち、該ポリエチレンナフタレート繊維を撚係数K=T・D1/2(Tは10cm当たりの撚数、Dは撚糸コードの繊度)が990〜2,500で合撚して撚糸コードとなし、該コードを接着処剤処理に引き続き230〜270℃で処理する。
このような本発明のホース補強用繊維コードは、各種ホース、特にゴムホースとして最適に用いられる。
もう一つの本発明のホースは、上記のホース補強用繊維コードと、ゴムまたは樹脂などの弾性体から構成されるホースである。
このようなホースは、上記のようにして得られた本発明のホース補強用繊維コードを、例えばゴムホースであれば、次のように用いることにより製造することができる。まず、チューブゴムよりなる内層の上にブレーダーにより所定密度になるよう、得られた繊維コードを所定の角度を付けて配設する。次いで、この上に層間ゴムシートを配した後、再度繊維コードをブレーダーにより配設し、これを所定回数行う。最後に外側補強繊維を保護するためのカバーゴムからなる外層を配設した後、これを例えば蒸気加硫釜中で蒸気加硫してゴムホースとなす。さらには、上記繊維コードの配設はスパイラル構造とすることが好ましい。
得られた本発明のホースは、その補強用繊維の物性により、低収縮で寸法安定性に優れ、かつ耐熱性に優れたホースとなる。
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
(1)結晶体積、最大ピーク回折角
繊維の結晶体積、最大ピーク回折角はBruker社製D8 DISCOVER with GADDS SuperSpeedを用いて広角X線回折法により求めた。
結晶体積は、繊維の広角X線回折において2Θがそれぞれ15〜16°、23〜25°、25.5〜27°に現れる回折ピーク強度の半価幅より、それぞれの結晶サイズをフェラーの式(数式3)、
Figure 2011058114
(ここで、Dは結晶サイズ、Bは回折ピーク強度の半価幅、Θは回折角、λはX線の波長(0.154178nm=1.54178オングストローム)を表す。)
より算出し、下式により結晶1ユニットあたりの結晶体積とした。
結晶体積(nm)=結晶サイズ(2Θ=15〜16°)×結晶サイズ(2Θ=23〜25°)×結晶サイズ(2Θ=25.5〜27°)
最大ピーク回折角は、広角X線回折において強度が最も大きいピークの回折角を求めた。
(2)固有粘度
フェノールとオルソクロロベンゼンとの混合液(6:4)を溶媒として使用し35℃で測定した。
(3)マルチフィラメント繊維の強度
引張荷重測定器((株)島津製作所製オートグラフ)を用い、JIS L−1013に従って測定した。
(4)コードの強伸度、中間荷伸および180℃乾熱収縮率
JIS L−1017に従って測定した。なお、中間荷伸は2cN/dtex応力時の伸度である。例えば1100dtex×2本の場合は44N応力時の中間伸度になる。また180℃乾熱収縮率は、乾燥機内で180℃×30分熱処理し、熱処理前後の試長差より算出した。
(5)寸法安定性指数
上記(4)の処理コードの中間伸度及び180℃乾熱収縮率を和して求めた。
(6)ホース疲労性
ホース内の圧力が3.5kg/cmなるよう圧力を加え、85°に屈曲させた状態で、850rpmの回転数で29分毎に回転方向を変え、ホースが破裂するまでの時間を計測した。
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100重量部とエチレングリコール50重量部との混合物に酢酸マンガン四水和物0.030重量部、酢酸ナトリウム三水和物0.0056重量部を攪拌機、蒸留搭及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、150℃から245℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行い、引き続いてエステル交換反応が終わる前にフェニルホスホン酸(PPA)を0.03重量部(50ミリモル%)を添加した。その後、反応生成物に三酸化二アンチモン0.024重量部を添加して、攪拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、305℃まで昇温させ、30Pa以下の高真空下で縮合重合反応を行い、常法に従ってチップ化して極限粘度0.62のポリエチレンナフタレート樹脂チップを得た。このチップを65Paの真空度下、120℃で2時間予備乾燥した後、同真空下240℃で10〜13時間固相重合を行い、極限粘度0.74のポリエチレンナフタレート樹脂チップを得た。
このチップを、孔数384ホール、孔径1.2mm、ランド長0.8mmの円形紡糸孔を有する紡糸口金からポリマー温度339℃で吐出し、紡糸速度5000m/分で紡糸を行った。紡出した糸状は口金直下に設置した長さ250mm、雰囲気温度400℃の加熱紡糸筒を通じ、さらに、加熱紡糸筒の直下から長さ450mmにわたって、25℃の冷却風を8.0Nm/分の流速で吹き付けて、糸状の冷却を行った。その後、油剤付与装置にて一定量計量供給した油剤を付与した後、引取りローラーに導き、さらに連続的に合計1.15倍の2段延伸と240℃熱セットを行い、1670dtex/384フィラメントのマルチフィラメント(延伸糸)を得た。
この得られたマルチフィラメントに対して、下撚数390回/mのZ撚を与えた後、これを2本合わせて390回/mのS撚りを与えて、1670dtex×2本の生コードとした。この生コードを定法によってエポキシ処理、及びRFL処理を行い、接着剤付着量を約3%となるように調整し、ホース補強用の繊維コード(ディップコード)を得た。さらに、上記繊維コードと未加硫ゴムを用いてホース成形し、ついで153℃下で35分間蒸気加硫してゴムホースを得た。結果を表に示す。
[実施例2]
実施例1において、マルチフィラメントの総繊度を1670dtex/384フィラメントから、1100dtex/249フィラメントとし、下撚数490回/mのZ撚、上撚数490回/mのS撚を与えて生コードしたこと以外は実施例1と同様に実施し、ホース補強用繊維コード及びホースを得た。評価結果等を表1に併せて示す。
[比較例1]
実施例1のポリエチレンー2,6−ナフタレートの重合において、エステル交換反応が終わる前にリン化合物であるフェニルホスホン酸(PPA)を用いる代わりに、正リン酸を40mmol%添加したこと以外は、実施例1と同様に実施してポリエチレンナフタレート樹脂チップを得た。この該樹脂チップを用い実施例1と同様にして溶融紡糸を行ったが、紡糸での断糸が多発し満足に製糸することができなかった。かろうじて採取された糸条を用いて、実施例1と同様にゴムホース補強用繊維コード及びゴムホースを得た。評価結果等を表1に併せて示す。
ちなみに紡糸筒温度を400℃から300℃とした場合や、加熱紡糸筒長さを350mmから135mmとした場合には、製糸性がさらに悪化し、繊維が採取できなかった。
[比較例2]
比較例1において、マルチフィラメントの総繊度を1670dtex/384フィラメントから、1100dtex/249フィラメントとした以外は、実施例1と同様に実施し、ゴムホース補強用繊維及びゴムホースを得た。
Figure 2011058114

Claims (5)

  1. ポリエチレンナフタレート繊維を撚糸してなるホース補強用コードであって、該ポリエチレンナフタレート繊維のX線広角回折より得られる結晶体積が100〜200nmであり、かつ結晶化度が30〜60%であることを特徴とするホース補強用コード。
  2. 該ポリエチレンナフタレート繊維が、リン原子をエチレンナフタレート単位に対して0.1〜300mmol%含有するものである請求項1記載のホース補強用コード。
  3. 該ポリエチレンナフタレート繊維が、金属元素を含むものである請求項1または請求項2に記載のホース補強用コード。
  4. 該金属元素が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素である請求項3記載のホース補強用コード。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項記載のホース補強用コードにより補強されたホース。
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