JP3780435B2 - α−テトラ置換フタロシアニンの製造法 - Google Patents

α−テトラ置換フタロシアニンの製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光記録用色素、カラーフィルター用色素、光電変換素子、電子写真感光体、有機半導体素子、触媒及びガスセンサー、カラーフィルターに利用可能な式(1)で表されるα−テトラ置換フタロシアニンの製造法に関するものである。
【0002】
【化3】
Figure 0003780435
【0003】
式(1)中、フタロシアニン骨格周辺の1〜16の数字は炭素原子の位置番号を示す。フタロシアニン骨格に結合する置換基Xは式(3)で表される1,1,1,3,3,3,−ヘキサフルオロ−2−フェニル−2−プロポキシ基を意味し、1又は4のいずれか、5又は8のいずれか、9又は12のいずれか、13又は16のいずれかの位置の炭素原子にそれぞれ結合しているものとする。
【0004】
【化4】
Figure 0003780435
【0005】
【従来の技術】
α−テトラ置換フタロシアニンの製法としては特開平5−17700号公報にみられる様に3−置換フタロニトリルを直接環化する方法と、特開平5−25177号公報にみられる様に3−置換フタロニリルから一旦ジイミノイソインドリンを得、このジイミノイソインドリンを環化する方法とが知られている。
α−テトラ置換フタロシアニンにはフタロシアニン骨格の4,8,12,16位(1,5,9,13位でも同じ)に置換基が位置する有機溶剤溶解性の低い異性体とこの異性体以外の比較的有機溶剤溶解性の高い3つの異性体とが存在し、これらの混合比によって光記録用色素としての性能が微妙に変化する。
これら異性体の生成比は、置換基及び中心金属が同一のフタロシアニンを製造する場合であっても製法が上記のいずれの方法であるかによって相当に異なっている。しかし、いずれの製法による場合にも前記した従来のフタロシアニンの場合にはフタロシアニン骨格の4,8,12,16位に置換基を有する異性体が、常に1番目か又は2番目に多く生成している点で共通している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前記した公報によればフタロシアニンの製法のうち、前者の3−置換フタロニトリルを直接環化する方法は、収率、工程数などの点で後者に優る方法と考えられる。
ところが、目的物として式(1)で表される特定のフタロシアニンを得る為にこの方法を採用した際には、使用する三塩化バナジウムの品質によって目的物中の異性体比が相当に異なり、フタロシアニン骨格の4,8,12,16位に置換基が位置する有機溶剤溶解性の低い(11)式の異性体が全異性体の80%以上を占めることが多かった。
また、(11)式以外の異性体混合物を合計で全異性体の25〜30%生成させることができても、その為には条件設定を相当に厳しくしなければならず、量産化する場合は未だ再現性の面で不安が残った。更にまた、この様な厳しい条件設定で(11)式以外の異性体混合物の生成比を高めようとすると、3−置換フタロニトリルからの粗製フタロシアニンの収率が50%台と相当に悪くなるという不都合もみられた。
【0007】
【化5】
Figure 0003780435
【0008】
本発明者は、この様な検討を基に、式(1)で表されるフタロシアニンを高収率で容易に製造することができ、また、フタロシアニン骨格の4,8,12,16位に置換基が位置する有機溶剤溶解性の低い(11)式の異性体以外の異性体を多く、確実に製造することのできる方法を提供せんと研究の結果、既にジイミノイソインドリンを経由する発明に到達し出願済みである。
【0009】
即ち、ジイミノイソインドリンを経由する発明とは、式(2)で表される3−置換フタロニトリルを脂肪族アルコール中、ナトリウム(又はカリウム)メトキシド、ナトリウム(又はカリウム)エトキシド、ナトリウム(又はカリウム)ブトキシドなどのアルコキシドの存在下にアンモニア、尿素、カルバミン酸アンモニウム、ホルムアミド及びカルバミン酸エチルから選ばれる化合物と反応させて式(4)で表されるジイミノイソインドリンを得た後、これを反応系から単離することなく引き続き三塩化バナジウムと反応させることを特徴とする、式(1)で表されるα−テトラ置換フタロシアニンの製造法である。
【0010】
【化6】
Figure 0003780435
【0011】
【化7】
Figure 0003780435
【0012】
このジイミノイソインドリンを経由する発明により、式(11)の異性体以外の異性体が全異性体中に50〜90%を占めるフタロシアニンを収率よく得ることが可能となった。
本発明は、式(11)の異性体以外の異性体が全異性体中に占める比率を更に異ならしめ、3種類の異性体を比較的均等に生成させることのできる方法について検討の結果到達したものであり、3−置換フタロニトリルを直接環化する前述の方法とジイミノイソインドリンを経由する出願済みの方法との中間に位置する新規な方法に係るものである。尚、α−テトラ置換フタロシアニンには理論的に4種類の異性体が考えられる。しかし、本発明のα−テトラ置換フタロシアニンの場合、いずれの方法によっても4種類の異性体は得られず、多くても3種類の異性体が得られのみである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明は、式(2)で表される3−置換フタロニトリルを脂肪族アルコール中、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(以下DBUという)の存在下にアンモニア、尿素、カルバミン酸アンモニウム、ホルムアミド及びカルバミン酸エチルから選ばれる化合物と反応させた後、引き続き三塩化バナジウムと反応させることを特徴とする、式(1)で表されるα−テトラ置換フタロシアニンの製造法に係るものである。
【0014】
本発明は、既述のジイミノイソインドリンを経由する発明で使用するアルコキシドに代えてDBUを使用する。
アルコキシドを使用する場合、アンモニアなどの量が充分であれば原料の3−置換フタロニトリルはアンモニアなどとの30〜60℃の反応で完全になくなっていくことが薄層クロマトグラフィの経時観察でわかっている。ところが、DBUを使用する場合、ジイミノイソインドリンも一部生成するが、反応温度や反応時間を多少変化させても、3−置換フタロニトリルの多くが消費しきらずに残存する。
【0015】
本発明の反応機構は不明であるが、上記の点から本発明においては前半の反応で生成したジイミノイソインドリンが環化してα−テトラ置換フタロシアニンに至る反応と、前半の反応で消費しきらずに残存した3−置換フタロニトリルが環化してα−テトラ置換フタロシアニンに至る反応の2種類が後半の反応で生起するものと思われる。
【0016】
【発明の実施の形態】
(3)式で表される3−置換フタロニトリルとアンモニアとの反応は、3−置換フタロニトリルを仕込んだ反応容器中へアンモニアを継続的に導入しつつおこなっても、反応容器中へ当初にアンモニアを導入するのみ後は導入せずにおこなってもよい。
【0017】
アンモニアの代りに尿素又はカルバミン酸アンモニウムを使用して3−置換フタロニトリルと反応させる場合は、3−置換フタロニトリルに対しその0.5倍モル程度の尿素又はカルバミン酸アンモニウムを仕込んで反応させればよい。またアンモニアの変わりにホルムアミド又はカルバミン酸エチルを使用する場合は、3−置換フタロニトリルに対し同モル程度のホルムアミド又はカルバミン酸エチルを仕込んで反応させればよい。
この3−置換フタロニトリルとアンモニア、尿素、カルバミン酸アンモニウム、ホルムアミド及びカルバミン酸エチルから選ばれる化合物との反応は、90℃以下の低温でおこなえばよい。
【0018】
3−置換フタロニトリルとアンモニア、尿素、カルバミン酸アンモニウム、ホルムアミド及びカルバミン酸エチルから選ばれる化合物との反応とこの反応に続くジイミノイソインドリン又は/及び3−置換フタロニトリルの環化反応を一浴でおこなうには、先の反応に使用する脂肪族アルコールとして炭素数5〜8の脂肪族アルコールを用いることが望ましい。先の反応に炭素数5〜8の脂肪族アルコールを用いた場合には、後の環化反応に必要な温度を常圧下に無理なく達成できるからである。
後半のジイミノイソインドリンなどの環化反応は、90〜150℃、更に望ましくは100〜130℃でおこなう。この温度が低くなればなるほど反応は進み難くなる。
一方、反応温度が高すぎると、目的とするフタロシアニン中、歪の大きい構造の異性体の比率が減少したり、各種の副生物が増大する危険性が大きくなる。
【0019】
後半のジイミノイソインドリンなどの環化反応は、出発原料である3−置換フタロニトリルの仕込モル数のおよそ4分の1モルに相当する三塩化バナジウムを添加して反応させる。
この三塩化バナジウムの反応系への添加に際しては、残存するアンモニアなどによって三塩化バナジウムが消費したり、分解したりすることのない様に反応系へ事前に窒素を導入するとよい。
【0020】
以上により、反応系中に溶存した状態で生成したフタロシアニンを固形粉末として得、光記録媒体などの用途に利用するに当たっては、反応溶液をメタノールなどで希釈した後、攪拌下に水を滴下して析出するフタロシアニン色素を濾集し、得られたペーストを常法により洗浄・乾燥して粗製のフタロシアニンとする。次いで粗製のフタロシアニンをシリカゲルカラムクロマトグラフィにかけ、適宜間隔で各種異性体からなるフタロシアニンを順次分取し、濃縮・乾燥して精製フタロシアニンとする。
分取した精製フタロシアニンについては、それぞれに含まれる異性体の種類や比率を適宜液体クロマトグラフィなどで確認し、適宜の分取区分を組み合わせて光記録媒体などの用途に供する。
【0021】
以上の本発明の方法による(2)式の3−置換フタロニトリルからの粗製フタロシアニンの収率(粗製収率)は60%台であり、粗製フタロシアニンからの精製フタロシアニンの収率(精製収率)は40%台である。
ちなみに、3−置換フタロニトリルを直接環化して本発明のフタロシアニンを得る場合には、異性体生成比率を度外視した場合でも粗製フタロシアニンの収率は70%台止まりであり、前記した様に式(11)の異性体以外からなる異性体の生成比を25〜30%まで増大させようとするとその収率は50%台止まりとなる。しかも、この場合は粗製フタロシアニンからの精製フタロシアニンの精製収率も30%台と低い。
一方、ジイミノイソインドリンを経由する出願済みの方法による場合、(3)式の3−置換フタロニトリルからの粗製フタロシアニンの収率(粗製収率)は80%台におよび、粗製フタロシアニンからの精製フタロシアニンの収率(精製収率)は70%台におよぶ。特に前半の反応でホルムアミドを使用した場合には、粗製フタロシアニンの収率が80%台におよぶだけでなく、精製フタロシアニンの収率も90%台におよぶ。
また、収率に重点をおいてこの出願済みの方法により得たフタロシアニン中には、式(11)の異性体以外の異性体が合計して50〜90%含まれており、多くの場合は式(11)の異性体以外の異性体が70%以上を占める。
【0022】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。
実施例1
1)3−(1’,1’,1’,3’,3’,3’−ヘキサフルオロ−2’−フェニル−2’−プロポキシ)フタロニトリルの合成;
反応フラスコに1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−フェニル−2−プロパノール29.3g(0.120mol)、3−ニトロフタロニトリル17.3g(0.100mol)、無水炭酸カリウム55.2g(0.400mol)、及びジメチルスルホキシド100mlを仕込み、窒素気流下70℃で6時間撹拌した。室温まで放冷後、反応混合物を水100ml中に排出し、析出物をろ集、水洗、100℃で乾燥して25.9gの目的物結晶を得た(収率70%)。この化合物の融点は150〜155℃であり、GC/MS分析の結果、分子量ピークM=370が確認された。
【0023】
2)環化反応;
反応フラスコに上記で得られたフタロニトリル誘導体18.5g(0.0500mol)、DBU3.80g(0.0250mol)、ホルムアミド1.12g(0.0250mol)、1−ペンタノール100mlを仕込み、窒素気流下で撹拌しながら90℃まで加熱し、この温度で1時間攪拌した。次いで、三塩化バナジウム2.24g(0.0143mol)を投入した。その後、110℃まで加熱し、この温度で4時間撹拌した。放冷後、反応混合物をメタノール230ml中に排出し、撹拌下で水115mlを滴下して生成物を晶析させた。これをろ集、メタノール/水(2/1:容量比)300mlで洗浄、100℃で乾燥して12.62gの粗製色素を得た(粗収率65.26%)。
ここで得られた粗製色素を液体クロマトグラフィーにより分析し(分析条件:カラム;NUCLEOSIL 300−5C18 96YB−2,キャリア;THF/メタノール=10/90)、次の表1のような結果を得た。
【0024】
【表1】
Figure 0003780435
【0025】
表1中、ピークNo.1、及び2は有機溶剤に対する溶解度が高い成分である。ピークNo.3は、有機溶剤に対する溶解度が低い(11)式の異性体と他の異性体の2種の異性体から成るピークであると推定される。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン/ヘキサン=7/3:容量比)により精製して、その異性体比を調査した結果、(11)式の異性体と構造不明の色素成分に分離することができた。後者は、その吸収波長、及びLC/MSの結果より、環化反応中に置換基の一部が分解した成分であると推定されたが、その生成量は微量であった。
【0026】
前記で得た粗製色素2.50gをトルエンを溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した結果、精製色素1.17gを得た(精製収率46.8%)。
【0027】
実施例2
DBUの仕込量を7.60g(0.0500mol)とした以外は、すべて実施例1と同様にして目的とする粗製色素を得た。粗収量11.73g(粗収率60.66%)。
ここで得た粗製色素を実施例1と同様に液体クロマトグラフィーにより分析し、次の表2のような結果を得た。
【0028】
【表2】
Figure 0003780435
【0029】
さらに上記で得た粗製色素2.50gをトルエンを溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した結果、精製色素0.95gを得た(精製収率38.0%)。
【0030】
実施例3
DBUの仕込量を11.4g(0.0750mol)とした以外は、すべて実施例1と同様にして目的とする粗製色素を得た。粗収量12.88g(粗収率66.130%)。
ここで得た粗製色素を実施例1と同様に液体クロマトグラフィーにより分析し、次の表3のような結果を得た。
【0031】
【表3】
Figure 0003780435
【0032】
さらに上記で得た粗製色素2.50gをトルエンを溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した結果、精製色素1.00gを得た(精製収率40.0%)。
以上の実施例1〜3で得た粗製色素について物性を調査した結果を表4に示す。
【0033】
【表4】
Figure 0003780435
【0034】
実施例4
実施例1の1)と同様にして得たフタロニトニル誘導体18.5g(0.0500mol)、DBU3.80g(0.0250mol)、尿素1.50g(0.0250mol)、1−ペンタノール100mlを仕込み、窒素気流下で撹拌しながら90℃まで加熱し、この温度で1時間攪拌した。次いで、三塩化バナジウム2.24g(0.0143mol)を投入した後、110℃まで加熱し、この温度で4時間撹拌した。放冷後、反応混合物をメタノール230ml中に排出し、撹拌下で水115mlを滴下して生成物を晶析させた。これをろ集、メタノール/水(2/1:容量比)300mlで洗浄、100℃で乾燥して13.10gの粗製色素を得た(粗収率67.74%)。
ここで得られた粗製色素を実施例1と同様に液体クロマトグラフィーにより分析したところ、ピークNo1、ピークNo2、ピークNo3の濃度は順に28.8%、25.1%、16.2%であった。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、3種類の異性体の生成比が比較的均等なα−テトラ置換フタロシアニンを再現性よく得ることができる。

Claims (2)

  1. 式(2)で表される3−置換フタロニトリルを脂肪族アルコール中、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセンの存在下にアンモニア、尿素、カルバミン酸アンモニウム、ホルムアミド及びカルバミン酸エチルから選ばれる化合物と反応させた後、引き続き三塩化バナジウムと反応させることを特徴とする、式(1)で表されるα−テトラ置換フタロシアニンの製造法。
    以下の式(2)(1)において置換基Xは1,1,1,3,3,3,−ヘキサフルオロ−2−フェニル−2−プロポキシ基を意味する。また、式(1)において、フタロシアニン骨格周辺の1〜16の数字は炭素原子の位置番号を示し、置換基Xは、1又は4のいずれか、5又は8のいずれか、9又は12のいずれか、13又は16のいずれかの位置の炭素原子にそれぞれ結合しているものとする。
    Figure 0003780435
    Figure 0003780435
  2. 脂肪族アルコールとして炭素数5〜8のアルコールを使用し、全ての反応を常圧下、130℃以下でおこなう請求項1記載のα−テトラ置換フタロシアニンの製造法。
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