JP3775279B2 - 塑性変形後の脆性き裂伝播停止特性ならびに疲労き裂伝播特性に優れた構造用鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、船舶、海洋構造物、低温貯蔵タンク、ラインパイプおよび建築・土木構造物等の各種構造物に使用される鋼材およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
船舶、海洋構造物、低温貯蔵タンク、ラインパイプおよび建築・土木構造物等の大型構造物に使用される鋼材は、高い靱性を具えることが必要であり、靭性の確保、とりわけ脆性き裂伝播停止特性を確保することに多大な努力が払われてきた。
しかし、これらの構造物に使用される鋼材は、一旦、塑性変形を受けた部分では、脆性き裂伝播停止特性が劣化する場合があった。例えば、船舶が衝突することによって塑性変形を受けた部分が、衝撃荷重を再び受けるような場合がそれである。
【0003】
一般に、鋼材の脆性き裂伝播停止特性は、脆性き裂の進行に伴って吸収し得るエネルギー量に依存しているため、き裂の進展方向を変化させるか、サブクラックの発生などにより、進展き裂前縁での応力集中を緩和する手法が有効であると考えられていた。
【0004】
こうした鋼材の脆性き裂伝播停止特性を向上させる具体的手段としては、古くから、Ni添加量を増加する方法が知られており、LNG貯槽タンクにおいては、9%Ni鋼が商業規模で使用されている。しかし、Ni量の増加は、鋼材コストの大幅な上昇を招くため、他の用途への適用の妨げとなっている。
【0005】
ところが、近年になって、合金コストを上昇させることなく、脆性き裂伝播停止特性を向上させる新たな技術が提案されている。例えば、特開平9-176731号公報には、C:0.03mass%未満、Si:0.5mass%以下、Mn:1.0〜2.0mass%、Ti:0.005〜0.20mass%、B:0.0003〜0.0050mass%およびN:0.0050mass%未満を含み、遅い冷却速度でベイナイト単相組織となるように成分設計した鋼に、高温域圧延を行うことにより、微細なサブクラックを発生可能にする組織を導入して、脆性き裂伝播停止特性を向上させる方法が開示されている。
【0006】
しかし、上記の従来技術では、塑性変形を受ける前の母材の脆性き裂伝播停止特性は確保できるものの、塑性変形を受けた後の脆性き裂伝播停止特性を確保するには十分ではなかった。すなわち、船舶、海洋構造物、低温貯蔵タンク、ラインパイプ、建築・土木構造物等の大型構造物が、衝突等により大規模な塑性変形を受けた場合には、この程度の脆性き裂伝播停止特性ではなお不十分であった。
【0007】
一方、船舶、海洋構造物、低温貯蔵タンク等の大型構造物においては、疲労破壊も大きな問題となる。特開平5-148541号公報には、疲労強度を向上させるために、疲労き裂先端にマイクロクラックを多数発生させて、疲労き裂の伝播を遅延させ、高疲労強度を有する鋼板が開示されている。しかし、この技術では、板厚方向の疲労き裂伝播特性の向上は図れるものの、マイクロ(サブ)クラックが板表面に平行に発生するため、板厚以外の方向での効果が小さいという問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、高価な合金元素に頼ることなく、塑性変形を受けた後においても脆性き裂伝播停止特性ならびに疲労き裂伝播特性が優れた特性を示す構造用鋼材を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討したところ、適切な成分設計を行い、圧延面に(211)面を発達させると、塑性変形を受けた後の脆性き裂伝播停止特性の劣化を最小限に食い止めることができると共に、疲労き裂伝播速度が遅くなることを見いだし、下記構成に係る本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、圧延面での(211)面X線強度比が、(100)面X線強度比よりも大きく、かつ1.5以上の集合組織を有することを特徴とする塑性変形後の脆性き裂伝播停止特性ならびに疲労き裂伝播特性に優れた構造用鋼材である。
【0011】
本発明においてはとくに、圧延面での(211)面X線強度比が1.8以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の上記鋼材は、成分組成として、C:0.03mass%以下、Si:0.5mass%以下、Mn:1.0〜2.0mass%、B:0.0003〜0.0050mass%およびN:0.0050mass%以下を含み、かつTi:0.005〜0.20mass%およびNb:0.005〜0.20mass%のうちから選んだ少なくとも1種を含み、残部:Feおよび不可避的不純物からなり、金属組織がベイナイト単相からなるものであることが好ましい。
【0013】
本発明の上記鋼材はまた、上記の成分組成に加えてさらに、鋼組成が、上記成分に加えてさらに、Cu:0.7〜2.0mass%、V:0.005〜0.2mass%、Ni:2.0mass%以下、Cr:0.5mass%以下、Mo:0.5mass%以下、W:0.5mass%以下およびZr:0.5mass%以下のうちから選んだ少なくとも1種を含有すること、さらには、REM(希土類元素):0.02mass%以下およびCa:0.0040mass%以下のうちから選んだ少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記成分組成からなる鋼素材を、950〜1350℃の温度に加熱し、次いで、1000〜900℃の温度域における累積圧下率15%以上、900〜725℃における累積圧下率75%以上、圧延終了温度850〜725℃の条件にて熱間圧延し、その後、5℃/ s 以上の冷却速度で 400 ℃まで冷却することを特徴とする構造用鋼材の製造方法を提案する。
【0016】
【発明の実施の形態】
発明者らは、種々の鋼材を用いて板厚内部の集合組織と塑性変形後の脆性き裂伝播停止特性および疲労き裂伝播特性との関係について詳細に調査した。その結果、鋼材は、その圧延面に(211)面を発達させた場合には、塑性変形後の脆性き裂伝播停止特性を向上させ、疲労き裂伝播速度を低下させうることがわかった。この調査において、板厚内部の集合組織の発達程度を示す圧延面での(211)面のX線強度比が(100)面のX線強度比よりも大きく、かつ1.5以上である場合に、引張予歪(〜10%)の塑性変形を付与した種々の鋼材における脆性き裂伝播停止特性が大幅に向上し、さらに、(211)面のX線強度比が(100)面のX線強度比よりも大きく、かつ1.8以上である場合にとくに、疲労き裂伝播速度を低下し得ることを知見したのである。なお、ここでいうX線強度比とは、X線的に無方向性試料(鋼材)に対する比を意味する。
【0017】
ここで、脆性き裂伝播停止特性は、プレスノッチシャルピー衝撃試験で測定した破面遷移温度で評価した。この温度が低いほど良好な特性を有していると言える。一般に、破面遷移温度は、引張予歪の付与により高温側へ移行することが知られているが、本発明は、(211)面のX線強度比が1.5以上で、しかも(100)面のX線強度比よりも大きくなると、破面遷移温度の高温側への移行量は小さくなるという新しい知見に基づくものである。なお、プレスノッチシャルピー試験は、脆性き裂伝播停止特性を評価するためのESSO試験や二重引張試験と同等に用いられる簡便な試験であり、DWTT試験とも呼ばれて広く知られている。本発明でいう集合組織の測定個所は、基本的には板厚方向位置のいずれであっても良いが、最表面での測定値は鋼材全体の値を代表しない場合があるので、最表面を除く位置で測定するのが好ましい。さらに好ましくは、板厚の中央で測定するのがよい。
【0018】
(211)面が発達した集合組織を有する鋼材が、良好な脆性き裂伝播停止特性および疲労き裂伝播特性を示す理由は必ずしも明確ではないが、発明者らの実施した試験片の破面観察の結果から、次のことが考えられる。すなわち、(211)面のX線強度比が1.5以上で、かつ(100)面のX線強度比よりも大きい鋼材では、引張予歪により微細なサブクラックが発生しやすくなり、サブクラックによるき裂先端の応力緩和が起こる。その結果として、引張予歪によるマトリックス(生地金属)の靱性低下が補われ、破面遷移温度の上昇が抑制できたものと考えられる。また、(211)面のX線強度比が1.8以上で、かつ(100)面のX線強度比よりも大きい鋼材では、引張予歪を付与しなくとも、疲労き裂先端に微細なサブクラックが板表面に平行な面およびそれ以外の面にも発生し易くなり、これらサブクラックが疲労き裂進展の障害になり、疲労き裂伝播速度が遅くなるものと考えられる。
【0019】
上記したように、良好な脆性き裂伝播停止特性を得るためには、適正な集合組織とすることが必要である。また、鋼材の組織は、ベイナイト単相が好ましく、そのためには、鋼材の化学成分と製造条件を適切な範囲にするとよい。
【0020】
以下、これらの限定理由について説明するが、まず、成分組成について説明する。
C:0.03mass%以下
Cは、ベイナイト単相組織を得るために、0.03mass%以下に制限することが好ましい。0.03mass%以下のC含有量では、炭化物を含むパーライトが出現しなくなり、また、(211)面が(100)面よりも優先的に成長し、脆性き裂伝播停止特性等の向上に有利な集合組織が形成される。0.03mass%を超えたC量では、マルテンサイトを局部的に生成しすくなり、硬さが上昇して溶接性および靱性の劣化を招く傾向がある。このため、C量は0.03mass%以下とするのがよい。なお、C含有量を低くし過ぎても、前記効果が減少することはないが、製鋼上のコスト、また後述するNb,V等の析出による材質向上効果を利用することを勘案して、その含有量を0.005mass%以上とすることが好ましい。
【0021】
Si:0.5mass%以下
Siは、脱酸のため添加するが、多すぎるとベイナイトの生成を抑制するとともに靱性を劣化させる傾向があるので、上限を0.5mass%とするのがよい。なお、脱酸および強度確保の点から、0.02mass%以上含有することが好ましい。
【0022】
Mn:1.0〜2.0mass%
Mnは、ベイナイト組織の生成を促進するほか、(211)面が(100)面よりも優勢な集合組織を形成して、脆性き裂伝播停止特性を向上させるのに有効な元素である。このような効果を得るには1.0mass%以上の含有量とするのがよい。しかし、2.0mass%を超えて含有すると、焼入れ性が増して、マトリックスが硬化し、靱性が劣化する傾向がある。
【0023】
B:0.0003〜0.0050mass%
Bは、広範な冷却速度で、オーステナイト粒界からのフェライトの生成を抑制し、ベイナイト組織を安定して得るのに好適な元素である。こうした効果を得るには0.0003mass%以上の添加が好ましいが、0.0050mass%を超えて含有してもその効果が飽和して経済的に不利となる。
【0024】
N:0.0050mass%以下
Nは、Bと窒化物を形成して、上記したBの効果を阻害するため、ベイナイト組織の安定形成には有害な元素である。また、溶接熱影響部(HAZ:Heat Affected Zone)では、固定されていたNが再固溶することにより、靱性が劣化する。このため、N含有量は0.0050mass%以下に制限するのが好ましい。
【0025】
Ti:0.005〜0.20mass%
Tiは、炭化物や窒化物の析出物を形成し、鋼材製造時の加熱工程におけるオーステナイト粒の成長を抑制して細粒化に寄与するとともに、HAZの結晶粒粗大化を抑制し、HAZの靱性を向上させる元素である。また、Tiは、Nを固定して、上記Bの添加効果を助長する。さらに、Tiは、固溶状態で、ベイナイト変態を促進する。これらの効果を発揮させるには、少なくとも0.005mass%の含有が好ましいが、過度の含有は靱性を劣化させる傾向があるので、0.20mass%を上限とするのがよい。
【0026】
Nb:0.005〜0.20mass%
Nbは、ベイナイト変態を促進し、ベイナイト組織の安定性を高めるとともに、析出強化および靱性向上に有効な元素である。また、オーステナイトの再結晶を抑制し、後述する圧延による効果を促進する。これらの効果を得るためには、0.005mass%以上の含有が好ましい。しかし、0.20mass%を超えて含有すると、焼入れ組織が針状となり、靱性が劣化する傾向にあるため、0.20mass%を上限とする。
【0027】
上述した各元素を基本成分とし、必要に応じて、以下に説明する元素を含有することができる。
Cu:0.7〜2.0mass%
Cuは、析出強化作用を有する元素であり、かかる効果を発現させるためには0.7mass%以上の含有が好ましい。しかし、2.0mass%を超えて含有すると、析出強化が過多となり靱性が劣化する。
【0028】
V:0.005〜0.2mass%
Vは、固溶と析出による強化作用を有する元素であるが、このような効果を得るためには、0.005mass%以上の含有が好ましい。一方、0.2mass%を超える含有は、ベイナイト変態を阻害するため、0.2mass%を上限とする。
【0029】
Ni:2.0mass%以下
Niは、強度および靱性を向上させ、またCu添加材の熱間圧延時における割れを防止するのに有効な元素であり、添加する場合は0.05mass%以上とするのが好ましい。しかし、過剰に添加してもその効果が飽和するほか、高価な元素でもあるので、2.0mass%以下の範囲で含有させることが好ましい。
【0030】
Cr:0.5mass%以下
Crは、強度を上昇させる効果を有するため、0.05mass%以上含有させることが好ましい。しかし、0.5mass%を超えて含有すると溶接部の靱性が劣化するため、Cr含有量は0.5mass%以下の範囲とすることが好ましい。
【0031】
Mo:0.5mass%以下
Moは、常温および高温での強度を上昇させる効果を有するため、0.05mass%以上含有させることが好ましい。しかし、0.5mass%を超えて含有すると、溶接性が劣化するため、含有量は0.5mass%以下の範囲とするのが好ましい。
【0032】
W:0.5mass%以下
Wは、高温強度を上昇させる効果を有しているため、0.05mass%以上含有させることが好ましい。しかし、0.5mass%を超えると靱性を劣化させるだけでなく、高価でもあるので、0.5mass%以下の範囲で含有するのが好ましい。
【0033】
Zr:0.5mass%以下
Zrは、強度を上昇させるほか、亜鉛めっき材の耐めっき割れ性を向上させる元素であり、0.05mass%以上含有することが好ましい。しかし、0.5mass%を超えて含有すると溶接部靱性が劣化するので、Zr含有量は0.5mass%を上限とするのが好ましい。
【0034】
上記に加え、さらに以下の成分を添加するとよい。
REM:0.02mass%以下
REM(希土類金属)は、オーステナイト粒の粒成長を抑制して靱性を向上させる元素であり、好ましい含有量は0.001mass%以上である。しかし、0.02mass%を超える含有量では、鋼の清浄度を損ない、かえって靱性を劣化させる。したがって、REMの含有量は0.02mass%以下とするのが好ましい。このREMとしては、Sc,Yおよび原子番号57のLaから原子番号71のLuまでを用いることができるが、とくにLa,Ceが入手のし易さから好適である。
【0035】
Ca:0.004mass%以下
Caも、REMと同様、靱性向上を目的として含有することが可能である。とくに、このCaは、鋼中硫化物の形態制御を通じて、板厚方向の靱性改善に有効な元素である。しかし、Ca含有が0.004mass%を超えると、かえって靱性低下や溶接性劣化を招くので、0.004mass%を上限とするのが好ましい。なお、REMとCaとを同時添加する場合には、両成分の合計含有量を0.005mass%未満とすることがより好ましい。
【0036】
上記成分組成と集合組織を有する鋼材は、優れた脆性き裂伝播停止特性と疲労き裂伝播特性を有するが、より一層優れた靱性、とりわけ塑性変形後の脆性き裂伝播停止特性と疲労き裂伝播特性を確保するには、次に示す製造工程が有利に適合する。
【0037】
すわなち、上述した組成に成分調整した鋼素材(スラブ)を、まず950〜1350℃の温度に加熱する。加熱温度を950℃以上とするのは、材質の均質化と後述する制御圧延を行うために必要な加熱であり、また1350℃以下とするのは、余りに高温になると表面酸化ロスが顕著になり、また低Cに由来する急激な結晶粒の粗大化が避けられなくなるからである。なお、靱性の向上のためには、上限を1150℃とすることが好ましい。
【0038】
次いで、上記加熱の後、1000〜900℃の温度域における累積圧下率が15%以上となる、熱間圧延を施す。この温度域で圧延することによって、オーステナイト粒が部分的に再結晶するため、組織が微細かつ均一になり、靭性が向上する。このような作用は、従来鋼においては、1000℃以上の温度域で圧延しないと発現しないのが通常であるが、この発明に適合する組成の鋼では、900〜1000℃においてもその効果が現れ、比較的低温で十分な圧延を行うことにより、再結晶粒の成長を効果的に抑制できる。なお、1000℃を超える温度での圧延は、オーステナイト粒の成長を助長するので、細粒化のためには好ましくない。一方、900℃未満では、未再結晶域に入るので結晶粒の均一化のためには好ましくない。
【0039】
引き続き、900〜725℃における累積圧下率を75%以上とし、圧延終了温度を850〜725℃として熱間圧延する。この温度域での圧延の目的は、再結晶していない残りのオーステナイト粒を、圧延により加工して一層の細粒化を図るとともに、微細オーステナイト粒内に歪を導入しながら集合組織を形成し、ベイナイト変態によるマトリックスの強化と集合組織の受け継ぎを達成することにある。725℃未満で圧延を行うと、二相域の圧下量の比率が大きくなり、(100)面が過度に発達し、特に板厚方向の強度・靱性に悪影響を与える。一方、900℃を超える温度で圧延を行うと、未再結晶オーステナイト粒を圧延加工することにならなくなる。
また、前記温度域における累積圧下率が75%未満となるか、圧延終了温度が850℃を超える高い温度になると、十分な細粒化と(211)面の多い集合組織が得られず、塑性変形による脆性き裂伝播停止特性の劣化程度が大きくなる。さらに、疲労き裂伝播特性の向上を図るためには、900〜725℃における累積圧下率を80%以上とするのが好ましい。
【0040】
上記圧延の後、5℃/s以上の冷却速度で400℃まで冷却する。その理由は、400℃までを5℃/s以上で冷却することにより、(211)面が優勢な集合組織の受け継ぎが促進され、塑性変形後の脆性き裂伝播停止特性が劣化しにくくなり、疲労き裂伝播特性が向上する。さらに、かかる条件で冷却すると、(211)面のX線強度比がより強くなり、サブクラックの発生がより一層促進され、き裂がし易くなるからである。なお、上記冷却において、好ましい冷却開始温度は700℃以上である。
【0041】
【実施例】
表1に示した種々の化学組成に調整した鋼スラブを用いて、表2に示す条件に従って、厚鋼板を製造した。
かくして得られた各厚鋼板について、(211)面と(100)面のX線強度比の測定と金属組織の観察を行うとともに、圧延のままと、これに10%の引張塑性歪を付与した後における脆性き裂伝播停止特性および引張予歪前後での疲労き裂伝播特性を調査した。上記X線強度比は、鋼板の板厚中心部における圧延面において、反転極点図法を用いて測定した。脆性き裂伝播停止特性は、日本溶接協会の鋼種認定試験方法に規定される方法に従って、500mmの正方形試片に29mm深さのノッチを加工した試験(ESSO試験)により、脆性き裂伝播停止特性(Kca値)が6000N/mm2を示す温度(Tk)を求めることにより評価した。疲労き裂伝播特性は、ASTM E647-95aに準拠して試験を実施し、応力拡大係数範囲(ΔK値)が50MPa・m1/2における疲労き裂伝播速度(da/dN値)を求めて評価した。da/dNの a は疲労き裂の長さ、N は負荷を与えた回数である。
その結果、本発明に従う発明例では、引張予歪による遷移温度(Tk)の高温側への移行量が15℃未満と小さく、かつ、塑性歪付与後にも2.5×10-7(m/回)を下回る、優れた脆性き裂伝播停止特性が得られており、特に、(211)面のX線強度比が1.8より大きい発明例においては、疲労き裂伝播速度が1.0×10-7(m/回)以下と小さく、さらに優れた疲労き裂伝播特性が得られていることがわかる。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、脆性き裂伝播停止特性に優れた、とりわけ塑性歪付与後の脆性き裂伝播停止特性に優れた鋼材および疲労き裂伝播特性に優れた鋼材を提供することができる。本発明鋼材は、船舶などが万一の衝突事故により大きな塑性歪を受けた場合でも、脆性破壊の危険性を回避できると共に寿命の延長が図れ、鋼構造物の安全性を確保するうえで大きく寄与する。
Claims (6)
- 圧延面での(211)面X線強度比が、(100)面X線強度比よりも大きく、かつ1.5以上の集合組織を有することを特徴とする塑性変形後の脆性き裂伝播停止特性ならびに疲労き裂伝播特性に優れた構造用鋼材。
- 前記圧延面での(211)面X線強度比が1.8以上であることを特徴とする請求項1に記載の構造用鋼材。
- 鋼組成が、C:0.03mass%以下、Si:0.5mass%以下、Mn:1.0〜2.0mass%、B:0.0003〜0.0050mass%およびN:0.0050mass%以下を含み、かつTi:0.005〜0.20mass%およびNb:0.005〜0.20mass%のうちから選んだ少なくとも1種を含み、残部:Feおよび不可避的不純物からなり、金属組織がベイナイト単相からなることを特徴とする請求項1または2に記載の構造用鋼材。
- 鋼組成が、上記成分に加えてさらに、Cu:0.7〜2.0mass%、V:0.005〜0.2mass%、Ni:2.0mass%以下、Cr:0.5mass%以下、Mo:0.5mass%以下、W:0.5mass%以下およびZr:0.5mass%以下のうちから選んだ少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項3に記載の構造用鋼材。
- 鋼組成が、上記成分に加えてさらに、REM(希土類元素):0.02mass%以下およびCa:0.004mass%以下のうちから選んだ少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項3または4に記載の構造用鋼材。
- 請求項3〜5のいずれか1項に記載の成分組成を有する鋼素材を、950〜1350℃の温度に加熱し、次いで、1000〜900℃の温度域における累積圧下率15%以上、900〜725℃における累積圧下率75%以上、圧延終了温度850〜725℃の条件にて熱間圧延し、その後、5℃/ s 以上の冷却速度で 400 ℃まで冷却することを特徴とする構造用鋼材の製造方法。
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