JP3770931B2 - セルフクリ−ニング性に優れた表面処理鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、調理機器(例えば、ト−スタ−レンジやオ−ブンレンジ)、石油燃焼暖房機器、生ゴミ焼却機器などのようにタ−ル状炭素が付着し易い部位を有する機器の部材に好適な表面処理鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
ト−スタ−レンジやオ−ブンレンジ等の調理機器では、加熱調理の際に発生した油脂や煙中の炭素が内箱の表面にタ−ル状になって強固に付着し、外観を著しく損ねる。従来、このタ−ル状付着物は洗剤等で除去していたが、繁雑であるとの理由で、近年では、付着油脂を熱で水や二酸化炭素に分解する触媒粉末のMn、Cu、Fe、Co、Ni等の各金属酸化物もしくはそれらの混合物などを分散添加した無機系皮膜を内箱表面に形成して、内箱にセルフクリ−ニング性を付与することが行われている。この無機系皮膜によるセルフクリ−ニング処理は調理機器と同様の問題を有する石油燃焼暖房機器の温風吹き出し口にも適用されている。
【0003】
しかし、このセルフクリ−ニング処理の無機系皮膜は、加工性に乏しいため、素材を内箱や温風吹き出し口などの部材に加工した後、処理液をスプレ−法やハケ塗り法で塗布して形成しなければならないため、処理作業に多大の労力と時間を要するものであった。また、無機系皮膜は粒状触媒が皮膜中に分散した状態で存在しているものであるため、添加触媒のうち、露出して触媒機能を発揮するものの割合は少なく、しかも、皮膜全面が触媒機能を有するものではなかった。
【0004】
そこで、添加触媒の多くに触媒機能を発揮させるために皮膜を多孔質にして、接触面積を広くしたり、添加触媒の濃度が皮膜内部から表面側に近づくに連れて高くする傾斜濃度にして、露出触媒を多くしたりすることが試みられている。前者の多孔質化の例としては、無機質耐熱塗料にシリコ−ンワニスなどの多孔質化剤を分散させて、焼付硬化時にその多孔質化剤を消失させ、皮膜を多孔質にする方法である(特開昭57−67667号、特開昭57−67668号)。また、後者の傾斜濃度化の例としては、ホ−ロ−、無機質塗料、シリコ−ン樹脂などの耐熱性皮膜に酸化触媒(例えば、白金アルミナ、酸化マンガン、酸化ニッケル)またはこれと重合阻止剤(例えば、水酸化アルミニウム、活性白土、メタ珪酸リチウム)等の触媒を添加して、それらを皮膜最下部から最上部に向かって増加させている(特開平1−104348号)。しかし、これらの方法によれば、皮膜のセルフクリ−ニング性は向上するが、触媒が粒状に分散しているには変わりなく、触媒の露出しない部分のセルフクリ−ニング性は依然として不十分である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、皮膜に触媒が微分散したセルフクリ−ニング性の優れた表面処理鋼板の製造方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1発明は、モノメチルトリアルコキシシランに1モル当たり3モルの水を添加して、加水分解によりモノメチルシラノ−ルゾルとした後、このゾルに平均粒径0.1〜20μmのMoおよび/またはWの酸化物をゾルの不揮発分に対して2〜30mass%添加して、鋼板の少なくとも片面に乾燥塗膜厚で1〜30μm塗布し、その後、鋼板の到達板温450〜750℃で10〜60分間加熱することを特徴としている。
また、第2発明は、前記第1発明の製造方法において、モノメチルシラノ−ルゾルにゾル不揮発分100重量部に対して重量平均分子量1000〜3000のイソシアネ−トを10〜40重量部さらに添加することを特徴としている。
さらに、第3発明は、前記第1発明の製造方法において、モノメチルシラノ−ルゾルの代わりにテトラアルコキシシランに1モル当たり4モルの水を添加して、加水分解により調製したテトラシラノ−ルゾルを用いることを特徴としている。
また、第4発明は、前記第1、2または3発明の製造方法において、450〜750℃で加熱前に鋼板の到達板温140〜300℃で予備加熱することを特徴としている。
【0007】
【作用】
本発明者らは、調理器具に付着した油脂を熱で水や二酸化炭素に分解する触媒について種々検討した結果、MoやWの酸化物が有効であることを見いだした。しかし、これらの酸化物の粉末をバインダ−中に分散させただけでは触媒の露出しない部分が多く存在し、セルフクリ−ニング性は従来のものと変わらないことが判明した。そこで、触媒を微細な状態で均一に分散させる方法を検討した結果、モノメチルシラノ−ルゾルもしくはテトラシラノ−ルゾルにMoやWの酸化物粉末を添加して、鋼板に塗布し、その後、鋼板到達板温で450〜750℃に加熱すれば、モノメチルシラノ−ルゾルもしくはテトラシラノ−ルゾルは加熱重合により耐熱性の酸化ケイ素皮膜になり、酸化物粉末は微細化して、皮膜中に均一に分散することを見いだしたのである。
【0008】
図1は、酸化モリブデン粉末をモノメチルシラノ−ルゾルに10mass%添加して、鋼板に乾燥皮膜で7μmになるように塗布した後、到達板温で200℃に加熱して製造したモノメチルシリコ−ン樹脂複合皮膜被覆鋼板とその鋼板を600℃で10分間加熱して、皮膜を酸化ケイ素複合皮膜にしたものの各皮膜をX線回折したチャ−トであるが、モノメチルシリコ−ン樹脂複合皮膜では酸化モリブデンのピ−クが認められるものの、600℃に加熱したものではピ−クが認められず、酸化モリブデンは拡散していることがわかる。図2は酸化タングステン粉末を10mass%添加したモノメチルシラノ−ルゾルについて同様の実験をしたX線回折チャ−トを示すものであるが、600℃に加熱すると、酸化タングステンのピ−クは消失してしまう。さらに、図3は、図1でのモノメチルシリコ−ン樹脂複合皮膜と600℃加熱後の酸化ケイ素複合皮膜のX線写真であるが、モリブデンは皮膜中に微細かつ均一に分散している。
【0009】
このように、MoやWの酸化物粉末をモノメチルシラノ−ルゾルに添加して、450〜750℃に加熱すると、酸化物粉末は皮膜中に微細かつ均一に分散しているので、酸化物の表面積は大きくなり、しかも、皮膜表面には緻密に露出するので、優れたセルフクリ−ニング性を発揮する。
【0010】
MoやWの酸化物を添加するモノメチルシラノ−ルゾルは、モノメチルトリアルコキシシランを加水分解によりゾル化すればよい。すなわち、モノメチルトリアルコキシシランに1モル当たり3モルの水を添加して加水分解すると、モノメチルトリシラノ−ルが生成するが、このシラノ−ルは直ちに重合してゾル化する。このゾルは鋼板に塗布して、脱水縮合により架橋を進行させると、モノメチルシリコ−ン樹脂皮膜となるが、鋼板到達板温で450〜750℃に加熱すると、メチル基や後述のイソシアネ−トは燃焼除去されて、網状の酸化ケイ素皮膜になる。
【0011】
MoやWの酸化物を添加するゾルには、テトラシラノ−ルゾルを用いてもモノメチルシラノ−ルゾルと同様の作用効果が得られる。このテトラシラノ−ルゾルはテトラアルコキシシランに1モル当たり4モルの水を添加して、加水分解によりゾル化すればよい。
【0012】
ゾルにモノメチルシラノ−ルゾル、テトラシラノ−ルゾルのいずれを用いるにしても、ゾルの分子量は、いずれのMoやW酸化物添加の場合ともポリスチレン換算で5000〜20000程度が望ましい。5000未満であると、皮膜厚を1μm以上にするのが困難であり、20000を超えると、ゾルが安定しない。また、ゾルへのMoやWの酸化物添加量は、ゾル不揮発分に対して2〜30mass%にする。2mass%未満であると、セルフクリ−ニング性向上効果が少なく、30mass%を超えると、皮膜が脆くなる。皮膜のセルフクリ−ニング性と加工性をともに満足させる好ましい範囲は10〜20mass%である。さらに、酸化物の粒径は平均粒径0.1〜20μmのものにする。平均粒径が0.1μm未満のものは作製困難で価格が高く、20μmを超えると、微細に分散させるのに長時間の加熱処理を必要とする。
【0013】
鋼板へのゾルの塗布は、いずれのゾルとも乾燥皮膜厚で1〜30μmになるようにする。1μm未満では、鋼板に均一に塗布することが困難で、ピンホ−ルが発生して、鋼板の凹凸を十分被覆できず、30μmを超えると、皮膜形成時の加熱、冷却の際に皮膜と鋼板の熱膨張率の違いによりクラックが生じ、皮膜剥離が発生する。
【0014】
ゾル塗布後の鋼板の加熱温度は、到達板温で450〜750℃で行う。450℃未満では酸化物の分散が難しく、加熱に長時間を要し、実用的でなく、750℃を超えると、基材鋼板が受ける熱履歴が大きくなるため、密着性が低下する。また、加熱時間は10〜60分にする。10分未満では加熱温度を750℃にしても酸化物の分散が難しく、60分を超えると、基材鋼板が受ける熱履歴が大きくなる。望ましい加熱条件は450〜500℃で10〜60分、500〜600℃では30〜60分である。
【0015】
なお、モノメチルシラノ−ルゾル塗布鋼板の場合は、この加熱前に到達板温で140〜300℃で予め加熱を施して、皮膜をモノメチルシリコ−ン樹脂複合皮膜にし、その状態で目的の部材に加工すると、皮膜が厳しい加工に耐えることができる。すなわち、到達板温で140〜300℃の一次加熱を施し、その後、450〜750℃で二次加熱を施すのである。この一次加熱は140℃未満であると、皮膜中に用材が残り、架橋が不十分となるため、コイル巻取り時や切板のパイリング時に皮膜面がブロッキングを起こし、300℃を超えると、皮膜が緻密になり過ぎるため、加工密着性が低下する。
【0016】
また、モノメチルシリコ−ン樹脂複合皮膜の場合、皮膜を柔軟にして、高度の加工に耐えるようにするには皮膜をイソシアネ−ト変性するとよい。イソシアネ−ト変性すると、皮膜形成の際に未反応シラノ−ル基同士がイソシアネ−トで架橋されるため、皮膜に伸縮性が付与され、加工性が向上する。このイソシアネ−ト変性量はモノメチルシラノ−ルゾル不揮発分100重量部に対してイソシアネ−トが10重量部未満であると、皮膜柔軟効果が乏しく、40重量部を超えると、皮膜が脆弱になり、密着性が低下するので、10〜40重量部にする。
【0017】
イソシアネ−トとしては、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト(HDI)、ジフェニルメタンジイソシアネ−ト(MDI)、トリレンジイソシアネ−ト(TDI)、イソホロンジイソシアネ−ト(IPDI)のようなジイソシアネ−トもしくはポリイソシアネ−ト、あるいはこれらのイソシアネ−トをブロック化したブロックイソシアネ−トなどが挙げられるが、分子量は重量平均分子量で1000〜3000のものを使用する。1000未満では加工性の向上効果が小さく、3000を超えるとゾルが不安定になり、また、皮膜も脆弱になる。加工性、ゾルの安定性を考慮した場合、1500〜2500にするのが好ましい。
【0018】
皮膜には、意匠性、発熱、皮膜の強化等を向上させるために、顔料、高周波損失剤、骨材等の添加物を含有させることも可能である。顔料としては、例えば、Mn、Fe、Cr、Ni、Co、Ti、Si、Al等の酸化物または複合酸化物あるいはAl粉のような金属粉末が挙げられる。また、高周波損失剤としてはZn−Niフェライトが、骨材としてはチタン酸カリウム繊維などが挙げられる。これらの添加物は単独もしくは複合添加してもよいが、添加量は5〜20mass%にするのが好ましい。5mass%未満であると、添加効果が小さく、20mass%を超えると、皮膜が脆くなる。また、大きさは平均粒径で0.1〜20μmにするのが好ましい。0.1μm未満では、微粒子にするのに高価となり、20μmを超えると、皮膜中に分散しにくくなる。
【0019】
基材鋼板は、とくに限定はないが、耐熱性を備えたもの、例えば、アルミめっき鋼板、ステンレス鋼板などが望ましい。また、ゾルの塗布は公知方法、例えば、スプレ−法、ロ−ルコ−ト法、バ−コ−ト法などによればよい。塗布は通常セルフクリ−ニング性の必要な鋼板の片面だけでもよいが、必要ならその両面に施してもよい。
【0020】
【実施例】
実施例1
モノメチルトリアルコキシシランを1モル当たり3モルの水で加水分解して、モノメチルシラノ−ルゾル(分子量;ポリスチレン換算で約10000)にした後、Moおよび/またはWの酸化物を添加し、ゾル溶液を調製した。次に、これらの溶液をSUS304ステンレス鋼板(板厚0.4mm、2B仕上げ)にバ−コ−ト法で塗布して、450〜750℃に加熱して、酸化ケイ素複合皮膜にした。その後、この鋼板の皮膜に対して次の試験を実施した。この結果を表1にゾル溶液組成、皮膜厚とともに示す。
【0021】
(1)密着性試験
試験片にカッタ−で素地鋼板にまで達するゴバン目の切り込みを入れて、セロハンテ−プを貼付け後剥離するテ−ピング剥離を実施し、皮膜剥離が全く認められないものを記号○、皮膜剥離が僅かでも認められたものを記号×の基準で評価した。
(2)セルフクリ−ニング性試験
試験片(寸法100×70mm)の表面にオリ−ブ油を部分的に12〜20箇所塗布し、400℃のオ−ブン中で60分間加熱し、取り出し後オリ−ブ油が完全に消失したものを記号○、僅かでも残存したものを記号×で評価した。
【0022】
【表1】
(注1)酸化物の添加量はゾルの不揮発分に対してである。
(注2)比較例1は皮膜剥離のため、性能試験実施不能。
【0023】
実施例2
実施例1において、モノメチルシラノ−ルゾルの代わりにテトラアルコキシシランを1モル当たり4モルの水で加水分解したテトラシラノ−ルゾル(分子量;ポリスチレン換算で約10000)を用いた。また、酸化モリブデン、酸化タングステンには平均粒径1.0μmのものを用いた。試験結果を表2に示す。
【0024】
【表2】
(注)酸化物の添加量はゾルの不揮発分に対してである。
【0025】
実施例3
モノメチルトリアルコキシシランを1モル当たり3モルの水で加水分解して、モノメチルシラノ−ルゾル(分子量;ポリスチレン換算で約10000)にした後、平均粒径がともに1.0μmであるMoおよび/またはWの酸化物を添加し、ゾル溶液を調製した。次に、この溶液の一部を分取して、ゾルの不揮発分100重量部に対してヘキサメチレンジイソシアネ−ト(平均分子量;1800)を20重量部添加した。このゾル溶液をSUS304ステンレス鋼板(板厚0.4mm、2B仕上げ)にバ−コ−ト法で塗布して、200℃(到達板温)で1分間加熱し、皮膜を硬化させた。ここで、次の(3)の加工性試験を行い、試験後試験片を450〜750℃に加熱して、酸化ケイ素複合皮膜にした。その後、実施例1と同様の試験を行った。この結果を表3に示す。
(3)加工性試験
試験片(寸法100×70mm)に180度折り曲げ加工(6t、10t)を施して、加工部にセロハンテ−プを貼付けた後剥離するテ−ピング試験を実施し、皮膜剥離が認められなかったものを記号○、認められたものを記号×で評価した。
【0026】
【表3】
【0027】
【発明の効果】
以上のように、本発明法によれば、表面処理鋼板の耐熱性皮膜中にセルフクリ−ニング性の触媒を微細かつ均一に分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】は、酸化モリブデン10mass%添加モノメチルシラノ−ルゾル溶液を鋼板に塗布して、200℃で予備加熱したモノメチルシリコ−ン樹脂複合皮膜と、この皮膜を600℃で10分間加熱した酸化ケイ素複合皮膜をX線回折したチャ−トを示すものである。
【図2】は、酸化タングステン10mass%添加モノメチルシラノ−ルゾル溶液を鋼板に塗布して、200℃で予備加熱したモノメチルシリコ−ン樹脂複合皮膜と、この皮膜を600℃で10分間加熱した酸化ケイ素複合皮膜をX線回折したチャ−トを示すものである。
【図3】は、酸化モリブデン10mass%添加モノメチルシラノ−ルゾル溶液を鋼板に塗布して、200℃で予備加熱したモノメチルシリコ−ン樹脂複合皮膜と、この皮膜を600℃で10分間加熱した酸化ケイ素複合皮膜のX線写真である。
Claims (4)
- モノメチルトリアルコキシシランに1モル当たり3モルの水を添加して、加水分解によりモノメチルシラノ−ルゾルとした後、このゾルに平均粒径0.1〜20μmのMoおよび/またはWの酸化物をゾルの不揮発分に対して2〜30mass%添加して、鋼板の少なくとも片面に乾燥塗膜厚で1〜30μm塗布し、その後、鋼板の到達板温450〜750℃で10〜60分間加熱することを特徴とするセルフクリ−ニング性に優れた表面処理鋼板の製造方法。
- 請求項1の製造方法において、モノメチルシラノ−ルゾルにゾル不揮発分100重量部に対して重量平均分子量1000〜3000のイソシアネ−トを10〜40重量部さらに添加することを特徴とするセルフクリ−ニング性に優れた表面処理鋼板の製造方法。
- 請求項1の製造方法において、モノメチルシラノ−ルゾルの代わりにテトラアルコキシシランに1モル当たり4モルの水を添加して、加水分解により調製したテトラシラノ−ルゾルを用いることを特徴とするセルフクリ−ニング性に優れた表面処理鋼板の製造方法。
- 請求項1、2または3の製造方法において、450〜750℃で加熱前に鋼板の到達板温140〜300℃で予備加熱することを特徴とするセルフクリ−ニング性に優れた表面処理鋼板の製造方法。
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