JP3769648B2 - 金属含有組成物及びエステル化合物の製法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、Pdと周期表IB族に属する元素を含む新規な金属含有組成物、該組成物からなるエステル化反応用触媒、及びエステル化合物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、p−メチルベンジルアセテートやp−キシリレンジアセテート等の芳香族ベンジルエステル類は、ポリエステル樹脂等の合成樹脂の原料や、香料や溶剤等の各種化学薬品、或いは、これら化学薬品の原料等として用いられている。これら芳香族ベンジルエステル類の製造方法として、例えば、特開昭63−174950号公報には、パラジウム−ビスマス化合物および/またはパラジウム−鉛化合物を触媒として用いて、p−キシレンと酢酸とを酸素の存在下で反応させることにより、p−メチルベンジルアセテートおよびp−キシリレンジアセテートを製造する方法が開示されている。また、例えば、特開昭62−273927号公報には、パラジウムおよびビスマスを含む触媒を用いて、p−キシレンと酢酸とを酸素の存在下で反応させることにより、p−キシリレンジアセテートを製造する方法が開示されている。
【0003】
さらに、例えば、特開平8−231466号は、パラジウムおよび金を担体に担持してなる触媒を用いて、p−キシレンと酢酸とを酸素の存在下で反応させることにより、p−キシリレンジアセテートを製造する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、特開昭63−174950号公報や特開昭62−273927号公報に記載されている触媒は、触媒活性が低く(触媒におけるパラジウム単位当たりの、単位時間当たりのターンオーバー数は15程度)、従って、生産効率を向上させるためには、反応基質であるp−キシレンに対して触媒を多量に用いなければならない。つまり、貴金属であるパラジウムを多量に用いなければならない。また、反応時にパラジウムが反応液中に溶出することも考えられ、この場合には、触媒活性がさらに低下すると共に、溶出したパラジウムを分離・回収する必要がある。このため、上記の触媒は、工業的な製造方法に対して好適な触媒であるとは言い難い。
【0005】
さらに、特開平8−231466号公報に記載されている触媒もまた、触媒活性が低く、従って、生産効率を向上させるためには、反応基質であるp−キシレンに対して触媒を多量に用いなければならないので、工業的な製造方法に対して好適な触媒であるとは言い難い。
【0006】
即ち、上記従来の触媒は、触媒活性が低く、工業的な製造方法に対して不適であり、それゆえ、ベンジルエステル類を効率的にかつ安価に製造することができないという問題点を有している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の主な目的は、ベンジル化合物類やオレフィン化合物類等の炭化水素化合物を原料として用い、これを酸素の存在下にカルボン酸と反応させてエステル化合物を製造する方法において、エステル化合物を効率的に製造できる方法、及びこの方法において有効に使用できる触媒を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述した如き目的に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の方法で周期表IB族に属する元素とPdを担体上に担持させる場合には、Pdがパラジウム金属やPdO、PdO2等のパラジウム酸化物のいずれにも該当しない状態となって担体上に担持された新規な組成物が得られることを見出した。そして、このような状態でPdと周期表IB族に属する元素を担体上に担持した組成物は、ベンジル化合物類やオレフィン等を原料とし、酸素の存在下にカルボン酸と反応させてエステル化合物を合成する反応において、副反応を抑制でき、選択率の高い触媒として有用であることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の金属含有組成物、エステル化反応用触媒、及びエステル化合物の製造方法を提供するものである。
1.Pd及び周期表IB族に属する元素が担体上に担持された担持物であって、X線光電子分光法により測定したPdの3d5/2の結合エネルギーが335.2〜336.2eVの範囲内にあることを特徴とする金属含有組成物。
2.周期表IB族に属する元素が金である上記項1に記載の金属含有組成物。
3.担体がAl、TiおよびZrからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を含む酸化物である上記項1に記載の金属含有組成物。
4.Pd化合物と周期表IB族に属する元素の化合物を溶解した水溶液を1分〜5時間熟成した後、担体を添加して該担体上にPdと周期表IB族に属する元素を含む沈殿物を析出させ、次いで、焼成することを特徴とする上記項1〜3のいずれかに記載された金属含有組成物の製造方法。
5.酸素の存在下に炭化水素化合物とカルボン酸を反応させてエステル化合物を合成する反応に用いる、上記項1〜3のいずれかに記載の金属含有組成物からなるエステル化反応用触媒。
6.上記項5に記載の触媒と酸素の存在下に、ベンジル化合物類とカルボン酸とを反応させることを特徴とするエステル化合物の製造方法。
7.上記項5に記載の触媒と酸素の存在下に、オレフィン化合物類とカルボン酸とを反応させることを特徴とするエステル化合物の製造方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の金属含有組成物は、Pd及び周期表IB族に属する元素が担体上に担持された担持物であって、X線光電子分光法(XPS)により測定したPdの3d5/2の結合エネルギーが335.2〜336.2eVの範囲にある新規な組成物である。
【0011】
通常、パラジウムの3d5/2の結合エネルギーは、Pd金属の状態では335.1eV、PdOの状態では336.3eV、PdO2の状態では337.9eVであるが、上記した様に、本発明の組成物では、Pdの3d5/2の結合エネルギーは335.2〜336.2eVの範囲にある。よって、本発明の組成物では、パラジウムは、上記した金属又は酸化物のいずれにも該当しない状態で存在する。この様な状態のPdを担持した組成物は、主活性成分であるパラジウムの電子状態が均一であり、酸素の存在下に炭化水素化合物とカルボン酸とを反応させてエステル化合物を合成する反応における触媒として用いる場合に、副反応を抑制でき、選択性に優れた触媒となる。
【0012】
本発明の組成物は、例えば、Pd化合物と周期表IB族に属する元素の化合物を溶解した水溶液を1分〜5時間熟成した後、担体を添加して該担体上にPdと周期表IB族に属する元素を含む沈殿物を析出させ、次いで、焼成することによって得ることができる。
【0013】
周期表IB族に属する元素(以下、「IB族元素」という)としては、Au、Ag、Cu等を例示でき、周期表IB族に属する元素を含む化合物(以下、「IB族化合物」という)としては、上記したIB族元素を含む水溶性の化合物であれば、特に限定なく使用できる。この様な化合物の具体例としては、テトラクロロ金(III) 酸「H〔AuCl4 〕」、テトラクロロ金(III) 酸ナトリウム「Na〔AuCl4 〕」、ジシアノ金(I) 酸カリウム「K〔Au(CN)2 〕」、ジエチルアミン金(III) 三塩化物「(C2H5 )2 NH・〔AuCl3 〕」等の錯体;シアン化金(I) 「AuCN」;等の金化合物、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、炭酸銀、酢酸銀、シアン化銀、硝酸銀、硫酸銀、酒石酸銀、リン酸銀、アセチルアセトナート銀等の水溶性の銀化合物、酢酸銅、アセチルアセトナート銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、シアン化銅、水酸化銅、硝酸銅、蓚酸銅、リン酸銅、硫酸銅、テトラアンミン銅錯体等の水溶性の銅化合物等が挙げられる。IB族化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0014】
Pd化合物としては、Pdを含む水溶性の化合物であれば、特に限定なく使用できる。Pd化合物の具体例としては、金属パラジウム、酸化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、ヘキサクロロパラジウム酸アンモニウム、ヘキサクロロパラジウム酸ナトリウム、ヘキサクロロパラジウム酸カリウム、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸カリウム、テトラブロモパラジウム酸カリウム、テトラシアノパラジウム酸カリウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、クロロカルボニルパラジウム、ジニトロサルファイトパラジウム酸カリウム、ジニトロジアミンパラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物、テトラアンミンパラジウム硝酸塩、cis-ジクロロジアミンパラジウム、trans-ジクロロジアミンパラジウム、ビストリフェニルホスフィンパラジウムジクロライド、ジクロロ(エチレンジアミン)パラジウム等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらパラジウム化合物は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。上記例示のパラジウム化合物のうち、水溶性のパラジウム化合物が好ましく、酢酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物が特に好ましい。尚、パラジウム化合物は、水和物となっていてもよい。
【0015】
本発明の組成物を製造するには、まず、IB族化合物とPd化合物を水に溶解して水溶液を調製する。IB族化合物とPd化合物を溶解する方法については、特に限定はなく、IB族化合物とPd化合物を同時に溶解させてもよく、或いは、いずれか一方を溶解させた後、他方を溶解させても良い。この際の液温は、例えば、30〜80℃程度とすればよい。
【0016】
IB族化合物の使用量は、担体の種類や比表面積、形状、使用量等にもよるが、水溶液中のIB族化合物の濃度が0.01ミリモル/l〜10ミリモル/lの範囲内となる量が好ましい。上記の濃度範囲であれば、IB族化合物の沈澱物の析出量が充分となり、また、IB族化合物粒子の凝集を防止することができるために沈澱物を超微粒子の状態で析出させることができる。従って、IB族化合物の沈澱物を担体上に担持させた後の水溶液中に残存する化合物の量を極めて少なくすることができる。
【0017】
パラジウム化合物の使用量は、担体の種類や比表面積、形状、使用量等にもよるが、水溶液中のパラジウム化合物の濃度が0.01ミリモル/l〜10ミリモル/lの範囲内となる量が好ましい。上記の濃度範囲であれば、パラジウム沈澱物の析出量が充分となる。また、パラジウム沈澱物を担体上に担持させた後の水溶液中に残存するパラジウム化合物の量を、極めて少なくすることができる。
【0018】
次いで、IB族化合物とPd化合物を水に溶解させた後、水溶液を熟成する。水溶液の熟成は、必要に応じて撹拌しながら、水溶液を放置すれば良く、熟成時間は、1分〜5時間、好ましくは3分〜3時間、より好ましくは5分〜30分とすればよい。熟成の際の液温は30〜80℃程度とすることが好ましい。本発明の金属含有組成物を得るには、この熟成時間が重要であり、熟成時間が長くなりすぎると、Pd又はPdとAuがメタル状態で液中に析出して金属状態のPdが担体に担持されることになり、一方、熟成時間が短すぎると水溶液の均一性が悪く、IB族元素とPdを均一に担持できないので、いずれの場合にも、目的とする組成物を得ることができない。
【0019】
IB族化合物とPd化合物を含有する水溶液のpHは、特に限定的ではないが、6〜10程度の範囲とすることが好ましい。該水溶液のpHを上記範囲に調整するには、アルカリ性を呈する化合物を適宜添加すればよい。この様な化合物としては、特に限定的ではないが、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等を用いることができる。これらの化合物は、固体状態として添加してもよく、或いは、水に溶解して添加しても良い。
【0020】
IB族化合物とPd化合物を含有する水溶液には、該水溶液中に含まれる成分の分散性を向上させるために、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤の添加時期は、特に限定的ではないが、IB族化合物とPd化合物を含有する水溶液を熟成する際に添加することが好ましい。界面活性剤としては、例えば、長鎖アルキルスルホン酸およびその塩、長鎖アルキルベンゼンスルホン酸およびその塩、長鎖アルキルカルボン酸およびその塩、アリールカルボン酸およびその塩等のアニオン性界面活性剤;長鎖アルキル四級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;ポリアルキレングリコール、ポリオキシエチレンノニルフェノール等のノニオン性界面活性剤;等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら界面活性剤は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。上記例示の界面活性剤のうち、アニオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤がより好ましく、アニオン性界面活性剤が特に好ましい。また、アニオン性界面活性剤のうち、炭素数が8以上の長鎖アルキルスルホン酸およびその塩、炭素数が8以上の長鎖アルキルベンゼンスルホン酸およびその塩、炭素数8以上の長鎖アルキルカルボン酸およびその塩、アリールカルボン酸およびその塩等がより好ましい。
【0021】
界面活性剤の使用量は、該界面活性剤やIB族化合物、パラジウム化合物、担体の種類、組み合わせ等に応じて設定すればよく、特に限定されるものではないが、水溶液中の界面活性剤の濃度が0.1ミリモル/l〜10ミリモル/lの範囲内となる量がより好ましい。
【0022】
その後、該水溶液中に担体を添加し、撹拌することによって、担体が水溶液中に分散されて懸濁し、担体上にIB族元素の沈殿物及びパラジウム沈殿物が析出する。この際の液温は、30〜80℃程度が好ましい。また、析出時間は、通常、10分〜5時間程度である。
【0023】
担体としては、特に限定はなく、例えば、酸化チタン(チタニア)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、シリカ・アルミナ、シリカ・チタニア、ゼオライト、シリカゲル、マグネシア、シリカ・マグネシア、活性炭、粘土、ボーキサイト、珪藻土、軽石等を用いることができる。これら担体は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。
【0024】
特に、担体としては、多孔質の無機化合物(無機酸化物)が好ましく、比表面積50m2 /g以上の酸化物からなるものがより好ましい。担体として、各種形状の成形体も用いることができる。この場合に、成形体の形状や大きさ、成形方法等は、特に限定されるものではない。
【0025】
上記した担体のうち、Al、TiおよびZrからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を含む酸化物担体が好ましい。
【0026】
次いで、沈殿物が表面に付着した担体を、必要に応じて水洗した後、焼成することによって、目的とする組成物を得ることができる。焼成温度は、150〜800℃程度、好ましくは300〜800℃程度とすればよい。焼成方法は、特に限定されるものではない。例えば、焼成雰囲気は、特に限定されるものではなく、空気中であってもよく、窒素ガスやヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガス中であってもよく、或いは、水素ガス等の還元性ガス中であってもよい。また、加熱時間は、加熱温度に応じて設定すればよく、特に限定されるものではない。焼成することにより、IB族元素とパラジウムが担体表面に強固に固定化されて、本発明の組成物が調製される。
【0027】
上記した方法によって、PdとIB族元素が担体上に担持された担持物であって、X線光電子分光法(XPS)により測定したPdの3d5/2の結合エネルギーが335.2〜336.2eVの範囲にある金属含有組成物を得ることができる。
【0028】
担持されるPdとIB族元素との比は、特に限定されるものではないが、該組成物に占めるPdの割合(担持量)は、0.001重量%〜10重量%の範囲内が好ましく、0.1重量%〜5重量%の範囲内がより好ましい。該組成物に占めるIB族元素の割合(担持量)は、0.001重量%〜10重量%の範囲内が好ましく、0.1重量%〜5重量%の範囲内がより好ましい。PdとIB族元素が上記割合よりも少ない場合には、触媒活性が低くなるので好ましくない。一方、PdとIB族元素が上記割合よりも多い場合には、製造コストが高くなり、このため目的とするエステル化合物を安価に製造することができなくなる。従って、該組成物を調製する際に用いるPd化合物とIB族化合物の組成が上記範囲内となるような割合で使用すればよい。
【0029】
本発明のエステル化合物の製造方法では、上記した組成物を触媒として用い、この触媒と酸素の存在下に、炭化水素化合物とカルボン酸とを反応させることによって、目的とするエステル化合物を得ることができる。
【0030】
原料とする炭化水素化合物としては、ベンジル化合物類、オレフィン化合物類等を挙げることができる。
【0031】
ベンジル化合物類としては、分子内にベンジル基を有する化合物であればよく、また、分子内にベンジル基を有する化合物におけるベンゼン環の代わりに縮合環や複素環を有する化合物であっても良い。また、ベンジル化合物類は、エステル化合物の製造反応における酸化反応に対して不活性な官能基を有していてもよい。該ベンジル化合物類としては、例えば、下記一般式(1)
【0032】
【化1】
【0033】
(式中、R1、R2 及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、水酸基、ハロゲン基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルカルボキシアルキル基又はアリールカルボキシアルキル基を示し、nはR3の個数を示す1〜5の整数である)で表される化合物が挙げられる。
【0034】
ベンジル化合物類としては、より具体的には、例えば、トルエン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、 sec−ブチルベンゼン、トリメチルベンゼン等の、アルキルベンゼン;キシレン、エチルトルエン、n−プロピルトルエン、イソプロピルトルエン、n−ブチルトルエン、 sec−ブチルトルエン等の、o−,m−,p−ジアルキルベンゼン;4,4’−ジメチルビフェニル等のアリール置換アルキルベンゼン;クレゾール等の、o−,m−,p−ヒドロキシ置換アルキルベンゼン;クロロトルエン等の、o−,m−,p−ハロゲン置換アルキルベンゼン;o−,m−,p−ニトロトルエン等のニトロ基置換アルキルベンゼン;メチルアニリン等の、o−,m−,p−アミノ基置換アルキルベンゼン;メチルベンズアミド等の、o−,m−,p−アミド基置換アルキルベンゼン;メチルアニソール等の、o−,m−,p−アルキルオキシ置換アルキルベンゼン;フェノキシトルエン等の、o−,m−,p−アリールオキシ置換アルキルベンゼン;酢酸トリル、プロピオン酸トリル、ブタン酸トリル、安息香酸トリル等の、o−,m−,p−カルボキシ置換アルキルベンゼン(カルボン酸トリルエステル);メチルアセトフェノン、メチルベンゾフェノン等の、o−,m−,p−カルボニル置換アルキルベンゼン;メチルベンジルアセテート等の、o−,m−,p−カルボキシアルキル置換アルキルベンゼン;等が挙げられる。上記例示のベンジル化合物類のうち、アルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、および、カルボキシアルキル置換アルキルベンゼンがより好ましく、o−,m−,p−キシレン、および、o−,m−,p−メチルベンジルアセテートが特に好ましい。
【0035】
また、前記一般式(1)中におけるベンゼン環の代わりに縮合環又は複素環を有する化合物として、メチルナフタレンやジメチルピリジン等もベンジル化合物類として用いることができる。
【0036】
また、原料として用いるオレフィン化合物類としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等の炭素数1〜6程度のオレフィン化合物を用いることができる。これらのオレフィン化合物は、芳香環、ハロゲン等反応に不活性な置換基を有していても良い。
【0037】
本発明のエステル化合物の製造方法で用いるカルボン酸としては、モノカルボン酸が好適である。具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等の脂肪族カルボン酸;安息香酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられるが、特に限定されるものではない。上記例示のカルボン酸のうち、酢酸およびプロピオン酸がより好ましく、酢酸が特に好ましい。
【0038】
炭化水素化合物とカルボン酸との反応割合は、炭化水素化合物として、ベンジル化合物類を用いる場合には、ベンジル化合物類が有するベンジル基に対するカルボン酸のモル比は、化学量論比よりも大きければよく、特に限定されるものではないが、等倍モル〜20倍モルの範囲内がより好ましく、等倍モル〜10倍モルの範囲内がさらに好ましい。また、炭化水素化合物として、オレフィン化合物類を用いる場合には、オレフィン化合物類が有する反応に関与する不飽和結合に対するカルボン酸のモル比は、化学量論比よりも大きければよく、特に限定されるものではないが、等倍モル〜20倍モルの範囲内がより好ましく、等倍モル〜10倍モルの範囲内がさらに好ましい。上記のモル比が等倍モル未満であると、カルボン酸が不足することになるので、エステル化合物を効率的に製造することができなくなる場合がある。一方、上記範囲を越えるモル比でカルボン酸を用いても、上記範囲内のモル比で用いた場合と比較して、収率等の更なる向上は殆ど期待できない。また、カルボン酸を多量に用いることになるので、反応装置や、過剰のカルボン酸を回収するための回収装置の大型化を招来すると共に、回収コストを含む製造コストが嵩む場合がある。
【0039】
上記した炭化水素化合物とカルボン酸を、前記触媒の存在下で酸化反応させることにより、エステル化合物を得ることができる。該酸化反応は、酸素(分子状酸素)の存在下、液相若しくは気相で行われる。つまり、本発明においては、酸化反応を液相若しくは気相で行うことができる。酸素ガスは、窒素ガスやヘリウムガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガス等の不活性ガスによって希釈されていてもよい。また、酸素ガスとして空気を用いることもできる。酸素ガスの反応系への供給方法は、特に限定されるものではない。
【0040】
また、本発明のエステル化合物の製造方法では、上記したしたPd及びIB族元素が担体上に担持された金属含有組成物からなる触媒に加えて、触媒活性をより一層向上させるためや、反応時における反応液中へのPd及び周期表IB族元素の溶出を防止するために、必要に応じて、周期表IIA族、IIIA族、IVA族、IIB族、VB族、VIII族及びアルカリ金属のいずれかに属する元素の少なくとも一種(以下、第二元素群と記す)を含む化合物を触媒添加成分として更に用いても良い。これらの第二元素群としては、具体的には、ビスマス、砒素、アンチモン、テルル、モリブデン、鉄、ニッケル、錫、鉛、亜鉛、カドミウム、水銀、タリウム、ランタン、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。これら第二元素群は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。これら第二元素群を含む化合物しては、特に限定的ではないが、具体的には、例えば、酢酸ビスマス、酢酸酸化ビスマス、塩化ビスマス、臭化ビスマス、よう化ビスマス、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、硝酸ビスマス、塩基性炭酸ビスマス等のビスマス化合物;モリブデン酸、モリブデン酸ナトリウム、塩化モリブデン、酸化モリブデン、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、酸化モリブデンアセチルアセトナート、モリブデンヘキサカルボニル等のモリブデン化合物;硝酸鉄、硫酸鉄、リン酸鉄、塩化鉄、臭化鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、鉄アセチルアセトナート等の鉄化合物;酢酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、シアン化ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート等のニッケル化合物;酢酸亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、よう化亜鉛、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、りん酸亜鉛、シアン化亜鉛、亜鉛アセチルアセトナート等の亜鉛化合物;酢酸ランタン、シュウ酸ランタン、塩化ランタン、臭化ランタン、炭酸ランタン、酸化ランタン、硝酸ランタン、ランタンアセチルアセトナート等のランタン化合物;酢酸水銀、臭化水銀、塩化水銀、シアン化水銀、よう化水銀、硝酸水銀、酸化水銀、硫酸水銀、水銀アセチルアセトナート等の水銀化合物;亜ひ酸、三塩化砒素等の砒素化合物;酸化カドミウム、酢酸カドミウム、臭化カドミウム、炭酸カドミウム、塩化カドミウム、水酸化カドミウム、よう化カドミウム、硝酸カドミウム、硫酸カドミウム、カドミウムアセチルアセトナート等のカドミウム化合物;酸化錫、塩化錫、臭化錫、よう化錫、酢酸錫、リン酸錫、シュウ酸錫、硫酸錫、錫アセチルアセトナート等の錫化合物;酸化鉛、塩化鉛、臭化鉛、よう化鉛、酢酸鉛、炭酸鉛、クエン酸鉛、硝酸鉛、シュウ酸鉛、硫酸鉛、鉛アセチルアセトナート等の鉛化合物;酸化テルル、塩化テルル、酢酸テルル等のテルル化合物;酢酸タリウム、酸化タリウム、塩化タリウム等のタリウム化合物;酒石酸アンチモン、酢酸アンチモン、酸化アンチモン、塩化アンチモン、アンチモンアセチルアセトナート等のアンチモン化合物;アルカリ金属の酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、酸化物、アルカリ金属アセチルアセトナート等のアルカリ金属化合物;アルカリ土類金属の酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、酸化物、アルカリ土類金属アセチルアセトナート等のアルカリ土類金属化合物等が挙げられる。
【0041】
これらの化合物の内で、ビスマス化合物、アルカリ金属化合物、アルカリ土類化合物等がより好ましく、酢酸ビスマス、酢酸酸化ビスマス、硝酸ビスマス、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸セシウム、硝酸カリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム等が特に好ましい。尚、第二元素群を含む化合物は、水和物となっていても良い。
【0042】
以上の様に、本発明のエステル化合物の製造方法では、触媒としては、Pd及びIB族元素が担体上に担持された金属含有組成物に加えて、必要に応じて、上記した第二元素群を含む化合物を更に用いても良い。尚、第二元素群を含む化合物は、反応液中に化合物の形で添加しても良く、或いは、Pd及びIB族元素を担持した担体上に更に担持されていても良い。
【0043】
第二元素群を含む化合物の使用量は、特に限定的ではないが、活性種であるパラジウム金属に対する第二元素群の元素のモル比として、第二元素群の元素/パラジウム=0.0001〜100/1程度とすることが好ましい。
【0044】
上記酸化反応の形態は、連続式、回分式、半回分式の何れであってもよく、特に限定されるものではない。触媒は、反応形態として例えば回分式を採用する場合には、反応装置に原料と共に一括して仕込めばよく、また、反応形態として例えば連続式を採用する場合には、反応装置に予め充填しておくか、或いは、反応装置に原料と共に連続的に仕込めばよい。従って、触媒は、固定床、流動床、懸濁床の何れの形態で使用してもよい。
【0045】
炭化水素化合物に対する触媒の使用量は、炭化水素化合物とカルボン酸類の種類や組み合わせ、触媒の組成、反応条件等に応じて設定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、固定床の場合には、単位時間当たり、単位触媒体積当たりの原料液の供給速度として、0.01〜100h-1程度とすることが好ましく、また、懸濁床の場合には、反応基質である炭化水素化合物100重量部に対して、パラジウム金属量を0.01〜30重量部程度とすることが好ましい。
【0046】
反応温度や反応圧力、反応時間等の反応条件は、炭化水素化合物とカルボン酸の種類や組み合わせ、触媒の組成等に応じて設定すればよく、特に限定されるものではないが、反応温度は80℃〜200℃の範囲内が好適である。反応温度が80℃未満である場合には、反応速度が遅くなりすぎ、エステル化合物を効率的に製造することができなくなるおそれがある。一方、反応温度が200℃を越える場合には、燃焼を含めた副反応が起こり易くなるので、エステル化合物を効率的に製造することができなくなるおそれがある。また、カルボン酸類による反応装置の腐食を招来するおそれもある。
【0047】
反応圧力は、減圧、常圧(大気圧)、加圧の何れであってもよいが、酸化反応に酸素ガス(希釈されていない酸素ガス)を用いる場合には、常圧〜4.9×106Pa(ゲージ圧)の範囲内が好適であり、酸化反応に空気を用いる場合には常圧〜9.8×106Pa(ゲージ圧)の範囲内が好適である。9.8×106Paを越える反応圧力は、反応設備等の工業的な観点から好ましくない。
【0048】
酸化反応は、上記反応条件下において、原料として用いる炭化水素化合物および/またはカルボン酸が液体状である場合には、特に溶媒を用いる必要が無いが、両者を均一に混合することができない場合や、反応が激しい場合には、反応に対して不活性な溶媒を用いて希釈することができる。
【0049】
上記した方法により、酸化的にエステル化合物を合成することによって、副反応生成物であるアルデヒドや酸等の生成が抑制され、選択性良くエステル化合物を合成できる。得られたエステル化合物は、慣用されている分離精製手段に従って、反応混合物から容易に単離、精製できる。
【0050】
本発明の製造方法によって得られるエステル化合物の内で、例えばp−メチルベンジルアセテートやp−キシリレンジアセテートは、ポリエステル樹脂等の合成樹脂の原料や、香料や溶剤等の各種化学薬品、或いは、これら化学薬品の原料等として好適な化合物である。
【0051】
また、例えば、p−キシリレンジアセテートを加水分解して得られるp−キシリレングリコールは、合成繊維や合成樹脂、可塑剤等の原料として、或いは、ポリウレタンや炭素繊維等との複合材料を形成する際の原料として好適な化合物であり、特に、耐熱性高分子の原料として有用である。尚、ベンジルエステル類を加水分解する方法は、特に限定されるものではない。
【0052】
また、本発明方法で得られるエステル化合物の内で、例えば、酢酸アリルは、ポバール変性剤や溶剤として好適な化合物であり、また、酢酸アリルを加水分解して得られるアリルアルコールは、合成樹脂、香料、溶剤、或いは、これらの化学品の原料などとして、好適な化合物である。この場合にも、酢酸アリルを加水分解する方法は、特に限定は無く、常法に従えばよい。
【0053】
更に、本発明方法で得られるエステル化合物の内で、例えば、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンは、溶剤や各種化学品の原料等として好適な化合物であり、また、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを加水分解及び水素化して得られる1,4−ブタンジオールは、合成繊維、合成樹脂、可塑剤、溶剤、或いは、ポリウレタンや炭素繊維等との複合材料を形成する際の原料として好適な化合物である。尚、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの加水分解反応及び水素化反応についても特に限定は無く、常法に従えばよい。
【0054】
また、本発明方法で得られるエステル化合物の内で、例えば、酢酸ベンジルは、香料、染料、溶剤等として好適な化合物であり、また、酢酸ベンジルを加水分解して得られるベンジルアルコールは、塗料、香料、溶剤、或いは、これらの化学品の原料等として好適な化合物である。この場合にも、酢酸ベンジルを加水分解する方法については特に限定は無く、常法に従えばよい。
【0055】
【発明の効果】
本発明のエステル化合物の製造方法は、上記した新規な触媒を用いるものであり、この様な特定の触媒の存在下に酸化的にエステル化合物を合成することによって、副反応生成物であるアルデヒドや酸等の生成が抑制され、選択性良くエステル化合物を合成できる。
【0056】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1
IB族化合物であるテトラクロロ金酸・4水和物0.10gを水200mlに溶解し、60℃に加温して金水溶液を調製した。この水溶液を水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.5に調節した後、パラジウム成分としてテトラアンミンパラジウムジクロライド0.062gを溶解させた。このパラジウム−金水溶液を60℃で15分攪拌して熟成した。この水溶液中へのパラジウム成分、金成分の析出は見られなかった。
【0057】
次いで、この水溶液に界面活性剤としてラウリン酸ナトリウム0.14gを添加して溶解させた後、60℃でチタニア−ジルコニア(共沈法:Ti/Zr=7/3)粉体5gを添加し、さらに同温で1時間攪拌することで、その表面にパラジウム沈殿物及び金沈殿物を固定化した。
【0058】
その後、パラジウム−金固定化物を濾過し水洗して、120℃で8時間乾燥させた。次いで、該パラジウム−金固定化物を空気中で400℃で3時間焼成することにより、チタニア−ジルコニア上にパラジウム−金が担持された担持物(チタニア−ジルコニア担持パラジウム−金)を得た。該担持物におけるパラジウムの担持量は0.5wt%、金の担持量は0.83wt%であった。
【0059】
X線光電子分光法(XPS)(日本電子製JPS−9000MXを使用)により、得られたチタニア−ジルコニア担持パラジウム−金のPdの結合状態をPdの3d5/2のピークを用いて分析した。その結果、Pdの3d5/2のピークは335.5eVの値をとり、335.1eVおよび336.3eVのピークは全く認められず、パラジウムの状態は金属パラジウムでも酸化物の状態でもないことが分かった。
【0060】
このチタニア−ジルコニア担持パラジウム−金を触媒として用い、下記の方法により、p−キシレンと酢酸を原料として酸化的エステル化反応によるp−キシリレンジアセテート合成を行なった。
【0061】
まず、100ml回転式オートクレーブに、チタニア−ジルコニア担持パラジウム−金(パラジウム含有量 0.047mmol)1g、酢酸酸化ビスマス(和光純薬工業社製)0.02g及び酢酸カリウム(和光純薬工業社製)0.2gを触媒成分として充填し、さらに、酢酸12gとp−キシレン10gを加えて密封した。その後系内を酸素で9.8×105Pa(ゲージ圧)に加圧し、700rpmで攪拌しながら140℃に加熱した。所定温度に達した後、内圧を1.4×106Pa(ゲージ圧)に調整し、2時間反応させた。反応中、酸素が消費され内圧が減少したが、酸素は補充しなかった。
【0062】
反応後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、p−キシレンの転化率は20.5%であり、モノエステルであるp−メチルベンジルアセテートが1.95g(収率:12.6モル%、選択率:61.5%)、ジエステルであるp−キシリレンジアセテートが1.42g(収率:6.8%、選択率:33.2%)得られ、エステル化物のトータルの選択率は94.7%であった。副生成物であるp−トルアルデヒド、p−アセトキシメチルベンズアルデヒド及びp−トルイル酸の合計収率は6%未満であった。この時のエステル化反応生成物に対する触媒活性種であるパラジウムの時間当たりのターンオーバー数は262であった。
【0063】
尚、Pdについての時間当たりのターンオーバー数は、下記の式で表されるものである。
ターンオーバー数=(生成モノエステルのモル数+生成ジエステルのモル数×2)/(Pdのモル数×反応時間(hr))
比較例1
IB族化合物であるテトラクロロ金酸・4水和物0.10gと塩化パラジウム0.08gを水50mlに溶解して、水溶液を調製した。活性炭(和光純薬製)5gに水10mlを加えてスラリーとし、攪拌しながら塩化パラジウムとテトラクロロ金酸を含む水溶液を滴下して、活性炭にパラジウムと金を固定化した。得られた固体を濾別し、空気中で90℃で8時間乾燥させた。次いで、該パラジウム−金固定化物を窒素中で400℃で2時間焼成することにより、活性炭上にパラジウム−金が担持された担持物(活性炭担持パラジウム−金)を得た。該担持物におけるパラジウムの担持量は0.8wt%、金の担持量は0.8wt%であった。
【0064】
この活性炭担持パラジウム−金について、実施例1と同様にしてX線光電子分光法によりPdの結合状態をPdの3d5/2のピークを用いて分析した。その結果、Pdの3d5/2のピークとして、335.1eV、336.6eV及び337.8eVの3種類のピークが観察され、335.2〜336.2eVの間のピークは検出されなかった。これは、メタル状態のパラジウムと2種の異なる酸化状態のパラジウムが存在していることによるものである。
【0065】
実施例1で用いたチタニア−ジルコニア担持パラジウム−金に代えて、上記活性炭担持パラジウム−金(パラジウム含有量 0.047mmol)0.625gを用い、p−キシレンの添加量を5.0g、酢酸の添加量を24.0gとし、酸素ガスで1.5×106Pa(ゲージ圧)に加圧し、反応時間を5時間としたこと以外は実施例1と同様の条件で、酸化的エステル化反応によるp−キシリレンジアセテート合成を行なった。
【0066】
ガスクロマトグラフィーによる反応液の分析の結果、p−キシレンの転化率は2.44モル%であり、モノエステルであるp−メチルベンジルアセテートが115.8mg(収率:1.5モル%、選択率:61.5モル%)、ジエステルであるp−キシリレンジアセテートが31.1mg(収率:0.3モル%、選択率:12.2モル%)得られ、エステル化物のトータルの選択率は73.8%であった。また、副生成物であるp−トルアルデヒド、p−トルイル酸などの酸化生成物の生成が顕著に見られた。この時のエステル化反応生成物に対する触媒活性種であるパラジウムの時間当たりのターンオーバー数は4.3であった。
比較例2
担体として酸化チタンを用い、テトラクロロ金酸・4水和物を用いない以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン上にパラジウムが担持された担持物(酸化チタン担持パラジウム)を調製した。該担持物におけるパラジウムの担持量は0.5wt%であった。XPSによるPdの3d5/2のピークは336.2eVであり酸化パラジウム(PdO)の状態に近いことが判った。
【0067】
この酸化チタン担持パラジウムを触媒として用いて、実施例1と同様にしてp−キシレンと酢酸による酸化的エステル化反応を行った。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、エステル生成物は認められず、少量のp−トルアルデヒドおよびp−トルイル酸の生成が認められた。
比較例3
パラジウム成分として塩化パラジウム0.042gを用い、パラジウム−金混合水溶液を5時間攪拌した後、ラウリン酸ナトリウムを添加した以外は、実施例1と同様の方法でチタニア−ジルコニア担持パラジウム−金を調製した。ラウリン酸ナトリウムを添加する前のパラジウム−金混合水溶液中には、僅かな金属種の析出が見られた。
【0068】
得られたチタニア−ジルコニア担持パラジウム−金をXPSで分析したところ、Pdの3d5/2のピークとして、335.1eV、335.5eV、336.6eV、337.8eVの4種類のピークが観察され、335.1eVピークの他に、Pd(0)やPd(II)に起因するピークが存在した。
【0069】
このチタニア−ジルコニア担持パラジウム−金を触媒として用いて、実施例1と同様にしてp−キシレンと酢酸を用いた酸化的エステル化反応によるp−キシリレンジアセテート合成を行なった。
【0070】
反応液をガスクロマトグラフィーでの分析した結果、p−キシレンの転化率は19.3モル%であり、モノエステルであるp−メチルベンジルアセテートが1.74g(収率:11.3モル%、選択率:58.2モル%)、ジエステルであるp−キシリレンジアセテートが1.17g(収率:5.6モル%、選択率:29.0モル%)得られ、エステル化物トータルの選択率は87.2%であった。また、副生成物であるp−トルアルデヒド、p−トルイル酸の生成が顕著に認められた。この時のエステル化反応生成物に対する触媒活性種であるパラジウムの時間当たりのターンオーバー数は4.3であった。
実施例2
実施例1で得たチタニア−ジルコニア担持パラジウム−金を触媒として用い、下記表1に示す条件を採用する以外は、実施例1と同様にして、エステル化反応を行った。
【0071】
【表1】
【0072】
反応生成物の分析結果を下記表2に示す。
【0073】
【表2】
【発明の属する技術分野】
本発明は、Pdと周期表IB族に属する元素を含む新規な金属含有組成物、該組成物からなるエステル化反応用触媒、及びエステル化合物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、p−メチルベンジルアセテートやp−キシリレンジアセテート等の芳香族ベンジルエステル類は、ポリエステル樹脂等の合成樹脂の原料や、香料や溶剤等の各種化学薬品、或いは、これら化学薬品の原料等として用いられている。これら芳香族ベンジルエステル類の製造方法として、例えば、特開昭63−174950号公報には、パラジウム−ビスマス化合物および/またはパラジウム−鉛化合物を触媒として用いて、p−キシレンと酢酸とを酸素の存在下で反応させることにより、p−メチルベンジルアセテートおよびp−キシリレンジアセテートを製造する方法が開示されている。また、例えば、特開昭62−273927号公報には、パラジウムおよびビスマスを含む触媒を用いて、p−キシレンと酢酸とを酸素の存在下で反応させることにより、p−キシリレンジアセテートを製造する方法が開示されている。
【0003】
さらに、例えば、特開平8−231466号は、パラジウムおよび金を担体に担持してなる触媒を用いて、p−キシレンと酢酸とを酸素の存在下で反応させることにより、p−キシリレンジアセテートを製造する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、特開昭63−174950号公報や特開昭62−273927号公報に記載されている触媒は、触媒活性が低く(触媒におけるパラジウム単位当たりの、単位時間当たりのターンオーバー数は15程度)、従って、生産効率を向上させるためには、反応基質であるp−キシレンに対して触媒を多量に用いなければならない。つまり、貴金属であるパラジウムを多量に用いなければならない。また、反応時にパラジウムが反応液中に溶出することも考えられ、この場合には、触媒活性がさらに低下すると共に、溶出したパラジウムを分離・回収する必要がある。このため、上記の触媒は、工業的な製造方法に対して好適な触媒であるとは言い難い。
【0005】
さらに、特開平8−231466号公報に記載されている触媒もまた、触媒活性が低く、従って、生産効率を向上させるためには、反応基質であるp−キシレンに対して触媒を多量に用いなければならないので、工業的な製造方法に対して好適な触媒であるとは言い難い。
【0006】
即ち、上記従来の触媒は、触媒活性が低く、工業的な製造方法に対して不適であり、それゆえ、ベンジルエステル類を効率的にかつ安価に製造することができないという問題点を有している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の主な目的は、ベンジル化合物類やオレフィン化合物類等の炭化水素化合物を原料として用い、これを酸素の存在下にカルボン酸と反応させてエステル化合物を製造する方法において、エステル化合物を効率的に製造できる方法、及びこの方法において有効に使用できる触媒を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述した如き目的に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の方法で周期表IB族に属する元素とPdを担体上に担持させる場合には、Pdがパラジウム金属やPdO、PdO2等のパラジウム酸化物のいずれにも該当しない状態となって担体上に担持された新規な組成物が得られることを見出した。そして、このような状態でPdと周期表IB族に属する元素を担体上に担持した組成物は、ベンジル化合物類やオレフィン等を原料とし、酸素の存在下にカルボン酸と反応させてエステル化合物を合成する反応において、副反応を抑制でき、選択率の高い触媒として有用であることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の金属含有組成物、エステル化反応用触媒、及びエステル化合物の製造方法を提供するものである。
1.Pd及び周期表IB族に属する元素が担体上に担持された担持物であって、X線光電子分光法により測定したPdの3d5/2の結合エネルギーが335.2〜336.2eVの範囲内にあることを特徴とする金属含有組成物。
2.周期表IB族に属する元素が金である上記項1に記載の金属含有組成物。
3.担体がAl、TiおよびZrからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を含む酸化物である上記項1に記載の金属含有組成物。
4.Pd化合物と周期表IB族に属する元素の化合物を溶解した水溶液を1分〜5時間熟成した後、担体を添加して該担体上にPdと周期表IB族に属する元素を含む沈殿物を析出させ、次いで、焼成することを特徴とする上記項1〜3のいずれかに記載された金属含有組成物の製造方法。
5.酸素の存在下に炭化水素化合物とカルボン酸を反応させてエステル化合物を合成する反応に用いる、上記項1〜3のいずれかに記載の金属含有組成物からなるエステル化反応用触媒。
6.上記項5に記載の触媒と酸素の存在下に、ベンジル化合物類とカルボン酸とを反応させることを特徴とするエステル化合物の製造方法。
7.上記項5に記載の触媒と酸素の存在下に、オレフィン化合物類とカルボン酸とを反応させることを特徴とするエステル化合物の製造方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の金属含有組成物は、Pd及び周期表IB族に属する元素が担体上に担持された担持物であって、X線光電子分光法(XPS)により測定したPdの3d5/2の結合エネルギーが335.2〜336.2eVの範囲にある新規な組成物である。
【0011】
通常、パラジウムの3d5/2の結合エネルギーは、Pd金属の状態では335.1eV、PdOの状態では336.3eV、PdO2の状態では337.9eVであるが、上記した様に、本発明の組成物では、Pdの3d5/2の結合エネルギーは335.2〜336.2eVの範囲にある。よって、本発明の組成物では、パラジウムは、上記した金属又は酸化物のいずれにも該当しない状態で存在する。この様な状態のPdを担持した組成物は、主活性成分であるパラジウムの電子状態が均一であり、酸素の存在下に炭化水素化合物とカルボン酸とを反応させてエステル化合物を合成する反応における触媒として用いる場合に、副反応を抑制でき、選択性に優れた触媒となる。
【0012】
本発明の組成物は、例えば、Pd化合物と周期表IB族に属する元素の化合物を溶解した水溶液を1分〜5時間熟成した後、担体を添加して該担体上にPdと周期表IB族に属する元素を含む沈殿物を析出させ、次いで、焼成することによって得ることができる。
【0013】
周期表IB族に属する元素(以下、「IB族元素」という)としては、Au、Ag、Cu等を例示でき、周期表IB族に属する元素を含む化合物(以下、「IB族化合物」という)としては、上記したIB族元素を含む水溶性の化合物であれば、特に限定なく使用できる。この様な化合物の具体例としては、テトラクロロ金(III) 酸「H〔AuCl4 〕」、テトラクロロ金(III) 酸ナトリウム「Na〔AuCl4 〕」、ジシアノ金(I) 酸カリウム「K〔Au(CN)2 〕」、ジエチルアミン金(III) 三塩化物「(C2H5 )2 NH・〔AuCl3 〕」等の錯体;シアン化金(I) 「AuCN」;等の金化合物、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、炭酸銀、酢酸銀、シアン化銀、硝酸銀、硫酸銀、酒石酸銀、リン酸銀、アセチルアセトナート銀等の水溶性の銀化合物、酢酸銅、アセチルアセトナート銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、シアン化銅、水酸化銅、硝酸銅、蓚酸銅、リン酸銅、硫酸銅、テトラアンミン銅錯体等の水溶性の銅化合物等が挙げられる。IB族化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0014】
Pd化合物としては、Pdを含む水溶性の化合物であれば、特に限定なく使用できる。Pd化合物の具体例としては、金属パラジウム、酸化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、ヘキサクロロパラジウム酸アンモニウム、ヘキサクロロパラジウム酸ナトリウム、ヘキサクロロパラジウム酸カリウム、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸カリウム、テトラブロモパラジウム酸カリウム、テトラシアノパラジウム酸カリウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、クロロカルボニルパラジウム、ジニトロサルファイトパラジウム酸カリウム、ジニトロジアミンパラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物、テトラアンミンパラジウム硝酸塩、cis-ジクロロジアミンパラジウム、trans-ジクロロジアミンパラジウム、ビストリフェニルホスフィンパラジウムジクロライド、ジクロロ(エチレンジアミン)パラジウム等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらパラジウム化合物は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。上記例示のパラジウム化合物のうち、水溶性のパラジウム化合物が好ましく、酢酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物が特に好ましい。尚、パラジウム化合物は、水和物となっていてもよい。
【0015】
本発明の組成物を製造するには、まず、IB族化合物とPd化合物を水に溶解して水溶液を調製する。IB族化合物とPd化合物を溶解する方法については、特に限定はなく、IB族化合物とPd化合物を同時に溶解させてもよく、或いは、いずれか一方を溶解させた後、他方を溶解させても良い。この際の液温は、例えば、30〜80℃程度とすればよい。
【0016】
IB族化合物の使用量は、担体の種類や比表面積、形状、使用量等にもよるが、水溶液中のIB族化合物の濃度が0.01ミリモル/l〜10ミリモル/lの範囲内となる量が好ましい。上記の濃度範囲であれば、IB族化合物の沈澱物の析出量が充分となり、また、IB族化合物粒子の凝集を防止することができるために沈澱物を超微粒子の状態で析出させることができる。従って、IB族化合物の沈澱物を担体上に担持させた後の水溶液中に残存する化合物の量を極めて少なくすることができる。
【0017】
パラジウム化合物の使用量は、担体の種類や比表面積、形状、使用量等にもよるが、水溶液中のパラジウム化合物の濃度が0.01ミリモル/l〜10ミリモル/lの範囲内となる量が好ましい。上記の濃度範囲であれば、パラジウム沈澱物の析出量が充分となる。また、パラジウム沈澱物を担体上に担持させた後の水溶液中に残存するパラジウム化合物の量を、極めて少なくすることができる。
【0018】
次いで、IB族化合物とPd化合物を水に溶解させた後、水溶液を熟成する。水溶液の熟成は、必要に応じて撹拌しながら、水溶液を放置すれば良く、熟成時間は、1分〜5時間、好ましくは3分〜3時間、より好ましくは5分〜30分とすればよい。熟成の際の液温は30〜80℃程度とすることが好ましい。本発明の金属含有組成物を得るには、この熟成時間が重要であり、熟成時間が長くなりすぎると、Pd又はPdとAuがメタル状態で液中に析出して金属状態のPdが担体に担持されることになり、一方、熟成時間が短すぎると水溶液の均一性が悪く、IB族元素とPdを均一に担持できないので、いずれの場合にも、目的とする組成物を得ることができない。
【0019】
IB族化合物とPd化合物を含有する水溶液のpHは、特に限定的ではないが、6〜10程度の範囲とすることが好ましい。該水溶液のpHを上記範囲に調整するには、アルカリ性を呈する化合物を適宜添加すればよい。この様な化合物としては、特に限定的ではないが、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等を用いることができる。これらの化合物は、固体状態として添加してもよく、或いは、水に溶解して添加しても良い。
【0020】
IB族化合物とPd化合物を含有する水溶液には、該水溶液中に含まれる成分の分散性を向上させるために、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤の添加時期は、特に限定的ではないが、IB族化合物とPd化合物を含有する水溶液を熟成する際に添加することが好ましい。界面活性剤としては、例えば、長鎖アルキルスルホン酸およびその塩、長鎖アルキルベンゼンスルホン酸およびその塩、長鎖アルキルカルボン酸およびその塩、アリールカルボン酸およびその塩等のアニオン性界面活性剤;長鎖アルキル四級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;ポリアルキレングリコール、ポリオキシエチレンノニルフェノール等のノニオン性界面活性剤;等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら界面活性剤は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。上記例示の界面活性剤のうち、アニオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤がより好ましく、アニオン性界面活性剤が特に好ましい。また、アニオン性界面活性剤のうち、炭素数が8以上の長鎖アルキルスルホン酸およびその塩、炭素数が8以上の長鎖アルキルベンゼンスルホン酸およびその塩、炭素数8以上の長鎖アルキルカルボン酸およびその塩、アリールカルボン酸およびその塩等がより好ましい。
【0021】
界面活性剤の使用量は、該界面活性剤やIB族化合物、パラジウム化合物、担体の種類、組み合わせ等に応じて設定すればよく、特に限定されるものではないが、水溶液中の界面活性剤の濃度が0.1ミリモル/l〜10ミリモル/lの範囲内となる量がより好ましい。
【0022】
その後、該水溶液中に担体を添加し、撹拌することによって、担体が水溶液中に分散されて懸濁し、担体上にIB族元素の沈殿物及びパラジウム沈殿物が析出する。この際の液温は、30〜80℃程度が好ましい。また、析出時間は、通常、10分〜5時間程度である。
【0023】
担体としては、特に限定はなく、例えば、酸化チタン(チタニア)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、シリカ・アルミナ、シリカ・チタニア、ゼオライト、シリカゲル、マグネシア、シリカ・マグネシア、活性炭、粘土、ボーキサイト、珪藻土、軽石等を用いることができる。これら担体は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。
【0024】
特に、担体としては、多孔質の無機化合物(無機酸化物)が好ましく、比表面積50m2 /g以上の酸化物からなるものがより好ましい。担体として、各種形状の成形体も用いることができる。この場合に、成形体の形状や大きさ、成形方法等は、特に限定されるものではない。
【0025】
上記した担体のうち、Al、TiおよびZrからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を含む酸化物担体が好ましい。
【0026】
次いで、沈殿物が表面に付着した担体を、必要に応じて水洗した後、焼成することによって、目的とする組成物を得ることができる。焼成温度は、150〜800℃程度、好ましくは300〜800℃程度とすればよい。焼成方法は、特に限定されるものではない。例えば、焼成雰囲気は、特に限定されるものではなく、空気中であってもよく、窒素ガスやヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガス中であってもよく、或いは、水素ガス等の還元性ガス中であってもよい。また、加熱時間は、加熱温度に応じて設定すればよく、特に限定されるものではない。焼成することにより、IB族元素とパラジウムが担体表面に強固に固定化されて、本発明の組成物が調製される。
【0027】
上記した方法によって、PdとIB族元素が担体上に担持された担持物であって、X線光電子分光法(XPS)により測定したPdの3d5/2の結合エネルギーが335.2〜336.2eVの範囲にある金属含有組成物を得ることができる。
【0028】
担持されるPdとIB族元素との比は、特に限定されるものではないが、該組成物に占めるPdの割合(担持量)は、0.001重量%〜10重量%の範囲内が好ましく、0.1重量%〜5重量%の範囲内がより好ましい。該組成物に占めるIB族元素の割合(担持量)は、0.001重量%〜10重量%の範囲内が好ましく、0.1重量%〜5重量%の範囲内がより好ましい。PdとIB族元素が上記割合よりも少ない場合には、触媒活性が低くなるので好ましくない。一方、PdとIB族元素が上記割合よりも多い場合には、製造コストが高くなり、このため目的とするエステル化合物を安価に製造することができなくなる。従って、該組成物を調製する際に用いるPd化合物とIB族化合物の組成が上記範囲内となるような割合で使用すればよい。
【0029】
本発明のエステル化合物の製造方法では、上記した組成物を触媒として用い、この触媒と酸素の存在下に、炭化水素化合物とカルボン酸とを反応させることによって、目的とするエステル化合物を得ることができる。
【0030】
原料とする炭化水素化合物としては、ベンジル化合物類、オレフィン化合物類等を挙げることができる。
【0031】
ベンジル化合物類としては、分子内にベンジル基を有する化合物であればよく、また、分子内にベンジル基を有する化合物におけるベンゼン環の代わりに縮合環や複素環を有する化合物であっても良い。また、ベンジル化合物類は、エステル化合物の製造反応における酸化反応に対して不活性な官能基を有していてもよい。該ベンジル化合物類としては、例えば、下記一般式(1)
【0032】
【化1】
【0033】
(式中、R1、R2 及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、水酸基、ハロゲン基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルカルボキシアルキル基又はアリールカルボキシアルキル基を示し、nはR3の個数を示す1〜5の整数である)で表される化合物が挙げられる。
【0034】
ベンジル化合物類としては、より具体的には、例えば、トルエン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、 sec−ブチルベンゼン、トリメチルベンゼン等の、アルキルベンゼン;キシレン、エチルトルエン、n−プロピルトルエン、イソプロピルトルエン、n−ブチルトルエン、 sec−ブチルトルエン等の、o−,m−,p−ジアルキルベンゼン;4,4’−ジメチルビフェニル等のアリール置換アルキルベンゼン;クレゾール等の、o−,m−,p−ヒドロキシ置換アルキルベンゼン;クロロトルエン等の、o−,m−,p−ハロゲン置換アルキルベンゼン;o−,m−,p−ニトロトルエン等のニトロ基置換アルキルベンゼン;メチルアニリン等の、o−,m−,p−アミノ基置換アルキルベンゼン;メチルベンズアミド等の、o−,m−,p−アミド基置換アルキルベンゼン;メチルアニソール等の、o−,m−,p−アルキルオキシ置換アルキルベンゼン;フェノキシトルエン等の、o−,m−,p−アリールオキシ置換アルキルベンゼン;酢酸トリル、プロピオン酸トリル、ブタン酸トリル、安息香酸トリル等の、o−,m−,p−カルボキシ置換アルキルベンゼン(カルボン酸トリルエステル);メチルアセトフェノン、メチルベンゾフェノン等の、o−,m−,p−カルボニル置換アルキルベンゼン;メチルベンジルアセテート等の、o−,m−,p−カルボキシアルキル置換アルキルベンゼン;等が挙げられる。上記例示のベンジル化合物類のうち、アルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、および、カルボキシアルキル置換アルキルベンゼンがより好ましく、o−,m−,p−キシレン、および、o−,m−,p−メチルベンジルアセテートが特に好ましい。
【0035】
また、前記一般式(1)中におけるベンゼン環の代わりに縮合環又は複素環を有する化合物として、メチルナフタレンやジメチルピリジン等もベンジル化合物類として用いることができる。
【0036】
また、原料として用いるオレフィン化合物類としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等の炭素数1〜6程度のオレフィン化合物を用いることができる。これらのオレフィン化合物は、芳香環、ハロゲン等反応に不活性な置換基を有していても良い。
【0037】
本発明のエステル化合物の製造方法で用いるカルボン酸としては、モノカルボン酸が好適である。具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等の脂肪族カルボン酸;安息香酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられるが、特に限定されるものではない。上記例示のカルボン酸のうち、酢酸およびプロピオン酸がより好ましく、酢酸が特に好ましい。
【0038】
炭化水素化合物とカルボン酸との反応割合は、炭化水素化合物として、ベンジル化合物類を用いる場合には、ベンジル化合物類が有するベンジル基に対するカルボン酸のモル比は、化学量論比よりも大きければよく、特に限定されるものではないが、等倍モル〜20倍モルの範囲内がより好ましく、等倍モル〜10倍モルの範囲内がさらに好ましい。また、炭化水素化合物として、オレフィン化合物類を用いる場合には、オレフィン化合物類が有する反応に関与する不飽和結合に対するカルボン酸のモル比は、化学量論比よりも大きければよく、特に限定されるものではないが、等倍モル〜20倍モルの範囲内がより好ましく、等倍モル〜10倍モルの範囲内がさらに好ましい。上記のモル比が等倍モル未満であると、カルボン酸が不足することになるので、エステル化合物を効率的に製造することができなくなる場合がある。一方、上記範囲を越えるモル比でカルボン酸を用いても、上記範囲内のモル比で用いた場合と比較して、収率等の更なる向上は殆ど期待できない。また、カルボン酸を多量に用いることになるので、反応装置や、過剰のカルボン酸を回収するための回収装置の大型化を招来すると共に、回収コストを含む製造コストが嵩む場合がある。
【0039】
上記した炭化水素化合物とカルボン酸を、前記触媒の存在下で酸化反応させることにより、エステル化合物を得ることができる。該酸化反応は、酸素(分子状酸素)の存在下、液相若しくは気相で行われる。つまり、本発明においては、酸化反応を液相若しくは気相で行うことができる。酸素ガスは、窒素ガスやヘリウムガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガス等の不活性ガスによって希釈されていてもよい。また、酸素ガスとして空気を用いることもできる。酸素ガスの反応系への供給方法は、特に限定されるものではない。
【0040】
また、本発明のエステル化合物の製造方法では、上記したしたPd及びIB族元素が担体上に担持された金属含有組成物からなる触媒に加えて、触媒活性をより一層向上させるためや、反応時における反応液中へのPd及び周期表IB族元素の溶出を防止するために、必要に応じて、周期表IIA族、IIIA族、IVA族、IIB族、VB族、VIII族及びアルカリ金属のいずれかに属する元素の少なくとも一種(以下、第二元素群と記す)を含む化合物を触媒添加成分として更に用いても良い。これらの第二元素群としては、具体的には、ビスマス、砒素、アンチモン、テルル、モリブデン、鉄、ニッケル、錫、鉛、亜鉛、カドミウム、水銀、タリウム、ランタン、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。これら第二元素群は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。これら第二元素群を含む化合物しては、特に限定的ではないが、具体的には、例えば、酢酸ビスマス、酢酸酸化ビスマス、塩化ビスマス、臭化ビスマス、よう化ビスマス、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、硝酸ビスマス、塩基性炭酸ビスマス等のビスマス化合物;モリブデン酸、モリブデン酸ナトリウム、塩化モリブデン、酸化モリブデン、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、酸化モリブデンアセチルアセトナート、モリブデンヘキサカルボニル等のモリブデン化合物;硝酸鉄、硫酸鉄、リン酸鉄、塩化鉄、臭化鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、鉄アセチルアセトナート等の鉄化合物;酢酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、シアン化ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート等のニッケル化合物;酢酸亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、よう化亜鉛、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、りん酸亜鉛、シアン化亜鉛、亜鉛アセチルアセトナート等の亜鉛化合物;酢酸ランタン、シュウ酸ランタン、塩化ランタン、臭化ランタン、炭酸ランタン、酸化ランタン、硝酸ランタン、ランタンアセチルアセトナート等のランタン化合物;酢酸水銀、臭化水銀、塩化水銀、シアン化水銀、よう化水銀、硝酸水銀、酸化水銀、硫酸水銀、水銀アセチルアセトナート等の水銀化合物;亜ひ酸、三塩化砒素等の砒素化合物;酸化カドミウム、酢酸カドミウム、臭化カドミウム、炭酸カドミウム、塩化カドミウム、水酸化カドミウム、よう化カドミウム、硝酸カドミウム、硫酸カドミウム、カドミウムアセチルアセトナート等のカドミウム化合物;酸化錫、塩化錫、臭化錫、よう化錫、酢酸錫、リン酸錫、シュウ酸錫、硫酸錫、錫アセチルアセトナート等の錫化合物;酸化鉛、塩化鉛、臭化鉛、よう化鉛、酢酸鉛、炭酸鉛、クエン酸鉛、硝酸鉛、シュウ酸鉛、硫酸鉛、鉛アセチルアセトナート等の鉛化合物;酸化テルル、塩化テルル、酢酸テルル等のテルル化合物;酢酸タリウム、酸化タリウム、塩化タリウム等のタリウム化合物;酒石酸アンチモン、酢酸アンチモン、酸化アンチモン、塩化アンチモン、アンチモンアセチルアセトナート等のアンチモン化合物;アルカリ金属の酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、酸化物、アルカリ金属アセチルアセトナート等のアルカリ金属化合物;アルカリ土類金属の酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、酸化物、アルカリ土類金属アセチルアセトナート等のアルカリ土類金属化合物等が挙げられる。
【0041】
これらの化合物の内で、ビスマス化合物、アルカリ金属化合物、アルカリ土類化合物等がより好ましく、酢酸ビスマス、酢酸酸化ビスマス、硝酸ビスマス、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸セシウム、硝酸カリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム等が特に好ましい。尚、第二元素群を含む化合物は、水和物となっていても良い。
【0042】
以上の様に、本発明のエステル化合物の製造方法では、触媒としては、Pd及びIB族元素が担体上に担持された金属含有組成物に加えて、必要に応じて、上記した第二元素群を含む化合物を更に用いても良い。尚、第二元素群を含む化合物は、反応液中に化合物の形で添加しても良く、或いは、Pd及びIB族元素を担持した担体上に更に担持されていても良い。
【0043】
第二元素群を含む化合物の使用量は、特に限定的ではないが、活性種であるパラジウム金属に対する第二元素群の元素のモル比として、第二元素群の元素/パラジウム=0.0001〜100/1程度とすることが好ましい。
【0044】
上記酸化反応の形態は、連続式、回分式、半回分式の何れであってもよく、特に限定されるものではない。触媒は、反応形態として例えば回分式を採用する場合には、反応装置に原料と共に一括して仕込めばよく、また、反応形態として例えば連続式を採用する場合には、反応装置に予め充填しておくか、或いは、反応装置に原料と共に連続的に仕込めばよい。従って、触媒は、固定床、流動床、懸濁床の何れの形態で使用してもよい。
【0045】
炭化水素化合物に対する触媒の使用量は、炭化水素化合物とカルボン酸類の種類や組み合わせ、触媒の組成、反応条件等に応じて設定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、固定床の場合には、単位時間当たり、単位触媒体積当たりの原料液の供給速度として、0.01〜100h-1程度とすることが好ましく、また、懸濁床の場合には、反応基質である炭化水素化合物100重量部に対して、パラジウム金属量を0.01〜30重量部程度とすることが好ましい。
【0046】
反応温度や反応圧力、反応時間等の反応条件は、炭化水素化合物とカルボン酸の種類や組み合わせ、触媒の組成等に応じて設定すればよく、特に限定されるものではないが、反応温度は80℃〜200℃の範囲内が好適である。反応温度が80℃未満である場合には、反応速度が遅くなりすぎ、エステル化合物を効率的に製造することができなくなるおそれがある。一方、反応温度が200℃を越える場合には、燃焼を含めた副反応が起こり易くなるので、エステル化合物を効率的に製造することができなくなるおそれがある。また、カルボン酸類による反応装置の腐食を招来するおそれもある。
【0047】
反応圧力は、減圧、常圧(大気圧)、加圧の何れであってもよいが、酸化反応に酸素ガス(希釈されていない酸素ガス)を用いる場合には、常圧〜4.9×106Pa(ゲージ圧)の範囲内が好適であり、酸化反応に空気を用いる場合には常圧〜9.8×106Pa(ゲージ圧)の範囲内が好適である。9.8×106Paを越える反応圧力は、反応設備等の工業的な観点から好ましくない。
【0048】
酸化反応は、上記反応条件下において、原料として用いる炭化水素化合物および/またはカルボン酸が液体状である場合には、特に溶媒を用いる必要が無いが、両者を均一に混合することができない場合や、反応が激しい場合には、反応に対して不活性な溶媒を用いて希釈することができる。
【0049】
上記した方法により、酸化的にエステル化合物を合成することによって、副反応生成物であるアルデヒドや酸等の生成が抑制され、選択性良くエステル化合物を合成できる。得られたエステル化合物は、慣用されている分離精製手段に従って、反応混合物から容易に単離、精製できる。
【0050】
本発明の製造方法によって得られるエステル化合物の内で、例えばp−メチルベンジルアセテートやp−キシリレンジアセテートは、ポリエステル樹脂等の合成樹脂の原料や、香料や溶剤等の各種化学薬品、或いは、これら化学薬品の原料等として好適な化合物である。
【0051】
また、例えば、p−キシリレンジアセテートを加水分解して得られるp−キシリレングリコールは、合成繊維や合成樹脂、可塑剤等の原料として、或いは、ポリウレタンや炭素繊維等との複合材料を形成する際の原料として好適な化合物であり、特に、耐熱性高分子の原料として有用である。尚、ベンジルエステル類を加水分解する方法は、特に限定されるものではない。
【0052】
また、本発明方法で得られるエステル化合物の内で、例えば、酢酸アリルは、ポバール変性剤や溶剤として好適な化合物であり、また、酢酸アリルを加水分解して得られるアリルアルコールは、合成樹脂、香料、溶剤、或いは、これらの化学品の原料などとして、好適な化合物である。この場合にも、酢酸アリルを加水分解する方法は、特に限定は無く、常法に従えばよい。
【0053】
更に、本発明方法で得られるエステル化合物の内で、例えば、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンは、溶剤や各種化学品の原料等として好適な化合物であり、また、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを加水分解及び水素化して得られる1,4−ブタンジオールは、合成繊維、合成樹脂、可塑剤、溶剤、或いは、ポリウレタンや炭素繊維等との複合材料を形成する際の原料として好適な化合物である。尚、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの加水分解反応及び水素化反応についても特に限定は無く、常法に従えばよい。
【0054】
また、本発明方法で得られるエステル化合物の内で、例えば、酢酸ベンジルは、香料、染料、溶剤等として好適な化合物であり、また、酢酸ベンジルを加水分解して得られるベンジルアルコールは、塗料、香料、溶剤、或いは、これらの化学品の原料等として好適な化合物である。この場合にも、酢酸ベンジルを加水分解する方法については特に限定は無く、常法に従えばよい。
【0055】
【発明の効果】
本発明のエステル化合物の製造方法は、上記した新規な触媒を用いるものであり、この様な特定の触媒の存在下に酸化的にエステル化合物を合成することによって、副反応生成物であるアルデヒドや酸等の生成が抑制され、選択性良くエステル化合物を合成できる。
【0056】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1
IB族化合物であるテトラクロロ金酸・4水和物0.10gを水200mlに溶解し、60℃に加温して金水溶液を調製した。この水溶液を水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.5に調節した後、パラジウム成分としてテトラアンミンパラジウムジクロライド0.062gを溶解させた。このパラジウム−金水溶液を60℃で15分攪拌して熟成した。この水溶液中へのパラジウム成分、金成分の析出は見られなかった。
【0057】
次いで、この水溶液に界面活性剤としてラウリン酸ナトリウム0.14gを添加して溶解させた後、60℃でチタニア−ジルコニア(共沈法:Ti/Zr=7/3)粉体5gを添加し、さらに同温で1時間攪拌することで、その表面にパラジウム沈殿物及び金沈殿物を固定化した。
【0058】
その後、パラジウム−金固定化物を濾過し水洗して、120℃で8時間乾燥させた。次いで、該パラジウム−金固定化物を空気中で400℃で3時間焼成することにより、チタニア−ジルコニア上にパラジウム−金が担持された担持物(チタニア−ジルコニア担持パラジウム−金)を得た。該担持物におけるパラジウムの担持量は0.5wt%、金の担持量は0.83wt%であった。
【0059】
X線光電子分光法(XPS)(日本電子製JPS−9000MXを使用)により、得られたチタニア−ジルコニア担持パラジウム−金のPdの結合状態をPdの3d5/2のピークを用いて分析した。その結果、Pdの3d5/2のピークは335.5eVの値をとり、335.1eVおよび336.3eVのピークは全く認められず、パラジウムの状態は金属パラジウムでも酸化物の状態でもないことが分かった。
【0060】
このチタニア−ジルコニア担持パラジウム−金を触媒として用い、下記の方法により、p−キシレンと酢酸を原料として酸化的エステル化反応によるp−キシリレンジアセテート合成を行なった。
【0061】
まず、100ml回転式オートクレーブに、チタニア−ジルコニア担持パラジウム−金(パラジウム含有量 0.047mmol)1g、酢酸酸化ビスマス(和光純薬工業社製)0.02g及び酢酸カリウム(和光純薬工業社製)0.2gを触媒成分として充填し、さらに、酢酸12gとp−キシレン10gを加えて密封した。その後系内を酸素で9.8×105Pa(ゲージ圧)に加圧し、700rpmで攪拌しながら140℃に加熱した。所定温度に達した後、内圧を1.4×106Pa(ゲージ圧)に調整し、2時間反応させた。反応中、酸素が消費され内圧が減少したが、酸素は補充しなかった。
【0062】
反応後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、p−キシレンの転化率は20.5%であり、モノエステルであるp−メチルベンジルアセテートが1.95g(収率:12.6モル%、選択率:61.5%)、ジエステルであるp−キシリレンジアセテートが1.42g(収率:6.8%、選択率:33.2%)得られ、エステル化物のトータルの選択率は94.7%であった。副生成物であるp−トルアルデヒド、p−アセトキシメチルベンズアルデヒド及びp−トルイル酸の合計収率は6%未満であった。この時のエステル化反応生成物に対する触媒活性種であるパラジウムの時間当たりのターンオーバー数は262であった。
【0063】
尚、Pdについての時間当たりのターンオーバー数は、下記の式で表されるものである。
ターンオーバー数=(生成モノエステルのモル数+生成ジエステルのモル数×2)/(Pdのモル数×反応時間(hr))
比較例1
IB族化合物であるテトラクロロ金酸・4水和物0.10gと塩化パラジウム0.08gを水50mlに溶解して、水溶液を調製した。活性炭(和光純薬製)5gに水10mlを加えてスラリーとし、攪拌しながら塩化パラジウムとテトラクロロ金酸を含む水溶液を滴下して、活性炭にパラジウムと金を固定化した。得られた固体を濾別し、空気中で90℃で8時間乾燥させた。次いで、該パラジウム−金固定化物を窒素中で400℃で2時間焼成することにより、活性炭上にパラジウム−金が担持された担持物(活性炭担持パラジウム−金)を得た。該担持物におけるパラジウムの担持量は0.8wt%、金の担持量は0.8wt%であった。
【0064】
この活性炭担持パラジウム−金について、実施例1と同様にしてX線光電子分光法によりPdの結合状態をPdの3d5/2のピークを用いて分析した。その結果、Pdの3d5/2のピークとして、335.1eV、336.6eV及び337.8eVの3種類のピークが観察され、335.2〜336.2eVの間のピークは検出されなかった。これは、メタル状態のパラジウムと2種の異なる酸化状態のパラジウムが存在していることによるものである。
【0065】
実施例1で用いたチタニア−ジルコニア担持パラジウム−金に代えて、上記活性炭担持パラジウム−金(パラジウム含有量 0.047mmol)0.625gを用い、p−キシレンの添加量を5.0g、酢酸の添加量を24.0gとし、酸素ガスで1.5×106Pa(ゲージ圧)に加圧し、反応時間を5時間としたこと以外は実施例1と同様の条件で、酸化的エステル化反応によるp−キシリレンジアセテート合成を行なった。
【0066】
ガスクロマトグラフィーによる反応液の分析の結果、p−キシレンの転化率は2.44モル%であり、モノエステルであるp−メチルベンジルアセテートが115.8mg(収率:1.5モル%、選択率:61.5モル%)、ジエステルであるp−キシリレンジアセテートが31.1mg(収率:0.3モル%、選択率:12.2モル%)得られ、エステル化物のトータルの選択率は73.8%であった。また、副生成物であるp−トルアルデヒド、p−トルイル酸などの酸化生成物の生成が顕著に見られた。この時のエステル化反応生成物に対する触媒活性種であるパラジウムの時間当たりのターンオーバー数は4.3であった。
比較例2
担体として酸化チタンを用い、テトラクロロ金酸・4水和物を用いない以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン上にパラジウムが担持された担持物(酸化チタン担持パラジウム)を調製した。該担持物におけるパラジウムの担持量は0.5wt%であった。XPSによるPdの3d5/2のピークは336.2eVであり酸化パラジウム(PdO)の状態に近いことが判った。
【0067】
この酸化チタン担持パラジウムを触媒として用いて、実施例1と同様にしてp−キシレンと酢酸による酸化的エステル化反応を行った。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、エステル生成物は認められず、少量のp−トルアルデヒドおよびp−トルイル酸の生成が認められた。
比較例3
パラジウム成分として塩化パラジウム0.042gを用い、パラジウム−金混合水溶液を5時間攪拌した後、ラウリン酸ナトリウムを添加した以外は、実施例1と同様の方法でチタニア−ジルコニア担持パラジウム−金を調製した。ラウリン酸ナトリウムを添加する前のパラジウム−金混合水溶液中には、僅かな金属種の析出が見られた。
【0068】
得られたチタニア−ジルコニア担持パラジウム−金をXPSで分析したところ、Pdの3d5/2のピークとして、335.1eV、335.5eV、336.6eV、337.8eVの4種類のピークが観察され、335.1eVピークの他に、Pd(0)やPd(II)に起因するピークが存在した。
【0069】
このチタニア−ジルコニア担持パラジウム−金を触媒として用いて、実施例1と同様にしてp−キシレンと酢酸を用いた酸化的エステル化反応によるp−キシリレンジアセテート合成を行なった。
【0070】
反応液をガスクロマトグラフィーでの分析した結果、p−キシレンの転化率は19.3モル%であり、モノエステルであるp−メチルベンジルアセテートが1.74g(収率:11.3モル%、選択率:58.2モル%)、ジエステルであるp−キシリレンジアセテートが1.17g(収率:5.6モル%、選択率:29.0モル%)得られ、エステル化物トータルの選択率は87.2%であった。また、副生成物であるp−トルアルデヒド、p−トルイル酸の生成が顕著に認められた。この時のエステル化反応生成物に対する触媒活性種であるパラジウムの時間当たりのターンオーバー数は4.3であった。
実施例2
実施例1で得たチタニア−ジルコニア担持パラジウム−金を触媒として用い、下記表1に示す条件を採用する以外は、実施例1と同様にして、エステル化反応を行った。
【0071】
【表1】
【0072】
反応生成物の分析結果を下記表2に示す。
【0073】
【表2】
Claims (7)
- Pd及び周期表IB族に属する元素が担体上に担持された担持物であって、X線光電子分光法により測定したPdの3d5/2の結合エネルギーが335.2〜336.2eVの範囲内にあることを特徴とする金属含有組成物。
- 周期表IB族に属する元素が金である請求項1に記載の金属含有組成物。
- 担体がAl、TiおよびZrからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を含む酸化物である請求項1に記載の金属含有組成物。
- Pd化合物と周期表IB族に属する元素の化合物を溶解した水溶液を1分〜5時間熟成した後、担体を添加して該担体上にPdと周期表IB族に属する元素を含む沈殿物を析出させ、次いで、焼成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された金属含有組成物の製造方法。
- 酸素の存在下に炭化水素化合物とカルボン酸を反応させてエステル化合物を合成する反応に用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の金属含有組成物からなるエステル化反応用触媒。
- 請求項5に記載の触媒と酸素の存在下に、ベンジル化合物類とカルボン酸とを反応させることを特徴とするエステル化合物の製造方法。
- 請求項5に記載の触媒と酸素の存在下に、オレフィン化合物類とカルボン酸とを反応させることを特徴とするエステル化合物の製造方法。
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JP34773999A JP3769648B2 (ja) | 1999-12-07 | 1999-12-07 | 金属含有組成物及びエステル化合物の製法 |
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