JP3767973B2 - 亜鉛めっきスチールワイヤとゴムの複合体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として自動車等に用いられるタイヤなどのゴム製品の補強材料として使用される亜鉛めっきが施されたスチールワイヤとゴムとの接着性に優れた複合体に関する。
【0002】
【従来の技術】
タイヤ等のゴム製品の補強に用いられるスチールワイヤは、ゴムとの複合体を形成するためにゴムとの良好な接着性を必要とする。従って、従来よりゴムとの接着を得る方法として、スチールワイヤの表面に黄銅や青銅めっきを施し、一方のゴム組成物にはレゾルシン誘導体やメラミン誘導体等の樹脂、コバルト金属塩等を接着助剤として添加して両者を接着する方法が行われている。しかし、これらの方法では次にのべるような問題を有する。
【0003】
銅を含むめっきは水分や空気により酸化されやすく耐腐食性に欠け、黄銅や青銅のような銅を含むめっきを施されたスチールワイヤは輸送中やタイヤ製造工程中でワイヤ表面に変色を発生したり、めっき表面の酸化変質によりゴムとの接着性を低下させる等の問題がある。特にタイヤでは走行時に発生する熱およびゴム中に含まれる水分や外傷部分から侵入した水分によりワイヤ表面が酸化される結果、めっき表面に薄い酸化銅層を生成しゴムとの接着が低下しタイヤ故障の原因となる。また、前記のレゾルシン誘導体やメラミン誘導体等の樹脂、コバルト金属塩等の添加剤を含むゴム組成物は加工工程において未加硫ゴム表面にブルーム現象を生じ、ゴム同志の粘着性やゴム組成物とワイヤとの接着性を低下させる等の欠点がある。さらに、ゴム組成物に多量のコバルト金属塩等の添加剤を配合使用することは、配合コストをつり上げるだけでなく、ゴム組成物中の加硫促進剤や老化防止剤等とコバルト金属塩等が反応してゴム特性を低下させ、長期間にわたる安定したゴム組成物とスチールワイヤとの接着性を確保することを困難にするという問題がある。
【0004】
また、従来の黄銅や青銅めっきは設備コストや電力消費量等の運転コストが高いことから、製造工程の合理化や省エネルギー化の要求の高まりによって、溶融亜鉛中にワイヤを浸漬することでめっきができ、さらにワイヤの特性を調整のための熱処理が溶融亜鉛に浸漬する温度と時間に一致するため、ワイヤの熱処理がめっき工程で同時に行える溶融亜鉛めっきが、ワイヤの製造上で有利である。
【0005】
亜鉛めっきが施されたスチールワイヤとゴムの接着の改良として、ゴム組成物中に接着助剤としてフェノール樹脂、ヘキサメチレンテトラミンやコバルト金属塩を配合する方法(特開昭63−245439号)が知られているが、耐湿熱接着が充分でないことや、これらの薬品の使用はその有毒性から、ゴム混合時の薬品の飛散等に対する安全な作業環境の確保等の問題がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、ゴム組成物に前記の接着助剤を添加することなく、亜鉛めっきスチールワイヤとゴムとの初期接着性に優れ、かつゴム混合時に前記のような作業環境への配慮をする必要のない亜鉛めっきスチールワイヤとゴムとの複合体を得ることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
スチールワイヤとゴムの接着反応は接着界面の数十〜数百Å程度の厚みにおいてなされ、ここにおける接着特性が重要となる。このことより、スチールワイヤとゴムの接着に際して高価なコバルト金属塩等の接着助剤は両者の接着界面に薄膜として存在するだけで充分であることに着目し本発明に至った。
【0008】
上記の課題を解決した本願発明は、有機溶剤1リットルにジエン系ゴムより選ばれた少なくとも1種類のゴム成分を1g以上含む溶剤100重量部に対し、コバルト金属塩成分を1〜3重量部含む溶液を、亜鉛めっきを施したスチールワイヤの表面に付着させた後、前記スチールワイヤをコバルト金属塩成分を含まないゴム組成物で被覆し加硫接着することを特徴とした亜鉛めっきスチールワイヤとゴムの複合体である。
【0009】
なお、コバルト金属塩成分とは有機酸コバルト金属塩等に含まれる、ゴムとめっき金属との接着助剤として働くコバルト元素の有効成分をいう。
【0010】
ジエン系ゴム成分を含むコバルト金属塩成分をワイヤ表面に付着させる方法としては、いったん有機溶剤に前記成分を溶解したものをワイヤに被覆した後に温風等を吹き付け溶剤を除去する方法が付着量の均一化や簡便さの点で優れている。また、有機溶剤にゴム成分を含む場合は有機溶剤のみの場合に比べ、溶剤の粘度が上がりワイヤ表面への濡れ性が向上し、ワイヤ表面への付着が均一になり、その結果、コバルト金属塩成分の被覆がさらに均一になる効果もある。スチールワイヤ表面に付着させるジエン系ゴム成分を含むコバルト金属塩成分は微量であり定量することが困難であるが、実験結果より本発明の範囲が接着性に良好であることが分かった。
【0011】
有機溶剤1リットル中のジエン系ゴム成分が1g未満の場合はコバルト金属塩成分と未加硫ゴムとの親和作用に欠け、接着性、特に老化後の接着性の低下が大きい。また、1gを越えても親和作用は大きく向上せず接着性の改善は少ないため、通常は1g程度で充分である。
【0012】
コバルト金属塩成分の有機溶剤への配合量は1〜3重量部の範囲が適す。1重量部未満では接着界面にZnOの生成が多くなりすぎ、ZnO層で破壊が起き接着性が低下する。3重量部を越えるとZnSとゴムとの固溶体の形成が多すぎ、かえって接着力は低下する。
【0013】
【発明の実施の形態】
有機溶剤にジエン系ゴム成分を含むのは、有機酸コバルト金属塩を溶解し使用するに当たりコバルト金属塩成分と未加硫ゴムとの親和性を向上させ加硫後の接着性が安定し向上させることにある。ここで、ジエン系ゴムとしては天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴムおよびスチレン−ブタジエン共重合ゴム等が親和性の点で好ましい。
【0014】
コバルト金属塩としてはナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、オレイン酸コバルト、リノール酸コバルト、ロジン酸コバルト等の各種のコバルト金属塩が使用できる。有機溶剤としてはコバルト金属塩が容易に溶解し、スチールワイヤに溶液を塗布した後、比較的低温で有機溶剤が乾燥除去できるもの、例えば工業用ガソリン、石油エーテル、トルエン、キシレンその他の有機溶剤が使用できる。
【0015】
亜鉛めっきされたスチールワイヤをジエン系ゴム成分を含む有機溶剤にコバルト金属塩を溶解した溶液に連続的に浸漬または吹き付け等によりワイヤ表面に付着させた後乾燥することにより、ワイヤ表面にのみ接着に有効なコバルト金属塩成分の薄膜を均一に付着することができる。
【0016】
加硫前の亜鉛めっきワイヤの表面は薄い酸化亜鉛の皮膜で覆われているが、加硫中に酸化亜鉛の皮膜を通して内部の亜鉛がイオンとなり表面に拡散する。さらにこの亜鉛イオンがゴム中の硫黄と反応し亜鉛の硫化物ZnSとなり、ゴム中に成長しZnSとゴムとの固溶体を形成し、その結果物理的結合(吸着力)でスチールワイヤとゴムとの間に接着が生じる。この接着性を向上させたり安定させる物としてコバルト金属塩成分は有効に働く。コバルト金属塩成分は加硫中に硫化コバルトとなり、触媒作用として働きZnSの生成を促進し、その適正な使用量の範囲内において、接着力を低下させると考えられるZnO層の生成を抑え上記の固溶体の形成を行い、接着性を向上し安定化させると考えられる。
【0017】
なお、ゴム組成物に使用するゴムは有機溶剤中に含まれるゴムと同種のジエン系ゴムが相溶性の点で好ましい。他の配合剤としてはカーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、プロセスオイル、硫黄、加硫促進剤、老化防止剤等が必要により配合される。
【0018】
【実施例】
以下、実施例と比較例により本発明を説明する。
JIS G3506に規定された硬鋼線材SWRH72Aの5.5mmロッドを使用して乾式伸線により直径1mmのスチールワイヤとし、電解洗浄を行いワイヤ表面を清浄化した後、450℃の溶融亜鉛めっき浴に20秒間連続的に通過浸漬し、めっき付着量が1g/Kgの亜鉛めっきされたスチールワイヤを得た。
【0019】
なお、溶融亜鉛めっき中にワイヤは450℃の浴中を通過することによりブルーイングと呼ばれる低温焼鈍処理が同時に行われ、ワイヤの内部応力の除去、弾性限や靱性、伸び特性の向上がなされた。
【0020】
表1に所定量のゴムを溶解したガソリンまたはトルエンにナフテン酸コバルトまたはステアリン酸コバルトを溶解し、所定量のコバルト金属塩成分を含む溶液イ〜ヌを作成した。ここで使用した有機酸コバルト金属塩は、共に大日本インキ(株)製のものでコバルト金属塩成分が10%のナフテン酸コバルトである。これらの各溶液が噴霧されている20℃に調整された密閉層内を10秒間で前記の亜鉛めっきされたスチールワイヤを通過させ、ワイヤ表面にコバルト金属塩成分を溶解した溶液を塗布し、その後連続して60℃の温風炉中を5秒間通過乾燥させ有機溶剤を除去し、ワイヤ表面にジエン系ゴム成分を含むコバルト金属塩成分からなる接着助剤膜を形成した。本発明に適用されるコバルト金属塩成分を含む溶液は符号ロ、ハ、ニ、ヘ、チ、ヌである。
【0021】
表2に示すナフテン酸コバルトを配合していないゴム配合1とナフテン酸コバルトを配合したゴム配合2とを用いて、上記の処理済みの亜鉛めっきスチールワイヤとの接着試験を実施し、その結果を表1に示す。表中で「実」は実施例を、「比」は比較例を表す。
【0022】
【表1】
SBR:日本合成ゴム(株)製 SBR1500
ナフテン酸コバルト :大日本インキ(株)製 10%ナフテン酸コバルト(コバルト金属塩成分10%)
【0023】
【表2】
【0024】
接着試験は次の方法により行った。
ASTM D1871に準じ、ゴムの埋め込み長さは1.5cmとし、140℃で40分の加硫条件で試料を作成し、引き抜き接着力及び引き抜き後のワイイヤ表面のゴム付着率を10点満点法で観察した。
【0025】
実施例1、2、3はコバルト金属塩成分を溶液中に1、2、3重量部含み、ワイヤに付着したコバルト金属塩成分の付着量が適正範囲にあるためZnSの生成量が接着に良好な範囲にあって、2重量部付近で最大値を持つ。比較例1はコバルト金属塩成分が1重量部と少なく、コバルト不足でZnOの生成が多くなり、この層で接着が破壊される。比較例2はコバルト金属塩成分の添加量が3.5重量部と多く、コバルト量が限界値を越えるとZnSとゴムの固溶体が多くなり、急激に接着性は低下し、またコバルト金属塩と加硫促進剤や老化防止剤等の他の添加剤との反応によるゴム特性の低下も接着性に悪影響を与えている。
【0026】
実施例4は溶剤に含まれるゴムをスチレンブタジエンゴムに変更した場合であるが、接着性は天然ゴムの時と同等である。比較例3は溶剤に含まれるゴム量が少ない場合であるが、接着性が低下している。実施例5は逆にゴム量が多い場合であり、ゴム量を増しても接着性の向上への効果は変わらず、必要以上にゴムを増量することはない。また、有機溶剤にゴムが含まれていない比較例4は、塗布時にワイヤ表面の溶剤が海島状になりやすく、その結果、コバルト金属塩成分の付着状態も不均一となり接着性にばらつきがあり、さらに、未加硫ゴムとの親和性に欠け接着性の低下が大きい。実施例6は溶剤をガソリンからトルエンに変更した場合であるが接着性は実施例2と遜色ないものである。
【0027】
比較例5〜14はナフテン酸コバルトを配合したゴム組成物との接着性をみたものであり、トータルのコバルト量が多くなるにつれZnSの生成が過多気味となり、全体的に接着レベルが低下傾向にある。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、亜鉛めっきスチールワイヤとゴムとの間で安定な接着が得られ、ワイヤを被覆するゴム組成物に高価なコバルト金属塩を接着助剤として多量に配合する必要がなくなる。さらに、コバルト金属塩と他の添加剤との反応によるゴム特性劣化の防止や混合時の有害な配合薬品の飛散等に対する安全な作業環境の確保される。
Claims (1)
- 有機溶剤1リットルにジエン系ゴムより選ばれた少なくとも1種類のゴム成分を1g以上含む溶剤100重量部に対し、コバルト金属塩成分を1〜3重量部含む溶液を、亜鉛めっきを施したスチールワイヤの表面に付着させた後、前記スチールワイヤをコバルト金属塩成分を含まないゴム組成物で被覆し加硫接着することを特徴とした亜鉛めっきスチールワイヤとゴムの複合体。
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