以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
以下で詳述する本発明の実施形態は、スチールコードなど、タイヤを始めとする各種ゴム製品の補強材に使用される、表面にめっき処理が施された鋼線に関し、ゴムとの接着性に優れためっき鋼線に関するものである。
(本発明者らによる検討内容について)
本発明の実施形態に係るめっき鋼線、スチールコード及びゴム−スチールコード複合体について詳細に説明するに先立ち、本発明者らが実施した検討の内容について、まず説明する。
タイヤ中には、表面にブラスめっきが施されためっき鋼線からなるスチールコードが埋設されている。タイヤが使用されると、タイヤの発熱による温度の影響で、時間の経過とともに、ブラスめっきに含まれるCuがゴム側へ拡散して、接着層が厚くなる。また、接着層中のCuがゴム側へと拡散し、Cu硫化物のCu硫化物の組成がCuSに近づくために、接着強度が低下する。接着強度は、Cu硫化物の組成に依存し、Cu2Sに近いほど接着強度が高く、CuSに近い組成では、接着強度は低下すると考えられている。
本発明者らは、スチールコードのブラスめっきの厚みが、ゴムとの接着強度の経年劣化に及ぼす影響について検討を行った。まず、ブラスめっきが薄い場合は、スチールコードとゴムとの接着強度が高く、ゴムとの界面に生成する接着層は、厚みが薄く、また、組成がCu2Sに近いCu硫化物であることがわかった。一方、ブラスめっきが厚い場合は、接着強度が低く、接着層は厚く、組成はCuSに近いことがわかった。
ブラスめっきの厚みによって、スチールコードとゴムとの界面に生成する接着層の厚み及び組成が変化するメカニズムについては、必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。加硫時には、ブラスめっきとゴムとの界面で、ブラスめっき中のCuとゴム中のSが反応し、Cu2Sが形成される。ブラスめっきが薄い場合は、めっきからのCuの供給が少ないためCuの拡散が抑制され、接着層が成長せず、組成も変化し難い。一方、ブラスめっきが厚い場合は、めっきからのCuの供給が多いためCuの拡散が促進され、接着層が成長し、また、接着層からゴムへのCuの拡散によって、組成がCuSに近くなる。
ブラスめっきとゴムとの界面の接着層の厚みについては、ある一定の厚み以上になると接着強度が飽和すると考えられる。従って、ブラスめっきを薄くすることで接着強度の経年劣化が抑制される理由は、接着層の組成がCu2Sに近い状態で維持されるためであると考えられる。なお、Zn硫化物も接着強度を発現するものの、その接着強度はCu硫化物の50〜70%程度である。更に、ブラスめっきでは、Cu濃度が低下してZn濃度が高くなるため、耐食性が低下し、酸化膨張によってめっきと接着層との接着強度も低下する。
これらの結果に基づいて、本発明者らは、スチールコードなどの極細めっき鋼線とゴムとの接着強度の経年劣化を抑制する方法を検討した。まず、極細めっき鋼線とゴムとの接着強度を高めるためには、接着層の組成をCu2Sにすることが重要である。そのため、ゴムと接触するめっきの組成は、Cu濃度が高いほど好ましい。また、通常、ブラスめっきは、Cuめっき及びZnめっきを行った後、拡散熱処理を施して形成される。しかしながら、Znは、接着強度の向上には寄与が小さく、接着強度という観点からはZnを含有する必要はなく、Cuめっきを行った後、そのまま、伸線加工を施すことが好ましい。
次に、ゴムと接触するCuめっきは薄いほど好ましいが、単にめっきを薄くすると、極細鋼線の表面の凹凸に起因して生じる、局所的に鉄が露出した部分(Fe露出部)が大きくなり、接着強度が低下する。そのため、極細鋼線の表面には、凹凸を被覆できる程度の厚みを有し、表面が平滑な層を設けることが重要である。また、めっきが厚い場合は、めっきにも伸線加工性が要求されるため、接着層を形成するためのCuは、伸線加工への追従という観点からは、軟質であることが好ましい。
従って、鋼線の表面には、Cuめっきを設けることが好ましい。しかしながら、Cuめっきの厚みが薄いとFe露出部が大きくなって接着強度が低下し、厚いと接着層が成長して組成がCuSに近くなり、接着強度の経年劣化を防止することができない。そこで、本発明者らは、表面に複層めっきを設けた極細めっき鋼線について検討を行い、以下で詳述する本発明を完成させた。
(めっき鋼線について)
上記検討結果に基づき完成された、本発明の実施形態に係るめっき鋼線について、以下で、図1A〜図2Dを参照しながら詳細に説明する。
図1Aは、本実施形態に係るめっき鋼線を鋼線の径方向に切断した場合の断面構造を模式的に示した説明図であり、図1Bは、本実施形態に係るめっき鋼線を鋼線の長軸方向に切断した場合の部分断面構造を模式的に示した説明図である。図2A〜図2Dは、本実施形態に係るめっき鋼線の被覆Cuめっき層及び上方めっき層を鋼線の長軸方向に切断した場合の部分断面構造を模式的に示した説明図である。
<めっき鋼線の概略>
本発明の実施形態に係るめっき鋼線1は、図1A及び図1Bに模式的に示したように、鋼線(例えば、極細鋼線など)11の表面に、少なくとも2層の複層めっきを設けためっき鋼線(例えば、極細めっき鋼線)である。本実施形態に係るめっき鋼線1のうち、鋼線11と接触する第1層は、鋼線11の凹凸を被覆するために必要な厚みを有する、平均厚みが例えば100〜300nm程度の被覆Cuめっきである。なお、図1A及び図1Bでは、図面作成の便宜上、鋼線11の表面に存在しうる凹凸を図示していない。以下では、この被覆Cuめっきによる第1層を、被覆Cuめっき層13と称することとする。
被覆Cuめっき層13の上層には、加硫時及び使用時に、Cuの拡散を防止する拡散防止層として機能する上方めっき層15が位置している。かかる上方めっき層15は、図2Aに模式的に示したように、Fe、Co、Cr、Nb、V及びMoからなる群(以下、この群を構成する元素をまとめて、「X」と表記することもある。)より選択される少なくとも何れかの元素と、Znと、の合金からなる合金めっき層17を少なくとも含む。かかる合金めっき層17に含有される元素群Xは、Cuと金属間化合物を生成しにくい元素で構成されている。また、合金めっき層17中には、上記のような元素群Xより選択される少なくとも何れかの元素とZnとの合金(以下、「Zn−X合金」ともいう。)以外に、各種の不純物が含有されている場合がある。
ここで、Zn−X合金中に含まれうる不純物としては、例えば、B、C、O、F、Al、Si、P、S、Cl、Ti、Co、Ni、Zr、Sn、Ag、W、Pb等を挙げることができる。Zn−X合金中に存在する上記元素の含有量が、全めっき質量に対して0.1質量%以下である場合、又は、Zn−X合金中に存在する上記元素の合計含有量が1.0質量%以下である場合であれば、性能に影響を及ぼさない。
また、本実施形態に係る上方めっき層15は、図2Aに模式的に示したように、合金めっき層17のみで構成されていてもよいが、図2Bに模式的に示したように、被覆Cuめっき層13と、合金めっき層17との間に、Znめっき層19が存在してもよく、図2Cに模式的に示したように、合金めっき層17の更に上層に、上記元素群Xより選択される少なくとも何れかの元素を含む金属からなる金属めっき層21が存在してもよい。また、本実施形態に係る上方めっき層15は、図2Dに模式的に示したように、合金めっき層17に加えて、Znめっき層19及び金属めっき層21が存在していてもよい。なお、かかる金属めっき層21中には、酸化物等は存在しない。
ここで、合金めっき層17の平均厚みは、例えば、50nm〜100nm程度である。また、Znめっき層19の平均厚みは、例えば、5nm〜20nm程度であり、金属めっき層21の平均厚みは、例えば、2nm〜10nm程度である。
かかる上方めっき層15の積層方法は、特に限定されるものではなく、電気めっき、溶融めっき、蒸着めっきなど、公知のめっき方法を利用することが可能である。また、本実施形態に係るめっき鋼線1では、かかる上方めっき層15に、ピンホールやクラックなどの欠陥が存在していてもよい。すなわち、かかる上方めっき層15は、被覆Cuめっき層13まで達するクラックもしくはピンホールを有する層状のめっき層、又は、被覆Cuめっき層13上に位置する島状のめっき層であることが好ましい。伸線加工後の本実施形態に係るめっき鋼線1は、上方めっき層15による被覆Cuめっき層13の被覆率が、全表面積に対して20%以上70%以下(換言すれば、被覆Cuめっき層13の露出率が、全表面積に対して30%以上80%以下)であることを特徴とする。
本実施形態に係るめっき鋼線1を利用してスチールコードを製造し、かかるスチールコードを利用してゴム−スチールコード複合体を製造する際に、上方めっき層15で被覆されておらずに被覆Cuめっき層13が露出している箇所が、ゴムとの接着点となる。かかる上方めっき層15の表面に、欠陥がほぼ均一に存在していることで、被覆Cuめっき層13からゴムへのCuの拡散を抑制し、CuSの粗大化抑制に効果がある。また、かかるめっき鋼線1を用いたゴム−スチールコード複合体では、ピンホールやクラックなどの欠陥部からゴムが流れ込み、アンカー効果により、めっき鋼線1(スチールコード)とゴムとの密着性が向上する。
なお、先ほど言及したように、本実施形態に係る上方めっき層15を構成する合金めっき層17に含有される元素群Xの金属は、Cuとの金属間化合物をつくりにくい。そのため、伸線によって熱が生じたときにCuとの金属間化合物が形成されることによる剥離が、発生しにくくなる。Cuを含む金属間化合物の生成に起因するめっき剥離により、地鉄の露出やCu量の低減が起き、密着性が低下する。従って、本実施形態に係るめっき鋼線1では、かかるめっき剥離の発生が抑制されているために、めっき層の密着性が向上する。また、元素群Xの金属のうち、Feよりも卑な金属を用いることで、上記の効果に加えて、更に犠牲防食能を実現することが可能となる。
また、一般的なめっき鋼線の製造プロセスでは、母材となる鋼線を焼鈍後にめっきし、更に伸線していく。しかしながら、本実施形態に係るめっき鋼線1では、鋼線11と被覆Cuめっき層13との間、及び、被覆Cuめっき層13と上方めっき層15との間のいずれにおいても、それぞれ熱拡散が生じないため、鋼線の焼鈍前にめっきを施してもよい。
<めっき鋼線の詳細>
以下、本実施形態に係るめっき鋼線1について、更に詳細に説明する。
本実施形態に係るめっき鋼線1の線径は、しなやかさを得るために、0.4mm以下とすることが好ましい。これは、線径が0.4mmより太くなり、しなやかさが低下すると、タイヤのゴム補強材に使用した場合に、自動車の乗り心地が低下するためである。従って、めっき鋼線1の線径は、0.4mmを上限とする。一方、線径を細くしすぎると、製造工程が長くなり、また、最終製品の生産性も低下するために、製造に時間とコストがかかる。このため、めっき鋼線1の線径の下限を、0.1mm以上とすることが好ましい。めっき鋼線1の線径は、より好ましくは、0.17mm〜0.34mmである。
また、本実施形態に係るめっき鋼線1の強度(換言すれば、素材となる鋼線11の強度)は、補強効果を得るために、3200MPa以上の引張強度を有すること好ましい。鋼線の成分は、特に限定されるものでないが、強度を確保するため、C含有量が0.7質量%〜1.1質量%であることが好ましい。また、鋼線11の金属組織は、強度を確保するため、伸線加工されたパーライトであることが好ましい。なお、鋼線の引張強度は、フィラメントの場合はJIS Z2241(1998年)に準拠した引張試験によって、測定することができる。
鋼線11(例えば、極細鋼線)の表面には、図1A及び図1Bに模式的に示したように、2層以上からなる複層めっき層を設ける。鋼線11の表面上に位置する第1層の被覆Cuめっき層13は、鋼線11の地鉄とめっきとの密着性を高め、鋼線11の表面の凹凸を平滑化し、特に、凸部での局部的な鉄の露出を抑制し、粗大なFe露出部の生成を防止するものである。更に、第2層に該当する上方めっき層15に被覆されていない被覆Cuめっき層13の箇所(すなわち、上方めっき層15に存在するピンホールやクラックなどの欠陥部)がゴムと接触し、加硫によってCu硫化物を形成する。
被覆Cuめっき層13上に存在する第2層であり、拡散防止層として機能する上方めっき層15は、第1層である被覆Cuめっき層13中に存在するCuの拡散を抑制するものである。上方めっき層15は、その表面全体に均一に欠陥をもつことで、かかる欠陥からCuが緩やかに拡散し、CuSの粗大粒生成を抑制する。また、ピンホールやクラックなどに起因する凹凸を有することで、ゴムとの複合体を製造した際に、ゴムが欠陥部に流れ込み、硬化後にアンカー効果が得られ、物理的な密着性に寄与する。なお、欠陥部が生じるのは、下地(すなわち、鋼線11や、比較的やわらかな被覆Cuめっき層13)の伸線に硬い上方めっき層15が追従できずに、上方めっき層15にクラックが発生したり、上方めっき層15の一部が下地から脱離したりすることによる。
被覆Cuめっき層13は、Fe露出部の生成を防止し、粗大なFe露出部の生成を抑制するため、平均厚みを100nm以上とすることが好ましい。一方、被覆Cuめっき層13は、厚くなりすぎるとめっき密着性が低下することから、平均厚みの上限を300nm以下とすることが好ましい。被覆Cuめっき層13の厚み(平均厚み)は、より好ましくは、100nm〜200nmである。
上方めっき層15のうち合金めっき層17は、拡散防止層として機能し、Cuの拡散を抑制する層である。特に、接着強度の経年劣化を抑制するためには、Cuの拡散を防止することが重要である。そのため、拡散防止層である合金めっき層17は、伸線加工による発熱やその後製品として使用する環境において、Cuと反応し難く、合金層の形成が抑制されるものであることが重要である。従って、かかる合金めっき層17は、Cuと金属間化合物を形成しないような元素群X(Fe,Co,Cr,Nb,V,Mo)からより選択される少なくとも何れかの元素と、Znと、の合金からなり、各種の不純物を含有していてもよい。
なお、上記合金めっき層17において、Znの含有量は、合金めっき層17の全質量に対して、30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。Znの含有量が30質量%未満である場合には、耐食性が不十分となる可能性があるため、好ましくない。一方、Znの含有量が70質量%を超える場合には、元素群Xの含有量が少なくなりすぎて、上記のような元素群Xにより実現される効果が確実に得られない可能性が生じうる。合金めっき層17におけるZnの含有量は、より好ましくは、35質量%以上60質量%以下である。
伸線加工前に各めっきを実施する場合、Cuとの合金化を抑制するためには、拡散防止層として機能する合金めっき層17が、伸線加工時の発熱によって溶融しないことが好ましい。伸線時の加工発熱は、伸線速度、ダイス形状、潤滑性能などにより大きく異なるものの、500℃程度にまで達する可能性がある。そのため、拡散防止層として機能する合金めっき層17は、融点が600℃以上の金属めっきで構成されることが好ましい。
拡散防止層として機能する合金めっき層17を形成するための方法は、特に限定されるものではなく、溶融めっき、電気めっき、蒸着めっきなど、公知のめっき方法を利用することが可能である。鋼線へのCuめっきは、一般的に電気めっきで行うことが多いため、合金めっき層17の形成も、電気めっきで行うことが好ましい。
合金めっき層17を構成する元素群Xは、融点以下の固相でのCuとの合金化がほとんど生じずに、Cuの拡散が生じづらい。そのため、被覆Cuめっき層13から合金めっき層17を経由してのCuのゴムへの供給が防止され、Cuのゴムへの供給(拡散)は、上方めっき層15において被覆Cuめっき層13が露出した部分(すなわち、欠陥部)からのみとなる。そのため、本実施形態に係るめっき鋼線1では、Cuの拡散反応が抑制される。
上方めっき層15においては、伸線加工によりクラックなどが発生した後に露出したCuと、その後流し込まれるゴムと、が接触しなければならない。そのため、上方めっき層15全体の平均厚みは、130nm以下にすることが好ましい。また、必要以上のCuの拡散を防止するために、上方めっき層15のうち、合金めっき層17の平均厚みは、50nm以上とすることが好ましい。そのため、上方めっき層15全体の平均厚みは、50nm以上とすることが好ましい。上方めっき層15全体の平均厚みは、更に好ましくは、60nm〜100nmである。
上方めっき層15のうち、合金めっき層17の平均厚みは、必要以上のCuの拡散を防止するために、50nm以上であることが好ましい。一方、合金めっき層17の厚みが100nmを超える場合には、ゴムが被覆Cuめっき層13まで流れ込みにくくなるために、めっき鋼線1とゴムとの密着性が低下して合金めっき層17が剥離する可能性があるため、好ましくない。加えて、合金めっき層17の厚みが100nmを超える場合には、合金めっき層17が厚くなりすぎ、生産性及び経済的観点からも好ましくない。従って、合金めっき層17の平均厚みは、100nm以下であることが好ましい。合金めっき層17の平均厚みは、更に好ましくは、50nm〜80nmである。
また、本実施形態に係る上方めっき層15は、図2Bに模式的に示したように、被覆Cuめっき層13上に位置するZnめっき層19と、Znめっき層19上に位置する合金めっき層17と、で構成されていてもよい。被覆Cuめっき層13と、合金めっき層17と、の間に、各種のZnめっきを利用したZnめっき層19を設けることで、上方めっき層15の機能として、更に犠牲防食能を実現することが可能となる。
Znめっき層19を形成するための方法は、特に限定されるものではなく、溶融めっき、電気めっき、蒸着めっきなど、公知のめっき方法を利用することが可能である。鋼線へのCuめっきは、一般的に電気めっきで行うことが多いため、Znめっき層19の形成も、電気めっきで行うことが好ましい。
上方めっき層15のうち、Znめっき層19の平均厚みは、合金めっき層17との密着性と耐食性とを向上させるために、5nm以上であることが好ましい。一方、Znめっき層19の厚みが20nmを超える場合には、伸線処理後にCuの露出面積が不十分となる可能性があるため、好ましくない。従って、Znめっき層19の平均厚みは、20nm以下であることが好ましい。Znめっき層19の平均厚みは、更に好ましくは、5nm〜10nmである。
更に、本実施形態に係る上方めっき層15は、図2Cに模式的に示したように、被覆Cuめっき層13上に位置する合金めっき層17と、合金めっき層17上に位置する金属めっき層21と、で構成されていてもよい。合金めっき層17上に、更に、元素群Xより選択される少なくとも何れかの元素を含む金属からなる金属めっき層21を設けることで、長期にわたりゴムとめっき鋼線1との密着性を向上させることが可能となる。Znは、ゴム中に存在する硫黄と反応してZnSを生成し、初期の密着性を向上させる効果がある。しかしながら、生成されるZnSは、湿気などの環境下では不安定な物質である。そこで、上記のような金属めっき層21を設けて表面のZn量を低減することで、ZnSの化学変化による体積変化を抑制して、長期にわたりゴムとめっき鋼線1との密着性を向上させることが可能となるのである。
金属めっき層21を形成するための方法は、特に限定されるものではなく、溶融めっき、電気めっき、蒸着めっきなど、公知のめっき方法を利用することが可能である。鋼線へのCuめっきは、一般的に電気めっきで行うことが多いため、金属めっき層21の形成も、電気めっきで行うことが好ましい。
上方めっき層15のうち、金属めっき層21の平均厚みは、表面のZnを被覆するために、2nm以上であることが好ましい。一方、金属めっき層21の厚みが10nmを超える場合には、必要以上にめっきを行うこととなるために、生産性及び経済的観点から好ましくない。従って、金属めっき層21の平均厚みは、10nm以下であることが好ましい。金属めっき層21の平均厚みは、更に好ましくは、3nm〜8nmである。
また、本実施形態に係る上方めっき層15は、図2Dに示したように、合金めっき層17に加えて、Znめっき層19及び金属めっき層21を有していてもよい。
拡散防止層として機能する上方めっき層15は、伸線に起因するクラックや、意図的にまだらに上方めっき層15を形成することなどにより、下層に位置する被覆Cuめっき層13のCuを露出していなければならない。被覆Cuめっき層13の露出率は、高すぎるとCuの拡散抑制効果がほとんど得られないため、全表面積に対して80%以下とすることが必要である。換言すれば、上方めっき層15による被覆Cuめっき層13の被覆率は、全表面積に対して20%以上とすることが必要である。一方、被覆Cuめっき層13の露出率が高すぎた場合、ゴムとの接着点が少なくなるために、ゴム硬化後の初期段階で十分な密着性が得られない。そのため、被覆Cuめっき層13の露出率は、全表面積に対して30%以上である必要がある。換言すれば、上方めっき層15による被覆Cuめっき層13の被覆率は、全表面積に対して70%以下とすることが必要である。被覆Cuめっき層13の露出率は、好ましくは、全表面積に対して50%以上70%以下である。換言すれば、上方めっき層15による被覆Cuめっき層13の被覆率は、好ましくは、全表面積に対して30%以上50%以下である。
また、拡散防止層として機能する上方めっき層15の表面において、Znの被覆率は、全表面積に対して、50%未満とする必要がある。Znの被覆率が50%以上である場合、ゴムとの長期密着性が低下する可能性があり、好ましくない。Znの被覆率を50%未満とすることで、従来のブラスめっきと同等以上のゴムとの長期密着性を発現させることが可能となる。上方めっき層15の表面におけるZnの被覆率は、好ましくは、全表面積に対して0%〜20%である。
本実施形態に係るめっき鋼線1を製造する際に、伸線加工前にめっきを実施する場合、伸線後の上方めっき層15には、伸線方向に対して垂直方向に、細かいクラックが全体に均一に発生することが好ましい。伸線によりめっきが鋼線から離脱しても問題ないが、先だって言及したように、最終伸線後にCu露出率が80%超過となってはならない。また、上方めっき層15が伸線加工に追従しすぎてしまい、最終伸線後にCu露出率が30%未満となってはならない。上方めっき層15が、合金めっき層17を少なくとも有し、更に、Znめっき層19や金属めっき層21を更に有することで、本実施形態に係るめっき鋼線1では、クラックが発生しやすい。しかしながら、このような条件を満たすように、伸線前の上方めっき層15の構成及び厚み、並びに、伸線条件を決定することが重要である。また、拡散防止層として機能する上方めっき層15にクラックなどの欠陥部が生じていることで、欠陥部にゴムが流れ込み、アンカー効果によってゴムと鋼線との間の密着性が向上する効果も得られる。
なお、本実施形態に係るめっき鋼線1では、伸線処理により、上方めっき層15のみならず、被覆Cuめっき層13にまでクラックなどが達してしまったり、被覆Cuめっき層13の一部までもが剥離してしまったりするなどして、鋼線11のFeが露出してしまっている部分が存在しうる。
ここで、本実施形態に係るめっき鋼線1における被覆Cuめっき層13の平均厚み、及び、上方めっき層15を構成する各めっき層の平均厚みは、めっき鋼線1の断面SEM像又はTEM像から測定することが可能である。より詳細には、めっき鋼線1を埋め込み研磨し、得られる断面を3万〜10万倍程度の倍率で測定する。断面像からクラック状態の観察を行い、コントラストからCu、Xが見分けられれば、あわせて、被覆Cuめっき層13及び上方めっき層15の厚みを判断する。なお、コントラストでは各層がわからない場合、又は、めっき種が不明な場合には、点分析又はマッピング分析を行う。また、上方めっき層15における合金めっき層17、Znめっき層19、及び、金属めっき層21のそれぞれの厚みは、各めっき層に含有されている金属の分布に着目しながら、点分析又はマッピング分析を行うことによって測定することが可能である。このとき、スポット径は2nm〜10nmとすることが好ましい。なお、各層の厚みは、三か所以上測定した値の平均値とする。
更に、鋼線表面のSEM像又はTEM像におけるEDSのマッピングデータから元素群Xの被覆率を決定し、元素群Xの残留量、金属種における密度及び被覆率から、元素群Xの厚みを求めることが可能である。この際、スポット径は、1.5μm〜0.5μmとすることが好ましい。また、EDSのマッピング測定面積の合計は、10000μm2以上とし、かかる範囲における平均値を、Xの被覆率として決定する。
なお、ゴムに埋設された後の各めっき層の厚み及び組成は、クライオCP(Cross−section Polishing)などといった各めっき層を損傷しにくい手段を用いてC断面(伸線方向に対して垂直な方向での断面)を作製し、FE−SEM−EDX(エネルギー分散型X線分析装置付き電界放出型走査電子顕微鏡)やFE−EPMA(電界放出型電子線マイクロアナライザ)により元素分析することで、測定することが可能である。
めっき鋼線1の表面におけるCuの露出率を測定するためには、AES(オージェ電子分光法)でのマッピング測定を用いればよい。得られたCuの測定結果を二値化し、測定面積における露出率を算出する。この際、倍率は5000倍以上とし、測定面積は20×20μmの範囲とする。その上で、鋼線の長軸方向に3か所以上測定したときの平均値を、Cuの露出率として扱う。また、めっき鋼線1の表面におけるZnの被覆率についても、同様に測定することが可能である。
本実施形態に係るめっき鋼線(例えば、極細めっき鋼線)1の被覆Cuめっき層13、及び、上方めっき層15の平均厚みは、伸線加工前の被覆Cuめっき層13、及び、上方めっき層15の平均厚みと、加工度と、によって制御することができる。また、伸線加工前の被覆Cuめっき層13、及び、上方めっき層15の平均厚みは、電気めっき法の場合、電気めっきの電流密度及び通線速度などによって調整することができ、溶融めっき法の場合、浸漬時間及びワイピング条件などによって調整することができる。また、伸線加工前の被覆Cuめっき層13、及び、上方めっき層15の平均厚みは、蒸着めっき法の場合、真空度及び蒸着源の加熱条件などによって調整することができる。
従来のブラスめっきでは、接着強度の経年劣化を抑制するために、Cu濃度を低くして、Cuの供給を抑制することが重要であった。これに対して、本発明では、上方めっき層15の欠陥部からCuが供給され、欠陥部以外の部分ではCuの拡散が抑制されるため、鋼線11上に存在する第1層には、純Cuをめっきしたものを用いることが可能である。更に、上方めっき層15の欠陥部にゴムが流れ込むことで、アンカー効果によりゴムとの密着性を向上させることが可能である。
ブラスめっきの場合、CuとSとの反応をZnが抑制するため、加硫時のCu硫化物の形成を促進することが重要であり、ゴム中に触媒として有機コバルト塩を配合している。しかしながら、本発明では、Cuとゴムが接触している箇所において、加硫時にCuとSとの反応を阻害する元素が存在しないため、ゴムにCo塩を添加しなくとも、短時間で、厚みが十分であり、かつ、組成がCu2Sに近い接着層が形成され、接着強度を確保することができる。更には、上方めっき層15の欠陥部の中にゴムが流れ込むことで、アンカー効果によっても密着強度を確保することができる。
以上説明したように、本実施形態に係るめっき鋼線は、かかるめっき鋼線を用いてゴムとの複合体を製造した際に、スチールコードなどの極細めっき鋼線とゴムとの接着強度が、加硫直後から良好であり、かつ、タイヤの使用時などの高温及び多湿の環境で時間が経過しても接着強度の劣化が小さく、優れたゴムとの接着性を確保することができる。更に、本実施形態に係るめっき鋼線を用いてゴムとの複合体を製造する際に、ゴムに対して有機Co塩を含有させる必要がなく、めっきを合金化させる拡散処理も不要となり、加えて、長期間でもCuの拡散による枯渇及びCuと硫黄の粗大粒の発生が抑制される。そのため、本実施形態に係るめっき鋼線では、めっき鋼線の高寿命化を図ることが可能であり、産業上の貢献が極めて顕著である。
(めっき鋼線の製造方法について)
次に、図3を参照しながら、本実施形態に係るめっき鋼線(例えば、極細めっき鋼線)1の製造方法について、電気めっき法を用いる場合を例に挙げて、説明する。図3は、本実施形態に係るめっき鋼線の製造プロセスの一例を模式的に示した説明図である。
本実施形態に係るめっき鋼線の製造方法では、まず、線径が3mm〜5.5mm程度である鋼線を熱間圧延によって製造し、デスケーリングを行った後に、かかる鋼線を線径1mm〜3mmまで伸線加工(乾式伸線加工)し、コイル状に巻き取る。次に、コイル状に巻き取られた線径1〜3mmの鋼線を繰り出しながら、かかる鋼線に対し、必要に応じてパテンティング熱処理を行った後、めっき処理を施す。かかる電気めっきは、後述のように、被覆Cuめっき層13を形成するためのCuめっきと、合金めっき層17を形成するための、元素群Xに含まれる元素とZnとを用いた合金めっきと、を含み、Znめっき層19を形成するための各種のZnめっきや、金属めっき層21を形成するための元素群Xのめっきと、を更に含みうる。
かかるめっき処理が施された鋼線を、再びコイル状に巻き取る。続いて、コイル状に巻き取られた鋼線を繰り出しながら、めっき鋼線の線径が0.1mm〜0.4mm程度になるように、伸線加工(湿式伸線加工)を行う。めっき鋼線の引張強さは、伸線加工の加工度によって調整する。
上記めっき処理は、主に電気めっきによって行う。線径1〜3mmの鋼線に熱処理を施して、伸線加工などの影響を除去した上で、図3に詳細に示したように、酸洗、脱脂などの前処理を行う。その後、電気めっきで、被覆Cuめっきを行い、被覆Cuめっき層13を形成し、次に、拡散防止層として機能する上方めっき層15を形成する。電気Cuめっきは、安全性とめっき密着性とを確保するために、ピロリン酸銅めっきにより実施することが好ましい。伸線加工前の被覆Cuめっき層13、及び、上方めっき層15の平均厚みは、電気めっきの電流密度及び通線速度によって調整することができる。
ここで、めっき密着性を確保するために、伸線加工前の被覆Cuめっき層13の平均厚みを30nm以上にすることが好ましい。また、湿式伸線加工でのめっき剥離を防止するためには、伸線加工前の被覆Cuめっき層13の平均厚みの上限を、1μmとすることが好ましい。
また、上方めっき層15のうち、伸線加工前の元素群Xによる合金めっき層17の平均厚みを、10nm以上とすることが好ましい。一方、元素群Xは硬質なものも多く、伸線加工後に合金めっきを残留させるために、厚くしすぎないことが好ましい。そのため、伸線加工前の合金めっき層17の平均厚みの好ましい上限は、800nmである。
元素群Xを含有する合金めっき層17を複数の元素による積層構造とする際に、伸線前の工程において元素群Xをめっきした場合、その後の熱処理や加工により、合金めっき層17中の元素同士は拡散しうる。使用用途によってその条件を変えても、合金めっき層17中の元素とCuとは合金化することはないため、伸線後の合金めっき層17の被覆率が変化しなければ、ゴムとの密着性などは変化しない。
以上説明したような、めっき鋼線1を製造するための工程は、あくまでも一例である。例えば、先だって簡単に言及したように、湿式伸線の前に上方めっき層15を形成するためのめっきを行うのではなく、湿式伸線後に上方めっき層15を形成するためのめっきを実施してもよい。特に、元素群Xを含むめっき層が伸線によって剥離しやすいものや、元素群Xの元素が伸線効率を低下させるものである場合は、鋼線を撚り合わせる前の段階や撚り合わせた後の段階で、めっきを実施することが好ましい。この場合、上方めっき層15を形成するためのめっき処理は、被覆Cuめっき層13の露出率を所定の範囲内に制御するために、被覆Cuめっき層13を全て被覆しないような方法で、実施しなければならない。例えば、被覆Cuめっき層13の一部をマスキングするか、めっきの初期段階において被覆率にばらつきのあるめっき方法を採用するなどして、意図的に上方めっき層15をまばらに形成することが重要である。
以上、本実施形態に係るめっき鋼線1の製造方法について、簡単に説明した。
(スチールコードについて)
以上説明したような、本実施形態に係るめっき鋼線1を、タイヤなどに適用する場合は、タイヤの走行性能にあわせて、本実施形態に係るめっき鋼線1を単独で用いたり、適宜複数本撚り合わせたりして、スチールコードとする。めっき鋼線1を複数本撚り合わせることにより単独のめっき鋼線1を用いる場合に比べて、強度を増すことができ、さらに撓みや変形に対する強靭さを備えることができる。
(ゴム−スチールコード複合体について)
上述したスチールコードを、ゴムとカーボンブラック、硫黄、酸化亜鉛、その他各種添加剤を配合した原材料を練ったシート状ゴムに挟み込んで、補強ベルト構造とする。その後、タイヤ構成部材を貼り合わせてグリーンタイヤとしたものを加硫機にセットし、プレス及び加熱し、ゴムの強度を発現するための架橋と同時にゴムとめっき鋼線との接着を行う。これにより、タイヤに代表されるようなゴム−スチールコード複合体を製造することが可能となる。
上述しためっき鋼線1、又は、上述したスチールコードが埋設されるゴム組成物の種類は特に限定されるものではなく、例えば、一般に公知の天然ゴムや合成ゴムを単独で、又は、2種以上を混合して使用することができる。合成ゴムとしては、例えば、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等のジエン系ゴムや、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、クロロスロホン化ポリエチレン、アクリルゴム等のオレフィン系ゴムや、ウレタンゴムや、フッ素ゴムや、多硫化ゴムなどを用いることができる。
また、上記ゴム組成物には、ゴムの性能を向上・調整するためにゴム業界で通常使用される配合剤を通常の配合量で適宜配合することができる。具体的には、配合剤としては、例えば、カーボンブラックやシリカ等の充填剤、アロマオイル等の軟化剤、ジフェニルグアニジン等のグアニジン類、メルカプトベンゾチアゾール等のチアゾール類、N,N’−ジシクロへキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等のスルフェンアミド類、テトラメチルチウラムジスルフィド等のチウラム類などの加硫促進剤、酸化亜鉛等の加硫促進助剤、ポリ(2,2,4−トリメチル−1,2一ジヒドロキノリン)、フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン類などの老化防止剤等を挙げることができる。なお、本実施形態においては、このようなゴム業界で通常使用される配合剤がゴム中に共存していた場合であっても、鋼線11の防食と上方めっき層15の腐食の抑制とを両立させることができる。
更に、上述しためっき鋼線1、又は、上述したスチールコードにおいては、上方めっき層15とゴムとの間に、耐食性や伸線加工性を更に向上させるための別の皮膜や、めっき鋼線1又はスチールコードとゴムとの密着性を向上させるための別の皮膜が存在してもよい。このような皮膜としては、所望の特性を有する皮膜であれば特に限定されないが、例えば、Cu皮膜、Sn皮膜、Cr皮膜及びこれらの合金や、リン酸塩皮膜やクロメート皮膜やシランカップリング剤や有機樹脂皮膜等を挙げることができる。また、これら皮膜に限らず他の公知の皮膜を適用することもできる。また、必要に応じて、上述した皮膜を2種以上組み合わせた多層膜を適用することも可能である。
上記有機樹脂皮膜の樹脂成分としては、例えば、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、メラミンアルキッド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、天然ゴム系樹脂、合成ゴム系樹脂などが利用可能である。このとき、上方めっき層15等への密着性を向上させるために、上記各種の樹脂に対してシラノール基などを導入してもよい。また、樹脂層の形成には、これらの樹脂を単独で使用してもよいし、これら樹脂の混合物を使用してもよく、これら樹脂の積層構造を形成してもよい。更に、これら樹脂の特性を改善するために、顔料等を含んでも良い。
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下に示す実施例に記載の内容により、本発明の内容が制限されるものではない。
以下の表1に示す成分を有する鋼を熱間圧延し、線径が5.5mmの鋼線を製造した。得られた鋼線を酸洗してスケールを除去した後、石灰処理を行い、ステアリン酸Naを主体とした乾式潤滑剤を用いて線径1.0〜3.0mmまで伸線加工した。得られた鋼線を950℃に加熱して75秒間保持し、金属組織をオーステナイトにした後、570℃の鉛浴に20秒間浸漬するパテンティング処理を行った。
パテンティング処理を行った鋼線に対し、連続して、硫酸による電解酸洗とアルカリ溶液による電解脱脂とを施し、ピロリン酸銅めっきを行って、被覆Cuめっき層13を形成した。その後、以下の表2に示すような各種の上方めっき層15を、被覆Cuめっき層13上に形成した。
なお、上方めっき層15のうち合金めっき層17は、上記元素群Xのうち1種又は2種以上と、Znと、を含有する電解液を用いた電気めっきにより形成した。また、上方めっき層15のうちZnめっき層19は、電気めっきにより形成した。また、上方めっき層15のうち金属めっき層21は、上記元素群Xのうち1種又は2種以上を含有する電解液を用いた電気めっきにより形成した。
上記のようなめっき処理の後に、加工後の線径が約0.2mmとなるように、湿式潤滑剤を用いた湿式伸線により伸線加工を行った。
湿式潤滑剤を用いた湿式伸線によりに得られためっき鋼線から試料を採取し、被覆Cuめっき層13、上方めっき層15の平均厚みを、断面FE−SEM像から測定した。また、めっき中の各組成は、FE−SEM、EPMAにより測定した結果から、上記の方法により算出した。更に、上記の方法により、Cuの露出率及びZnの面積率を測定した。得られた結果を、以下の表2にあわせて示した。
また、表2に示した各めっき鋼線4本を、5mmのピッチで撚り合わせてスチールコードとした。かかるスチールコードを金型にセットして、表3に示すゴム組成物に埋め込み、160℃で30分加熱するホットプレスにより加硫処理を行ってゴム−スチールコード複合体を製造し、接着性評価用試料とした。
これらの試料を用いて、初期の接着強度(初期接着強度)及び接着強度の経時による劣化(経年劣化)を評価した。初期接着強度は、引張試験装置でコードをゴムから引き抜いた時の引抜力を測定し、最大引抜力で評価した。また、接着強度の経年劣化は、試料を80℃の純水に0〜4日浸漬した後、初期接着強度と同様にして、コードをゴムから引き抜いた時の最大引抜力として評価した。なお、初期接着強度及び経年劣化は、比較のために製造したブラスめっき鋼線の初期接着強度を100とし、これに対する指数で評価した。具体的には、本試験において、経年劣化が、2日で指数50以上、又は、4日で指数30以上であったものを合格とした。
以下の表2に、ゴム組成物のCo塩の有無(ゴム種類)、めっき鋼線とゴムとの初期接着強度及び経年劣化の0〜4日浸漬による評価結果を、あわせて示した。
また、得られた線について、応力負荷方式の回転曲げ疲労試験により曲率部先端を0.1%NaCl水溶液中に20mm浸漬させ、回転数2500rpmで耐腐食疲労試験を行うことで、腐食疲労を評価した。腐食疲労の評価は、ブラスめっきしためっき鋼線の破断までの回転数を寿命とし、その寿命(基準材)を100としたときの指数で表した。具体的には、指数100以下をCと評価し、指数101〜129をBと評価し、指数130以上をAと評価し、評点B以上を合格とした。
上記表2から明らかなように、本発明に係るめっき鋼線は、生産性及び伸線加工性を低下させることなく、Co塩を配合しないゴムとの接着性に優れ、かつ、時間経過に伴う接着強度の劣化を抑制可能であることがわかった。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。