JP3763876B2 - 貫通壁のひび割れ補修方法 - Google Patents

貫通壁のひび割れ補修方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、貫通壁のひび割れ補修方法に関するものである。尚、本発明でいう貫通壁とはひび割れ部分が壁の厚み方向に貫通している壁をいう。又、背面側とはひび割れ補修の施工が困難な側をいい、正面側とはひび割れ補修の施工をする側をいう。
【0002】
【従来の技術】
コンクリート等からなる壁は種々の原因でひび割れを生じることがある。これらのひび割れによって壁の強度が低下し、雨水の漏水や鋼筋の腐食を促進させる等の原因となるので、早期にひび割れ補修する必要があった。
【0003】
ひび割れ補修方法として沖津俊直著「接着剤の実際知識」(昭和55年、東洋経済新報社刊)の第132〜133頁にはコンクリートのひび割れ表面にロジンを主成分とするホットメルト接着剤を塗布して目止めした後、エポキシ樹脂をひび割れ部分の内部へ注入する方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、ホットメルト接着剤は150℃〜200℃に加熱溶融する必要があり、加熱溶融するための時間を費さざるを得なかった。又、ホットメルト接着剤はミリ程度の微細なひび割れ部分の補修にしか使用できないという課題があった。
【0005】
そして、図1のように外壁と内壁とが積層した場合には、背面側からのひびわれ補修施工が困難であり、上記方法による貫通壁のひび割れ補修は困難であった。
・外壁 コンクリートからなる貫通壁
・内壁 ひび割れ部分を有しない断熱材等からなるボード
【0006】
このように外壁が貫通壁の場合には、貫通壁の背面側からひび割れ部分へひび割れ補修材を塗布したり目止めしたりすることができないという課題があった。この場合にはボードを取り除く必要があり、補修するためには多くの時間を費さざるを得なかった。
【0007】
又、外壁と内壁とが積層していない場合であっても、外壁と内壁との隙間が狭かったりして背面側からの施工が実質的に困難な場合にはやはりボードを取り除く必要があり、補修するためには多くの時間を費さざるを得なかった。
【0008】
本発明者らは、これらの課題を改良すべく鋭意検討した結果、短時間で容易に補修できる貫通壁のひび割れ補修方法を見いだした。
【0009】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明は、背面側からの施工が実質的に困難な貫通壁のひび割れ補修方法において、長さがひび割れ部分の奥行きの50%以上のノズルを用いて該ひびわれ部分の背面側の内部を反応硬化型のコーティング材で被覆し、次いで正面側の内部を反応硬化型のコーティング材で被覆した後、該ひび割れ部分内部の空隙にグラウト材を注入するという一連の操作を正面側から行うことを特徴とする貫通壁のひび割れ補修方法である。
【0010】
そして、コーティング材が発泡性硬化性樹脂組成物、チクソ性硬化性樹脂組成物又は硬化性無機組成物であり、グラウト材が硬化性エポキシ樹脂組成物、硬化性アクリル樹脂組成物、硬化性不飽和ポリエステル樹脂組成物又は硬化性無機組成物であることを特徴とする、貫通壁のひび割れ補修方法である。
【0011】
更に、グラウト材が硬化性アクリル樹脂組成物であることを特徴とする、貫通壁のひび割れ補修方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいう壁の材料については、木材、ガラス、アスファルト、アスベスト、モルタル、コンクリート等が挙げられる。これらの材料のなかではモルタル又はコンクリートが好ましく、コンクリートがより好ましい。
【0013】
本発明で施工できる貫通壁のひび割れの程度はコーティング材やグラウド材の選択や調整によりかなりの大きさまで適用されるが、最大幅3cm以下、壁の厚さ100cm以下であることが好ましい。前記の幅や奥行きを越えると、コーティング材による被覆やグラウド材による充填が不十分になるおそれがある。
【0014】
背面側からの施工が実質的に困難な貫通壁のひび割れ部分について、以下1)〜3)という一連の操作を正面側から行うことによって、ひび割れ部分を補修できる。
【0015】
1)当該ひび割れ部分の背面側の内部をコーティング材で被覆する。
2)次いで当該ひび割れ部分の正面側の内部をコーティング材で被覆する。
3)その後、該ひび割れ部分内部の空隙にグラウト材を注入する。
【0016】
コーティング材は反応硬化型のもの、即ち施工時においては液状であり、施工後は反応硬化し、固体になるものを使用する。
【0017】
コーティング材はひび割れ部分の背面側又は正面側の内部を隙間なく被覆でき、かつ、被覆後から硬化までの間にひび割れ部分の背面側又は正面側の内部からコーティング材が垂れなければ使用できる。そのためにはコーティング材のチクソ係数が2.0以上であることが好ましい。
【0018】
なお、本発明でいうチクソ係数とは、B型粘度計で1rpmと10rpmの粘度を25℃で測定し、1rpmでの粘度を10rpmでの粘度で割った値をいう。
【0019】
コーティング材としては、発泡性硬化性樹脂組成物、チクソ性硬化性樹脂組成物又は硬化性無機組成物が好ましい。本発明はこれらの一種又は二種以上が使用できる。
【0020】
発泡性硬化性樹脂組成物とは、湿気硬化性樹脂組成物、空気硬化性樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物又は二液反応型硬化性樹脂組成物等を空気等で硬化前又は硬化時に発泡させる組成物をいい、例えば、発泡ウレタンフォーム樹脂組成物、発泡エポキシ樹脂組成物及び発泡アクリル樹脂組成物等が挙げられる。これらの中では発泡ウレタンフォームが好ましい。
【0021】
チクソ性硬化性樹脂組成物とは、湿気硬化性樹脂組成物、空気硬化性樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物又は二液反応型硬化性樹脂組成物等の硬化前の状態がチクソ係数2.0以上の液状組成物をいい、例えば、微細な無機フィラーを充填したウレタン樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物又はアクリル樹脂組成物等が挙げられる。これらの中ではアクリル樹脂組成物が貫通壁が湿潤したり汚れたりしても乾燥等の下地面処理をする必要がなく、好ましい。
【0022】
硬化性無機組成物とは、水和反応等により硬化する無機組成物をいい、例えばポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、速硬化性セメント又は石膏等が挙げられる。これらの中では速硬化性セメントが好ましい。
【0023】
ひび割れ部分をコーティング材で被覆するための方法としては、コテ、パテ又は注入器等を使用する方法が挙げられるが、ひび割れ部分の背面側の内部を被覆するという操作を正面側から行うためには、管やノズル等を使用することが好ましい。
【0024】
本発明では、外径がひび割れ部分の幅より細く、長さがひび割れ部分の奥行きの50%以上のノズルを用いることを選択するが、90%以上のノズルを用いてコーティング材で被覆させることがより好ましい。このような補修方法により、短時間で容易にひび割れ補修ができる。
【0025】
貫通壁のひびわれ部分を反応硬化型のコーティング材で被覆した後、貫通壁のひび割れ部分内部の空隙を隙間なく充填できるグラウト材を注入する。
【0026】
一般的にグラウド材とは地盤の固化や岩盤の割れ目を充填するための材料をいうが、ここでグラウド材とは広く割れ目を充填するための材料をいう。グラウド材は隙間なく充填できる材質と粘度を有することが必要であり、このためには粘度が5000cps以下であることが好ましい。なお、本発明でいう粘度とは、B型粘度計を使用した、25℃、10rpmでの測定値をいう。
【0027】
グラウド材としては、硬化性エポキシ樹脂組成物、硬化性アクリル樹脂組成物、硬化性不飽和ポリエステル樹脂組成物又は硬化性無機組成物が硬化性の点で好ましい。これらの中では硬化性アクリル樹脂組成物が、貫通壁が湿潤したり汚れたりしても接着性が良いために下地面処理をする必要がなく、好ましい。本発明はこれらの一種又は二種以上が使用できる。
【0028】
ひび割れ部分の内部の空隙にグラウト材を注入するための方法としては特に制限はなく、注入器等により注入しても構わない。しかし、ひび割れ部分の内部へグラウト材を注入するためには、注入口を予めひび割れ部分の表面に設けておくことが好ましい。更に空気抜き用の管を設けても良い。
【0029】
硬化性エポキシ樹脂組成物とは、エポキシ樹脂に硬化剤として酸無水物、アミン又はチオール等を添加した液状組成物をいい、例えば市販のエポキシ樹脂組成物等が挙げられる。
【0030】
硬化性アクリル樹脂組成物とは、(メタ)アクリルモノマーを含有する液状樹脂組成物に硬化剤として過酸化物等を添加した液状樹脂組成物をいい、例えば市販のアクリル樹脂組成物等が挙げられる。
【0031】
硬化性不飽和ポリエステル樹脂組成物とは、不飽和ポリエステルを含有する液状樹脂組成物に硬化剤として過酸化物等を添加した液状樹脂組成物等をいい、例えば、市販の不飽和ポリエステル樹脂組成物が挙げられる。
【0032】
硬化性無機組成物とは、水和反応等により硬化する無機組成物をいい、例えばポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント又は石膏等が挙げられる。
【0033】
本発明の補修方法は例えば図1のように外壁と内壁とが積層した場合に使用した時に、ボードを取り除く必要がなく、短時間で容易にひび割れ補修ができるので好ましい。
【0034】
又、外壁と内壁とが積層していない場合であっても、外壁と内壁との隙間が狭かったりして背面側からの施工が実質的に困難な場合には本発明のひび割れ補修方法が適用できる。
【0035】
なお、本発明のコーティング材やグラウト材には、本発明の目的を損なわない範囲で、一般に使用されている各種エラストマー、溶剤、増量材、補強材、可塑剤、増粘剤、チクソトロピー付与剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、キレート化剤、染料、顔料、難燃剤、界面活性剤又は充填剤等の添加剤を使用できる。
【0036】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0037】
(実施例1)
図1のように外壁と内壁とが積層した場合に対して次のようなひび割れ補修を実施した。外壁と内壁は以下の通りである。
・外壁 厚さ12cmのコンクリート貫通壁で、最大幅1cm、奥行き12cmのひび割れ部分が壁全体を貫通している。
・内壁 厚さ12cmの断熱材からなるボードで、ひび割れ部分を有しない。
【0038】
先ず、外壁の正面側から直径1mm、長さ10cmのノズルをひび割れ部分の内部へ差し込んだ。そして、コーティング材として一液湿気硬化型の発泡ウレタンフォーム〔商品名HILTI−CF236、日本ヒルティ(株)製〕をノズルから吐出し、コンクリート外壁のひび割れ部分のうち、外壁の背面側のひび割れ部分を被覆した。その結果、外壁の正面側から奥行き10〜12cmのひび割れ部分を被覆できた。硬化時間は1時間であった。
【0039】
次にコーティング材として速硬化性セメント〔商品名:デンカQTex,Type−B、電気化学工業(株)製〕を使用して外壁正面側を被覆した。被覆時にはグラウト材の注入口としてパイプを差し込んでおき、他に空気孔を設けておいた。硬化時間は1時間であった。
【0040】
その後、グラウト材として硬化性アクリル樹脂組成物〔商品名ハードロックDK−530−005(粘度500cps、チクソ係数1.0)、電気化学工業(株)製〕をパイプからひび割れ部分の内部へ注入させ、硬化させた。硬化時間は1時間であった。この方法ではボードを取り除く必要がなく、短時間で容易に隙間なくひび割れ補修ができた。
【0041】
(実施例2)
コーティング材として硬化性アクリル樹脂組成物〔商品名ハードロックDK−530−400(粘度4万cps、チクソ係数4.0)、電気化学工業(株)製〕を直径1mmのノズルで吐出しながら、外壁の背面側と外壁の正面側とを被覆したこと以外は、実施例1と同様に実施した。硬化時間は1時間であった。この方法により短時間で容易に隙間なくひび割れ補修を実現できた。
【0042】
(比較例1)
コーティング材としてロジンを主成分とする市販のホットメルト接着剤を使用した以外は実施例1と同様に実施した。
【0043】
加熱溶融の適正条件を誤ると該ホットメルト接着剤が変質、酸化したりするので、適正温度条件の調節に多くの時間を費やした。又、ひび割れ部分を十分に被覆できずに隙間が見られたため、その隙間からグラウド材が漏れてしまい、ひび割れ部分の内部を隙間なく充填することができなかった。
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、背面側からの施工が実質的に困難な貫通壁に対して、正面側から容易に補修できるという施工的効果を有する。そして、短時間で容易に隙間なくひび割れ補修できるために、雨水の漏水や金属の腐食を防ぐことができ、かつ、補修した貫通壁の強度向上も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】貫通壁である外壁と、内壁とが積層した場合を示す概念図である。
【符号の説明】
1 内壁
2 外壁
3 ひび割れ部分

Claims (3)

  1. 背面側からの施工が実質的に困難な貫通壁のひび割れ補修方法において、長さがひび割れ部分の奥行きの50%以上のノズルを用いて該ひびわれ部分の背面側の内部を反応硬化型のコーティング材で被覆し、次いで正面側の内部を反応硬化型のコーティング材で被覆した後、該ひび割れ部分内部の空隙にグラウト材を注入するという一連の操作を正面側から行うことを特徴とする貫通壁のひび割れ補修方法。
  2. コーティング材が発泡性硬化性樹脂組成物、チクソ性硬化性樹脂組成物又は硬化性無機組成物であり、グラウト材が硬化性エポキシ樹脂組成物、硬化性アクリル樹脂組成物、硬化性不飽和ポリエステル樹脂組成物又は硬化性無機組成物であることを特徴とする、請求項1の貫通壁のひび割れ補修方法。
  3. グラウト材が硬化性アクリル樹脂組成物であることを特徴とする、請求項2の貫通壁のひび割れ補修方法。
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