JP3763339B2 - ラック軸およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ラック軸に関する。例えば、自動車のラックアンドピニオン式舵取り装置等に利用されるラック軸に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、ラックアンドピニオン式舵取り装置では、自動車のハンドルに連結されるピニオンが回転し、それに伴いピニオンと噛み合うラック軸が車両幅方向に移動して、その結果、ラック軸の端部に連結される車輪の向きを変えて、車両の操舵がなされる。このとき、ラック軸には、ピニオンからの軸方向の力の他、車輪からの曲げ力が作用する。
【0003】
上述のラック軸は、例えば、中空軸の外周面を冷間鍛造して平坦部を形成した後、この平坦部にラック歯を形成することにより製造している。ラック軸の外周面は平坦部と円周面で構成され、その断面形状が略D字形形状となっている(図5参照)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
この断面形状が略D字形形状の中空のラック軸では、曲げ力が働く方向による曲げ強度のばらつきが大きい傾向にある。例えば、ラック軸を反らせるように曲げ力がかかる場合を想定する。図5に示すように、ラック軸94の軸方向から見たとき、曲げの中立軸NAが、平坦部CLに対してなす角度Dが、約20度となる場合に、曲げ強度が著しく低下する。
【0005】
ところで、コスト低減の要請のため、レイアウトの異なる複数の舵取り装置でラック軸が共用化されている。従って、ラック軸が曲げ力を受ける方向もまちまちとなるが、上述のように曲げ強度が低い方向への曲げ負荷は避けなければならず、舵取り装置のレイアウトに制限があった。
また、舵取り装置に限らず一般の機械や装置等であっても、ラック軸を利用する場合に、曲げ方向に関して曲げ強度のばらつきが大きいと好ましくない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上述の技術的課題を解決し、曲げ方向に関する強度のばらつきを少なくできるラック軸およびこれの製造方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するため、請求項1に記載のラック軸は、ピニオンと噛み合うラック歯が軸方向の少なくとも一部の外周面に形成されたラック軸において、上記ラック軸は、外周面と内周面とが形成された中空軸からなり、上記外周面は、軸方向に延びる複数の平坦部を周方向に沿って配置することにより、断面形状を略六角形形状とされ、一の平坦部にラック歯が形成され、外周面の断面形状が六角形形状とされることにより、曲げ方向による曲げ強度のばらつきを少なくしつつ、上記ラック歯の歯幅が確保されるように形成されていて、上記各平坦部は、冷間鍛造により形成されてなり、上記冷間鍛造時に生じた応力が上記内周面の全周にわたって分散されており、上記内周面は、ラック歯が形成される上記一の平坦部の直近の内側に上記一の平坦部に略平行に形成された平面と、該平面に対向する円周面と、上記平面および上記円周面の両端を滑らかに接続する凹湾曲面とにより構成され、上記内周面の断面形状が、略D字形状に形成されたことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、断面形状を略六角形形状とすることにより、略D字形状に形成された従来のラック軸に比べて、曲げ方向に関する曲げ強度のばらつきが少なくなる。
【0009】
また、冷間鍛造される平坦部を複数設けて、全周にわたって配置することになるので、応力集中を緩和することができる。また、内周面の断面形状が、略D字形状に形成されたことにより、強度低下を防止することができる。
請求項2に記載のラック軸の製造方法は、ピニオンと噛み合うラック歯が外周面の一部に軸方向に形成されたラック軸の製造方法であって、外周面および内周面を有する中空軸の外周面に軸方向に延びる6つの平坦部を周方向に配して上記外周面の断面形状を略六角形形状をなすように形成し、且つ上記内周面を、上記外周面の一の平坦部の直近の内側にあり上記一の平坦部に略平行な平面と、該平面に対向する円周面と、上記平面および上記円周面の両端を滑らかに接続する凹湾曲面とに形成することにより、上記内周面の断面形状を略D字形状に形成する工程、および上記外周面の上記一の平坦部にラック歯を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施の形態のラック軸を、これを有した舵取り装置を例に説明する。図1は、上述の舵取り装置の概略構成を示す正面断面図である。
本舵取り装置1は、ラックアンドピニオン式のものである。舵取り装置1は、車両のハンドル(図示せず)に連結される入力軸2と、この入力軸2に連結されるピニオン3と、このピニオン3と噛み合うラック歯44が周面の一部に形成されたラック軸4と、ラック軸4を覆うハウジング5とを有している。
【0012】
ハウジング5は、ピニオン3およびラック軸4の噛み合い部を覆うギアボックス51と、このギアボックス51に連接された筒状のシリンダ52とにより構成されている。ハウジング5は、ギアボックス51内で軸受53を介してピニオン3を回転自在に支持し、また、シリンダ52の端部に設けられたラックブッシュ54と、ギアボックス51内に設けられたサポートヨーク56(図3参照)とを介してラック軸4を摺動自在に保持している。
【0013】
ラック軸4の両端部は、ハウジング5の両端の開口部から突出している。ラック軸4の両端部には、ボールジョイント6、タイロッド7等を介して操向車輪(図示せず)が連結されている。
また、本舵取り装置1は、ラック軸4の軸方向の移動を補助する操舵補助用のパワーシリンダ8と、このパワーシリンダ8に操舵方向と操舵抵抗に応じて圧油を供給するために入力軸2の周囲に設けられた油圧制御弁9とを有して、油圧パワーステアリング装置に構成されている。なお、本発明を、パワーシリンダ8および油圧制御弁9を省略したマニュアル型の舵取り装置にも適用することができる。
【0014】
ハンドルを操作すると、ピニオン3が回動し、これに噛み合うラック軸4がその軸方向(車幅方向)に移動する。これにより操向車輪を操向することができる。これとともに、操舵方向と操舵抵抗に応じて油圧制御弁9により圧油がパワーシリンダ8に供給され、パワーシリンダ8によりラック軸4に操向操作の補助力が付与される。
【0015】
ところで、ラック軸4には、操向車輪からタイロッド7、ボールジョイント6を介して、曲げ力が作用することがある。舵取り装置1の車両でのレイアウトに応じて、上述の曲げ力の方向も決まるが、曲げ力の方向が異なると、従来のラック軸を利用することができなくなる場合があった。これに対して、本発明では、曲げ力の方向に関わらずに共通のラック軸4を利用することができる。以下、詳細に説明する。
【0016】
ラック軸4は、真っ直ぐに延びた長尺の中空軸である。ラック軸4は、その軸方向の中間部にあってラック歯44を有する歯形成部41と、歯形成部41の両端から軸方向の両側に延設されてボールジョイント6に接続される2つの延設部42とを有しており、これら各部は一体に形成されている。
延設部42の断面形状は、円形環状に形成されている。延設部42の一部がパワーシリンダ8を貫通している。延設部42は、外周面が円周面からなるので、一般的なオイルシール等を利用できて、パワーシリンダ8で作動油を容易に封止することができ、また、曲げ方向にかかわらず均一な曲げ強度を得られる。
【0017】
歯形成部41の外周面41aには、図2の断面図に示すように、複数、例えば6つの平坦部41b〜41gが形成されている。これら複数の平坦部41b〜41gは、外周面41aの周方向に沿って配置され、断面形状を略6角形形状に構成している。各平坦部41b〜41gは、ラック軸4の軸方向に延びる平行な平面で形成されている。また、互いに隣接する平坦部41c〜41g同士は、円周面41rにより接続されている。一の平坦部41bにラック歯44、例えば斜歯が形成され、平坦部41c〜41gにはラック歯44は形成されずに、平面とされている。
【0018】
ラック歯44が形成された平坦部41bは、幅方向(その平坦部41bの表面に沿う方向であり、且つラック軸4の軸方向に直交する方向)に、他の平坦部41c〜41gと比べて長く形成されている。このように、ラック歯44を、幅方向に長い平坦部41bに形成しているので、ピニオン3とのかみ合い部での歯幅を確保できるようになっている。
【0019】
歯形成部41の内周面41hは、後述するように無理なく冷間鍛造できる形状であり、鍛造等の塑性変形による応力集中を緩和するような形状に形成されている。例えば、内周面41hは、平面41jと、円周面41iと、平面41jおよび円周面41iを滑らかに接続する凹湾曲面41kで形成され、略D字形状の断面形状を有している。平面41jは、ラック歯44の形成された平坦部41bの直近の内側に形成されている。また、凹湾曲面41kにより、冷間鍛造時に平面41jおよび円周面41iの接続部に皺が生じることが防止され、皺に起因する強度の低下や、また、皺に起因する焼き入れ時の焼き割れを防止することができる。
【0020】
また、ラック軸4は、図3の左側面断面図に示すように、ギアボックス51内で、ラック歯44に対する背面側から圧縮ばね57によってサポートヨーク56を介して付勢され、ピニオン3との噛み合いを維持するようにされている。
サポートヨーク56は、ギアボックス51に形成された保持孔51a内に保持され、ラック軸4の軸方向およびピニオン3の回転軸の延びる方向に共に直交する方向(図3の矢印M参照)に摺動自在とされている。サポートヨーク56は、柱状部材で、その一端で圧縮ばね57と当接し、その他端に、押圧面56aが形成されている。この押圧面56aは、複数、例えば3つの平面を含み、各平面は、ラック軸4の背面となる平坦部41d〜41fに面当たり状態でそれぞれ当接して、ラック軸4のその軸回りの回転を規制しつつ、ラック軸4を押しつけている。
【0021】
次に、本ラック軸4の歯形成部41の製造方法を図4を参照して説明する。
まず、断面略円形の鋼管90をワークとする(図4(a),(b)参照)。
このワークの歯形成部41となる部分を冷間鍛造する。すなわち、ワークに芯金91を挿入しておく。この芯金91の横断面形状は、ラック軸4の歯形成部41の内周面41hの形状に形成されている。ワークの外周面を全周にわたって、例えばプレス加工により塑性変形させて、複数の平坦部41b〜41g等の外周面41aおよび内周面41hを同時に形成する(図4(c),(d)参照)。
【0022】
次に、平坦部41bにラック歯44を形成する(図4(e),(f)参照)。このラック歯44の歯切り加工には、公知の方法を利用できる。さらに、ラック歯44を所定の硬度になるように硬化処理を施す。この硬化処理には、公知の熱処理や表面処理の方法を利用できる。
このように本実施の形態によれば、図2に示すように、ラック軸4の歯形成部41の横断面形状が略多角形形状であるので、略D字形状の外形に形成された従来のラック軸(図5参照)に比べて、曲げ方向に関する曲げ強度のばらつきが少なくなる。その結果、例えば、本ラック軸4が適用される舵取り装置1の車両でのレイアウトの自由度を高めることができる。従って、本ラック軸4を備える舵取り装置1をより多くの車両に適用することができる。
【0023】
ここで、曲げ方向による曲げ強度のばらつきが少なくなる作用は、断面形状が略多角形形状であればよく、中空軸の他、中実軸であってもよいし、また、ラック軸4の製造方法にもよらない。
また、ラック軸4は、冷間鍛造される複数の平坦部41b〜41gを外周面41aの全周にわたって配置しているので、応力集中を緩和することができる。というのは、中空軸からなるラック軸4の平坦部41b〜41gを冷間鍛造により形成する場合には、平坦部41b〜41gに近い内周面近傍に応力集中が生じることがあるが、このときの集中する応力を全周にわたって分散させることができるので、曲げ方向による曲げ強度のばらつきを確実に少なくすることができる。
【0024】
また、上述の製造方法では、冷間鍛造は各平坦部41b〜41gで同時にされるので、平坦部41b〜41g毎に分けて冷間鍛造する場合に比べて、冷間鍛造に伴う残留応力や歪み等も断面全体でバランスし易い。その結果、部分的な残留応力や歪みに起因する曲げ強度の低下を防止できる。その結果、曲げ方向による曲げ強度のばらつきを確実に少なくすることができる。
【0025】
また、サポートヨーク56の押圧面56aとラック軸4の平坦部41d〜41fとが平面同士で当接するので、ラック軸4のその軸回りの回転を抑制でき、操舵操作時の快適感である操舵フィーリングを向上させることができる。
また、ラック軸4の断面の外形形状は、略6角形が好ましい。というのは、3角形、4角形および5角形の場合には、平坦部を冷間鍛造する際の変形量が大きくなるので、残留応力や応力集中が生じることが懸念される。また、7角形以上の多角形の場合には、6角形の場合と断面の大きさをほぼ同じにしたときに、ラック歯44の歯幅を十分に確保し難くなるからである。
【0026】
なお、横断面の外形に関する上述の略多角形形状とは、外形の隣接する辺同士が角を形成する通常の多角形形状の他、外形で隣接する辺同士が曲線で互いに接続される上述したような多辺形形状も含み、また、多角形としては、各辺の長さが同じの正多角形の他、各辺の長さが異なるものも含む趣旨である。
【0027】
また、ラック軸4の各平坦部41b〜41gは、公知の加工方法を利用して形成してもよい。
その他、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【0028】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明によれば、曲げ方向による曲げ強度のばらつきを少なくできるので、本ラック軸が適用される舵取り装置の車両でのレイアウトの自由度を高めることができる。また、冷間鍛造された複数の平坦部を全周に配置することによって、応力を分散させることができるので、曲げ方向による曲げ強度のばらつきを確実に少なくすることができる。また、強度低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態のラック軸を備える舵取り装置の概略構成を示す一部断面正面図である。
【図2】図1に示すラック軸の左側面断面図である。
【図3】図1に示す舵取り装置の左側面断面図であり、ラック軸とピニオンとの噛み合い部近傍の断面を示す。
【図4】図2に示すラック軸の製造工程を説明するための断面図であり、(a)の正面断面図および(b)の側面断面図、(c)の正面断面図および(d)の側面断面図、(e)の正面断面図および(f)の側面断面図の各対がそれぞれ対応している。
【図5】従来のラック軸の断面図である。
【符号の説明】
3 ピニオン
4 ラック軸
41a 外周面
41b 平坦部(一の平坦部)
41c〜41g 平坦部
41h 内周面
41i 円周面
41j 平面
41k 凹湾曲面
44 ラック歯
Claims (2)
- ピニオンと噛み合うラック歯が軸方向の少なくとも一部の外周面に形成されたラック軸において、
上記ラック軸は、外周面と内周面とが形成された中空軸からなり、
上記外周面は、軸方向に延びる複数の平坦部を周方向に沿って配置することにより、断面形状を略六角形形状とされ、一の平坦部にラック歯が形成され、
外周面の断面形状が六角形形状とされることにより、曲げ方向による曲げ強度のばらつきを少なくしつつ、上記ラック歯の歯幅が確保されるように形成されていて、
上記各平坦部は、冷間鍛造により形成されてなり、上記冷間鍛造時に生じた応力が上記内周面の全周にわたって分散されており、
上記内周面は、ラック歯が形成される上記一の平坦部の直近の内側に上記一の平坦部に略平行に形成された平面と、該平面に対向する円周面と、上記平面および上記円周面の両端を滑らかに接続する凹湾曲面とにより構成され、上記内周面の断面形状が、略D字形状に形成されたことを特徴とするラック軸。 - ピニオンと噛み合うラック歯が外周面の一部に軸方向に形成されたラック軸の製造方法であって、
外周面および内周面を有する中空軸の外周面に軸方向に延びる6つの平坦部を周方向に配して上記外周面の断面形状を略六角形形状をなすように形成し、且つ上記内周面を、上記外周面の一の平坦部の直近の内側にあり上記一の平坦部に略平行な平面と、該平面に対向する円周面と、上記平面および上記円周面の両端を滑らかに接続する凹湾曲面とに形成することにより、上記内周面の断面形状を略D字形状に形成する工程、および
上記外周面の上記一の平坦部にラック歯を形成する工程
を含むことを特徴とするラック軸の製造方法。
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