JP3762965B2 - 廃棄物など汚染物質に含まれる重金属元素の不溶化処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、有害重金属を含有する産業廃棄物およびその焼却灰または飛灰、都市ゴミ焼却灰または飛灰、鉱滓等の他、重金属汚染土壌・底質、あるいは重金属含有排水等汚染物質中の重金属元素(カドミウム、亜鉛、銅、水銀、鉛、ヒ素、セレン、ニッケルなど)を不溶化するのに有効で、かつ、処理作業中に有害ガスの発生が少ない不溶化処理方法に関するものであり、特に、pH4程度の酸性水溶液に長期間さらされても有害重金属の不溶化効果が保持される不溶化処理方法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
産業廃棄物、焼却灰、土壌・底質および排水等の中には可溶性重金属元素を基準値以上含み地下水など周辺環境を汚染する懸念のあるものも多く、それらが環境に及ぼす影響を事前に評価するため、溶出試験が行われている。溶出試験により汚染物質の溶出が認められた場合、有害成分の溶出量が産業廃棄物の判定基準よりも高いときには遮断型、また低いときには管理型(遮水型)の構造を有する処理施設等に最終処分あるいは封じ込めることとされている。しかし、遮断型処分場は受入れ容量が極めて少なく、また、管理型処分場に比べて埋め立て処分費用が高いため、重金属含有汚染物質をセメント固化、薬剤による固定化、酸などによる溶出・分離除去、あるいは焼成・溶融固化などの処理を施して管理型処分場に埋め立て処分する場合も多い。このような状況にあることから、管理型処分場に埋め立てても長期にわたり安定な廃棄物の重金属不溶化処理技術を開発することが望まれている。
【0003】
従来、重金属溶出量の高い廃棄物等汚染物質に含まれる可溶性重金属を不溶化処理する方法としては、汚染物質にセメントを添加・混合して練り混ぜ、造粒または成形して十分養生固化する処理法が広く用いられている。しかし、セメント固化法は処理物のpHが高くなるため鉛等両性金属の溶出を完全に抑えることが難しいばかりでなく、養生に時間がかかるなどの問題がある。また、酸類に重金属を溶出させた上で脱水処理し重金属除去を行う方法が提案されているが、酸抽出・洗浄・ろ過操作のほかに、重金属が溶出した酸溶液の処分を別個に行う必要があるなど作業が極めて煩雑である。この他、焼成することにより重金属が溶出しないように化学的に安定な状態にする方法、あるいは溶融し冷却・固化して重金属を封じ込めるなどして溶出を防止する方法も提案されているが、重金属類の揮散、ばいじんの発生の他、設備費・ランニングコストなど経済的負担が大きいことが知られている。そこで、この問題を解決するため、特開昭55−1830、特開昭59−73091、特開平4−267982、特開平5−50055、特開平7−284748、特開平8−66671などにジチオカルバミン酸系化合物等のキレート形成剤や硫化ナトリウムや硫化水素ナトリウム等の水溶性硫化物を使用することによって重金属を安定化する技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、キレート形成による固定化法はpH7前後の中性域においては優れた重金属固定化効果が認められるが、pH4程度の酸性域では固定化効果が失われるので、埋立後酸性雨などに起因する低pHの水と接触した場合には重金属の溶出が懸念される。また、高アルカリ性で重金属含有量の高い廃棄物に対してはキレート剤を大量に加える必要があるなどの問題がある。一方,水溶性硫化物を添加・混合し、重金属を硫化物として固定化する方法は、重金属イオンと硫化物イオンとの反応性が極めて高いため速やかに重金属硫化物沈殿を生成する。この方法で得られた重金属硫化物は水に対する溶解度が極めて小さく、優れた重金属固定化処理法といえるが、重金属硫化物の粒径が0.01μm程度と極めて微細であることから、以下に述べるような固体微粒子そのものによる環境汚染が危惧される。一般に1μm以下の粒子は環境中で魚のエラを通過することが知られており、これをもとに廃棄物の溶出試験では孔径1μmのグラスファイバーフィルターでろ過することとしている。また、汚染土壌の溶出試験では汚染土壌からの水が地下水に混入するときには粒子性のものは除かれるので、それを再現するよう遠心分離および孔径0.45μmのメンブランフィルターで固液分離することとしている。このことからも判断されるように、従来の硫化物化処理法では、難溶性の重金属硫化物として固定化できるが、微粒子として周辺環境を汚染する懸念がある。更には、硫化物化処理時に有害ガスである硫化水素の発生など作業環境上の問題も指摘されている。
【0005】
近年、産業廃棄物や都市ゴミ等廃棄物は減容化のため焼却処分することが多く、焼却灰や焼却飛灰が大量に発生している。焼却場では焼却時に発生する塩化水素、硫黄酸化物等のガスを捕捉するために消石灰や生石灰を吹き込む乾式あるいは半乾式の排ガス処理装置を設置していることが多く、そこから排出される焼却灰は高いアルカリ性を示す。このような焼却灰あるいは飛灰を対象に、我が国の溶出試験の公定法である環境庁告示第13号あるいは第46号により重金属溶出量を測定すると、他の溶出試験法で得られる結果よりもかなり低値を示すことが知られている。これは環境庁告示第13号あるいは第46号の溶出試験法で用いる溶出溶媒にpH緩衝能がないためである。これらの試験法により高アルカリ性の焼却灰あるいは飛灰、およびセメントで固化処理した汚染物質などの溶出試験を行った場合、溶媒のpHがアルカリ側に偏るため、カドミウム、水銀、銅、ニッケル等の重金属元素の溶出量を著しく低く判断してしまう恐れがある。欧米諸国ではこの問題を回避するため、国際的に灰の処理問題を扱うワーキンググループ(IAWG:lnternational Ash Working Group)を設置し、想定しうる最悪の状況下で最終的に溶出する可能性のある量を把握するためのアベイラビリティ試験を提案している。アベイラビリティ試験とは、廃棄物等汚染物質が何らかの要因で細かく粉砕された状態になる、無限量の酸性の溶媒にさらされる、といった廃棄物等にとって非常に過酷な条件下において最終的に溶出する可能性のある量を意味する最大溶出可能量(アベイラビリティ)を求めるための溶出試験方法である。この最大溶出可能量を指標として、汚染物質やその固定化処理物の有害/非有害の決定あるいは汚染物質を固定化処理した際の処理効果を評価している。本試験の溶出条件としては重金属類が容易に溶出されるように試料粒径を125μm以下、固液比を1/100に設定しているほか、溶媒pHについてはpH7に保持して3時間撹拌およびpH4に保持して3時間撹拌、計6時間の二段階バッチ方式の溶出試験である。なお、溶媒pH4は埋め立て後の接触溶媒として酸性雨などを考慮して設定している。このようにできるだけ安全サイドで判定できることを念頭においたアベイラビリティ試験によって、前述した従来からの手法により重金属汚染物質を固定化した処理物の溶出試験を行うと、環境庁告示第13号あるいは第46号の溶出試験で判定基準値あるいは土壌環境基準値以下の溶出量を示すものでも、100倍〜10000倍の最大溶出可能量を示すことが多く、長期的に安定した有害重金属不溶化効果を保持できる有効な不溶化処理方法は提供されていないといえる。
【0006】
以上述べたように、有害重金属(カドミウム、亜鉛、銅、水銀、鉛、ヒ素、セレン、ニッケルなど)を含有する各種廃棄物、汚染土壌および底質などを長期間にわたり安定に不溶化処理する有効な方法は提供されていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような汚染物質処理対策の実情に鑑み、カドミウム、亜鉛、銅、水銀、鉛、ヒ素、セレン、ニッケルなどの有害重金属を含有する各種廃棄物、土壌・底質および排水中の重金属元素を固定化し、長期間にわたり再溶出しないように安定化することが可能で、かつ作業環境を悪化させない安全な廃棄物の重金属不溶化処理方法を提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するため、汚染物質から溶出する重金属元素を硫化物化処理により不溶化する方法に着目し、水溶液中で重金属イオンと硫化物イオンから重金属硫化物沈殿が生成する硫化物化反応を制御する方法について検討した。粒径が大きく、結晶化度の高い重金属硫化物沈殿を生成することを目的として硫化物化処理薬剤の種類と添加量、反応温度・時間などについて鋭意研究し、チオ硫酸化合物を用いた均一沈殿反応で硫化物化処理する方法を見出し本発明を完成させたものである。即ち、重金属汚染物質に、重金属含有量に対してモル比で5〜10倍のチオ硫酸化合物またはチオ硫酸化合物水溶液を加え、更に、必要に応じて水を添加・混合した後、100〜120℃で5〜36時間加熱撹拌することにより、重金属は径1μm以上の硫化物沈殿粒子として固定・不溶化される。この重金属硫化物はこれまでの硫化物化処理法の場合よりも結晶子サイズの大きい結晶化度の高い硫化物沈殿である。また、この沈殿は重金属硫化物の他にイオウも共生しており、イオウが重金属硫化物と水との接触を抑制して重金属の溶出を低下させることも期待される。本処理法による重金属不溶化効果を国際的に認知されている溶出試験であるアベイラビリテイ試験で評価したところ、この方法で処理した焼却飛灰の重金属最大溶出可能量はこれまで一般的に用いられている通常の沈殿反応で硫化物化処理した焼却飛灰よりも低値を示したことから、本処理法は長期間にわたり重金属が溶出しない安定な不溶化効果を有しているといえる。更に、本方法は硫化物化処理時に発生する硫化水素ガス量が従来からの硫化物化処理法に比べて極めて低く、作業環境を悪化させない安全な処理方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。先ず、本発明において処理の対象とする汚染物質とは、カドミウム、亜鉛、銅、水銀、鉛、ヒ素、セレン、ニッケルなどの有害重金属を含有する産業廃棄物およびその焼却灰または飛灰、都市ゴミ焼却灰または飛灰、鉱滓等の他、土壌および底質、あるいは排水などである。なお、これら汚染物質に径5mm以上の粗い粒子が含まれている場合には硫化物化反応が十分に進むよう粉砕する必要がある。
【0010】
不溶化処理剤としてはチオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウムなどのチオ硫酸化合物またはそれらの水溶液を用いる。チオ硫酸化合物の添加量は処理対象である汚染物質の重金属含有量に対してモル比で5倍以上であればよいが、経済性を考慮し5〜10倍とする。
【0011】
汚染物質の重金属不溶化処理は次のように行う。▲1▼汚染物質、▲2▼不溶化処理剤、および▲3▼処理剤の均一分散と硫化物化反応を進める上で水が不足している場合には必要量の水、以上の物質を、▲1▼+▲2▼あるいは▲1▼+▲2▼+▲3▼の混合物となるように適宜配合した後、100〜120℃で5〜36時間加熱撹拌して汚染物質中の可溶性重金属を難溶性の硫化物沈殿として固定化する。不溶化効果に大きな影響を与える処理条件としては、可溶性重金属に対するチオ硫酸化合物の添加量、汚染物質スラリーあるいは汚染物質溶液のpH、加熱温度および時間などが主なものである。
【0012】
カドミウム濃度4000mg/Lの模擬排水溶液にチオ硫酸化合物水溶液を加え95〜120℃で加熱しながら撹拌すると、10〜20分で無色透明な混合溶液中に淡黄色沈殿が目視されるようになり、処理時間の経過に従って沈殿の色が淡黄〜濃黄〜橙〜暗橙と変化すると共に沈殿生成量が増加し、溶液中のカドミウム濃度が低下する。沈殿粒子はX線回折により難溶性の硫化カドミウムとイオウから構成されていることが分かった。チオ硫酸化合物/カドミウムのモル配合比が5倍以上では、100℃で5時間以上処理することによって極めて高い不溶化効果が得られる。カドミウムに対するチオ硫酸化合物の配合比および加熱温度が高いほど、また、加熱処理時間が長いほど硫化カドミウムとして固定化される割合が高くなり、溶液中のカドミウム濃度は低下する。なお、チオ硫酸化合物/カドミウムのモル配合比が1/1あるいは2/1の場合、100℃、5時間処理で固定化効果が認められるが、十分ではない。
【0013】
チオ硫酸化合物をカドミウムに対してモル比で10倍添加し、100℃で24時間加熱処理した場合の沈殿粒子は図1に示すように平滑な表面を有する径1〜2μmの球状を呈している。また、チオ硫酸化合物をカドミウムに対してモル比で2倍添加し、95℃、6時間加熱処理した場合は、図2に示すように径0.2μm前後と前述の粒子よりも粒径が小さくなっているが、後述する硫化ナトリウムを用いた沈殿よりも粗大粒子化していることが分かる。従来から硫化物化処理として用いられている硫化ナトリウムをカドミウムに対してモル比で10倍添加し、100℃、5時間加熱処理して得られた沈殿からは硫化カドミウムのみが検出されておりイオウは生成されない。また、沈殿粒子の形状は図3に示すように径0.01μm以下の極めて微細な粒状を呈している。この形状は硫化ナトリウム添加量、加熱温度・時間を増大させてもほとんど変化はみられず、チオ硫酸化合物を用いた場合の粒子形状とは大きく異なる。この差異は、硫化カドミウムの沈殿反応の違いによると考えられる。チオ硫酸化合物を用いた場合は、次の化学反応式で示されるようにチオ硫酸化合物の分解が反応律速となる均一沈殿反応であり、カドミウムが硫化物として析出を終えるまで析出条件が大きく変化しないため、初期に沈殿生成した硫化カドミウムを核として更に硫化カドミウムが析出して粒径の大きな球状粒子に成長すると考えられる。また、同時に反応生成するイオウが硫化カドミウムと水との接触を抑制し、硫化カドミウムの溶出を低下させる効果も期待される。
2R2S2O3+CdCl2+H2O→CdS+2RCl+R2SO4+S+H2SO3(R:Na,K,NH4など)
なお、チオ硫酸化合物の陽イオンとしては化学式の注釈に示すようにナトリウム、カリウムおよびアンモニウムを考えているが、これらのチオ硫酸化合物はいずれも水に容易に溶け、上記の反応が進むことはいうまでもない。また、汚染物質が酸性の場合、汚染物質および不溶化処理剤等からなる混合溶液も酸性となり、チオ硫酸イオンが容易に分解されるため、常温で撹拌処理するだけでも上記反応が進行する。一方、硫化ナトリウム溶液を添加した場合は、下記の化学反応式で示されるように硫化物イオンとカドミウムイオンとが直接反応して硫化カドミウムを生成する通常の沈殿反応であり、混合すると瞬時に硫化カドミウムの黄色い沈殿が生じる。この反応は極めて速やかに進行するので、反応速度の緩やかなチオ硫酸化合物による硫化カドミウム沈殿のような粒成長は生じない。
Na2S+CdCl2→CdS+2NaCl
なお、この処理方法は反応時に硫化水素ガスが発生し作業環境が悪化するなどの問題がある。
【0014】
次に、硫化物化処理条件が硫化カドミウムの結晶子サイズ等結晶構造に与える影響を調べるため粉末X線回折法により結晶面の回折線半値幅の検討を行い、処理薬剤として硫化ナトリウムよりもチオ硫酸化合物を用いた場合のほうが硫化カドミウムの結晶子サイズが大きくなることが分かった。硫化カドミウムは黄色顔料として利用されていたことから発色性について研究されており、結晶子サイズが大きくなるほど色調が長波長側、すなわち黄色から橙色へと変化することが知られている。チオ硫酸化合物および硫化ナトリウムを用いて硫化物化処理をそれぞれ開始すると、硫化ナトリウムの場合は混合と同時に黄色の沈殿が生じるが、チオ硫酸化合物の場合は沈殿生成が極めて遅く、反応開始1〜2時間までは硫化ナトリウムによる沈殿物のほうが濃い黄色を呈している。しかし、処理時間が長くなるとチオ硫酸化合物による沈殿物のほうが濃い橙色を示す。このことからも、チオ硫酸化合物を用いて長時間加熱処理を行うことによって結晶性が高く化学的にも安定な硫化カドミウム沈殿が生成されることが分かる。
【0015】
重金属含有焼却飛灰等の固体試料の場合は、チオ硫酸化合物水溶液および水を添加・混合し、100〜120℃で5時間以上硫化物化処理することにより重金属が不溶化される。こうして得られた処理飛灰の不溶化効果を評価するためアベイラビリティ試験を行い最大溶出可能量を測定したところ、焼却飛灰の重金属含有量に対してモル比で10倍のチオ硫酸化合物を添加し100℃で24時間硫化物化処理した飛灰の重金属最大溶出可能量は未処理焼却飛灰を100%として3%以下の値まで低下した。このことは、未処理飛灰が過酷な環境下におかれた場合に溶出する懸念がある重金属量の97%以上を、本発明による方法で不溶化処理することによって、同様の状態にさらされた場合においても溶出しない極めて安定な形態に固定化できることを意味する。なお、同じ焼却飛灰を重金属含有量に対してモル比で10倍の硫化ナトリウムを添加し100℃で24時間硫化物化処理した飛灰の重金属最大溶出可能量は未処理焼却飛灰を100%として28%程度の値であり、チオ硫酸化合物ほどの固定化効果は認められない。硫化物化処理薬剤としてチオ硫酸化合物と硫化ナトリウムを使用した際の最大溶出可能量の違いは、硫化物化反応で沈殿生成した重金属硫化物粒子の性状、特に粒子径、結晶子サイズ等結晶性、イオウ粒子の混在等の違いが起因していると考えられる。
【0016】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら制限されるものではない
(比較例1〜4)重金属含有模擬排水としてカドミウム濃度4400mg/Lの0.04mol/L塩化カドミウム水溶液を作成し、チオ硫酸ナトリウムによるカドミウムの不溶化処理を行った。チオ硫酸ナトリウムの添加量は、塩化カドミウム1モルに対して1あるいは2モルとした。合計液量が100mlとなるよう計量混合し、200mlコニカルビーカーに入れ、ホットスターラーで撹拌しながら表1に示す条件で加温し硫化物化処理を行った。硫化物化処理後の溶液を静置し、上澄み液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過し、ろ液中のカドミウム濃度をICP発光分光分析装置にて測定し、カドミウムの固定化効果を調べた。結果を表1に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
表1に示した結果から明らかなように、不溶化処理剤としてチオ硫酸ナトリウムを塩化カドミウム1モルに対して1あるいは2モル添加し、95℃で3〜6時間加熱撹拌処理した場合、不溶化効果は認められるが十分ではなかった。
【0019】
(実施例1〜4)比較例1〜4と同じ塩化カドミウム溶液を対象として、チオ硫酸ナトリウムを塩化カドミウム1モルに対して5あるいは10モル添加し表2に示す条件下で固定化処理を行った。ろ液中のカドミウム濃度の分析結果を表2に示す。
【0020】
【表2】
【0021】
表2に示した結果から明らかなように、不溶化処理剤としてチオ硫酸ナトリウムを塩化カドミウム1モルに対して5あるいは10モル添加し、100℃で5〜24時間加熱撹拌処理した場合、溶液中のカドミウム濃度は著しく低下した。なお、不溶化処理剤としてチオ硫酸ナトリウムを塩化カドミウム1モルに対して5あるいは10モル添加しているが、チオ硫酸ナトリウム添加量を更に多くすると溶液中のカドミウム濃度は添加量に応じて低下するのみで特に支障は生じない。但し、不溶化処理に際しては薬剤の使用量等の経済性を考慮しなければならない。
【0022】
(実施例5〜6)環境庁告示第13号による溶出試験で240mg/Lのカドミウム溶出量を示す焼却飛灰(カドミウム含有量4000mg/kg、亜鉛含有量3000mg/kg、銅含有量400mg/kg)50gに、飛灰のカドミウム含有量に対してモル比で5あるいは10倍のチオ硫酸ナトリウムを添加し、飛灰重量に対して溶液容量が2倍になるよう水を加えて、100℃、24時間加熱・撹拌し不溶化処理を行った。これら処理物の不溶化効果を調べるため、環境庁告示第13号に準じて溶出試験を行った。結果を表3に示す。
【0023】
【表3】
【0024】
表3に示した結果から明らかなように、不溶化処理剤としてチオ硫酸ナトリウムを焼却飛灰のカドミウム含有量1モルに対して5あるいは10モル添加し、100℃で24時間加熱撹拌処理した不溶化効果は極めて大きく、産業廃棄物の判定基準値以下となった。また、亜鉛および銅についてもカドミウムと同様、不溶化処理された。この他、水銀、鉛、ヒ素、セレン、ニッケル各元素の硫化物は難溶性であり、それらの重金属元素の不溶化処理法としても効果的である。
【0025】
(実施例7)実施例5および実施例6で処理対象とした焼却飛灰8gに、カドミウム含有量の10倍モル量のチオ硫酸ナトリウムおよび水を添加し、100℃、24時間加熱処理した不溶化処理物についてアベイラビリティ試験を行い、本発明による重金属不溶化処理効果の確認を行った。結果を表4に示す。
【0026】
【表4】
【0027】
表4に示した結果から明らかなように、不溶化処理剤としてチオ硫酸ナトリウムを焼却飛灰のカドミウム含有量1モルに対して10モル添加し、100℃で24時間加熱撹拌処理した不溶化処理物は、未処理飛灰が過酷な環境下におかれた場合に溶出する懸念のある重金属量の97%以上を、同様の状態にさらされた場合においても溶出しない極めて安定な形態に固定化できる。
【0028】
(比較例5)実施例7で処理対象とした焼却飛灰8gに、カドミウム含有量の10倍モル量の硫化ナトリウムおよび水を添加し、100℃、24時間加熱処理した不溶化処理物についてアベイラビリティ試験を行い、チオ硫酸ナトリウムを用いた場合の不溶化処理物との比較検討を行った。結果を表5に示す。
【0029】
【表5】
【0030】
表5に示した結果から明らかなように、不溶化処理剤として硫化ナトリウムを焼却飛灰のカドミウム含有量1モルに対して10モル添加し、100℃で24時間加熱撹拌処理した不溶化処理物は、チオ硫酸ナトリウム処理物ほどの不溶化効果は得られない。
【0031】
【発明の効果】
本発明の重金属不溶化処理方法を用いると、各種廃棄物、土壌・底質および排水中に含まれる重金属元素が難溶性の重金属硫化物沈殿粒子として固定化され、酸性水溶液に長期間さらされる等過酷な環境においても重金属が再溶出しない安定処理物にすることが可能で、しかも、有毒ガスの発生を低減し作業環境を悪化させない安全な処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 カドミウム水溶液にチオ硫酸化合物をカドミウムに対してモル比で10倍量添加し、100℃、24時間加熱処理して得られた沈殿の粒子形状。
【図2】 カドミウム水溶液にチオ硫酸化合物をカドミウムに対してモル比で2倍量添加し、95℃、6時間加熱処理して得られた沈殿の粒子形状。
【図3】 カドミウム水溶液に硫化ナトリウムをカドミウムに対してモル比で10倍量添加し、100℃、5時間加熱処理して得られた沈殿の粒子形状。
Claims (1)
- チオ硫酸化合物を、汚染物質中の重金属含有量に対してモル比で5〜10倍添加するとともに必要に応じて更に水を添加し、100〜120℃で5〜36時間加熱処理することを特徴とする産業廃棄物、都市ゴミ焼却灰、土壌・底質、あるいは排水など汚染物質中の重金属元素の不溶化処理方法
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