JP3762528B2 - α+β型チタン合金の短時間高周波熱処理方法 - Google Patents

α+β型チタン合金の短時間高周波熱処理方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、α+β型チタン合金の降伏強度、引張強度および疲労強度を向上させるための高周波熱処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、α+β型チタン合金の高強度化を目的とした熱処理法として、溶体化時効法が用いられてきた。この方法は、溶体化処理および時効処理からなる2段階の熱処理法である。例えば、代表的なα+β型チタン合金であるTi−6Al−4V合金の場合、まず溶体化温度(900℃〜970℃)において10分〜1時間加熱・保持後、さらに水冷することによりβ相をα’相(マルテンサイト)へ変態させる。次いで、時効処理(480℃〜690℃、2〜6時間、空冷)を施すことにより不安定なα’相を分解させ、最終的に微細なα相を析出させる。この熱処理により、引張強度は1100MPa以上、また降伏強度は1000MPa以上まで改善される。
【0003】
【発明が解決しようとする問題点】
しかし、上記した従来の熱処理では、溶体化処理時に合金成分が母相に均一に固溶するように長い時間の加熱処理を必要とする。これは、合金成分、例えば上記合金ではV(β安定化元素)を拡散させることにより単位体積当たりの成分濃度(V濃度)を低下させてβ相を不安定にし、よってα’マルテンサイトへの変態を容易にするためである。
したがって従来のα+β型チタン合金の熱処理方法では、長時間の溶体化処理が不可欠であり、このため生産性に劣るという問題がある。これに対しては、加熱温度を高くして加熱時間を短縮することが考えられる。しかし、過度に高い加熱温度は合金を酸化させるため加熱温度の上昇には限度があり、また固溶の均一性という点では、加熱温度よりも加熱時間が大きく影響することから、加熱温度を上げても短縮できる加熱時間は僅かである。このため加熱温度の上昇は、加熱時間の短縮にあまり効果がないばかりか、却って結晶粒を粗大化させて、強度の低下や延性の低下等を招くという問題がある。すなわち、従来は、熱処理品の品質を考慮すれば、溶体化処理の短時間化は困難であると考えられている。
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、良好な組織を有する熱処理チタン合金を効率よく処理、製造することができるα+β型チタン合金の短時間高周波熱処理方法を提供することを目的とする。
【0004】
【問題点を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明のα+β型チタン合金の短時間高周波熱処理方法のうち第1の発明は、α+β型チタン合金であるTi−6Al−4V合金を高周波誘導加熱により1秒〜600秒未満の時間および860℃〜1100℃の温度で短時間加熱した後、急冷してα’相を生成させることを特徴とする。
第2の発明のα+β型チタン合金の短時間高周波熱処理方法は、第1の発明において、kHz〜400kHzの周波数による高周波誘導加熱を行うことを特徴とする。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明は、被処理材であるα+β型チタン合金の表面近傍にワークコイルを配置し、これに高周波電圧を供給することにより、被処理材に誘導電流を生じさせ、よって被処理材を所定の温度において短時間で加熱・保持した後、さらに水冷等により急冷するものである。
【0006】
ここで、本発明において被処理材とされるα+β型チタン合金は、α相とβ相とが混在した組織を有するものである。この合金は、α型チタン合金、β型チタン合金とともにチタン合金を大別する一つの種別であり、この種別には多くの合金が含まれている。その代表例としてTi−6Al−4Vが知られている
【0007】
上記合金を高周波誘導加熱する際には、高周波を発生させる高周波発生装置と、誘導磁界を発生させるワークコイルとを用意する。ただし、本発明としては、上記発生装置やワークコイルの構造が限定されるものではなく、公知の装置を利用することもできる。なお、上記発生装置で発生させる高周波の周波数としては、1kHz以上が挙げられる。この周波数の高周波電流をワークコイルに印加して誘導磁界を発生させることにより、チタン合金が急速昇温される。ただし、周波数が400kHzを越えると表皮効果が顕著になり、被処理材全体を適温に加熱できなくなるので、周波数は1kHz〜400kHzの範囲内とするのが望ましい。
上記急速昇温に際しては、合金成分が速やかに拡散し、均一な溶体化を短時間で行うことができる。なお、高周波誘導加熱によって合金成分が速やかに拡散する理由は明らかではないが、急速昇温または被処理材に発生する高周波うず電流が合金成分の拡散速度に何らかの影響を与えているものと考えられる。
なお、上記の理由で印加する高周波電圧の周波数は、さらに、下限を3kHz、上限を200kHzとするのが一層望ましい。
【0008】
上記誘導加熱では、その加熱温度を適切に定めることにより溶体化が均一かつ速やかになされる。なお、本発明では、上記したように誘導加熱によって合金成分の速やかな拡散が起こっており、合金成分の均一な固溶化においては、適温での加熱であれば、従来の溶体化法と異なり長時間の加熱は必要としない。この誘導加熱における適当な加熱温度としては800〜1200℃が挙げられる。
また、合金成分の均一な固溶化をより確実にして良好な熱処理性を得るという観点から、下限を860℃に限定するのが望ましく、さらに下限を890℃とするのが一層望ましい。一方、結晶粒の粗大化を防ぐという観点から、上限を1100℃に限定するのが望ましく、さらに上限を1000℃とするのが一層望ましい。
【0009】
高周波誘導による加熱では、溶体化を達成するためには、少なくとも1秒の加熱時間があればよい。一方、600秒の加熱では、溶体化の進行の効果は飽和しており、それ以上の時間の加熱は無駄であるばかりか、却って結晶粒の粗大化を招くという弊害が生じるため、加熱時間は1秒〜600秒未満とするのが望ましい。なお、均一に溶体化を図るという観点からは、加熱時間の下限をさらに5秒とするのが一層望ましく、また、上記と同様の理由で上限を300秒とするのが一層望ましい。
上記短時間加熱後は、従来法と同様に、被処理材を水冷等により急冷する。なお、急冷後には、従来と同様に時効を行うことができる。この時効の条件を例示すれば、480℃〜690℃、2〜6時間の加熱後、空冷が挙げられる。
【0010】
上述の高周波誘導加熱技術を用いてα+β型チタン合金の短時間熱処理を行うことにより、高硬さ(Hv400程度)を有するα’相が均一に生成される。このα’相の生成に伴う塑性変形抵抗の上昇により、α+β型チタン合金の降伏強度、引張強度および疲労強度は大幅に向上する。
本熱処理法を用いた際に生成される組織は、溶体化処理により得られる組織と同等であり、本熱処理法を長時間に及ぶ一般的な溶体化処理に代替して短時間の熱処理法として使用することができ、これにより処理品の品質を損なうことなく製造効率を大幅に向上させることができる。
なお、上記熱処理後に適当な時効を行うことにより微細なα相が析出し、強度、靭性を高めることができる。
【0011】
【実施例】
a)実施条件
代表的なα+β型チタン合金であるTi−6Al−4V合金を被処理材として円柱形状に成形し、また、高周波発生装置には150kHzの高周波電圧を出力するものを用意した。次に、上記被処理材の周囲をワークコイルで囲み、このワークコイルに上記高周波発生装置で発生させた高周波電圧を印加して誘導磁界を発生させ、被処理材を60秒間、高周波誘導加熱した。この加熱の際に、高周波発生装置の出力を変えて被処理材の加熱温度が、それぞれ700℃、810℃、900℃、990℃、1100℃および1180℃となるように複数の試験を行い、上記加熱時間後、被処理材を水冷した。
得られた供試材について、組織観察、X線マイクロ分析、硬さ測定、引張試験および平面曲げ疲労試験を行った。なお平面曲げ疲労試験は、室温・大気中、繰返し速度33Hz、応力比−1の条件にて行った。
【0012】
b)実施結果
各供試材は、組織観察、X線マイクロ分析の結果、短時間の熱処理であるにもかかわらず、添加元素の急速な拡散が認められた。
特に、図1に示すように、810℃以上の温度に加熱した供試材では、明らかに熱処理の効果が出現しており、強度の上昇、疲労強度の向上効果が見られた。また、900℃以上の温度域で加熱した供試材ではα’相の体積率の増大に伴い、硬さが大幅に増大した。
一方、990℃以下の温度で加熱した供試材では、微細な組織を保持しつつα’相が生成されていたが、1180℃で加熱した供試材では、若干結晶粒の粗大化が見られた。
さらに、引張強度、降伏強度では、900℃での加熱をピークにそれ以上の温度では低下傾向が見られ、疲労強度では、990℃での加熱をピークにそれ以上の温度では低下傾向が見られた。
したがって、微細な組織が保持され、硬さ、強度、疲労強度のバランスが最も良いのは、その前後を含めるものとして890〜1000℃の範囲での加熱である。
【0013】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のα+β型チタン合金の短時間高周波熱処理方法によれば、α+β型チタン合金であるTi−6Al−4V合金を高周波誘導加熱により1秒〜600秒未満の時間および860℃〜1100℃の温度で短時間加熱した後、急冷してα’相を生成させるので、短時間の加熱によって良好な熱処理がなされ、熱処理品の品質を損なうことなく作業効率を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 供試材の硬さ試験、引張試験および疲労強度試験の各結果を示すグラフである。

Claims (2)

  1. α+β型チタン合金であるTi−6Al−4V合金を高周波誘導加熱により1秒〜600秒未満の時間および860℃〜1100℃の温度で短時間加熱した後、急冷してα’相を生成させることを特徴とするα+β型チタン合金の短時間高周波熱処理方法
  2. kHz〜400kHzの周波数による高周波誘導加熱を行うことを特徴とする請求項1記載のα+β型チタン合金の短時間高周波熱処理方法
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