JP3762175B2 - 自動変速機の制御装置 - Google Patents
自動変速機の制御装置 Download PDFInfo
- Publication number
- JP3762175B2 JP3762175B2 JP37263599A JP37263599A JP3762175B2 JP 3762175 B2 JP3762175 B2 JP 3762175B2 JP 37263599 A JP37263599 A JP 37263599A JP 37263599 A JP37263599 A JP 37263599A JP 3762175 B2 JP3762175 B2 JP 3762175B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- margin
- target value
- engagement element
- shift
- torque
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Fee Related
Links
Images
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は自動変速機の制御装置に関し、詳しくは、変速中の入力軸回転速度を目標速度に制御する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、変速時の入力軸回転速度の目標値を設定し、該目標値と実際の入力軸回転速度との偏差に基づいて、摩擦係合要素の係合油圧をフィードバック制御することが行われていた(特開平8−320066号公報等参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の制御では、目標速度の設定において実際の制御対象の動特性を考慮していないため、目標への追従性を確保すべくゲインを大きくすると、ハンチングが発生し、システム系が不安定になってしまうという問題があり、安定性・応答性を高い次元で両立させることが困難であるという問題があった。
【0004】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、制御対象の動特性に適合した制御により、安定性・応答性を高い次元で両立させることができる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そのため請求項1記載の発明は、摩擦係合要素の係合圧を制御して変速を行う自動変速機の制御装置において、変速中の入力軸回転速度の目標値に対して遅れ処理をして規範モデル目標値を設定し、該規範モデル目標値と実際の入力軸回転速度との偏差に基づくフィードバック制御によって摩擦係合要素の係合圧を補正すると共に、前記目標値に対して進み処理をして逆フィルタ目標値を設定し、該逆フィルタ目標値と前記目標値との偏差に基づいて摩擦係合要素の係合圧を補正するよう構成した。
【0006】
かかる構成によると、目標値に対して制御対象の動特性を考慮して遅れ処理をして、応答限界内の目標である規範モデル目標値を設定し、この規範モデル目標値に実際の入力軸回転速度を一致させるべく、摩擦係合要素の係合圧をフィードバック制御する。また、目標値に対して進み処理をすることで逆フィルタ目標値を設定し、この逆フィルタ目標値と目標値との偏差に基づいて摩擦係合要素の係合圧をフィードホワード補正して応答遅れを補償する。
【0007】
請求項2記載の発明では、前記目標値が、変速開始時の入力回転速度と、変速前後のギヤ比と、目標変速時間とに基づいて設定される構成とした。
かかる構成によると、ギヤ比変化に見合う入力軸回転速度の変化を、目標変速時間で生じさせるものとして、変速中の入力軸回転速度の目標値が設定される。
【0008】
請求項3記載の発明では、前記目標値の加速度に基づいてイナーシャトルクを求め、該イナーシャトルクによって摩擦係合要素の係合圧を補正する構成とした。
【0009】
かかる構成によると、変速による入力軸回転速度の変化に伴って発生するイナーシャトルク分に対応して係合圧を補正する。
請求項4記載の発明では、前記規範モデルの時定数をTtgtをとしたときに、前記遅れ処理の伝達関数を1/(1+TtgtS)とし、実際の制御対象の時定数をTrealとしたときに、前記進み処理の伝達関数を(1+TrealS)/(1+TtgtS)とする構成とした。
【0010】
かかる構成によると、規範モデルの時定数Ttgtで目標値に一次遅れ補正を施すことで、規範モデル目標値が設定され、更に、実際の制御対象の時定数Trealと前記時定数Ttgtとから進み処理を行う逆フィルタを構成し、該逆フィルタで目標値を処理して逆フィルタ目標値を設定し、この進み処理された逆フィルタ目標値と、基の目標値との偏差から、遅れを見込んだ補正を施して応答遅れを補償する。
【0011】
請求項5記載の発明では、前記実際の制御対象の時定数Trealを、入力軸回転速度に応じて設定する構成とした。
かかる構成によると、実際の制御対象の動特性が、入力軸回転速度によって変化することに対応して、進み処理(応答遅れ補償)が行われる。
【0012】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によると、フィードバック制御の目標を、制御対象の動特性(一次遅れ)を考慮して遅らせるので、比較的小さいフィードバックゲインで収束性を確保でき、システムの安定性を確保できると共に、進み処理による応答補償により応答性を確保できる一方、2系統の制御で入力軸回転速度の制御を行わせるので、応答性及び安定性を独立に設定でき、制御性が向上するという効果がある。
【0013】
請求項2記載の発明によると、目標変速時間での変速に見合った入力軸回転速度の変化を得ることができるという効果がある。
請求項3記載の発明によると、入力軸回転速度の変化によって発生するイナーシャトルクに対応する伝達トルク容量を確保でき、目標速度への応答性・安定性をより向上できるという効果がある。
【0014】
請求項4記載の発明によると、フィードバック制御の目標とした規範モデルの動特性と、実際の制御対象の動特性とからフィードホワード制御によって適正な応答補正を施すことができるという効果がある。
【0015】
請求項5記載の発明によると、制御対象の動特性が入力軸回転速度に応じて変化することに対応して応答補償を精度良く施せるという効果がある。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、実施の形態における自動変速機の変速機構を示すものであり、エンジンの出力がトルクコンバータ1を介して変速機構2に伝達される構成となっている。
【0017】
前記変速機構2は、2組の遊星歯車G1,G2、3組の多板クラッチH/C,R/C,L/C、1組のブレーキバンド2&4/B、1組の多板式ブレーキL&R/B、1組のワンウェイクラッチL/OWCで構成される。
【0018】
前記2組の遊星歯車G1,G2は、それぞれ、サンギヤS1,S2、リングギヤr1,r2及びキャリアc1,c2よりなる単純遊星歯車である。
前記遊星歯車組G1のサンギヤS1は、リバースクラッチR/Cにより入力軸INに結合可能に構成される一方、ブレーキバンド2&4/Bによって固定可能に構成される。
【0019】
前記遊星歯車組G2のサンギヤS2は、入力軸INに直結される。
前記遊星歯車組G1のキャリアc1は、ハイクラッチH/Cにより入力軸Iに結合可能に構成される一方、前記遊星歯車組G2のリングギヤr2が、ロークラッチL/Cにより遊星歯車組G1のキャリアc1に結合可能に構成され、更に、ロー&リバースブレーキL&R/Bにより遊星歯車組G1のキャリアc1を固定できるようになっている。
【0020】
そして、出力軸OUTには、前記遊星歯車組G1のリングギヤr1と、前記遊星歯車組G2のキャリアc2とが一体的に直結されている。
上記構成の変速機構2において、1速〜4速及び後退は、図2に示すように、各クラッチ・ブレーキの締結状態の組み合わせによって実現される。
【0021】
尚、図2において、丸印が締結状態を示し、記号が付されていない部分は解放状態とすることを示すが、特に、1速におけるロー&リバースブレーキL&R/Bの黒丸で示される締結状態は、1レンジでのみの締結を示すものとする。
【0022】
前記図2に示す各クラッチ・ブレーキの締結状態の組み合わせによると、例えば、4速から3速へのダウンシフト時には、ブレーキバンド2&4/Bの解放を行う共にロークラッチL/Cの締結を行い、3速から2速へのダウンシフト時には、ハイクラッチH/Cの解放を行うと共にブレーキバンド2&4/Bの締結を行うことになり、2速から3速へのアップシフト時には、ブレーキバンド2&4/Bの解放を行うと共にハイクラッチH/Cの締結を行い、3速から4速へのアップシフト時には、ロークラッチL/Cの解放を行うと共にブレーキバンド2&4/Bの締結を行うことになり、上記のように、クラッチ・ブレーキ(摩擦係合要素)の締結と解放とを同時に制御して摩擦係合要素の掛け替えを行う変速を掛け替え変速と称するものとする。
【0023】
前記各クラッチ・ブレーキ(摩擦係合要素)は、供給油圧によって動作するようになっており、各クラッチ・ブレーキに対する供給油圧(係合圧)は、図3に示すソレノイドバルブユニット11に含まれる各種ソレノイドバルブによって調整される。
【0024】
前記ソレノイドバルブユニット11の各種ソレノイドバルブを制御するA/Tコントローラ12には、A/T油温センサ13,アクセル開度センサ14,車速センサ15,タービン回転センサ16,エンジン回転センサ17,エアフローメータ18等からの検出信号が入力され、これらの検出結果に基づいて、各摩擦係合要素における係合油圧を制御する。
【0025】
図3において、符号20は、前記自動変速機と組み合わされるエンジンを示す。
ここで、前記A/Tコントローラ12による掛け替え変速(摩擦係合要素の係合圧制御)の様子を、エンジンの駆動トルクが加わっている状態でのアップシフト(以下、パワーオンアップシフトという)の場合を例として、図4のタイムチャートを参照しつつ、以下に説明する。
【0026】
図5のフローチャートは、締結側摩擦係合要素と解放側摩擦係合要素とに共通の伝達トルク容量(係合圧)制御のメインルーチンを示す。
ステップS1では、パワーオンアップシフトの変速判断を行う。
【0027】
A/Tコントローラ12には、車速VSPとアクセル開度(スロットル開度)とに応じて変速段を設定した変速マップが予め記憶されており、例えば、現在(変速前)の変速段と前記変速マップから検索した変速段とが異なり、かつ、それがアップシフト方向であって、かつ、アクセルが全閉でない場合にパワーオンアップシフトとして判断する。
【0028】
パワーオンアップシフトの変速判断がなされると、ステップS2へ進み、変速機構の出力軸回転速度No[rpm]に変速前のギヤ比(ギヤ比=タービン回転Nt/出力軸回転No)を乗算して得られる基準タービン回転と、予め記憶されたヒステリシス値HYSとの加算値よりも、変速機構のタービン回転速度(入力軸回転速度)Nt[rpm]が高いか否かを判別することで、トルクフェーズへの移行を判別する。
【0029】
ステップS2で、トルクフェーズへの移行が判定されるまでは、ステップS3の準備フェーズ処理を実行させる。
前記ステップS3の準備フェーズ処理は、解放側の処理と締結側の処理とに分かれる。
【0030】
図6のフローチャートは、解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理のメインルーチンを示すものであり、ステップS31では、変速の種類、解放制御する摩擦係合要素の種類及び油温に応じて予め記憶されている所定時間TIMER1だけ変速判断から経過したか否かを判別する。
【0031】
前記所定時間TIMER1内であれば、ステップS32へ進み、解放初期油圧の演算を行う。前記解放初期油圧は、解放制御を行う初期圧であり、非変速時の油圧から前記解放初期油圧まで、前記所定時間TIMER1内で低下させるようにする。
【0032】
前記ステップS32の解放初期油圧の演算は、図7のフローチャートに詳細に示してあり、ステップS321では、今回解放制御を行う摩擦係合要素の非変速時油圧Po0(係合圧)を算出する。
【0033】
前記非変速時油圧Po0は、
Po0=K1×(Tt×Tr-o)×余裕代初期値+Prtn-o
として算出される。
【0034】
ここで、K1は、解放側の摩擦係合要素の伝達トルク容量を油圧に変換するための係数であり、変速の種類及び解放制御する摩擦係合要素の種類に応じて予め記憶されている。Ttは、変速機構の入力軸トルクの推定値であり、エンジンの吸入空気量や回転速度及びトルクコンバータの速度比等から求められる。Tr-oは、前記入力軸トルクTtに対して、解放側摩擦係合要素が滑りを生じる臨界伝達トルク容量を求めるための解放臨界トルク比である。余裕代初期値は、前記臨界伝達トルク容量に対して余裕分の伝達トルク容量を付加するための補正係数である余裕代の初期値であり、例えば3.0程度の値として予め記憶されている。Prtn-oは、解放側のスタンバイ圧(解放側リターンスプリング圧)であり、摩擦係合要素毎に予め記憶される。
【0035】
ステップS322では、前記余裕代の算出を行う。
前記余裕代は、前記余裕代初期値(=3.0)から所定時間TIMER1経過後に目標値(余裕代(1))にまで低下させるものとして算出され、具体的には、経過時間tに対応する余裕代を、
余裕代=初期値×(1−ゲインα×t1/2)
として求めるものとする。
【0036】
ここで、所定時間TIMER1経過後の余裕代の目標値(余裕代(1))を1.2とすれば、所定時間TIMER1を前記tに代入し、余裕代に1.2を代入すれば、ゲインαが決定されることになり、このゲインαを用いることで経過時間t毎の余裕代が求められることになる。
【0037】
尚、所定時間TIMER1経過後の余裕代の目標値は、入力軸トルクの推定誤差が予想される範囲内で発生しても、解放側摩擦係合要素が締結状態を保持できる値として設定される。
【0038】
ステップS323では、上記のようにして求められる経過時間t毎の余裕代を用い、所定時間TIMER1内における解放側油圧Po1を下式に従って算出する。
【0039】
Po1=K1×(Tt×Tr-o)×余裕代+Prtn-o
上記のようにして所定時間TIMER1内で解放側の油圧を徐々に低下させた後、ステップS33で、トルクフェーズの移行判定がなされたと判別されるようになるまでの間においては、ステップS34以降へ進む。
【0040】
ステップS34では、分担比ランプ制御を行う。
前記ステップS34の分担比ランプ制御の詳細は、図8のフローチャートに示してあり、ステップS341では、変速の種類及び解放制御する摩擦係合要素の種類に応じて予め記憶されている所定時間TIMER2内で、余裕代(1)から余裕代(2)(例えば0.8)まで一定速度で低下させるものとして、所定時間TIMER2内における余裕代を決定する(図9参照)。
【0041】
そして、ステップS342では、前記ステップS341で決定される余裕代を用い、解放側の油圧Po2を下式に従って算出する。
Po2=K1×(Tt×Tr-o)×余裕代+Prtn-o
尚、前記余裕代(2)(=0.8)は、入力軸トルクの推定誤差が予想される範囲内で発生しても、解放側摩擦係合要素を確実に解放状態に移行させることができる値として設定される。
【0042】
ステップS35では、分担比ランプ制限を行う。
前記ステップS35の分担比ランプ制限の詳細は、図10のフローチャートに示してあり、ステップS351では、入力軸トルクTtが所定値以下であるか否かを判別する。
【0043】
入力軸トルクTtが所定値を超える場合には、前記ステップS34で算出される解放側の油圧Po2をそのまま用いるべく、ステップS352〜354をジャンプして終了させるが、入力軸トルクTtが所定値以下であればステップS352へ進む。
【0044】
ステップS352では、余裕代(2)をより小さい値に変更する。例えば標準値を0.8とするときに、これを0.6に変更する。上記変更により余裕代(解放側の油圧Po2)の変化速度がより速くなり、低トルク時に変速時間が間延びしてしまうことを防止する。
【0045】
ステップS353では、変更後の余裕代(2)に基づいて所定時間TIMER2内における余裕代をステップS341と同様にして再決定する。
ステップS354では、新たに決定された余裕代に基づいて解放側油圧Po2を算出する。
【0046】
ステップS36では、分担比ランプ学習を行う。
前記ステップS36の分担比ランプ学習の詳細は、図11のフローチャートに示してあり、ステップS361では、入力軸トルクTtの推定誤差を補正するトルク推定学習が収束しているか否かを判別する。尚、前記トルク推定学習については後述する。
【0047】
ステップS361でトルク推定学習が収束していると判別されたときには、ステップS362へ進み、余裕代(1)及び余裕代(2)をそれぞれより1.0に近い値に変更し、所定時間TIMER2内における余裕代の勾配を緩くする。例えば、余裕代(1)を1.2から1.1に変更し、余裕代(2)を0.8から0.9に変更する。上記余裕代の変更によって、トルクフェーズ初期の回転変化を緩やかにでき、トルクフェーズにおける制御性を向上できる。
【0048】
ステップS363では、変更後の余裕代(1)(2)に基づいて所定時間TIMER2内における余裕代をステップS341と同様にして再決定する。
ステップS364では、新たに決定された余裕代に基づいて解放側油圧Po2を算出する。
【0049】
尚、余裕代(1)の変更に伴って、所定時間TIMER1内における余裕代の変化も変更されることになる。
上記のように、余裕代の減少設定に伴って解放側の油圧を所定時間TIMER2内で徐々に減少させると、タービン回転速度Ntの吹け上がりが検出されることで、解放側の伝達トルク容量が臨界付近にまで低下したこと(トルクフェーズへの移行)を間接的に知ることができる。
【0050】
ここで、余裕代が1.0付近になった時点で、空吹けが発生することが理想であるが、入力軸トルクTtの推定誤差があると、余裕代が1.0よりも大きい状態又は1.0よりも小さくなってからエンジンの空吹けが生じることになり、前記入力軸トルクTtの推定誤差を見込んで、前記所定時間TIMER2内での余裕代の変化範囲を、1.0を中心に広く(例えば1.2〜0.8)確保する必要が生じる。
【0051】
例えば余裕代=1.1に相当する解放側油圧でギヤ比が変化し始めたとすると、入力軸トルクの推定において実際値よりも小さく推定したため、本来、伝達トルク容量に余裕があることで締結状態を保持できる油圧であるのに滑り始めたものと判断され、逆に、例えば余裕代=0.9に相当する解放側油圧でギヤ比が変化し始めたとすると、入力軸トルクの推定において実際値よりも大きく推定したため、本来の締結状態を保持できない油圧(伝達トルク容量)まで既に低下しているのに、滑り始めが遅れたものと判断される。
【0052】
そこで、トルクフェーズへの移行が判定された時点で、ステップS37へ進み、そのときの余裕代に基づいて入力軸トルク推定値を補正するための補正係数を求めるトルク推定学習を行う
前記ステップS37のトルク推定学習の詳細は、図12のフローチャートに示してあり、ステップS371では、トルクフェーズへの移行が判定された時点での余裕代を求める。尚、トルクフェーズへの移行(空吹け)の検出には遅れが生じるので、タービン回転速度Ntに基づきトルクフェーズへの移行が判定された時点から所定時間前の余裕代を、トルクフェーズへの移行時(空吹け発生時点)の余裕代とすることが好ましい。
【0053】
ステップS372では、図13に示すように、1.0とエンジンの空吹け発生時の余裕代Trとの偏差(Tr−1)に応じて入力軸トルクの補正係数Kttを記憶したテーブルを予め記憶しており、前記ステップS371で求められた余裕代Trに基づいて前記テーブルを参照し、補正係数Kttを求める。
【0054】
前記補正係数Kttは、前記余裕代Trが1.0であるときに1.0に、余裕代Trが1.0よりも小さい時には1.0よりも小さい値に、余裕代Trが1.0よりも大きい時には1.0よりも大きい値に設定され、前記余裕代Trが1.0のときにエンジンの空吹けが発生するように、入力軸トルクの推定値を補正する。
【0055】
尚、前記補正係数Kttが設定されると、該補正係数Kttによる補正要求を含んで入力軸トルクを推定するように学習される構成としてある。また、前記補正係数Kttは、所定の上下限値内に制限されると共に、前記補正係数Kttの学習は、ATF温度が所定温度以上であるときに行わせるようになっている。
【0056】
一方、締結側の準備フェーズ処理は、図14のフローチャートに示される。
ステップS41では、トルクフェーズへの移行判定がなされているか否かを判別する。
【0057】
そして、トルクフェーズへの移行判定がなされていない場合には、準備フェーズであるとしてステップS42へ進む。
ステップS42では、締結側摩擦係合要素のプリチャージ圧(スタンバイ圧)を、摩擦係合要素の種類に応じて設定する。
【0058】
ステップS43では、前記プリチャージ圧(スタンバイ圧)に過渡応答補償処理を施し、その結果を最終的な締結側油圧Po0として出力する。
ステップS44では、変速開始判断からの経過時間が前記所定時間TIMER1を超えたか否かを判別し、前記所定時間TIMER1を超えるとステップS45の分担比ランプ制御へ進む。
【0059】
ステップS45の分担比ランプ制御の詳細は、図15のフローチャートに示してあり、ステップS451では、所定時間TIMER2内で、余裕代(1)(例えば0.8)から余裕代(2)(例えば1.2)まで一定速度で増大させるものとして、所定時間TIMER2内における余裕代を決定する(図16参照)。
【0060】
そして、ステップS452では、前記ステップS451で決定される余裕代を用い、締結側の油圧Pc2を下式に従って算出する。
Pc2=K2×(Tt×Tr-c)×余裕代+Prtn-c
ここで、K2は、締結側の摩擦係合要素の伝達トルク容量(必要伝達トルク容量)を油圧に変換するための係数であり、変速の種類及び解放制御する摩擦係合要素の種類に応じて予め記憶されている。Tr-cは、入力軸トルクTtに対して、締結側の摩擦係合要素が締結し始める臨界伝達トルク容量を求めるための締結臨界トルク比である。Prtn-cは、締結側のスタンバイ圧(締結側リターンスプリング圧)であり、摩擦係合要素毎に予め記憶される。
【0061】
ここで、前記図5のフローチャートに戻って説明を続けると、ステップS2でトルクフェーズへの移行が判定されると、ステップS4へ進み、ギヤ比がF/B(フィードバック)開始ギヤ比を超えてアップシフト方向に変化したか否かを判別する。そして、F/B開始ギヤ比を超えてアップシフト方向に変化するまでは、ステップS5のトルクフェーズ処理を行わせる。
【0062】
解放側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理(ソフトOWC制御)では、前記準備フェーズにおける余裕代の減少制御をそのままの速度で継続させて求められる解放側油圧Po2に、空吹けに応じた補正油圧Po3を加算して、最終的な解放側油圧Po4を求める。
【0063】
具体的には、図17のフローチャートに示されるように、まず、ステップS51で、実際のタービン回転速度Ntの微分値ΔNtに応じた解放補正油圧Po3を、下式に従って算出する。
【0064】
Po3=K1×{INS×(2π/60)×ΔNt+1/g(Nt−No×i)}
ここで、INSは変速の種類毎に決められるイナーシャ(慣性モーメント)、gはクラッチトルクを回転速度に変換するゲイン、iは変速前のギヤ比である。
【0065】
ステップS52では、準備フェーズにおける余裕代の減少制御をそのままの速度で継続させて設定される余裕代に基づき算出される解放側油圧Po2に、前記解放補正油圧Po3を加算して、その結果を最終的な解放側油圧Po4とする(Po4=Po2+Po3)。
【0066】
尚、最終的な解放側油圧Po4が、解放側油圧Po2を下回ることがないように、制限を加えるようにしてある。また、タービン回転速度の微分値ΔNtとしてローパスフィルタ処理後の値を用いるようにしてある。
【0067】
一方、締結側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理の様子は、図18のフローチャートに示してある。
図18のフローチャートにおいて、ステップS61で、トルクフェーズへの移行判定がなされていると判別されると、ステップS62へ進み、ギヤ比がF/B開始ギヤ比を超えてアップシフト方向に変化したか否かを判別する。そして、F/B開始ギヤ比を超えていないと、ステップS63へ進む。
【0068】
ステップS63では、前記準備フェーズにおける余裕代の増大制御をそのままの速度で継続させて設定される余裕代に基づき締結側油圧Pc2を求める。
ステップS64では、前記ステップS51と同様にして、締結補正油圧Pc3を、下式に従って算出する。
【0069】
Pc3=K2×{INS×(2π/60)×ΔNt+1/g(Nt−No×i)}
そして、Pc2+Pc3=Pc4として最終的な締結側油圧Pc4を求める。
【0070】
図5のフローチャートのステップS4で、ギヤ比がF/B開始ギヤ比を超えたと判別されると、ステップS6へ進み、ギヤ比がF/B終了ギヤ比(<F/B開始ギヤ比)を超えたか否かを判別する。
【0071】
ギヤ比がF/B開始ギヤ比とF/B終了ギヤ比との間であるときには、ステップS7のイナーシャフェーズ処理を行わせる。
解放側のイナーシャフェーズ処理は、図19のフローチャートに示してあり、ステップS71でトルクフェーズ終了時の油圧(油圧=0)を保持させる設定を行う。
【0072】
また、締結側のイナーシャフェーズ処理は、図20のフローチャートに示される。
図20のフローチャートにおいて、ステップS81では、図21のフローチャートに示される基本制御を行う。
【0073】
前記基本制御においては、まず、ステップS811で、変速に伴って発生するイナーシャトルクTinr[Nm]を、下式に従って算出する。
Tinr=イナーシャINS×目標タービン角加速度[rad/sec2]
上式でイナーシャINS(慣性モーメント)[Nm/rad/sec2]は、変速の種類に応じて決定される値である。
【0074】
上式でギヤ段差は、ギヤ段差=1−(変速後ギヤ比/変速前ギヤ比)として算出される値であり、Nt[rpm]はイナーシャフェーズ開始時のタービン回転速度である。
【0075】
ステップS812では、前記イナーシャトルクTinrを、入力軸トルクTtに応じた基本圧に加算して締結側油圧Pc7を算出する。
Pc7=K2×Tt×Tr×Tr-c+Prtn-c+K2×Tr-c×Tinr
上記基本制御に加え、ステップS82では、本実施形態で前置補償と称する制御により、実際のタービン回転速度を目標タービン回転速度(目標値)に制御するためのフィードホワード補正分を算出する。
【0076】
前記前置補償の詳細は、図22のフローチャートに示してあり、以下、図23の制御ブロック図を参照しつつ説明する。
ステップS821では、目標タービン回転速度Tgt#Nt[rpm]を算出する。
【0077】
前記目標タービン回転速度Tgt#Ntは、イナーシャフェーズ開始時のタービン回転速度Nt[rpm]と前記目標タービン加速度[1/sec2]とに基づき、イナーシャフェーズ開始時のタービン回転速度Nt[rpm]から目標タービン加速度[1/sec2]で一定速度で減少変化する特性として算出される(目標タービン速度(n)=目標タービン速度(n-1)+目標タービン加速度)。
【0078】
ステップS822では、摩擦係合要素の伝達トルク容量とタービン回転速度Ntとの間の動特性(一次遅れ)を考慮して、前記目標タービン回転速度Tgt#Nt[rpm]に対して一次遅れを示す規範モデル目標Tgt#Nt#kihan(規範モデル目標値)を設定する。
【0079】
ここで、前記一次遅れの伝達関数をラプラス関数を用いて1/(1+TtgtS)とし、該伝達特性のフィルタで目標タービン回転速度Tgt#Nt[rpm]を遅れ処理することで、規範モデル目標Tgt#Nt#kihanを得るようにしてある。尚、規範モデル時定数Ttgtを例えば0.8[sec]とする。
【0080】
また、ステップS823では、実際の摩擦係合要素の伝達トルク容量とタービン回転速度Ntとの間の動特性(一次遅れ)と前記規範モデルの動特性(規範モデル時定数Ttgt)から、伝達関数をラプラス関数を用いて(1+TrealS)/(1+TtgtS)とする逆フィルタを構成し、前記目標タービン回転速度Tgt#Ntを前記逆フィルタで進み処理して逆フィルタ目標速度Tgt#Nt#Inverseを得る。
【0081】
尚、前記実際の動特性を示す時定数Trealは、固定値であっても良いが、タービン回転速度Ntに応じて動特性が変化することから、タービン回転速度Ntに応じて時定数Trealを設定するようにしてある。ここで、タービン回転速度Ntが高いほど遅れが小さくなるから、タービン回転速度Ntが高いほど、時定数Trealが小さくなるようにする。
【0082】
そして、ステップS824では、逆フィルタ出力Tgt#Nt#Inverseから目標タービン回転速度Tgt#Ntを減算した値を、フィードホワード補正回転数FF#Ntとする。
【0083】
ステップS82の前置補償制御の後、ステップS83へ進んで、図24のフローチャートに示す回転フィードバック制御を行う。
ステップS831では、前記規範モデル目標Tgt#Nt#kihanと、実際のタービン回転速度r#Ntとの偏差が求められ、該偏差に基づく比例・積分制御(又は比例・積分・微分制御)によってフィードバック補正回転数FB#Ntが算出される。
【0084】
ステップS832では、前記フィードバック補正回転数FB#Ntとフィードホワード補正回転数FF#Ntとを加算し、更に、該加算結果を、タービン回転速度Ntに応じたゲインgでトルクに変換し、フィードバック補正トルクTFBを求める。
【0085】
そして、ステップS833では、前記フィードバック補正トルクTFBに変換係数K2を乗算してフィードバック補正油圧に変換し、これを前記締結側油圧Pc7に加算した結果を、最終的な締結側油圧Pc8として出力する。
【0086】
Pc8=Pc7+K2×TFB
ギヤ比がF/B終了ギヤ比よりも小さくなったことが、図5のフローチャートのステップS6で判別されると、ステップS6からステップS8へ進み、ギヤ比がF/B終了ギヤ比よりも初めて小さくなった時点から所定時間TIMER7だけ経過したか否かを判別する。
【0087】
そして、所定時間TIMER7内であれば、ステップS9へ進んで、終了フェーズ処理を行う。
解放側摩擦係合要素についての終了フェーズ処理は、図25のフローチャートに示してあり、ステップS91でイナーシャフェーズ終了時の油圧を保持する設定を行う。即ち、解放側摩擦係合要素の油圧は、イナーシャフェーズ及び終了フェーズにおいて、ギヤ比がF/B開始ギヤ比よりも小さくなった時点の値に保持されることになる。
【0088】
一方、締結側摩擦係合要素の終了フェーズ処理は、図26のフローチャートに示され、ステップS101では、ギヤ比がF/B終了ギヤ比よりも初めて小さくなった時点から所定時間TIMER7内であるか否かを判別し、所定時間TIMER7内であればステップS102へ進んで、終了フェーズ処理を実行する。
【0089】
前記ステップS101の終了フェーズ処理の詳細は、図27のフローチャートに示してあり、ステップS111では、締結臨界トルクに相当する油圧から締結臨界トルクの1.2倍に相当する油圧まで、前記所定時間TIMER7内で上昇させるランプ勾配Rmp-Tr2の設定を行う。尚、前記所定時間TIMER7は、変速及び摩擦係合要素の種類に応じて設定される。
【0090】
ステップS112では、締結側指示圧Pc9を、
として算出する。
【0091】
そして、前記所定時間TIMER7が経過した時点で、締結側の指示圧を、前記Pc9から、最大圧までステップ変化させる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態における自動変速機の変速機構を示す図。
【図2】前記変速機構における摩擦係合要素の締結状態の組み合わせと変速段との相関を示す図。
【図3】前記自動変速機の制御系を示すシステム図。
【図4】実施の形態における摩擦係合要素の掛け換えによる変速の様子を示すタイムチャート。
【図5】実施の形態における摩擦係合要素の掛け換え変速制御のメインルーチンを示すフローチャート。
【図6】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理を示すフローチャート。
【図7】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における解放初期油圧演算を示すフローチャート。
【図8】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における分担比ランプ制御を示すフローチャート。
【図9】前記分担比ランプ制御における余裕代の変化を示す線図。
【図10】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における分担比ランプ制限を示すフローチャート。
【図11】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における分担比ランプ学習を示すフローチャート。
【図12】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理におけるトルク推定学習を示すフローチャート。
【図13】前記トルク推定学習における入力軸トルクの補正係数の特性を示す線図。
【図14】締結側摩擦係合要素の準備フェーズ処理を示すフローチャート。
【図15】締結側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における分担比ランプ制御を示すフローチャート。
【図16】締結側摩擦係合要素の分担比ランプ制御における余裕代の変化を示す線図。
【図17】解放側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理を示すフローチャート。
【図18】締結側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理を示すフローチャート。
【図19】解放側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理を示すフローチャート。
【図20】締結側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理を示すフローチャート。
【図21】締結側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理における基本制御を示すフローチャート。
【図22】締結側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理における前置補償制御を示すフローチャート。
【図23】締結側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理における前置補償制御及び回転フィードバック制御を示すブロック図。
【図24】締結側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理における回転フィードバック制御を示すフローチャート。
【図25】解放側摩擦係合要素の終了フェーズ処理を示すフローチャート。
【図26】締結側摩擦係合要素の終了フェーズ処理を示すフローチャート。
【図27】締結側摩擦係合要素の終了フェーズ処理の詳細を示すフローチャート。
【符号の説明】
1…トルクコンバータ
2…変速機構
11…ソレノイドバルブユニット
12…A/Tコントローラ
13…A/T油温センサ
14…アクセル開度センサ
15…車速センサ
16…タービン回転センサ
17…エンジン回転センサ
18…エアフローメータ
20…エンジン
G1,G2…遊星歯車
H/C…ハイクラッチ
R/C…リバースクラッチ
L/C…ロークラッチ
2&4/B…2速/4速バンドブレーキ
L&R/B…ロー&リバースブレーキ
【発明の属する技術分野】
本発明は自動変速機の制御装置に関し、詳しくは、変速中の入力軸回転速度を目標速度に制御する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、変速時の入力軸回転速度の目標値を設定し、該目標値と実際の入力軸回転速度との偏差に基づいて、摩擦係合要素の係合油圧をフィードバック制御することが行われていた(特開平8−320066号公報等参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の制御では、目標速度の設定において実際の制御対象の動特性を考慮していないため、目標への追従性を確保すべくゲインを大きくすると、ハンチングが発生し、システム系が不安定になってしまうという問題があり、安定性・応答性を高い次元で両立させることが困難であるという問題があった。
【0004】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、制御対象の動特性に適合した制御により、安定性・応答性を高い次元で両立させることができる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そのため請求項1記載の発明は、摩擦係合要素の係合圧を制御して変速を行う自動変速機の制御装置において、変速中の入力軸回転速度の目標値に対して遅れ処理をして規範モデル目標値を設定し、該規範モデル目標値と実際の入力軸回転速度との偏差に基づくフィードバック制御によって摩擦係合要素の係合圧を補正すると共に、前記目標値に対して進み処理をして逆フィルタ目標値を設定し、該逆フィルタ目標値と前記目標値との偏差に基づいて摩擦係合要素の係合圧を補正するよう構成した。
【0006】
かかる構成によると、目標値に対して制御対象の動特性を考慮して遅れ処理をして、応答限界内の目標である規範モデル目標値を設定し、この規範モデル目標値に実際の入力軸回転速度を一致させるべく、摩擦係合要素の係合圧をフィードバック制御する。また、目標値に対して進み処理をすることで逆フィルタ目標値を設定し、この逆フィルタ目標値と目標値との偏差に基づいて摩擦係合要素の係合圧をフィードホワード補正して応答遅れを補償する。
【0007】
請求項2記載の発明では、前記目標値が、変速開始時の入力回転速度と、変速前後のギヤ比と、目標変速時間とに基づいて設定される構成とした。
かかる構成によると、ギヤ比変化に見合う入力軸回転速度の変化を、目標変速時間で生じさせるものとして、変速中の入力軸回転速度の目標値が設定される。
【0008】
請求項3記載の発明では、前記目標値の加速度に基づいてイナーシャトルクを求め、該イナーシャトルクによって摩擦係合要素の係合圧を補正する構成とした。
【0009】
かかる構成によると、変速による入力軸回転速度の変化に伴って発生するイナーシャトルク分に対応して係合圧を補正する。
請求項4記載の発明では、前記規範モデルの時定数をTtgtをとしたときに、前記遅れ処理の伝達関数を1/(1+TtgtS)とし、実際の制御対象の時定数をTrealとしたときに、前記進み処理の伝達関数を(1+TrealS)/(1+TtgtS)とする構成とした。
【0010】
かかる構成によると、規範モデルの時定数Ttgtで目標値に一次遅れ補正を施すことで、規範モデル目標値が設定され、更に、実際の制御対象の時定数Trealと前記時定数Ttgtとから進み処理を行う逆フィルタを構成し、該逆フィルタで目標値を処理して逆フィルタ目標値を設定し、この進み処理された逆フィルタ目標値と、基の目標値との偏差から、遅れを見込んだ補正を施して応答遅れを補償する。
【0011】
請求項5記載の発明では、前記実際の制御対象の時定数Trealを、入力軸回転速度に応じて設定する構成とした。
かかる構成によると、実際の制御対象の動特性が、入力軸回転速度によって変化することに対応して、進み処理(応答遅れ補償)が行われる。
【0012】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によると、フィードバック制御の目標を、制御対象の動特性(一次遅れ)を考慮して遅らせるので、比較的小さいフィードバックゲインで収束性を確保でき、システムの安定性を確保できると共に、進み処理による応答補償により応答性を確保できる一方、2系統の制御で入力軸回転速度の制御を行わせるので、応答性及び安定性を独立に設定でき、制御性が向上するという効果がある。
【0013】
請求項2記載の発明によると、目標変速時間での変速に見合った入力軸回転速度の変化を得ることができるという効果がある。
請求項3記載の発明によると、入力軸回転速度の変化によって発生するイナーシャトルクに対応する伝達トルク容量を確保でき、目標速度への応答性・安定性をより向上できるという効果がある。
【0014】
請求項4記載の発明によると、フィードバック制御の目標とした規範モデルの動特性と、実際の制御対象の動特性とからフィードホワード制御によって適正な応答補正を施すことができるという効果がある。
【0015】
請求項5記載の発明によると、制御対象の動特性が入力軸回転速度に応じて変化することに対応して応答補償を精度良く施せるという効果がある。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、実施の形態における自動変速機の変速機構を示すものであり、エンジンの出力がトルクコンバータ1を介して変速機構2に伝達される構成となっている。
【0017】
前記変速機構2は、2組の遊星歯車G1,G2、3組の多板クラッチH/C,R/C,L/C、1組のブレーキバンド2&4/B、1組の多板式ブレーキL&R/B、1組のワンウェイクラッチL/OWCで構成される。
【0018】
前記2組の遊星歯車G1,G2は、それぞれ、サンギヤS1,S2、リングギヤr1,r2及びキャリアc1,c2よりなる単純遊星歯車である。
前記遊星歯車組G1のサンギヤS1は、リバースクラッチR/Cにより入力軸INに結合可能に構成される一方、ブレーキバンド2&4/Bによって固定可能に構成される。
【0019】
前記遊星歯車組G2のサンギヤS2は、入力軸INに直結される。
前記遊星歯車組G1のキャリアc1は、ハイクラッチH/Cにより入力軸Iに結合可能に構成される一方、前記遊星歯車組G2のリングギヤr2が、ロークラッチL/Cにより遊星歯車組G1のキャリアc1に結合可能に構成され、更に、ロー&リバースブレーキL&R/Bにより遊星歯車組G1のキャリアc1を固定できるようになっている。
【0020】
そして、出力軸OUTには、前記遊星歯車組G1のリングギヤr1と、前記遊星歯車組G2のキャリアc2とが一体的に直結されている。
上記構成の変速機構2において、1速〜4速及び後退は、図2に示すように、各クラッチ・ブレーキの締結状態の組み合わせによって実現される。
【0021】
尚、図2において、丸印が締結状態を示し、記号が付されていない部分は解放状態とすることを示すが、特に、1速におけるロー&リバースブレーキL&R/Bの黒丸で示される締結状態は、1レンジでのみの締結を示すものとする。
【0022】
前記図2に示す各クラッチ・ブレーキの締結状態の組み合わせによると、例えば、4速から3速へのダウンシフト時には、ブレーキバンド2&4/Bの解放を行う共にロークラッチL/Cの締結を行い、3速から2速へのダウンシフト時には、ハイクラッチH/Cの解放を行うと共にブレーキバンド2&4/Bの締結を行うことになり、2速から3速へのアップシフト時には、ブレーキバンド2&4/Bの解放を行うと共にハイクラッチH/Cの締結を行い、3速から4速へのアップシフト時には、ロークラッチL/Cの解放を行うと共にブレーキバンド2&4/Bの締結を行うことになり、上記のように、クラッチ・ブレーキ(摩擦係合要素)の締結と解放とを同時に制御して摩擦係合要素の掛け替えを行う変速を掛け替え変速と称するものとする。
【0023】
前記各クラッチ・ブレーキ(摩擦係合要素)は、供給油圧によって動作するようになっており、各クラッチ・ブレーキに対する供給油圧(係合圧)は、図3に示すソレノイドバルブユニット11に含まれる各種ソレノイドバルブによって調整される。
【0024】
前記ソレノイドバルブユニット11の各種ソレノイドバルブを制御するA/Tコントローラ12には、A/T油温センサ13,アクセル開度センサ14,車速センサ15,タービン回転センサ16,エンジン回転センサ17,エアフローメータ18等からの検出信号が入力され、これらの検出結果に基づいて、各摩擦係合要素における係合油圧を制御する。
【0025】
図3において、符号20は、前記自動変速機と組み合わされるエンジンを示す。
ここで、前記A/Tコントローラ12による掛け替え変速(摩擦係合要素の係合圧制御)の様子を、エンジンの駆動トルクが加わっている状態でのアップシフト(以下、パワーオンアップシフトという)の場合を例として、図4のタイムチャートを参照しつつ、以下に説明する。
【0026】
図5のフローチャートは、締結側摩擦係合要素と解放側摩擦係合要素とに共通の伝達トルク容量(係合圧)制御のメインルーチンを示す。
ステップS1では、パワーオンアップシフトの変速判断を行う。
【0027】
A/Tコントローラ12には、車速VSPとアクセル開度(スロットル開度)とに応じて変速段を設定した変速マップが予め記憶されており、例えば、現在(変速前)の変速段と前記変速マップから検索した変速段とが異なり、かつ、それがアップシフト方向であって、かつ、アクセルが全閉でない場合にパワーオンアップシフトとして判断する。
【0028】
パワーオンアップシフトの変速判断がなされると、ステップS2へ進み、変速機構の出力軸回転速度No[rpm]に変速前のギヤ比(ギヤ比=タービン回転Nt/出力軸回転No)を乗算して得られる基準タービン回転と、予め記憶されたヒステリシス値HYSとの加算値よりも、変速機構のタービン回転速度(入力軸回転速度)Nt[rpm]が高いか否かを判別することで、トルクフェーズへの移行を判別する。
【0029】
ステップS2で、トルクフェーズへの移行が判定されるまでは、ステップS3の準備フェーズ処理を実行させる。
前記ステップS3の準備フェーズ処理は、解放側の処理と締結側の処理とに分かれる。
【0030】
図6のフローチャートは、解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理のメインルーチンを示すものであり、ステップS31では、変速の種類、解放制御する摩擦係合要素の種類及び油温に応じて予め記憶されている所定時間TIMER1だけ変速判断から経過したか否かを判別する。
【0031】
前記所定時間TIMER1内であれば、ステップS32へ進み、解放初期油圧の演算を行う。前記解放初期油圧は、解放制御を行う初期圧であり、非変速時の油圧から前記解放初期油圧まで、前記所定時間TIMER1内で低下させるようにする。
【0032】
前記ステップS32の解放初期油圧の演算は、図7のフローチャートに詳細に示してあり、ステップS321では、今回解放制御を行う摩擦係合要素の非変速時油圧Po0(係合圧)を算出する。
【0033】
前記非変速時油圧Po0は、
Po0=K1×(Tt×Tr-o)×余裕代初期値+Prtn-o
として算出される。
【0034】
ここで、K1は、解放側の摩擦係合要素の伝達トルク容量を油圧に変換するための係数であり、変速の種類及び解放制御する摩擦係合要素の種類に応じて予め記憶されている。Ttは、変速機構の入力軸トルクの推定値であり、エンジンの吸入空気量や回転速度及びトルクコンバータの速度比等から求められる。Tr-oは、前記入力軸トルクTtに対して、解放側摩擦係合要素が滑りを生じる臨界伝達トルク容量を求めるための解放臨界トルク比である。余裕代初期値は、前記臨界伝達トルク容量に対して余裕分の伝達トルク容量を付加するための補正係数である余裕代の初期値であり、例えば3.0程度の値として予め記憶されている。Prtn-oは、解放側のスタンバイ圧(解放側リターンスプリング圧)であり、摩擦係合要素毎に予め記憶される。
【0035】
ステップS322では、前記余裕代の算出を行う。
前記余裕代は、前記余裕代初期値(=3.0)から所定時間TIMER1経過後に目標値(余裕代(1))にまで低下させるものとして算出され、具体的には、経過時間tに対応する余裕代を、
余裕代=初期値×(1−ゲインα×t1/2)
として求めるものとする。
【0036】
ここで、所定時間TIMER1経過後の余裕代の目標値(余裕代(1))を1.2とすれば、所定時間TIMER1を前記tに代入し、余裕代に1.2を代入すれば、ゲインαが決定されることになり、このゲインαを用いることで経過時間t毎の余裕代が求められることになる。
【0037】
尚、所定時間TIMER1経過後の余裕代の目標値は、入力軸トルクの推定誤差が予想される範囲内で発生しても、解放側摩擦係合要素が締結状態を保持できる値として設定される。
【0038】
ステップS323では、上記のようにして求められる経過時間t毎の余裕代を用い、所定時間TIMER1内における解放側油圧Po1を下式に従って算出する。
【0039】
Po1=K1×(Tt×Tr-o)×余裕代+Prtn-o
上記のようにして所定時間TIMER1内で解放側の油圧を徐々に低下させた後、ステップS33で、トルクフェーズの移行判定がなされたと判別されるようになるまでの間においては、ステップS34以降へ進む。
【0040】
ステップS34では、分担比ランプ制御を行う。
前記ステップS34の分担比ランプ制御の詳細は、図8のフローチャートに示してあり、ステップS341では、変速の種類及び解放制御する摩擦係合要素の種類に応じて予め記憶されている所定時間TIMER2内で、余裕代(1)から余裕代(2)(例えば0.8)まで一定速度で低下させるものとして、所定時間TIMER2内における余裕代を決定する(図9参照)。
【0041】
そして、ステップS342では、前記ステップS341で決定される余裕代を用い、解放側の油圧Po2を下式に従って算出する。
Po2=K1×(Tt×Tr-o)×余裕代+Prtn-o
尚、前記余裕代(2)(=0.8)は、入力軸トルクの推定誤差が予想される範囲内で発生しても、解放側摩擦係合要素を確実に解放状態に移行させることができる値として設定される。
【0042】
ステップS35では、分担比ランプ制限を行う。
前記ステップS35の分担比ランプ制限の詳細は、図10のフローチャートに示してあり、ステップS351では、入力軸トルクTtが所定値以下であるか否かを判別する。
【0043】
入力軸トルクTtが所定値を超える場合には、前記ステップS34で算出される解放側の油圧Po2をそのまま用いるべく、ステップS352〜354をジャンプして終了させるが、入力軸トルクTtが所定値以下であればステップS352へ進む。
【0044】
ステップS352では、余裕代(2)をより小さい値に変更する。例えば標準値を0.8とするときに、これを0.6に変更する。上記変更により余裕代(解放側の油圧Po2)の変化速度がより速くなり、低トルク時に変速時間が間延びしてしまうことを防止する。
【0045】
ステップS353では、変更後の余裕代(2)に基づいて所定時間TIMER2内における余裕代をステップS341と同様にして再決定する。
ステップS354では、新たに決定された余裕代に基づいて解放側油圧Po2を算出する。
【0046】
ステップS36では、分担比ランプ学習を行う。
前記ステップS36の分担比ランプ学習の詳細は、図11のフローチャートに示してあり、ステップS361では、入力軸トルクTtの推定誤差を補正するトルク推定学習が収束しているか否かを判別する。尚、前記トルク推定学習については後述する。
【0047】
ステップS361でトルク推定学習が収束していると判別されたときには、ステップS362へ進み、余裕代(1)及び余裕代(2)をそれぞれより1.0に近い値に変更し、所定時間TIMER2内における余裕代の勾配を緩くする。例えば、余裕代(1)を1.2から1.1に変更し、余裕代(2)を0.8から0.9に変更する。上記余裕代の変更によって、トルクフェーズ初期の回転変化を緩やかにでき、トルクフェーズにおける制御性を向上できる。
【0048】
ステップS363では、変更後の余裕代(1)(2)に基づいて所定時間TIMER2内における余裕代をステップS341と同様にして再決定する。
ステップS364では、新たに決定された余裕代に基づいて解放側油圧Po2を算出する。
【0049】
尚、余裕代(1)の変更に伴って、所定時間TIMER1内における余裕代の変化も変更されることになる。
上記のように、余裕代の減少設定に伴って解放側の油圧を所定時間TIMER2内で徐々に減少させると、タービン回転速度Ntの吹け上がりが検出されることで、解放側の伝達トルク容量が臨界付近にまで低下したこと(トルクフェーズへの移行)を間接的に知ることができる。
【0050】
ここで、余裕代が1.0付近になった時点で、空吹けが発生することが理想であるが、入力軸トルクTtの推定誤差があると、余裕代が1.0よりも大きい状態又は1.0よりも小さくなってからエンジンの空吹けが生じることになり、前記入力軸トルクTtの推定誤差を見込んで、前記所定時間TIMER2内での余裕代の変化範囲を、1.0を中心に広く(例えば1.2〜0.8)確保する必要が生じる。
【0051】
例えば余裕代=1.1に相当する解放側油圧でギヤ比が変化し始めたとすると、入力軸トルクの推定において実際値よりも小さく推定したため、本来、伝達トルク容量に余裕があることで締結状態を保持できる油圧であるのに滑り始めたものと判断され、逆に、例えば余裕代=0.9に相当する解放側油圧でギヤ比が変化し始めたとすると、入力軸トルクの推定において実際値よりも大きく推定したため、本来の締結状態を保持できない油圧(伝達トルク容量)まで既に低下しているのに、滑り始めが遅れたものと判断される。
【0052】
そこで、トルクフェーズへの移行が判定された時点で、ステップS37へ進み、そのときの余裕代に基づいて入力軸トルク推定値を補正するための補正係数を求めるトルク推定学習を行う
前記ステップS37のトルク推定学習の詳細は、図12のフローチャートに示してあり、ステップS371では、トルクフェーズへの移行が判定された時点での余裕代を求める。尚、トルクフェーズへの移行(空吹け)の検出には遅れが生じるので、タービン回転速度Ntに基づきトルクフェーズへの移行が判定された時点から所定時間前の余裕代を、トルクフェーズへの移行時(空吹け発生時点)の余裕代とすることが好ましい。
【0053】
ステップS372では、図13に示すように、1.0とエンジンの空吹け発生時の余裕代Trとの偏差(Tr−1)に応じて入力軸トルクの補正係数Kttを記憶したテーブルを予め記憶しており、前記ステップS371で求められた余裕代Trに基づいて前記テーブルを参照し、補正係数Kttを求める。
【0054】
前記補正係数Kttは、前記余裕代Trが1.0であるときに1.0に、余裕代Trが1.0よりも小さい時には1.0よりも小さい値に、余裕代Trが1.0よりも大きい時には1.0よりも大きい値に設定され、前記余裕代Trが1.0のときにエンジンの空吹けが発生するように、入力軸トルクの推定値を補正する。
【0055】
尚、前記補正係数Kttが設定されると、該補正係数Kttによる補正要求を含んで入力軸トルクを推定するように学習される構成としてある。また、前記補正係数Kttは、所定の上下限値内に制限されると共に、前記補正係数Kttの学習は、ATF温度が所定温度以上であるときに行わせるようになっている。
【0056】
一方、締結側の準備フェーズ処理は、図14のフローチャートに示される。
ステップS41では、トルクフェーズへの移行判定がなされているか否かを判別する。
【0057】
そして、トルクフェーズへの移行判定がなされていない場合には、準備フェーズであるとしてステップS42へ進む。
ステップS42では、締結側摩擦係合要素のプリチャージ圧(スタンバイ圧)を、摩擦係合要素の種類に応じて設定する。
【0058】
ステップS43では、前記プリチャージ圧(スタンバイ圧)に過渡応答補償処理を施し、その結果を最終的な締結側油圧Po0として出力する。
ステップS44では、変速開始判断からの経過時間が前記所定時間TIMER1を超えたか否かを判別し、前記所定時間TIMER1を超えるとステップS45の分担比ランプ制御へ進む。
【0059】
ステップS45の分担比ランプ制御の詳細は、図15のフローチャートに示してあり、ステップS451では、所定時間TIMER2内で、余裕代(1)(例えば0.8)から余裕代(2)(例えば1.2)まで一定速度で増大させるものとして、所定時間TIMER2内における余裕代を決定する(図16参照)。
【0060】
そして、ステップS452では、前記ステップS451で決定される余裕代を用い、締結側の油圧Pc2を下式に従って算出する。
Pc2=K2×(Tt×Tr-c)×余裕代+Prtn-c
ここで、K2は、締結側の摩擦係合要素の伝達トルク容量(必要伝達トルク容量)を油圧に変換するための係数であり、変速の種類及び解放制御する摩擦係合要素の種類に応じて予め記憶されている。Tr-cは、入力軸トルクTtに対して、締結側の摩擦係合要素が締結し始める臨界伝達トルク容量を求めるための締結臨界トルク比である。Prtn-cは、締結側のスタンバイ圧(締結側リターンスプリング圧)であり、摩擦係合要素毎に予め記憶される。
【0061】
ここで、前記図5のフローチャートに戻って説明を続けると、ステップS2でトルクフェーズへの移行が判定されると、ステップS4へ進み、ギヤ比がF/B(フィードバック)開始ギヤ比を超えてアップシフト方向に変化したか否かを判別する。そして、F/B開始ギヤ比を超えてアップシフト方向に変化するまでは、ステップS5のトルクフェーズ処理を行わせる。
【0062】
解放側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理(ソフトOWC制御)では、前記準備フェーズにおける余裕代の減少制御をそのままの速度で継続させて求められる解放側油圧Po2に、空吹けに応じた補正油圧Po3を加算して、最終的な解放側油圧Po4を求める。
【0063】
具体的には、図17のフローチャートに示されるように、まず、ステップS51で、実際のタービン回転速度Ntの微分値ΔNtに応じた解放補正油圧Po3を、下式に従って算出する。
【0064】
Po3=K1×{INS×(2π/60)×ΔNt+1/g(Nt−No×i)}
ここで、INSは変速の種類毎に決められるイナーシャ(慣性モーメント)、gはクラッチトルクを回転速度に変換するゲイン、iは変速前のギヤ比である。
【0065】
ステップS52では、準備フェーズにおける余裕代の減少制御をそのままの速度で継続させて設定される余裕代に基づき算出される解放側油圧Po2に、前記解放補正油圧Po3を加算して、その結果を最終的な解放側油圧Po4とする(Po4=Po2+Po3)。
【0066】
尚、最終的な解放側油圧Po4が、解放側油圧Po2を下回ることがないように、制限を加えるようにしてある。また、タービン回転速度の微分値ΔNtとしてローパスフィルタ処理後の値を用いるようにしてある。
【0067】
一方、締結側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理の様子は、図18のフローチャートに示してある。
図18のフローチャートにおいて、ステップS61で、トルクフェーズへの移行判定がなされていると判別されると、ステップS62へ進み、ギヤ比がF/B開始ギヤ比を超えてアップシフト方向に変化したか否かを判別する。そして、F/B開始ギヤ比を超えていないと、ステップS63へ進む。
【0068】
ステップS63では、前記準備フェーズにおける余裕代の増大制御をそのままの速度で継続させて設定される余裕代に基づき締結側油圧Pc2を求める。
ステップS64では、前記ステップS51と同様にして、締結補正油圧Pc3を、下式に従って算出する。
【0069】
Pc3=K2×{INS×(2π/60)×ΔNt+1/g(Nt−No×i)}
そして、Pc2+Pc3=Pc4として最終的な締結側油圧Pc4を求める。
【0070】
図5のフローチャートのステップS4で、ギヤ比がF/B開始ギヤ比を超えたと判別されると、ステップS6へ進み、ギヤ比がF/B終了ギヤ比(<F/B開始ギヤ比)を超えたか否かを判別する。
【0071】
ギヤ比がF/B開始ギヤ比とF/B終了ギヤ比との間であるときには、ステップS7のイナーシャフェーズ処理を行わせる。
解放側のイナーシャフェーズ処理は、図19のフローチャートに示してあり、ステップS71でトルクフェーズ終了時の油圧(油圧=0)を保持させる設定を行う。
【0072】
また、締結側のイナーシャフェーズ処理は、図20のフローチャートに示される。
図20のフローチャートにおいて、ステップS81では、図21のフローチャートに示される基本制御を行う。
【0073】
前記基本制御においては、まず、ステップS811で、変速に伴って発生するイナーシャトルクTinr[Nm]を、下式に従って算出する。
Tinr=イナーシャINS×目標タービン角加速度[rad/sec2]
上式でイナーシャINS(慣性モーメント)[Nm/rad/sec2]は、変速の種類に応じて決定される値である。
【0074】
上式でギヤ段差は、ギヤ段差=1−(変速後ギヤ比/変速前ギヤ比)として算出される値であり、Nt[rpm]はイナーシャフェーズ開始時のタービン回転速度である。
【0075】
ステップS812では、前記イナーシャトルクTinrを、入力軸トルクTtに応じた基本圧に加算して締結側油圧Pc7を算出する。
Pc7=K2×Tt×Tr×Tr-c+Prtn-c+K2×Tr-c×Tinr
上記基本制御に加え、ステップS82では、本実施形態で前置補償と称する制御により、実際のタービン回転速度を目標タービン回転速度(目標値)に制御するためのフィードホワード補正分を算出する。
【0076】
前記前置補償の詳細は、図22のフローチャートに示してあり、以下、図23の制御ブロック図を参照しつつ説明する。
ステップS821では、目標タービン回転速度Tgt#Nt[rpm]を算出する。
【0077】
前記目標タービン回転速度Tgt#Ntは、イナーシャフェーズ開始時のタービン回転速度Nt[rpm]と前記目標タービン加速度[1/sec2]とに基づき、イナーシャフェーズ開始時のタービン回転速度Nt[rpm]から目標タービン加速度[1/sec2]で一定速度で減少変化する特性として算出される(目標タービン速度(n)=目標タービン速度(n-1)+目標タービン加速度)。
【0078】
ステップS822では、摩擦係合要素の伝達トルク容量とタービン回転速度Ntとの間の動特性(一次遅れ)を考慮して、前記目標タービン回転速度Tgt#Nt[rpm]に対して一次遅れを示す規範モデル目標Tgt#Nt#kihan(規範モデル目標値)を設定する。
【0079】
ここで、前記一次遅れの伝達関数をラプラス関数を用いて1/(1+TtgtS)とし、該伝達特性のフィルタで目標タービン回転速度Tgt#Nt[rpm]を遅れ処理することで、規範モデル目標Tgt#Nt#kihanを得るようにしてある。尚、規範モデル時定数Ttgtを例えば0.8[sec]とする。
【0080】
また、ステップS823では、実際の摩擦係合要素の伝達トルク容量とタービン回転速度Ntとの間の動特性(一次遅れ)と前記規範モデルの動特性(規範モデル時定数Ttgt)から、伝達関数をラプラス関数を用いて(1+TrealS)/(1+TtgtS)とする逆フィルタを構成し、前記目標タービン回転速度Tgt#Ntを前記逆フィルタで進み処理して逆フィルタ目標速度Tgt#Nt#Inverseを得る。
【0081】
尚、前記実際の動特性を示す時定数Trealは、固定値であっても良いが、タービン回転速度Ntに応じて動特性が変化することから、タービン回転速度Ntに応じて時定数Trealを設定するようにしてある。ここで、タービン回転速度Ntが高いほど遅れが小さくなるから、タービン回転速度Ntが高いほど、時定数Trealが小さくなるようにする。
【0082】
そして、ステップS824では、逆フィルタ出力Tgt#Nt#Inverseから目標タービン回転速度Tgt#Ntを減算した値を、フィードホワード補正回転数FF#Ntとする。
【0083】
ステップS82の前置補償制御の後、ステップS83へ進んで、図24のフローチャートに示す回転フィードバック制御を行う。
ステップS831では、前記規範モデル目標Tgt#Nt#kihanと、実際のタービン回転速度r#Ntとの偏差が求められ、該偏差に基づく比例・積分制御(又は比例・積分・微分制御)によってフィードバック補正回転数FB#Ntが算出される。
【0084】
ステップS832では、前記フィードバック補正回転数FB#Ntとフィードホワード補正回転数FF#Ntとを加算し、更に、該加算結果を、タービン回転速度Ntに応じたゲインgでトルクに変換し、フィードバック補正トルクTFBを求める。
【0085】
そして、ステップS833では、前記フィードバック補正トルクTFBに変換係数K2を乗算してフィードバック補正油圧に変換し、これを前記締結側油圧Pc7に加算した結果を、最終的な締結側油圧Pc8として出力する。
【0086】
Pc8=Pc7+K2×TFB
ギヤ比がF/B終了ギヤ比よりも小さくなったことが、図5のフローチャートのステップS6で判別されると、ステップS6からステップS8へ進み、ギヤ比がF/B終了ギヤ比よりも初めて小さくなった時点から所定時間TIMER7だけ経過したか否かを判別する。
【0087】
そして、所定時間TIMER7内であれば、ステップS9へ進んで、終了フェーズ処理を行う。
解放側摩擦係合要素についての終了フェーズ処理は、図25のフローチャートに示してあり、ステップS91でイナーシャフェーズ終了時の油圧を保持する設定を行う。即ち、解放側摩擦係合要素の油圧は、イナーシャフェーズ及び終了フェーズにおいて、ギヤ比がF/B開始ギヤ比よりも小さくなった時点の値に保持されることになる。
【0088】
一方、締結側摩擦係合要素の終了フェーズ処理は、図26のフローチャートに示され、ステップS101では、ギヤ比がF/B終了ギヤ比よりも初めて小さくなった時点から所定時間TIMER7内であるか否かを判別し、所定時間TIMER7内であればステップS102へ進んで、終了フェーズ処理を実行する。
【0089】
前記ステップS101の終了フェーズ処理の詳細は、図27のフローチャートに示してあり、ステップS111では、締結臨界トルクに相当する油圧から締結臨界トルクの1.2倍に相当する油圧まで、前記所定時間TIMER7内で上昇させるランプ勾配Rmp-Tr2の設定を行う。尚、前記所定時間TIMER7は、変速及び摩擦係合要素の種類に応じて設定される。
【0090】
ステップS112では、締結側指示圧Pc9を、
として算出する。
【0091】
そして、前記所定時間TIMER7が経過した時点で、締結側の指示圧を、前記Pc9から、最大圧までステップ変化させる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態における自動変速機の変速機構を示す図。
【図2】前記変速機構における摩擦係合要素の締結状態の組み合わせと変速段との相関を示す図。
【図3】前記自動変速機の制御系を示すシステム図。
【図4】実施の形態における摩擦係合要素の掛け換えによる変速の様子を示すタイムチャート。
【図5】実施の形態における摩擦係合要素の掛け換え変速制御のメインルーチンを示すフローチャート。
【図6】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理を示すフローチャート。
【図7】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における解放初期油圧演算を示すフローチャート。
【図8】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における分担比ランプ制御を示すフローチャート。
【図9】前記分担比ランプ制御における余裕代の変化を示す線図。
【図10】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における分担比ランプ制限を示すフローチャート。
【図11】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における分担比ランプ学習を示すフローチャート。
【図12】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理におけるトルク推定学習を示すフローチャート。
【図13】前記トルク推定学習における入力軸トルクの補正係数の特性を示す線図。
【図14】締結側摩擦係合要素の準備フェーズ処理を示すフローチャート。
【図15】締結側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における分担比ランプ制御を示すフローチャート。
【図16】締結側摩擦係合要素の分担比ランプ制御における余裕代の変化を示す線図。
【図17】解放側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理を示すフローチャート。
【図18】締結側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理を示すフローチャート。
【図19】解放側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理を示すフローチャート。
【図20】締結側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理を示すフローチャート。
【図21】締結側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理における基本制御を示すフローチャート。
【図22】締結側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理における前置補償制御を示すフローチャート。
【図23】締結側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理における前置補償制御及び回転フィードバック制御を示すブロック図。
【図24】締結側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理における回転フィードバック制御を示すフローチャート。
【図25】解放側摩擦係合要素の終了フェーズ処理を示すフローチャート。
【図26】締結側摩擦係合要素の終了フェーズ処理を示すフローチャート。
【図27】締結側摩擦係合要素の終了フェーズ処理の詳細を示すフローチャート。
【符号の説明】
1…トルクコンバータ
2…変速機構
11…ソレノイドバルブユニット
12…A/Tコントローラ
13…A/T油温センサ
14…アクセル開度センサ
15…車速センサ
16…タービン回転センサ
17…エンジン回転センサ
18…エアフローメータ
20…エンジン
G1,G2…遊星歯車
H/C…ハイクラッチ
R/C…リバースクラッチ
L/C…ロークラッチ
2&4/B…2速/4速バンドブレーキ
L&R/B…ロー&リバースブレーキ
Claims (5)
- 摩擦係合要素の係合圧を制御して変速を行う自動変速機の制御装置において、
変速中の入力軸回転速度の目標値に対して遅れ処理をして規範モデル目標値を設定し、該規範モデル目標値と実際の入力軸回転速度との偏差に基づくフィードバック制御によって摩擦係合要素の係合圧を補正すると共に、
前記目標値に対して進み処理をして逆フィルタ目標値を設定し、該逆フィルタ目標値と前記目標値との偏差に基づいて摩擦係合要素の係合圧を補正するよう構成したことを特徴とする自動変速機の制御装置。 - 前記目標値が、変速開始時の入力回転速度と、変速前後のギヤ比と、目標変速時間とに基づいて設定されることを特徴とする請求項1記載の自動変速機の制御装置。
- 前記目標値の加速度に基づいてイナーシャトルクを求め、該イナーシャトルクによって摩擦係合要素の係合圧を補正することを特徴とする請求項1又は2記載の自動変速機の制御装置。
- 前記規範モデルの時定数をTtgtをとしたときに、前記遅れ処理の伝達関数を1/(1+TtgtS)とし、実際の制御対象の時定数をTrealとしたときに、前記進み処理の伝達関数を(1+TrealS)/(1+TtgtS)とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の自動変速機の制御装置。
- 前記実際の制御対象の時定数Trealを、入力軸回転速度に応じて設定することを特徴とする請求項4記載の自動変速機の制御装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP37263599A JP3762175B2 (ja) | 1999-12-28 | 1999-12-28 | 自動変速機の制御装置 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP37263599A JP3762175B2 (ja) | 1999-12-28 | 1999-12-28 | 自動変速機の制御装置 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2001182816A JP2001182816A (ja) | 2001-07-06 |
JP3762175B2 true JP3762175B2 (ja) | 2006-04-05 |
Family
ID=18500786
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP37263599A Expired - Fee Related JP3762175B2 (ja) | 1999-12-28 | 1999-12-28 | 自動変速機の制御装置 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP3762175B2 (ja) |
Families Citing this family (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2003269588A (ja) * | 2002-03-15 | 2003-09-25 | Toyota Motor Corp | 無段変速機の入力回転速度予測装置、無段変速機の入力慣性トルク算出装置、それらのいずれかを含む無段変速機の制御装置、無段変速機の入力回転速度予測方法、無段変速機の入力慣性トルク算出方法及びそれらのいずれかを用いた無段変速機の制御方法 |
JP6470333B2 (ja) * | 2017-03-15 | 2019-02-13 | 本田技研工業株式会社 | 自動変速機 |
-
1999
- 1999-12-28 JP JP37263599A patent/JP3762175B2/ja not_active Expired - Fee Related
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP2001182816A (ja) | 2001-07-06 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP3699628B2 (ja) | 自動変速機の制御装置 | |
US20050096820A1 (en) | Automatic transmission control system with direct electronic swap-shift control | |
JP3699626B2 (ja) | 自動変速機の制御装置 | |
JP3762175B2 (ja) | 自動変速機の制御装置 | |
JP3859927B2 (ja) | 自動変速機の制御装置 | |
JP3816710B2 (ja) | 自動変速機の制御装置 | |
JP3395561B2 (ja) | 自動変速機の変速制御装置 | |
JP3759362B2 (ja) | 自動変速機の制御装置 | |
JP3905675B2 (ja) | 自動変速機の制御装置 | |
JP3685653B2 (ja) | 自動変速機の変速制御装置 | |
JP2001065682A (ja) | 自動変速機の変速制御装置 | |
JP3691293B2 (ja) | 自動変速機の変速制御装置 | |
JP4849981B2 (ja) | 自動変速機の変速制御装置及び方法 | |
JP3730470B2 (ja) | 自動変速機の制御装置 | |
KR19980017120A (ko) | 자동 변속기의 업 쉬프트 시 변속 제어장치 및 방법 | |
JP2001182820A (ja) | 自動変速機の制御装置 | |
JP3712894B2 (ja) | 自動変速機の変速制御装置 | |
JP3752401B2 (ja) | 自動変速機の変速制御装置 | |
JP3685652B2 (ja) | 自動変速機の変速制御装置 | |
JP2001182819A (ja) | 自動変速機の油圧制御装置 | |
JP2001227634A (ja) | 自動変速機の制御装置 | |
JP3946425B2 (ja) | 自動変速機の変速制御装置 | |
JP2001021030A (ja) | 自動変速機の変速制御装置 | |
JP2000337498A (ja) | 自動変速機の変速制御装置 | |
JP2002039362A (ja) | 車両用自動変速機の制御装置 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A711 | Notification of change in applicant |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A712 Effective date: 20041217 |
|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20050908 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20051220 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20060112 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |