従来より、青色発光デバイスは、II−VI族のZnSe、IV−IV族のSiC、III−V族のGaNなどを用いて研究が進められており、最近では、その中でもIII族窒化物系化合物半導体が常温で、高効率の発光をすることが示され注目を集めている。
このように、高効率の発光をするIII族窒化物系化合物半導体を用いた素子が期待されているにもかかわらず、その研究が進展しなかった最も大きな原因としては、III族窒化物系化合物半導体層を成長させるための格子定数または熱膨張係数の同じ適当な基板材料が無いことである。
近年、有機金属化合物化学的気相成長(MOCVD法)によってサファイア基板上にIII族窒化物系化合物半導体層を成長させる方法が報告されている。つまり、サファイア基板上にIII族窒化物系化合物半導体層としてのGaN、AlNなどのバッファ層を比較的低温で成長させ、その上にGaNの成長を行うことによって成長層の表面状態、結晶性が著しく向上し、ノンドープGaNエピ層でバックグラウンドキャリア濃度の低い良好な電気特性のものが得られることが報告されている。また、このようにして形成した結晶性の良好なGaNまたはAlGaNにp型不純物としてMgを添加し、電子線照射または熱処理を行うことにより低抵抗のp型層が得られることが報告されている。
これらの結晶成長技術や価電子制御技術の進展によりAlGaNとInGaNを用いたダブルへテロ構造を用いた青色LEDで1(cd)を超え、SiCを用いた青色LEDで商品化されている従来の素子に比べて100倍程度明るい素子が開発されるようになった。
上記のようにGaN系化合物半導体を用いて、屋外での使用にも十分耐えられる、十分な光度を持った青色LEDが開発され、赤色、緑色のLEDと組み合わせたフルカラーディスプレイなどへの応用の期待が高まっている。
図11に現在作製されているGaN系化合物半導体を用いた青色LEDの構造を示している。
図11において、サファイア基板11上に、GaNバッファ層3、n型GaN成長層4、n型AlGaNクラッド層5、InGaN発光層6、p型AlGaNクラッド層7さらにp型GaNコンタクト層8を順次膜成長させる。このp型GaNコンタクト層8上にp側電極10を形成し、また、n型GaN成長層4の途中までの各成長層の両端部をエッチングして、n型GaN成長層4上にn側電極13を形成する。以上により、GaN系化合物半導体を用いた青色LEDが構成される。
このように、GaN系化合物半導体は絶縁物であるサファイア基板11上に成長しているために、LEDのp側またはn側の電極10,13を形成するには、いずれの電極10,13も成長層の表面側から形成する必要があるため、例えばn側電極13を形成するのに、n型GaN成長層4の途中まで各成長層をエッチングして除去することが必要になる。また、LEDを個々のチップに分割する際のダメージをInGaN発光層6などの活性層に及ぼさないようにするために、接合端面をエッチングすることが必要である。
このように、GaN系化合物半導体を用いた発光デバイスまたは電子素子を作製する場合にそのエッチング技術は必要不可欠なものであった。また、青から紫外域までの短波長半導体レーザが実現できれば、例えば光ディスクの記憶容量の増大など、今後のマルチメディア時代に向けて大きな用途開発が期待されている。このような半導体レーザを実現する場合には素子内に共振器構造を作り込む必要がある。GaAs系のIII−V族半導体を用いた半導体レーザにおいては基板に用いられているGaAs結晶は、特定の結晶面に沿った劈開面が存在するために、これを利用することにより、基板に対して垂直の共振器用反射ミラーを容易に形成することができる。しかしながら、GaN系化合物半導体の成長において一般に用いられているサファイア基板は、上記GaAs結晶のような劈開面が存在しないために、半導体レーザを作製するためにはエッチングなどの方法によって基板に垂直な鏡面の反射ミラーを形成することが必要であった。
上記したエッチング技術は非常に重要なものであるが、III族窒化物系化合物半導体は非常に化学的に安定な材料であるためにそのエッチングは非常に困難なことが知られている。リン酸などを用いたGaNのウェットエッチングの報告例があるものの、このウェットエッチング方法では特定の形状に制御性よくエッチングすることが非常に困難であり、LEDの作製には歩留まりや信頼性などの点から実用上問題となっていた。
また、近年、塩素系のガスを用いたリアクティブイオンエッチング(RIE)などのドライエッチングによるIII族窒化物系化合物半導体のエッチングに関する報告もなされている。しかしこれらはまだ十分に確立された技術とはいえず、特に、半導体レーザの反射ミラーに用いられるような垂直な鏡面を得ることができないのが現状であった。このことが、高効率の発光をするIII族窒化物系化合物半導体を用いた半導体レーザなどの発光素子が期待されているにもかかわらず、いまだに実現されていないことの大きな原因の一つとなっていた。
このようなエッチング技術を用いずに、電極形成、素子分離を行う技術として、絶縁性薄膜上に導電性多結晶窒化ガリウム薄膜を形成することを用いた素子が報告されている(たとえば、特許文献1を参照)。
ところが、図12に示すこの方法では、サファイア基板11上に設けられた単結晶GaN成長層4の側面にはアルミナ上に形成された多結晶導電性薄膜51が存在しているため、MIS型の発光素子にのみ適用可能であって、近年開発されているpn接合またはDH構造の高輝度LEDの場合には、pn接合界面にこの導電性薄膜が接することになり、その適応が不可能であった。
一方、選択的にGaN薄膜を形成する方法として、一部をSiOxで覆ったサファイア基板上へAlNバッファ層を介してGaN成長を行うことにより可能なことが報告されている(たとえば、非特許文献1)。また、一部をSiO2で覆ったn型GaN成長層(基板はサファイア)上にp型GaN成長層を選択的に成長させることによりpn接合型LEDを作製することが報告されている(たとえば、非特許文献2を参照)。
しかし、半導体レーザの端面反射鏡に用いられるような垂直反射鏡を得ることについては何等言及されておらず、これらの方法では実現不可能であった。
特開昭56−150880号公報
天野浩、名古屋大学博士過程論文(1989)
電気学会研究会資料EFM−90−23(1990)p.57
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に述べるIII族窒化物系化合物半導体とは(AlxGa1-x)yIn1-yN(0≦x≦1、0≦y≦1)で表される化合物半導体を示している。
(第1の実施の形態)
本実施の形態では、SiC基板上にAlGaN/InGaNのダブルヘテロ構造を作製して青色LEDを作製する場合であり、有機金属化学的気相成長法(MOCVD法)によってIII族窒化物系化合物半導体薄膜を成長させた場合である。図1は本発明の第1の実施の形態におけるIII族窒化物系化合物半導体青色LEDの構造を示す断面図である。
図1において、6H−SiC基板1上に格子状に誘電体薄膜としてのSiO2膜2を膜厚約4μmで設け、SiO2膜2の格子内の6H−SiC基板1上に、III族窒化物系化合物半導体薄膜として、膜厚約20nmのGaNバッファ層3、膜厚約2.5μmのn型GaN成長層4、膜厚約200nmのn型Al0.lGa0.9Nクラッド層5、膜厚50nmのIn0.06Ga0.94N発光層6、膜厚約200nmのAl0.lGa0.9Nクラッド層7、さらに膜厚300nmのGaNコンタクト層8を順次設けている。このように、III族窒化物系化合物半導体薄膜をSiO2膜2の格子内に選択成長可能でありSiO2膜2上には膜は成長せず、SiO2膜2の格子内の6H−SiC基板1上にのみ合計3.25μmのIII族窒化物系化合物半導体によるダブルヘテロ積層構造が構成される。
さらに、6H−SiC基板1の裏面側にn側電極としてのオーム性電極9が設けられ、GaN層8上にp側電極としてのオーム性電極10が設けられている。以上により、本実施の形態における青色LEDが構成される。
この青色LEDは以下のようにして製造することができる。
まず、表面研磨の後に酸化処理によって表面のダメージ層を除去したn型(0001)Si面の6H−SiC基板1を用いてスパッタ法によりその上にSiO2膜2を形成する。このSiO2膜2の膜厚は約4μmとした。
次に、通常のフォトリソグラフィーによりSiO2膜2に、図2に示すように250μmのSiO2膜2のない領域21と、50μmの幅の格子状にパターン化されたSiO2層(SiO2膜2を残した領域)22を形成する。このSiO2膜2のエッチングにはバッファードフッ酸を用いた。このSiO2層22のパターンを形成した6H−SiC基板1をMOCVD装置のリアクターにセットし、リアクターを水素で良く置換した後、水素を流しながら温度をll00℃まで上昇させて20分間保持し、SiO2膜2のない領域21の6H−SiC基板1表面のクリーニングを行う。
その後、温度を500℃まで下げ、水素に加えて、アンモニア(NH3)を毎分5リットル、トリメチルガリウム(以下TMGという)を毎分3×10-5モル流しながら3分間保持してGaNバッファ層3を約20nmの膜厚で成長させる。その後、このTMGの流れを止めて温度を1050℃まで上昇させる。その温度が1050℃に安定したら再びTMG、シラン(SiH4)を毎分0.3cc流し、1時間の膜成長で約2.5μmのn型GaN成長層4を成長させる。
続いて、これらNH3、TMG、トリメチルアルミニウム(以下TMAという)を毎分6×10-6モル、シラン(SiH4)を毎分0.3cc流し、5分間の膜成長で約200nmのn型Al0.lGa0.9Nクラッド層5を膜成長させる。このクラッド層の電子濃度は2×1018cm-3である。
さらに、これらTMG、TMA、SiH4の流れを止めて温度を800℃まで下降させる。温度が800℃に安定したらTMGおよびトリメチルインジウム(以下TMIという)を毎分8×10-5モル、ジエチルジンク(以下DEZという)を毎分1×10-8モル流し、1分間の成長で50nmのIn0.06Ga0.94N発光層6を成長させる。ZnはこのIn0.06Ga0.94N発光層6中で深いアクセプタ準位を形成し、このアクセプタ準位を発光センターとする活性発光層となる。この活性発光層からの室温での発光ピーク波長は約450nmである。
さらに、これらのTMD、TMI、DEZの流れを止めて温度を再び1050℃まで上昇させる。温度が1050℃に安定したらTMG、TMAおよびビスシクロペンタジエニル(Cp2Mg)を毎分5×10-6モル流し、5分間の膜成長で約200nmのAl0.lGa0.9Nクラッド層7を成長させる。続いて、TMAの流れを止めてマグネシウムを添加し、7.5分間の膜成長で300nmのGaNコンタクト層8を成長させる。
以上の各層の膜成長により、図3に示すようにSiO2膜2のない領域21の6H−SiC基板1上に合計3.25μmのIII族窒化物系化合物半導体によるダブルヘテロ積層構造が構成できる。この膜成長では選択成長が可能であり格子状のSiO2層22上には膜は成長しない。このようにして得られたウェハを装置から取り出し、窒素雰囲気中700℃で20分間の熱処理を行うことにより、マグネシウムを添加したAl0.lGa0.9Nクラッド層7およびGaNコンタクト層8の低抵抗p型化を行う。この処理により両層の正孔濃度は約1×1018cm-3となった。
このn型6H−SiC基板1の裏面を研磨することにより、基板裏面の成長付着物を除去した後、n型6H−SiC基板1へのオーム性電極のn側電極9としてニッケルを部分的に形成し、また、p型GaNコンタクト層8へのオーム性電極のp側電極10として金(Au)をそれぞれ真空蒸着により形成し、図3のようなLEDチップウェハが形成される。最終的にLEDを個々のチップに分割するためにIII族窒化物系化合物半導体成長層のない格子状のSiO2層22上からダイシングして素子分割する。
以上のようにして得られたLEDチップにおいては、III族窒化物系化合物半導体成長層とSiO2層22との間には安定な界面が形成されており、−5Vの印加電圧における漏れ電流は1nA以下であり、DC20mA駆動による信頼性試験においても1万時間においても30%以下の光出力低下にとどまった。
(第2の実施の形態)
本実施の形態では、SiC基板1上にAlGaN/InGaNのダブルヘテロ構造を作製して青色LEDを作製する場合であり、第1の実施の形態と異なるのは、選択成長に用いるSiO2膜2の膜厚を0.4μmとし、膜成長させるIII族窒化物系化合物半導体層の全層厚よりも薄くした場合である。
図4に本発明の第2の実施の形態におけるIII族窒化物系化合物半導体青色LEDの構造を示す断面図である。
図4において、6H−SiC基板1上に、第1の実施の形態と同様の誘電体薄膜としてのSiO2膜2を格子状にパターニングした基板を用いて、有機金属化学的気相成長法(MOCVD法)によって第1の実施の形態と全く同様の手順によって、III族窒化物系化合物半導体薄膜をそれぞれ膜成長させた。本実施の形態においては、格子状にパターニングされたSiO2層よりもIII族窒化物系化合物半導体薄膜を厚く成長させるため、このIII族窒化物系化合物半導体薄膜はSiO2層の膜厚以上の領域ではそれぞれ若干広がって膜成長する。
以上のようにして得られたLEDチップにおいても、−5Vの印加電圧における漏れ電流は1nA以下であり、DC20mA駆動による信頼性試験においても1万時間においても30%以下の光出力低下にとどまった。
また、このLEDでは活性発光層の両端部は完全に平行ではなく斜め角度を持ったものが形成されているので、平坦な端面が形成されているにもかかわらず共振器構造は形成されない。このことにより、注入電流を増大させていっても発振が起こらず安定なLEDモードで発光強度のみが増大するスーパールミネッセントLEDが形成できる。したがって、本実施の形態で得られるLEDはパルス駆動による高駆動電流での使用が有利である。
(第3の実施の形態)
本実施の形態では、成長層の表面状態、結晶性が著しく向上するサファイア基板上にAlGaN/InGaNのダブルヘテロ構造を作製して青色LEDを作製する場合であり、有機金属化学的気相成長法(MOCVD法)によってIII族窒化物系化合物半導体薄膜を成長させた場合である。
図5は本発明の第3の実施の形態におけるIII族窒化物系化合物半導体青色LEDの構造を示す断面図である。
図5において、サファイア基板ll上に、III族窒化物系化合物半導体薄膜として、GaNバッファ層3、n型GaN成長層4、n型AlGaNクラッド層5、InGaN発光層6、p型AlGaNクラッド層7さらにp型GaNコンタクト層8を順次設けている。このInGaN発光層6の両端面側に接するようにSi3N4膜12が設けられており、また、n型GaN成長層4の両端面側に接するように電極層13がサファイア基板ll上に設けられている。以上のようにして青色LEDが構成される。
この青色LEDは以下のようにして製造することができる。
まず、サファイアC面基板ll上にスパッタ法により誘電体膜としてのSiO2膜2、さらにSi3N4膜12を連続的に形成する。このSiO2膜2の膜厚は2μm、Si3N4膜12の膜厚は2μmとした。次に、通常のフォトリソグラフィーにより図6bに示す格子状のパターンに形成する。ここでは、200μmの幅のSi3N4/SiO2のない領域31と、150μmの幅のSi3N4/SiO2の格子状のパターン領域(SiO2膜2/Si3N4膜12を残した領域)32を形成した。このSi3N4膜12のエッチングにはリン酸を用い、また、SiO2膜2のエッチングにはバッファードフッ酸を用いた。このSi3N4/SiO2の格子状のパターン領域32を形成したサファイア基板11をMOCVD装置のリアクターにセットし、このリアクターを水素で良く置換した後、アンモニアを流しながら温度を1100℃まで上昇させて20分間保持し、Si3N4/SiO2のない領域31のサファイア基板11の表面の窒化膜の成膜を行う。
その後、温度を500℃まで下げ、アンモニア(NH3)を毎分5リットル、トリメチルガリウム(TMG)を毎分3×10-5モル流しながら1分間保持してGaNバッファ層3を約20nmの膜厚で成長させる。その後の膜成長は、第1の実施の形態と全く同様に行うことにより、図3と同様のn型GaN成長層4、n型AlGaNクラッド層5、InGaN発光層6、p型AlGaNクラッド層7、p型GaNコンタクト層8の成長層が順次得られる。このサファイア基板llは絶縁性であるためにn型GaN成長層4へのオーム性電極13も基板上面側から形成する必要がある。このオーム性電極13の形成工程を以下に示す。
図7に示すようにSi3N4膜12を部分的にエッチングする。このとき、活性発光層であるInGaN発光層6に接する部分のSi3N4膜12は約20μmの幅の保護層として残しておく。その下部のSiO2膜2をバッファードフッ酸を用いたウェットエッチングによって全て取り除き、その部分にn型GaN成長層4へのオーム性電極のn側電極13としてアルミニウムを真空蒸着により形成する。さらに、p型GaN層8へのオーム性電極のp側電極10として金(Au)を真空蒸着により形成することにより、図5に示すLEDウェハが形成される。最終的に、このLEDを個々のチップに分割するために、アルミニウム電極層13の上からダイシングすることによりすべての工程が終了する。
以上のようにして得られたLEDチップにおいて、III族窒化物系化合物半導体成長層とSi3N4層との間には安定な界面が形成されており、−5Vの印加電圧における漏れ電流は1nA以下であり、DC20mA駆動による信頼性試験においても1万時間においても30%以下の光出力低下にとどまった。
(第4の実施の形態)
本実施の形態は、SiC基板上にAlGaN/GaNのダブルヘテロ構造を作製して紫外LDを作製する場合であり、有機金属化学的気相成長法(MOCVD法)によってIII族窒化物系化合物半導体薄膜を成長させた場合である。
図8aは本発明の第4の実施の形態におけるIII族窒化物系化合物半導体紫外LDの構造を示す断面図、図8bはその平面図である。
図8aおよび図8bにおいて、6H−SiC基板1上に、III族窒化物系化合物半導体薄膜として、GaNバッファ層3、n型GaN成長層4、n型AlGaNクラッド層5、GaN発光層61、p型AlGaNクラッド層7さらにp型GaNコンタクト層8を順次設けている。このIII族窒化物系化合物半導体層の両端面側に接するように誘電体層としてのSiO2膜2よりなる格子状パターンのSiO2層22が設けられている。これらp型GaNコンタクト層8およびSiO2層22上に保護膜としてのAl2O3膜14が設けられている。このAl2O3膜14上にAu/Ni積層膜よりなるp側電極15が設けられており、Au/Ni積層膜よりなるp側電極15は、Al2O3膜14に形成されたストライプを介してGaNコンタクト層8に直接接触している。また、6H−SiC基板1の裏面には、オーム性電極のn側電極9が全面に設けられている。以上のようにして紫外LDが構成される。
この紫外LDは以下のようにして製造することができる。
まず、表面研磨の後に酸化処理によって表面のダメージ層を除去したn型(0001)C面から〈1120〉方向に5度オフした6H−SiC基板1を用い、スパッタ法により6H−SiC基板1上にSiO2膜2を形成する。このSiO2膜2の膜厚は約4μmとした。
次に、通常のフォトリソグラフィーによりSiO2膜2に図2に示したのと同じパターンを形成する。図2のように250μmのSiO2膜2のない領域21と、50μmの幅の格子状パターンのSiO2層22を形成する。本実施の形態におけるLD作製においては、選択成長によって形成するIII族窒化物系化合物半導体層とSiO2層22との界面を反射ミラーとして利用するために、この界面の基板に対する垂直性、平垣性が重要である。選択成長に関する種々の実験検討の結果からSiO2などの誘電体層のエッチング面の方向をIII族窒化物系化合物半導体結晶の結晶型である六方晶の一辺である(1100)方向にIII族窒化物系化合物半導体層と誘電体層との界面が最も平坦な層が得られることが判明した。したがって、ここでは、6H−SiC基板1の(ll00)方向と平行にSiO2膜2のエッチング面が得られるようにした。このSiO2膜2のエッチングにはCF4ガスを用いたRIE法を用い、垂直性に優れたSiO2のエッチング面を得た。このSiO2膜2の格子状パターンであるSiO2層22を形成した6H−SiC基板1をMOCVD装置のリアクターにセットし、このリアクターを水素で良く置換した後、水素を流しながら温度を1300℃まで上昇させて20分間保持し、SiO2膜2のない領域21の6H−SiC基板1表面のクリーニングを行う。
その後、温度を500℃まで下げ、アンモニア(NH3)を毎分5リットル、トリメチルガリウム(TMG)を毎分3×10-5モル流しながら3分間保持してGaNバッファ層3を約20nmの膜厚で成長させる。さらに、このTMGの流れを止めて温度を1050℃まで上昇させる。温度が1050℃に安定したらTMG、NH3、シラン(SiH4)を毎分0.3cc流し、1時間の膜成長で約2.5μmのn型GaN成長層4を成長させる。
続いて、NH3、TMGに加えてトリメチルアルミニウム(TMA)を毎分6×10-6モル、シラン(SiH4)を毎分0.3cc流し、25分間の膜成長で約1μmのAl0.15Ga0.85Nクラッド層5を成長させる。このクラッド層5の電子濃度は2×1018cm-3である。
さらに、NH3、SiH4の流れを止め、1分間の膜成長で50nmのGaN発光層61を膜成長させる。このノンドープGaN発光層6がLDの活性層となる。室温での発振波長は約366nmである。
さらに、TMAおよびCp2Mgを毎分5×10-6モル流し、25分間の膜成長で約1μmのp型Al0.15Ga0.85Nクラッド層7を膜成長させる。続いて、TMAの流れを止め、7.5分間の膜成長で300nmのGaNコンタクト層8を膜成長させる。
以上の各膜成長により、図8bのようにSiO2膜2のない領域21の6H−SiC基板1上に合計4.85μmのIII族窒化物系化合物半導体によるダブルヘテロ積層構造を構成することができる。この膜成長では、III族窒化物系化合物半導体の、SiO2膜2のない領域21への選択成長が可能であり、格子状パターンのSiO2層22上にはIII族窒化物系化合物半導体膜は成長しない。このようにして得られたウェハを装置から取り出し、窒素雰囲気中700℃の温度で20分間の熱処理を行うことにより、マグネシウムを添加したAl0.15Ga0.85Nクラッド層7およびGaNコンタクト層8の低抵抗p型化を行う。この処理により両層の正孔濃度は約1×1018cm-3となった。
さらに、エピ層の上に保護膜としてAl2O3膜14を電子ビーム蒸着により形成し、幅が3μmの電極ストライプ構造を形成して電極とし、このストライプを介してGaNコンタクト層8に直接接触するようにAu/Ni積層膜15を形成する。さらに、(1100)方向に沿って形成したSiO2膜2とIII族窒化物系化合物半導体積層膜との界面を反射ミラーとして利用するために、この部分のSiO2層22を20μmの幅だけ残してエッチング除去する。さらに、6H−SiC基板1の裏面の成長付着物を研磨除去した後、基板へのオーム性電極のn側電極9としてNiを全面に蒸着することにより図8に示す半導体レーザ素子が形成できる。
このようにして形成した半導体レーザ素子に電流を流したところ、80mA(約l×104A/m2の電流密度)の電流で366nmの紫外域でのレーザ発振が観測された。その比較例として同じウェハを用いて選択成長法を用いずにエッチングにより反射ミラーを形成した場合は、さらに大電流を加えてもレーザ発振は観測されなかった。上記のような選択成長による良好な反射ミラーの形成がレーザ発振が達成できた原因と考えられる。
したがって、予め比較的厚めの誘電体薄膜を格子状パターンに部分的に形成した基板を用いて、誘電体薄膜のない領域にIII族窒化物系化合物半導体の誘電体薄膜よりは層厚の薄い層を成長させることにより、この誘電体薄膜とIII族窒化物系化合物半導体薄膜との界面には電気的に不活性な非常に安定な界面が形成される。このような安定な界面はそのままで素子分離の際の分離層として利用することが可能となる。また、誘電体薄膜の断面を垂直な鏡面を得ることは比較的容易な技術であるが、この垂直鏡面誘電体薄膜を選択成長の際に用いることによって、誘電体薄膜とIII族窒化物系化合物半導体成長層との界面に発光素子の反射ミラーに適用可能な垂直鏡面が得られる。
このようにして、本実施の形態においては、エッチング技術を用いずにIII族窒化物系化合物半導体素子の素子分離、電極形成、端面反射鏡作製が可能となるために、これら素子の信頼性を大幅に改善することが可能となるとともに、製造過程も簡略化可能となり、このために、これら素子の実用化が進展する。
(第5の実施の形態)
本実施の形態では、サファイア基板11上にAlGaN/InGaNのダブルヘテロ構造を作製した青紫色LDの場合であり、有機金属化学的気相成長法(MOCVD法)によってIII族窒化物系化合物半導体薄膜を成長した場合である。
図9aは本発明の第5の実施の形態におけるIII族窒化物系化合物半導体青紫色LDの構造を示す断面図、図9bはその平面図である。
図9aおよび図9bにおいて、サファイア基板11上にIII族窒化物系化合物半導体薄膜が設けられており、III族窒化物系化合物半導体薄膜下部のn型GaN成長層4上にn側電極13が設けられている。また、III族窒化物系化合物半導体薄膜上部のGaNコンタクト層8上に保護膜としてのAl2O3膜14が設けられている。このAl2O3膜14上にはp側電極10が設けられており、このp側電極10はAl2O3膜14のストライプを介してGaNコンタクト層8と直接接触している。以上のようにして青紫色LDが構成される。
この青紫色LDは以下のようにして製造することができる。
まず、(0001)面のサファイア基板11をMOCVD装置のリアクターにセットし、リアクターを水素で良く置換した後、アンモニアと水素を流しながら温度を1200℃まで上昇させて10分間保持し、サファイア基板ll表面の窒化処理を行う。
その後、温度を500℃まで下げ、アンモニア(NH3)を毎分5リットル、トリメチルガリウム(TMG)を毎分3×10-5モル流しながら3分間保持してGaNバッファ層3を約20nmの膜厚で成長させる。さらに、TMGの流れを止めて温度を1050℃まで上昇させる。温度が1050℃に安定したら再びTMGに加えてシラン(SiH4)を毎分0.3ccを流し、1時間の膜成長で約2.5μmのn型GaN成長層4を膜成長させる。
この後、n型GaN成長層4を2.5μm成長させたサファイア基板11をMOCVD装置から取り出して、スパッタ装置に導入し、スパッタ法により1.5μmの膜厚のSiO2膜2を形成する。このSiO2膜2の1.5μmの膜厚は、続いて成長するIII族窒化物系化合物半導体多層膜の合計層厚より大きい値である。
次に、RIE法を用いて、SiO2膜2に対して図2に示すような、250μmの幅のSiO2膜2のない領域21と50μmの幅の格子状パターンのSiO2層22を形成する。この場合、SiO2膜2のエッチング断面は基板面に対して90°±1°に形成することができた。
このSiO2層22の格子状パターンが形成されたn型GaN成長層4を2.5μm成長したサファイア基板llをMOCVD装置のリアクターに再び導入し、リアクターを水素で良く置換した後、NH3、TMG、トリメチルアルミニウム(TMA)を毎分6×10-6モル、シラン(SiH4)を毎分0.3cc流し、12分間の膜成長で約500nmのn型Al0.lGa0.9Nクラッド層5を成長させる。このクラッド層5の電子濃度は2×1018cm-3である。
さらに、これらTMG、TMA、SiH4の流れを止めて温度を800℃まで下降させる。温度が800℃に安定したらTMGおよびトリメチルインジウム(TMI)を毎分4×10-4モル流し、12秒間の膜成長で10nmのIn0.25Ga0.75N発光層6を成長させる。この発光層6からの室温での発光ピーク波長は約432nmである。さらに、これらのTMG、TMIの流れを止めて温度を再び1050℃まで上昇させる。温度が1050℃に安定したらを毎分5×10-6モル流し、12分間の膜成長で約500nmの膜厚のAl0.lGa0.9Nクラッド層7を成長させる。続いて、TMAの流れを止めてマグネシウムを添加し、7.5分間の膜成長で300nmのGaNコンタクト層8を成長させる。
以上のIII族窒化物系化合物半導体薄膜の成長により、図10のようにSiO2膜2のない領域21のn型GaN成長層4上に合計1.31μmのIII族窒化物系化合物半導体によるダブルヘテロ積層構造を成長させることができる。この膜成長では、選択成長が可能であり、格子状パターンのSiO2層22上にはIII族窒化物系化合物半導体膜は成長しない。このようにして得られたウェハを装置から取り出し、窒素雰囲気中700℃で20分間の熱処理を行うことにより、マグネシウムを添加したAl0.lGa0.9Nクラッド層7およびGaNコンタクト層8の低抵抗p型化を行う。この処理により両層の正孔濃度は約l×1018cm-3となった。
その後、バッファードフッ酸によりSiO2層22を除去した後、n型GaN成長層4へのオーム性電極のn側電極13としてアルミニウムを、真空蒸着により形成し、続いて、p型GaNコンタクト層8上に保護膜としてAl2O3膜14を電子ビーム蒸着により形成し、幅が3μmの電極ストライプ構造を形成し、p型GaNコンタクト層8へのオーム性電極のp側電極10として金(Au)をそれぞれ真空蒸着により形成し、図10のようなLDウェハが形成される。最終的に、LDを個々のチップに分割するためにアルミニウムよりなるn側電極13の部分またはn型GaN成長層4部分をダイシングする。SiO2膜22を除去した後のIII族窒化物系化合物半導体層は、そのままで反射ミラーとなるため、図9aおよび図9bに示す半導体レーザ素子がIII族窒化物系化合物半導体層をエッチングすることなしに形成できる。この半導体レーザ素子に電流を流したところ、70mAの電流でレーザ発振が観測された。その発振波長は約432nmである。
したがって、基板1上に予め形成され、格子状にパターン化された誘電体膜としてのSiO2膜2により、III族窒化物系化合物半導体層の選択成長を行うことにより、III族窒化物系化合物半導体層に対してエッチング技術を用いずに素子分離、電極形成、端面反射鏡が形成できる。
以上のように本発明によれば、選択成長によるIII族窒化物系化合物半導体成長を用いることにより、III族窒化物系化合物半導体に対してエッチング技術を用いずに発光素子、電子素子における素子分離、電極形成を行うことができ、歩留まり良く信頼性の高い発光素子を得ることができる。
また、エッチングが困難なIII族窒化物系化合物半導体に対してエッチング技術を用いずに、半導体レーザ素子に必要な垂直鏡面が得られるため、従来実現されていなかったIII族窒化物系化合物半導体を用いた短波長半導体レーザを実用化することができる。