JP3757479B2 - インクジェットヘッド - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、キャビティプレートに形成されたインク圧力室の開放面を閉塞するように圧電層を固定し、その圧電層に設けられた所定の電極に駆動電圧を印加して圧電層を変形させることによりインク吐出口からインクを吐出するインクジェットヘッドに関し、特に、層厚方向に分極された圧電層と外側圧電層とを積層してなる圧電体を使用し、駆動電圧の印加時に圧電層の分極方向と直交する電界を発生させて圧電層をシェアモードにて変形させるとともに、外側圧電層の分極方向と平行な電界を発生させて外側圧電層を伸縮モードにて変形させることにより、圧電層のシェアモード変形と外側圧電層の伸縮モード変形との協働に基づいて圧電体全体としての変形を大きくすることが可能であり、また、インク圧力室の剛性を高めて発生圧力の損失を少なくすることが可能なインクジェットヘッドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、インクジェットプリンタに搭載されるインクジェットヘッドの構成については各種の構成が提案されており、その一例として、キャビティプレートに形成されたインク圧力室の開放面に固定された圧電素子の駆動電極に対して駆動パルスを印加し、圧電素子にシェアモード変形を発生させてインク圧力室の容積を変化させことによりインク吐出口からインク滴を吐出するように構成したインクジェットヘッドが知られている。
【0003】
例えば、米国特許第4825227号の明細書及び図面には、チャンバプレートと固定プレートとからインク圧力室を構成し、そのインク圧力室の開放面(上面)側に単層からなる圧電層を固定するとともに、圧電層の一面(上面)にてインク圧力室の周縁部に2つの電極及び圧電層の他面(下面)の全面に共通電極を形成したインクジェットヘッドが記載されている。かかるインクジェットヘッドでは、圧電層がインク圧力室の中央部から圧電層面に沿って平行に分極されており、2つの電極に駆動電圧を印加して分極方向に直交する電界を発生させることにより圧電層にシェアモード変形を発生し、これによりインク圧力室の容積を変化させてインク圧力室内のインクをインク吐出口から吐出するように構成されている。
【0004】
また、米国特許第4584590号の明細書及び図面には、本体プレートにインク圧力室を形成し、そのインク圧力室の開放面(上面)側に単層からなる圧電層を固定するとともに、インク圧力室に対応して圧電層の両面に電極及びインク圧力室から外れた周縁位置に対応して圧電層の両面に電極を形成したインクジェットヘッドが記載されている。かかるインクジェットヘッドでは、圧電層がその層厚方向に沿って分極されており、インク圧力室に対応する各電極に駆動電圧を印加して分極方向に直交する電界を発生させることにより圧電層にシェアモード変形を発生し、これによりインク圧力室の容積を変化させてインク圧力室内のインクをインク吐出口から吐出するように構成されている。
【0005】
このように、前記した2つのインクジェットヘッドでは、圧電層の分極方向が異なるものの、圧電層に離間形成された電極間に駆動電圧を印加することにより分極方向と直交する電界を発生して圧電層をシェアモード変形させることによりインク圧力室の容積を変化させてインク吐出口からインクを吐出するように構成した点、及び、圧電層として単層の圧電層を使用している点で共通する。
【0006】
更に、2層以上の圧電層を積層した積層型圧電体を使用したインクジェットヘッドも知られており、この種のインクジェットヘッドに使用される積層型圧電体は、横効果モード或いは縦効果モードを利用した、所謂、伸縮モードにて変形を行う圧電体であり、かかる圧電体とインク圧力室との間に振動板等を介在させた構成を採用している。また、積層型圧電体を使用するとともに、その積層型圧電体に駆動電圧を印加し、その分極方向と実質的に垂直な方向の電界を発生させてシェアモードにて変形させることによりインクチャンネルの容積を変化してインクを吐出するインクジェットヘッドも知られている(特開平4−125157号公報等参照)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記した各米国特許第4825227号及び第4584590号の明細書、図面に記載されたインクジェットヘッドでは、前記のようにインク吐出口からインクを吐出する際に圧電層の電極に駆動電圧を印加し、圧電層の分極方向と直交する電界を発生してシェアモード変形させることによりインク吐出口からインクを吐出するものではあるが、圧電層はシェアモード変形のみによって変形駆動されるだけである。このとき、インク吐出口から効率的にインクを吐出するためには、駆動電圧に対する圧電層の変形効率を向上する必要があるが、かかる圧電層の変形効率は、その厚さが薄ければ薄い程高くなる。このような圧電層の変形効率を勘案すれば、前記インクジェットヘッドでは、シェアモード変形のみによって変形駆動されるだけであるので、圧電層の厚さを大きくするには自ずと限界が存する。従って、圧電層自体がインク圧力室の一壁を構成しており、また、圧電層の変形効率を一定以上に保持するためには所定の厚さ以上に厚くすることができないことから、圧電層の強度が低下してしまってインク吐出時に撓んでしまい、この結果、インク圧力室内に発生する圧力の低下を招来するという問題がある。
【0008】
更に、積層型圧電体を使用するインクジェットヘッドでは、積層型圧電体を伸縮モードにて変形させる関係上、積層型圧電体における伸縮変形をインク圧力室に伝達してインク吐出を行うにつき振動板等が必要され、インクジェットヘッドのコストが高くなってしまう。また、高解像度のマルチノズルヘッドを実現するにおいては、伸縮モードの積層圧電体を用いる場合、複数の前記圧電体を微小ピッチで配列する方法と、単一の前記圧電体に溝加工を微小ピッチで行う方法とが考えられるが、いずれにしても微小ピッチ化に限界があり、結局高解像度用のヘッドには不向きであった。
【0009】
また、積層型圧電体をシェアモードにて変形させることによりインクを吐出するインクジェットヘッドでは、積層型圧電体が複数の圧電層を有することから、電気機械変換効率は良く、駆動電圧を低減することが可能であるが、積層型圧電体はシェアモードのみにて変形されるだけであるので、積層型圧電体の変形効率の点でまだ尚充分なものとはいえない。
【0010】
本発明は前記従来の問題点を解消するためになされたものであり、層厚方向に分極された圧電層と外側圧電層とを積層してなる圧電体を使用し、駆動電圧の印加時に圧電層の分極方向と直交する電界を発生させて圧電層をシェアモードにて変形させるとともに、外側圧電層の分極方向と平行な電界を発生させて外側圧電層を伸縮モードにて変形させることにより、圧電層の厚さを大きくした場合においても圧電層のシェアモード変形と外側圧電層の伸縮モード変形との協働に基づいて圧電体全体としての変形を大きくして変形効率を高く保持することが可能であるとともに、インク圧力室の剛性を高めて発生圧力の損失を少なくすることが可能なコストの低いインクジェットヘッドを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため請求項1に係るインクジェットヘッドは、一面が開放されたインク圧力室が形成されたキャビティプレートと、前記インク圧力室の一面を閉塞するように前記キャビティプレートに固定されるとともに層厚方向に分極された第1の圧電層と、前記第1の圧電層の一方面に積層されるとともに前記第1の圧電層と同じ方向に分極された第2の圧電層とを有するインクジェットヘッドにおいて、前記第1の圧電層の一方面は、前記インク圧力室に対応する位置に形成された第1電極及び前記インク圧力室の周縁位置に対応する位置に形成された第2電極を有し、前記第2の圧電層は、前記第1の圧電層に積層する積層面と反対側の表面に、前記第1電極と対向するとともに前記第2電極と電気的に接続する外側電極を有し、前記第1電極と前記第2電極との間に電源から駆動電圧を印加した際に、前記第1の圧電層にはその分極方向と直交する電界を発生することにより当該第1の圧電層をシェアモードにて変形させるとともに、前記第2の圧電層にはその分極方向と平行な電界を発生することにより当該第2の圧電層を伸縮モードにて変形させる構成を有する。
【0012】
請求項1のインクジェットヘッドでは、その駆動時に、電源から第1、第2電極間に駆動電圧が印加され、これにより第1電極と第2電極との間で、第1の圧電層にはその分極方向と直交する電界が発生されることに基づき第1の圧電層はシェアモードにて変形されるとともに、電源の第2端子に接続された外側電極と第2の圧電層に隣接する第1の圧電層の第1電極との間で、第2の圧電層にはその分極方向と平行な電界が発生されることに基づき第2の圧電層は伸縮モードにて変形される。
【0013】
このように、第1の圧電層をシェアモードにて変形させ、同時に、第2の圧電層の分極方向と平行な電界を発生させて第2の圧電層を伸縮モードにて変形させることにより、第1の圧電層の厚さを大きくした場合においても第1の圧電層のシェアモード変形と第2の圧電層の伸縮モード変形との協働に基づいて圧電体全体としての変形を大きくして変形効率を高く保持することが可能である。また、圧電層の厚さを大きくしてもその変形効率を高く保持することが可能であるから、単層の圧電層を使用する場合に比して、インク圧力室の剛性を高めて発生圧力の損失を少なくすることが可能である。
【0014】
また、請求項2に係るインクジェットヘッドは、請求項1のインクジェットヘッドにおいて、前記第2の圧電層は前記第1の圧電層の上面に積層されていることを特徴とする。かかる請求項2のインクジェットヘッドでは、インク圧力室側の第1の圧電層がシェアモードで変形され、また、第1の圧電層の上面で第2の圧電層が伸縮モードで変形される。これにより、第1の圧電層には、第2の圧電層の変形に基づき、所謂、バイモルフ変形が生じることとなって、圧電体全体としての変形量が大きくなる。
【0015】
更に、請求項3に係るインクジェットヘッドは、請求項1のインクジェットヘッドにおいて、前記第2の圧電層は前記第1の圧電層の下面に積層されていることを特徴とする。かかる請求項3のインクジェットヘッドでは、インク圧力室側の第2の圧電層が伸縮モードで変形され、また、第2の圧電層の上側で第1の圧電層がシェアモードで変形される。この場合において、前記請求項2のインクジェットヘッドの場合と同様、第1の圧電層には、その下面の第2の圧電層の変形に基づき、所謂、バイモルフ変形が生じることとなって、圧電体全体としての変形量が大きくなる。
【0016】
更に、請求項4に係るインクジェットヘッドは、請求項3のインクジェットヘッドにおいて、前記第2の圧電層の下面には、インク圧力室のインクと接触する別の圧電層が設けられていることを特徴とする。請求項4のインクジェットヘッドでは、第2の圧電層の下面にインク圧力室のインクと接触する別の圧電層が設けられていることから、第2の圧電層の片面に形成された外側電極が直接インクと接触することはない。また、インクと接触する別の圧電層は、第2の圧電層の外側電極にインクが接触することを防止する絶縁層の作用を行い、これより絶縁フィルム等の特別な絶縁層や振動板等を設けることなく外側電極をインク圧力室のインクから隔絶することが可能となり、また、かかる絶縁層の作用を行う別の圧電層は前記第1の圧電層及び第2の圧電層の製造と同時に形成することが可能であることからコストアップを招来することもない。
また、請求項5に係るインクジェットヘッドは、請求項1乃至請求項4のインクジェットヘッドにおいて、前記第1の圧電層及び前記第2の圧電層の内、前記キャビティプレートに近い方の圧電層とキャビティプレートとの間に、前記圧電層をインク圧力室内のインクから隔絶する絶縁層が設けられていることを特徴とする。それによって、キャビティプレートに近い方の圧電層の表面に設けられた電極がインク圧力室のインクと接触することを防止することができる。
また、請求項6に係るインクジェットヘッドは、請求項1乃至請求項5のインクジェットヘッドにおいて、前記外側電極は前記第2の圧電層の表面全体に渡って形成されていることを特徴とする。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るインクジェットヘッドについて、本発明を具体化した実施形態に基づいて図面を参照しつつ詳細に説明する。先ず、第1実施形態に係るインクジェットヘッドが搭載されるインクジェットプリンタの概略について図1に基づき説明する。図1はインクジェットプリンタの要部を示す斜視図である。
【0018】
図1において、一対のフレーム1(図1中、一方のフレーム1のみを示す)間には軸2を介してプラテン3が回転可能に取り付けられており、このプラテン3はモータ4により回転駆動される。プラテン3に対向して圧電式インクジェットヘッド5が配置されている。かかる圧電式インクジェットヘッド5は、インク供給装置6と共にキャリッジ7上に載置されている。キャリッジ7はプラテン3の軸線と平行に配設された2本のガイドロッド8に摺動可能に支持されており、また、キャリッジ7には一対のプーリ9に掛装されたタイミングベルト10が結合されている。また、一方のプーリ9(図1中、右側のプーリ9)は、モータ11の駆動軸に固定されており、従って、モータ11を介して右側のプーリ9が回転されることに基づきタイミングベルト10が送られてキャリッジ7がプラテン3に沿って往復動されるものである。
【0019】
次に、圧電式インクジェットヘッド5の構造について図2に基づき説明する。図2は第1実施形態に係る圧電式インクジェットヘッド5のアレイ構造の一部を示す断面図である。尚、第1実施形態に係るインクジェットヘッド5は、駆動電圧を印加した時にインクを吐出する、所謂、押し打ち方式のインクジェットヘッドである。
【0020】
図2において、圧電式インクジェットヘッド5のアレイ20は、基本的に、上面が開放された複数個のインク圧力室21が形成されてなるキャビティプレート22、各インク圧力室21の上面(開放面)を閉塞するようにキャビティプレート22上に接着剤等により固定された圧電セラミック層23、及び、圧電セラミック層23の上面に積層された外側圧電セラミック層24から構成されている。
【0021】
ここに、各インク圧力室21はキャビティプレート22に切削加工等を施すことにより形成され、また、各インク圧力室21間は区画壁25により区画されている。
【0022】
圧電セラミック層23は、圧電・電歪効果を有する圧電セラミック層から形成されており、かかる圧電セラミック層23の上面には、各インク圧力室21に対応する位置に第1電極26が形成されているとともに、インク圧力室21の周縁位置にて各区画壁25に対応して第2電極27が形成されている。また、圧電セラミック層23の下面には、その上面の第1電極26及び第2電極27に対応する位置にて、それぞれ第1電極26、第2電極27が形成されている。尚、圧電セラミック層23は、外側圧電セラミック層24の製造と同時に形成することが可能であることからコストアップを招来することはない。
【0023】
また、圧電セラミック層23は、図2中矢印Aにて示すように、その層厚方向に分極されている。圧電セラミック層23の上下両面における各第1電極26は、それぞれスイッチSを介して駆動電源Vのプラス側端子に接続されており、また、各第2電極27は、それぞれ駆動電源Vのマイナス側端子に接続されている。
【0024】
更に、外側圧電セラミック層24は、圧電セラミック層23を製造する際に同時に形成されるものであり、その上面の全体に渡って外側電極28が設けられている。かかる外側圧電セラミック層24は、矢印Bにて示すように、その層厚方向に分極されている。また、外側圧電セラミック層24の外側電極28は、駆動電源Vのマイナス側端子に接続されている。
【0025】
尚、前記圧電セラミック層23、外側圧電セラミック層24等の製造方法、及び、これらの分極処理方法については、特開平4−125157号公報等に記載されている製造方法、分極処理方法と同一であり、従って、ここでは製造方法等についての詳細な説明は省略する。
【0026】
次に、前記のように構成されたインクジェットヘッド5におけるアレイ20の動作について図3に基づき説明する。図3は圧電セラミック層23を変形させて印字動作を行っているアレイ20の一部を拡大して示す断面図である。尚、ここでは、図2に示すように、左から2番目のインク圧力室21に対応するスイッチSがオンされたものとして、各圧電セラミック層23、外側圧電セラミック層24の動作につき説明することとする。
【0027】
図3において、所定の印字データに基づきコントローラ(図示せず)を介してスイッチSがオンされた場合、駆動電源Vを介して、圧電セラミック層23の上下両面における第1電極26に駆動電圧が印加される。このとき、第1電極26は駆動電源Vのプラス側端子に接続され、第2電極27はマイナス側端子に接続されているので、圧電セラミック層23の上下両面における第1電極26と第2電極27との間で、図3に示すように、圧電セラミック層23の分極方向(矢印Aにて示す)と直交する電界(矢印Cにて示す)が発生する。これにより、圧電セラミック層23は、その圧電・電歪効果に基づきシェアモードにて図示のように一様に変形される。
【0028】
また、外側圧電セラミック層24の外側電極28は駆動電源Vのマイナス側端子に接続されていることから、前記のようにスイッチSがオンされた際に第1電極26との間で、外側圧電セラミック層24の分極方向(矢印Bにて示す)と平行な方向の電界(矢印Dにて示す)が発生する。これにより、外側圧電セラミック層24は、その圧電・電歪効果に基づき伸縮モードにて変形される。即ち、外側圧電セラミック層24は、その厚み方向には伸び、長手方向には縮むため、隣接する圧電セラミック層23との間のバイモルフ効果により、図示下方向に湾曲する。
【0029】
前記したように、スイッチSをオンさせた際に、駆動電源Vから圧電セラミック層23の上下両面における第1電極26に駆動電圧が印加されることに基づき、圧電セラミック層23にてその分極方向に直交する電界を発生させてシェアモードにて一様に変形させ、同時に、外側圧電セラミック層24の分極方向と平行な電界を発生させて外側圧電セラミック層24を伸縮モードにて変形させることにより、インク圧力室21の容積が減少され、これによりインク圧力室21内のインクがインク吐出口(図示せず)から印字用紙に向かって吐出されて文字等の印字が行われる。
【0030】
このように、第1実施形態に係るインクジェットヘッド5では、その印字駆動時に、圧電セラミック層23がシェアモードにて変形され、同時に、外側圧電セラミック層24が伸縮モードにて変形されるので、圧電セラミック層23のシェアモード変形と外側圧電セラミック層24の伸縮モード変形との協働により、所謂、バイモルフ変形が生じることとなって、圧電体全体としての変形を大きくすることができる。また、圧電セラミック層23のシェアモード変形と外側圧電セラミック層24の伸縮モード変形との協働作用に基づき、圧電セラミック層23の厚さを大きくしてもその変形効率を高く保持することが可能であるから、単層の圧電層を使用する場合に比して、インク圧力室21の剛性を高めて発生圧力の損失を少なくすることができる。
【0031】
また、圧電セラミック層23は外側圧電セラミック層24の製造と同時に形成することが可能であることからコストアップを招来することもない。
【0032】
尚、上記の第1実施形態において、圧電セラミック層23及び外側圧電セラミック層24の分極方向の関係を逆の関係にすれば、圧電セラミック層23及び外側圧電セラミック層24を逆方向、即ち、インク圧力室21の容積を増大させる方向に変形させることが可能であり、これにより後述する引き打ち方式へも適用可能である。また、圧電セラミック層23の下面に形成された第1電極26をインク圧力室21内のインクから隔絶すべく、圧電セラミック層23の下面に有機又は無機材料から形成された保護膜を適宜形成するのが望ましい。
【0033】
次に、第2実施形態に係るインクジェットヘッド5のアレイ構造について図4に基づき説明する。図4は第2実施形態に係る圧電式インクジェットヘッド5のアレイ構造の一部を示す断面図である。尚、第2実施形態に係るインクジェットヘッド5は、駆動電圧を印加した時にインクの吸引動作を行った後駆動電圧の印加を停止した時点でインクを吐出する、所謂、引き打ち方式のインクジェットヘッドである。
【0034】
図4において、圧電式インクジェットヘッド5のアレイ30は、基本的に、上面が開放された複数個のインク圧力室31が形成されてなるキャビティプレート32、各インク圧力室31の上面(開放面)を閉塞するようにキャビティプレート32上に接着剤等により固定された圧電セラミック層40、圧電セラミック層40の上面に積層された外側圧電セラミック層34、及び、外側圧電セラミック層34の上面に積層された圧電セラミック層33から構成されている。尚、ここでは、説明上便宜的に各層に分けているが、圧電セラミック層40、外側圧電セラミック層34、圧電セラミック層33は、一体に形成されている。
【0035】
ここに、各インク圧力室31はキャビティプレート32に切削加工等を施すことにより形成され、また、各インク圧力室31間は区画壁35により区画されている。
【0036】
外側圧電セラミック層34の下面に配置された圧電セラミック層40の上面には、その全体に渡って外側電極38が形成されており、かかる外側電極38は、後述するように、駆動電源Vのマイナス側端子に接続されて外側圧電セラミック層34を伸縮モードで変形させるにつき必要な電極である。また、圧電セラミック層40は、インク圧力室31内のインクと接触する圧電層であり、外側圧電セラミック層34及び圧電セラミック層33をインクから隔絶する絶縁層として作用する。このように、圧電セラミック層40に絶縁層としての機能を行わせ、この圧電セラミック層40を介して、上側の外側圧電セラミック層34下面における外側電極38にインクが接触することを防止し、これより絶縁フィルム等の特別な絶縁層や振動板等を設けることなく圧電セラミック層33をインク圧力室のインクから隔絶することを可能とするためである。また、圧電セラミック層40は、圧電セラミック層33の製造を行うについて、これと同時に形成することが可能であることからコストアップを招来することもない。
【0037】
外側圧電セラミック層34の上面には、各インク圧力室31に対応する位置に第1電極36が形成されているとともに、インク圧力室31の周縁位置にて各区画壁23に対応して第2電極37が形成されている。各第1電極36は、それぞれスイッチSを介して駆動電源Vのプラス側端子に接続され、また、各第2電極37は、それぞれ駆動電源Vのマイナス側端子に接続されている。かかる外側圧電セラミック層34は、矢印Fにて示すように、その層厚方向に分極されており、また、外側圧電セラミック層34は、前記圧電セラミック層40と一体に形成されることから、外側電極38は外側圧電セラミック層34の下面の全体に渡って形成されていることとなる。この外側電極38は、駆動電源Vのマイナス側端子に接続されている。
【0038】
圧電セラミック層33は、圧電・電歪効果を有する圧電セラミック層から構成されており、その上面には、それぞれ各インク圧力室31に対応する位置に、前記外側圧電セラミック層34と同様、第1電極36が形成されているとともに、インク圧力室31の周縁位置にて各区画壁35に対応して第2電極37が形成されている。また、圧電セラミック層33は、矢印Eにて示すように、その層厚方向に分極されている。更に、各第1電極36は、それぞれスイッチSを介して駆動電源Vのプラス側端子に接続されており、また、各第2電極37は、それぞれ駆動電源Vのマイナス側端子に接続されている。これにより、圧電セラミック層33の上下両面には、それぞれ対向する位置にて第1電極36、第2電極37が形成されることとなる。
【0039】
尚、前記圧電セラミック層33、外側圧電セラミック層34等の製造方法、及び、これらの分極処理方法については、特開平4−125157号公報等に記載されている製造方法、分極処理方法と同一であり、従って、ここでは製造方法等についての詳細な説明は省略する。
【0040】
次に、前記のように構成された第2実施形態に係るインクジェットヘッド5におけるアレイ30の動作について図5に基づき説明する。図5は圧電セラミック層33を変形させて印字動作を行っているアレイ30の一部を拡大して示す断面図である。尚、ここでは、図4に示すように、左から2番目のインク圧力室31に対応するスイッチSがオンされたものとして、各圧電セラミック層33、外側圧電セラミック層34の動作につき説明することとする。
【0041】
図5において、所定の印字データに基づきコントローラ(図示せず)を介してスイッチSがオンされた場合、駆動電源Vを介して各第1電極36に駆動電圧が印加される。このとき、各第1電極36は駆動電源Vのプラス側端子に接続され、各第2電極37はマイナス側端子に接続されているので、圧電セラミック層33の上面において各第1電極36と第2電極37との間で、図5に示すように、圧電セラミック層33の分極方向(矢印Eにて示す)と直交する電界(矢印Gにて示す)が発生する。また、同様に、圧電セラミック層33の下面において各第1電極36と第2電極37との間で、圧電セラミック層33の分極方向(矢印Eにて示す)と直交する電界(矢印Gにて示す)が発生する。これにより、圧電セラミック層33は、その圧電・電歪効果に基づきシェアモードにて一様に変形される。
【0042】
また、外側圧電セラミック層34の外側電極38は駆動電源Vのマイナス側端子に接続されていることから、前記のようにスイッチSがオンされた際に対向する第1電極36との間で、外側圧電セラミック層34の分極方向(矢印Fにて示す)と平行な方向の電界(矢印Hにて示す)が発生する。これにより、外側圧電セラミック層34は、その圧電・電歪効果に基づき伸縮モードにて変形される。即ち、外側圧電セラミック層34は、前記第1実施形態における外側圧電セラミック層24と同様、その厚み方向には伸び、長手方向には縮むため、隣接する圧電セラミック層33との間のバイモルフ効果により、図示上方向に湾曲する。尚、インク圧力室31のインクと接触する圧電セラミック層40は、前記各圧電セラミック層33、外側圧電セラミック層34と同一の層(成分)より構成されていることから、基本的に、圧電セラミック層33のシェアモード変形及び外側圧電セラミック層34の伸縮モード変形に追随して図5に示すように変形される。
ここに、外側圧電セラミック層34は、圧電セラミック層33と圧電セラミック層40との間にサンドイッチされていることから、前記のように発生するバイモルフ効果は若干弱くなるが、圧電セラミック層33の方が厚いので図5に示すように変形する。このとき、圧電セラミック層33、外側セラミック圧電層34の変形効率を重視する場合には、圧電セラミック層40は省略する方がよい。これは、外側電極38は、図4に示すように、駆動電源Vのマイナス側端子(グランド)に接続されており、インク圧力室31内のインクに悪影響を与えることが少ないからである。これに対して、外側電極38がインク圧力室31内のインクへ与える可能性がある悪影響を重視し、且つ、圧電セラミック層33、外側セラミック圧電層34の変形効率をも重視する場合には、圧電セラミック層40に代えて外側圧電セラミック層34の下面に可撓性のある絶縁フィルム等を配置するのがよい。前記のように圧電セラミック層33の下面に外側圧電セラミック層34を設ける場合には各種の変形態様が考えられるが、各変形態様には一長一短があるので、いずれの態様を採用するかは最も重視するメリットを考慮して決定すればよい。
【0043】
前記したように、スイッチSをオンさせた際に、駆動電源Vから各第1電極36に駆動電圧が印加されることに基づき、圧電セラミック層33の両面にてその分極方向に直交する電界を発生させてシェアモードにて変形させ、同時に、外側圧電セラミック層34の分極方向と平行な電界を発生させて外側圧電層を伸縮モードにて変形させることにより、インク圧力室21の容積が増大され、これによりインク圧力室21内にインクを吸入した後、駆動電圧の印加を停止した時点でインクがインク吐出口(図示せず)から印字用紙に向かって吐出されて文字等の印字が行われる。
【0044】
このように、第2実施形態に係るインクジェットヘッド5では、その印字駆動時に、圧電セラミック層33がシェアモードにて変形され、同時に、外側圧電セラミック層34が伸縮モードにて変形されるので、圧電セラミック層33のシェアモード変形と外側圧電層34の伸縮モード変形との協働により、所謂、バイモルフ変形が生じることとなって、圧電体全体としての変形を大きくすることができる。また、圧電セラミック層33のシェアモード変形と外側圧電セラミック層34の伸縮モード変形との協働作用に基づき、圧電セラミック層33の厚さを大きくしてもその変形効率を高く保持することが可能であるから、単層の圧電層を使用する場合に比して、インク圧力室31の剛性を高めて発生圧力の損失を少なくすることができる。
【0045】
また、外側圧電セラミック層34の下面にインク圧力室31のインクと接触する圧電セラミック層40が設けられていることから、外側圧電セラミック層34の下面に存在する外側電極38が直接インクと接触することを防止する絶縁層としての作用を行い、これより絶縁フィルム等の特別な絶縁層や振動板等を設けることなく外側電極38をインク圧力室31のインクから隔絶することができる。また、かかる絶縁層の作用を行う圧電セラミック層40は圧電セラミック層33及び外側圧電セラミック層34の製造と同時に形成することが可能であることからコストアップを招来することもない。
【0046】
更に、インク圧力室31のインクと接触する圧電セラミック層40は、圧電セラミック層33、及び、外側圧電セラミック層34と同一の層から形成されており、従って、かかる圧電セラミック層40は圧電セラミック層33のシェアモード変形、外側圧電セラミック層34の伸縮モード変形に従って容易に変形されることとなり、これにより、圧電セラミック層33、外側圧電セラミック層34の動きを規制することなく圧電セラミック層33の第1電極36、外側圧電セラミック層34の外側電極38をインク圧力室31内のインクから遮蔽することができる。
【0047】
尚、本発明は前記各第1及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
【0048】
【発明の効果】
以上説明した通り請求項1に係るインクジェットヘッドでは、その駆動時に、電源から第1、第2電極間に駆動電圧が印加され、これにより第1電極と第2電極との間で、第1の圧電層にはその分極方向と直交する電界が発生されることに基づき第1の圧電層はシェアモードにて変形されるとともに、電源の第2端子に接続された外側電極と第2の圧電層に隣接する第1の圧電層の第1電極との間で、第2の圧電層にはその分極方向と平行な電界が発生されることに基づき第2の圧電層は伸縮モードにて変形される。
【0049】
このように、第1の圧電層をシェアモードにて変形させ、同時に、第2の圧電層の分極方向と平行な電界を発生させて第2の圧電層を伸縮モードにて変形させることにより、第1の圧電層の厚さを大きくした場合においても第1の圧電層のシェアモード変形と第2の圧電層の伸縮モード変形との協働に基づいて圧電体全体としての変形を大きくして変形効率を高く保持することが可能である。また、第1の圧電層の厚さを大きくしてもその変形効率を高く保持することが可能であるから、単層の圧電層を使用する場合に比して、インク圧力室の剛性を高めて発生圧力の損失を少なくすることが可能である。
【0050】
また、請求項2に係るインクジェットヘッドでは、インク圧力室側の第1の圧電層がシェアモードで変形され、また、第1の圧電層の上面で第2の圧電層が伸縮モードで変形され、これにより、第1の圧電層には、第2の圧電層の変形に基づき、所謂、バイモルフ変形が生じることとなって、圧電体全体としての変形量が大きくなる。
【0051】
更に、請求項3に係るインクジェットヘッドでは、インク圧力室側の第2の圧電層が伸縮モードで変形され、また、第2の圧電層の上側で第1の圧電層がシェアモードで変形され、この場合において、前記請求項2のインクジェットヘッドの場合と同様、第1の圧電層には、その下面の第2の圧電層の変形に基づき、所謂、バイモルフ変形が生じることとなって、圧電体全体としての変形量が大きくなる。
【0052】
また、請求項4に係るインクジェットヘッドでは、第2の圧電層の下面にインク圧力室のインクと接触する別の圧電層が設けられていることから、第2の圧電層の片面に形成された外側電極が直接インクと接触することはない。また、インクと接触する別の圧電層は、第2の圧電層の外側電極にインクが接触することを防止する絶縁層の作用を行い、これより絶縁フィルム等の特別な絶縁層や振動板等を設けることなく外側電極をインク圧力室のインクから隔絶することが可能となり、また、かかる絶縁層の作用を行う別の圧電層は前記第1の圧電層及び第2の圧電層の製造と同時に形成することが可能であることからコストアップを招来することもない。
また、請求項5に係るインクジェットヘッドでは、第1の圧電層及び第2の圧電層の内、キャビティプレートに近い方の圧電層とキャビティプレートとの間に、圧電層をインク圧力室内のインクから隔絶する絶縁層が設けられているので、キャビティプレートに近い方の圧電層の表面に設けられた電極がインク圧力室のインクと接触することを防止することができる。
【0053】
以上の説明した通り本発明は、層厚方向に分極された圧電層と外側圧電層とを積層してなる圧電体を使用し、駆動電圧の印加時に圧電層の分極方向と直交する電界を発生させて圧電層をシェアモードにて変形させるとともに、外側圧電層の分極方向と平行な電界を発生させて外側圧電層を伸縮モードにて変形させることにより、圧電層の厚さを大きくした場合においても圧電層のシェアモード変形と外側圧電層の伸縮モード変形との協働に基づいて圧電体全体としての変形を大きくして変形効率を高く保持することが可能であるとともに、インク圧力室の剛性を高めて発生圧力の損失を少なくすることが可能なコストの低いインクジェットヘッドを提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 インクジェットプリンタの要部を示す斜視図である。
【図2】 第1実施形態に係る圧電式インクジェットヘッドのアレイ構造の一部を示す断面図である。
【図3】 圧電セラミック層を変形させて印字動作を行っているアレイの一部を拡大して示す断面図である。
【図4】 第2実施形態に係る圧電式インクジェットヘッドのアレイ構造の一部を示す断面図である。
【図5】 圧電セラミック層を変形させて印字動作を行っているアレイの一部を拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
5 インクジェットヘッド
20、30 アレイ
21、31 インク圧力室
22、32 キャビティプレート
23、33 圧電セラミック層
24、34 外側圧電セラミック層
25、35 区画壁
26、36 第1電極
27、37 第2電極
28、38 外側電極
40 圧電セラミック層
A、B、E,F 分極方向
C、D、G、H 電界方向
S スイッチ
V 駆動電源
Claims (6)
- 一面が開放されたインク圧力室が形成されたキャビティプレートと、前記インク圧力室の一面を閉塞するように前記キャビティプレートに固定されるとともに層厚方向に分極された第1の圧電層と、前記第1の圧電層の一方面に積層されるとともに前記第1の圧電層と同じ方向に分極された第2の圧電層とを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記第1の圧電層の上下両面は、前記インク圧力室に対応する位置に形成された第1電極及び前記インク圧力室の周縁位置に対応する位置に形成された第2電極を有し、
前記第2の圧電層は、前記第1の圧電層に積層する積層面と反対側の表面に、前記第1電極と対向するとともに前記第2電極と電気的に接続する外側電極を有し、
前記第1電極と前記第2電極との間に電源から駆動電圧を印加した際に、前記第1の圧電層にはその分極方向と直交する電界を発生することにより当該第1の圧電層をシェアモードにて変形させるとともに、前記第2の圧電層にはその分極方向と平行な電界を発生することにより当該第2の圧電層を伸縮モードにて変形させることを特徴とするインクジェットヘッド。 - 前記第2の圧電層は前記第1の圧電層の上面に積層されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
- 前記第2の圧電層は前記第1の圧電層の下面に積層されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
- 前記第2の圧電層の下面には、インク圧力室のインクと接触する別の圧電層が設けられていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッド。
- 前記第1の圧電層及び前記第2の圧電層の内、前記キャビティプレートに近い方の圧電層とキャビティプレートとの間に、前記圧電層をインク圧力室内のインクから隔絶する絶縁層が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
- 前記外側電極は前記第2の圧電層の表面全体に渡って形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
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