(第1の実施形態)
以下、本発明の半導体発光デバイスおよび半導体発光デバイスの色むら抑制方法に関する第1の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態における比較的代表的な例である第1例の半導体発光デバイスの縦断面図である。同図に示すように、第1例の半導体発光デバイスは、ツェナーダイオードとして機能する基板4(サブマウント素子)と、基板4の上に基板内のツェナーダイオードと電気的に導通している状態で搭載されたフリップチップ型の青色LED1と、青色LED1の周囲を封止する,黄色系蛍光体粒子2及び母材13(透光性樹脂)の混合体からなる蛍光体層3とを備えたチップ型の半導体発光デバイスである。青色LED1の主光取り出し面は、同図に示す状態で上方に向いており、蛍光体層3は主光取り出し面から出光される青色光が通過する位置に設けられている。
図2は、本実施形態における第2例の半導体発光デバイスの縦断面図である。同図に示すように、第2例の半導体発光デバイスは、リードフレーム5と、リードフレーム5のマウント・リードに設けられたカップ6と、ボンディングワイヤによってリードフレーム5と電気的に導通した状態でカップ6の凹部内に搭載された青色LED1と、カップ6内に形成され、黄色系蛍光体粒子2及び母材13(樹脂)の混合体である蛍光体層3と、リードフレーム5,蛍光体層3及びボンディングワイヤを封止する封止樹脂7とを備えた砲弾型の半導体発光デバイスである。なお、カップ6の凹部の側壁は、光を反射する反射板として機能する。青色LED1の主光取り出し面は、同図に示す状態で上方に向いており、蛍光体層3は主光取り出し面から出光される青色光が通過する位置に設けられている。
図3は、本実施形態における第3例の半導体発光デバイスの縦断面図である。同図に示すように、第3例の半導体発光デバイスは、凹部を有し一体成形された樹脂製の筐体8と、筐体8の凹部内に配置された青色LED1と、凹部の底面上から筐体8の側部を貫通して外部に取り出されている外部接続端子51,52と、外部接続端子51,52と青色LED1のパッド電極とを互いに接続するボンディングワイヤと、筐体8内に形成され、黄色系蛍光体粒子2及び樹脂の混合体からなる蛍光体層3とを備えたチップタイプの半導体発光デバイスである。なお、筐体8の凹部の側壁は、光を反射する反射板として機能する。青色LED1の主光取り出し面は、同図に示す状態で上方に向いており、蛍光体層3は主光取り出し面から出光される青色光が通過する位置に設けられている。
図1〜図3にそれぞれ示す第1例〜第3例の半導体発光デバイスにおいて、青色LED1は、430nmを超え500nm以下の波長領域に主発光ピークを有する発光を放つLEDであり、黄色系蛍光体粒子2は青色LED1が放つ青色光を吸収して、550nm以上で600nm以下の波長領域に主発光ピークを有する蛍光を放つ蛍光体であり、蛍光体層3は黄色系蛍光体粒子2を含む蛍光体層である。
本発明における青色発光素子は、本実施形態における青色LED(青色発光ダイオード)の他、レーザーダイオード,面発光レーザダイオード,無機エレクトロルミネッセンス素子及び有機エレクトロルミネッセンス素子から選ばれた素子であるが、半導体発光素子の高出力化や長寿命化の面からみると、発光ダイオード,レーザーダイオード,面発光レーザーダイオードなどが優れている。
本発明における半導体発光デバイスは、青色LED1と、この青色LED1が放つ青色光を吸収して550nm以上で600nm以下の波長領域に発光ピークを有する蛍光を放つ黄色系蛍光体粒子2を含む蛍光体層3とを組み合わせてなる半導体発光デバイスであって、青色LED1から発光された光の一部が蛍光体層3に含まれた黄色系蛍光体粒子2を励起して青色LED光とは異なる波長の蛍光を発生させて、黄色系蛍光体が発生する蛍光と、黄色系蛍光体の励起に寄与することなく出力される青色LED光とが混色されて白色系の発光が可能となる。
ここで、黄色系蛍光体粒子2は、以下の化学式(1)
(Sr1-a1-b1-x Baa1Cab1Eux )2 SiO4 (1)
で表される化合物を主体にしてなる珪酸塩蛍光体である。ただし、化学式(1)において、a1、b1、xは、各々、0≦a1≦0.3、0≦b1≦0.8、0<x<1の範囲にある数値である。
この珪酸塩蛍光体は、後に実験データを用いて詳しく説明するように、結晶構造として斜方晶系と単斜晶系と六方晶系とを取り得るが、本発明における半導体発光デバイスでは、青色LED1が放つ青色光を吸収して550nm以上で600nm以下の波長領域に主発光ピークを有する蛍光を放つ黄色系蛍光体であればよく、珪酸塩蛍光体の結晶構造は、斜方晶系と単斜晶系と六方晶系とのいずれであっても構わない。
なお、発明者らの実験の限りにおいては、このような黄色系蛍光体としては、斜方晶系の結晶構造を有する、以下の化学式(2)
(Sr1-a1-b2-x Baa1Cab2Eux )2 SiO4 (2)
で表される化合物を主体にしてなる珪酸塩蛍光体に限定される。ただし、化学式(2)において、a1,b2,xは、それぞれ、0≦a1≦0.3,0≦b2≦0.6,0<x<1を満足する数値である。a1,b2,xは、それぞれ、0<a1≦0.2,0<b2≦0.4,0.005<x<0.1を満足する数値であることが好ましい。a1,b2,xは、それぞれ、0<a1≦0.15,0<b2≦0.3,0.01<x<0.05を満足する数値であることがさらに好ましい。a1,b2,xは、それぞれ、0.01≦a1≦0.1,0.001≦b2≦0.05,0.01<x≦0.02を満足する数値であることがもっとも好ましい。
上述のように、化学式(2)中のa1,b2が上記範囲内よりも小さい数値の組成では、珪酸塩蛍光体の結晶構造が不安定になり、単斜晶系の結晶構造を含みやすく、動作温度によって発光特性が変化する。一方、範囲内よりも大きい数値の組成では、たとえ結晶構造が斜方晶系であっても、発光が緑味がかり、良好な黄色系蛍光体にはならず、緑色系蛍光体となるために、青色LEDと組み合わせても、光色が良好な白色半導体発光デバイスにはならない。また、Eu添加量xが上記範囲内よりも小さい数値の組成では発光強度が弱く、大きい数値の組成では、Eu2+イオンによる濃度消光や自己吸収によって発光強度が弱いだけでなく、周囲温度の上昇とともに発光強度が低下する温度消光の問題が顕著に生じる。本発明において用いる黄色系蛍光体は、上記のように、珪酸塩蛍光体が放つ黄色系光の色純度が優れ、光色の良い白色光を放つ半導体発光デバイスを提供できる理由で、斜方晶系の結晶構造を有する珪酸塩蛍光体が好ましい。また、珪酸塩蛍光体の結晶構造を安定化したり、発光強度を高める目的で、Sr,Ba,Caの一部をMgやZnで置き換えることもできる。
さらに、珪酸塩蛍光体の発光色を制御する目的で、Siの一部をGeで置き換えることもできる。すなわち、本発明の半導体発光デバイスは、用いる黄色系蛍光体が、以下の化学式(3)
(Sr1-a1-b1-x Baa1Cab1Eux )2 Si1-z Gez O4 (3)
で表される化合物を主体にしてなる珪酸塩蛍光体である半導体発光デバイスであってもよい。ただし、a1,b1,x,zは、それぞれ、0≦a1≦0.3,0≦b1≦0.8,0<x<1,0≦z<1(好ましくは0≦z≦0.2)を満足する数値である。Siの一部をGeで置換すると、発光強度が大きく下がる傾向が認められるものの、少なくとも、Ge置換量が20原子%以上では、主発光ピークが短波長側にシフトし、緑味がかった発光を得ることができるようになる。但し、発光強度保持の観点から、Ge置換量zは少ないほどよく、zの数値は0.2を越えない範囲に留めることが好ましい。
また、半導体発光デバイスの発光の赤色成分を補う目的で、例えば青色LEDの青色光や珪酸塩蛍光体が放つ黄色系光を吸収して、波長600nmを超え660nm以下の赤色領域に主発光ピークを有する赤色蛍光体を、さらに用いてもよいし、光束を高める目的で、例えば青色LEDの青色光を吸収して、波長500nm以上で550nm未満の、視感度の高い緑色領域に主発光ピークを有する緑色蛍光体を、さらに用いてもよい。
このような赤色蛍光体や緑色蛍光体の材料についても、本実施形態において用いた材料に特に限定されるものではなく、無機化合物からなる蛍光体であってもよいし、有機化合物で構成される蛍光体であってもよい。
また、このような赤色蛍光体や緑色蛍光体の用い方についても特に本実施形態の方法に限定されるものではなく、これらの蛍光体(蛍光物質)をさらに有する半導体発光デバイスになっていればよい。これら蛍光体は、蛍光体層中に含めてもよいし、蛍光体層とは別に配置していてもよい。上記青色光を吸収して赤色または緑色の発光を放つようになっていればよく、青色光が少なくとも蛍光体層を通過するようにすればよい。
なお、上記赤色蛍光体としては、例えば、カソードルミネッセンス材料あるいはエレクトロルミネッセンス材料として知られる、CaS:Eu2+蛍光体やSrS:Eu2+蛍光体などや、例えば特開平11−246510号公報や特開2000−63682号公報で開示されている希土類錯体や該希土類錯体を含む樹脂構成物などや、例えば特開2001−267632号公報で開示されているLiEuW2 O8 蛍光体などがある。
このような赤色蛍光体を用いると、上記半導体発光デバイス、特に白色系光を放つ半導体発光デバイスの赤色発光成分強度が強まり、結果として、照明の分野で、赤色の忠実性を表す特殊演色評価数として知られ、JIS Z 8726−1990に記載のR9や、上記JIS Z 8726−1990に参考として記載の色域面積比Gaを高めることができ、これらの指数が大きな光色を放つ半導体発光デバイスを提供できるようになる。
また、上記緑色蛍光体としては、例えば、カソードルミネッセンス材料あるいはエレクトロルミネッセンス材料として知られるSrGa2 S4 :Eu2+蛍光体や、500nm以上600nm以下の波長領域に発光ピークを有する蛍光を放つ、以下の化学式(4)
(Sr1-a3-b3-x Baa3Cab3Eux )2 SiO4 (4)
で表される化合物を主体にしてなる珪酸塩蛍光体がある。
ただし、a3、b3、xは、各々、0≦a3≦1、0≦b3≦1、0<x<1を満足する数値である。
なお、上記(Sr1-a3-b3-x Baa3Cab3Eux )2 SiO4 珪酸塩蛍光体は、黄色系発光を放つ上記の珪酸塩蛍光体において、組成や結晶構造が異なるだけの蛍光体である。このため、黄色系発光の珪酸塩蛍光体の各種物性と似通う物性を有している。したがって、該緑色発光珪酸塩蛍光体を上記黄色発光珪酸塩蛍光体と組み合わせて用いることは、半導体発光デバイスの特性面だけでなく製造面などにおいてもより好ましいものとなる。
また、所望の光色を放つ半導体発光デバイスを提供するために、550nm以上で600nm以下の波長領域に発光ピークを有する黄色系光を放つ、組成が互いに異なる複数の上記珪酸塩蛍光体を、蛍光体層中に含むようにすることもできる。該珪酸塩蛍光体は、組成を変えることによって、上記黄色系の波長域を広くカバーする発光を放ち得る蛍光体であるので、該珪酸塩蛍光体を複種類組み合わて用いることによって、青色LEDが放つ青色光と、該珪酸塩蛍光体が放つ黄色系光の加色によって決定される上記半導体発光デバイス、特に白色系光を放つ半導体発光デバイスの光の色表現範囲を広めることが可能である。
また、半導体発光デバイスが放つ光の光色、特に白色系光の光色制御という観点では、上記化学式(4)で表される化合物を主体にしてなり、かつ、黄色系蛍光体とは組成の面で異なる、少なくとも一種類の珪酸塩蛍光体を、蛍光体層中に、さらに含めることが有効である。この珪酸塩蛍光体は、上記a3およびb3の、すべての数値範囲の組成において、青色光励起下で発光する蛍光体であり、しかも、蛍光体の組成を変えることによって、505〜598nm程度の広い波長範囲内で発光ピーク波長を変えることが可能な蛍光体である。このような蛍光体を蛍光体層中にさらに含めと、半導体発光デバイスが放つ光の光色は、青色LEDが放つ青色光と、黄色系発光を放つ珪酸塩蛍光体の黄色系光と、(Sr1-a3-b3-x Baa3Cab3Eux )2 SiO4 珪酸塩蛍光体が放つ青緑色、緑色、黄色、橙色のうち少なくとも一つの光との加色、つまり、少なくとも3色を加色してなる光色になるので、半導体発光デバイスが放つ光の光色の制御範囲を広くすることが可能である。
また、半導体発光デバイスの発光の赤色成分を補うために、図1〜図3のいずれかに記載の半導体発光デバイスにおいて、Crが含有された基板と青色LEDとを組み合わせてもよい。青色LEDから発光された青色光を利用して、より長波長に変換可能なCr含有基板から赤色光を発光させることができる。これにより、青色LEDからの青色光、珪酸塩蛍光体からの黄色光及びCr含有基板からの赤色光の混色光によって、演色性の高い白色光を発光させることができるようになる。つまり、本発明は、フリップチップ型、砲弾型またはチップタイプ型のいかなるタイプの半導体発光デバイスにも適用可能であることは言うまでもない。
珪酸塩蛍光体は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器(例えばLMS−30:株式会社セイシン企業)による粒度分布評価で、中心粒径が0.1μm以上100μm以下のものであれば足りるが、蛍光体の合成の容易さ、入手の容易さ、蛍光体層の形成の容易さなどの理由で、0.5μm以上30μm以下、とくに1μm以上20μm以下が好ましく、2μm以上10μm以下がさらに好ましい。粒度分布については、0.01μm未満および1000μmを超える粒子を含まなければよいが、中心粒径と同じ理由で、好ましくは、1μm以上50μm以下の範囲内で正規分布に近似した分布を有する珪酸塩蛍光体が好ましい。
このような珪酸塩蛍光体は、例えば、前述の文献(J.Electrochemical Soc.Vol.115, No.11(1968)pp.1181-1184)に記載の合成方法によって製造することができる。本実施形態の半導体発光デバイスにおける珪酸塩蛍光体の製造方法については後述するものとし、以下、珪酸塩蛍光体の特性をさらに詳しく説明する。
図8は、本実施形態において用いた斜方晶の珪酸塩蛍光体の励起光スペクトル(珪酸塩蛍光体が励起される光のスペクトルをいう)および発光スペクトルの一例を示す図である。図8には、比較のためにYAG系蛍光体の励起光スペクトルおよび発光スペクトルの一例もまとめて示されている。
図8からわかるように、YAG系蛍光体が、100nm〜300nm付近、300nm〜370nm付近、370nm〜550nm付近の三カ所に励起光ピークを有し、これら各々の狭い波長範囲内の光を吸収して、550〜580nmの黄緑〜黄の波長領域に発光ピークを有する黄色系の蛍光を放つ蛍光体であるのに対して、珪酸塩蛍光体は、250〜300nm付近に励起光ピークを有し、100〜500nmの広い波長範囲内の光を吸収して、550〜600nm(図8では一例を記載)の黄緑〜黄〜橙の波長領域に発光ピークを有する黄色系の蛍光を放つ黄色系蛍光体である。また、430nmを超え500nm以下の青色光(励起光)の照射下における珪酸塩蛍光体の発光強度は概して低く、YAG系蛍光体の100〜30%であり、具体的な数値を記載すると、励起光の波長470nmではYAG系蛍光体の発光強度の半分(50%)であることもわかる。
なお、前述の式(1)又は(2)中のa1,b1,b2,xが所定の数値範囲内である組成を有する珪酸塩蛍光体であれば、励起および発光スペクトルは、図8に示したスペクトルに類似したものとなる。
つぎに、珪酸塩蛍光体を用いた蛍光体層の特徴を説明する。
珪酸塩蛍光体は、図8にその励起光スペクトルと発光スペクトルの一例を示したように、250〜300nm付近に励起光ピークを有し、100〜500nmの広い波長範囲内の光を吸収して、550〜600nmの黄緑〜黄〜橙の波長領域に発光ピークを有する黄色系の蛍光を放つ黄色系蛍光体であるので、青色LEDと組み合わせると、青色LEDの青色光と黄色系蛍光体の蛍光の加色による光を放つ半導体発光デバイスになる。
また、珪酸塩蛍光体は、図8に一例として示す珪酸塩蛍光体とYAG系蛍光体の励起光スペクトルを比較してわかるように、430nmを超え500nm以下の波長範囲内の青色光(励起光)の照射下で、内部量子効率は比較的高いものの青色励起光の反射率が高いために外部量子効率が低く、いわゆる発光効率(外部量子効率)の低い蛍光体である。例えば励起光470nmによってはYAG系蛍光体の半分の強度の蛍光しか放たない。したがって、例えば、青色LEDの青色光と黄色系蛍光体の黄色光の加色による白色光を放つ白色半導体発光デバイスにおいて同一の光色を得ようとした場合、YAG系蛍光体を用いるよりも、珪酸塩蛍光体を用いる方が、蛍光体の使用量が多くなるので、蛍光体層の厚みが、相対的に厚くなる。この結果、蛍光体層の表面に生じる凹凸による影響が少ない蛍光体層になり、蛍光体層の厚み変動が実質的に少なくなるので、発光の色むらの少ない半導体発光デバイスが得られる。
さらに、上記珪酸塩蛍光体と樹脂を用いて蛍光体層を形成した場合、従来のYAG系蛍光体を用いた蛍光体層の場合よりも、蛍光体層中の蛍光体粒子の分布むらが少なくなる。なお、YAG系蛍光体を用いて半導体発光デバイスを構成した場合には、蛍光体粒子同士が接触する蛍光体層になり、先に説明したように、結果として白色系光の強度が低いものになるという不具合が生じる。このような原因によって強度が低くなる不具合は、YAG系蛍光体を用いた場合に限って生じる不具合ではなく、蛍光体粒子同士が接触する蛍光体層を有する半導体発光デバイスに共通して認められる不具合である。
それに対し、本実施形態の半導体発光デバイスのごとく蛍光体層の形成条件を選択すると、蛍光体粒子が比較的均一に分散した蛍光体層が形成されるので、発光の色むらが少ない半導体発光デバイスを得ることができる。なお、本実施形態に係る珪酸塩蛍光体を用いた場合に、蛍光体層中の蛍光体粒子の分布むらが少なくなる理由については、現在精査中であるものの、完全には解明されていない。ただし、少なくとも蛍光体と樹脂の比重差がYAG系蛍光体と樹脂との比重差よりも小さくなっていることが関係していることは確かである。
以下、本実施形態の半導体発光デバイス中の蛍光体層が、蛍光体粒子が母材中の全体に亘って比較的均一に分散した構造(散点構造)を有している点について、図1〜図3を参照しながら説明する。
図1〜図3に示す蛍光体層3において、黄色系蛍光体粒子2は、すでに説明したように、青色LEDが放つ青色光を吸収して、550nm以上600nm以下の波長領域に主発光ピークを有する蛍光体であり、かつ、珪酸塩蛍光体である。また、母材13は、透光性を有する樹脂、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂である。
なお、本発明の半導体発光デバイスは、蛍光体層3中に、さらに黄色系蛍光体以外の蛍光体を含めていてもよいし、蛍光体以外の物質を含めていても良い。また、複種類の上記黄色系蛍光体を含んでいてもよい。
本実施形態の半導体発光デバイスにおいて、蛍光体層3が図1〜図3に示すような黄色系蛍光体粒子2が母材13中に分散した構造になっていれば、蛍光体層3における黄色系蛍光体粒子2の大きさや形状については、特に限定されるものではない。蛍光体層中の蛍光体粒子として珪酸塩蛍光体粒子を用いる場合、中心粒径が0.5μm以上で30μm以下である蛍光体粒子を用いると、蛍光体層が図1〜図3に示すような蛍光体粒子が分散している構造になることが実証されている。
なお、黄色系蛍光体粒子2のサイズが小さければ小さいほど、蛍光体層3が分散した構造になりやすい。しかし、小さな蛍光体粒子は比表面積が大きいので、蛍光体粒子の体積に対して、格子欠陥が多く存在する粒子表面の占める割合が多くなるので、蛍光体層3の発光強度が低下する。一方、蛍光体粒子のサイズが大きい場合には、蛍光体層3の形成中に黄色系蛍光体粒子2が重力によって沈降しやすく、蛍光体層3は蛍光体粒子が分散した構造になりにくくなる。こうした観点から、黄色系蛍光体の中心粒径は上記範囲(中心粒径が0.5μm以上で30μm以下の範囲)内がよく、好ましくは1μm以上で25μm以下の範囲、より好ましくは3μm以上で20μm以下の範囲である。
また、母材13の材料についても、蛍光体層3が図1〜図3に示すような蛍光体粒子が分散した構造になっていれば、本実施形態で説明した材料に限定されるものではなく、透光性を有する材料であれば樹脂以外の材料であっても構わない。また、母材13を樹脂とした場合も、樹脂の種類や真比重などについては、基本的には特に本実施形態に限定されるものではない。
なお、母材13を樹脂とする場合、樹脂の真比重が上記黄色系蛍光体粒子2の真比重に近ければ近いほど、蛍光体層3は蛍光体粒子が分散した構造になりやすいものである。なお、後記のように、概して樹脂の真比重は、上記した黄色系蛍光体粒子2の真比重よりも小さいため、樹脂の真比重は、上記黄色系蛍光体粒子2の真比重を超えない範囲内で大きければ大きいほどよい。
樹脂の真比重が小さな場合は、蛍光体層3の形成中に黄色系蛍光体粒子2が重力によって沈降しやすく、蛍光体層3は蛍光体粒子が分散した構造になりにくくなる。こうした観点から、樹脂の真比重は0.8以上で蛍光体粒子の真比重以下の範囲内にするのがよく、好ましくは1.0以上で蛍光体粒子の真比重以下の範囲、より好ましくは1.5以上で蛍光体粒子の真比重以下の範囲である。
なお、プラスチックデータハンドブック(伊藤公正編、工業調査会)や非金属材料データブック(日本規格協会)などによると、エポキシ樹脂の真比重は1.0以上2.1以下、アクリル樹脂の真比重は1.0以上で1.4以下、ポリイミド樹脂の真比重は1.3以上で1.5以下、ユリア樹脂の真比重は約1.5、シリコーン樹脂の真比重は1.7以上で2.0以下である。
なお、図1〜図3に示す半導体発光デバイスの例では、蛍光体層3は蛍光体粒子と樹脂(母材)との混合体を用いているが、これに代えて、蛍光体材料を成形して(焼結して)蛍光体層を形成してもよい。
−一般的な製造方法−
本発明の半導体発光デバイスの具体的な製造方法の例については、後に詳しく説明するが、まず、蛍光体粒子が分散した構造を有する蛍光体層3の製造方法の概略や、好ましい実施形態について説明する。
蛍光体粒子が分散した構造を有する蛍光体層3は、所定の範囲内にある真比重を有する母材13中に、所定の範囲内にある真比重を有する黄色系蛍光体粒子2を分散させた蛍光体ペーストを、半導体発光デバイスの所定の位置に、注入あるいは塗布などの方法によって配置し、該蛍光体ペーストを硬化することによって製造することができる。
蛍光体ペーストは、例えば、所定の蛍光体濃度となるように秤量した、黄色系蛍光体粒子2と樹脂などの母材13を混練することによって作製することができる。両者の混練には様々な手法を用いることができるが、一例を上げると、乳鉢を用いた混練、攪拌機を用いた混練、ローラーを用いた混練などがある。
なお、両者の混練の際、黄色系蛍光体粒子2の母材13に対する好ましい重量割合(蛍光体濃度)は、10重量%以上で80重量%以下の範囲、より好ましくは20重量%以上で60重量%以下の範囲である。この範囲よりも蛍光体濃度が低い場合では、黄色系蛍光体の発光が弱い蛍光体層3になって、該蛍光体層3を用いて構成した半導体発光デバイスが、青味の強い光を放つようになり、色調の良好な白色光を得ることが困難になる。一方、この範囲よりも蛍光体濃度が高い場合では、黄色系蛍光体の発光が強い蛍光体層3になって、該蛍光体層3を用いて構成した半導体発光デバイスが、黄味の強い光を放つようになり、色調の良好な白色光を得ることが困難になる。
本発明の蛍光体層の製造方法にあっては、蛍光体ペーストの硬化方式は特定の方法に限定されるものではない。母材13として、二液混合によって硬化する材料を用いて蛍光体ペースト中で二液混合硬化が起こるようにして硬化してもよいし、熱硬化材料を用いて蛍光体ペーストを加熱することによって硬化してもよいし、光硬化材料を用いて光照射することによって硬化してもよい。いずれの蛍光体ペーストの硬化方法によっても、蛍光体層3を得ることができる。
蛍光体粒子が分散した構造の蛍光体層3を形成するには、母材13の中における黄色系蛍光体粒子2の粒子の沈降速度を抑制することが好ましい。
以下、参考のため、溶媒中を沈降する蛍光体粒子の沈降速度について簡単に説明する。ストークス(Stokes)の法則によれば、密度ρ1 粘性率η(=粘度、単位:Pa・sまたはP(ポアズ))の流体中を沈降する、半径r(単位:m)密度ρ2 の球状物体の沈降速度u(m/s)は、下記式(5)
u={2×r2 ×(ρ2 −ρ1 )×g}/(9×η) (5)
で表される。但し、式(5)において、gは重力加速度(単位:m・s-2)である。
したがって、溶媒としての樹脂中を沈降する蛍光体粒子の沈降速度は、定性的には、蛍光体粒子の中心粒径が小さいほど遅く、蛍光体粒子と樹脂の比重差が小さければ小さいほど遅く、樹脂の粘度が高ければ高いほど遅くなる。
上述のストークスの法則から、以下の手段1.〜4.によって、黄色系蛍光体3の樹脂中における沈降速度を遅くすることが可能となる。
1.真比重の小さな、軽い蛍光体粒子を用いる。
2.真比重の大きな樹脂を用いる。
3.中心粒径の小さな蛍光体粒子を用いる。
4.粘度の高い樹脂を用いる。
但し、上記の方法1.〜4には、それぞれ、製造工程からみた制約、コストからみた制約、蛍光体層の発光性能からみた制約など、種々の制約がある。
本発明の蛍光体層の製造方法では、発光の主ピーク波長範囲と含まれる元素を限定した黄色系蛍光体粒子2の真比重と樹脂の真比重との両者を所定の範囲内に限定し、好ましい形態として、さらに黄色系蛍光体の中心粒径を所定の範囲内に限定し、さらに好ましい形態として、黄色系蛍光体の種類と組成を限定する。
まず、黄色系蛍光体粒子2として、Cd(カドミウム)を含まず、室温下における発光の主発光ピーク波長が560nm以上で600nm以下の範囲、好ましくは560nmを越え600nm以下の範囲、より好ましくは565nm以上で600nm以下の範囲内にある蛍光体とする。次に、黄色系蛍光体粒子2の真比重を、3.0以上で4.65以下の範囲、好ましくは3.0以上で4.60以下の範囲、より好ましくは3.0以上で4.55未満の範囲に限定するとともに、樹脂の真比重を0.8以上で黄色系蛍光体の真比重以下の範囲、好ましくは1.0以上で黄色系蛍光体の真比重以下の範囲、より好ましくは1.5以上で黄色系蛍光体の真比重以下の範囲に限定する。
式(5)に示すストークスの法則から分かるように、このようにすると、黄色系蛍光体粒子2と樹脂の比重差が少なくなって、樹脂中における蛍光体粒子の沈降速度が遅くなり、結果として、上記蛍光体粒子が分散した構造の蛍光体層の製造が容易となる。
特に、Cdを含まない黄色系蛍光体としては、Mg,Ca,Sr,Ba,Sc,Y,ランタノイド,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Zn,B,Al,Ga,In,Si,Ge,Sn,Pの中から選ばれる少なくとも一つの元素と、O,S,Se,F,Cl,Brの中から選ばれる少なくとも一つの元素とによって構成される化合物を母体とする蛍光体がある。なお、これらの元素は、有害性も比較的少ない。
なお、黄色系蛍光体粒子2の主ピーク波長を560nm以上で600nm以下の範囲に限定する理由は、好ましい色調の白色光を得るためである。また、樹脂の真比重を上記範囲内に限定する理由、および、Cdを含まない蛍光体に限定する理由についてはすでに記載した通りである。
本発明に係る半導体発光デバイスの発光層の製造方法では、基本的には黄色系蛍光体粒子2の種類については特に限定されるものではなく、Cdを含まず、室温下における発光の主発光ピーク波長が560nm以上で600nm以下の範囲内にあり、かつ、真比重が3.0以上で4.65以下の範囲内にある黄色系蛍光体粒子2であればよい。黄色系蛍光体粒子2は、先に説明した珪酸塩蛍光体粒子であってもよいし、そうでなくてもよい。
一方、従来の半導体発光デバイスにおいては、蛍光体粒子として、有害物質を含まず、かつ、青色光励起下で黄色系の光を放ち、かつ、本実施形態で説明したこのような真比重の範囲内にある軽い黄色系蛍光体粒子2は用いられておらず、真比重の大きな、黄色発光YAG系蛍光体を用いて上記蛍光体層を製造せざるを得なかった。黄色発光YAG系蛍光体粒子の真比重は、4.65を超え4.98程度以下の範囲であり、黄色系YAG系蛍光体粒子は、真比重が大きくなるにつれて発光スペクトルが長波長側にシフトするために、従来の発光デバイスでは、本実施形態の発光デバイスのような優れた特性を得ることは困難である。
本発明に係る好ましい形態では、黄色系蛍光体粒子2の中心粒径を、0.5μm以上で30μm以下の範囲、好ましくは1μm以上で25μm以下の範囲、より好ましくは3μm以上で20μm以下の範囲に限定する。なお、好ましい形態として、黄色系蛍光体粒子2の中心粒径を限定する理由についてはすでに説明した通りである。
さらに好ましい形態では、黄色系蛍光体粒子2として、先に説明した化学式(1)で表される化合物,つまり(Sr1-a1-b1-x Baa1Cab1Eux )2 SiO4 で表される化合物を主体として構成される珪酸塩蛍光体を用いる。該珪酸塩蛍光体は、組成によって真比重が若干変動するものの、真比重が3.0以上で4.65以下の範囲内の黄色系蛍光体粒子2とすることが容易であるので、蛍光体粒子が分散した構造の蛍光体層を容易に製造することが可能である。なお、化学式(1)で表される化合物を主体として構成される珪酸塩蛍光体の比重は、Ba置換量が多いほど大きく、Ca置換量が多いほど小さくなる。
ここで、蛍光体の真比重について補足説明する。マイクロメリテックス社製のマルチボリウム密度計1305を用い、Heガス置換法による定容量膨張法による蛍光体の真密度測定では、YAG系蛍光体((Y0.7 Gd0.28Ce0.02)3 Al5 O12:主発光ピーク波長565nm)、珪酸塩蛍光体((Ba0.05Sr0.93Eu0.02)2 SiO4 :主発光ピーク波長575nm)、組成の面でこれとは異なるSrの少ない珪酸塩蛍光体(Ba0.24Sr0.74Eu0.02)2 SiO4 :主発光ピーク波長559nm)の真比重は、各々、4.98、4.53、4.67(測定精度±1%)である。一例として、565nm付近に主発光ピークを有する発光を放つ蛍光体について記述すると、珪酸塩蛍光体の真比重はYAG系蛍光体よりも約10%小さいことがわかった。
図48は、YAG系蛍光体と珪酸塩蛍光体との真比重と主発光ピーク波長との関係を示す図である。図48からわかるように、560nm以上で600nm以下の波長領域、特に565nm以上で600nm以下の波長領域に主発光ピークを有する黄色系光を放ち、かつ、真比重が4.65以下の蛍光体は、YAG系蛍光体では得ることができないか、または、仮に得ることができたとしても得ることが困難である。これに対して、化学式(1)で表される化合物,つまり(Sr1-a1-b1-x Baa1Cab1Eux )2 SiO4 で表される化合物を主体として構成される珪酸塩蛍光体では、560nm以上で600nm以下の波長領域、特に565nm以上で600nm以下の波長領域に主発光ピークを有する黄色系光を放ち、かつ、真比重が4.65以下の蛍光体を容易に得ることができる。
次に、樹脂や蛍光体ペーストの粘度について説明する。本発明に係る半導体発光デバイスの蛍光体層の製造方法は、特に後述するような製造方法に限定されるものではない。しかし、上述のように、樹脂や蛍光体ペーストの粘度が低すぎると蛍光体粒子が重力によって沈降し、蛍光体粒子が樹脂中に分散した構造が得られなくなり、反面、樹脂の粘度があまりにも高い場合には、半導体発光デバイスの製造工程での取り扱いが面倒になるという不利益を招く。このような諸点を考慮すると、樹脂や蛍光体の粘度は、0.01Pa・s以上で10Pa・s以下の範囲、好ましくは0.03Pa・s以上で3Pa・s以下の範囲、より好ましくは、0.1Pa・s以上で1Pa・s以下の範囲である。ただし、樹脂や蛍光体ペーストなどの液状流体の粘度は温度と圧力によって変動し、温度が高ければ小さくなり、圧力が増すと大きくなるので、単純に規定することは困難であり、製造時において、圧力,温度をも含めた条件の調整により、樹脂や蛍光体ペーストの粘度を上述の範囲に調整することができればよい。
また、本発明に係る半導体発光デバイスの蛍光体層の製造方法においては、蛍光体ペースト中に、さらに、一次粒子の平均径が1nm以上で100nm以下の範囲内、好ましくは3nm以上で50nm以下の範囲内にある超微粒子を含めた状態で、蛍光体ペーストを硬化して形成してもよい。
上記式(5)からわかるように、粒子の半径が極めて小さい超微粒子の蛍光体ペースト中での沈降速度は極めて遅い。したがって、このような超微粒子を蛍光体ペースト中に含めると、極めて遅く沈降する超微粒子が、黄色系蛍光体粒子2の粒子の沈降を阻害するように作用する。その結果、超微粒子を蛍光体ペーストに添加することにより、蛍光体ペースト中における黄色系蛍光体粒子2の沈降速度が遅くなり、樹脂中に蛍光体粒子が分散した構造を有する蛍光体層3が得られやすくなる。
このような超微粒子としては、例えば、アエロジル(デグサ社:独)の商品名で知られる二酸化珪素粉末がある。但し、蛍光体ペーストに添加しうる超微粒子の材料は、二酸化珪素に限定されるものではなく、一次粒子の平均径が1nm以上で100nm以下の範囲にある超微粒子材料であればよい。二酸化珪素以外の超微粒子材料として、例えば酸化アルミニウムなどもある。
なお、粒径が約5nm以下の超微粒子は、先に説明したような、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器での測定は不可能である。したがって、電子顕微鏡観察によって得られる観察像をもとに各超微粒子の粒子径(直径)を実測し、その平均値を一次粒子の平均径と定義するものとする。
以上説明したように、上記半導体発光デバイスの蛍光体層の製造方法を用いることによって、蛍光体粒子が分散した構造を有する蛍光体層3を形成することができ、蛍光体粒子が分散した構造を有する蛍光体層を有する半導体発光デバイスにより、以下のような作用を奏し、顕著な効果を発揮することができる。
すなわち、このような蛍光体層は、光吸収因子や光散乱因子を実質的に含まないので、例えば、従来の蛍光体粒子同士が触接した蛍光体層と比較すると、蛍光体粒子同士が接触する確率が小さくなり、かつ、接触するとしても接触面積が大幅に小さくなり、蛍光体層中の光の吸収減衰因子を実質的に含まなくなる。このため、蛍光体層の光透過性が良好になり、青色LEDの青色光が吸収減衰することなく、蛍光体層を透過、あるいは、蛍光体の励起に寄与するようになる。また、蛍光体粒子の全表面を青色光が照射し得る様態の蛍光体層になるので、蛍光体粒子の励起断面積も実質的に増え、蛍光体層中の蛍光体粒子が効率よく発光することになる。なお、蛍光体粒子を照射するものの蛍光体の励起に寄与しない青色光は、蛍光体粒子表面で反射して蛍光体層の外部に青色光として放たれる。同じ種類の青色LEDを用いた場合、青色LEDが放つ青色光の出力は一定なので、青色LEDの青色光と黄色系蛍光体の黄色光の加色によって白色光を得る白色半導体発光デバイスでは、蛍光体層中の光の吸収減衰因子が少なければ、青色光の励起下で発光効率(外部量子効率)が低い蛍光体材料を用いた蛍光体層であっても、内部量子効率が高い蛍光体であれば、高い光束を放つことが可能になる。
また、半導体発光デバイスの蛍光体層の表面積(図1〜図3に示す半導体発光デバイスにおける蛍光体層3の最上面の面積)が同じ場合、本実施形態の半導体発光デバイスと同じ体積量の蛍光体粒子を使用した,多くの蛍光体粒子同士が互いに接触している従来の蛍光体層(図7における蛍光体層3参照)と比較すると、本実施形態のように樹脂中に蛍光体粒子が分散している構造の蛍光体層(たとえば図2に示す蛍光体層3参照)では、蛍光体層の実質厚みも増大する。したがって、本実施形態の半導体発光デバイスにおいては、蛍光体層3の表面凹凸が多少大きくなった場合でも、蛍光体層3の表面の凹凸が蛍光体層3の厚み変動に寄与する割合は小さくなり、蛍光体層3の厚み変動によって生じる発光むらも少なくなる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の発光装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。 なお、本明細書では、半導体発光デバイスを用いた各種表示装置(例えばLED情報表示端末、LED交通信号灯、自動車のLEDストップランプやLED方向指示灯など)や各種照明装置(LED屋内外照明灯、車内LED灯、LED非常灯、LED面発光源など)を広く発光装置と定義している。
図4〜図6は本発明の第2の実施形態に係る発光装置の例を示す斜視図である。図4は、本発明の第1例の発光装置であるスタンド型の照明装置の構成を概略的に示す斜視図である。
図4に示すように、第1例の発光装置は、第1の実施形態で説明したような本発明の半導体発光デバイス11を多数並べた照明部や、半導体発光デバイス11を点灯させるためのスイッチ12を備えており、スイッチ12をONすると、半導体発光デバイス11が通電されて発光(図示せず)を放つようになる。
なお、図4に示す照明装置は発光装置の好ましい一例として示したものにすぎず、本発明に係る発光装置は、この例に限定されるものではない。本発明の発光装置は、たとえば第1の実施形態に開示したような本発明の半導体発光デバイス11を用いて構成されていることが好ましい。ただし、本発明の発光装置は、第1の実施形態における白色系半導体発光デバイスと、例えば、青、緑、黄、赤などの光を放つLEDとを組み合わせたものであってもよい。また、半導体発光デバイス11が発光する光の色、大きさ、数、発光部分の形状なども、特に特定のものに限定されるものではない。さらに、半導体発光デバイスからの光を収束させてレーザを放出する半導体レーザ放出タイプの照明装置であってもよい。これにより、照明装置としての視野性に優れるだけでなく、その光の強度も向上させることができる。
また、この第1例の照明装置において、好ましい色温度は2000K以上で12000K以下の範囲、好ましくは3000K以上で10000K以下の範囲、さらに好ましくは3500K以上で8000K以下の範囲であるが、本発明に係る発光装置としての照明装置は、この範囲の色温度に限定されるものではない。
図5は、本発明の第2例の発光装置である画像表示装置の構成を概略的に示す斜視図である。
図5に示すように、第2例の画像表示装置は、第1の実施形態で説明したような本発明の半導体発光デバイス11を多数マトリクス状に並べた表示部を備えている。そして、画像表示装置全体の寸法は任意に製作することができるが、幅が1cm以上で10m以下の範囲、高さが1cm以上で10m以下の範囲、奥行きが5mm以上で5m以下の範囲であることが好ましい。また、半導体発光デバイス11の個数は、画像表示装置の寸法に応じて選ぶことができる。
発光装置の一例であるこの画像表示装置は、第1例の照明装置と同様に、第1の実施形態で説明した半導体発光デバイス11を用いて構成されていることが好ましい。ただし、本発明の半導体発光デバイスの他に、例えば、青、緑、黄、赤などの光を放つLEDと蛍光体層とを組み合わせたものであってもよい。また、半導体発光デバイス11が発光する光の色、大きさ、数、発光部分の形状や、半導体発光デバイス11の配置形状なども、特に特定のものに限定されるものではない。さらに、外観形状も特に限定されるものではない。
図6は、本発明の第3例の発光装置であるパターン表示装置の構成を概略的に示す斜視図である。
図6に示すように、第3例のパターン表示装置は、第1の実施形態で説明したような本発明の半導体発光デバイス11が、各画素の発光,非発光に応じて0−9までの任意の数字を表示しうるように並べられた表示部を備えている。
ただし、パターン表示装置が表示するパターンは、図6に示す数字に限定されるものではなく、漢字、カタカナ、アルファベット、ギリシア文字などを表示するものであってもよい。また、パターン表示装置が数字を表示するものである場合でも、半導体発光デバイス11の大きさ、数、画素の形状などは、図6に示す構造に限定されるものではない。
発光装置の一例であるこのパターン表示装置は、第1例の照明装置と同様に、第1の実施形態で説明した半導体発光デバイス11を用いて構成されていることが好ましい。ただし、本発明の半導体発光デバイスの他に、例えば、青、緑、黄、赤などの光を放つLEDと蛍光体層とを組み合わせたものであってもよい。また、半導体発光デバイス11が発光する光の色、大きさ、数、発光部分の形状や、半導体発光デバイス11の配置形状なども、特に特定のものに限定されるものではない。さらに、外観形状も特に限定されるものではない。
なお、図4〜図6に示したような発光装置にあっては、一種類のLEDチップだけを用いた複数個の半導体発光デバイス11を用いて構成した発光装置にすると、全く同じ駆動電圧や注入電流での各半導体発光デバイスの動作が可能になるという利点がある。また、その場合には、周囲温度などの外部要因による発光デバイスの特性変動もほぼ同一にできるようになり、電圧変化や温度変化に対する発光デバイスの発光強度や色調の変化率を少なくできるとともに、発光装置の回路構成をシンプルにできるという利点も得ることができる。
また、画素面がほぼ平坦な半導体発光デバイスを用いて発光装置を構成すると、表示面が平坦な表示装置や面発光する照明装置など、発光面全体がほぼ平坦な発光装置が得られるので、良好な画質を有する画像表示装置や、デザイン性に優れる照明装置を提供することができる。
本発明に係る発光装置は、例えば照明装置や表示装置である場合に、第1の実施形態のような構造を有する半導体発光デバイスを用いることによって、色むらを抑制した発光装置とすることができる。第1の実施形態の半導体発光デバイスは色むらが少なく、その結果として製品歩留まりが高く、安価になる。したがって、第1の実施形態の半導体発光デバイスを用いて発光装置を構成することによって、発光装置としての色むらが少なくなるだけでなく、製造コストの安価な発光装置を得ることができる。また、第1の実施形態の半導体発光デバイスは、従来のYAG系蛍光体を用いた半導体発光デバイスを凌ぐ光束を放つので、発光装置全体の光束も向上する。
なお、本明細書では、半導体発光デバイスを用いた各種表示装置(例えばLED情報表示端末、LED交通信号灯、自動車のLEDストップランプやLED方向指示灯など)や各種照明装置(LED屋内外照明灯、車内LED灯、LED非常灯、LED面発光源など)を広く発光装置と定義している。
(半導体発光デバイスの製造方法に関する実施形態)
珪酸塩蛍光体の製造方法
本発明の半導体発光デバイスに用いる珪酸塩蛍光体の製造方法は、以下に説明する製造方法に限定されるものではないが、珪酸塩蛍光体は、例えば以下の方法によって製造することができる。
珪酸塩蛍光体は、例えば、
第1の処理:蛍光体原料の秤量・調合
第2の処理:蛍光体原料の混合
第3の処理:混合蛍光体原料の焼成
第4の処理:焼成物の後処理(解砕、分級、洗浄、乾燥など)
の各処理を経て得ることができる。以下、各処理の内容についてさらに詳しく説明する。
第1の処理:蛍光体原料の秤量・調合
まず、蛍光体原料を秤量・調合する。蛍光体原料としては、各種の、アルカリ土類金属化合物、珪素化合物、ユーロピウム化合物などの各種粉末を用いることができる。なお、上記アルカリ土類金属化合物の一例は、アルカリ土類金属の、炭酸塩(炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム)、硝酸塩(硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、硝酸カルシウム)、水酸化物(水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム)、酸化物(酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化カルシウム)、硫酸塩(硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム)、蓚酸塩(蓚酸ストロンチウム、蓚酸バリウム、蓚酸カルシウム)などである。また、ハロゲン化物(塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化カルシウム、弗化ストロンチウム、弗化バリウム、弗化カルシウム、臭化ストロンチウム、臭化バリウム、臭化カルシウムなど)も使用可能である。また、上記珪素化合物の一例は、二酸化珪素や一酸化珪素などの酸化物であるが、窒化珪素などの非酸化物も条件によっては使用し得る。なお、蛍光体原料同士の反応性を高める目的には、“アエロジル”の商品名で知られるデグサ社(独)製の、超微粉末シリカ等の超微粉末の二酸化珪素を用いることが好ましい。また、上記ユーロピウム化合物の一例は、酸化ユーロピウム、弗化ユーロピウム、塩化ユーロピウムなどである。なお、先に触れたゲルマニウムを含む蛍光体に関するゲルマニウム原料としては酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物を用いることができる。
そして、この第1の処理においては、アルカリ土類金属元素、珪素、ユーロピウム元素などが、蛍光体中で所望の元素割合になるように、これらアルカリ土類金属化合物、珪素化合物、ユーロピウム化合物を、秤量・調合する。
なお、蛍光体原料同士の反応性を高める目的で、蛍光体原料、あるいは、蛍光体原料の仮焼成物や一次焼成物に、フラックス(融剤)を混合して用いてもよい。上記フラックスとしては、各種の、ハロゲン化物や硼素化合物を用いることができる。上記ハロゲン化物としては、弗化ストロンチウム、弗化バリウム、弗化カルシウム、弗化ユーロピウム、弗化アンモニウム、弗化リチウム、弗化ナトリウム、弗化カリウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化ユーロピウム、塩化アンモニウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどがあり、硼素化合物としては、硼酸、酸化硼素、硼酸ストロンチウム、硼酸バリウム、硼酸カルシウムなどがある。なお、フラックスとして用いる化合物の、蛍光体1モルに対するモル数は、0.0001モル以上で1モル以下の範囲、通常は0.001モル以上で0.3モル以下の範囲にある。
第2の処理:蛍光体原料の混合
次に、上記第1の処理において秤量・調合した、所定のモル割合または重量割合の蛍光体原料を混合し、混合蛍光体原料を得る。蛍光体原料の混合には様々な手法を用いることができる。一例を上げると、乳鉢による混合、ボールミルによる混合、V字型混合機による混合、クロスロータリーミキサーによる混合、ジェットミルによる混合、攪拌機による混合などがあり、これらの混合方法は周知の技術である。また、混合方式としては、溶媒を全く用いず蛍光体原料だけを混合する乾式混合、あるいは、水や有機溶媒などの溶媒中に蛍光体原料を投入し、上記溶媒中でこれを分散させて混合する湿式混合などを用いることができる。上記有機溶媒としては、エタノール、メタノールなどを使用することができる。なお、上記湿式混合を実施した場合、一般には、蛍光体原料と溶媒からなる懸濁液から、例えばブフナー濾過器などを用いて混合蛍光体原料を濾過し、その後、乾燥機などを用いて、濾過後の混合蛍光体原料を、60〜200℃程度の温度で数時間〜数十時間乾燥して混合蛍光体原料を得る。
第3の処理:混合蛍光体原料の焼成
次に、以下の手順により、混合蛍光体原料を焼成する。焼成には電気炉やガス炉などの加熱装置を用いる。加熱装置の種類は特に限定されるものではなく、混合蛍光体原料を所望温度の所望雰囲気中で所望時間、焼成し得るものであれば使用し得る。加熱装置として電気炉を用いる場合の一例を上げると、管状雰囲気炉、雰囲気制御箱形炉、ベルトコンベア炉、ローラーハース炉、トレイプッシャ連続炉などを用いることができる。また、一般には、混合蛍光体原料を、るつぼやボートなどの焼成容器に入れ、場合によっては焼成容器に蓋をし、焼成容器と共に加熱するが、焼成容器を用いずに混合蛍光体原料だけを焼成してもよい。なお、焼成容器としては、材質が、白金、石英、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、シリコンカーバイト、窒化珪素、磁器、カーボンなどからなるものが使用可能であり、場合によってはこれらを複合して用いる。
焼成温度は800℃以上で1600℃以下の範囲であれば、上記珪酸塩蛍光体を製造し得る。この温度範囲よりも焼成温度が高い場合には、蛍光体粒子同士が焼結あるいは融解するので粉末状の珪酸塩蛍光体を得ることが困難になり、一方、この温度範囲よりも焼成温度が低い場合には、蛍光体から高い発光を得ることが困難になる。但し、より高い発光効率を示す粉末状の珪酸塩蛍光体を得るためには、焼成温度は、1000℃以上で1500℃以下の範囲が好ましく、より好ましくは1100℃以上で1450℃以下の範囲、更に好ましくは1200℃以上で1400℃以下の範囲である。
また、焼成時間は10分以上で1000時間以下の範囲であれば足りるが、製造の効率向上や蛍光体の品質向上などの観点から、好ましい焼成時間は、30分以上で500時間以下の範囲、より好ましくは1時間以上で100時間以下の範囲である。焼成回数については特に制限されるものではないが、蛍光体の製造効率を高める観点から、少ない回数が望ましく、1回で済ませるに越したことはない。
焼成雰囲気は、大気中、減圧雰囲気、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、窒素雰囲気、酸化雰囲気、還元雰囲気などのうちから任意に選択することができる。但し、発光中心としてEu2+イオンを蛍光体中に形成させる必要があるために、焼成の最終的段階または最終に近い段階では、少なくともEu2+イオンを蛍光体中に形成させうる雰囲気中で焼成する必要が有る。この雰囲気としては、装置が簡便で安価に済む理由や、ガスや材料の取り扱いが容易な理由から、窒素・水素の混合ガスや一酸化炭素による還元雰囲気、特に、窒素・水素の混合ガス雰囲気を用いることが好ましい。なお、窒素・水素混合ガス雰囲気に限定して説明すると、最小限の還元力の確保とガスの安全性確保の両観点から、水素濃度は0.1%以上で10%以下の範囲、特に、1%以上で5%以下の範囲が良い。なお、混合蛍光体同士の反応を高める目的で、あらかじめ400℃〜1400℃の大気中などで仮焼成をしておくこともよい。
第4の処理:焼成物の後処理
最後に、上記焼成によって得られた焼成物(蛍光体)に後処理を施して珪酸塩蛍光体を得る。後処理は、主に、解砕工程(ほぐして粉末状にする工程をいう)、分級工程、洗浄工程、乾燥工程を含んでいる。
粉砕工程では、上記焼成によって得られた焼成直後の蛍光体(粒子の凝集体)を粒子状に砕く。なお、焼成物の解砕には様々な手法を用いることができる。一例を上げると、乳鉢による解砕、ボールミルによる解砕、V字型混合機を利用した解砕、クロスロータリーミキサーを利用した解砕、ジェットミルによる解砕、クラッシャー、モーターグラインダー、振動カップミル、ディスクミル、ロータースピードミル、カッティングミル、ハンマーミルによる解砕などがある。また、解砕方式としては、溶媒を全く用いず焼成物を解砕する乾式解砕、あるいは、水や有機溶媒などの溶媒中に焼成物を投入し、上記溶媒中でこれを解砕する湿式解砕を用いることができる。上記有機溶媒としては、エタノール、メタノールなどが使用できる。
分級工程では、上記解砕によって得られた蛍光体粒子の集合体を、所定の粒度分布を持つ粒子集合体にする。分級には様々な手法を用いることができるが、一例を上げると、篩いによる分級や、水あるいはアルコールなどの溶媒中における蛍光体粒子の沈降現象を利用した分級手法などがある。なお、篩による分級では、50〜1000メッシュ程度の篩を用いて分級すると半導体発光デバイスへの適用に適する上記範囲(第1の実施形態で説明した範囲)内の中心粒径を有する珪酸塩蛍光体を得ることができる。また、分級方式としても、溶媒を全く用いない乾式分級、あるいは、水や有機溶媒などの溶媒中に解砕物を投入し、上記溶媒とともにこれを分級する湿式分級を用いることができる。シャープな粒度分布を得る目的で、これら複数の分級手法を用いる場合もある。
洗浄工程では、主に、上記焼成後に焼成物中に含まれる残留フラックス成分や、解砕あるいは分級工程中に製造物中に混入した微粒子を除去する。洗浄にも様々な手法を用いることができるが、一例を上げると、酸による洗浄、アルカリによる洗浄、蒸留水や純水などの水による洗浄、エタノールやメタノールなどの有機溶媒による洗浄などがあり、解砕あるいは分級後の蛍光体粒子を、蛍光体材料の種類や組成に応じて適宜選択した溶媒を用いて洗浄する。なお、解砕あるいは分級工程を湿式にして、これらの工程が洗浄工程を兼ねるようにしてもよい。また、製造する蛍光体の種類によっては、洗浄工程を省略することもあり得る。
乾燥工程では、解砕工程、分級工程、洗浄工程を経て得られる蛍光体粒子の集合体を加熱し、これに多量または少量含まれる水や有機溶媒などの溶媒を蒸発、乾燥させて、最終製品または最終製品に近い蛍光体粒子の集合体を得る。乾燥にも様々な手法を用いることができるが、一例を上げると、恒温乾燥機や真空乾燥機による乾燥である。なお、恒温乾燥機を用いる場合では、60〜300℃程度の範囲内の温度で、30分〜100時間程度乾燥させる。また、製造する蛍光体の種類によっては、洗浄工程と共に乾燥工程を省略することもあり得る。
なお、上記の解砕工程、分級工程、洗浄工程及び乾燥工程の組み合わせ方や、順序、回数などは、蛍光体の種類や目的に応じて、臨機応変に決定することができる。
−珪酸塩蛍光体の製造方法の具体例−
以下、珪酸塩蛍光体の製造方法の具体例を、フラックスの効果を交え、実験データを用いて説明する。
図11は、珪酸塩蛍光体の一次焼成後の発光強度(主発光ピーク強度)及び二次焼成後の発光強度(主発光ピーク強度)を一次焼成温度の関数として示す図である。同図に示す一次焼成後の発光強度は、(Sr0.93Ba0.05Eu0.02)2 SiO4 の蛍光体組成となるように調合した蛍光体原料を、室温から1400℃の還元雰囲気(窒素水素混合ガス)中で2時間焼成(一次焼成)して得られた一次焼成物のデータである。また、同図に示す二次焼成後の発光強度は、フラックスとしての塩化バリウム(BaCl2 )を、上記一次焼成物に、(Sr0.93Ba0.05Eu0.02)2 SiO4 珪酸塩蛍光体:BaCl2 =1mol:0.1molとなる割合に秤量して添加し、十分混合した後、1400℃の還元雰囲気中で2時間焼成(二次焼成)して得られた二次焼成物のデータである。同図に示す一次焼成物の発光強度は、参考のために示したものである。この珪酸塩蛍光体は、このように、一次焼成(但し、省略することもできる)、フラックス添加・混合、二次焼成の焼成手順を経て製造することが可能である。
なお、一次焼成物のX線回折パターンから、少なくとも800℃以上の一次焼成温度で焼成した一次焼成物中には、斜方晶系の結晶構造を有する(Sr0.93Ba0.05Eu0.02)2 SiO4 珪酸塩蛍光体が存在することが確認されている。また、1000℃、1200℃、1400℃の一次焼成温度での焼成によって得られた一次焼成物は、斜方晶系の結晶構造を有し、ほぼ単一結晶相である珪酸塩蛍光体であることも確認している。
また、二次焼成物のX線回折パターンから、一次焼成温度に関係なく、全ての二次焼成物が、斜方晶系の結晶構造を有する(Sr0.93Ba0.05Eu0.02)2 SiO4 珪酸塩蛍光体であることを確認している。すなわち、図11は、フラックスを用いなくとも、800〜1400℃の一次焼成によって、珪酸塩蛍光体を得ることができ、室温(一次焼成なし)〜1400℃の温度で焼成した一次焼成物にフラックスを添加混合して再焼成(二次焼成)すると、さらに発光強度の強い(フラックスを用いない場合の約1.4〜1.6倍)珪酸塩蛍光体を得ることができることを示している。
−半導体発光デバイスの製造方法の第1の具体例−
次に、本発明の半導体発光デバイスの製造方法の具体例について図面を参照しながら説明する。第1の具体例として、トランスファー工法による白色発光の半導体発光デバイスの製造方法及び製造装置について説明する。図12(a)〜(d)は、第1の具体例における半導体発光デバイスの製造工程を示す断面図である。
まず、図12(a)に示す青色LEDである青色発光半導体チップ101を準備する。この青色発光半導体チップ101は、例えば、GaNなどを用いた450nm〜560nmの範囲に発光スペクトルのピークを有する青色LEDであり、主面上にアノード101aとカソード101bとを有している。
そして、図12(b)に示す工程で、青色発光半導体チップ101をツェナーダイオード102上にフリップチップ接続法により搭載し固定する。この際、青色発光半導体素子101とツェナーダイオード102とを互いに電気的に接続する。具体的には、青色発光半導体チップ101のアノード101aとツェナーダイオードのカソード102bとを互いに電気的に接続し、青色発光半導体チップ101のカソード101bとツェナーダイオード102のアノード102aとを互いに電気的に接続する。
つぎに、図12(c)に示す工程で、青色発光半導体チップ101が固定されたツェナーダイオード102を基板103上に搭載し固定する。この際、基板103上へ銀ペーストなどの接着材料を用いてツェナーダイオード102を基板103上に固定する。なお、この際の接着材料としてはハンダなどの他の接着材料でもよい。
その後、ツェナーダイオード102のアノード102aを基板103に設けられた所定の電極端子104に接続する。本実施形態においては、この接続には金ワイヤー105を用いてアノード102aを電極端子104に接続している。これにより、青色発光半導体チップ101のカソード101bが基板103の電極端子104に電気的に接続される。なお、ツェナーダイオード102のカソード102bを基板103に設けられた電極端子104に接続してもよいし、ツェナーダイオード102のアノード102a及びカソード102bを基板103に設けられた個別の電極端子104に接続してもよい。
つぎに、図12(d)に示す工程で、青色発光半導体チップ101(青色LED)から発する光が通過するように、蛍光体粒子を有する樹脂を形成する。具体的には、基板103を所定の型107内に配置し、封止樹脂をこの型107に流し込む。一般には、多数の型107を有する封止装置を用いて、白色の光を放つ多数の半導体発光デバイスを一度に形成する。ここで、封止樹脂としては、エポキシ樹脂106の中に蛍光体粒子108を分散させたものを用いる。この後、白色の光を放つ半導体発光デバイスを型107から分離する。エポキシ樹脂は日東電工社製NTT8506のエポキシ樹脂を使用した。この後、エポキシ樹脂を硬化させる。
図13(a),(b)は、それぞれ順に、第1の具体例の製造工程によって形成された半導体発光デバイスの上面図及び断面図である。ただし、図13(a)においては、エポキシ樹脂106及び蛍光体粒子108を透明体として扱っている。図13(a),(b)に示すように、基板103上に、ツェナーダイオード102を介して搭載された青色発光半導体チップ(青色LED101)と、エポキシ樹脂106中に蛍光体粒子(黄色蛍光体粒子)108が比較的均一に分散して存在している蛍光体層109を有する半導体発光デバイスが得られる。
以上、トランスファー工法による白色発光半導体デバイスの製造方法としては、青色発光素子である青色LED101をツェナーダイオード102(基板)に接続する工程と、青色LED101から発する光が通過するように蛍光体粒子108と樹脂106とを設ける工程とを有している。
さらに、詳細には、図49に示すように、ツェナーダイオード102を複数有するウエハ109上に青色発光素子である青色LEDを各々のツェナーダイオードに接続する工程と、青色LEDから発する光が通過するように蛍光体を有する樹脂を設ける工程と、ツェナーダイオードを各々分離する工程とをしている。
このような製造方法により、青色LEDと、青色LEDに電気的に接続されるツェナーダイオード(基板)と、青色LEDから発する光が通過するよう設けられた蛍光体粒子が樹脂中に分散された蛍光体層とを有する白色発光の半導体発光デバイスを製造することができる。
なお、ツェナーダイオードがなく、青色LEDと、青色LEDから発する光が通過するように蛍光体粒子を樹脂中に分散してなる蛍光体層とを有する白色発光の半導体発光デバイスを製造することもできる。
なお、本具体例における青色LEDを構成する材料としては、窒化ガリウム系化合物半導体、セレン化亜鉛半導体、酸化亜鉛半導体がある。蛍光体材料としては上述した第1の実施形態において述べた蛍光体を用いることができ、特に、珪酸塩蛍光体を選択することが望ましい。
−半導体発光デバイスの製造方法の第2の具体例−
第2の具体例として、砲弾型の白色発光の半導体発光デバイスの製造方法及び製造装置について説明する。図14(a)〜(c)は、第2の具体例における半導体発光デバイスの製造工程のうち前半部分を示す断面図である。図15(a),(b)は、第2の具体例における半導体発光デバイスの製造工程のうち後半部分を示す断面図である。
まず、図14(a)に示す工程で、青色LED101を台110(リードフレーム)上に搭載し固定する。この台110は青色発光半導体素子101を配置するための凹部111と凹部111に接続された端子112と、凹部111に接続されない端子113とを有する。実際には、端子112と端子113とはこれら端子が離れるのを防止するために端子と同じ金属で凹部111の反対側で接続されているが、後の工程でこの接続は切断される。また、端子112は凹部111に接続されていなくてもよい。ここで、図14(a)に示すように、青色LED101は凹部111の底面上に配置され、銀ペーストなどの接着材料を用いて端子112に固定される。なお、この際の接着材料としてはハンダなどの他の接着材料でもよい。
この後、図14(b)に示す工程で、青色LED101のアノード及びカソードと端子112c,113とをそれぞれ金ワイヤー114により電気的に接続する。
つぎに、図14(c)に示す工程で、凹部111に、蛍光体粒子116と樹脂115との混合体を台110の凹部111内に流し込む。ここで、樹脂115にはエポキシ樹脂を用い、このエポキシ樹脂中に蛍光体粒子116が分散している。そして、このエポキシ樹脂を加熱温度115℃,加熱時間12時間の条件、又は加熱温度120℃,加熱時間5時間の条件で硬化する。これにより、蛍光体粒子116が樹脂115中に分散した蛍光体層119を形成する。この第2の具体例では、エポキシ樹脂としてファインポリマーズ社製のエポキシ樹脂を使用した。なお、凹部111内に流し込まれる樹脂115として、熱による硬化を要しない樹脂材料、例えば紫外線照射により硬化するエポキシ樹脂(油化セル社製YL6663)や、硬化剤により硬化する樹脂材料を用いると、加熱の際における樹脂115の軟化を抑制することができる。したがって、樹脂115の硬化の前に樹脂115が軟化することに起因する,蛍光体粒子116の沈降の促進という現象を妨げることができる。従って、熱による硬化を要しない樹脂材料を用いることにより、樹脂115中の蛍光体116の分散性をより均一にすることができる。
この後、 図15(a)に示す工程で、この台110を所定の型117に反転させて配置し、封止のための樹脂118をこの型117に流し込む。ここで、封止のための樹脂118にはエポキシ樹脂をもちいた。なお、この封止のための樹脂118は、白色発光デバイスの信頼性の観点から熱により硬化するエポキシ樹脂を用いるのが望ましい。しかしながら、熱により硬化しない樹脂を用いることも可能である。
この後、樹脂を硬化させることにより、図15(b)に示すような砲弾型の白色発光の半導体発光デバイスが得られる。すなわち、蛍光体粒子116が樹脂115中で分散した蛍光体層119を有し、第1の実施形態で説明したような色調の良好な白色光を放つ砲弾型半導体発光デバイスが得られる。
ここで、青色LED101を設置する台110は断面が凹形状であればよい。したがって、台110は、青色LEDを接地するための設置部112a(ここでは凹部の底面)と、設置部112aを囲む側部112bと、端子112c,113とを備え、設置部112aと側部112bとで構成された空間(凹部111)に蛍光体層を設けることが可能な構造を有している。凹部111の形状は、一方の底面が開放された円柱、多角柱や、底面が開放された円錐、多角錐や、更に、上面又は下面が開放された円錐台、多角錐台のいずれでもよい。
このように、側部112bが、設置部112a(底面)に設置された青色LED101が発する光を反射する構成とすることにより、半導体発光デバイス全体の外部光取出効率を向上することができる。
また、蛍光体粒子116が分散された樹脂115を、凹部111の側部の高さより低い位置まで充填すること、つまり蛍光体層119が凹部111の上端に達していないことが望ましい。これは、凹部111の形状が、円柱、多角柱、円錐、多角錐、円錐台、多角錐台のいずれの場合にも、共通することである。これにより、白色発光の半導体発光デバイスを複数個設け、各々の半導体発光デバイスからの発光を利用する場合、ある半導体発光デバイスと、それに隣接する半導体発光デバイスとの間において、一方が発した青色光が他方の半導体発光デバイスの樹脂中の蛍光体粒子を励起し、クロストークを起すという不具合を解消することができる。特に、この青色発光半導体素子の青色光とこの青色光によって励起された蛍光体の黄色光により白色光を発する素子においては、青色光が外部にも放たれる構造となっているので、このようなクロストークの問題は重大となるが、蛍光体層119が、凹部111の側部112bの高さより低いことにより、このようなクロストークを解消できる。
以上のように、第2の具体例における半導体発光デバイスの製造方法は、青色LED101を設置部112aに接地する工程(又は手段)と、青色LEDから発する光が通過するように、蛍光体粒子116と樹脂115との混合体からなる蛍光体層119を形成する工程(又は手段)とを有する製造方法(又は製造装置)である。
さらに詳細には、上記樹脂を設ける工程(又は手段)は、設置部112aと側部112bとの間に形成される凹部111に、
設ける工程(又は手段)とを有する製造方法(又は製造装置)である。更に詳細には、上記青色発光ダイオードを設置部に設ける工程(又は手段)と、上記青色発光ダイオードから発する光が通過するように蛍光体を有する第1の樹脂を設ける工程(又は手段)と、上記青色発光ダイオードから発する光が通過するように蛍光体を有さない第2の樹脂を設ける工程(又は手段)とを有する製造方法(又は製造装置)である。ここで、第1の樹脂には熱により硬化しない樹脂を、第2の樹脂には熱により硬化する樹脂を選択することが望ましい。
なお、青色LEDを構成する材料としては、窒化ガリウム系化合物半導体、セレン化亜鉛半導体、酸化亜鉛半導体を用いることができる。蛍光体材料としては、第1の実施形態で説明した材料を用いることができ、特に、珪酸塩蛍光体を選択することが望ましい。
本具体例では、樹脂125としてエポキシ樹脂を用いたが、シリコン樹脂など他の樹脂を用いてもよい。
また、青色LEDのアノード及びカソードと各端子との間の電気的接続は、金ワイヤーにより行なったが、ワイヤーとしては電気的接続ができる材料であれば良く。例えば、アルミワイヤーなどを用いてもよい。
−半導体発光デバイスの製造方法の第3の具体例−
第3の具体例として、サイドビュー型の白色発光の半導体発光デバイスの製造方法及び製造装置について説明する。図16(a)〜(c)は、第3の具体例における半導体発光デバイスの製造工程のうち前半部分を示す断面図である。
まず、図16(a)に示す工程で、青色LED101を筐体120上に搭載し固定する。この筐体120は、青色LED101を配置するための基部120と、側部121と、凹部128の底面上から筐体120の側部121を貫通して外方に取り出された外部接続端子122,123とを有する。ここで、図16(a)に示すように、青色LED101は凹部128の底面に設置され銀ペーストなどの接着材料を用いて固定される。なお、この際の接着材料としてはハンダなどの他の接着材料でもよい。
この後、図16(b)に示す工程で、青色LED101のアノード及びカソードと、端子122,123とを、それぞれ金ワイヤー124により電気的に接続する。
つぎに、図16(c)に示す工程で、樹脂125及び蛍光体粒子126の混合体を筐体120の凹部128内に流し込む。この具体例では、樹脂125としてエポキシ樹脂を用い、このエポキシ樹脂の中に蛍光体粒子126を分散させている。そして、このエポキシ樹脂を加熱温度115℃,加熱時間12時間の条件、又は加熱温度120℃,加熱時間5時間の条件で硬化する。これにより、蛍光体粒子116が樹脂115中に分散した蛍光体層119を形成する。この第2の具体例では、エポキシ樹脂としてファインポリマーズ社製のエポキシ樹脂を使用した。なお、凹部128内に流し込まれる樹脂125として、熱による硬化を要しない樹脂材料、例えば紫外線照射により硬化するエポキシ樹脂(油化セル社製YL6663)や、硬化剤により硬化する樹脂材料を用いると、加熱の際における樹脂125の軟化を抑制することができる。したがって、樹脂125の硬化の前に樹脂125が軟化することに起因する,蛍光体粒子126の沈降の促進という現象を妨げることができる。従って、熱による硬化を要しない樹脂材料を用いることにより、樹脂125中の蛍光体126の分散性をより均一にすることができる。
この後、樹脂を硬化させることにより、図16(c)に示すようなサイドビュー型の白色発光の半導体発光デバイスが得られる。すなわち、蛍光体粒子126が樹脂125中で分散した蛍光体層129を有し、第1の実施形態で説明したような色調の良好な白色光を放つ砲弾型半導体発光デバイスが得られる。
ここで、青色LED101を設置する筐体120は断面が凹形状であればよい。したがって、筐体120は、青色LEDを接地するための基部120と、基部120上で凹部128を囲む側部121と、外部接続端子122,123とを備え、基部120と側部121とで構成された空間(凹部128)に蛍光体層を設けることが可能な構造を有している。凹部128の形状は、一方の底面が開放された円柱、多角柱や、底面が開放された円錐、多角錐や、更に、上面又は下面が開放された円錐台、多角錐台のいずれでもよい。
このように、側部121が、基部120に設置された青色LED101が発する光を反射する反射板として機能する構成とすることにより、半導体発光デバイス全体の外部光取出効率を向上することができる。
また、蛍光体粒子126が分散された樹脂125を、側部121(凹部の側壁)の高さより低い位置まで充填すること、つまり蛍光体層129が凹部111の上端に達していないことが望ましい。これは、凹部128の形状が、円柱、多角柱、円錐、多角錐、円錐台、多角錐台などのいずれの場合にも共通することである。これにより、白色発光の半導体発光デバイスを複数個設け、各々の半導体発光デバイスからの発光を利用する場合、ある半導体発光デバイスと、それに隣接する半導体発光デバイスとの間において、一方が発した青色光が他方の半導体発光デバイスの樹脂中の蛍光体粒子を励起し、クロストークを起すという不具合を解消することができる。特に、この青色発光半導体素子の青色光とこの青色光によって励起された蛍光体の黄色光により白色光を発する素子においては、青色光が外部にも放たれる構造となっているので、このようなクロストークの問題は重大となるが、蛍光体層129が、側部121の高さより低いことにより、このようなクロストークを解消できる。
以上のように、第2の具体例における半導体発光デバイスの製造方法は、青色LED101(青色発光素子)を基部120に設置する工程と、青色LEDから発する光が通過するように、蛍光体粒子116と樹脂115との混合体からなる蛍光体層119を形成する工程とを有する製造方法である。
さらに、詳細には、青色発光素子を基部に設置する工程と、青色発光素子から発する光が通過するように、蛍光体層を設ける工程と、上記青色発光ダイオードから発する光が通過するように蛍光体を有していない透過性樹脂を設ける工程とを有する製造方法である。ここで、蛍光体層を構成する樹脂には熱により硬化しない樹脂を、蛍光体を有していない樹脂には熱により硬化する樹脂を選択することが望ましい。
なお、青色LEDを構成する材料としては、窒化ガリウム系化合物半導体、セレン化亜鉛半導体、酸化亜鉛半導体を用いることができる。蛍光体材料としては、第1の実施形態で説明した材料を用いることができ、特に、珪酸塩蛍光体を選択することが望ましい。
本具体例では、樹脂125としてエポキシ樹脂を用いたが、シリコン樹脂など他の樹脂を用いてもよい。
また、青色LEDのアノード及びカソードと各端子との間の電気的接続は、金ワイヤーにより行なったが、ワイヤーとしては電気的接続ができる材料であれば良く。例えば、アルミワイヤーなどを用いてもよい。
ここで、上記各具体例に係る半導体発光装置の製造工程において、蛍光体粒子は樹脂中でできるだけ均一に分散していることが望ましい。そこで、半導体発光デバイスの製造工程において、蛍光体粒子を樹脂中で均一に分散させるための具体例について、以下に説明する。
−蛍光体粒子を均一に分散させるための第1の具体例−
第1の具体例では、樹脂の硬化中に振動を加える方法及び装置について説明する。図17(a),(b)は、半導体発光デバイスの製造工程で超音波振動を加える2つの方法をそれぞれ示す平面図である。すなわち、図17(a)に示すように、超音波振動層130(KAIJODENNKI社製)中に型107を設置して、樹脂106を硬化させている間、型107全体に振動を加えることにより樹脂106中に蛍光体粒子108を均一に分散させることができる。また、図17(b)に示すように、振動付加手段131(超音波ホーンなど)により型107に直接振動を加えてもよい。例えば樹脂106と蛍光体粒子108との比重差が大きいために、図21(b)に示すごとく、蛍光体層109中で樹脂106の底部に蛍光体粒子108が沈降していたとしても、図17(a),(b)に示すように、型107を振動させることにより、蛍光体粒子108及び樹脂106が振動して図21(d)に示すように、樹脂106中に蛍光体粒子108が均一に分散するようになる。
図18(a),(b)は、半導体発光デバイスの製造方法の第1の具体例(砲弾型半導体発光デバイスの製造方法)における超音波振動を加える2つの方法をそれぞれ示す平面図であって、図15(b)に示す工程で、超音波振動を加える際の状態を示している。すなわち、図18(a)に示すように、超音波振動層130(KAIJODENNKI社製)中に型117を設置して、樹脂115を硬化させている間、型117全体に振動を加えることにより樹脂115中に蛍光体粒子116を均一に分散させることができる。また、図18(b)に示すように、振動付加手段131(超音波ホーンなど)により型117に直接振動を加えてもよい。例えば樹脂115と蛍光体粒子116との比重差が大きいために、図21(a)に示すごとく、蛍光体層119中で樹脂115の底部に蛍光体粒子116が沈降していたとしても、図18(a),(b)に示すように、型117を振動させることにより、蛍光体粒子116及び樹脂115が振動して図21(c)に示すように、樹脂115中に蛍光体粒子116が均一に分散するようになる。
同様に、半導体発光デバイスの製造方法の第3の具体例(サイドビュー型半導体発光デバイスの製造方法)の図16(c)に示す工程で、超音波振動装置130又は超音波付加手段131を使用することができる。その場合にも、例えば樹脂125と蛍光体粒子126との比重差が大きいために、蛍光体層129中で樹脂125の底部に蛍光体粒子126が沈降していたとしても、蛍光体粒子126及び樹脂125を振動させることにより、樹脂125中に蛍光体粒子126が均一に分散するようになる。
−蛍光体粒子を均一に分散させるための第2の具体例−
第2の具体例では、樹脂の硬化中に型を上下反転させる方法及び装置について説明する。図19(a),(b)は、半導体発光デバイスの製造工程中において型を上下反転させる方法を示す平面図であって、型を上下反転させる際の状態を示している。すなわち、図19(a)に示すように、回転軸141と回転軸141を回転させる駆動モータ(図示せず)とを有する反転手段を用い、型107に回転軸141を取り付けて、樹脂106を硬化させている間、型107全体を図19(a)に示す正常位置と図19(b)に示す反転位置との間で繰り返し上下反転させることにより、樹脂106中に蛍光体粒子108を均一に分散させることができる。例えば樹脂106と蛍光体粒子108との比重差が大きいために、図21(b)に示すごとく、蛍光体層109中で樹脂106の底部に蛍光体粒子108が沈降していたとしても、図19(a),(b)に示すように、型107を上下反転させることにより、蛍光体粒子106及び樹脂106が移動して図21(d)に示すように、樹脂106中に蛍光体粒子108が均一に分散するようになる。
ここで、型107を反転させる回数は多ければ多いほど樹脂106中の蛍光体粒子108の分散性がよくなる。また、樹脂は最初の1時間で全体の約90%が硬化するため、この1時間内に型107すなわち樹脂106を上下反転させることが望ましい.
図20(a),(b)は、半導体発光デバイスの第2の具体例に係る製造工程中の図15(a)に示す工程で、型を上下反転させる際の状態を示している。すなわち、図20(a)に示すように、回転軸141と回転軸141を回転させる駆動モータ(図示せず)とを有する反転手段を用い、型117に回転軸141を取り付けて、樹脂115を硬化させている間、型117全体を図20(a)に示す正常位置と図20(b)に示す反転位置との間で繰り返し上下反転させることにより、樹脂115中に蛍光体粒子116を均一に分散させることができる。例えば樹脂115と蛍光体粒子116との比重差が大きいために、図21(a)に示すごとく、蛍光体層119中で樹脂115の底部に蛍光体粒子116が沈降していたとしても、図18(a),(b)に示すように、型117を上下反転させることにより、蛍光体粒子116及び樹脂115が移動して図21(c)に示すように、樹脂115中に蛍光体粒子116が均一に分散するようになる。
この場合にも、型117を反転させる回数は多ければ多いほど樹脂115中の蛍光体粒子116の分散性がよくなる。また、樹脂は最初の1時間で全体の約90%が硬化するため、この1時間内に型117すなわち樹脂115を上下反転させることが望ましい.
同様に、半導体発光デバイスの製造方法の第3の具体例(サイドビュー型半導体発光デバイスの製造方法)の図16(c)に示す工程で、反転手段を使用することができる。その場合にも、例えば樹脂125と蛍光体粒子126との比重差が大きいために、蛍光体層129中で樹脂125の底部に蛍光体粒子126が沈降していたとしても、蛍光体粒子126及び樹脂125を上下反転させることにより、樹脂125中に蛍光体粒子126が均一に分散するようになる。
−蛍光体粒子を均一に分散させるための第3の具体例−
第3の具体例では、樹脂を凹部や型に充填した後硬化させる処理を複数回に分けて行なう方法について説明する。
この具体例では、例えば半導体発光デバイスの製造方法の第1の具体例(トランスファー工法)の図12(d)に示す工程において、蛍光体粒子108を含む樹脂106を全量の1/3ずつ型107に充填し、加熱時間を5時間とし、加熱温度を120℃として樹脂106を硬化させる。この処理を3回繰り返すことにより、型107に蛍光体層109を形成する。
このように、樹脂の充填・硬化を複数回に分けて行なうことにより、図21(b)に示すごとく蛍光体層109中で樹脂106の底部に蛍光体粒子108が沈降することがなく、樹脂106中に蛍光体粒子108が比較的均一に分散するようになる。
同様に、半導体発光デバイスの製造方法の第2の具体例(砲弾型半導体発光デバイスの製造方法)の図14(c)に示す工程、又は半導体発光デバイスの製造方法の第3の具体例(サイドビュー型半導体発光デバイスの製造方法)の図16(c)に示す工程で、型又は凹部への樹脂の充填・硬化を複数回行なうことにより、樹脂中に蛍光体粒子が比較的均一に分散するようになる。
ここで、型や凹部に樹脂を充填・硬化する回数を多くするほど樹脂中の蛍光体粒子の分散性がよくなる。ただし、その回数を多くすれば製造時間が長くなるため5回以下の回数であることが望ましく、特に、3回程度がもっとも望ましい。
−蛍光体粒子を均一に分散させるための第4の具体例−
第4の具体例では、蛍光体層を形成する際に高粘度の樹脂を使用する方法について説明する。
この具体例では、例えば半導体発光デバイスの製造工程(例えば図17(c)に示す工程)において、蛍光体粒子108を含む樹脂106の粘度を高い粘度とすることにより、樹脂106の硬化中に蛍光体粒子108が沈降しないようにすることができる。この具体例では、樹脂106の粘度として蛍光体粒子108が沈降しない程度の粘度とする。好ましくは、1Pa・S以上で100Pa・S以下の範囲内の粘度である。
このように、高粘度の樹脂を用いることにより、図21(b)に示すごとく蛍光体層109中で樹脂106の底部に蛍光体粒子108が沈降することがなく、樹脂106中に蛍光体粒子108が比較的均一に分散するようになる。
同様に、半導体発光デバイスの製造方法の第2の具体例(砲弾型半導体発光デバイスの製造方法)の図14(c)に示す工程、又は半導体発光デバイスの製造方法の第3の具体例(サイドビュー型半導体発光デバイスの製造方法)の図16(c)に示す工程で、高粘度の樹脂を用いることにより、樹脂中に蛍光体粒子が比較的均一に分散するようになる。
−蛍光体粒子を均一に分散させるための第5の具体例−
第5の具体例では、蛍光体層を形成する際に硬化のために加熱を必要としない樹脂を使用する方法について説明する。
この具体例では、例えば半導体発光デバイスの製造工程(例えば、図12(d)に示す工程)において、蛍光体粒子108を含む樹脂106として、紫外線により硬化する樹脂(油化セル社製YL6663)(以下、紫外線硬化型樹脂という。)を用いる。また、樹脂106として樹脂硬化剤により硬化する樹脂以下、二液硬化樹脂という。)を用いてもよい。
その結果、熱による硬化する樹脂では、硬化の前に樹脂の粘度が低下する時期があるために、蛍光体粒子108の若干の沈降が見られるのに対し、熱による硬化を行なわない紫外線硬化型樹脂や二液硬化樹脂を用いると、蛍光体粒子108が比較的均一に樹脂106中で分散していることが知見された。
同様に、半導体発光デバイスの製造方法の第2の具体例(砲弾型半導体発光デバイスの製造方法)の図14(c)に示す工程、又は半導体発光デバイスの製造方法の第3の具体例(サイドビュー型半導体発光デバイスの製造方法)の図16(c)に示す工程で、熱による硬化を行なわない紫外線硬化型樹脂や二液硬化樹脂を用いることにより、樹脂中に蛍光体粒子が比較的均一に分散するようになる。
そして、上記第1〜第5の具体例のように、蛍光体粒子をより均一に樹脂中に分散させる工程又は手段を設けることにより、下記のような効果を得ることができる。蛍光体粒子を均一に、特に、樹脂中で縦方向に均一に分散させることにより、蛍光体粒子が偏って存在する場合に比べ、青色LEDが発する青色光(450nm〜560nmの間に発光スペクトルのピークを有する光)が偏って存在する蛍光体粒子に過度に封じ込められることなく外部に取り出すことができ、適当な白色光を得ることができる。
また、蛍光体粒子が発する蛍光自体も、偏って存在する蛍光体粒子に過度に封じ込められるようなことがなく、外部に取り出すことが可能となる。
さらに、蛍光体粒子が樹脂中で偏って存在する場合、特に図21(a),(c)に示すように、蛍光体が基板103上に沈降してしまった場合に比して、同じ青色LEDを用いた場合において10%程度少ない蛍光体量でも同じ色温度の白色発光半導体素子ができるとともに、同じ色温度で輝度、強度を増加させることもできる。
なお、上記第1〜第5の具体例の工程又は手段は、単独でも効果を得られるが二以上を行うことにより更なる相乗効果が得られる。
−蛍光体層の攪拌に関する具体例−
図22は、半導体発光デバイスのキャビティ内に珪酸塩蛍光体を含む蛍光体ペーストを流し込む際に用いられる蛍光体ペースト吐出装置の好ましい具体例を示す断面図である。図22において、200は原料タンク、201はヘッド、CAは半導体発光デバイスのキャビティ、204はポンプ、205は分散ノズル、206は蛍光体ペースト、207は蛍光体ペースト206中に含まれる蛍光体粒子、208は蛍光体ペースト206中の樹脂である。ヘッド201は、例えば、原料タンク200から移動してきた蛍光体ペースト206を貯えるタンク室202と、蛍光体ペースト206をキャビティCAに噴出するノズル203と、タンク室202内に配置された金属球Sとを備えている。原料タンク200に貯えられた蛍光体ペーストは、循環ポンプ204の加圧によってタンク室202に供給されて、ノズル203からキャビティCAに連続的に噴出される。
原料タンク200内やタンク室202に貯えられた蛍光体ペースト206は、時間の経過にしたがって蛍光体粒子207が凝集し、蛍光体粒子207の凝集物が形成される傾向がある。蛍光体粒子207の凝集物が形成されると、ノズル203の目詰まりが発生したり、噴出される蛍光体ペースト206中の蛍光体粒子207の濃度が変化してしまい、キャビティCA内で蛍光体粒子207を均一に分散させることが困難になる場合がある。そこで、本具体例の蛍光体ペースト吐出装置では、原料タンク200,タンク室202に貯えられた蛍光体ペースト207を攪拌させることによって、蛍光体粒子207の凝集物の形成を抑制するようになっている。図22に示す例では、原料タンク200やタンク室202に金属球Sが入っており、金属球Sを磁力によってタンク内で移動させることによって蛍光体ペースト207を攪拌することが可能になっている。これにより、原料タンク200やタンク室202内での蛍光体の凝集が抑制される。
なお、原料タンク200やタンク室202内の蛍光体ペースト207の攪拌方法は、図22に示すような金属球Sを用いる方法に限定されず、タンク室等の内部において蛍光体ペースト207の濃度分布の変化をできるだけ抑制する方法であれば、多の方法を採用することができる。例えば、タンク室202に振動を与えてもいいし、タンク室202に攪拌部材を付設しておくだけでもよい。また、原料タンク200内にフィルタを設置しておき、原料タンク200内にフィルタを介して蛍光体ペースト206を供給することによって、凝集物を解体することができるようになる。
さらに、本具体例の蛍光体ペースト吐出装置には、蛍光体ペースト206の流速を制御する分散ノズル205が設けられている。蛍光体ペースト206が分散ノズル205を通過する際、蛍光体ペースト206中の蛍光体粒子207の凝集物がジェット流により細分化され、その凝集が解きほぐされる。分散ノズル205のくび径をヘッド202のノズル径に適合するように設定しておけば、原料タンク200内や途中の供給路中で凝集された蛍光体ペースト206中の凝集物が適度に解きほぐされ、ノズル203からの噴出が安定化される。分散ノズル205を介してヘッド202に蛍光体の凝集を抑制することによって、さらに、ノズル203における根詰まり防止だけでなく、キャビティCA内で蛍光体粒子207が均一に分散させることが容易になる。なお、分散ノズル205を必ずしも設ける必要はなく、珪酸塩蛍光体の粘度などに対応させて適宜設ければよい。
−蛍光体層の帯電−
YAG系蛍光体が沈積する原因として、蛍光体と母材の比重差が大きいことに起因して生じるものとしてきたが、その他の原因としてYAG系蛍光体が正に帯電していることが考えられる。つまり、母材である樹脂が同じ正に帯電していると、一般に両者は互いに反発し合うのでYAG系蛍光体が沈積する。
一方、化学式Sr1-a1-b1-x Baa1Cab1Eux )2 SiO4 で表される化合物を主体にしてなる珪酸塩蛍光体が同じ樹脂に対して沈積しない事実と、上記帯電と沈積との関係とを考慮すると、この珪酸塩蛍光体粒子が樹脂とは反対の負に帯電しており両者は互いに引き付け合う関係にあるため、珪酸塩蛍光体粒子は樹脂の全体に亘って分散しているものと考えられる。このような、正に帯電する樹脂としては、エポキシ樹脂とシリコン樹脂とがある。
以上により、YAG系蛍光体粒子の分散性を向上させる手段として、蛍光体粒子を負に帯電する酸化物等でコーティングする方法が考えられる。
蛍光体粒子の表面に酸化物,弗化物をコーティングする方法は、まず、蛍光体ペーストの懸濁液及びおよび必要な酸化物や弗化物のコーティング粒子の懸濁液を混合攪拌した後、吸引濾過して、125℃以上で乾燥した後350℃で焼成する。蛍光体と酸化物,弗化物の接着力を向上するのに、樹脂,有機シラン,水ガラス等を少量加えてもよい。
また、蛍光体粒子の表面を膜状にコーティングする方法として、有機金属化合物の加水分解を利用する方法もある。これにより、蛍光体粒子の表面に負に帯電しやすい酸化物であるSiO2 をコーティングすることができる。また、Al2 O3 膜を形成する場合は、蛍光体をアルミニウムのアルコキシドであるAl(OC2 H5 )3 を用いて、これをアルコール溶液中で混合攪拌して、蛍光体表面にAl2 O3 をコーティングする。
このように、帯電の極性が樹脂の帯電極性と相反する材料からなる部材を蛍光体粒子の表面に付着又はコーティングすることにより、樹脂の帯電極性と相反する極性に帯電された部材が付着又はコーティングされた蛍光体粒子の周囲を樹脂分子が取り囲み、蛍光体粒子同士の凝集が抑制されるとともに、蛍光体粒子の沈降が防げられるという知見を本発明者らは得た。YAG系蛍光体粒子,珪酸塩蛍光体粒子いずれの場合においても、少なくとも蛍光体粒子が分散される樹脂と蛍光体粒子とをそれぞれ逆極性に帯電する部材を選択すれば、従来のような顕著な蛍光体粒子の沈降は発生しなくなることを本発明者達は見いだした。
ここで、蛍光体粒子の表面への負に帯電する酸化物や弗化物のコーティングの量は、少なすぎると効果が少なく、多すぎるとで発生する光を吸収してしまい、輝度が低下するおそれがある。そこで、蛍光体粒子の表面への負に帯電する酸化物や弗化物のコーティング量の好ましい範囲は、蛍光体粒子の重量に対して0.05%〜2.0%であることが、本発明者達が行なった種々の実験からの知見として得られている。
このように、本発明のさらなる発明ではSiO2 をコーティング又は付着させたYAG系蛍光体をエポキシ樹脂中に有する構成としている。即ち、負に帯電する酸化物、弗化物を付着またはコーティングさせたYAG系蛍光体をエポキシ樹脂中に有する構造及びこのような構造を製造する方法としている。さらに、詳細には、負の帯電する酸化物、弗化物を付着またはコーティングさせたYAG系蛍光体を負に帯電する樹脂であるエポキシ樹脂中に有する構造及びこのような構造を製造する方法とすることにより、更に、青色LEDの発光がこのエポキシ樹脂を通過する構成及びこのような構成を製造する方法とすることにより、図21(c),(d)に示すように、蛍光体粒子が均一に分散した白色系光を発光する半導体発光デバイスを提供することが可能となる。
−半導体発光デバイスの珪酸塩蛍光体の例−
以下、本発明の半導体発光デバイスにかかる実施例を記述する。
珪酸塩蛍光体の作製の手順例
まず、黄色系光を放つ組成の珪酸塩蛍光体粒子を作製した。蛍光体原料として、炭酸バリウム(BaCO3 )、炭酸ストロンチウム(SrCO3 )、酸化ユーロピウム(Eu2 O3 )、二酸化珪素(SiO2 )の各粉末を用い、フラックスとして塩化カルシウム(CaCl2 )を用いた。蛍光体原料の純度は全て99.9%以上で、蛍光体原料の中心粒径は10nm以上で5μm以下の範囲内のものを用いた。なお、各原料については、吸着ガスによる秤量の誤差をなくすために、あらかじめ約900℃の大気中での加熱前後における重量変化を調べ、これを把握した。
粉末状の炭酸バリウム9.9g,炭酸ストロンチウム138.0g,酸化ユーロピウム2.6g,二酸化珪素30.7g及び塩化カルシウム1.7gを、電子天秤を用いて秤量した後、これらの粉末を自動乳鉢で十分混合し、混合蛍光体原料粉末を得た。その後、アルミナボートに混合蛍光体原料粉末を仕込み、アルミナを炉心管とする管状雰囲気炉内の所定の位置に配置した後、焼成を行なっている。焼成条件は、加熱温度1400℃で、水素5%及び窒素95%の雰囲気中で、加熱時間は2時間としている。
炉心管内部が室温まで冷却したことを確認した後、焼成物(珪酸塩蛍光体)を取出し、解砕,洗浄,分級及び乾燥などの後処理を行なった。以上のようにして、斜方晶の結晶構造を有し、黄色系発光を放つ珪酸塩蛍光体を得た。
以下、得られた珪酸塩蛍光体の特性を事前評価した結果を説明する。ここでは、X線回折法による珪酸塩蛍光体粒子の結晶構成物と、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器による珪酸塩蛍光体粒子の粒度分布及び中心粒径と、ICP発光分光分析法を用いて、この珪酸塩蛍光体の組成と、珪酸塩蛍光体の励起光スペクトル及び発光スペクトルと、青色励起光の反射スペクトル及び青色光によって励起される蛍光体の発光スペクトルとを評価した。
図23は、珪酸塩蛍光体に対して行なったX線回折解析の結果を示し、回折角とX線回折強度との関係を示すX線回折パターン図である。図23に示すX線回折パターンは、後に説明する斜方晶系Sr2 SiO4 化合物のX線回折パターン(図27(b)参照)と同じパターンである。このことは実施例にかかる珪酸塩蛍光体が、斜方晶の結晶構造を有する、単一結晶相の(Sr,Ba,Eu)2 SiO4 蛍光体であることを示している。
図24は、X線回折法による珪酸塩蛍光体の粒度分布を示す図である。同図に示されるように、実施例にかかる珪酸塩蛍光体粒子の粒径が、約3μm以上30μm以下の範囲内に分布しており、11.5μmの中心粒径を有する蛍光体粒子群からなる蛍光体であることを示している。なお、電子顕微鏡観察の結果、珪酸塩蛍光体の一つの粒子は、丸みを帯びた形状の数個の一次粒子が凝集してなるものであった。また、上記一次粒子の表面は、少し荒れが認められるものの比較的平滑であった。
次に、ICP発光分光分析法を用いて、この珪酸塩蛍光体の組成を評価した。その結果、上記珪酸塩蛍光体の組成は、(Ca0.015 Sr0.92Ba0.05Eu0.015 )Si0.99Ox であり、仕込み時における珪酸塩蛍光体の組成比とほぼ一致した。
次に、上記珪酸塩蛍光体の励起光スペクトルと発光スペクトルを評価した。この結果はすでに図8に示した通りである。比較のために、図8にはYAG系蛍光体粒子の励起光スペクトルと発光スペクトルが示されている。図8に示すように、この例にかかる珪酸塩蛍光体は、250〜300nm付近に励起光ピークを有し、100〜500nmの広い波長範囲内の光を吸収して、569nmに発光ピークを有する黄色系蛍光体であることを示している。なお、珪酸塩蛍光体が放つ黄色系光のCIE色度座標における色度(x,y)は、各々、(0.484,0.506)であった。
図25は、珪酸塩蛍光体の発光について、積分球を用いて積分し評価した結果を示す図である。ここでは、上記処理で得られた珪酸塩蛍光体に波長470nmの励起用青色光を照射し、青色励起光の反射スペクトルと青色光によって励起される蛍光体の発光スペクトルとを評価した。なお、470nmの青色光は、Xeランプの光をモノクロメーターに通すことによって得た。比較のために、図25にはYAG系蛍光体の上記反射スペクトルと発光スペクトル強度も示した。なお、図25において、470nmの発光ピークは励起光(青色光)によるものである。図25には、この珪酸塩蛍光体がYAG系蛍光体よりも3倍以上青色光を反射しやすい性質を有することと、この珪酸塩蛍光体がYAG系蛍光体に比較して青色光によって励起される発光の強度が弱く、YAG蛍光体の発光強度の約半分であることが示されている。
−珪酸塩蛍光体の各種特性−
以下、上記手順によって製造した珪酸塩蛍光体の特性を詳細に説明する。図53は、参考のために珪酸塩蛍光体の代表的な組成と特性とを表にして示す図である。図53中に示す組成は、基本的にはICP発光分光分析法によって定量評価した組成、または、上述の定量分析の結果から推定し得る組成である。
まず、珪酸塩蛍光体の組成と結晶構造の関係を説明する。なお、以下の説明は、Eu濃度(=Eu/(Sr+Ba+Ca+Eu)と定義する)を、典型的な2原子%(すなわち、Eu濃度=0.02)とし、1400℃の還元雰囲気中での2時間の焼成により得た珪酸塩蛍光体についてのものである。
珪酸塩蛍光体は、先に説明したように、組成によって、少なくとも、斜方晶系、単斜晶系、六方晶系の3つの結晶構造を取り得る。これら各種の結晶構造について、図26(a)〜図30(b)を参照しながら説明する。
図26(a),(b)は、それぞれ順に、CaとBaを全く含まない(Sr0.98Eu0.02)2 SiO4 蛍光体及び公知の単斜晶系Sr2 SiO4 化合物の各X線解析パターン図である。図27(a),(b)は、それぞれ順に、Caを全く含まずBaを置換量にして5原子%含む(Sr0.93Ba0.05Eu0.02)2 SiO4 蛍光体及び公知の斜方晶系Sr2 SiO4 化合物の各X線解析パターン図である。図28(a),(b)は、それぞれ順に、CaとSrを全く含まない(Ba0.98Eu0.02)2 SiO4 蛍光体及び公知の斜方晶系Ba2 SiO4 化合物の各X線解析パターン図である。図29(a),(b)は、それぞれ順に、CaとBaを各々38原子%,60原子%含む(Ca0.38Ba0.60Eu0.02)2 SiO4 蛍光体及び公知の六方晶系Ba0.3 Ca0.7 SiO4 化合物の各X線解析パターン図である。図30(a),(b)は、それぞれ順に、SrとBaを全く含まない(Ca0.98Eu0.02)2 SiO4 蛍光体及び公知の単斜晶系Ca2 SiO4 化合物の各X線解析パターン図である。
ここで、各X線解析パターン図は、常温常圧の条件下で測定されたデータである。また、図26(b),図27(b),図28(b),図29(b),図30(b)は、各々、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards )カードによって公知になっている化合物のデータであり、各図には化合物番号が示されている。図26(a)〜30(a)と図26(b)〜30(b)とのX線回折パターンの各々の対比によって、本例で作成された蛍光体の結晶構造は、各々、単斜晶系、斜方晶系、斜方晶系、六方晶系、単斜晶系であることがわかる。
なお、珪酸塩蛍光体の組成と主たる結晶構造の関係は、図53に示す通りである。(Sr,Ba)2 SiO4 :Eu2+蛍光体および(Ca,Sr)2 SiO4 :Eu2+蛍光体は、単斜晶系と斜方晶系の結晶構造を取り得る。(Ca,Ba)2 SiO4 :Eu2+蛍光体は、斜方晶系と六方晶系と単斜晶系の結晶構造を取り得る。また、Sr置換量(=Sr/(Sr+Ba+Ca+Eu)が少なくとも50原子%以上の(Sr,Ba,Ca)2 SiO4 :Eu2+蛍光体の結晶構造は斜方晶である。
結晶構造の面で特に注目すべき物質は、(Sr1-a1-x Baa1Eux )2 SiO4 蛍光体である。Baを全く含まない純粋な(Sr1-x Eux )2 SiO4 蛍光体は、少なくとも0≦x≦0.1のEu濃度範囲内では、単斜晶系の結晶構造を有しているが、Ba置換量(=Ba/(Sr+Ba+Ca+Eu))にして1原子%程度以上のBaを含むことによって、(Sr1-a1-x Baa1Eux )2 SiO4 蛍光体は、少なくともEu濃度が0≦x≦0.3の範囲内では、斜方晶系の結晶構造を有するようになる(図53参照)。
図31(a),(b)は、Siの一部がGeで置換された(Sr0.84Ba0.14Eu0.02)2 (Si0.8 Ge0.2 )O4 蛍光体及び公知の斜方晶系Sr2 SiO4 化合物の各X線解析パターン図である。図31(a),(b)は、参考のために示したもので、両図のパターンが一致することから、Siの一部がGeで置換された(Sr0.84Ba0.14Eu0.02)2 (Si0.8 Ge0.2 )O4 蛍光体の結晶構造が斜方晶系であることがわかる。なお、実験データは省略するが、Siの一部がGeで置換された(Sr0.84Ba0.14Eu0.02)2 (Si0.8 Ge0.2 )O4 蛍光体の結晶構造は、Ge置換量(=Ge/(Si+Ge))が0〜100原子%の全置換範囲で斜方晶系である。
次に、本例の珪酸塩蛍光体の組成と発光特性の関係について説明する。なお、以下の説明も、Eu濃度(=Eu/(Sr+Ba+Ca+Eu)と定義する)を、典型的な2原子%とし、1400℃の還元雰囲気中での2時間の焼成により得た珪酸塩蛍光体の場合のものである。
図32は、Ba置換量(a3)の異なる(Sr0.98-a3 Baa3Eu0.02)2 SiO4 蛍光体の発光スペクトル図である。図33は、置換量にして5原子%のBaを含みCa置換量(b3)の異なる(Cab3Sr0.93-b3 Ba0.05Eu0.02)2 SiO4 蛍光体の発光スペクトル図である。図34は、Ca置換量(b3)の異なる(Cab3Ba0.98-b3 Eu0.02)2 SiO4 蛍光体の発光スペクトル図である。図32〜図34は、それぞれ参考のために示される図である。
図35は、Ca置換量(b3)が19原子%,Ba置換量(a3)が24原子%の(Ca0.19Sr0.55Ba0.24Eu0.02)2 SiO4 蛍光体の発光スペクトル図である。同図に示すデータは、実験の都合上、波長254nmの紫外線による励起下で測定した結果をまとめたものである。
なお、青色光による励起下と波長254nmの紫外線による励起下での発光スペクトルを比較すると、一部のサンプルの評価結果ではあるものの、ほぼ似通ったものであった。
また、各珪酸塩蛍光体の励起光スペクトルは省略するが、本発明にかかる(Sr1-a3-b3-x Baa3Cab3Eux )2 SiO4 珪酸塩蛍光体は、程度の差はあるものの、全組成範囲において、少なくとも、主発光ピーク波長が470nmの、青色光による励起の下では、青緑〜緑〜黄〜橙の発光を放ち得ることが目視検査で確認できる蛍光体であり、その主発光ピーク波長は505nm〜598nmの範囲内にある。
なお、(Sr1-a3-b3-x Baa3Cab3Eux )2 SiO4 珪酸塩蛍光体の中でも、特にSrの割合が多いものにおいて、青色光による励起下で比較的高い発光効率が認められる。
図36は、(Sr0.98-a3 Baa3Eu0.02)2 SiO4 蛍光体(珪酸塩蛍光体)における主発光ピーク波長のBa置換量(a3)依存性を示す図である。(Sr0.98-a3 Baa3Eu0.02)2 SiO4 蛍光体におけるBa置換量(a3)と主発光ピーク波長との関係は、図53にも示されている。これらからわかるように、この珪酸塩蛍光体のBa置換量が0原子%以上で0.3原子%未満の範囲においては、主発光ピーク波長は535〜545nm付近にあり、この珪酸塩蛍光体の放つ発光が緑色であるのに対して、少なくともBa置換量が0.3原子%以上で24原子%以下の範囲においては、主発光ピーク波長は550nm以上で600nm以下の黄色域にあり、珪酸塩蛍光体の放つ発光は黄色系光である。なお、実験誤差、不純物の影響、例えば高温環境などの特殊条件下での特性などを考慮すると、Ba置換量が0原子%以上で30原子%程度以下の範囲にある珪酸塩蛍光体は、黄色系光を放ち得るものと推察できる。
また、図37は、(Cab3Sr0.93-b3 Ba0.05Eu0.02)2 SiO4 蛍光体(珪酸塩蛍光体)における主発光ピーク波長のCa置換量(b3)依存性を示す図である。同図に示すように、少なくともCa置換量が0原子%以上で57原子%以下の範囲においては、この珪酸塩蛍光体の主発光ピーク波長は550nm以上で600nm以下の黄色領域にあり、Ca置換量が70原子%程度以下の範囲内にある珪酸塩蛍光体の放つ発光は黄色系光である。なお、実験の誤差などを考慮すると、Ca置換量が0原子%以上で80原子%程度以下の範囲内にある珪酸塩蛍光体((Cab3Sr0.93-b3 Ba0.05Eu0.02)2 SiO4 蛍光体)は、黄色系光を放ち得るものと推察できる。
図38は、(Cab3Ba0.98-b3 Eu0.02)2 SiO4 蛍光体(珪酸塩蛍光体)における主発光ピーク波長のCa置換量(b3)依存性を示す図である。同図に示すように、(Cab3Ba0.98-b3 Eu0.02)2 SiO4 蛍光体の全組成範囲に亘って、主発光ピーク波長は500nm以上で550nm未満の緑色領域にあり、(Cab3Ba0.98-b3 Eu0.02)2 SiO4 蛍光体が放つ光は黄色系光ではなく緑色系光である。
なお、(Ca0.19Sr0.55Ba0.24Eu0.02)2 SiO4 蛍光体の主発光ピーク波長は、図35に示される発光スペクトルからわかるように、50nm以上で600nm以下の黄色領域にあり、(Ca0.19Sr0.55Ba0.24Eu0.02)2 SiO4 の放つ発光は黄色系光である。
以上のように、組成範囲が限定された珪酸塩蛍光体から黄色系光が得られ、その組成範囲は、Ba置換量(a3)が0≦a3≦0.3の範囲、Ca置換量(b3)が0≦b3≦0.8の範囲である。また、好ましくは、Ba置換量(a3)が0<a3≦0.2、Ca置換量(b3)が0<b3≦0.7の範囲である。なお、図53からわかるように、この組成範囲内の珪酸塩蛍光体の結晶構造はすべてが斜方晶系である。
図39は、Siの一部がGeで置換された(Sr0.84Ba0.14Eu0.02)2 (Si0.8 Ge0.2 )O4 蛍光体の発光スペクトルを参考のために示す図である。同図に示すように、この蛍光体も青色光による励起下で発光し得る蛍光体であり、その発光強度はGe置換量(=Ge/(Si+Ge))の増大とともに大きく低下するが、少なくともGe置換量が20原子%〜100原子%の置換範囲においては黄緑色(主発光ピーク波長:約550nm)である。
次に、珪酸塩蛍光体のEu2+発光中心濃度(=Eu/(Sr+Ba+Ca+Eu):Eu濃度と同意)と結晶構造および発光特性の関係を説明する。なお、以下の説明は、組成を(Sr1-x Eux )2 SiO4 または(Sr0.95-x Ba0.05Eux )2 SiO4 とし、1400℃の還元雰囲気中での2時間の焼成により得られた珪酸塩蛍光体の場合のものである。
図40は、Eu濃度(x)が種々の異なる(Sr1-x Eux )2 SiO4 蛍光体の発光スペクトルを参考のために示す図である。図41は、(Sr0.95-xBa0.05Eux )2 SiO4 蛍光体の発光スペクトルを参考のために示す図である。図40及び図41のデータは、各々波長が254nmの紫外光による励起下での測定の結果得られたものである。これらの蛍光体の結晶構造について簡単に説明すると、X線回折パターンの評価結果では、少なくともEu濃度(x)が0≦x≦0.1の範囲内の(Sr1-x Eux )2 SiO4 蛍光体の結晶構造は単斜晶系である。また、少なくともEu濃度(x)が0≦x≦0.3の範囲内の(Sr0.95-xBa0.05Eux )2 SiO4 蛍光体と、少なくともx=0.3の(Sr1-x Eux )2 SiO4 蛍光体との結晶構造は、斜方晶系である。
図42は、(Sr1-x Eux )2 SiO4 蛍光体と、(Sr0.95-xBa0.05Eux )2 SiO4 蛍光体との主発光ピーク波長のEu濃度依存性を示す図である。同図に示すように、既に説明した珪酸塩蛍光体の結晶構造と発光色との間には相関関係がある。すなわち、単斜晶系の結晶構造を有する、少なくともEu濃度(x)が0.001≦x≦0.1の範囲内にある(Sr1-x Eux )2 SiO4 蛍光体の主発光ピーク波長が500nm以上
550nm未満の緑色領域にあるのに対して、斜方晶系の結晶構造を有する、少なくともEu濃度(x)が0.001≦x≦0.3の範囲内の(Sr0.95-xBa0.05Eux )2 SiO4 蛍光体と、x=0.3の(Sr1-x Eux )2 SiO4 蛍光体との主発光ピーク波長は、550nm以上で600nm以下の黄色領域にある。
以上の実験データからわかるように、254nmの紫外線励起下や上記青色光励起下で認められる黄色系発光は、上述の説明のように組成が限定された斜方晶系の珪酸塩蛍光体だけが放つのである。
そして、以上の実験結果から、発明の効果を発揮するための珪酸塩蛍光体の各元素の適正範囲は、以下のようになる。
Ba
黄色の波長は550nm以上で600nm以下の範囲であるので、図32よりこの化合物から黄色の波長を得るための条件は、Ba置換量が組成比0.0〜0.3の範囲であることがわかる。なお、Ba置換量が組成比で0.3の化合物の実験結果は、図32に示されていないが、組成比bが0.24の化合物の実験結果と、組成比bが0.43の化合物の実験結果から、組成比bが0.3の化合物においても黄色の波長が得られることは容易に推測できる。
また、図36から、この化合物から黄色の波長を得るための条件は、Ba置換量が0〜30原子%であることがわかる。なお、Ba置換量が30原子%の化合物の実験結果は、図36に示されていないが、Ba置換量が24原子%の化合物の実験結果と、Ba置換量が43原子%の化合物の実験結果とから、Ba置換量が30原子%の化合物においても黄色の波長が得られるものと推測できる。
Ca
図33から、この化合物から黄色の波長を得るための最適条件は、Ca置換量が組成比で0.0〜0.6であることがわかる。なお、Caの組成比が0.7の化合物の実験結果は示されてないが、Ca置換量が組成比で0.57の化合物の実験結果と、置換量が組成比で0.76の化合物の実験結果から、Ca置換量が組成比で0.7の化合物においても黄色の波長が得られるものと推測できる。また、実験結果では、Ca置換量が組成比で0.8の化合物の発光ピーク波長は黄色の波長から外れていると推測されるが、実験誤差も含まれることを考慮すると、Ca置換量が組成比で0.0〜0.6の範囲の化合物に加えて、組成比0.7,0.8も含めた組成比0.0〜0.8が黄色の波長を得るための化合物のCa組成比の条件と考えることが出来る。
また、図37より、この化合物から黄色の波長を得るための条件は、Ca置換量が0〜80原子%であることがわかる。なお、Ca置換量が70原子%の実験結果は示されてないが、Ca置換量が57原子%の実験結果と、Ca置換量が76原子%の実験結果から、Ca置換量が70原子%の場合においても黄色の波長が得られるものと推測できる。また、実験結果では、Ca置換量が80原子%の発光ピーク波長は黄色の波長から外れているが、実験誤差も含まれることを考慮して最適値に含めている。
Sr
図34,図38から、Srを全く含まない化合物は、黄色を発光しないことが解る。
結晶構造
図42から、結晶構造が単斜晶のものはEu置換量に関わらず黄色を得られず、結晶構造が斜方晶のものはEu置換量に関わらず黄色の波長が得られることが解る。
Eu
図43から、結晶構造が斜方晶のものは、Eu置換量に関わらず黄色の波長が得られるが、発光ピーク高さを考慮するとEu置換量は10%以下が望ましいことがわかる。
なお、Eu濃度と発光強度(主発光ピーク強度(高さ))の関係は、図43に示す通りである。(Sr1-x Eux )2 SiO4 蛍光体と、(Sr0.95-xBa0.05Eux )2 SiO4 蛍光体とのいずれの場合でも、Eu濃度の増加とともに、発光強度は強くなり、Eu濃度が1〜1.5原子%付近で最大となった後、発光強度が次第に低下するという同じ傾向を示す。発光強度,発光スペクトル形状,色度などの面で好ましいEu濃度(組成比x)は、図43、図41および図53からわかるように、0.005<x≦0.1の範囲、さらに好ましくは、0.01<x≦0.05の範囲、最も好ましくは、0.01<x≦0.02の範囲である。
ここで、従来の技術の欄において記述した、特開2001−143869号公報に緑色蛍光体として記載されている,Sr2 SiO4 :Eu2+珪酸塩蛍光体と(BaSr)2 SiO4 :Eu2+蛍光体とについて言及する。
実験データを用いて説明したように、本発明者らが実験を行なった限りでは、Sr2 SiO4 :Eu2+珪酸塩蛍光体は、微量含まれるBaなどの不純物によって、斜方晶系(Orthorhombic)と単斜晶系(Monoclinic)の二つの結晶相とを持ちうる蛍光体であり、常圧室温の条件下において、少なくとも実用的に用いられるEu2+発光中心添加量(=Eu原子の数/(Sr原子の数+Eu原子の数):x)が、0.01<x<0.05の範囲内では、斜方晶Sr2 iO4 :Eu2+(α’−Sr2 SiO4 :Eu2+)は、波長560〜575nm付近に主発光ピークを有する黄色系光を放つ黄色系蛍光体であり、単斜晶Sr2 SiO4 :Eu2+(β−Sr2 SiO4 :Eu2+)は、波長535〜545nm付近に主発光ピークを有する緑色光を放つ緑色蛍光体である(図42、図53参照)。
なお、Eu組成比(=Eu/(Sr+Eu)原子割合)が、発光強度の面で実用的な0.001以上で0.3以下の範囲(すなわち0.1原子%以上で30原子%以下の範囲)、特に0.003以上で0.03以下の範囲内では、主発光ピーク波長は殆ど変化しないことが発明者らの実験によってわかっている。したがって、特開2001−143869号公報に記載されているSr2 SiO4 :Eu2+緑色蛍光体は、単斜晶Sr2 SiO4 :Eu2+蛍光体と見なすことができる。
なお、Sr2 SiO4 化合物の結晶構造が、少量含まれるBaによって、斜方晶系と単斜晶系を取り得ることは、すでに公知とされている(例えば、G.PIEPER et al., Journal of The American Ceramic Society, Vol.55, No.12(1972)pp.619-622)。また、単斜晶系のSr2 SiO4 化合物の結晶構造は、約383Kの温度で斜方晶系へと可逆的に相変化することが知られている(例えば、M.Catti et al., Acta Cryst., B39(1983)pp.674-679参照)。
また、Sr原子に対するBa不純物原子の含有量(Ba/(Sr+Ba)原子割合:以後、Ba含有量と記述)が1%程度以上の化合物、すなわち、(Sr0.99Ba0.01)2 SiO4 :Eu2+よりもBa含有量が多い化合物は、結晶構造が斜方晶の蛍光体となり、Ba含有量の増加とともに、主発光ピーク波長は575nm付近から505nm付近まで変化する(図32、図36、図53参照)。実験における測定誤差等を考慮すると、図32、図36、図53から、少なくとも化学式(Sr0.98-a3 Baa3Eu0.02)2 SiO4 で表される化合物を主体にしてなる珪酸塩蛍光体(ただし、a3は0≦a3≦0.98を満足する数値)において、0.01≦a3≦0.3の組成範囲の化学式(Sr0.98-a3 Baa3Eu0.02)2 SiO4 珪酸塩蛍光体は、波長550nm以上で600nm以下の範囲内に主発光ピークを有する黄色系蛍光体、0.3<a3≦0.98の組成範囲の珪酸塩蛍光体は、波長505nm以上で550nm未満の範囲内に主発光ピークを有する緑色系蛍光体であることがわかる。
なお、Eu濃度が、発光強度の面で実用的な組成比で0.001以上で0.3以下の範囲、特に0.003以上で0.03以下の範囲内では、主発光ピーク波長は殆ど変化しないことが、発明者らの別の実験によってわかっている。したがって、上記特開2001−143869号公報に記載の(BaSr)2 SiO4 :Eu2+緑色蛍光体は、少なくとも0.3<a3≦0.98の組成範囲の(Sr1-a3-xBaa3Eux )2 SiO4 珪酸塩蛍光体(但し、xは0.001≦x≦0.3を満足する数値)と見なすことができる。
最後に、斜方晶系の結晶構造を有し、黄色系発光を放つ、Eu濃度を最適化した珪酸塩蛍光体((Ca0.015 Sr0.92Ba0.05Eu0.015 )2 SiO4 蛍光体)とYAG系蛍光体(Y0.7 Gd0.28Ce0.02)3 Al5 O12との発光特性の比較結果について説明する。
−YAG系蛍光体と珪酸塩蛍光体との輝度特性の比較−
まず、YAG系蛍光体を用いた半導体発光デバイスと、珪酸塩蛍光体を用いた半導体発光素子との輝度特性の違いについて説明する。
図54は、YAG蛍光体を用いた半導体発光デバイスと、珪酸塩蛍光体を用いた半導体発光デバイスとの輝度特性について行った実験データを表にして示す図である。図54においては、各サンプルに対して、主とする蛍光体材料の種別、その重量%、輝度、全光束、全放射束および色度が示されている。
図54においては、YAG系蛍光体(サンプルD,E)の重量%の方が、珪酸塩蛍光体(その他のサンプル)よりも少ない量で黄色系の色を得ることができることが示されている。具体的には、色度(0.35,0.35)付近の光を得る場合、YAG系蛍光体の蛍光体重量%は7.4%(サンプルD)、9.8%(サンプルE)であるのに対して、例えば、珪酸塩蛍光体を用いたサンプルA,B,Cでは、約50%の蛍光体重量%となっている一方、この場合の光束も下がっていない。このことから、青色LEDが放つ410nm以上で530nm以下の範囲、青色光を550nm以上で600nm以下の範囲の黄色系の光に変換する変換効率は、珪酸塩蛍光体よりもYAG系蛍光体の方が低いことがわかる。すなわち、YAG系蛍光体では変換効率が大きいので、適度な強度の黄色光を得るには蛍光体層中に少量の蛍光体しか用いることができない。結果として、蛍光体粒子が母材中で偏在しやすくなると思われる。一方、珪酸塩蛍光体の場合は、半導体発光デバイス中に用いられる蛍光体の量が多くなり、半導体発光デバイス中に実質厚みが大きい蛍光体層が形成できる。その結果として、蛍光体ペーストのチキソトロピーが改善され(つまり、チキソトロピー指数が適正範囲になって)、蛍光体層の母材中で偏在しにくくなるとともに、蛍光体粒子が均一に分散し散点した状態が維持され、色むらの発生を抑制できるものと考えられる。
また、サンプルF,G,H,I,J,Kを用いて、珪酸塩蛍光体の重量%を変化させて、輝度,色度,全光束,全放射束変化に及ぼされる影響を測定した。
図44は、蛍光体濃度と輝度との関係を示す図である。図45は、蛍光体濃度と全光束との関係を示す図である。図46は、蛍光体濃度と全放射束との関係を示す図である。図47は蛍光体濃度と色度(x値)との関係を示す図である。図44〜図47は、図54のデータに基づいた結果を示す図であって、各図には、蛍光体が30重量%,40重量%,50重量%であるそれぞれの場合の各測定値が示されている。まず、蛍光体の重量割合を大きくするほど、輝度,全光束および全放射束は小さくなる傾向がある。一方、色度の場合は、蛍光体の重量割合を大きくするほど色度(x値)が大きくなって黄色味が増す傾向にある。このことから、蛍光体の重量割合は、少なくとも30%より大きいことが好ましいといえる。更に、蛍光体の重量割合が30%以上で50%以下の範囲であることがより好ましい。
−チキソトロピー付与剤の添加−
次に、半導体発光デバイスの珪酸塩蛍光体に超微粉末シリカ等の超微粉末の二酸化珪素(商品名“アエロジル”デグサ社(独)製)をチキソトロピー付与剤(ここでは、チキソトロピー指数を高くする機能を有するもの)として挿入した場合の効果について説明する。
図55は、半導体発光デバイスの珪酸塩蛍光体に超微粉末シリカ等の超微粉末の二酸化珪素をチキソトロピー付与剤として挿入したサンプルの各種特性を表にして示す図である。
図55に示すデータは、珪酸塩蛍光体を30重量%のみ含むサンプル1と、珪酸塩蛍光体を約30重量%含みアエロジルの濃度が0.57%であるサンプル2と、珪酸塩蛍光体を約30重量%含みアエロジルの濃度が1.11%であるサンプル3との計3種類のサンプルを用いて実験を行った結果得られたものである。図55には、色度(x,y)が(0.3,0.3)付近の場合の各サンプルに対する輝度,全光束,全放射束の結果が示されている。サンプル2とサンプル3との比較から、アエロジルの濃度が大きくなるほど輝度が向上するだけでなく、光束,放射束も大きくなることが示されている。
また、各サンプルに対する輝度,色度(x値),全光束,全放射束それぞれ属性ごとに標準偏差を示している。サンプル3に対応する全ての標準偏差は、3種のサンプル中最も小さくなっており、最も信頼性が高くなっている。確かに、色度の大きさが若干異なり参考ではあるが、サンプル1の輝度,光速量及び放射束は大きいが、その標準偏差はサンプルの中でも大きな値となっており信頼性は低いものと解される。
以上のことから、アエロジルを添加すればするほど、輝度,光速量,放射束が大きくなるだけでなく、信頼性が向上することが推察される。これは、アエロジルによって珪酸塩蛍光体ペーストのチキソトロピーが大きくなったことが関与しており、蛍光体ペーストの粘度が適度に設定されるからである。具体的には、半導体発光デバイスに珪酸塩蛍光体ペーストを挿入する際には、適度な粘度を保ちながら滑らかにポッティングされるので、珪酸塩蛍光体粒子が蛍光体ペースト中で比較的均一に分散するようになる。発光装置のキャビティに入った後、粘度がポッティング時よりも高めに推移するので、珪酸塩蛍光体粒子が沈降せずに、母材中に比較的均一に分散した状態が維持される。これによって、YAG系蛍光体のような色ムラが抑えられて、輝度、光速量および信頼性が向上したものと解される。
(第3の実施形態)
本実施形態においては、薄い蛍光体層を形成するため方法について説明する。本実施形態は、化学式(Sr1-a1-b1-x Baa1Cab1Eux )2 SiO4 (a1,b1,xは、各々、0≦a1≦0.3、0≦b1≦0.8(より理想的には0≦b1≦0.6)、0<x<1の範囲にある数値)で表され、550nm以上で600nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ黄色系蛍光体を図1,図2,図3に示す半導体発光デバイスのように、発光ダイオード近傍に密集させることにより、蛍光体層を薄くし、光が透過する厚みを少なくすることで光の減衰を低減するものである。例えば、蛍光体層の青色発光素子の光取り出し面上に位置する部分の実質厚みが50μm以上で1000μm以下の範囲にある半導体発光デバイスを形成するための方法である。
以下、その製造方法の各例について説明する。
−製造方法の第1の例−
図50(a)〜(c)は、本実施形態の製造方法の第1の例における製造工程を示す断面図である。
まず、図50(a)に示す工程で、型301のキャビティ内に、基板303と基板303上に搭載された発光ダイオード302(例えば青色LED)とを設置する。そして、透光性を有する樹脂からなる母材310と黄色系蛍光体を含む蛍光体粒子311とを主たる構成要素とする第1の蛍光体ペースト307を、容器305から型301内に注入する。このとき、蛍光体ペースト307を発光ダイオード302の上面よりも高い位置まで注入する。発光ダイオード302の主光取り出し面は、同図に示す上方に向いている面である。
次に、図50(b)に示す工程で、容器306から型301内に、第1の蛍光体ペースト307よりも蛍光体粒子311の濃度が薄い第2の蛍光体ペースト308を注入する。
次に、図50(c)に示す工程で、樹脂を硬化させると、母材310のうち,発光ダイオード302の近傍の領域,特に主光取り出し面の上方に位置する領域には蛍光体粒子311が密集して分散する一方、発光ダイオード302から離れた母材320中には蛍光体粒子311が粗に分散した状態となる。その後、半導体発光デバイスを型301から取り出す。
以上のようにして、母材310のうち,発光ダイオード302の少なくとも光取り出し面の上方に位置する領域に蛍光体粒子311が密集して存在する,色むらの少ない白色半導体発光デバイスを形成することができる。また、このような半導体発光デバイスを図4〜図6に示す発光装置内に組み込むことにより、色むらの抑制された白色発光装置を製造することができる。
−製造方法の第2の例−
図51(a)〜(c)は、本実施形態の製造方法の第2の例における製造工程を示す断面図である。
まず、図51(a)に示す工程で、型401のキャビティ内に、基板403と基板403上に搭載された発光ダイオード402(例えば青色LED)とを設置する。そして、黄色系蛍光体を含む蛍光体粒子411を、型401内の発光ダイオード402の近傍,特に主光取り出し面に振りかける。発光ダイオード402の主光取り出し面は、同図に示す上方に向いている面である。
次に、図51(b)に示す工程で、透光性を有する樹脂からなる母材410と黄色系蛍光体を含む少量の蛍光体粒子411とを主たる構成要素とする蛍光体ペースト408を、容器405から型401内に注入する。
次に、図51(c)に示す工程で、樹脂を硬化させると、母材410中において、発光ダイオード402の近傍の領域,特に主光取り出し面の上方に位置する領域には蛍光体粒子411が密集して分散する一方、発光ダイオード3402から離れた部位には蛍光体粒子411が粗に分散した状態となる。その後、半導体発光デバイスを型401から取り出す。
以上のようにして、母材410のうち,発光ダイオード402の少なくとも光取り出し面の上方に位置する領域に蛍光体粒子411が密集して存在する,色むらの少ない半導体発光デバイスを形成することができる。また、このような半導体発光デバイスを図4〜図6に示す発光装置内に組み込むことにより、色むらの少ない発光装置を製造することができる。
−製造方法の第3の例−
図52(a)〜(d)は、本実施形態の製造方法の第3の例における製造工程を示す断面図である。
まず、図52(a)に示す工程で、型501のキャビティ内に、基板503と基板503上に搭載された発光ダイオード502(例えば青色LED)とを設置する。そして、揮発性溶媒510と黄色系蛍光体を含む蛍光体粒子511とを主たる構成要素とする懸濁液507を、容器505から型501内に注入する。このとき、懸濁液507を発光ダイオード502の上面よりも高い位置まで注入する。発光ダイオード502の主光取り出し面は、同図に示す上方に向いている面である。
次に、図52(b)に示す工程で、加熱または減圧により懸濁液507中の揮発性溶媒510を蒸発させる。
次に、図52(c)に示す工程で、透光性を有する樹脂からなる母材512と黄色系蛍光体を含む少量の蛍光体粒子511とを主たる構成要素とする蛍光体ペースト508を、容器506から型501内に注入する。
次に、図52(c)に示す工程で、樹脂を硬化させると、母材512中において、発光ダイオード502の近傍の領域,特に主光取り出し面の上方に位置する領域には蛍光体粒子511が密集して分散する一方、発光ダイオード502から離れた部位には蛍光体粒子511が粗に分散した状態となる。その後、半導体発光デバイスを型501から取り出す。
以上のようにして、母材410のうち,発光ダイオード402の少なくとも光取り出し面の上方に位置する領域に蛍光体粒子411が密集して存在する,色むらの少ない白色半導体発光デバイスを形成することができる。また、このような半導体発光デバイスを図4〜図6に示す発光装置内に組み込むことにより、色ムラの少ない白色発光装置を製造することができる。
−製造方法の第4の例−
YAG系蛍光体が沈積する理由として、蛍光体と母材の比重差に起因して生じるものとしてきたが、その他の理由としてYAG系蛍光体が正に帯電していることが考えられる。つまり、母材である樹脂が同じ正に帯電していると、一般に両者は互いに反発し合うのでYAG系蛍光体が沈積する。
一方、化学式Sr1-a1-b1-x Baa1Cab1Eux )2 SiO4 で表される化合物を主体にしてなる珪酸塩蛍光体粒子が同じ樹脂に対して沈積しない事実と上記帯電と沈積の関係とを考慮すると、樹脂の帯電特性が正であるのに対して蛍光体粒子の帯電特性が負であって、両者が引きつけ合う関係にあることも、珪酸塩蛍光体粒子が樹脂内でほぼ均一に分布るするように分散することに寄与しているものと考えられる。このような、正に帯電する樹脂としてはエポキシ樹脂と、シリコン樹脂とがある。
以上より、珪酸塩蛍光体を沈積させる手段として、蛍光体粒子を正に帯電する酸化物等でコーティングする方法が考えられる。
蛍光体の表面に酸化物,弗化物をコーティングする方法としては、例えば以下の方法がある。まず、蛍光体粒子及び必要な酸化物や弗化物のコーティング粒子を含む懸濁液を混合攪拌した後、吸引濾過する。そして、濾過されずに残った残留物を125℃以上で乾燥した後、350℃で焼成する。このとき、蛍光体粒子と酸化物,弗化物との接着力を向上するために、樹脂,有機シラン,水ガラス等を少量加えても良い。
また、膜状にコーティングするのに有機金属化合物の加水分解を利用する方法もある。例えば、Al2 O3 膜を形成する場合は、蛍光体をアルミニウムのアルコキシドであるAl(OC2 H5 )3 を用いて、これをアルコール溶液中で混合攪拌して、蛍光体表面にAl2 O3 をコーティングする。
蛍光体粒子の表面への正に帯電する酸化物や弗化物のコーティングの量は、少なすぎると効果が少なく、多すぎると発生する光を吸収してしまい、輝度が低下するので好ましくない。実験の結果、得られた好ましい範囲は、蛍光体の重量に対して0.05%〜2.0%である。
以上のようにして、母材のうち,発光ダイオードの少なくとも光取り出し面の上方に位置する領域に蛍光体粒子が密集して存在する,色むらの少ない白色半導体発光デバイスを形成することができる。また、このような半導体発光デバイスを図4〜図6に示す発光装置内に組み込むことにより、色ムラの少ない白色発光装置を製造することができる。
第3の実施形態に係る製造方法により、蛍光体層の青色発光素子の光取り出し面上に位置する部分の実質厚みが50μm以上で1000μm以下の範囲にある半導体発光デバイスを得ることができる。
(その他の実施形態)
上記各実施形態においては、半導体発光デバイスにおいて、青色発光素子である青色LEDが単数の場合について説明したが、本発明の半導体発光デバイスは、かかる実施形態に限定されるものではない。
図56は、複数の青色LEDを備えた半導体発光デバイスの構造を示す断面図である。同図に示すように、この半導体発光デバイスは、基板604上に配置された複数の青色LED601と、各青色LED601の各主光取り出し面(図56に示す状態では上面)を覆う蛍光体送03とを備えている。蛍光体層603は、上記各実施形態において説明した組成を有する黄色系蛍光体の蛍光体粒子602と、蛍光体粒子602が分散配置された母材となる樹脂613とを備えている。樹脂613の材質は、上記各実施形態で説明したものを用いることができ、基板604には、ツェナーダイオードが搭載されていてもよい。
この構造により、白色光を放つ半導体発光デバイスの発光強度の向上を図ることができ、あるいは、搭載する青色LED601の個数によって発光強度の調整を図ることも可能である。
また、上記発光装置に関する実施形態においては、青色LEDと蛍光体層とを1つずつ備えた半導体発光デバイスを多数配置した例について説明したが、本発明の発光装置は、かかる実施形態に限定されるものではない。
図57は、多数の青色LEDと単一の蛍光体層とを備えた発光装置の構造を示す断面図である。同図に示すように、この発光装置は、支持部材654によって支持される多数の青色LED651(青色発光素子)と、各青色LED651の全面に配置された単一の蛍光体層653とを備えている。蛍光体層653は、2枚のガラス基板と、2枚のガラス基板の間に充填された母材である樹脂663と、樹脂663中に分散して配置された蛍光体粒子652とを有しており、蛍光体層653は、その周縁部において支持部材654によって支持されている。蛍光体粒子652は、上記各実施形態において説明した組成を有する黄色系蛍光体によって構成されている。樹脂613の材質は、上記各実施形態で説明したものを用いることができる。
図57に示す構造によると、多数の青色LED651に対して蛍光体層653は1つでよいので、製造コストの削減と製造工程の簡略化とを図ることができる。