JP3753394B2 - インキ・塗料用分散ゲル化剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インキ・塗料分野においてゲル化剤あるいは分散剤として使用される、新規な化合物であるマグネシウム金属キレート誘導体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、印刷インキのゲル化剤としては一般的にアルミニウムキレート、アルミニウムオリゴマーのような3価の有機金属化合物やチタン、ジルコニウムなどのアルコキシド化合物やキレート化合物等の4価の金属有機化合物が使用されていた。これらの3価もしくは4価の有機金属化合物は増粘効果は大きいが、調製されたインキゲルワニス等において用いられる樹脂や溶剤などの種類によっては、経時的に反応が進行して、希望する粘度以上となる場合があった。
【0003】
インキゲルワニスを調製するには、インキ用樹脂,溶剤およびゲル化剤を混合したものを150〜200℃程度の温度で数時間加熱処理を行うのが一般的である。先にあげた3価ないし4価の有機金属化合物をインキワニスのゲル化剤として用いた場合、この程度の加熱処理では、多くの場合ゲル化に寄与する反応性基の一部が未反応のまま残ってしまう。このように残った未反応性基が樹脂と経時的に徐々に反応するため、インキの粘度が経時的に増加するという現象が起き、印刷インキとして使用する際に問題となっている。
【0004】
また、一部のアルミニウムキレートおよびチタンキレートはインキ・塗料用の顔料分散剤として使用されるものがあるが、これらの化合物に関しても使用される樹脂の種類によっては増粘またはゲル化する場合がある。
【0005】
さらに近年の印刷技術の進歩は目覚ましく、印刷速度の高速化、印刷の自動化を達成するために印刷インキの高機能化が必要になっている。印刷を高速化するとスカミング、ミスチング、ガイドローラー汚れが問題になるが、これらの欠点を改良するために印刷インキの粘弾性を適正化する必要があり、樹脂の改良、乾燥方法の改良、ゲル化剤の改良が行われているが、既存の3価、4価のキレート化合物では要求される性能、機能を付与することはできなかった。
【0006】
このような要望を満足するためには、ゲルワニス調製時に適度なゲル化反応を行わせる必要がある。ゲルワニス調製時に適度なゲル化反応を行わせるゲル化剤として、マグネシウムキレート化合物に代表される2価の有機金属化合物が考えられる。作用機構としては、2価の有機金属化合物は、3価ないし4価の有機金属化合物と比較して、樹脂と反応する反応基の数が少ないので、短時間の加熱処理で、ゲル化剤と樹脂との反応が完結し、上記のような経時的なゲル化現象が起こりにくいと考えられ、既存のゲル化剤には無かった機能を発揮するものと考えられる。
【0007】
しかし、これまでインキ用ゲル化剤として知られていた2価の有機金属化合物としては、例えばマグネシウムビスアセチルアセトナート、カルシウムビスアセチルアセトナートおよびマグネシウムビスエチルアセトアセテートなどが挙げられるが、これらの2価の有機金属化合物は、全て固体(結晶性固体)であり有機溶媒に対する溶解性が乏しいことと、顔料等の分散能力はないことから、インキ・塗料用分散ゲル化剤として使用可能な範囲が限られていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来課題であった粘度の経時的な変化が少なく、高速、自動印刷に適する印刷インキの製造を可能とするゲル化剤で、これ自身がインキ、塗料用顔料分散剤として有用である新規なマグネシウム金属キレート誘導体を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明者等は鋭意検討した結果、溶剤に対しての溶解度が高く、経時安定性および高機能印刷インキ用ゲル化剤としての性能が良好であり、且つ顔料分散効果を有するマグネシウム金属キレート化合物を見出し、発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、一般式(1)
Mg(R1O)(CH3COCHCOOR2) (1)
(但し、式中において、R1は炭素数1〜18の直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基、R2は炭素数3〜18の直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
で示されるマグネシウム金属キレート誘導体であることを特徴とする、インキ・塗料用分散ゲル化剤に関するものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のインキ・塗料用分散ゲル化剤は、インキや塗料の顔料の分散剤やゲル化剤として好適な化合物であり、
前記一般式(1)で表されるマグネシウム金属キレートであるが、R1のアルキル基またはアルケニル基の好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基およびアリル基等を挙げることができ、またR2のアルキル基またはアルケニル基の好ましい具体例としては、n−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ラウリル基、ステアリル基およびオレイル基等を挙げることができる。
【0012】
本発明におけるマグネシウム金属キレート化合物は、それ自体が液体であってほとんどの有機溶媒と任意の割合で溶解するものであるか、あるいは固体であってもインキ・塗料用の分散ゲル化剤として十分使用可能な溶解度を持つものである。
【0013】
上記一般式(1)で示す範囲内であれば、液状または高い溶解性を持つ固体の化合物を得ることができる。しかし、これらの化合物をインキ・塗料用のゲル化剤として使用する場合、ゲル化能に関しては化合物中の金属含有量(%)が大きく影響するため、適当なアルキル基の炭素数を選択する必要がある。印刷に適した粘度等の性能を得るためにはゲル化剤中の金属含有量を概ね3〜10%程度になるようにR1およびR2の炭素数を調整した化合物が望ましい。この目的に適合する化合物のアルキル基の炭素数は、R1が1〜4,R2が8〜18であることが望ましい。
【0014】
本発明の一般式(1)における、R1およびR2において、直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基は、2−エチルヘキシル基やオレイル基などのような単一組成のものでもよいが、ヤシ油脂肪酸アルキル基や牛脂脂肪酸アルキル基などのような天然物由来の混合組成のものであってもよい。従って、当該化合物を工業的に製造する場合、コスト的に有利な組成物(例えば、ヤシ油脂肪酸、牛脂脂肪酸、ナフテン酸、トール油脂肪酸、パーム油脂肪酸、パーム核油脂肪酸などのアルキル組成を持つもの)を使用することが可能である。これらの混合組成を持つ化合物は、高純度の単一組成物と比較して何ら変わらない効果が得られ、コスト的にも有利である。
【0015】
上記一般式(1)で示される化合物のうち、インキ・塗料用分散ゲル化剤として、特に好ましいものとして、具体的には、2−エチルヘキシルアセトアセテートマグネシウムメチレート、2−エチルヘキシルアセトアセテートマグネシウム−n−プロピレート、ラルリルアセトアセテートマグネシウムメチレート、ステアリルアセトアセテートマグネシウムメチレートおよびオレイルアセトアセテートマグネシウムメチレート等を挙げることができる。
【0016】
本発明のマグネシウム金属キレート誘導体が粘度の経時的変化が少ないのは、インキ・塗料用の樹脂と反応する反応性基の数が2と少ないため、インキゲルワニス調製時に樹脂との反応が充分進行し、インキ、塗料の粘度の経時的変化が少ないためである。
【0017】
一般式(1)で示されるマグネシウム金属キレート誘導体は、インキ、塗料用顔料の分散剤もしくはゲル化剤として使用することができるが、本発明のインキ・塗料用分散ゲル化剤を用いて、インキ、塗料を調製するには常法に従えばよい。
【0018】
例えば、インキの調製は以下のような方法で行えばよい。まず、樹脂(ロジン変性フェノール樹脂または石油樹脂)、乾性油(アマニ油等)、石油系溶剤を200℃で1時間程度攪拌し、本発明のマグネシウム金属キレート誘導体を0.1〜10%添加し、180℃で1時間攪拌したものをインキ用ワニスとする。これに顔料(任意の有機または無機顔料)、石油系溶剤を加え、3本ロールミルで練肉混合して印刷用インキとする。
【0019】
また、塗料を調製するには、塗料用樹脂(アルキッド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびシリコン樹脂など)、溶剤、顔料(任意の有機または無機顔料)、その他の添加剤および本発明のマグネシウム金属キレート誘導体を0.1〜10%添加して、サンドミル、ビーズミル等にて混合すればよい。
【0020】
本発明の一般式(1)で示されるマグネシウム金属キレートは、例えば以下のような方法により製造することができる。マグネシウムメチレートを適当な溶媒(メタノールまたはトルエン等)に溶解し、この溶液にアセト酢酸アルキルエステルを加え、加熱還流する。その後、反応液から溶媒と副生したメタノールを留去すると目的とするアルキルアセトアセテートマグネシウムメチレートを製造することができる。
【0021】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を更に詳しく説明する。
【0022】
製造例1
容量500mlのガラス製反応器に、マグネシウムメトキシド8.63g(0.1mol)およびメタノール100gを投入し、撹拌しながら加熱溶解させた。この溶液にアセト酢酸2−エチルヘキシル21.4g(0.1mol)を加え、2時間加熱還流した。
【0023】
反応液からメタノールを留去して黄褐色固体26.8gの2−エチルヘキシルアセトアセテートマグネシウムメチレートを得た。このもののマグネシウム含有量は、9.06%,比重は、0.9390(4/25℃)であった。またこの化合物は、トルエン,キシレンおよび7号ソルベント(日本石油(株)製溶剤)等の溶剤に可溶であった。
【0024】
製造例2
容量500mlのガラス製反応器に、マグネシウムメトキシド8.63g(0.1mol)およびメタノール100gを投入し、撹拌しながら加熱溶解させる。この溶液にアセト酢酸オレイル35.2g(0.1mol)を加え、2時間加熱還流した。
【0025】
反応液からメタノールを留去して黄褐色 粘稠液体のオレイルアセトアセテートマグネシウムメチレートを40.6g得た。このもののマグネシウム含有量は、5.95%,比重は0.9792(4/25℃)であった。また、この化合物は、トルエン,キシレンおよび7号ソルベント(日本石油(株)製溶剤)等の溶剤に任意の割合で溶解した。
【0026】
実施例1
[ワニスAの調製]
ロジン変性フェノール樹脂40.0部、アマニ油15.0部および5号ソルベント(日本石油(株)製溶剤)45.0部を240℃で50分間加熱攪拌した。このワニスAの粘度は、25℃で450〜500PSであった。
【0027】
[ワニスBの調製]
ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂混合物35.0部、アマニ油15.0部、5号ソルベント(日本石油(株)製溶剤)50.0部およびオクテン酸アルミニウム1.1部を220℃で30分間加熱。このワニスBの粘度は、25℃で2000〜2500PSであった。
【0028】
[オフセット用インキの製造]
ワニスA50.0部、ワニスB25.0部、ラーベン1035(コロンビアカーボン日本(株)製酸性カーボン)および製造例2記載のオレイルアセトアセテートマグネシウムメチレート1.0部を3本ロールミルにて練肉混合した後、皮張り防止剤0.3部、コンパウンド3.0部および5号ソルベント2.5部を加えて混合した。
【0029】
このオフセット用インキのタック値は9.0(30℃、400rpm、60秒時)であった。
【0030】
比較例1
実施例1記載のワニスA50.0部、ワニスB25.0部およびラーベン1035(コロンビアカーボン日本(株)製酸性カーボン)を3本ロールミルにて練肉混合した後、皮張り防止剤0.3部、乾燥剤1.2部、コンパウンド3.0部および5号ソルベント2.5部を加えて混合した。このオフセット用インキのタック値は7.7(30℃、400prm、60秒時)であった。
【0031】
実施例2
[ワニスCの調製]
ロジン変性フェノール樹脂(大日本インキ工業(株)製、ベッカサイト1126−HV)40部およびアマニ油30部を250℃で1時間攪拌した。80℃程度まで冷却後7号ソルベント30部を加え攪拌混合したものをワニスCとする。[性能試験試料の調製]
先に述べた方法で調製したワニスC100部に製造例1,2のゲル化剤および比較例2としてエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを7号ソルベントで50%に希釈したものを各々添加した。添加量を等しくした場合、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートのみワニスがゲル化して粘度測定ができないため、添加量を低く抑えた。
【0032】
これらのものを170℃,1時間加熱処理してゲル化反応を行った後、冷却してブルックフィールド型粘度計(東京計器(株)製)を用いて25℃での粘度を測定した。また、測定用試料を室温下で保存して粘度の経時変化を調べた。その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
Figure 0003753394
【0034】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の製造例1〜2のマグネシウム金属キレート誘導体を用いた樹脂ワニスは、経時的な粘度の上昇が少なく抑えられている。僅かに見られる粘度上昇のほとんどは、元来の樹脂ワニス自体の増粘に起因するものと考えられる。一方、従来から知られているアルミニウムキレートであるエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを添加した比較例の樹脂ワニスは、経時的に粘度が増加した。
【0035】
【発明の効果】
本発明のインキ・塗料用分散ゲル化剤は、各種のインキ・塗料用溶剤への溶解度に優れ、印刷適性(タック値)を改善し、経時的な粘度の変化が少ないので、印刷の高機能化に対応することができる。

Claims (2)

  1. 一般式(1)
    Mg(R1O)(CH3COCHCOOR2) (1)
    (但し、式中において、R1は炭素数1〜18の直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基、R2は炭素数3〜18の直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
    で示されるマグネシウム金属キレート誘導体であることを特徴とするインキ・塗料用分散ゲル化剤。
  2. 一般式(1)において、R1が炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基であり、R2が炭素数8〜18の直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基であることを特徴とする請求項1記載のインキ・塗料用分散ゲル化剤。
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