JP3750294B2 - トロイダル型無段変速機及びその組立方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明に係るトロイダル型無段変速機は、例えば自動車用の変速機として、或は各種産業機械用の変速機として、それぞれ利用する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用変速機として、図8〜9に略示する様なトロイダル型無段変速機を使用する事が研究されている。このトロイダル型無段変速機は、例えば実開昭62−71465号公報に開示されている様に、入力軸1と同心に入力側ディスク(第一のディスク)2を支持し、この入力軸1と同心に配置した出力軸3の端部に出力側ディスク(第二のディスク)4を固定している。トロイダル型無段変速機を納めたケーシングの内側には、上記入力軸1並びに出力軸3に対して捻れの位置にある枢軸5、5を中心として揺動するトラニオン6、6を設けている。
【0003】
これら各トラニオン6、6は、それぞれの両端部外面に上記枢軸5、5を設けている。又、これら各トラニオン6、6の中間部には変位軸7、7の基端部を支持し、上記枢軸5、5を中心として上記各トラニオン6、6を揺動させる事により、上記各変位軸7、7の傾斜角度の調節を自在としている。上記各トラニオン6、6に支持した変位軸7、7の周囲には、それぞれパワーローラ8、8を回転自在に支持している。そして、これら各パワーローラ8、8を、上記入力側、出力側両ディスク2、4の、互いに対向する内側面2a、4a同士の間に挟持している。これら各内側面2a、4aは、それぞれ断面が、上記枢軸5を中心とする円弧を回転させて得られる凹面をなしている。そして、球状凸面に形成した上記各パワーローラ8、8の周面8a、8aを、上記内側面2a、4aに当接させている。
【0004】
上記入力軸1と入力側ディスク2との間には、ローディングカム式の押圧装置9を設け、この押圧装置9によって、上記入力側ディスク2を出力側ディスク4に向け、弾性的に押圧自在としている。この押圧装置9は、入力軸1と共に回転するカム板10と、保持器11により転動自在に保持した複数個(例えば4個)のローラ12、12とから構成している。上記カム板10の片側面(図8〜9の左側面)には、円周方向に亙る凹凸面であるカム面13を形成し、上記入力側ディスク2の外側面(図8〜9の右側面)にも、同様のカム面14を形成している。そして、上記複数個のローラ12、12を、上記入力軸1の中心に関し放射方向の軸を中心とする回転自在に支持している。
【0005】
上述の様に構成するトロイダル型無段変速機の使用時、入力軸1の回転に伴ってカム板10が回転すると、カム面13が複数個のローラ12、12を、入力側ディスク2の外側面に形成したカム面14に押圧する。この結果、上記入力側ディスク2が、上記複数のパワーローラ8、8に押圧されると同時に、上記1対のカム面13、14と複数個のローラ12、12との押し付け合いに基づいて、上記入力側ディスク2が回転する。そして、この入力側ディスク2の回転が、前記複数のパワーローラ8、8を介して出力側ディスク4に伝達され、この出力側ディスク4に固定の出力軸3が回転する。
【0006】
入力軸1と出力軸3との回転速度比(変速比)を変える場合で、先ず入力軸1と出力軸3との間で減速を行なう場合には、前記各枢軸5、5を中心として前記各トラニオン6、6を所定方向に揺動させる。そして、上記各パワーローラ8、8の周面8a、8aが図8に示す様に、入力側ディスク2の内側面2aの中心寄り部分と出力側ディスク4の内側面4aの外周寄り部分とにそれぞれ当接する様に、前記各変位軸7、7を傾斜させる。反対に、増速を行なう場合には、上記枢軸5、5を中心として上記各トラニオン6、6を反対方向に揺動させる。そして、上記各パワーローラ8、8の周面8a、8aが図9に示す様に、入力側ディスク2の内側面2aの外周寄り部分と出力側ディスク4の内側面4aの中心寄り部分とに、それぞれ当接する様に、上記これら各変位軸7、7を傾斜させる。各変位軸7、7の傾斜角度を図8と図9との中間にすれば、入力軸1と出力軸3との間で、中間の変速比を得られる。
【0007】
又、図10〜11は、実願昭63−69293号(実開平1−173552号)のマイクロフィルムに記載された、より具体化されたトロイダル型無段変速機の1例を示している。入力側ディスク2と出力側ディスク4とは円管状の入力軸15の周囲に、それぞれニードル軸受16、16を介して回転自在に支持している。又、カム板10は上記入力軸15の端部(図10の左端部)外周面にスプライン係合させ、鍔部17により上記入力側ディスク2から離れる方向への移動を阻止している。そして、このカム板10とローラ12、12とにより、上記入力軸15の回転に基づいて上記入力側ディスク2を、上記出力側ディスク4に向け押圧しつつ回転させる、ローディングカム式の押圧装置9を構成している。上記出力側ディスク4には出力歯車18を、キー19、19により結合し、これら出力側ディスク4と出力歯車18とが同期して回転する様にしている。
【0008】
1対のトラニオン6、6の両端部は1対の支持板20、20に、揺動並びに軸方向(図10の表裏方向、図11の左右方向)に亙る変位自在に支持している。そして、上記各トラニオン6、6の中間部に形成した円孔23、23部分に、変位軸7、7を支持している。これら各変位軸7、7は、互いに平行で且つ偏心した支持軸部21、21と枢支軸部22、22とを、それぞれ有する。このうちの各支持軸部21、21を上記各円孔23、23の内側に、ラジアルニードル軸受24、24を介して、回転自在に支持している。又、上記各枢支軸部22、22の周囲にパワーローラ8、8を、ラジアルニードル軸受25、25を介して、回転自在に支持している。
【0009】
尚、上記1対の変位軸7、7は、上記入力軸15に対して180度反対側位置に設けている。又、これら各変位軸7、7の各枢支軸部22、22が各支持軸部21、21に対し偏心している方向は、上記入力側、出力側両ディスク2、4の回転方向に関し同方向(図11で左右逆方向)としている。又、偏心方向は、上記入力軸15の配設方向に対しほぼ直交する方向としている。従って、上記各パワーローラ8、8は、上記入力軸15の配設方向に亙る若干の変位自在に支持される。この結果、回転力の伝達状態で構成各部材に加わる大きな荷重に基づく、これら構成各部材の弾性変形に起因して、上記各パワーローラ8、8が上記入力軸15の軸方向(図10の左右方向、図11の表裏方向)に変位する傾向となった場合でも、上記構成各部品に無理な力を加える事なく、この変位を吸収できる。
【0010】
又、上記各パワーローラ8、8の外側面と上記各トラニオン6、6の中間部内側面との間には、パワーローラ8、8の外側面の側から順に、スラスト玉軸受26、26とスラストニードル軸受27、27とを設けている。このうちのスラスト玉軸受26、26は、上記各パワーローラ8、8に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ8、8の回転を許容するものである。この様なスラスト玉軸受26、26はそれぞれ、複数個ずつの玉29、29と、これら各玉29、29を転動自在に保持する円環状の保持器28、28と、スラスト軌道輪である円環状の外輪30、30とから構成している。各スラスト玉軸受26、26の内輪軌道は上記各パワーローラ8、8の外側面に、外輪軌道は上記各外輪30、30の内側面に、それぞれ形成している。
【0011】
又、上記各スラストニードル軸受27、27は、レース31と保持器32とニードル33、33とから構成する。このうちのレース31と保持器32とは、回転方向に亙る若干の変位自在に組み合わせている。この様なスラストニードル軸受27、27は、上記各レース31、31を上記各トラニオン6、6の内側面に当接させた状態で、この内側面と上記外輪30、30の外側面との間に挟持している。この様なスラストニードル軸受27、27は、上記各パワーローラ8、8から上記各外輪30、30に加わるスラスト荷重を支承しつつ、前記各枢支軸部22、22及び上記外輪30、30が、前記支持軸部21、21を中心に揺動する事を許容する。
【0012】
更に、上記各トラニオン6、6の一端部(図11の左端部)にはそれぞれ駆動ロッド36、36を結合し、これら各駆動ロッド36、36の中間部外周面に駆動ピストン37、37を固設している。そして、これら各駆動ピストン37、37を、それぞれ駆動シリンダ38、38内に油密に嵌装している。
【0013】
上述の様に構成されるトロイダル型無段変速機の場合には、入力軸15の回転は、押圧装置9を介して入力側ディスク2に伝わる。そして、この入力側ディスク2の回転が、1対のパワーローラ8、8を介して出力側ディスク4に伝わり、更にこの出力側ディスク4の回転が、出力歯車18より取り出される。入力軸15と出力歯車18との間の回転速度比を変える場合には、上記1対の駆動ピストン37、37を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン37、37の変位に伴って上記1対のトラニオン6、6が、それぞれ逆方向に変位し、例えば図11の下側のパワーローラ8が同図の右側に、同図の上側のパワーローラ8が同図の左側に、それぞれ変位する。この結果、これら各パワーローラ8、8の周面8a、8aと上記入力側ディスク2及び出力側ディスク4の内側面2a、4aとの当接部に作用する、接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って上記各トラニオン6、6が、支持板20、20に枢支された枢軸5、5を中心として、互いに逆方向に揺動する。この結果、前述の図8〜9に示した様に、上記各パワーローラ8、8の周面8a、8aと上記各内側面2a、4aとの当接位置が変化し、上記入力軸15と出力歯車18との間の回転速度比が変化する。
【0014】
尚、この様に上記入力軸15と出力歯車18との間で回転力の伝達を行なう際には、構成各部材の弾性変形に基づいて上記各パワーローラ8、8が、上記入力軸15の軸方向に変位し、これら各パワーローラ8、8を枢支している前記各変位軸7、7が前記各支持軸部21、21を中心として僅かに回動する。この回動の結果、前記各スラスト玉軸受26、26の外輪30、30の外側面と上記各トラニオン6、6の内側面とが相対変位する。これら外側面と内側面との間には、前記各スラストニードル軸受27、27が存在する為、この相対変位に要する力は小さい。従って、上述の様に各変位軸7、7の傾斜角度を変化させる為の力が小さくて済む。
【0015】
更に、伝達可能なトルクを増大すべく、図12〜13に示す様に、入力軸15の周囲に入力側ディスク2A、2Bと出力側ディスク4、4とを2個ずつ設け、これら2個ずつの入力側ディスク2A、2Bと出力側ディスク4、4とを動力の伝達方向に関して互いに並列に配置する構造も、従来から知られている。これら図12〜13に示した構造は何れも、上記入力軸15の中間部周囲に出力歯車18aを、この入力軸15に対する回転を自在として支持し、この出力歯車18aの中心部に設けた円筒部の両端部に上記各出力側ディスク4、4を、スプライン係合させている。そして、これら各出力側ディスク4、4の内周面と上記入力軸15の外周面との間にニードル軸受16、16を設け、これら各出力側ディスク4、4を上記入力軸15の周囲に、この入力軸15に対する回転、並びにこの入力軸15の軸方向に亙る変位を自在に支持している。又、上記各入力側ディスク2A、2Bは、上記入力軸15の両端部に、この入力軸15と共に回転自在に支持している。
【0016】
但し、一方(図12〜13の左方)の入力側ディスク2Aは、背面(図12〜13の左面)をローディングナット39に、直接(図13に示した構造の場合)又は大きな弾力を有する皿板ばね45を介して(図12に示した構造の場合)突き当てて、上記入力軸15に対する軸方向(図12〜13の左右方向)の変位を実質的に阻止している。これに対して、カム板10に対向する入力側ディスク2Bは、ボールスプライン40により上記入力軸15に、軸方向に亙る変位自在に支持している。そして、この入力側ディスク2Bの背面(図12〜13の右面)とカム板10の前面(図12〜13の左面)との間に皿板ばね41とスラストニードル軸受42とを、互いに直列に設けている。このうちの皿板ばね41は、上記各ディスク2A、2B、4の内側面2a、4aとパワーローラ8、8の周面8a、8aとの当接部に予圧を付与する役目を果たす。又、スラストニードル軸受42は、押圧装置9の作動時に、上記入力側ディスク2Bとカム板10との相対回転を許容する役目を果たす。
【0017】
又、図12に示した構造例の場合、前記出力側歯車18aはハウジングの内側に設けた仕切壁44に、1対のアンギュラ型玉軸受43、43により、軸方向に亙る変位を阻止した状態で、回転自在に支持している。これに対して図13に示した構造例の場合、出力歯車18aの軸方向に亙る変位は自在である。尚、上述した図12〜13に示した様に、2個ずつの入力側ディスク2A、2Bと出力側ディスク4、4とを動力の伝達方向に関して互いに並列に配置する、所謂ダブルキャビティ型のトロイダル型無段変速機が、カム板10に対向する一方又は双方の入力側ディスク2A、2Bをボールスプライン40、40aにより上記入力軸15に、軸方向に亙る変位自在に支持している理由は、次の▲1▼▲2▼である。
▲1▼ これら両ディスク2A、2Bの回転を完全に同期させる。
▲2▼ 上記▲1▼の機能を持たせつつ、上記押圧装置9の作動に伴う構成各部材の弾性変形に基づいて上記両ディスク2A、2Bが上記入力軸15に対して軸方向に変位する事を許容する。
【0018】
上述の様な目的で設置するボールスプライン40、40aは、上記入力側ディスク2A、2Bの内周面に形成した内径側ボールスプライン溝46と、上記入力軸15の中間部外周面に形成した外径側ボールスプライン溝47と、これら両ボールスプライン溝46、47同士の間に転動自在に設けられた複数個のボール48、48とを備える。又、上記押圧装置9側の入力側ディスク2Bを支持する為のボールスプライン40に関しては、上記入力側ディスク2Bの内周面の内側面2a寄り部分に形成した係止溝49に係止環50を係止して、上記複数個のボール48、48が上記入力側ディスク2A、2Bの内側面2a側に変位するのを制限している。そして、上記各ボール48、48が上記内径側、外径側両ボールスプライン溝46、47同士の間から抜け出る事を防止している。尚、図12の構造で、上記押圧装置9から離れた側の入力側ディスク2Aを支持する為のボールスプライン40aに関しては、前記入力軸15の中間部外周面に形成した係止溝49aに係止環50aを係止して、複数個のボール48、48が上記入力側ディスク2Aの内側面2a側に変位するのを制限している。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
従来構造の場合、押圧装置9側の入力側ディスク2Bの内周面に形成した係止溝49に係止環50を係止する作業が面倒で、トロイダル型無段変速機の製造コストを高くする原因となっていた。即ち、上記入力側ディスク2Bを入力軸15の中間部周囲に外嵌した後には、この入力側ディスク2Bの内周面と上記入力軸15の外周面との間には、上記係止環50を通過させられるだけの隙間が存在しない。この為、上記入力側ディスク2Bを上記入力軸15に外嵌するのに先立って、上記係止環50を上記係止溝49に装着しておく必要がある。この様にして予め係止環50を装着した上記入力側ディスク2Bは、上記入力軸15の一部で外径側ボールスプライン溝47を形成した部分に外嵌するが、この外径側ボールスプライン溝47部分には、予めグリース等で複数のボール48、48を軽く接着しておく。
【0020】
ボールスプライン40を含め、トロイダル型無段変速機の内部機構の潤滑はトラクションオイルにより行なう為、本来上記外径側ボールスプライン溝47にグリースを塗布する作業は不要である。従って、上記グリース等で複数のボール48、48を軽く接着する作業は、上記係止溝49に係止環50を装着した状態で組み立てる為にのみ必要になるものである。
この様に、その為にのみ必要な作業が存在する等、上記係止溝49に係止環50を装着した状態で上記入力側ディスク2Bを上記入力軸15に外嵌する作業は面倒で、トロイダル型無段変速機の製造コストを高くする原因となっていた。
本発明のトロイダル型無段変速機及びその組立方法は、この様な面倒をなくすべく、発明したものである。
【0021】
【課題を解決する為の手段】
本発明のトロイダル型無段変速機は、前述した従来のトロイダル型無段変速機と同様に、回転軸と、この回転軸の中間部周囲にボールスプラインを介して支持する事により、上記回転軸に対する軸方向に亙る変位とこの回転軸と同期した回転を自在とした第一のディスクと、この第一のディスクと内側面同士を対向させた状態で上記回転軸の中間部周囲に、この回転軸に対する相対回転を自在として支持した第二のディスクと、上記回転軸に対し捻れの位置にある枢軸を中心として揺動するトラニオンと、互いに偏心した支持軸部及び枢支軸部から成り、このうちの支持軸部を上記トラニオンに回転自在に支持し、枢支軸部を上記トラニオンの内側面から突出させた変位軸と、上記枢支軸部の周囲に回転自在に支持された状態で、上記第一、第二の両ディスクの内側面同士の間に挟持されたパワーローラと、上記回転軸の一部と上記第一のディスクとの間に設けられ、この第一のディスクを上記第二のディスクに向け押圧しつつこの第一のディスクを回転駆動するローディングカム式の押圧装置とを備える。
この押圧装置は、例えば、上記回転軸の一部にこの回転軸の軸方向に亙る変位を制限した状態で支持して運転時に回転するカム板と、このカム板の両側面のうち、上記第一のディスクの外側面に対向する片側面に形成した、円周方向に亙る凹凸である第一のカム面と、上記第一のディスクの外側面に形成した、円周方向に亙る凹凸である第二のカム面と、これら第一、第二のカム面同士の間に挟持された複数個の転動体とから成るものである。 又、上記ボールスプラインは、上記第一のディスクの内周面に形成した内径側ボールスプライン溝と、上記回転軸の中間部外周面に形成した外径側ボールスプライン溝と、これら両ボールスプライン溝同士の間に転動自在に設けられた複数個のボールと、上記第一のディスクの内周面の内側面寄り部分に形成された係止溝と、この係止溝に係止して上記複数個のボールが上記第一のディスクの内側面側への変位を制限する係止環とから成るものである。
特に、本発明のトロイダル型無段変速機に於いては、上記回転軸の中間部外周面で上記第一、第二のディスク同士の間に、軸方向両側部分よりも外径寸法が小さい小径部を備え、上記係止溝の開口部とこの小径部とを整合させて、この小径部を通じて上記係止環をこの係止溝に装着自在としている。又、この係止溝の開口部と上記小径部とは、上記押圧装置を構成する複数個の転動体の転動面を、上記第一、第二のカム面の突部に当接させるか当接させる以前の状態で、互いに整合する様にしている。
【0022】
【作用】
上述の様に構成する本発明のトロイダル型無段変速機は、前述した従来のトロイダル型無段変速機と同様の作用に基づき、第一のディスクと第二のディスクとの間で回転力の伝達を行ない、更にトラニオンの傾斜角度を変える事により、これら両ディスク同士の間の回転速度比を変える。
【0023】
特に、本発明のトロイダル型無段変速機の場合には、第一のディスクを回転軸に外嵌してから、ボールスプラインを構成する複数個のボールを内径側、外径側両ボールスプライン溝同士の間に挿入する作業、並びに上記第一のディスクの内周面に係止環を装着する作業を行なえる。この為、上記外径側ボールスプライン溝に上記複数個のボールを接着する等、余分な作業が不要になり、トロイダル型無段変速機の組立作業が容易になる。
【0024】
【発明の実施の形態】
図1〜7は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本発明の特徴は、回転軸である入力軸15の周囲に、第一のディスクである入力側ディスク2Bを、ボールスプライン40を介して装着する作業を容易に行なえる様にする為の構造にある。その他の部分の構造及び作用に就いては、前述した従来構造と同様である為、重複する図示及び説明を省略若しくは簡略にし、以下、本発明の特徴部分を中心に説明する。
【0025】
上記入力軸15の中間部外周面で、上記入力側ディスク2Bとこの入力側ディスク2Bと対向する出力側ディスク4との間部分には、小径部51を、全周に亙って形成している。上記小径部51の外周面と、上記入力軸15の外周面でこの小径部51から外れた部分との段差h(図2参照)は、係止環50の直径方向に亙る幅W50よりも大きく(h>W50)している。尚、上記係止環50は、ステンレスのばね鋼、耐油性及び耐熱性を有する合成樹脂等の弾性材により、欠円環状に形成し、自由状態で直径を広げる方向の弾力を付与している。
【0026】
一方、上記入力側ディスク2Bの内周面でこの入力側ディスク2Bの内側面2a寄り(図1〜7左寄り)部分には係止溝49を、上記入力側ディスク2Bの内周面に形成した内径側ボールスプライン溝46を直角方向に横切る状態で、全周に亙って形成している。上記係止環50は、上記係止溝49の内径側開口部と上記小径部51とを整合させた状態で、この小径部51を通じて上記係止溝49に装着している。
【0027】
図示の例では、上記係止溝49の内径側開口部と上記小径部51とは、押圧装置9を構成する複数個の転動体であるローラ12、12の転動面を、第一のカム面であるカム板10の片面(図1、3、5の左面)に形成したカム面13と、第二のカム面である上記入力側ディスク2Bの外側面に形成したカム面14の突部に当接させる以前の状態(上記入力側ディスク2Bの軸方向移動量が上記押圧装置9によるカムリフト量以下の状態)で、互いに整合する様にしている。この様に、上記両カム面13、14の突部の高さと上記係止溝49及び小径部51の形成位置との関係を規制するのは、上記入力側ディスク2Bを上記入力軸15の軸方向に移動させる為に、上記押圧装置9を利用できる様にする為である。即ち、上記係止溝49に上記係止環50を装着すべく、上記入力側ディスク2Bを上記入力軸15の軸方向に移動させる作業を、上記押圧装置9を構成するカム板10を回転させる事により、軽い力で行なえる様にする為である。
【0028】
又、図示の例では、上記入力軸15の中間部外周面で上記小径部51に対して前記外径側ボールスプライン溝47の反対側端部に、係止溝49aを形成し、この係止溝49aに係止環50aを装着している。この係止環50aは、上記係止環50とは逆に、自由状態で外径を縮める方向の弾力を有する。そしてこの係止環50aは、前記複数のボール48、48が、上記入力側ディスク2Bの外側面側に抜け出る事を防止する役目を有する。
【0029】
上述の様な構成を有する本発明のトロイダル型無段変速機の組立を行なう場合には、上記入力側ディスク2Bを入力軸15に外嵌してから、ボールスプライン40を構成する上記複数個のボール48、48を内径側、外径側両ボールスプライン溝46、47同士の間に挿入する作業、並びに上記入力側ディスク2Bの内周面に係止環50を装着する作業を行なえる。即ち、上述の様な本発明の構造を組み立てる作業は、次の様にして行なう。尚、この組立作業は、上記入力側ディスク2Bの内側面2aを上にして行なう事が、重力が各部材を落ち着かせる方向に作用する為、好ましい。
【0030】
上記入力軸15の中間部外周面に設けた係止溝49aには、予め係止環50aを装着しておく。この状態でこの係止環50aの外周縁は、上記入力軸15の外周面から突出する事はない。そこで、上記入力軸15に、前記押圧装置9の構成各部材と上記入力側ディスク2Bとを外嵌する。この際、この入力側ディスク2Bには未だ上記係止環50は装着していない。そして、上記入力軸15に上記入力側ディスク2Bを外嵌し、上記内径側、外径側両ボールスプライン溝46、47同士を整合させた状態で、これら両ボールスプライン溝46、47同士の間に上記複数個のボール48、48を挿入する。
【0031】
次いで、図3〜4に示す様に、上記押圧装置9のカム板10を回転させて、上記入力側ディスク2Bを上記入力軸15の軸方向に移動させ、前記係止溝49の内径側開口を前記小径部51に開口させる。そして、この小径部51を通じて上記係止環50を、上記入力側ディスク2Bの内周面内側面2a寄り部分に内嵌し、上記係止環50と前記係止溝49とを整合させる。そして、この係止環50自身の弾性により、図5〜6に示す様に、この係止環50と上記係止溝49とを係合させる。尚、この様にして係止溝49に係止環50を装着する際、上記係止環50aに当接したボール48、48は、上記入力側ディスク2Bの外側面から露出しないか、仮に露出しても、直径の半分未満しか露出しない様にする。この理由は、上記係止環50の装着作業時に、上記ボール48、48が上記入力側ディスク2Bの外側面から脱落する事を防止する為である。
【0032】
上述の様にして係止溝49に係止環50を装着したならば、上記カム板10を逆方向に(或はそのままの方向に更に)回転させて、前記ローラ12、12を前記両カム面13、14の凹部に当接させる。この結果、上記係止溝49が上記小径部51から外れ、上記係止環50がこの係止溝49から抜け出る事がなくなる。本発明のトロイダル型無段変速機は、前述の様に構成し、上述の様に組み立てる為、前記外径側ボールスプライン溝47に上記複数個のボール48、48を接着する等、余分な作業が不要になり、組立作業が容易になる。尚、トラニオン6、6及びパワーローラ8、8(図12〜13)は、上述の様にしてボールスプライン40を構成する上記複数個のボール48、48を内径側、外径側両ボールスプライン溝46、47同士の間に挿入すると共に上記入力側ディスク2Bの内周面に係止環50を装着した後、所定部分に装着する。
【0033】
【発明の効果】
本発明のトロイダル型無段変速機及びその組立方法は、以上に述べた通り構成され作用する為、入力軸等の回転軸と入力側ディスク等の第一のディスクとを、ボールスプラインを介して組み合わせる作業が容易になる。この為、ボールスプラインを組み込んだトロイダル型無段変速機の組立作業を能率化して、このトロイダル型無段変速機の低廉化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の1例を、入力軸と入力側ディスクとをボールスプラインを介して組み合わせた状態で示す要部断面図。
【図2】図1の中央部拡大断面図。
【図3】本発明の実施の形態の1例を、入力軸と入力側ディスクとをボールスプラインを介して組み合わせる途中の状態で示す要部断面図。
【図4】図3の中央上部拡大断面図。
【図5】図3の状態に続く状態を示す要部断面図。
【図6】図5の中央上部拡大断面図。
【図7】図6の状態に続く状態を示す、図6と同様の断面図。
【図8】従来から知られているトロイダル型無段変速機の基本的構成を、最大減速時の状態で示す側面図。
【図9】同じく最大増速時の状態で示す側面図。
【図10】従来の具体的構造の第1例を示す断面図。
【図11】図10のA−A断面図。
【図12】従来の具体的構造の第2例を示す部分断面図。
【図13】同第3例を示す部分断面図。
【符号の説明】
1 入力軸
2、2A、2B 入力側ディスク(第一のディスク)
2a 内側面
3 出力軸
4 出力側ディスク(第二のディスク)
4a 内側面
5 枢軸
6、6A トラニオン
7 変位軸
8 パワーローラ
8a 周面
9 押圧装置
10 カム板
11 保持器
12 ローラ
13、14 カム面
15 入力軸
16 ニードル軸受
17 鍔部
18、18a 出力歯車
19 キー
20 支持板
21 支持軸部
22 枢支軸部
23 円孔
24、25 ラジアルニードル軸受
26 スラスト玉軸受
27 スラストニードル軸受
28 保持器
29 玉
30 外輪
31 レース
32 保持器
33 ニードル
36 駆動ロッド
37 駆動ピストン
38 駆動シリンダ
39 ローディングナット
40、40a ボールスプライン
41 皿板ばね
42 スラストニードル軸受
43 アンギュラ型玉軸受
44 仕切壁
45 皿板ばね
46 内径側ボールスプライン溝
47 外径側ボールスプライン溝
48 ボール
49、49a 係止溝
50、50a 係止環
51 小径部
Claims (2)
- 回転軸と、この回転軸の中間部周囲にボールスプラインを介して支持する事により、上記回転軸に対する軸方向に亙る変位とこの回転軸と同期した回転を自在とした第一のディスクと、この第一のディスクと内側面同士を対向させた状態で上記回転軸の中間部周囲に、この回転軸に対する相対回転を自在として支持した第二のディスクと、上記回転軸に対し捻れの位置にある枢軸を中心として揺動するトラニオンと、互いに偏心した支持軸部及び枢支軸部から成り、このうちの支持軸部を上記トラニオンに回転自在に支持し、枢支軸部を上記トラニオンの内側面から突出させた変位軸と、上記枢支軸部の周囲に回転自在に支持された状態で、上記第一、第二の両ディスクの内側面同士の間に挟持されたパワーローラと、上記回転軸の一部と上記第一のディスクとの間に設けられ、この第一のディスクを上記第二のディスクに向け押圧しつつこの第一のディスクを回転駆動するローディングカム式の押圧装置とを備え、上記ボールスプラインは、上記第一のディスクの内周面に形成した内径側ボールスプライン溝と、上記回転軸の中間部外周面に形成した外径側ボールスプライン溝と、これら両ボールスプライン溝同士の間に転動自在に設けられた複数個のボールと、上記第一のディスクの内周面の内側面寄り部分に形成された係止溝と、この係止溝に係止して上記複数個のボールが上記第一のディスクの内側面側に変位するのを制限する係止環とから成るものであるトロイダル型無段変速機に於いて、上記回転軸の中間部外周面で上記第一、第二のディスク同士の間に、軸方向両側部分よりも外径寸法が小さい小径部を備え、上記係止溝の開口部とこの小径部とを整合させた状態で、この小径部を通じて上記係止環をこの係止溝に装着自在とすると共に、この係止溝の開口部と上記小径部とを、上記押圧装置を構成する複数個の転動体の転動面を、第一、第二のカム面の突部に当接させるか当接させる以前の状態で、互いに整合させるべく、上記係止溝及び上記小径部の軸方向位置と、上記各転動体の外径と、上記第一、第二のカム面の突部の軸方向高さとを規制した事を特徴とするトロイダル型無段変速機。
- 請求項1に記載したトロイダル型無段変速機を組み立てる際に、第一のディスクを回転軸に、この第一のディスクの内側面を上にして外嵌した後、内径側、外径側両ボールスプライン溝同士を整合させた状態で、これら両ボールスプライン溝同士の間に複数個のボールを挿入し、次いで、上記第一のディスクと組み合わされて押圧装置を構成するカム板をこの第一のディスクに対し回転させる事により、この第一のディスクを上記回転軸に対して上方に移動させ、係止溝の内径側開口を小径部に開口させて、この小径部を通じて係止環を、上記第一のディスクの内周面内側面寄り部分に内嵌し、更にこの係止環と上記係止溝とを整合させて、これら係止環と係止溝とを係合させる、トロイダル型無段変速機の組立方法。
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