JP3733503B2 - 制振構造 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、建物内に設置されて、建物に水平振動が作用した場合に、その応答を低減するための制振構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、建物には高度の耐震安全性が要求されるようになっており、なかでも、地震による建物の振動応答を著しく低減することのできる制振構造が各種提案されている。
これらの制振構造のうち最も一般的なものとして、ダンパーを使用したものが挙げられる。ダンパーを使用した制振構造は、建物内の各部材に生じる変形差(層間変形等)を利用して、ダンパーに変形や速度を与えて仕事をさせ、これにより振動時の入力エネルギーを吸収させるものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のようなダンパーを使用した制振構造は、例えば、SRC造やRC造のように剛性が大きい建物においては、建物内の各部材に生じる変形差が小さいために、適用が困難であった。
【0004】
また、小変形においても、エネルギー吸収機能を得るためには、粘性系ダンパーを使用して制振構造を形成することが考えられるが、粘性系ダンパーは、減衰力が粘性体の速度のべき乗に比例して際限なく増大するという性質を持っており、強大な地震が発生した場合には、地震時の制御力(ダンパーの負担力)が過大となり、建物の本体構造に損傷を与えてしまう心配がある。
【0005】
本発明は、以上のような事情に鑑みなされたのもので、建物内部に生じる変形差が小さくても良好なエネルギー吸収効果を得ることができるとともに、強大な地震が発生した際においても、建物本体に悪影響を与えることのないような制振構造を提供することをその目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明においては、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
すなわち、請求項1記載の制振構造は、建物の架構を構成する柱と梁によって囲まれた構面内に配置された第一および第二のブレース構成材を備えてなり、
これら第一および第二のブレース構成材は、その一端が前記架構の異なる位置にそれぞれ固定されるとともに、他端が前記構面内に延在するように配置された長尺部材に対してともに接合され、
なおかつ、これら第一および第二のブレース構成材は、その軸線を異ならせて配置され、
前記長尺部材と前記第一および第二のブレース構成材とが接合されることにより第一および第二の接合部が形成され、
前記長尺部材は、その一部が、前記長尺部材が回転変位する際に軸方向に伸縮して前記長尺部材のエネルギーを吸収する粘性系ダンパーを介して前記柱または梁と結合されるとともに、前記第一および第二の接合部の間に位置する部分の少なくとも一部が、前記他の部分に比較して降伏応力が小さい極軟鋼によって形成されていることを特徴とする。
【0007】
この制振構造においては、第一および第二のブレース構成材の軸力を、極軟鋼の位置する部分に対して集中させることができる。また、第一および第二のブレース構成材は、その軸線を異ならせた状態で配置されているため、建物に水平振動が作用した場合には、これら第一および第二のブレース構成材の軸力が、長尺部材に対してモーメントとして作用し、その結果、長尺部材は回転変位することとなる。したがって、長尺部材と柱または梁との間に設けられた粘性系ダンパーには、架構の変位が、長尺部材を介して「てこの原理」により増幅されて伝達されることとなる。
【0009】
また、この制振構造においては、第一および第二の接合部の間に位置する部分の少なくとも一部が、他の部分に比較して降伏応力が小さい極軟鋼によって形成されているため、この極軟鋼が、履歴系ダンパーとして優れたエネルギー吸収性能を発揮することが可能である。
【0011】
また、長尺部材は、その一部が、長尺部材が回転変位する際に軸方向に伸縮して長尺部材のエネルギーを吸収する粘性系ダンパーを介して柱または梁と結合されるために、この制振構造は、建物に微小振動が作用した際にも、有効に機能することが可能である。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態および参考例を、図面を参照して説明する。
実施の形態
図1は、本発明の実施の形態の一例を示す図であり、図中、符号1は制振構造を表す。制振構造1は、建物の架構3の一部を構成する上下の梁4,4と左右の柱5,5とに囲まれた構面6内に設置されたものである。また、図中示すように、制振構造1は、第一のブレース構成材8,8と、第二のブレース構成材9,9と、貫梁(長尺部材)10と、貫梁10の端部10a,10aおよび梁4,4の間に設けられたオイルダンパー(粘性系ダンパー)11,11,…とから概略構成されている。
【0015】
第一のブレース構成材8,8は、その一端8a,8aが上側の梁4aに対して固定されており、また、その他端8b,8bが貫梁10に対して接合され、貫梁10とともに、第一の接合部12,12を形成する構成とされている。また、第二のブレース構成材9,9は、第一のブレース構成材8,8と同一の材料、寸法にて形成されたものであり、その一端9a,9aが下側の梁4bに対して固定され、また、その他端9b,9bが貫梁10に対して接合されて、貫梁10とともに、第二の接合部13,13を形成する構成とされている。
【0016】
また、貫梁10は、高張力鋼からなるH型鋼により形成されるとともに、第一の接合部12,12および第二の接合部13,13の間に位置する長さ方向の中央部15においては、そのウェブ10bの一部が極軟鋼パネル(鋼材)16により形成されている。
【0017】
さらに、極軟鋼パネル16を斜め方向に挟んで位置する第一のブレース構成材8および第二のブレース構成材9は、極軟鋼パネル16に関して互いに対称に位置するとともに、その軸線8cおよび9cが一致しないように配置されている。また、オイルダンパー11,11,…は、その両端部11a,11a,…が貫梁10または梁4,4に対してピン接合される構成とされる。
【0018】
図2は、極軟鋼パネル16近傍の状況を示した図である。図中に示すように、極軟鋼パネル16は、貫梁10のフランジ10c,10c間に挿入されるとともに、これらに対して溶接されている。また、極軟鋼パネル16に隣接してリブプレート18,18が設けられている。これにより、図2におけるA−A断面は、図3に示すようになる。
【0019】
以上が本実施の形態における主要な構成であるが、次に、地震時に制振構造1がどのように機能するかについて説明する。
地震時には、架構3に対して水平振動が作用し、これにより、架構3を構成する梁4,4間には、水平方向の層間変位δHが生じることとなる。このときの状況を模式的に表したのが、図4である。この場合、図4中に示すように、極軟鋼パネル16に関して対称な位置に設けられた一組の第一、第二のブレース構成材8,9には、圧縮方向の軸力N1が、また、もう一組の第一、第二のブレース構成材8,9には、引張方向の軸力N2が作用することとなる。
【0020】
上記各組の第一および第二のブレース構成材8,9は、その軸線8c,9c(図1参照)を異ならせて配置されているため、軸力N1およびN2は、貫梁10に回転モーメントとして作用する。したがって、このとき、貫梁10は、長さ方向の中央部15を中心として回転変位し、さらに、この回転変位は、「てこの原理」により、貫梁10の端部10a,10aに対して増幅されて伝達される。これにより、貫梁10の端部10a,10aと梁4,4との間に介装されたオイルダンパー11,11,…がその軸方向に大きく伸縮して、良好なエネルギー吸収性能を発揮するように作用することとなる。
【0021】
なお、このとき、上記各組の第一および第二のブレース構成材8,9は、極軟鋼パネル16に関して対称に位置するため、これらの水平方向分力は同一となり、したがって貫梁10には軸力が作用せず、せん断力のみが作用する。このため、オイルダンパー11,11,…の端部11a,11a,…を軽微なピン接合としておくことができる。
【0022】
以上のような場合において、架構3の水平の層間変位δHとオイルダンパー11の伸縮量δvとの関係は、以下の式により表わされる。
まず、層間変位δHが生じた際の柱の傾斜角φcは、図5に示すようにhを制振構造1が設置された階の階高とすると、
【数1】
Figure 0003733503
と表すことができる。
【0023】
このとき、図5中に示すように、極軟鋼パネル16が設置された部分の水平方向の長さ寸法をl1、第一および第二のブレース構成材8,8および9,9の水平方向の投影長さ寸法をl2とすると、貫梁の傾斜角φBは、
【数2】
Figure 0003733503
と表される。
【0024】
したがって、オイルダンパー11の伸縮量δvは、
【数3】
Figure 0003733503
ここに、
【数4】
Figure 0003733503
したがって、「てこの原理」により、オイルダンパー11の伸縮量δvは、層間変位δHのα倍に拡大することとなる。
【0025】
例えば、l1=0.8m,l2=2m,l=5m,h=4mの場合には、α=3.0となり、したがって、層間変位を利用した効率の高い粘性系ダンパー機構を構築することが可能となる。
【0026】
また、層間変位δHが過大になった際には、第一および第二のブレース構成材8,8および9,9の軸力N1およびN2が集中する極軟鋼パネル16が降伏して、図6に模式的に示すように塑性変形することとなり、したがって、制振構造1は、履歴ダンパーとしての機能を発揮することになる。このとき、貫梁10においては、極軟鋼パネル16部分が主に変形を吸収するため、発生した地震が強大なものであっても、オイルダンパー11,11,…に対して伝達される変形は抑制され、オイルダンパー11,11,…の制御力が過大となることがない。
【0027】
以上説明したような制振構造1の特性を概念的に示すのが、図7のグラフである。図7のグラフは、梁4,4と柱5,5とによって構成される架構3の復元力特性を示すグラフであり、図中、横軸は、架構3の水平変形δを、縦軸は架構3に作用する水平荷重Qを表している。また、図中(a)は、架構3において比較的小規模の水平変形が生じた場合、(b)は、強大な地震等により架構3において大規模な水平変形が生じた場合をそれぞれ示している。
【0028】
δの値が小さい風や中小地震の場合には、制振構造1は、主に粘性ダンパーとしての機能を発揮しすることとなり、架構3の復元力特性は(a)のようになる。また、δの値が大きくなった大地震の場合には、極軟鋼パネル16が降伏することにより、制振構造1は、履歴ダンパーとしての機能を発揮することとなり、架構3の復元力特性は(b)のようになる。
【0029】
このように、上述の制振構造1においては、大地震時には、貫梁10のうち、他の部分より降伏点の小さい極軟鋼パネル16部分が塑性変形して架構3の振動エネルギーを吸収することにより、架構3に作用する地震力を低減して建物の耐震安全性を向上させることができる。また、地震時の加速度を低減することができるため、建物内部の什器や備品、設備機器等の損傷を防止することができる。さらに、建物に作用する地震力を低減することができるため、架構3を構成する各構造部材の断面を小さくすることができ、構造躯体コストの低減化を図ることができる。
【0030】
特に、この制振構造1においては、層間変位を極軟鋼パネル16に対して集約する構成が採用されているため、この部位のせん断歪みを大きくとることができ、履歴ダンパーとしての機能を有効に発揮させることが可能となる。
【0031】
また、第一および第二のブレース構成材8,8および9,9を、その軸線8c,8cおよび9c,9cが一致しないように配置したため、層間変位δHを、第一および第二のブレース構成材8,8および9,9を介して、貫梁10に回転変位として伝達させることができ、これにより貫梁10の端部10a,10aに位置するオイルダンパー11,11,…を大きく伸縮させて、優れた制振効果を得ることが可能となる。
【0032】
さらに、大地震時には、上述のように、極軟鋼パネル16が変形するため、オイルダンパー11,11,…の伸縮量が抑制されることとなり、これにより、オイルダンパー11,11,…の制御力が過大とならず、架構3に悪影響が及ぼされる心配がない。
このように、制振構造1は、架構3に作用する振動力の大小の程度に応じて、適切な制振効果を発揮することができる。
【0033】
また、上述のように、地震時の層間変形を、極軟鋼パネル16に対して集約させることができるとともに、オイルダンパー11,11,…に対しては、この層間変形を拡大して伝達させることができるため、この制振構造1は、層間変形の比較的小さいRC造や、SRC造の建物に対しても好適である。
【0034】
さらに、この制振構造1においては、極軟鋼パネル16を先行して降伏させる構成とされているため、第一および第二のブレース構成材8,8および9,9が降伏することがない。したがって、これら第一および第二のブレース構成材8,8および9,9の面外座屈や取り替えの心配がない。一般に、間仕切壁内にブレースを内蔵した建築計画とすることが多いが、この場合に、本実施の形態の制振構造1を適用すれば、地震後に壁を外してブレースを取り替える必要がなく、居住者への負担や補修工事が少なくなり、なおかつ、工期も短縮することができる。
【0035】
さらに、制振構造1は、ブレース形式とされているため、粘性ダンパーや粘弾性ダンパーを壁状に形成した他の制振構造とは異なり、第一および第二のブレース構成材8,8および9,9と架構3との間に生じる隙間等を利用して、構面内に必要な設備配管スペースを確保することができる。
【0036】
また、制振構造1においては、先行して降伏する部位が極軟鋼によって形成されているため、小さな変形が作用すれば降伏が生じることとなり、これにより、履歴吸収エネルギーを大きくして、効率の高いせん断降伏型の鋼材ダンパーを構築することができる。さらに、温度や地震の振動数に影響を受けることなく安定した制振効果を得ることができる。
【0037】
さらに、制振構造1においては、貫梁10の端部10a,10aに設けられるダンパーがオイルダンパー(粘性ダンパー)11,11,…とされていることから、風振動や中小地震等に対しても有効な制振効果を得ることができる。
【0038】
以上において本発明の一実施の形態を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものでなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記実施の形態において他の構成を採用するようにしても構わない。
【0039】
例えば、上記実施の形態において、オイルダンパー11,11,…の代わりに、ブタン系高分子材料の粘性体やゴムアスファルト等の粘弾性体などを使用した他の粘性系ダンパーを用いるようにしてもよい。
【0040】
また、上記実施の形態において、極軟鋼パネル16およびその近傍を、図8に示すように形成してもよい。図8(a)は、極軟鋼パネル16を、貫梁10のフランジ10c,10cおよびリブプレート18,18に対してアングルピース20,20,…を介して取り付けた場合の例であり、また、図8(b)は、(a)におけるB−B断面を示す。
【0041】
これら図中に示すように、極軟鋼パネル16とアングルピース20,20,…の間、およびアングルピース20,20,…とフランジ10c,10cおよびリブプレート18,18との間は、高力ボルト21,21,…によって接合されている。
【0042】
このように極軟鋼パネル16を取り付けることによって、地震によって、極軟鋼パネル16が過大に変形した場合においても、地震後にその取り替えを容易に行うことが可能となる。
【0043】
また、これらとは別に、上記実施の形態において、制振構造1を、図9,10や11に示すように構成しても構わない。
図9に示す制振構造23は、上記実施の形態において、オイルダンパー11を、貫梁10の端部10a,10aと、下側の梁4bとの間のみに設けるようにしたものである。
【0044】
また、図10に示す制振構造25は、上記実施の形態における貫梁10の代わりに、支柱(長尺部材)26を構面6内に配置することにより形成されたものである。支柱26は、貫梁10と同様にH型鋼により構成されるとともに、長さ方向の中央部26aにおいて、そのウェブ26bが、極軟鋼パネル16によって形成されている。さらに、支柱26に対し、第一の接合部12,12および第二の接合部13,13を介して接合された第一および第二のブレース構成材8,8および9,9は、その軸線8c,8cおよび9c,9cが互いに一致しないように配置されている。また、支柱26の両端部26c,26cには、梁4,4と平行に配置されたオイルダンパー11,11の一端11a,11aが固定され、さらにオイルダンパー11,11の他端11b,11bは、梁4,4に対して固定された構成とされている。
【0045】
また、図11に示す制振構造27は、上下の梁4,4と、上下の梁4,4間に設けられた間柱28,28に囲まれた空間内に設置されたものである。図中に示すように、この制振構造27は、上記実施の形態における制振構造1と同様に、貫梁10、第一および第二のブレース構成材8,8および9,9から概略構成されているが、オイルダンパー11,11が、貫梁10の端部10a,10aにオイルダンパー11,11のシリンダー部11c,11cが接合され、さらに、各オイルダンパー11の上下のピストンロッド部11d,11dが、間柱28に設けられたブラケット部28a,28aに対して接合されている点で、制振構造1と異なっている。
【0046】
これら図9,10,11に示すような制振構造23,25,27によっても、地震時には、上記実施の形態における制振構造1と全く同様の作用および効果を得ることが可能となる。
【0047】
参考例
以下、図12および13を参照して本発明の参考例を説明する。なお、この参考例において、上記実施の形態と同様の構成については同一符号を付しその説明を省略することとする。
【0048】
図12中に示すように、制振構造30は、支柱31と、ブレース32,32,…とから概略構成されている。支柱31は、高張力鋼からなるH型鋼により形成されるとともに、その両端31a,31aが、上下の梁4a,4bに対してピン接合され、さらに、長さ方向の中央部31bにおいて、そのウェブ31cが、極軟鋼パネル16により形成される構成とされている。また、ブレース32は、支柱31と梁4,4との間に設けられ、その長さ方向の中間部32aに対しては、ゴムアスファルトを使用した粘弾性ダンパー34が設けられる構成とされている。
【0049】
以上のような構成とされた制振構造30は、架構3に地震力が作用した場合には、以下のように機能する。
すなわち、地震時には、架構3において層間変位が生じることとなり、図13に示すように、梁4aおよび4bは、水平方向に相対変位する。これにより、これら梁4aおよび4bに対してピン接合された支柱31は、図13中に示すように回転変位することとなる。
【0050】
このように支柱31が変位した場合には、支柱31と梁4,4との間に取り付けられたブレース32,32,…に対して、圧縮または引張方向の軸力が交互に作用することとなり、したがって、ブレース32の中間部32aに取り付けられた粘弾性ダンパー34が変形して、振動エネルギーの吸収機能を発揮することとなる。
【0051】
さらに、架構3に作用する地震力が強大なものである場合には、支柱31は、単にブレース32,32,…の変形に伴い回転変位するのみでは架構3の層間変形に追随することができず、極軟鋼パネル16の部分において変形を生じることになる。
【0052】
したがって、極軟鋼パネル16の履歴吸収エネルギーにより、架構3の振動エネルギーが吸収され、建物の耐震安全性が向上されることとなる。さらに、このとき、支柱31においては、極軟鋼パネル16部分が主に変形吸収能力を発揮するため、ブレース32,32,…に対しては過大な変形が作用することがない。
【0053】
この制振構造30においては、支柱31を梁4,4に対してピン接合したために、地震時には、支柱31が架構3の層間変形に追随して回転変位することとなり、これにより、支柱31と梁4,4との間に設けられたブレース32の中間部32aを構成する粘弾性ダンパー34が、制振効果を発揮することができる。また、ブレース32に設けられるダンパーは粘弾性ダンパーであるため、風振動や中小地震に対しても、優れた制振効果が発揮され、これにより、建物内部の居住性を向上させることができる。
【0054】
さらに、大地震が生じた際には、支柱31のうち極軟鋼パネル16が塑性変形することにより、架構3の地震入力エネルギーを吸収し、これにより制振効果が得られることとなる。さらに、支柱31においては、極軟鋼パネル16が大きな変形吸収能力を発揮するために、ブレース32,32,…に作用する変形が抑制され、したがって、粘弾性ダンパー34の制御力が過大となって架構3に負担が生じることがない。
【0055】
このように、制振構造30においても、風や中小地震などによる比較的小規模の振動から、大地震による大きな振動まで、架構3に作用する振動力の大小の程度に応じ、適切な制振効果が発揮されることとなる。
【0056】
なお、上記参考例において制振構造30の各部の構造や材料等について他の構成を採用しても構わない。例えば、粘弾性ダンパー34は、高減衰ゴム等を使用したものであってもよい。
【0057】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に係る制振構造は、第一および第二のブレース構成材が、その軸線を異ならせた状態で長尺部材に対して接合されるとともに、長尺部材のうち第一および第二の接合部の間に位置する部分の一部が、他の部分に比較して降伏強度の小さい極軟鋼によって形成されており、また、長尺部材と架構との間に、長尺部材が回転変位する際に軸方向に伸縮して長尺部材のエネルギーを吸収する粘性系ダンパーが介装された構成とされている。
したがって、大地震時には、層間変位を極軟鋼に対して集約して作用させることができ、この部分の塑性変形に伴う履歴吸収エネルギーにより、制振効果が得られることとなる。また、中小地震や風等による振動が建物に作用した場合には、極軟鋼は降伏するに至らず、建物の層間変位が長尺部材に対して回転モーメントとして伝達され、長尺部材が「てこの原理」により回転変位し、粘性系ダンパーに対して層間変位が拡大されて伝達され、制振効果が得られることとなる。
また、大地震時には、極軟鋼が大きな変形能力を発揮するため、粘性系ダンパーに対しては、過大な変形が作用することがなく、粘性系ダンパーによる制御力が過大となって架構に悪影響を与えることがない。したがって、この制振構造によれば、架構に作用する振動力の大小の程度に応じて、適切な制振効果が発揮されることとなる。
また、上述のように、地震時の層間変形を、極軟鋼に対して集約するとともに、粘性系ダンパーに対しては拡大して伝達する構成としたため、この制振構造は、層間変形の比較的小さいRC造や、SRC造の建物に用いて好適なものとなる。
さらに、この制振構造は、極軟鋼を長尺部材の他の部分に先行して降伏させる構成とされているため、第一および第二のブレース構成材は降伏せず、したがって、これらの面外座屈や取り替えの心配がない。一般に、間仕切壁内にブレースを内蔵した建築計画とすることが多いが、この場合に、本発明の制振構造を適用すれば、地震後に壁を外してブレースを取り替える必要がなく、居住者への負担や補修工事が少なくなり、なおかつ、工期も短縮することができる。
【0058】
また、第一および第二の接合部の間に位置する部分の少なくとも一部が極軟鋼によって形成されているため、この部位に小さな変形が作用すれば降伏が生じることとなり、これにより、履歴吸収エネルギーを大きくして、効率の高いせん断降伏型の鋼材ダンパーを構築することができる。さらに、温度や地震の振動数に影響を受けることなく安定した制振効果を得ることができる。
【0059】
また、長尺部材の一部が、粘性系ダンパーを介して柱または梁と結合されているため、風振動や中小地震等に対しても有効な制振効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態を模式的に示す制振構造の正面図である。
【図2】 図1に示した制振構造に用いられる極軟鋼パネル(鋼材)を拡大して示した正面図である。
【図3】 図2におけるA−A矢視断面図である。
【図4】 図1に示した架構に振動が作用した際の制振構造の挙動を模式的に示す制振構造の正面図である。
【図5】 図1に示した制振構造の各部材の寸法と符号との対応関係を示すための図である。
【図6】 同、大規模な振動が作用した場合の制振構造の挙動を模式的に示す制振構造の正面図である。
【図7】 本発明の制振構造が設置された架構の復元力特性を概念的に示す図であって、(a)は、架構に小規模な振動が作用した場合、(b)は、大規模な振動が作用した場合のグラフである。
【図8】 図1,2に示した極軟鋼パネル(鋼材)の別の設置例を示す図であって、(a)は、その正面図、(b)は、(a)におけるB−B矢視断面図である。
【図9】 図1に示した制振構造の変形例を示す正面図である。
【図10】 同、他の変形例を示す正面図である。
【図11】 同、他の変形例を示す正面図である。
【図12】 本発明の参考例を模式的に示す制振構造の正面図である。
【図13】 図12に示した架構に振動が作用した際の制振構造の挙動を模式的に示す制振構造の正面図である。
【符号の説明】
1 制振構造
3 架構
4 梁
5 柱
6 構面
8 第一のブレース構成材
8a 一端
8b 他端
8c 軸線
9 第二のブレース構成材
9a 一端
9b 他端
9c 軸線
10 貫梁(長尺部材)
11 粘性ダンパー
12 第一の接合部
13 第二の接合部
16 極軟鋼パネル
23 制振構造
25 制振構造
26 支柱(長尺部材)
27 制振構造

Claims (1)

  1. 建物の架構を構成する柱と梁によって囲まれた構面内に配置された第一および第二のブレース構成材を備えてなり、
    これら第一および第二のブレース構成材は、その一端が前記架構の異なる位置にそれぞれ固定されるとともに、他端が前記構面内に延在するように配置された長尺部材に対してともに接合され、
    なおかつ、これら第一および第二のブレース構成材は、その軸線を異ならせて配置され、
    前記長尺部材と前記第一および第二のブレース構成材とが接合されることにより第一および第二の接合部が形成され、
    前記長尺部材は、その一部が、前記長尺部材が回転変位する際に軸方向に伸縮して前記長尺部材のエネルギーを吸収する粘性系ダンパーを介して前記柱または梁と結合されるとともに、前記第一および第二の接合部の間に位置する部分の少なくとも一部が、他の部分に比較して降伏応力が小さい極軟鋼によって形成されていることを特徴とする制振構造。
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