JP4861067B2 - 鉄骨架構 - Google Patents

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Description

本発明は鋼構造骨組の耐震構造において、柱梁仕口接合部の構造形式および構造設計法に関する発明である。
一般的な構造用鋼材を用いた柱梁よりなるラーメン構造の耐震架構の柱梁接合部は、水平力が作用した時に梁端部に最も大きな応力が生じるので、この梁端部では十分な強度および剛性を確保する必要がある。そのため、梁と柱とは一般に溶接接合され、梁フランジと柱の溶接部には、梁フランジに連続して水平ダイヤフラムなどが柱に溶接された補剛材が設けられる。さらに、大地震時に、梁断面が降伏して十分に塑性変形するまでは梁端接合部が破壊せず十分な強度を確保するといういわゆる保有耐力接合の設計がなされる。
溶接接合でない柱梁接合形式の従来技術として、スプリットティ接合やエンドプレート接合などボルトを用いた乾式接合が古くから知られている。最近では、近年の地球環境問題への取組みとしてリユースやリサイクル可能な構造部材の開発も求められており、容易に組立解体できるこれら乾式接合の柱梁接合部構法が再認識されて着目されている。
特許第2731352号 特許第2752905号 特許第2821095号 特許第2826269号 特許第3369738号 特許第3629638号 特許第3678709号
ところが、柱と梁を溶接して接合する場合、溶接欠陥のない品質の高い溶接を行うには、溶接工の高度な技量が必要で、接合部分を解体する場合は部材を切断せざるを得ず、解体後の部材の再利用も不可能に近い。
また、乾式接合は、組立や解体が容易であるが、接合部の梁端部に接続されるスプリットティやエンドプレートなどの接合板要素、接合ボルトなどの金物類が必要なため、溶接接合に比べてトータルの鋼材重量が増えたり、柱梁接合部の強度は金物類やボルト接合の強度によって決まってしまったりするなど、梁が降伏するまで接合部を破壊させないという保有耐力接合とする設計が難しくなる欠点がある。これは、梁の鋼材が高強度になるほど困難さは増す。さらに、これらの乾式接合では、柱と梁の応力伝達は、接合部の板要素や柱フランジの面外変形が生じるために、柱と梁の接合は剛接合とはならず、剛接合とピン接合の中間的な接合であるいわゆる半剛接合となる。半剛接合によるラーメン構造に水平力が作用すると、剛接合の場合よりも変形が多くなる問題がある。
この半剛接合であるが故の接合部の弾性剛性や強度低下の問題を解決するために、例えば、特許第2731352号、特許第2752905号、特許第2821095号、特許第2826269号、特許第3369738号、などの文献がある。これらは閉鎖断面の角形鋼管柱と梁端のボルト接合部における柱の鋼管壁の内外面に種々の鋼材による補強を施して、強度や剛性の向上を図ろうとするものであるが、手間のかかる特殊な補強が必要であり、補強効果の定量的評価方法に不明な点が残る。
一方では、先述の問題解決のために柱梁接合部の強度と剛性には期待せず、方杖ブレースを活用した技術として特許第3629638号や特許第3678709号の発明の例がある。これらでは、柱梁接合部を梁の軸力とせん断力を伝達するピン接合とし、柱と梁の間に設けた方杖ブレースにより骨組の剛性を確保し、方杖ブレースの塑性変形によって、地震時の振動エネルギを吸収する。ここで、方杖ブレースは塑性変形能力に優れた座屈拘束ブレースとされている。柱梁接合部は設計上ピン接合であるため、大きな応力は発生しないので、その部分は損傷しないとしている。従来は柱梁接合部や柱、梁部材が有するそれ相応の剛性や強度、変形能力を敢えて排除しているため、それらを有効に利用していない。
しかし、本発明では、柱梁の接合部強度や剛性は方杖ブレースの強度と剛性により定まり、地震のエネルギ吸収も方杖ブレースの塑性変形による履歴エネルギ吸収のみに依存することになる。上記課題を解決するために、本発明では以下に記載する構造物を提供する。
(1)鋼製の柱梁と方杖ブレース部材を有する柱梁仕口構造を有する架構において、梁はフランジの両端部を第1の接合部材を介して乾式接合で柱に接合され、柱梁間に位置する方杖ブレースは両端に位置する第2の接合部材を介して乾式接合で柱および梁に接合されており、梁端部の柱との接合部においては、梁から柱へ作用する曲げモーメントと軸方向力とせん断力が伝達可能とされ、この接合部の曲げ強度は、梁部材の曲げ強度より低い架構。
(2)鋼製の柱梁と方杖ブレースを有する柱梁仕口構造を有する架構において、梁は第1の接合部材を介して乾式接合で柱に接合され、柱梁間に位置する方杖ブレースはその両端を第2の接合部材を介して乾式接合で柱および梁に接合されており、該架構に水平力が作用した場合、水平力が増加するに従って、最初に方杖ブレース部材が降伏し、さらに水平力が増加した場合に、梁と方杖ブレースの接合部の梁断面または梁端の柱との接合部が曲げ降伏する(1)に記載の架構。
(3)前記第1の接合部材はスプリットティである(1)または(2)に記載の架構。
(4)前期第一の接合部材を介して柱と梁とを接合する接合部は半剛接合である(1)から(3)の何れかに記載の架構。
(5)前記方杖ブレースは座屈拘束ブレースである(1)から(4)の何れかに記載の架構。
(6)構造骨組の解体後に損傷を受けていない柱および梁部材の再利用を可能とした、(1)から(5)の何れかに記載の架構。
(1)鋼製の柱梁と方杖ブレース部材を有する柱梁仕口構造を有する架構において、梁はフランジの両端部を第1の接合部材を介して乾式接合で柱に接合され、柱梁間に位置する方杖ブレースは両端に位置する第2の接合部材を介して乾式接合で柱および梁に接合されており、梁端部の柱との接合部においては、梁から柱へ作用する曲げモーメントと軸方向力とせん断力が伝達可能とされ、この接合部の曲げ強度は、梁部材の曲げ強度より低い架構によって、組立解体容易なボルト接合による乾式の柱梁接合部構法を提供できる。
(2)鋼製の柱梁と方杖ブレースを有する柱梁仕口構造を有する架構において、梁は第1の接合部材を介して乾式接合で柱に接合され、柱梁間に位置する方杖ブレースはその両端を第2の接合部材を介して乾式接合で柱および梁に接合されており、該架構に水平力が作用した場合、水平力が増加するに従って、最初に方杖ブレース部材が軸方向力によって降伏し、さらに水平力が増加した場合に、梁と方杖ブレースの接合部の梁断面または梁端の柱との接合部が曲げ降伏する(1)に記載の架構を提供できる。またブレースが降伏する時の骨組に作用する水平力が、柱梁接合部における梁端接合部、または梁とブレースの接合部における梁断面部分が降伏する時の骨組に作用する水平力より小さい架構を提供することができる。
(3)前記第1の接合部材はスプリットティである(1)または(2)に記載の架構によって、水平変位によって順に降伏させることができる。
(4)前期第一の接合部材を介して柱と梁とを接合する接合部は半剛接合である(1)から(3)に記載の架構によってボルト接合による乾式接合において、溶接性の劣る鋼材を柱や梁部材、梁端部の接合金物(スプリットティ)に用いることができる。
(5)前記方杖ブレースは座屈拘束ブレースである(1)から(4)の何れかに記載の架構は、圧縮力が作用しても座屈せず、圧縮引張降伏後も安定して塑性変形を生じる方杖ブレースと共に耐震性に優れた柱梁架構を構築することができる。
(6)構造骨組の解体後に損傷を受けていない柱および梁部材の再利用を可能とした、(1)から(5)の何れかに記載の架構によってリサイクル、リユースをすることができる。
さらに、本発明は柱梁のみの純ラーメン骨組に比較して、骨組の弾性剛性が増加する。
すなわち、同じ弾性剛性であれば、柱梁の部材断面を小さくし鋼材量を低減することがで
きる。これは方杖ブレースによる鋼材重量の増加を補って余りあるほどの効果が期待できる。骨組の強度に関しても同様である。
柱と梁に用いる鋼材は、従来の鋼材より2倍強度が高いが溶接性の悪い鋼材とし、方杖ブレースの軸力材に用いる鋼材は、従来の鋼材より強度が低い低降伏点鋼とすることで、本発明の効果は高まる。すなわち、柱梁部材の強度が高まると骨組の保有耐力が高まり、かつ弾性ひずみも増加するので骨組の弾性限界変形が増加することは、柱梁といった骨組の主架構の損傷を防止し易くなる。一方、鋼材の溶接性が劣っていても乾式接合のため問題とならない。方杖ブレースに低降伏点鋼を用いれば、少ない水平変位から方杖ブレースが降伏するので、降伏後の塑性変形によるエネルギ吸収効果が早期に発現して、架構の振動エネルギを吸収する。方杖ブレースは柱梁部材とエンドプレート接合により乾式で接合されているので、方杖ブレースのエネルギ吸収能力が限界に達した場合は容易に交換することができる。
図1は柱10が鋼製のH形断面の場合の実施例である。図2は、方杖ブレース30を梁20の上下に設置した例である。これらの実施例では、梁20の上下のフランジが2つのスプリットティ40(第1の接合部材)で柱10に接合されている。梁20の上および/または下側と柱10とが、エンドプレート41(第2の接合部材)を介して方杖ブレース30によって接合されている。方杖ブレース30にはH形鋼を用い、方杖ブレース30のフランジ31の中間部の幅を小さく切り欠き、降伏部分を該中間部に限定している。該中間部のウェブは1対の溝形鋼32が両側から挟むように固定され、座屈補剛が施されている。図1、2ではH形断面柱10のスプリットティ40の裏側に水平スチフナ11による補剛材が接合されている。また上記のように第1の接合部材は梁20と柱10を接合する部材であり、第2の接合部材は方杖ブレース30と柱10、梁20を接合する部材である。
図3では、角形鋼管柱13の内部にダイヤフラムは設けず、柱フランジの面外局部変形によってスプリットティ40接合部の回転剛性は図1、2の場合より低下するが、梁20から伝達される弾性範囲の曲げモーメント、せん断力、軸方向力へ抵抗する能力を有する。柱13は閉鎖中空断面なので、スプリットティ40との接合には、外側から締め付けが可能なワンサイドボルトを用いることができる。
このような柱10、13、梁20、方杖ブレース30による仕口構造の骨組に水平力が作用した場合の1スパンラーメン骨組の梁の曲げモーメント分布を図4(a)、(b)に示す。曲げモーメントは参照番号21で指し示した線で表されている。水平力を次第に増加させてゆくと、(a)に示したように初めに方杖ブレース30が軸方向力で降伏する。一方は引張降伏33、他方は圧縮降伏34を生じる。この時、梁の曲げモーメント21は、方杖ブレース30と梁20との接合部において最大となる。方杖ブレース30の軸剛性が高いために、柱梁接合部に生じる変形角と梁端部の曲げモーメントはほとんど生じない。水平力をさらに増やすと、方杖ブレース30に作用する軸力は一定のまま方杖ブレース30は軸方向に圧縮あるいは引張変形を生じる。それに伴い今度は柱梁接合部の曲げモーメントが増加すると共に梁の方杖ブレースとの接合部の曲げモーメントも増加する。梁の最大モーメント部分または梁端接合部のモーメントが各々の全塑性モーメントに達した時に骨組は崩壊メカニズムを形成する。崩壊メカニズムが形成されると水平力は増加せず変形のみが増えるので、梁端部の曲げモーメントやせん断力などの応力はそれ以上増加しない。梁の最大モーメント部分が梁端接合部に先行して全塑性モーメントに達する場合は、梁端部の曲げモーメントは梁の降伏モーメント以下に留まっているので、梁端部の曲げ耐力は梁の曲げ耐力以上でなくてもこの時の曲げモーメント以上であればよい。すなわち、梁降伏に先行して降伏する方杖を設けることにより、梁端接合部を保有耐力接合としなくても、梁に塑性ヒンジを形成させることが可能となる。
図5(a)、(b)に水平力と水平変位の関係を図示する。図5(a)は梁端をピン接合とした場合である。方杖ブレースが降伏すると、それ以上の荷重上昇は望めない。これに対して、図5(b)は梁端を半剛接合の場合である(破線で剛接合およびピン接合の場合も示している)。方杖ブレースの降伏時の荷重は両方とも同じであるが、方杖ブレースの降伏以降、柱梁仕口の剛性のため、荷重は二次勾配に沿って梁または梁端部が全塑性モーメントに達するまで上昇を続ける。柱梁仕口接合部が半剛接の場合は剛接合の場合より梁の曲げ降伏時の水平変位は大きくなるが、最大の保有耐力はどちらも同じである。
半剛接合にすると梁降伏時の水平変位が大きくなるが、このことは大変形まで梁が弾性状態に留まり損傷を生じにくいことを意味する。通常の耐震設計においては、仕上げ材や設備機器の変形追従能力の条件から骨組の層間変形角をある値以下に留め、例えば、極稀に発生する地震に対して1/100の層間変形以下に留めるといった設計がなされるが、梁の降伏時変形をそのような1/100やそれ以上の大きな層間変形以上に設計することが容易となる。一般に剛接合の鉄骨ラーメン骨組では梁や柱の降伏変形は1/150〜1/120程度であり、極稀の地震時の応答に対して弾性に留めることは困難である。さらに、設計上想定した極稀の大きさの地震以上の大きさの地震力が作用した場合でも、梁の方杖ブレースとの接合部分が曲げ降伏することによる安定した塑性変形能力を発揮して骨組倒壊を防止することができる。
図6には従来技術と本発明の骨組の崩壊機構を比較して示した。図6(a)、(b)は従来の崩壊機構である。従来は(a)に示したように柱と梁がピン接合であり、方杖ブレースのみが水平力によって降伏する構造である。また(b)に示したように柱と梁は剛接合であり方杖ブレースあるいは、梁部材または、梁端接合部のうちいずれか1箇所のみが降伏する。一方、(c)に示したように本発明では方杖ブレースの先行降伏に引き続いて、梁部材または梁端接合部降伏させることにより、大地震時に塑性変形による履歴エネルギを吸収する部分が一箇所に集まらず分散されるので、架構全体としての履歴エネルギ吸収能力が高められる。これら以外の建物の鉛直荷重を支持している柱部材の降伏を回避することによって、建物の崩壊を防ぐことが容易となる。
本発明を適用した建築構造物の耐震性能は地震の規模に応じて以下のようになる。
(I)比較的頻繁に発生する地震に対しては、方杖ブレースを含め構造部材を弾性に留める。
(II)発生頻度に低い50〜60年に一度程度(建物使用期間に一度は)発生するような大きさの地震に対しては、方杖ブレースが履歴ダンパーとして制振効果を発揮して柱や梁の構造部材の損傷を防止する。
(III)極めて稀ではあるがその地域で一度は発生する確率のある地震に対しては、方杖ブレースの降伏状態を維持しながらさらに梁あるいは梁端接合部が部分的に曲げ降伏し、地震による振動エネルギを吸収して、骨組の損傷を最低限に留める。乾式接合構法なので、損傷部の交換、復旧が容易である。
(IV)設計上想定しないレベルの大きさの地震に対しては、方杖ブレースと梁部材および梁端接合部が同時に塑性化して、塑性変形部位が分散されて塑性歪の局部的な集中を防止することにより建物の倒壊を防ぐ。
柱あるいは梁部材は溶接性は劣るが強度の高い800N/mm級超高強度鋼とし、方杖ブレースの芯材は履歴ダンパー用鋼材の225N/mm級の低降伏点鋼とすることで、本発明の効果を最も効果的に発揮することができる。
本発明は、溶接性が劣るが強度が高い新開発の超高強度鋼部材製の柱や梁部材を用いて、耐震性と経済性に優れた骨組を構築することを目的に、スプリットティなどの乾式接合技術の利点を活かし、座屈拘束ブレースを組み合わせることで方杖ブレースを先行降伏させ、次に梁の方杖ブレース接合断面または梁端接合部を降伏させるという構造設計法を採用することにより、従来技術にない高い耐震効果を見いだしての発明に至ったものである。
柱がH形断面の場合の実施例である。 方杖ブレースを梁の上下に設けた例である。 柱に角形鋼管柱を用いた実施例である。 本発明の骨組に水平力が作用した場合の1スパンラーメン骨組の梁の曲げモーメント分布である。 本発明の水平力と水平変位の関係を図示する。 本発明と従来技術を比較した骨組の崩壊機構である。
符号の説明
10 柱
11 スチフナ
20 梁
21 モーメント
30 方杖ブレース
31 フランジ
32 溝形鋼
33 引張降伏
34 圧縮降伏
40 スプリットティ
41 エンドプレート

Claims (5)

  1. 鋼製の柱梁と方杖ブレースを有する柱梁仕口構造を有する鉄骨架構であって、
    前記梁は第1の接合部を介して前記柱に接合され、柱梁間に位置する前記方杖ブレースはその両端を第2の接合部を介して前記柱および前記梁に接合されており、
    該架構に水平力が作用した場合、水平力が増加するに従って、最初に前記方杖ブレースが降伏し、さらに水平力が増加した場合に、前記梁と前記方杖ブレースの接合部の梁断面が曲げ降伏する鉄骨架構
  2. 前記第1の接合部はスプリットティである請求項1に記載の鉄骨架構。
  3. 前記第一の接合部を介して柱と梁とを接合する接合部は半剛接合である請求項1からのいずれかに記載の鉄骨架構。
  4. 前記方杖ブレースは座屈拘束ブレースである請求項1からの何れかに記載の鉄骨架構。
  5. 構造骨組の解体後に損傷を受けていない柱および梁部材の再利用を可能とした、請求項1からの何れかに記載の鉄骨架構。
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