しかしながら、特許文献2に記載された従来のダンパー付き架構のように、架構に作用する水平力の多くをダンパーに負担させてエネルギー吸収性能を高めようとする構造では、ダンパーを支持する逆V字形ブレースの剛性を高め、このブレースが変形しにくくしてダンパーに変形を集中させる必要がある。このため、断面積が大きな鋼材をブレースに用いることとなり、使用鋼材量及び重量の増加を招くとともに、ブレースと柱梁との接合部が複雑になり施工コストも増加するという不都合が生じる。さらに、ブレースの剛性が大きくなると、架構全体の初期剛性が高くなり過ぎることになり、地震動等の水平力が作用した際に建物への入力が過大になり、入力加速度が増加してしまい構造性能を十分に高めることができないという問題もある。
したがって、本発明は、使用する部材数量を削減して低コスト化を図るとともに、構造性能を向上させることができる補強構造及び建物を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために請求項1に記載の補強構造は、左右の柱と上下の梁とで囲まれた矩形の骨組みに設けられ、該骨組みに作用する水平力を負担する補強構造であって、前記柱と前記梁とが接合される上下左右四箇所の接合部のうち、上下いずれか一方側における左右の接合部近傍に一端部が連結され、他方側の梁中央部に向かって延びる一対の主斜材と、前記一対の主斜材の各他端部と前記他方側の梁中央部とに連結され、該主斜材の他端部と該梁中央部との相対移動に応じた減衰力を発揮する減衰部材と、前記他方側における前記骨組みの一部と前記一対の主斜材の各途中部分とをそれぞれ接続する一対の第一接続部材と、前記一方側における前記梁の一部と前記一対の主斜材の各途中部分とをそれぞれ接続する一対の第二接続部材と、を備え、前記主斜材において、前記第一接続部材が接続する第一接続部と、前記第二接続部材が接続する第二接続部とは、該主斜材の長手方向に沿って互いに離隔した位置に設けられていることを特徴とする。
このような本発明の補強構造によれば、左右の接合部(柱梁接合部)近傍に一端部が連結された一対の主斜材の各他端部と、他方側の梁中央部と、に亘って減衰部材を連結するとともに、一対の主斜材の各途中部分にそれぞれ第一接続部材及び第二接続部材を接続することで、主斜材を単なる軸力部材ではなく、軸力とともに曲げモーメント及びせん断力を負担する曲げせん断部材として機能させることができる。そして、主斜材の途中部分における互いに離隔した位置に第一接続部材と第二接続部材とがそれぞれ逆側から接続されているので、骨組みに水平力が作用した場合には、第一接続部材及び第二接続部材から主斜材に逆向きの力が作用し、主斜材をS字形に変形させる曲げモーメントとせん断力とが生じることとなる。このように一対の主斜材がS字形に変形することにより、それらの他端部が移動(水平移動、上下移動、及び回転)することになり、この他端部と他方側の梁中央部との間に相対移動が生じることとなる。従って、主斜材の他端部と他方側の梁中央部との間の相対移動に応じた減衰部材を用いることで、減衰部材によるエネルギー吸収効果を高めることができる。
また、S字形に変形する主斜材の他端部の移動に応じて減衰部材の変形量が決定されるので、所望のエネルギー吸収性能に対して、主斜材の軸剛性(断面積)のみならず曲げ剛性(断面二次モーメント)を適宜に設定したり、第一接続部材及び第二接続部材の軸剛性や主斜材への接続位置を適宜に設定したりすることにより、減衰部材の変形量が調整できる。従って、主斜材の軸剛性のみによって減衰部材の変形量を調整するような従来の構造と比較して、軸剛性を過度に大きくする必要がなく、主斜材の材料コストを抑制することができ、主斜材を骨組みに接合するための構造を簡単化することができる。また、主斜材を曲げ変形させることで、曲げ変形による靱性向上によって変形性能を高めることができるとともに、骨組み全体としての水平剛性を抑制することができ、地震動の入力加速度を低減させることができる。
この際、本発明の補強構造では、前記第一接続部は、前記主斜材の長手方向中央よりも一方側に設けられ、前記第二接続部は、前記主斜材の長手方向中央よりも他方側に設けられていることが好ましい。
この構成によれば、主斜材の長手方向中央よりも一方側、即ち減衰部材から離れた側に第一接続部が接続され、減衰部材に近い側に第二接続部材が接続されることとなり、この第二接続部材が一方側の梁中央部に接続されていることから、主斜材の他端部側(減衰部材の側)の水平変位を抑制して(あるいは他方側の梁とは逆方向に変位させて)他方側の梁との相対変位を大きくすることができ、減衰部材に生じる変形量を増大させてエネルギー吸収性能を向上させることができる。
また、本発明の補強構造では、前記第一接続部と前記第二接続部とは、それぞれ前記主斜材の長さを略三等分する二箇所の一方と他方とに設けられていることが好ましい。
この構成によれば、主斜材の長さを略三等分する位置にそれぞれ第一接続部と第二接続部材とが接続されることとなり、主斜材をS字形に曲げ変形させやすくなり、減衰部材のエネルギー吸収効果を高めるとともに、骨組み全体の水平剛性を抑制することができる。
また、本発明の補強構造では、前記第一接続部材は、前記他方側における左右の接合部近傍に一端部が接続され、他端部が前記主斜材に接続された第一副斜材を有して構成され、前記第二接続部材は、前記一方側における梁中央部に一端部が接続され、他端部が前記主斜材に接続された第二副斜材を有して構成されていることが好ましい。
この構成によれば、第一接続部材を第一副斜材によって構成し、第二接続部材を第二副斜材によって構成することで、これらの部材をスリム化するとともに、各部材と骨組み及び主斜材との接合構造を簡単化することができる。なお、本発明において、第一接続部材及び第二接続部材は、それぞれ斜材で構成されるものに限らず、面材(鋼板パネルやコンクリートパネルなど)で構成されてもよいし、複数の部材を組み合わせた組立材(トラス材やラチス材など)で構成されてもよい。
さらに、本発明の補強構造では、前記第一副斜材の途中部分と前記第二接続部とを接続する第三接続部材と、前記第二副斜材の途中部分と前記第一接続部とを接続する第四接続部材と、をさらに備えることが好ましい。
この構成によれば、第三接続部材及び第四接続部材を設けたことで、補強構造の剛性を高めることができるとともに、第一副斜材の途中部分に第三接続部材が接続され、第二副斜材の途中部分に第四接続部材が接続されていることで、第一副斜材及び第二副斜材に曲げモーメントが生じることとなり、これらの部材を曲げ材として機能させることによって補強構造の靱性を高めることができる。
また、本発明の補強構造では、前記減衰部材は、前記主斜材の他端部と前記他方側の梁との相対移動によってせん断変形することで減衰力を発揮するせん断型ダンパーから構成されていることが好ましい。
この構成によれば、減衰部材をせん断型ダンパーで構成することで、減衰部材自体の構造や、主斜材及び他方側の梁との接合構造を簡単化することができる。なお、本発明において、減衰部材は、せん断型ダンパーに限らず、直動型ダンパーや、曲げ型ダンパー、回転型ダンパー、ねじれ型ダンパーなど、任意のダンパーが利用可能であり、主斜材の他端部と他方側の梁との相対移動の向きや移動量などに応じて適宜な型のダンパーを選択すればよい。
一方、本発明の建物は、左右の柱と上下の梁とで囲まれた矩形の骨組みと、骨組みに設けられる前記いずれかの補強構造と、を備えたことを特徴とする。
このような本発明の建物によれば、前述した補強構造と同様に、減衰部材によるエネルギー吸収効果を高めるとともに、S字形に変形する主斜材によって変形性能を高めることができ、骨組みの水平剛性を抑制して地震動の入力加速度を低減させることができる。従って、建物各部の損傷を低減させるとともに、建物内部における什器、備品、設備等の落下や破損を抑制することができ、建物としての構造性能(耐震性能、耐久性能)を向上させることができる。
以上の本発明によれば、主斜材に第一接続部材及び第二接続部材接続して主斜材を曲げ材として機能させることで、補強構造の靱性を高めて変形性能を向上させることができるとともに、減衰部材によるエネルギー吸収効果を高めることができ、建物の構造性能を向上させることができる。
以下、本発明の第一実施形態に係る補強構造を用いた建物の骨組みを、図1に基づいて説明する。本実施形態の補強構造1は、例えば、事務所ビルや商業ビル、高層住宅、倉庫等の建物であって、主要構造体として鉄骨造のラーメン構造の骨組みSを有した建物に適用されるものである。骨組みSは、複数の柱Cと、左右の柱Cに亘って剛接された梁Gと、を有し、左右一対の柱Cと上下一対の梁G(下階の梁G1及び上階の梁G2)とで囲まれた矩形枠Wを有して構成されている。補強構造1は、骨組みSの矩形枠W内に設けられ、建物に作用する水平力(地震荷重や風荷重)を主に負担するものであって、建物の平面内及び立面内における複数個所にバランスよく設けられている。
柱Cは、角型鋼管で構成され、例えば、350mmx350mmx12mmの断面寸法を有して形成されている。梁Gは、H形鋼で構成され、例えば、400mmx200mmx8mmx13mmの断面寸法を有して形成されている。これらの柱Cと梁Gとは、柱Cと同サイズの角型鋼管にダイヤフラムを溶接して箱型に形成された接合部Jで互いに剛に接合されている。即ち、骨組みSのうち1スパン×1層の部分において、接合部Jは、矩形枠Wの上下左右の四箇所に設けられ、下階の梁G1が接合される下階左右の接合部J1と、上階の梁G2が接合される上階左右の接合部J2と、で構成されている。
補強構造1は、全体山型に形成された主補強体2と、この主補強体2と骨組みSとに連結された減衰部材としてのダンパー3と、主補強体2と骨組みSとを接続する複数の接続部材4,5(第一接続部材4及び第二接続部材5)と、を備えて構成されている。
主補強体2は、下階(上下の一方側)左右の接合部J1近傍にそれぞれ一端部が連結されるとともに、上階(上下の他方側)の梁G2中央部に向かって延びる一対の主斜材21と、これら一対の主斜材21の他端部同士を剛に連結する連結梁22と、を有して構成されている。主斜材21の一端部は、柱Cの下端部及び梁G1の端部に溶接された接合板(ガセットプレート)23にボルト接合され、この接合板23を介して骨組みSに連結されている。主斜材21は、例えば、250mmx125mmのH形鋼で構成され、連結梁22は、例えば、125mmx125mmのH形鋼で構成され、それぞれ矩形枠Wの面内方向に強軸を向けて配置されている。
ダンパー3は、連結梁22に固定されるフランジ31と、上階の梁G2中央部に固定されるフランジ32と、これらのフランジ31,32間に設けられる粘弾性体33と、を有して構成されている。このダンパー3は、連結梁22と上階の梁G2との相対移動に応じた減衰力を発揮するものであって、粘弾性体33のせん断変形によってエネルギー吸収を行うせん断型ダンパーである。なお、ダンパー3は、粘弾性体33に限らず、鋼材や鉛等の金属材料を用いたものでもよいし、高減衰ゴムを用いたものでもよいし、粘性体を用いたものでもよい。さらに、ダンパー3は、せん断型ダンパーに限らず、直動型ダンパーや、曲げ型ダンパー、回転型ダンパー、ねじれ型ダンパーなど、任意のダンパーが利用可能である。
一対の第一接続部材4は、それぞれ上階(上下の他方側)左右の接合部J2近傍にそれぞれ一端部が連結されるとともに、他端部が一対の主斜材21の各途中部分である第一接続部21Aに接続された一対の第一副斜材41を有して構成されている。第一副斜材41の一端部は、柱Cの上端部及び梁G2の端部に溶接された接合板(ガセットプレート)42にボルト接合され、この接合板42を介して骨組みSに連結されている。第一副斜材41の他端部は、主斜材21に溶接された接合板(ガセットプレート)43にボルト接合され、この接合板43を介して主斜材21に連結されている。第一副斜材41は、例えば、125mmx125mmのH形鋼で構成され、矩形枠Wの面内方向に強軸を向けて配置されている。
一対の第二接続部材5は、それぞれ下階(上下の一方側)の梁G1中央部にそれぞれ一端部が連結されるとともに、他端部が一対の主斜材21の各途中部分である第二接続部21Bに接続された一対の第二副斜材51を有して構成されている。第二副斜材51の一端部は、梁1中央部に溶接された接合板(ガセットプレート)52にボルト接合され、この接合板52を介して骨組みSに連結されている。第二副斜材51の他端部は、主斜材21に溶接された接合板(ガセットプレート)53にボルト接合され、この接合板53を介して主斜材21に連結されている。第一副斜材41は、例えば、125mmx125mmのH形鋼で構成され、矩形枠Wの面内方向に強軸を向けて配置されている。
主斜材21において、第一副斜材41が接続される第一接続部21Aと、第二副斜材51が接続される第二接続部21Bとは、互いに主斜材21の長手方向(軸方向)に離隔した位置に設けられている。具体的には、本実施形態における第一接続部21Aは、主斜材21の長手方向中央よりも下側(上下の一方側)に設けられ、第二接続部21Bは、主斜材21の長手方向中央よりも上側(上下の他方側)に設けられている。さらに具体的には、第一接続部21Aは、主斜材21の全長を略三等分する二箇所のうちの下側に設けられ、第二接続部21Bは、主斜材21の全長を略三等分する二箇所のうちの上側に設けられている。
以上の補強構造1によれば、主斜材21の長手方向に沿った二箇所である第一接続部21A及び第二接続部21Bにそれぞれ第一副斜材41及び第二副斜材51が接続されているので、骨組みS(建物)に水平力が作用した場合には、第一副斜材41及び第二副斜材51から主斜材21に逆向きの力が作用し、曲げモーメント及びせん断力が発生し、即ち、主斜材21が曲げせん断部材として機能することとなる。この際、主斜材21は、第一副斜材41及び第二副斜材51から作用する力によってS字形に曲げ変形することにより、軸力のみを負担する軸力材と比較して補強構造1の水平剛性が相対的に低くなる。このような補強構造1では、主斜材21の曲げ変形を利用することで、水平剛性を適切な値に調整しやすくなるとともに、主斜材21の靱性による変形性能を高めることができるようになっている。
さらに、主斜材21の他端部と上階の梁G2中央部との間にダンパー3が連結されており、骨組みS(建物)に水平力が作用した場合には、連結梁22と梁G2との間に相対移動が生じることになり、この移動に応じてダンパー3の粘弾性体33がせん断変形し、これによりエネルギー吸収が行われる。この際、主斜材21がS字形に曲げ変形することから、その曲げ剛性を適宜に設定したり、第一副斜材41及び第二副斜材51の軸剛性を適宜に設定したりすることにより、主斜材21の他端部の移動、即ち粘弾性体33の変形量が調整できるようになっている。従って、主斜材21の軸剛性(断面積)を過度に大きくしなくても、主斜材21の曲げ変形を利用して粘弾性体33のせん断変形量(エネルギー吸収量)を確保することができる。
なお、本第一実施形態において、補強構造1としては、図1に示す形態に限らず、図2に変形例として示す形態も採用することができる。図2において、補強構造1は、前述したのと同様の主補強体2、ダンパー3、第一接続部材4及び第二接続部材5に加え、第三接続部材6及び第四接続部材7を備えて構成されている。
第三接続部材6は、第一副斜材41の途中部分に一端部が接続されるとともに、他端部が主斜材21の第二接続部21Bに接続されている。この第三接続部材6は、例えば、125mmx125mmのH形鋼で構成され、矩形枠Wの面内方向に強軸を向けて配置されている。第四接続部材7は、第二副斜材42の途中部分に一端部が接続されるとともに、他端部が主斜材21の第一接続部21Aに接続されている。この第四接続部材7は、例えば、125mmx125mmのH形鋼で構成され、矩形枠Wの面内方向に強軸を向けて配置されている。
このような第一実施形態の変形例に係る補強構造1によれば、その水平剛性を高める方向に調整することができるとともに、第一副斜材41の途中部分に第三接続部材6が接続され、第二副斜材51の途中部分に第四接続部材7が接続されていることで、第一副斜材41及び第二副斜材51に曲げモーメントを生じさせて、これらの部材を曲げ材として機能させることによって靱性をさらに高め、補強構造1の剛性を高めつつ変形性能を向上させることができるようになっている。
以下、本発明の第二実施形態に係る補強構造を用いた建物の骨組みを、図3に基づいて説明する。本実施形態の補強構造1Aは、前記第一実施形態の補強構造1と比較して、接続部材4,5(第一接続部材4及び第二接続部材5)の構成が相違している。以下、相違点を詳しく説明する。なお、第一実施形態と同一又は共通の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略又は簡略することがある。
補強構造1Aにおいて、第一接続部材4の第一副斜材41の他端部が主斜材21に接続される第一接続部21Aは、主斜材21の長手方向中央よりも上側(上下の他方側)に設けられ、第二接続部材5の第二副斜材51の他端部が主斜材21に接続される第二接続部21Bは、主斜材21の長手方向中央よりも下側(上下の一方側)に設けられている。具体的には、本実施形態における第一接続部21Aは、主斜材21の全長を略三等分する二箇所のうちの上側に設けられ、第二接続部21Bは、主斜材21の全長を略三等分する二箇所のうちの下側に設けられている。
また、補強構造1Aのダンパー3は、連結梁22と上階の梁G2との相対移動として特にロッキング変位に応じた減衰力を発揮するものであって、ロッキング変位によって粘弾性体33にせん断変形が生じるような構成となっている。即ち、本実施形態におけるダンパー3は、ロッキング変位によってエネルギー吸収を行う曲げ型ダンパーが好適である。なお、本実施形態においてもダンパー3は、粘弾性体33に限らず、鋼材や鉛等の金属材料を用いたものでもよいし、高減衰ゴムを用いたものでもよいし、粘性体を用いたものでもよい。さらに、ダンパー3は、曲げ型ダンパーに限らず、せん断型ダンパーや、直動型ダンパー、回転型ダンパー、ねじれ型ダンパーなど、任意のダンパーが利用可能であり、ダンパー種別に応じて適宜なリンク機構を有して構成されていてもよい。
以上の補強構造1Aによっても前記補強構造1と同様に、骨組みS(建物)に水平力が作用した場合には、第一副斜材41及び第二副斜材51から主斜材21に逆向きの力が作用することで、主斜材21がS字形に曲げ変形することにより、補強構造1Aの水平剛性を相対的に低下させることができる。このように主斜材21の曲げ変形を利用することで、水平剛性を適切な値に調整しやすくなるとともに、主斜材21の靱性による変形性能を高めることができるようになっている。さらに、主斜材21の他端部と上階の梁G2中央部との間に生じるロッキング変位によってダンパー3の粘弾性体33によるエネルギー吸収が行われる。この際、主斜材21の曲げ剛性や、第一副斜材41及び第二副斜材51の軸剛性を適宜に設定することで、粘弾性体33の変形量が調整でき、主斜材21の曲げ変形を利用して粘弾性体33のエネルギー吸収量を確保することができる。
なお、本第二実施形態において、補強構造1Aとしては、図3に示す形態に限らず、図4に変形例として示す形態も採用することができる。図4において、補強構造1Aは、前述したのと同様の主補強体2、ダンパー3、第一接続部材4及び第二接続部材5に加え、第三接続部材6及び第四接続部材7を備えて構成されている。第三接続部材6は、第一副斜材41の途中部分と主斜材21の第二接続部21Bとに接続され、上下に延びて設けられている。第四接続部材7は、第二副斜材42の途中部分と主斜材21の第一接続部21Aとに接続され、第三接続部材6と略平行に設けられている。
このような第二実施形態の変形例に係る補強構造1Aによれば、その水平剛性を高める方向に調整することができるとともに、第一副斜材41の途中部分に第三接続部材6が接続され、第二副斜材51の途中部分に第四接続部材7が接続されていることで、第一副斜材41及び第二副斜材51に曲げモーメントを生じさせて、これらの部材を曲げ材として機能させることによって靱性をさらに高め、補強構造1の剛性を高めつつ変形性能を向上させることができるようになっている。
以上の実施形態によれば、補強構造1,1Aにおける主斜材21の断面積を過度に大きくしなくても、ダンパー3の粘弾性体33によるエネルギー吸収性能を得ることができるので、主斜材21の材料コストを抑制することができ、主斜材21を骨組みSに接合するための構造を簡単化することができる。また、主斜材21を曲げ変形させることで変形性能を高めつつ、補強構造1を含んだ骨組みS全体としての水平剛性を抑制することができ、地震動の入力加速度を低減させることができる。さらに、主斜材21の曲げ変形を利用してダンパー3の粘弾性体33によるエネルギー吸収効果を高めることで、建物の振動を低減させるとともに建物各部の損傷を抑制することができ、建物の構造性能を向上させることができる。
以下、本発明の実施例として、前記実施形態で説明した骨組みS及び補強構造1,1Aをモデル化した弾性応力解析を行うとともに、比較例として、骨組みSをモデル化した解析と比較する。弾性応力解析は、各部材を線材に置換した二次元フレーム解析であり、ダンパー3を省略して行うものとする。
以下の各実施例(実施例1〜4)及び比較例において、骨組みS及び主補強体2の解析モデルは共通である。具体的には、骨組みSとして、左右の柱Cの芯−芯間のスパンは6mとし、上下の梁G1,G2の芯−芯間の階高は3.5mとした。柱Cは、角型鋼管(断面寸法:350x350x12)の剛性を用い、梁Gは、H形鋼(断面寸法:400x200x8x13)の強軸の剛性を用い、これらの柱Cと梁Gの接合部Jは剛接とした。
主補強体2として、主斜材21は、H形鋼(断面寸法:250x125x6x9)の強軸の剛性を用い、連結梁22は、H形鋼(断面寸法:125x125x6.5x9)の強軸の剛性を用い、これらの主斜材21と連結梁22は剛接とし、主斜材21の下端部は骨組みSに対してピン接合とした。また、連結梁22の長さ寸法は600mmとし、この連結梁22と上階の梁G2との芯−芯間距離は500mmとした。
実施例1は、図1に示す前記第一実施形態の補強構造1をモデル化したもので、接続部材4,5として、第一副斜材41及び第二副斜材51は、H形鋼(125x125x6.5x9)の強軸の剛性を用い、各斜材の両端部は骨組みS及び主斜材21に対してピン接合とした。
実施例2は、図2に示す前記第一実施形態の変形例の補強構造1をモデル化したもので、接続部材4,5としては実施例1と同一であり、第三接続部材6及び第四接続部材7は、H形鋼(125x125x6.5x9)の強軸の剛性を用い、各部材の両端部は主斜材21及び第一副斜材41、第二副斜材51に対してピン接合とした。
実施例3は、図3に示す前記第二実施形態の補強構造1Aをモデル化したもので、接続部材4,5として、第一副斜材41及び第二副斜材51は、H形鋼(125x125x6.5x9)の強軸の剛性を用い、各斜材の両端部は骨組みS及び主斜材21に対してピン接合とした。
実施例4は、図4に示す前記第二実施形態の変形例の補強構造1Aをモデル化したもので、接続部材4,5としては実施例3と同一であり、第三接続部材6及び第四接続部材7は、H形鋼(125x125x6.5x9)の強軸の剛性を用い、各部材の両端部は主斜材21及び第一副斜材41、第二副斜材51に対してピン接合とした。
解析条件は、下階の接合部J1位置の節点を支点とし、上階の接合部J2及び梁G2の各節点を剛床とするとともに、上階の節点の水平変位が各実施例(実施例1〜4)及び比較例で同一となるように水平荷重を加えることとした。この水平変位は、例えば100mmであり、階高に対する層間変形角として1/35の大変形状態を想定した。
図5〜図9に応力解析結果を示す。図5は、比較例の解析結果を示す図であり、図6〜9は、実施例1〜4の解析結果を示す図である。各図において、(A)はモーメント図であり、(B)は変位図である。また、各図(A)のモーメント図において、MC1は柱Cの柱脚部モーメントであり、MC2は柱Cの柱頭部モーメントであり、MG1は下階の梁G1の端部モーメントであり、MG2は上階の梁G2の端部モーメントである。
また、図6〜9の各(A)のモーメント図において、MB1は主斜材21の第一接続部21Aに発生する曲げモーメントであり、MB2は主斜材21の第二接続部21Bに発生する曲げモーメントである。さらに、図7及び図9において、MV1は第一副斜材41における第三接続部材6の接続部に発生する曲げモーメントであり、MV2は第二副斜材51における第四接続部材7の接続部に発生する曲げモーメントである。
また、各図(B)の変位図において、D1は上階の水平変位であり、DX1及びDY1は、一方(図中左側)の主斜材21の上端部(他端部)の水平変位及び鉛直変位であり、DX2及びDY2は、他方(図中右側)の主斜材21の上端部(他端部)の水平変位及び鉛直変位である。なお、上階の水平変位D1は、前述の解析条件のように、各実施例(実施例1〜4)及び比較例で同一の100mmに設定されている。
応力解析結果としては、上階の水平変位D1を同一の100mmに設定したことから、各実施例(実施例1〜4)及び比較例における水平荷重が以下のようになった。比較例の水平荷重は1060kN、実施例1の水平荷重は1713kN、実施例2の水平荷重は2057kN、実施例3の水平荷重は3143kN、実施例4の水平荷重は3482kNであった。即ち、比較例に対し、補強構造1を設置した実施例1では1.62倍の水平剛性となり、補強構造1Aを設置した実施例3では2.97倍の水平剛性となった。また、実施例1に対して実施例2では、1.20倍の水平剛性となり、実施例3に対して実施例4では、1.12倍の水平剛性となった。
また、各部の曲げモーメントとして、骨組みSに生じる曲げモーメントMC1,MC2,MG1,MG2は、水平変位が同一であるため、各実施例(実施例1〜4)及び比較例で大きな差異はない。また、実施例1,2において、主斜材21の第一接続部21A及び第二接続部21Bに発生する曲げモーメントMB1,MB2は、実施例1よりも実施例2の方が若干小さくなった。これと同様に、実施例3,4において、曲げモーメントMB1,MB2は、実施例3よりも実施例4の方が若干小さくなった。一方、実施例1,3において、曲げモーメントMB1,MB2は、実施例1よりも実施例3の方が1.6倍〜2.2倍程度大きくなった。また、実施例2,4において、第一副斜材41に発生する曲げモーメントMV1、及び第二副斜材51に発生する曲げモーメントMV2は、いずれも比較的小さな値となった。
実施例1,2において、主斜材21の上端部の水平変位DX1,DX2は、−1.0mm〜−2.5mm程度となっており、一方の主斜材21における上端部の鉛直変位DY1は、1.0mm程度となり、他方の主斜材21における上端部の鉛直変位DY2は、−3.6mm〜−3.7mmとなっている。即ち、実施例1,2においては、主斜材21の上端部はほとんど移動しておらず、上階の水平変位D1が100mmであることから、主斜材21の上端部と上階の梁G2との相対移動量は、水平変位D1(100mm)と同等になる。また、一方及び他方の主斜材21における上端部の鉛直変位DY1,DY2は、連結梁22の回転変位であり、鉛直変位DY1,DY2を連結梁22の長さ(600mm)で除した変位角は、8/1000(=1/125)程度の微小な値である。
一方、実施例3,4において、主斜材21の上端部の水平変位DX1,DX2は、28mm程度となっており、一方の主斜材21における上端部の鉛直変位DY1は、−23mm程度となり、他方の主斜材21における上端部の鉛直変位DY2は、18mm程度となっている。即ち、実施例3,4においては、主斜材21の上端部と上階の梁G2との相対移動量は、水平変位D1(100mm)から水平変位DX1,DX2を差し引いた72mm程度になる。また、一方及び他方の主斜材21における上端部の鉛直変位DY1,DY2を連結梁22の長さで除した変位角は、−67/1000(=−1/15)程度の値になり、上階の水平変位D1とは逆向きのロッキングが連結梁22に生じている。
以上の実施例によれば、骨組みSの水平剛性に対して、実施例1,2では1.6倍から2倍程度の剛性増大に収まっており、実施例3,4でも3倍から3.3倍程度の剛性増大であり、補強構造1,1Aを設置することによる剛性の増大率は設計可能な範囲である。即ち、主斜材21を曲げ変形させることで、設計可能な範囲に剛性の増大を収めることができることが判明した。また、第三接続部材6及び第四接続部材7を用いた実施例2,4では、それぞれ実施例1,3に対して1.1倍から1.2倍の剛性増大が確認され、第三接続部材6及び第四接続部材7による剛性調整が可能であることが判明した。さらに、第三接続部材6及び第四接続部材7を設けることで、主斜材21に発生する曲げモーメントMB1,MB2が小さくなり、応力が分散されることが確認できた。
また、実施例1,2では、主斜材21の上端部にほとんど水平変位が生じず、連結梁22の変位角が微小な値であることから、上階の水平変位D1が主斜材21の上端部との相対移動量となり、この相対移動量がダンパー3に生じるせん断変形量となることが判明した。従って、実施例1,2では、せん断型ダンパーを用いることで、ダンパー3を効果的に作動させて高いエネルギー吸収効率が得られることが判明した。一方、実施例3,4では、主斜材21の上端部に水平変位が生じるものの、連結梁22の変位角が上階の水平変位D1と逆向きに生じることから、ロッキングによる相対移動がダンパー3に生じることが判明した。従って、実施例3,4では、曲げ型ダンパーを用いることで、ダンパー3のエネルギー吸収効率を高められることが判明した。
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
例えば、前記実施形態では、柱C、梁Gが鉄骨造の骨組みSに補強構造1,1Aを設けたが、骨組みSは、鉄骨造に限らず、鉄筋コンクリート造であってもよいし、鉄骨鉄筋コンクリート造、木造(軸組構造、枠組み壁構造、大断面集成材ラーメン構造)等であってもよい。また、本発明の補強構造1,1Aは、事務所ビルや商業ビル、高層住宅等の比較的高層の建物に限らず、低層の住宅や倉庫、校舎などにも適用可能である。さらに、本発明の補強構造1,1Aは、新築の建物の施工時に骨組みに組み込まれてもよいし、既存の建物に対して後から取り付けられる耐震補強としても利用可能である。耐震補強として利用される場合には、補強構造1,1Aを骨組みSの内部に設けてもよいし、骨組みSの外部に設けてもよい。
また、前記実施形態では、補強構造1,1Aの主補強体2及び第一〜第四接続部材4,5,6,7を鉄骨製としたが、これに限らず、各部材を木製や竹製としてもよいし、鉄骨製や木製、竹製の部材を適宜に組み合わせてもよい。また、前記実施形態では、主補強体2が山型に形成され、その主斜材21の一端部が下階の接合部J1近傍に接続され、他端部が上階の梁G2中央部に向かって延びて設けられていたが、これに限らず、主斜材21の一端部が上階の接合部J2近傍に接続され、他端部が下階の梁G1中央部に向かって延びて設けられていてもよい。この場合には、主斜材21の他端部と下階の梁G1中央部との間に減衰部材(ダンパー3)が接続されていればよい。
図10には、二階〜三階建ての比較的小規模な戸建て住宅等に供される木造建物であり、大断面集成材ラーメン構造の骨組みSに補強構造1を適用した例が示されている。この骨組みSは、例えば、柱Cが350mm角の集成材で構成され、下階の梁G1(土台)が基礎F上に設けられ、上階の梁G2が200mmx350mmの集成材で構成されている。柱Cと梁Gとは、接合金物とボルト、ナットを用いて互いに剛に接合されている。補強構造1は、一対の主斜材21と、木材や竹集成材からなる各一対の第一接続部材4(第一副斜材41)及び第二接続部材5(第二副斜材51)と、を備えて構成されている。主斜材21は、例えば、200mm角の木材や竹集成材から構成され、第一副斜材41及び第二副斜材51は、例えば、105mm角の木材や竹集成材から構成されている。
一対の主斜材21の一端部は、下階左右の接合部J1近傍にそれぞれ接合金物25を介して一端部が連結されている。一対の主斜材21の他端部は、フランジ31に溶接された接合プレート24を介してダンパー3に連結され、接合プレート24から延びる接合板24Aに主斜材21の他端部がボルトにより固定されている。第一副斜材41は、上階左右の接合部J2近傍である柱Cの上端部に接合金物44を介して一端部が連結されるとともに、他端部が主斜材21の途中部分である第一接続部21Aに接合金物45を介して連結されている。第二副斜材51は、下階の梁G1中央部に接合金物54を介して一端部が連結されるとともに、他端部が主斜材21の途中部分である第二接続部21Bに接合金物55を介して連結されている。各接合金物44,45,54,55は、柱C、梁G、主斜材21、副斜材51に対してボルトによって固定されている。
また、前記実施形態では、補強構造1,1Aにおいて、主斜材21の全長を略三等分する二箇所のうち、一方に第一接続部21Aが設けられ、他方に第二接続部21Bが設けられていたが、第一接続部21A及び第二接続部21Bは、主斜材21の長手方向に沿って互いに離隔した位置に設けられていればよい。即ち、本発明の補強構造は、主斜材における互いに異なる二箇所に第一接続部材及び第二接続部材が接続され、これらの接続部材によって主斜材をS字形に曲げ変形させることを特徴とするものであり、そのような作用が得られる範囲であれば、第一接続部及び第二接続部の位置は特に限定されない。また、第一接続部材及び第二接続部材としては、前記実施形態で例示した斜材(第一副斜材41及び第二副斜材51)で構成されたものに限らず、鋼板パネルやコンクリートパネルなどの面材、トラス材やラチス材などの組立材で構成されてもよい。