以下、本発明の第一実施形態に係る補強構造を、図1〜5に基づいて説明する。本実施形態の補強構造1は、例えば、事務所ビルや商業ビル、官公庁、学校、図書館、住宅、倉庫等の建物であって、主要構造体として鉄筋コンクリート造ラーメン構造の骨組みSを有した建物に適用されるものである。骨組みSは、基礎から立設される複数の柱Cと、柱Cの脚部に接合された下側の水平部材としての下階の梁G1と、柱Cの頭部に接合された上側の水平部材としての上階の梁G2と、を有して構成されている。ここで、補強構造1が1階に設けられる場合には、下階の梁G1は、基礎梁であってもよい。また、梁G1,G2には、図示しない床スラブが支持されており、上下階の床スラブによって水平部材が構成されていてもよいし、下側の水平部材が基礎のフーチング等であってもよい。
補強構造1は、柱Cの左右両側に沿った一対で設けられ、上下の梁G1,G2間に亘って上下に積層される複数の補強部材2を備えて構成されている。補強部材2は、例えば、上下方向に14段が積層され、左右方向に3列が並列され、このように上下左右に積層、並列される複数の補強部材2によって積層体2Aが構成されている。積層体2Aの上端部である最上部の補強部材2は、上部固定手段としてのアンカーボルト3によって上階の梁G2に固定され、最上部の補強部材2と上階の梁G2との間には無収縮モルタル4が充填されている。積層体2Aの下端部である最下部の補強部材2は、下部固定手段としてのアンカーボルト5によって下階の梁G1に固定され、最下部の補強部材2と下階の梁G1との間には増し打ちコンクリート6が設けられている。
図2に示すように、積層体2Aにおいて上下左右に隣り合う補強部材2同士は、連結手段としてのボルト及びナットからなる締結具7によって互いに連結されている。補強部材2は、互いに対向する一対の側面部21と、一対の側面部21の上端縁同士を結ぶ上面部22と、一対の側面部21の下端縁同士を結ぶ下面部23と、の四面を有して前後方向に開口した全体矩形中空状に形成されている。このような補強部材2は、鋼板を曲げ加工して端縁同士を溶接接合して形成されてもよいし、鋼管を切断して形成されてもよいし、さらには各面部ごとの鋼板を互いに溶接接合して形成されてもよい。また、補強部材2は、第一補強部材20Aと、この第一補強部材20Aよりも各面部21,22,23の板厚寸法が小さい第二補強部材20Bと、の二種で構成されている。
第一補強部材20Aは、例えば、幅寸法が250mm、高さ寸法が250mm、奥行き寸法が250mmの略立方体であり、各面部21,22,23の板厚寸法が12mmに設定されている。第二補強部材20Bは、例えば、幅寸法が250mm、高さ寸法が250mm、奥行き寸法が250mmの略立方体であり、各面部21,22,23の板厚寸法が6mm〜9mmに設定されている。すなわち、第二補強部材20Bは、第一補強部材20Aよりも変形しやすく構成されている。図1に示すように、第一補強部材20Aは、積層体2Aにおける上部及び下部の4段と、中間部の4段と、に設けられ、第二補強部材20Bは、積層体2Aにおける上部と中間部の第一補強部材20A間の1段と、下部と中間部の第一補強部材20A間の1段と、に設けられている。
補強構造1において、第二補強部材20Bの内部に減衰部材10が設けられている。この減衰部材10は、図3にも示すように、第二補強部材20Bの変形に伴ってエネルギー吸収を行うものであって、第二補強部材20Bの一方の側面部21に固定されて内方に延びる2枚の第一プレート11と、他方の側面部21に固定されて内方に延びる第二プレート12と、2枚の第一プレート11と第二プレート12との間に介挿される一対の粘弾性体13と、を有して構成されている。2枚の第一プレート11は、CT鋼のウェブ14にスペーサ15を介して固定され、このCT鋼のフランジ16が一方の側面部21に固定されている。第二プレート12は、CT鋼のウェブによって構成され、このCT鋼のフランジ17が他方の側面部21に固定されている。フランジ16,17は、締結具7によって側面部21に固定されている。
このような第一実施形態の補強構造1の動作について、図4、5も参照して説明する。地震等の外乱が建物に入力し、例えば図4に示すように、上階に対して左から右に向かって水平力が作用した場合、柱CがS字状に曲げ変形することで、上階の梁G2と下階の梁G1とが左右にずれるような層間変位が生じる。このように建物に層間変位が生じると、上下の梁G1,G2に亘って固定された積層体2Aにせん断力が作用し、積層された複数の補強部材2の各々にも水平方向のせん断変形が生じる。ここで、第二補強部材20Bは、第一補強部材20Aよりも変形しやすく構成されているため、減衰部材10が内部に設けられた第二補強部材20Bにより大きなせん断変形が生じることとなる。
第二補強部材20Bがせん断変形すると、減衰部材10は、図5に示すように、一方の側面部21に固定された第一プレート11が上方に回動し、他方の側面部21に固定された第二プレート12が下方に回動し、これらの第一プレート11と第二プレート12との間に相対変位が生じることとなる。このような相対変位が生じると、第一プレート11と第二プレート12との間に介挿された粘弾性体13がせん断変形し、この変形速度に応じた減衰力が発揮され、粘弾性体13によって水平力のエネルギー吸収が行われる。従って、外乱の入力エネルギーが粘弾性体13により消費されることで、建物の揺れが抑制され、柱Cや梁G1,G2の損傷を低減させることができる。
この際、中小地震等の比較的発生する可能性が高い外乱に対しては、補強部材2が弾性範囲内に収まるような部材設計が行われており、外乱が収まった後には、補強部材2の復元力によって積層体2Aが初期状態に復元し、建物の骨組みSにも傾き等が残留変形が残らないように補強構造1が設計されている。一方、千年に一度の確率で発生する巨大地震等の外乱に対しては、柱Cがせん断破壊することが予想され、柱Cが負担していた上階の鉛直荷重による軸力を柱Cが負担できなくなるものの、この軸力を補強構造1の積層体2Aが負担できるようになっている。このように積層体2Aが上階の鉛直荷重を負担すると、積層された複数の補強部材2のうちの1つ又は複数が塑性化する可能性はあるものの、各補強部材2は鋼製であって靱性を有していることから、負担した軸力を保持することで建物の層崩壊を防止することができる。
以上のような第一実施形態の補強構造1によれば以下の効果が得られる。すなわち、比較的発生する可能性が高い外乱に対しては、積層体2Aが水平力の一部を負担するとともに、減衰部材10の粘弾性体13がエネルギー吸収を行うことで、作用した水平力による建物の揺れを低減させ、建物の損傷軽減を図って耐震性能を向上させることができる。一方、建物の保有水平耐力を超えるような外乱が作用し、建物の柱Cが軸力を負担することができなくなった場合でも、積層体2Aが軸力を負担することで層崩壊を防止し、建物の倒壊を防止することができる。
減衰部材10が第一プレート11と第二プレート12との間に介挿される粘弾性体13を有して構成されているので、第二補強部材20Bの変形に伴って第一プレート11と第二プレート12との間に相対変位が生じ、この相対変位により粘弾性体13がせん断変形してエネルギー吸収が行われる。従って、比較的簡便な構造により効率よくエネルギー吸収を行うことができ、補強構造1の設置コストを抑制することができる。また、2枚の第一プレート11の各々と第二プレート12との間に粘弾性体13が介挿されているので、一箇所の減衰部材10における粘弾性体13の量を増やしてエネルギー吸収能力を高めることができる。また、2枚の第一プレート11で粘弾性体13及び第二プレート12を挟むことで、各プレート11,12と粘弾性体13との剥離を防止することができ、エネルギー吸収性能を維持することができる。
また、補強部材2が一対の側面部21と上面部22と下面部23とを有して全体矩形中空状に形成されているので、補強部材2の軽量化を図ることができるとともに、上下のアンカーボルト3,5や締結具7の固定作業が容易になり、搬送性や施工性を向上させることができる。また、減衰部材10が内部に設けられる第二補強部材20Bの各面部21,22,23の板厚寸法が小さく形成され、この第二補強部材20Bが変形しやすくなっているので、その内部の減衰部材10に変形を集中させることができ、エネルギー吸収効率を向上させることができる。
以下、本発明の第二実施形態に係る補強構造を、図6〜9に基づいて説明する。本実施形態の補強構造1Aは、前記第一実施形態の補強構造1と比較して、第二補強部材20B及び減衰部材10の構成が相違している。以下、相違点を詳しく説明する。なお、第一実施形態と同一又は共通の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略又は簡略することがある。補強構造1Aにおいて、複数の補強部材2が上下14段、左右3列に積層、並列され、これにより積層体2Aが構成される点は前記第一実施形態の補強構造1と同一である。
図6に示すように、上下の第一補強部材20Aに挟まれて第二補強部材20Bが設けられており、この第二補強部材20Bの内部に減衰部材10が設けられている。第二補強部材20Bは、上下の第一補強部材20Aに締結具7で連結されるものの、左右に隣り合う第二補強部材20B同士は連結されていない。図7にも示すように、減衰部材10は、2枚の第一プレート11が第二補強部材20Bの下面部23に固定されて上方に延び、第二プレート12が上面部22に固定されて下方に延びて設けられている。すなわち、2枚の第一プレート11を固定するCT鋼のフランジ16が締結具7によって下面部23に固定され、第二プレート12のCT鋼のフランジ17が締結具7によって上面部22に固定されている。
このような第二実施形態の補強構造1Aの動作について、図8、9も参照して説明する。地震等の外乱が建物に入力し、例えば図8に示すように、上階に対して左から右に向かって水平力が作用した場合、柱Cが曲げ変形することで、上階の梁G2と下階の梁G1とが左右にずれるせん断変形と、上階の梁G2が回転するロッキング変形と、によって層間変位が生じる。このようにロッキング変形を含んだ層間変位が生じると、上下の梁G1,G2に亘って固定された積層体2Aにせん断力が作用するとともに、図8における柱Cの左側に沿った積層体2Aに引っ張り力が作用し、図8における柱Cの右側に沿った積層体2Aに圧縮力が作用することとなる。
引っ張り力が作用する側の積層体2Aにおいて、図9(A)に示すように、積層された複数の補強部材2の各々には、水平方向のせん断変形に加えて鉛直方向の引っ張り力が生じる。ここで、第二補強部材20Bは、第一補強部材20Aよりも変形しやすく構成されているため、減衰部材10が内部に設けられた第二補強部材20Bにより大きなせん断変形と引っ張り変形とが生じることとなる。第二補強部材20Bがせん断変形とともに引っ張り変形すると、減衰部材10は、図9(A)に示すように、下面部23に固定された第一プレート11に対し、上面部21に固定された第二プレート12が横にずれるとともに上方に離れるように移動し、これらの第一プレート11と第二プレート12との間に相対変位が生じることとなる。このような相対変位が生じると、第一プレート11と第二プレート12との間に介挿された粘弾性体13がせん断変形し、この変形速度に応じた減衰力が発揮され、粘弾性体13によって水平力のエネルギー吸収が行われる。
一方、圧縮力が作用する側の積層体2Aにおいて、図9(B)に示すように、積層された複数の補強部材2の各々には、水平方向のせん断変形に加えて鉛直方向の圧縮力が生じ、変形しやすい第二補強部材20Bにより大きなせん断変形と圧縮変形とが生じることとなる。第二補強部材20Bがせん断変形とともに圧縮変形すると、減衰部材10は、図9(B)に示すように、下面部23に固定された第一プレート11に対し、上面部21に固定された第二プレート12が横にずれるとともに下方に接近するように移動し、これらの第一プレート11と第二プレート12との間に相対変位が生じることとなる。このような相対変位が生じると、第一プレート11と第二プレート12との間に介挿された粘弾性体13がせん断変形し、この変形速度に応じた減衰力が発揮され、粘弾性体13によって水平力のエネルギー吸収が行われる。
以上のような第二実施形態の補強構造1Aによれば以下の効果が得られる。すなわち、建物の骨組みSにロッキング変形を含んだ層間変位が生じる場合において、積層体2Aに作用する引っ張り力や圧縮力に対し、第二補強部材20Bに引っ張り変形や圧縮変形を生じさせ、この変形によって減衰部材10がエネルギー吸収を行うことができる。従って、比較的発生する可能性が高い外乱に対しては、積層体2Aが水平力の一部を負担するとともに、減衰部材10の粘弾性体13がエネルギー吸収を行うことで、作用した水平力による建物の揺れを低減させ、建物の損傷軽減を図って耐震性能を向上させることができる。一方、建物の保有水平耐力を超えるような外乱が作用し、建物の柱Cが軸力を負担することができなくなった場合でも、積層体2Aが軸力を負担することで層崩壊を防止し、建物の倒壊を防止することができる。
以下、本発明の第三実施形態に係る補強構造を、図10,11に基づいて説明する。本実施形態の補強構造1Bは、前記第一、第二実施形態の補強構造1,1Aと比較して、積層体2A及び減衰部材の構成が相違している。以下、相違点を詳しく説明する。なお、前記各実施形態と同一又は共通の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略又は簡略することがある。補強構造1Bにおいて、複数の補強部材2が上下14段、左右3列に積層、並列され、これにより積層体2Aが構成される点は前記各実施形態の補強構造1,1Aと同一であるが、積層体2Aは、第一補強部材20Aを積層して構成され、第二補強部材20Bは省略されている。
図10に示すように、上下に隣り合う一組の第一補強部材20Aの間に減衰部材30が設けられ、この一組の第一補強部材20A同士は、締結具7で連結されず、減衰部材30を介して連結されている。減衰部材30は、上側の第一補強部材20Aの下面部23に固定される第一プレート31と、下側の第一補強部材20Aの上面部22に固定される第二プレート32と、第一プレート31と第二プレート32との間に介挿される粘弾性体33と、を有して構成されている。第一プレート31には、上方に延びるボルトが固定され、このボルトと、下面部23を貫通したボルトに螺合するナットと、で構成される締結具34によって、第一プレート31が下面部23に固定されている。第二プレート32には、下方に延びるボルトが固定され、このボルトと、上面部22を貫通したボルトに螺合するナットと、で構成される締結具34によって、第二プレート32が上面部22に固定されている。
このような第三実施形態の補強構造1Bの動作について、図11も参照して説明する。地震等の外乱が建物に入力して水平力が作用した場合、建物に層間変位が生じ、積層体2Aにせん断力が作用する。このせん断力によって減衰部材30は、図11に示すように、第一プレート31と第二プレート32との間に相対変位が生じ、粘弾性体33がせん断変形し、この変形速度に応じた減衰力が発揮され、粘弾性体33によって水平力のエネルギー吸収が行われる。従って、外乱の入力エネルギーが粘弾性体33により消費されることで、建物の揺れが抑制され、柱Cや梁G1,G2の損傷を低減させることができる。また、建物の保有水平耐力を超えるような外乱が作用し、建物の柱Cが軸力を負担することができなくなった場合でも、粘弾性体33が上下に潰されつつ積層体2Aが軸力を負担することで層崩壊を防止し、建物の倒壊を防止することができる。
以上のような第三実施形態の補強構造1Bによれば以下の効果が得られる。すなわち、建物の骨組みSに層間変位が生じる場合において、積層体2Aに作用するせん断力に対し、減衰部材30の粘弾性体33がせん断変形してエネルギー吸収を行うことができる。従って、比較的発生する可能性が高い外乱に対しては、積層体2Aが水平力の一部を負担するとともに、減衰部材30の粘弾性体33がエネルギー吸収を行うことで、作用した水平力による建物の揺れを低減させ、建物の損傷軽減を図って耐震性能を向上させることができる。一方、建物の保有水平耐力を超えるような外乱が作用し、建物の柱Cが軸力を負担することができなくなった場合でも、積層体2Aが軸力を負担することで層崩壊を防止し、建物の倒壊を防止することができる。
以下、本発明の第四実施形態に係る補強構造を、図12,13に基づいて説明する。本実施形態の補強構造1Cは、前記第一、第二、第三実施形態の補強構造1,1A,1Bと比較して、積層体2A及び減衰部材の構成が相違している。以下、相違点を詳しく説明する。なお、前記各実施形態と同一又は共通の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略又は簡略することがある。補強構造1Cにおいて、複数の補強部材2が上下14段、左右3列に積層、並列され、これにより積層体2Aが構成される点は前記各実施形態の補強構造1,1Aと同一であるが、積層体2Aは、第一補強部材20Aを積層して構成され、第二補強部材20Bは省略されている。
図12に示すように、上下に隣り合う一組の第一補強部材20Aのうち、下側の第一補強部材20Aの内部に減衰部材40が設けられている。減衰部材40は、第一プレート41と、第二プレート42と、第一プレート41と第二プレート42との間に介挿される粘弾性体43と、第一プレート41を上側の第一補強部材20Aの下面部23に固定する第一固定部44と、第二プレート42を下側の第一補強部材20Aの下面部23に固定する第二固定部45と、を有して構成されている。下側の第一補強部材20Aの上面部22には、締結具7のボルトを余裕をもって挿通させる拡大挿通孔22Aが形成されている。第一固定部44は、拡大挿通孔22Aに挿通した締結具7によって、上側の第一補強部材20Aの下面部23に固定に固定されている。第二固定部45は、締結具7によって、下側の第一補強部材20Aの下面部23に固定されている。
このような第四実施形態の補強構造1Cの動作について、図13も参照して説明する。地震等の外乱が建物に入力して水平力が作用した場合、建物に層間変位が生じ、積層体2Aにせん断力が作用する。このせん断力によって一組の第一補強部材20Aの間に滑りが生じ、減衰部材40は、図13に示すように、第一プレート31と第二プレート32との間に相対変位が生じる。すなわち、上側の第一補強部材20Aの下面部23に第一固定部44を介して固定された第一プレート31と、下側の第一補強部材20Aの下面部23に第二固定部45を介して固定された第二プレート42と、の間に相対変位が生じ、粘弾性体43がせん断変形し、この変形速度に応じた減衰力が発揮され、粘弾性体43によって水平力のエネルギー吸収が行われる。
以上のような第四実施形態の補強構造1Cによれば以下の効果が得られる。すなわち、建物の骨組みSに層間変位が生じる場合において、積層体2Aに作用するせん断力に対し、減衰部材40の粘弾性体43がせん断変形してエネルギー吸収を行うことができる。従って、比較的発生する可能性が高い外乱に対しては、積層体2Aが水平力の一部を負担するとともに、減衰部材40の粘弾性体43がエネルギー吸収を行うことで、作用した水平力による建物の揺れを低減させ、建物の損傷軽減を図って耐震性能を向上させることができる。一方、建物の保有水平耐力を超えるような外乱が作用し、建物の柱Cが軸力を負担することができなくなった場合でも、積層体2Aが軸力を負担することで層崩壊を防止し、建物の倒壊を防止することができる。
以下、本発明の第五実施形態に係る補強構造を、図14〜19に基づいて説明する。本実施形態の補強構造1Dは、例えば、プレキャスト鉄筋コンクリート造ラーメン構造の建物であり、骨組みSの柱C、梁G2、小梁G3がポストテンションのプレストレスによって連結された建物に適用されている。このような骨組みSにおいて、柱Cや梁G2、小梁G3には、プレストレスを導入するためのPC鋼線が配設されており、耐震補強のために補強構造1Dを用いる場合、骨組みSと補強構造1Dとの構造が前記第一〜四実施形態の補強構造1,1A,1B,1Cと相違する。さらに、本実施形態の補強構造1Dでは、減衰部材の構成が前記各実施形態の減衰部材10,30,40と相違している。以下、相違点について詳しく説明する。
補強構造1Dにおいて、複数の補強部材2を上下左右に積層、並列した積層体2Aの構成は、前記各実施形態と略同様であるが、建物の階高に応じて上下方向の積層数が10段とされ、下から5段目に第二補強部材20Bが設けられている。積層体2Aの上端部である最上部の補強部材2は、上部固定手段としての上部連結金具8によって梁G2に固定され、積層体2Aの下端部である最下部の補強部材2は、下部固定手段としてのアンカーボルト5によって下階の梁G1に固定されている。また、積層体2Aは、最上部から2段目の補強部材2が側部連結手段としての側部連結金具9によって柱Cに連結されている。ここで、柱Cの断面は、十字型であり、梁Gの断面は、下方に向かって幅寸法が小さくなる略台形状に形成されている。
補強構造1において、第二補強部材20Bの内部に減衰部材50が設けられている。この減衰部材50は、図15、16にも示すように、第二補強部材20Bの上面部22及び下面部23にそれぞれ固定されて内方に延びる各2枚ずつの第一プレート51と、左右の側面部21にそれぞれ固定されて内方に延びる第二プレート52と、各第一プレート51の外側に対向して設けられる2枚の第三プレート53と、第一プレート11と第二プレート12との間に介挿される内側2層の粘弾性体54と、第一プレート11と第三プレート53との間に介挿される外側2層の粘弾性体55と、を有して構成されている。第一プレート51は、フランジ56が上面部22及び下面部23にそれぞれ固定されるL形鋼(アングル材)によって構成され、第二プレート52は、フランジ57が左右の側面部21にそれぞれ固定されるCT鋼のウェブによって構成されている。
上部連結金具8は、図17に示すように、最上部の補強部材2に固定されるH形鋼からなる連結梁81と、この連結梁81に固定される鋼板製のブラケット82と、これらの連結梁81とブラケット82とに溶接固定される補強スチフナ83と、ブラケット82と梁G2の両側面との間に設けられる一対の当て板84と、を備えて構成されている。ブラケット82は、連結梁81の上フランジに溶接固定される底面部821と、底面部821の両側端縁から上方に立ち上がる一対の側面部822と、を有して断面コ字形に形成され、一対の側面部822には、それぞれ4箇所ずつにナット85が溶接固定されている。これらのナット85には、それぞれボルト86が螺合され、これらのボルト86の先端が当て板84に当接されている。当て板84と梁G2の側面との間には、滑り止めの摩擦パッド(不図示)が設けられ、締め付けたボルト86と当て板84とを介してブラケット82が梁G2に対して移動不能に連結されている。
側部連結金具9は、図18に示すように、最上部から2段目の補強部材2に固定される鋼板製のブラケット91と、ブラケット91と柱Cの両側面との間に設けられる一対の当て板92と、を備えて構成されている。ブラケット91は、補強部材2に締結具7で固定される底面部911と、底面部9111の両側端縁から柱Cに向かって延びる一対の側面部912と、を有して断面コ字形に形成され、一対の側面部912には、それぞれ4箇所ずつにナット93が溶接固定されている。これらのナット93には、それぞれボルト94が螺合され、これらのボルト94の先端が当て板92に当接されている。当て板92と柱Cの側面との間には、滑り止めの摩擦パッド(不図示)が設けられ、締め付けたボルト94と当て板92とを介してブラケット91が柱Cに対して移動不能に連結されている。
このような第五実施形態の補強構造1Dの動作について、図19も参照して説明する。地震等の外乱が建物に入力して層間変位が生じると、積層された複数の補強部材2の各々にも水平方向のせん断変形が生じる。第一補強部材20Aよりも変形しやすい第二補強部材20Bが大きくせん断変形すると、減衰部材50は、図19に示すように、上面部22及び下面部23に固定された第一プレート51が左右方向に相対移動するとともに、一方の側面部21に固定された第二プレート52が上方に回動し、他方の側面部21に固定された第二プレート52が下方に回動し、これらの第一プレート51と第二プレート52との間に相対変位が生じることとなる。このような相対変位が生じると、第一プレート51と第二プレート52との間に介挿された粘弾性体54がせん断変形する。
さらに、上下の第一プレート51間の相対移動に伴い、第一プレート51と第三プレート53との間に相対変位が生じ、第一プレート51と第三プレート53との間に介挿された粘弾性体55がせん断変形する。このように粘弾性体54,55に変形が生じると、その変形速度に応じた減衰力が発揮され、粘弾性体54,55によって水平力のエネルギー吸収が行われる。従って、外乱の入力エネルギーが粘弾性体54,55により消費されることで、建物の揺れが抑制され、柱Cや梁G1,G2の損傷を低減させることができる。なお、図19では、補強部材2にせん断変形が生じる場合について説明したが、前記第二実施形態のような曲げ変形(引っ張り変形と圧縮変形)が生じる場合においても、第一〜第三プレート51,52,53の間に相対変位が生じ、その変位に応じて粘弾性体54,55がせん断変形することから、粘弾性体54,55によるエネルギー吸収が可能となる。
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
例えば、前記実施形態では、柱C、梁Gが鉄筋コンクリート造の骨組みSに補強構造1,1A,1B,1C,1Dを設けたが、骨組みSは、鉄筋コンクリート造に限らず、鉄骨造であってもよいし、鉄骨鉄筋コンクリート造、木造(軸組構造、枠組み壁構造、大断面集成材ラーメン構造)等であってもよい。また、本発明の補強構造1,1A,1B,1C,1Dは、事務所ビルや商業ビル、官公庁、学校、図書館、住宅、倉庫等に限らず、任意の用途の建物に適用可能である。さらに、本発明の補強構造1,1A,1B,1C,1Dは、新築の建物の施工時に骨組みに組み込まれてもよいし、既存の建物に対して後から取り付けられる耐震補強としても利用可能である。耐震補強として利用される場合には、補強構造1,1A,1B,1C,1Dを骨組みSの内部に設けてもよいし、骨組みSの外部に設けてもよい。
また、前記実施形態では、補強構造1,1A,1B,1Cの積層体2Aが複数の補強部材2を上下14段、左右3列に積層、並列して構成されていたが、補強部材2を積層させる段数、並列させる列数は、任意に設定可能であり、建物の階高や柱スパン等に応じて適宜に設定されればよい。また、補強構造1,1A,1B,1C,1Dにおいて、減衰部材10,30,40,50の設置箇所数は適宜に設定可能であり、前記第一〜四実施形態のように、高さ方向の二段に設置されるものに限らず、一段であってもよいし、三段以上に設置されてもよい。さらに、減衰部材としては、前記実施形態のように2枚のプレート間に粘弾性体が介挿されたものに限らず、鋼材の履歴エネルギーを利用した履歴ダンパーや、摩擦エネルギーを利用した摩擦ダンパーなどであってもよい。