JP3730518B2 - 磁気記録媒体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高密度磁気記録に適する磁性膜を備えた磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年のコンピュータの処理速度向上に伴って、情報の記憶・再生を行う磁気記憶装置(HDD)には高速・高密度化が要求されている。これに伴い、多粒子系の磁気記録媒体において磁性粒子の孤立化・微細化が進んだ結果、近年熱揺らぎによる記録磁化の劣化が問題となってきている。磁気記録媒体の熱揺らぎ耐性の指標として一般にKuV/kT(ここでKu、V、k、Tはそれぞれ、磁気異方性エネルギー、磁化反転における活性化体積、ボルツマン定数、絶対温度を表わす)が用いられる。この値が80以上であれば、その磁気記録媒体は熱的に安定であるとされている。高密度化に伴って磁性微粒子の粒径が約3nm、膜厚が約10nm程度まで微細化が進むとすると、107erg/cc以上の高Kuが必要となる。室温で高Kuを有する磁性材料としては、FePt、FePd、CoPtといった規則相合金系材料が知られており、これらの材料を磁性層として用いることにより熱揺らぎ耐性を著しく高めることができる。これらの材料は、面心正方格子(fct)において{001}面を磁性元素が、{002}面を貴金属元素が(あるいは{002}面を磁性元素が、{001}面を貴金属元素が)それぞれ占める、L10型(CuAu−I型)構造といわれる結晶構造をとった場合のみ、そのc軸方向に非常に大きなKuが発現する。しかし、スパッタリングや電子ビーム蒸着といったHDD媒体作製プロセスで通常用いられる成膜法のみでは、前述の結晶構造を有する規則相を形成することができない。ほぼ完全な規則相を形成するには、基板を500℃以上の高温に加熱した状態で成膜を行うか、または成膜後に500℃以上の高温で熱処理(アニール)を行う必要がある。しかし、現行のHDD媒体の生産プロセスにおいて通常用いられている成膜装置では、このような高温のプロセスは現実的ではない。したがって、規則相合金系材料を用いた磁気記録媒体の実用化には、基板温度またはアニール温度の低温化が必要である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、熱揺らぎ耐性を高める材料として規則相合金系材料は有望であるが、その実用化には規則化に必要な基板温度またはアニール温度を低下させる必要がある。
【0004】
本発明の目的は、規則相形成に必要な基板温度またはアニール温度を低減させることができる磁気記録媒体を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の磁気記録媒体は、基板と、該基板上に形成された下地層と、該下地層上に形成された磁性層と、該磁性層上に形成された保護層とを具備し、前記磁性層はFeおよびPtを主成分とするL10構造を有する結晶粒からなり、該結晶粒内にCu、Au、Zn、SnおよびPdからなる群より選択される少なくとも一種の元素が0.1から50原子パーセントの範囲で存在していることを特徴とする。
【0006】
本発明の他の磁気記録媒体は、基板と、該基板上に形成された下地層と、該下地層上に形成された磁性層と、該磁性層上に形成された保護層とを具備し、前記磁性層はFeおよびPdを主成分とするL10構造を有する結晶粒からなり、該結晶粒内にCu、Au、ZnおよびSnからなる群より選択される少なくとも一種の元素が0.1から50原子パーセントの範囲で存在していることを特徴とする。
【0007】
本発明の磁気記録媒体は、基板と、該基板上に形成された下地層と、該下地層上に形成された磁性層と、該磁性層上に形成された保護層とを具備し、前記磁性層はCoおよびPtを主成分とするL10構造を有する結晶粒からなり、該結晶粒内にNiおよびAuからなる群より選択される少なくとも一種の元素が0.1から50原子パーセントの範囲で存在していることを特徴とする。
【0008】
本発明の磁気記録媒体は7kOe以上の保磁力を有することが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の磁気記録媒体は図1に示す構造を有する。図1に示すように、基板1上に、下地層2、磁性層3および保護層4が順次積層されている。
【0010】
本発明において用いられる基板は、ガラス、セラミックス等の非晶質または多結晶の材料が望ましい。ここで、多結晶基板とは、結晶内に一つ以上の結晶粒界が存在する結晶のことである。また、硬質の材料からなる基板に金属またはセラミックス等を堆積したものを基板とすることもできる。
【0011】
本発明に用いられる下地層は磁性層の磁気記録媒体としての機能を補強するものである。具体的には、磁性層と基板との間に挿入される薄膜であり、一つの材料系からなる層でもよいし、いくつかの層から構成される多層膜であってもよい。下地層は一部分が前記の条件を満たしているものであれば、薄膜状である必要もない。
【0012】
本発明に用いられる磁性層は、磁性金属元素および貴金属元素を主成分としL10型構造を有する規則合金結晶粒中に、一種以上の添加元素を固溶させたものである。L10型(CuAu−I型)構造とは、面心正方格子(fct)において{001}面を磁性元素が、{002}面を貴金属元素が(あるいは{002}面を磁性元素が、{001}面を貴金属元素が)それぞれ占める結晶構造のことをいう。なお、L10構造は二元系合金の結晶構造の一つであり、添加元素を固溶させた3元系以上の合金は厳密にはL10構造とはいえないが、本発明においては主成分である磁性元素と貴金属元素の2元素からなる副格子がL10構造をとっている場合には、その結晶構造はL10構造であるとみなしている。また、磁性層の全体が完全にL10型構造をとっている必要はなく、磁性層中において規則相(L10構造を有する相)の不規則相に対する体積比が1:1以上であれば十分である。
【0013】
上記のように、磁性層は磁性元素と貴金属元素と添加元素を含有する。本発明で用いられる添加元素は、以下のような性質を有する。すなわち、添加元素と磁性元素との固溶熱(エンタルピー)と、添加元素と貴金属元素との固溶熱が互いに異符号となるような添加元素が用いられる。添加元素は1種または2種以上用いてもよい。合金系を正則溶体とみなした場合、一般にA−B二元系合金間の固溶熱ΔHA-Bは次のように表わされる。
【0014】
ΔHA-B=xABΩAB
ここで、xA、xBはそれぞれA、Bのモル分率、ΩABは相互作用パラメーターと呼ばれる物理量である。A−A、B−B、A−B原子対の結合エネルギーをそれぞれEAA、EBB、EABとすると、ΩABは{EAB−(EAA+EBB)/2}に比例する。ΩAB>0すなわちΔHA-B>0のときA原子とB原子は互いに反発し、ΩAB<0すなわちΔHA-B<0のときA原子とB原子は互いに引き合う傾向にある。したがって、添加元素は磁性元素および貴金属元素の一方と反発し、他方と引き合う傾向にある元素である。
【0015】
このような添加元素Xを例えばFePt結晶粒に添加すると、図2に示すようなL10型構造をとる。この図に示されるように、最近接サイトに添加原子Xと引き合う傾向にあるA(Pt)原子が配置され、第二近接サイトにX原子と反発する傾向にあるB(Fe)原子が配置されている。一方、図3にA(Pt)原子とB(Fe)原子が不規則に配置されている構造を示す。このように添加元素XをFePt結晶粒に添加した場合には、図2のL10型構造をとる方が、図3の不規則な構造をとるよりも安定になるため、規則化の駆動力が増大する。したがって、磁性元素と貴金属元素に添加元素を添加した場合には、添加しない場合に比べて低温で規則化させることができる。
【0016】
次に、本発明に用いられる磁性層の構成元素について、より詳細に説明する。
Fe−Pt系合金に対しては、Cu、Au、Zn、SnおよびPdからなる群より選択される少なくとも一種の元素が添加される。これらの添加元素はいずれも、Feとの固溶熱が正の値を示し、かつPtとの固溶熱が負の値を示す。したがって、添加元素の添加効果によりFePtの規則化が促進され、FeおよびPtを主成分とするL10型構造を有する結晶粒中に上記添加元素が固溶した構造が得られる。添加元素のFePt結晶粒中への固溶量は0.1〜50原子パーセントの範囲であることが好ましい。添加元素の固溶量が上記の範囲であれば、磁性層のKuが大きくなる。また、Fe:Ptの組成比は4:6〜6:4の範囲にあることが好ましい。組成比が上記の範囲であれば、L10構造を有する規則相が形成される。
【0017】
Fe−Pd系合金に対しては、Cu、Au、ZnおよびSnからなる群より選択される少なくとも一種の元素が添加される。これらの添加元素はいずれも、Feとの固溶熱が正の値を示し、かつPdとの固溶熱が負の値を示す。したがって、添加元素の添加効果によりFePdの規則化が促進され、FeおよびPdを主成分とするL10型構造を有する結晶粒中に上記添加元素が固溶した構造が得られる。添加元素のFePd結晶粒中への固溶量は0.1〜50原子パーセントの範囲であることが好ましい。添加元素の固溶量が上記の範囲であれば、磁性層のKuが大きくなる。また、Fe:Pdの組成比は4:6〜6:4の範囲にあることが好ましい。組成比が上記の範囲であれば、L10構造を有する規則相が形成される。
【0018】
Co−Pt系合金に対してはNiおよびAuからなる群より選択される少なくとも一種の元素が添加される。これらの添加元素はいずれも、Coとの固溶熱が正の値を示し、かつPtとの固溶熱が負の値を示す。したがって、添加元素の添加効果によりCoPtの規則化が促進され、CoおよびPdを主成分とするL10型構造を有する結晶粒中に上記添加元素が固溶した構造が得られる。添加元素のFePd結晶粒中への固溶量は0.1〜50原子パーセントの範囲であることが好ましい。添加元素の固溶量が上記の範囲であれば、磁性層のKuが大きくなる。また、Co:Ptの組成比は4:6〜6:4の範囲にあることが好ましい。組成比が上記の範囲であれば、L10構造を有する規則相が形成される。
【0019】
磁性層が規則構造をとっているか否かは、X線回折や電子線回折で確認することができる。磁性層が規則構造をとっている場合、不規則fcc構造では現れない(001)、(110)、(003)といった面からの回折ピークや回折スポットが観測される。
【0020】
なお、特開平9−320847号公報には、規則相合金に元素を添加することが開示されている。しかし、この公知例では実質的に磁性元素としてFeおよびCoを含有する合金しか記載されていない。しかも、この公知例では添加元素の添加量を規定しているものの、合金結晶中における添加元素の存在位置についての記載がなく、添加元素が規則合金に固溶している量と規則合金の結晶粒界などに析出している量が区別されていない。合金の規則化を促進するには添加元素が規則合金と固溶することが必要であり、したがって公知例に開示されている条件のみでは規則化を促進することはできない。また、公知例に開示されている添加元素には添加によってむしろ規則化を妨げる働きをする元素もふくまれており、したがって上記公知例に開示されている条件のみでは規則化に必要な基板温度またはアニール温度を低下させることはできない。また、公知例に開示されている添加元素には添加によってむしろ規則化を妨げる働きをする元素も含まれている。したがって、上記公知例の開示からは、規則化に要する基板温度またはアニール温度を低下できるという効果は示唆されない。
【0021】
本発明では添加元素の規則合金結晶中の固溶量を規定している。この場合、添加元素の固溶量とは、規則合金結晶粒内に存在する添加元素の量であり、結晶粒界などに存在する添加元素を含まない。規則合金結晶粒内の添加元素の同定および存在量の測定は分析TEM(透過型電子顕微鏡)などによって行うことができる。
【0022】
本発明における磁性層の厚さはシステムの要求値によって決定されるが、一般的に200nmよりも薄いことが好ましく、50nmより薄いことがより好ましい。ただし、0.5nmより薄いと連続膜とならず磁気記録媒体には適さない。
【0023】
本発明の磁気記録媒体を構成する各種薄膜の成膜方法としては真空蒸着、各種スパッタリング、化学気相成長、レーザーアブレーションを用いることができる。特に、磁性層は圧力5mTorr以上の雰囲気下でスパッタリングにより成膜することが好ましい。下地層や磁性層の成膜の際には、基板にRFやDC電力を投入するバイアススパッタ、基板へのイオンや中性子の照射などを行ってもよい。これらの処理は成膜中のみならず成膜後または成膜前に行っても構わない。
【0024】
【実施例】
本発明の実施例について説明する。
【0025】
実施例1
ガラス基板上に、MgOからなる厚さ10nmの下地層、厚さ50nmの磁性層、およびカーボンからなる厚さ5nmの保護層を成膜した。形成した磁性層は、Fe1-xPtx、Fe1-xPtx(Cu)Fe1-xPtx(Pd)、Fe1-xPtx(Au)、Fe1-xPtx(Sn)またはFe1-xPtx(Zn)である。MgO下地層はRFスパッタリングにより、磁性層および保護層はDCスパッタリングにより成膜した。磁性層は5mTorr以上の圧力で二元または三元同時スパッタリングにより成膜し、その組成は各ターゲットへの投入電力を変化させて制御した。成膜中、基板の加熱は行わなかった。成膜後、水素雰囲気中で300〜700℃の範囲で1時間のアニールを行った。
【0026】
アニール後に磁性層を構成する規則合金結晶の規則度SをX線回折法により評価した。規則度Sは、X線回折によって得られた(001)および(002)面による回折ピークの積分強度に基づいて次式により評価した。
【0027】
S=0.72(I001/I0021/2
ここで、I001およびI002はそれぞれ(001)および(002)面による回折ピークの積分強度である。
【0028】
磁性層のアニール後に、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたEDXによる規則合金結晶粒内の局所分析によって結晶粒内に存在する添加元素の量を測定し、結晶粒中への添加元素の固溶量y[at%]とした。媒体の磁気異方性エネルギーKuはトルク磁力計を用いて室温で測定した。媒体の膜面に垂直な方向における保磁力はSQUIDを用いて室温で測定した。
【0029】
図4は、Fe1-xPtx磁性層について、組成xと500℃でアニールした後の規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。0.4≦x≦0.6の範囲で規則合金結晶の規則度が向上することがわかった。また、Fe1-xPtx(Cu)、Fe1-xPtx(Pd)、Fe1-xPtx(Au)、Fe1-xPtx(Sn)およびFe1-xPtx(Zn)のそれぞれの磁性層も、添加元素の固溶量にかかわらず上記と同様の傾向を示した。
【0030】
図5は、x=0.5、添加元素の固溶量y=6at%である、Fe1-xPtx、Fe1-xPtx(Cu)、Fe1-xPtx(Pd)、Fe1-xPtx(Au)、Fe1-xPtx(Sn)およびFe1-xPtx(Zn)のそれぞれの磁性層について、アニール温度と規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。FePt磁性層ではアニール温度300℃では規則化が起こらずアニール温度400℃以上で規則化が起こる。FePtに添加元素を添加した磁性層ではいずれもアニール温度300℃以上で規則化が起こる。このように、添加元素の添加により低いアニール温度で結晶粒の規則化が起こることがわかった。
【0031】
図6は、300℃でアニールされたx=0.5であるFe1-xPtx(Cu)磁性層について、結晶粒内へのCuの固溶量y[at%]と規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。0.1≦y≦50の範囲で規則度の向上が確認された。他の添加元素についても同様の結果が得られた。
【0032】
図7は、300℃でアニールされたx=0.5であるFe1-xPtx(Cu)磁性層について、結晶粒内へのCuの固溶量y[at%]と基板面に対して垂直方向のKuとの関係を示す。0.1≦y≦50の範囲で1×107erg/cc以上の高Kuが得られた。Fe1-xPtx(Pd)、Fe1-xPtx(Au)、Fe1-xPtx(Sn)およびFe1-xPtx(Zn)のいずれの磁性層でも同様の結果が得られた。
【0033】
図8は、x=0.5、y=6at%である、Fe1-xPtx、Fe1-xPtx(Cu)Fe1-xPtx(Pd)、Fe1-xPtx(Au)、Fe1-xPtx(Sn)およびFe1-xPtx(Zn)のそれぞれの磁性層について、アニール温度と保磁力との関係を示す。Fe1-xPtx以外の全ての磁性層において、300℃以上のアニール温度で7kOe以上の保磁力が得られることがわかった。図8と同様の傾向は、組成比が0.4≦x≦0.6でかつ0.1≦y≦50の範囲にある、Fe1-xPtx以外の全ての磁性層で得られた。
【0034】
次に、成膜中にガラス基板を300〜700℃の各温度に加熱した状態で、ガラス基板上に、MgOからなる厚さ10nmの下地層、厚さ50nmの磁性層、カーボンからなる厚さ5nmの保護層を成膜した。形成した磁性層は、Fe1-xPtx、Fe1-xPtx(Cu)、Fe1-xPtx(Pd)、Fe1-xPtx(Au)、Fe1-xPtx(Sn)またはFe1-xPtx(Zn)である。成膜後のアニールは行わなかった。成膜後、上記と同様の方法で同様の評価を行った。
【0035】
図9は、基板温度500℃で成膜したFe1-xPtx磁性層について、組成xと規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。0.4≦x≦0.6の範囲で規則合金結晶の規則度が向上することがわかった。また、Fe1-xPtx(Cu)、Fe1-xPtx(Pd)、Fe1-xPtx(Au)、Fe1-xPtx(Sn)およびFe1-xPtx(Zn)のそれぞれの磁性層も、添加元素の固溶量にかかわらず上記と同様の傾向を示した。
【0036】
図10は、x=0.5、y=6at%である、Fe1-xPtx、Fe1-xPtx(Cu)Fe1-xPtx(Pd)、Fe1-xPtx(Au)、Fe1-xPtx(Sn)およびFe1-xPtx(Zn)のそれぞれの磁性層について、成膜時の基板温度と規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。FePt磁性層では基板温度300℃では規則化が起こらず基板温度400℃以上で規則化が起こる。FePtに添加元素を添加した磁性層ではいずれも基板温度300℃以上で規則化が起こる。このように、添加元素の添加により低い基板温度で結晶粒の規則化が起こることがわかった。
【0037】
図11は、基板温度300℃で成膜されたx=0.5であるFe1-xPtx(Cu)磁性層について、結晶粒内へのCuの固溶量y[at%]と規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。0.1≦y≦50の範囲で規則度の向上が確認された。他の添加元素についても同様の結果が得られた。
【0038】
図12は、基板温度300℃で成膜されたx=0.5であるFe1-xPtx(Cu)磁性層について、結晶粒内へのCuの固溶量y[at%]と基板面に対して垂直方向のKuとの関係を示す。0.1≦y≦50の範囲で1×107erg/cc以上の高Kuが得られた。Fe1-xPtx(Pd)、Fe1-xPtx(Au)、Fe1-xPtx(Sn)およびFe1-xPtx(Zn)のいずれの磁性層でも同様の結果が得られた。
【0039】
図13は、x=0.5、y=6at%である、Fe1-xPtx、Fe1-xPtx(Cu)、Fe1-xPtx(Pd)、Fe1-xPtx(Au)、Fe1-xPtx(Sn)およびFe1-xPtx(Zn)のそれぞれの磁性層について、成膜時の基板温度と保磁力との関係を示す。Fe1-xPtx以外の全ての磁性層において、300℃以上の基板温度で7kOe以上の保磁力が得られることがわかった。図13と同様の傾向は、組成比が0.4≦x≦0.6でかつ0.1≦y≦50の範囲にある、Fe1-xPtx以外の全ての磁性層で得られた。
【0040】
実施例2
ガラス基板上に、MgOからなる厚さ10nmの下地層、厚さ50nmの磁性層、およびカーボンからなる厚さ5nmの保護層を成膜した。形成した磁性層は、Fe1-xPdx、Fe1-xPdx(Cu)、Fe1-xPdx(Au)、Fe1-xPdx(Sn)またはFe1-xPdx(Zn)である。MgO下地層はRFスパッタリングにより、磁性層および保護層はDCスパッタリングにより成膜した。磁性層は5mTorr以上の圧力で二元または三元同時スパッタリングにより成膜し、その組成は各ターゲットへの投入電力を変化させて制御した。成膜中、基板加熱は行わなかった。成膜後、水素雰囲気中で300〜700℃の範囲で1時間のアニールを行った。
【0041】
アニール後の磁性層の組成および磁気特性について実施例1と同様の方法で同様の測定を行った。規則合金結晶の規則度Sは、X線回折によって得られた(001)および(002)面による回折ピークの積分強度に基づいて次式により評価した。
【0042】
S=1.23(I001/I0021/2
ここで、I001およびI002はそれぞれ(001)および(002)面による回折ピークの積分強度である。
【0043】
図14は、Fe1-xPdx媒体について、組成xと500℃でアニールした後の規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。0.4≦x≦0.6の範囲で規則合金結晶の規則度が向上することがわかった。また、Fe1-xPdx(Cu)、Fe1-xPdx(Au)、Fe1-xPdx(Sn)およびFe1-xPdx(Zn)のそれぞれの磁性層も、添加元素の固溶量にかかわらず上記と同様の傾向を示した。
【0044】
図15は、x=0.5、添加元素の固溶量y=6at%である、FePd、Fe1-xPdx(Cu)、Fe1-xPdx(Au)、Fe1-xPdx(Sn)およびFe1-xPdx(Zn)のそれぞれの磁性層について、アニール温度と規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。FePd磁性層ではアニール温度300℃では規則化が起こらずアニール温度400℃以上で規則化が起こる。FePdに添加元素を添加した磁性層ではいずれもアニール温度300℃以上で規則化が起こる。このように、添加元素の添加により低いアニール温度で結晶粒の規則化が起こることがわかった。
【0045】
図16は、300℃でアニールされたx=0.5であるFe1-xPdx(Cu)磁性層について、結晶粒内へのCuの固溶量y[at%]と規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。0.1≦y≦50の範囲で規則度の向上が確認された。他の添加元素についても同様の結果が得られた。
【0046】
図17は、300℃でアニールされたx=0.5であるFe1-xPdx(Cu)磁性層について、結晶粒内へのCuの固溶量y[at%]と基板面に対して垂直方向のKuとの関係を示す。0.1≦y≦50の範囲で1×107erg/cc以上の高Kuが得られた。Fe1-xPdx(Au)、Fe1-xPdx(Sn)およびFe1-xPdx(Zn)のいずれの磁性層でも同様の結果が得られた。
【0047】
図18は、x=0.5、y=6at%である、Fe1-xPdx、Fe1-xPdx(Cu)、Fe1-xPdx(Au)、Fe1-xPdx(Sn)およびFe1-xPdx(Zn)のそれぞれの磁性層について、アニール温度と保磁力との関係を示す。Fe1-xPdx以外の全ての磁性層において、300℃以上のアニール温度で7kOe以上の保磁力が得られることがわかった。図18と同様の傾向は、組成比が0.4≦x≦0.6でかつ0.1≦y≦50の範囲にある、Fe1-xPdx以外の全ての磁性層で得られた。
【0048】
次に、成膜中にガラス基板を300〜700℃の各温度に加熱した状態で、ガラス基板上に、MgOからなる厚さ10nmの下地層、厚さ50nmの磁性層、カーボンからなる厚さ5nmの保護層を成膜した。形成した磁性層は、Fe1-xPdx、Fe1-xPdx(Cu)、Fe1-xPdx(Au)、Fe1-xPdx(Sn)またはFe1-xPdx(Zn)である。成膜後のアニールは行わなかった。成膜後、上記と同様の方法で同様の評価を行った。
【0049】
図19は、基板温度500℃で成膜したFe1-xPdx磁性層について、組成xと規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。0.4≦x≦0.6の範囲で規則合金結晶の規則度が向上することがわかった。また、Fe1-xPdx(Cu)、Fe1-xPdx(Au)、Fe1-xPdx(Sn)およびFe1-xPdx(Zn)のそれぞれの磁性層も、添加元素の固溶量にかかわらず上記と同様の傾向を示した。
【0050】
図20は、x=0.5、y=6at%である、FePd、Fe1-xPdx(Cu)、Fe1-xPdx(Au)、Fe1-xPdx(Sn)およびFe1-xPdx(Zn)のそれぞれの磁性層について、成膜時の基板温度と規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。FePd磁性層では基板温度300℃では規則化が起こらず基板温度400℃以上で規則化が起こる。FePdに添加元素を添加した磁性層ではいずれも基板温度300℃以上で規則化が起こる。このように、添加元素の添加により低い基板温度で結晶粒の規則化が起こることがわかった。
【0051】
図21は、基板温度300℃で成膜されたx=0.5であるFe1-xPdx(Cu)磁性層について、結晶粒内へのCuの固溶量y[at%]と規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。0.1≦y≦50の範囲で規則度の向上が確認された。他の添加元素についても同様の結果が得られた。
【0052】
図22は、基板温度300℃で成膜されたx=0.5であるFe1-xPdx(Cu)磁性層について、結晶粒内へのCuの固溶量y[at%]と基板面に対して垂直方向のKuとの関係を示す。0.1≦y≦50の範囲で1×107erg/cc以上の高Kuが得られた。Fe1-xPdx(Au)、Fe1-xPdx(Sn)およびFe1-xPdx(Zn)のいずれの磁性層でも同様の結果が得られた。
【0053】
図23は、x=0.5、y=6at%である、Fe1-xPdx、Fe1-xPdx(Cu)、Fe1-xPdx(Au)、Fe1-xPdx(Sn)およびFe1-xPdx(Zn)のそれぞれの磁性層について、成膜時の基板温度と保磁力との関係を示す。Fe1-xPdx以外の全ての磁性層において、300℃以上の基板温度で7kOe以上の保磁力が得られることがわかった。図23と同様の傾向は、組成比が0.4≦x≦0.6でかつ0.1≦y≦50の範囲にある、Fe1-xPdx以外の全ての磁性層で得られた。
【0054】
実施例3
ガラス基板上に、MgOからなる厚さ10nmの下地層、厚さ50nmの磁性層、およびカーボンからなる厚さ5nmの保護層を成膜した。形成した磁性層は、Co1-xPtx、Co1-xPtx(Ni)およびCo1-xPtx(Au)である。MgOはRFスパッタリングにより、磁性層および保護層はDCスパッタリングにより成膜した。磁性層は5mTorr以上の圧力で二元または三元同時スパッタリングにより成膜し、その組成は各ターゲットへの投入電力を変化させて制御した。成膜中、基板の加熱は行わなかった。成膜後、水素雰囲気中で300〜700℃の範囲で1時間のアニールを行った。
【0055】
アニール後の磁性層の組成および磁気特性について実施例1と同様の方法で同様の測定を行った。規則合金結晶の規則度Sは、X線回折によって得られた(001)および(002)面による回折ピークの積分強度に基づいて次式により評価した。
【0056】
S=0.74(I001/I0021/2
ここで、I001およびI002はそれぞれ(001)および(002)面による回折ピークの積分強度である。
【0057】
図24は、Co1-xPtx媒体について、組成xと500℃でアニールした後の規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。0.4≦x≦0.6の範囲で規則合金結晶の規則度が向上することがわかった。また、Co1-xPtx(Ni)およびCo1-xPtx(Au)のそれぞれの磁性層も、添加元素の固溶量にかかわらず上記と同様の傾向を示した。
【0058】
図25は、x=0.5、添加元素の固溶量y=6at%である、CoPt、Co1-xPtx(Ni)およびCo1-xPtx(Au)のそれぞれの磁性層について、アニール温度と規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。CoPt磁性層ではアニール温度300℃では規則化が起こらずアニール温度400℃以上で規則化が起こる。CoPtに添加元素を添加した磁性層ではいずれもアニール温度300℃以上で規則化が起こる。このように、添加元素の添加により低いアニール温度で結晶粒の規則化が起こることがわかった。
【0059】
図26は、300℃でアニールされたx=0.5であるCo1-xPtx(Ni)磁性層について、結晶粒内へのNiの固溶量y[at%]と規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。0.1≦y≦50の範囲で規則度の向上が確認された。他の添加元素についても同様の結果が得られた。
【0060】
図27は、300℃でアニールされたx=0.5であるCo1-xPtx(Ni)磁性層について、結晶粒内へのNiの固溶量y[at%]と基板面に対して垂直方向のKuとの関係を示す。0.1≦y≦50の範囲で1×107erg/cc以上の高Kuが得らた。Co1-xPtx(Au)磁性層でも同様の結果が得られた。
【0061】
図28は、x=0.5、y=6at%である、Co1-xPtx、Co1-xPtx(Ni)およびCo1-xPtx(Au)のそれぞれの磁性層について、アニール温度と保磁力との関係を示す。Co1-xPtx以外の全ての磁性層において、300℃以上のアニール温度で7kOe以上の保磁力が得られることがわかった。図28と同様の傾向は、組成比が0.4≦x≦0.6でかつ0.1≦y≦50の範囲にある、Co1-xPtx以外の全ての磁性層で得られた。
【0062】
次に、成膜中にガラス基板を300〜700℃の各温度に加熱した状態で、ガラス基板上に、MgOからなる厚さ10nmの下地層、厚さ50nmの磁性層、カーボンからなる厚さ5nmの保護層を成膜した。形成した磁性層は、Co1-xPtx、Co1-xPtx(Ni)およびCo1-xPtx(Au)である。成膜後のアニールは行わなかった。成膜後、上記と同様の方法で同様の評価を行った。
【0063】
図29は、基板温度500℃で成膜したCo1-xPtx磁性層について、組成xと規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。0.4≦x≦0.6の範囲で規則合金結晶の規則度が向上することがわかった。また、Co1-xPtx(Ni)およびCo1-xPtx(Au)のそれぞれの磁性層も、添加元素の固溶量にかかわらず上記と同様の傾向を示した。
【0064】
図30は、x=0.5、y=6at%である、CoPt、Co1-xPtx(Ni)およびCo1-xPtx(Au)のそれぞれの磁性層について、成膜時の基板温度と規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。CoPt磁性層では基板温度300℃では規則化が起こらず基板温度400℃以上で規則化が起こる。CoPtに添加元素を添加した磁性層ではいずれも基板温度300℃以上で規則化が起こる。このように、添加元素の添加により低い基板温度で結晶粒の規則化が起こることがわかった。
【0065】
図31は、基板温度300℃で成膜されたx=0.5であるCo1-xPtx(Ni)磁性層について、結晶粒内へのNiの固溶量y[at%]と規則合金結晶の規則度Sとの関係を示す。0.1≦y≦50の範囲で規則度の向上が確認された。他の添加元素についても同様の結果が得られた。
【0066】
図32は、基板温度300℃で成膜されたx=0.5であるCo1-xPtx(Ni)磁性層について、結晶粒内へのNiの固溶量y[at%]と基板面に対して垂直方向のKuとの関係を示す。0.1≦y≦50の範囲で1×107erg/cc以上の高Kuが得られた。Co1-xPtx(Au)磁性層でも同様の結果が得られた。
【0067】
図33は、x=0.5、y=6at%である、Co1-xPtx、Co1-xPtx(Ni)およびCo1-xPtx(Au)のそれぞれの磁性層について、成膜時の基板温度と保磁力との関係を示す。Co1-xPtx以外の全ての磁性層において、300℃以上の基板温度で7kOe以上の保磁力が得られることがわかった。図33と同様の傾向は、組成比が0.4≦x≦0.6でかつ0.1≦y≦50の範囲にあるCo1-xPtx以外の全ての磁性層で得られた。
【0068】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、低い基板温度またはアニール温度で規則相を形成でき、高密度化に好適な高Kuを示す磁気記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体の断面図。
【図2】FePtX規則相の結晶構造を示す模式図。
【図3】FePt不規則相の結晶構造を示す模式図。
【図4】実施例1の磁気記録媒体について、組成と規則度との関係を示す図。
【図5】実施例1の磁気記録媒体について、アニール温度と規則度との関係を示す図。
【図6】実施例1の磁気記録媒体について、添加元素の固溶量と規則度との関係を示す図。
【図7】実施例1の磁気記録媒体について、添加元素の固溶量とKuとの関係を示す図。
【図8】実施例1の磁気記録媒体について、アニール温度と保磁力との関係を示す図。
【図9】実施例1の磁気記録媒体について、組成と規則度との関係を示す図。
【図10】実施例1の磁気記録媒体について、成膜時の基板温度と規則度との関係を示す図。
【図11】実施例1の磁気記録媒体について、添加元素の固溶量と規則度との関係を示す図。
【図12】実施例1の磁気記録媒体について、添加元素の固溶量とKuとの関係を示す図。
【図13】実施例1の磁気記録媒体について、成膜時の基板温度と保磁力との関係を示す図。
【図14】実施例2の磁気記録媒体について、組成と規則度との関係を示す図。
【図15】実施例2の磁気記録媒体について、アニール温度と規則度との関係を示す図。
【図16】実施例2の磁気記録媒体について、添加元素の固溶量と規則度との関係を示す図。
【図17】実施例2の磁気記録媒体について、添加元素の固溶量とKuとの関係を示す図。
【図18】実施例2の磁気記録媒体について、アニール温度と保磁力との関係を示す図。
【図19】実施例2の磁気記録媒体について、組成と規則度との関係を示す図。
【図20】実施例2の磁気記録媒体について、成膜時の基板温度と規則度との関係を示す図。
【図21】実施例2の磁気記録媒体について、添加元素の固溶量と規則度との関係を示す図。
【図22】実施例2の磁気記録媒体について、添加元素の固溶量とKuとの関係を示す図。
【図23】実施例2の磁気記録媒体について、成膜時の基板温度と保磁力との関係を示す図。
【図24】実施例3の磁気記録媒体について、組成と規則度との関係を示す図。
【図25】実施例3の磁気記録媒体について、アニール温度と規則度との関係を示す図。
【図26】実施例3の磁気記録媒体について、添加元素の固溶量と規則度との関係を示す図。
【図27】実施例3の磁気記録媒体について、添加元素の固溶量とKuとの関係を示す図。
【図28】実施例3の磁気記録媒体について、アニール温度と保磁力との関係を示す図。
【図29】実施例3の磁気記録媒体について、組成と規則度との関係を示す図。
【図30】実施例3の磁気記録媒体について、成膜時の基板温度と規則度との関係を示す図。
【図31】実施例3の磁気記録媒体について、添加元素の固溶量と規則度との関係を示す図。
【図32】実施例3の磁気記録媒体について、添加元素の固溶量とKuとの関係を示す図。
【図33】実施例3の磁気記録媒体について、成膜時の基板温度と保磁力との関係を示す図。
【符号の説明】
1…基板
2…下地層
3…磁性層
4…保護層

Claims (4)

  1. 基板と、該基板上に形成された下地層と、該下地層上に形成された磁性層と、該磁性層上に形成された保護層とを具備し、前記磁性層はFeおよびPtを主成分とするL10構造を有する結晶粒からなり、該結晶粒内にCu、Au、Zn、SnおよびPdからなる群より選択される少なくとも一種の元素が0.1から50原子パーセントの範囲で存在していることを特徴とする磁気記録媒体。
  2. 基板と、該基板上に形成された下地層と、該下地層上に形成された磁性層と、該磁性層上に形成された保護層とを具備し、前記磁性層はFeおよびPdを主成分とするL10構造を有する結晶粒からなり、該結晶粒内にCu、Au、ZnおよびSnからなる群より選択される少なくとも一種の元素が0.1から50原子パーセントの範囲で存在していることを特徴とする磁気記録媒体。
  3. 基板と、該基板上に形成された下地層と、該下地層上に形成された磁性層と、該磁性層上に形成された保護層とを具備し、前記磁性層はCoおよびPtを主成分とするL10構造を有する結晶粒からなり、該結晶粒内にNiおよびAuからなる群より選択される少なくとも一種の元素が0.1から50原子パーセントの範囲で存在していることを特徴とする磁気記録媒体。
  4. 7kOe以上の保磁力を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
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