JP3727754B2 - セルロースアセテートフイルムおよび偏光板保護膜 - Google Patents

セルロースアセテートフイルムおよび偏光板保護膜 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セルロースアセテートフイルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
セルロースアセテート、特に58.0乃至62.5%の平均酢化度を有するセルロースアセテート(一般にセルローストリアセテートに分類されるもの)は、その強靭性と難燃性から様々な分野で使用されている。セルロースアセテートフイルムは、代表的な写真感光材料の支持体である。また、セルロースアセテートフイルムは、その光学的等方性から、近年市場の拡大している液晶表示装置にも用いられている。液晶表示装置における具体的な用途としては、偏光板の保護フイルムおよびカラーフィルターが代表的である。
液晶表示装置のような光学的な用途においては、写真感光材料の支持体の場合よりも、光学的性質や物性に関する要求が厳しい。具体的には、光学的等方性、透明性、機械的強度、耐久性や寸度安定性に関して、非常に優れた値が要求されている。
【0003】
セルロースアセテートは古くから利用されている材料であるから、従来から多くのセルロースアセテートフイルムの改良手段が提案されている。最近の例を挙げると、特開昭61−127740号公報には、N−メチルピロリドンを溶媒として使用して製造したセルローストリアセテートフイルムが記載されている。また、特開平2−69532号公報には、ポリオールを添加剤として含むセルローストリアセテートフイルムが記載されている。これらの公報に記載のフイルムでは、光学的性質や物性についての改良が認められる。しかし、これらの従来の改良手段を採用しても、最近の光学的性質や物性に関する厳しい要求には不充分であった。従来の方法の範疇でのセルロースアセテートフイルムの改良は、ほぼ限界に達しているとも言える。
【0004】
セルロースアセテートフイルムは、一般にソルベントキャスト法により製造する。ソルベントキャスト法では、セルロースアセテートを溶媒中に溶解した溶液(ドープ)を支持体上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。従来のセルロースアセテートフイルムの改良手段は、通常のソルベントキャスト法の範疇での改良であった。これに対して、特表平6−501040号公報には、ソルベントキャスト法に代えて、メルトキャスト法により製造したセルロースアセテートフイルムが記載されている。メルトキャスト法では、セルロースアセテートを加熱により溶融したもの(メルト)を支持体上に流延し、冷却してフイルムを形成する。しかし、ソルベントキャスト法の方が、メルトキャスト法よりも光学的性質や物性が優れたフイルムを製造することができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来の通常のソルベントキャスト法により製造するセルロースアセテートフイルムでは、光学的性質や物性の改良が既に限界に近づいている。従来の方法とは全く異なるメルトキャスト法も提案されているが、それにより得られたフイルムは、従来のソルベントキャスト法により製造したフイルムよりも、光学的性質や物性が劣っていた。
本発明の目的は、従来の方法では製造することができなかった、優れた光学的性質や物性を有するセルロースアセテートフイルムおよび偏光板保護膜を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、下記(1)〜(5)のセルロースアセテートフイルムおよび下記(6)の偏光板保護膜により達成された。
(1)58.0乃至62.5%の平均酢化度を有し、80μmの厚さに換算したヘイズが0.4%以下であり、さらに反射防止処理が実施されているセルロースアセテートフイルム。
(2)58.0乃至62.5%の平均酢化度を有し、80μmの厚さに換算したヘイズが0.4%以下であり、かつ80μmの厚さに換算した引裂強度が20g以上であり、さらに反射防止処理が実施されているセルロースアセテートフイルム。
(3)劣化防止剤を含む(1)または(2)に記載のセルロースアセテートフイルム。
(4)セルロースアセテートを有機溶媒で膨潤させた膨潤混合物を、−100乃至−10℃に冷却してから0乃至120℃に加温して得られたセルロースアセテートの有機溶媒溶液を、支持体上に塗布して得られた(1)または(2)に記載のセルロースアセテートフイルム。
(5)有機溶媒が、酢酸メチルを50重量%以上含む(4)に記載のセルロースアセテートフイルム。
(6)上記(1)乃至(5)のいずれか一つに記載のセルロースアセテートフイルムからなる偏光板保護膜。
【0007】
【発明の実施の形態】
[フイルムの特性]
本発明のセルロースアセテートフイルムは、80μmの厚さに換算したヘイズが0.4%以下である。80μmの厚さに換算した引裂強度は、20g以上であることが好ましい
80μmの厚さに換算したヘイズは、0.37%以下であることが好ましく、0.34%以下であることがより好ましく、0.32%以下であることがさらに好ましく、0.30%以下であることが最も好ましい。ヘイズの値は低いほど好ましいが、0.1%程度が下限値である。
ヘイズは、ヘイズ計(例えば、1001DP型、日本電色工業(株)製)を用いて簡単に測定できる。その測定結果から、フイルムの厚さが80μmの場合のヘイズの値に換算する。
【0008】
80μmの厚さに換算した引裂強度は、20.3g以上であることが好ましく、20.5g以上であることがより好ましく、20.7g以上であることがさらに好ましく、20.8g以上であることが最も好ましい。引裂強度の値は、大きいほど好ましいが40g程度が上限値である。
引裂強度は、50mm×64mmに切り出したサンプルを、ISO6383/2−1983の規格に従い、引裂に要する加重を求める。フイルムの流延方向と、それに垂直な方向とで測定し、それらの平均値を引裂強度とする。その測定結果から、フイルムの厚さが80μmの場合の引裂強度の値に換算する。
【0009】
以上のような優れた光学的性質および物性を有するセルロースアセテートフイルムは、後述する方法により製造することができる。後述する製造方法は、広い意味でのソルベントキャスト法に属する。しかし、通常の方法では、セルロースアセテートの有機溶媒溶液(ドープ)を常温または高温での攪拌により製造するのに対して、この方法では、低温処理を利用してドープを製造する。具体的には、セルロースアセテートを有機溶媒中に膨潤させた膨潤混合物を、−100乃至−10℃に冷却してから0至120℃に加温して、セルロースアセテートの有機溶媒溶液(ドープ)を得る。以下、この方法を冷却溶解法と称する。冷却溶解法を使用すると、従来の方法、すなわち通常のソルベントキャスト法やメルトキャスト法では達成することが実質的に不可能であった、前記の光学的性質および物性を有するセルロースアセテートフイルムを製造することができる。
【0010】
[セルロースアセテート]
本発明のフイルムに用いるセルロースアセテートは、平均酢化度(アセチル化度)が58.0から62.5%である。酢化度とは、セルロース単位重量当りの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定および計算に従う。
本明細書において、「セルロースアセテートフイルム」とは、フイルムを構成するポリマー成分が実質的に上記のセルロースアセテートからなることを意味する。『実質的に』とは、ポリマー成分の90重量%以上(好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上、最も好ましくは99重量%以上)を意味する。
フイルムの製造の原料としては、セルロースアセテート粒子を使用することが好ましい。使用する粒子の90重量%以上は、1乃至4mmの粒子径を有することが好ましい。また、使用する粒子の50重量%以上が2乃至3mmの粒子径を有することが好ましい。セルロースアセテート粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。
【0011】
[有機溶媒]
有機溶媒の例には、ケトン類(例、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、エステル類(例、蟻酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、酢酸ブチル)、エーテル類(例、ジオキサン、ジオキソラン、THF、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル)、炭化水素(例、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン)およびアルコール類(例、メタノール、エタノール)が含まれる。
なお、通常のソルベントキャスト法で普通に用いられているメチレンクロライドのようなハロゲン化炭化水素は、使用しないことが好ましい。具体的には、セルロースアセテートフイルムには、メチレンクロライドのようなハロゲン化炭化水素系溶媒の残留物が全く検出されないことが好ましい。ハロゲン化炭化水素は、地球環境や人体への影響の問題に加えて、本発明の優れた光学的性質または物性を有するセルロースアセテートフイルムを製造するためにも、使用しないことが好ましい。
【0012】
酢酸メチルを50重量%以上含む酢酸メチル系溶媒が特に好ましく用いられる。有機溶媒中の酢酸メチルの割合は、60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがさらに好ましい。酢酸メチルのみ(100重量%)を溶媒として使用することもできる。また、他の溶媒と酢酸メチルとを併用することで、製造する溶液の性質(例えば粘度)を調整してもよい。前述した有機溶媒は、酢酸メチルと併用できる。併用する溶媒としては炭化水素およびアルコール類が特に好ましい。二種類以上の有機溶媒を酢酸メチルと併用してもよい。
溶媒の沸点は、20乃至300℃であることが好ましく、30乃至200℃であることがより好ましく、40乃至100℃であることがさらに好ましく、50乃至80℃であることが最も好ましい。
【0013】
[膨潤工程]
膨潤工程においては、セルロースアセテートと有機溶媒とを混合し、セルロースアセテートを溶媒により膨潤させる。
膨潤工程の温度は、−10乃至55℃であることが好ましい。通常は室温で実施する。
セルロースアセテートと有機溶媒との比率は、最終的に得られる溶液の濃度に応じて決定する。一般に、混合物中のセルロースアセテートの量は、5乃至30重量%であることが好ましく、8乃至20重量%であることがさらに好ましく、10乃至15重量%であることが最も好ましい。
溶媒とセルロースアセテートとの混合物は、セルロースアセテートが充分に膨潤するまで攪拌することが好ましい。攪拌時間は、10乃至150分であることが好ましく、20乃至120分であることがさらに好ましい。
膨潤工程において、溶媒とセルロースアセテート以外の成分、例えば、可塑剤、劣化防止剤、染料や紫外線吸収剤を添加してもよい。
劣化防止剤としては、酸化防止剤(特開平3−199201号、同5−194789号、同5−271471号、同6−10754号の各公報に記載)を用いることが好ましい。劣化防止剤の添加量は、調製する溶液の0.01乃至1.0重量%であることが好ましく、0.1乃至0.2重量%であることがさらに好ましい。
【0014】
[冷却工程]
冷却工程においては、膨潤混合物を−100乃至−10℃に冷却する。冷却温度は、膨潤混合物が固化する温度であることが好ましい。
冷却速度は、1℃/分以上であることが好ましく、2℃/分以上であることがより好ましく、4℃/分以上であることがさらに好ましく、8℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を、冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
冷却工程においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却時に減圧すると、冷却時間を短縮することができる。減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
具体的な冷却手段としては、様々な方法または装置が採用できる。
【0015】
例えば、膨潤混合物を攪拌しながら筒状の容器内を搬送し、その容器の周囲から膨潤混合物を冷却すると、迅速に且つ均一に膨潤混合物を冷却することができる。そのためには、筒状の容器、膨潤混合物を攪拌しながら筒状の容器内を搬送するため容器内に設けられている螺旋状の搬送機構、および容器内の膨潤混合物を冷却するため容器の周囲に設けられている冷却機構からなる冷却装置が好ましく用いられる。
また、−105乃至−15℃に冷却した溶媒を膨潤混合物に添加して、より迅速に冷却することもできる。
【0016】
さらに、−100乃至−10℃に冷却された液体中へ、膨潤混合物を直径が0.1乃至20.0mmの糸状に押し出すことにより膨潤混合物することで、さらに迅速に膨潤混合物を冷却することも可能である。冷却に使用する液体については、特に制限はない。
冷却された液体中へ膨潤混合物を糸状に押し出すことにより膨潤混合物を冷却する方法を用いる場合、冷却工程と加温工程の間で、糸状の膨潤混合物と冷却用の液体とを分離する工程を行なうことが好ましい。
冷却工程において、膨潤混合物が糸状にゲル化しているため、膨潤混合物と冷却用の液体とを分離は簡単に実施できる。例えば、網を用いて、糸状の膨潤混合物を液体から取り出すことが可能である。網の代わりに、スリットまたは穴の開いた板状物を用いてもよい。網や板状物の材料は、液体に溶解しない材質であれば、特に制限はない。網や板状物は、各種金属や各種プラスチック材料から製造することができる。網の目の大きさ、スリットの巾や穴の大きさは、糸状物の直径に応じて、糸状物が通過しないように調整する。また、糸状の膨潤混合物を冷却装置から加温装置へ搬送するためのベルトを網状にして、分離と搬送を同時に実施することもできる。
【0017】
[加温工程]
加温工程においては、冷却した膨潤混合物を加温する。加温工程の最終温度は、通常は室温である。
加温速度は、1℃/分以上であることが好ましく、2℃/分以上であることがより好ましく、4℃/分以上であることがさらに好ましく、8℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を、加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
加圧しながら加温すると、加温時間を短縮することができる。加圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、溶解が不充分である場合は、冷却工程から加温工程までを繰り返して実施してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
具体的な加温手段としては、様々な方法または装置が採用できる。
【0018】
例えば、膨潤混合物を攪拌しながら筒状の容器内を搬送し、その容器の周囲から膨潤混合物を加温すると、迅速に且つ均一に膨潤混合物を加温することができる。そのためには、筒状の容器、膨潤混合物を攪拌しながら筒状の容器内を搬送するため容器内に設けられている螺旋状の搬送機構、および容器内の膨潤混合物を加温するため容器の周囲に設けられている加温機構からなる加温装置が好ましく用いられる。
【0019】
また、0乃至55℃に加温された液体中へ、直径が0.1乃至20.0mmの糸状の膨潤混合物を入れることにより膨潤混合物を加温することで、さらに迅速に膨潤混合物を加温することも可能である。
冷却工程において、膨潤混合物を糸状に押し出す方法を採用した場合は、その糸状の膨潤混合物を加温用の液体に投入すればよい。冷却工程を糸状押し出し以外の方法で実施した場合は、加温工程において冷却した膨潤混合物を加温用液体中へ糸状に押し出す。なお、糸状押し出しを連続して実施する場合は、製造したセルロースアセテート溶液を次の膨潤混合物の加温用の液体として順次利用することができる。すなわち、製造し加温された状態のセルロースアセテート溶液中に、糸状の膨潤混合物を投入し、混合物を迅速に加温してセルロースアセテート溶液を得る。
【0020】
さらに、冷却した膨潤混合物を筒状の容器内に導入し、容器内で膨潤混合物の流れを複数に分割し、分割された混合物の流れの向きを容器内で回転させ、この分割と回転とを繰り返しながら、容器の周囲から膨潤混合物を加温することもできる。上記のように、物質の流れを分割および回転させる仕切りが設けられた容器は、一般に静止型の混合器として知られている。代表的な静止型混合器であるスタチックミキサーTM(ケニックス社)では、物質の流れを二つに分割して右回りに180度回転させる右回りエレメントと、物質の流れを二つに分割して左回りに180度回転させる左回りエレメントとが、容器内で交互に90度ずらして配列されている。
さらにまた、溶媒が沸騰しないように調整された圧力下で、溶媒の沸点以上の温度まで膨潤混合物を加温してもよい。温度は、溶媒の種類に応じて決定するが一般に60乃至200℃である。圧力は、温度と溶媒の沸点との関係で決定するが、一般に1.2乃至20kgw/cm2 である。
【0021】
[溶液製造後の処理]
製造した溶液は、必要に応じて濃度の調整(濃縮または希釈)、濾過、温度調整、成分添加などの処理を実施することができる。
添加する成分は、セルロースアセテートフイルムの用途に応じて決定する。代表的な添加剤は、可塑剤、劣化防止剤(例、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤)、染料および紫外線吸収剤である。
【0022】
[フイルム製膜]
以上の冷却溶解法によるセルロースアセテートの有機溶媒溶液(ドープ)の調製は、通常のソルベントキャスト法における溶液調製(常温または高温での攪拌)と全く異なるが、得られた溶液からフイルムを製膜する工程は、通常のソルベントキャスト法と同様に実施できる。
セルロースアセテート溶液は、支持体上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。流延前の溶液は、固形分量が18乃至35%となるように濃度を調整することが好ましい。支持体表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。支持体としては、ドラムまたはバンドが用いられる。通常のソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
【0023】
セルロースアセテート溶液は、表面温度が10℃以下の支持体上に流延することが好ましい。流延した後2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフイルムを支持体から剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。
以上のように製造したセルロースアセテートフイルムは、その優れた光学的性質および物性を利用して、光学的な用途に用いる
光学的な用途において、フイルムにAR(反射防止)処理を実施する。フイルムにAG(アンチグレアー)処理を実施してもよい。AR処理を用いると、フイルムの光透過率を3%程度改善することができる。AR処理では、具体的にはフイルム上に反射防止膜(単膜、2層膜、あるいは3層以上の多層膜)を設けて、反射損失を減少させる。反射防止膜の具体的な素材については、薄膜ハンドブック(オーム社、昭和58年12月10日)の818〜821頁に記載がある。
【0024】
【実施例】
[実施例1]
下記の組成の混合物を、30℃においてディゾルバー溶解機で2000rpmにて20分間攪拌した。混合物を−75℃まで冷却した(冷却速度:2℃/分)後、45℃まで昇温して透明なドープを得た。
【0025】
Figure 0003727754
【0026】
ドープを濾過した後、表面温度が20℃のステンレス支持体上に流延した。流延量は、乾燥の厚さが80μmになるように調整した。60℃の乾燥風で乾燥し、揮発分量が30重量%の段階で、支持体からフイルムを剥離した。剥離したフイルムを100℃で60分乾燥し、フイルムサンプルを得た。フイルムの乾燥では、自由収縮させた。
フイルムサンプルのヘイズおよび引裂強度を測定した。具体的な測定条件は、前述した通りである。
さらに、フイルムサンプル1gを折り畳んで、15mlのガラスビンに入れ、温度90℃、相対湿度100%で100時間放置した。フイルムを取り出し、外観を観察し、酢酸臭の有無を確認して、フイルムの耐湿熱性を評価した。具体的には、外観の変化がなく、かつ酢酸臭のないものをA、外観の変化または酢酸臭が認められるものをBとして評価した。
以上の結果は、後述する第1表にまとめて示す。
【0027】
[比較例1]
下記の組成の混合物を、30℃においてディゾルバー溶解機で2000rpmにて3時間攪拌して透明なドープを得た。
ドープを濾過した後、表面温度が20℃のステンレス支持体上に流延した。流延量は、乾燥の厚さが80μmになるように調整した。60℃の乾燥風で乾燥し、揮発分量が30重量%の段階で、支持体からフイルムを剥離した。剥離したフイルムを100℃で60分乾燥し、フイルムサンプルを得た。フイルムの乾燥では、自由収縮させた。
フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を実施例1と同様に評価した。結果は、後述する第1表にまとめて示す。
【0028】
Figure 0003727754
【0029】
[比較例2]
比較例1の混合物組成(2)を用いた以外は、実施例1と同様に処理してフイルムサンプルを得た。
フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を実施例1と同様に評価した。結果は、後述する第1表にまとめて示す。
【0030】
[実施例2]
下記の混合物組成(3)を用いた以外は、実施例1と同様に処理してフイルムサンプルを得た。
フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を実施例1と同様に評価した。結果は、後述する第1表にまとめて示す。
【0031】
Figure 0003727754
【0032】
[比較例3]
下記の混合物組成(4)を用いた以外は、比較例1と同様に処理してフイルムサンプルを得た。
フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を実施例1と同様に評価した。結果は、後述する第1表にまとめて示す。
【0033】
Figure 0003727754
【0034】
[比較例4]
比較例3の混合物組成(4)を用いた以外は、実施例1と同様に処理してフイルムサンプルを得た。
フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を実施例1と同様に評価した。結果は、後述する第1表にまとめて示す。
【0035】
[実施例3]
下記の混合物組成(5)を用いた以外は、実施例1と同様に処理してフイルムサンプルを得た。
フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を実施例1と同様に評価した。結果は、後述する第1表にまとめて示す。
【0036】
Figure 0003727754
【0037】
[比較例5]
下記の混合物組成(6)を用いた以外は、比較例1と同様に処理してフイルムサンプルを得た。
フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を実施例1と同様に評価した。結果は、後述する第1表にまとめて示す。
【0038】
Figure 0003727754
【0039】
[比較例6]
比較例5の混合物組成(6)を用いた以外は、実施例1と同様に処理してフイルムサンプルを得た。
フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を実施例1と同様に評価した。結果は、後述する第1表にまとめて示す。
【0040】
[実施例4]
実施例3のフイルム製膜において、ステンレス支持体の温度を−10℃とし、揮発分が55重量%でフイルムを支持体から剥離し、100℃で60分乾燥した以外は、実施例1と同様に処理してフイルムサンプルを得た。
フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を実施例1と同様に評価した。結果は、下記第1表にまとめて示す。
【0041】
【表1】
Figure 0003727754
【0042】
以上の実施例1〜4で得られたセルロースアセテートフイルムに、公知のAR処理方法で反射防止膜を設けた。得られたAR処理フイルムを偏光板の保護膜として用いたところ、良好な結果が得られた。
【0043】
[実施例5]
実施例1で用いた混合物組成(1)に、t−ブチル化ヒドロキシトルエン(劣化防止剤)を、調製する溶液の0.1重量%の量で添加した。
実施例1と同様にフイルムサンプルを得て、フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を実施例1と同様に評価したところ、実施例1とほとんど同じ結果が得られた。
【0044】
[比較例7]
比較例1で用いた混合物組成(2)に、t−ブチル化ヒドロキシトルエン(劣化防止剤)を、調製する溶液の0.1重量%の量で添加した。
比較例1と同様にフイルムサンプルを得て、フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を比較例1と同様に評価したところ、比較例1とほとんど同じ結果が得られた。
【0045】
[比較例8]
比較例2で用いた混合物組成(2)に、t−ブチル化ヒドロキシトルエン(劣化防止剤)を、調製する溶液の0.1重量%の量で添加した。
比較例2と同様にフイルムサンプルを得て、フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を比較例2と同様に評価したところ、比較例2とほとんど同じ結果が得られた。
【0046】
[実施例6]
実施例2で用いた混合物組成(3)に、t−ブチル化ヒドロキシトルエン(劣化防止剤)を、調製する溶液の0.1重量%の量で添加した。
実施例2と同様にフイルムサンプルを得て、フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を実施例2と同様に評価したところ、実施例2とほとんど同じ結果が得られた。
【0047】
[比較例9]
比較例3で用いた混合物組成(4)に、t−ブチル化ヒドロキシトルエン(劣化防止剤)を、調製する溶液の0.1重量%の量で添加した。
比較例3と同様にフイルムサンプルを得て、フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を比較例3と同様に評価したところ、比較例3とほとんど同じ結果が得られた。
【0048】
[比較例10]
比較例4で用いた混合物組成(4)に、t−ブチル化ヒドロキシトルエン(劣化防止剤)を、調製する溶液の0.1重量%の量で添加した。
比較例4と同様にフイルムサンプルを得て、フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を比較例4と同様に評価したところ、比較例4とほとんど同じ結果が得られた。
【0049】
[実施例7]
実施例3で用いた混合物組成(5)に、t−ブチル化ヒドロキシトルエン(劣化防止剤)を、調製する溶液の0.1重量%の量で添加した。
実施例3と同様にフイルムサンプルを得て、フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を実施例3と同様に評価したところ、実施例3とほとんど同じ結果が得られた。
【0050】
[比較例11]
比較例5で用いた混合物組成(6)に、t−ブチル化ヒドロキシトルエン(劣化防止剤)を、調製する溶液の0.1重量%の量で添加した。
比較例5と同様にフイルムサンプルを得て、フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を比較例5と同様に評価したところ、比較例5とほとんど同じ結果が得られた。
【0051】
[比較例12]
比較例6で用いた混合物組成(6)に、t−ブチル化ヒドロキシトルエン(劣化防止剤)を、調製する溶液の0.1重量%の量で添加した。
比較例6と同様にフイルムサンプルを得て、フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を比較例6と同様に評価したところ、比較例6とほとんど同じ結果が得られた。
【0052】
[実施例8]
実施例4で用いた混合物組成(5)に、t−ブチル化ヒドロキシトルエン(劣化防止剤)を、調製する溶液の0.1重量%の量で添加した。
実施例4と同様にフイルムサンプルを得て、フイルムサンプルのヘイズ、引裂強度および耐湿熱性を実施例4と同様に評価したところ、実施例4とほとんど同じ結果が得られた。
【0053】
【発明の効果】
本発明により、従来の方法では製造することができなかった、優れた光学的性質や物性を有するセルロースアセテートフイルムが得られた。

Claims (6)

  1. 58.0乃至62.5%の平均酢化度を有し、80μmの厚さに換算したヘイズが0.4%以下であり、さらに反射防止処理が実施されているセルロースアセテートフイルム。
  2. 58.0乃至62.5%の平均酢化度を有し、80μmの厚さに換算したヘイズが0.4%以下であり、かつ80μmの厚さに換算した引裂強度が20g以上であり、さらに反射防止処理が実施されているセルロースアセテートフイルム。
  3. 劣化防止剤を含む請求項1または2に記載のセルロースアセテートフイルム。
  4. セルロースアセテートを有機溶媒で膨潤させた膨潤混合物を、−100乃至−10℃に冷却してから0乃至120℃に加温して得られたセルロースアセテートの有機溶媒溶液を、支持体上に塗布して得られた請求項1または2に記載のセルロースアセテートフイルム。
  5. 有機溶媒が、酢酸メチルを50重量%以上含む請求項4に記載のセルロースアセテートフイルム。
  6. 請求項1乃至5のいずれか一項に記載のセルロースアセテートフイルムからなる偏光板保護膜。
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