JP3722511B2 - 皮膚外用剤及び浴用剤 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、サクラ葉抽出物を有効成分として含有する抗アレルギー剤、更にサクラ葉抽出物を有効成分として含有し、アレルギー性・アトピー性・接触性の皮膚炎症、又は、湿疹、かゆみ、肌荒れ、皮膚のカサツキなどの皮膚疾患に対する予防並びにその改善に有効で、安全性の高い抗アレルギー用皮膚外用剤(但し、美白用の皮膚外用剤を除く)及び抗アレルギー用浴用剤に関するものである。
【0002】
その利用分野としては、各種の外用製剤類全般において利用でき、具体的には、液状、乳液状、クリーム状、軟膏状、ゲル状、パウダー状、顆粒状、固形状、或いは気泡性の、1)外用医薬品類、2)外用医薬部外品類、3)局所又は全身用の皮膚化粧品類、4)頭皮・頭髪に適用する薬用及び/又は化粧用の製剤類(例えば、シャンプー剤、リンス剤、トリートメント剤、パーマネント液、整髪料、ヘアートニック剤、育毛・養毛料など)、5)浴湯に投じて使用する浴用剤などが上げられる。
【0003】
【従来の技術】
皮膚かぶれ、じんましん、アトピーなど皮膚のトラブルを抱える人は年々増え続け、乳児の湿疹まで含めると5人にひとりは存在すると言われている。中でもアレルギーに起因する皮膚炎は花粉症やぜんそくなど他の臓器に発症するものも含め、特に問題視されており、今や国民病とまで言われる向きにある。
【0004】
このアレルギーというものは、本来生体を守るためにある免疫反応が、結果として身体に危害を与えてしまった状態を指し、免疫反応が外来異物より生体を守るためにあるように、アレルギーにも原因となる外来の異物(アレルゲン)がある。このアレルゲンが生体に侵入してからアレルギー症状の発症までの時間により、即時型アレルギーと遅延型アレルギーの二つのグループに分類される。
【0005】
即時型アレルギーは、その名の通りアレルゲンの侵入からごく短時間で発症するもので、抗体がその反応の主役である。中でも免疫グロブリンE(以下、IgE)抗体と呼ばれるものが関与するアレルギーが発生頻度の上から最も多く、アトピー性皮膚炎の指標として使われることもある。
【0006】
IgE抗体は、他の免疫グロブリンに比べ生体内にごく微量しか存在しないが、肥満細胞や好塩基球に対し強いエフェクター作用を持ち、これらの細胞よりヒスタミンなどの化学伝達物質を放出させ、最終的に種々のアレルギー症状を引き起こすのである。皮膚にかゆみの伴う発赤やふくれあがった発疹(じんましん)ができたり、鼻や目が炎症を起こしてかゆくなり鼻汁や涙の分泌が盛んになるといった症状(花粉症)、或いは気管が詰まったりして呼吸困難の発作を起こしたりする症状(気管支喘息)などがこの型のアレルギー疾患として分類される。
【0007】
その他、IgE抗体以外の抗体(IgG,IgM)もアレルギーに関与しており、抗体は抗原と結合する部分が複数箇所あり、抗原同士を結びつけ、しだいに大きな塊(免疫複合体)を形成する。この免疫複合体は血流によって体内を循環する内に、腎臓や皮膚など毛細血管が集合する場所に沈着する。抗原と結合した抗体は補体という血清タンパク質からなる一連の反応系が活性化され、その過程で補体系の一部が肥満細胞を刺激して、IgE抗体によるアレルギーと同様の症状を引き起こす。
【0008】
更に、活性化された補体系の機能としては、白血球などの貪食細胞を誘引する働きを持ち、誘引された貪食細胞は免疫複合体を食作用により消化する際、分解酵素や活性酸素を過剰に分泌し、それが沈着していた周辺細胞まで傷害し、アレルギー症状を引き起こすこともあり、愛鳥家が鳥由来の物質により喘息になるのもこのメカニズムによるものである。
【0009】
一方、遅延型アレルギーはアレルゲンの侵入から数時間たってようやく障害反応が現れはじめ、その後も反応はゆっくりと進行し最高の強さになるまでに24〜48時間程度かかるもので、その皮膚症状は、発赤、腫脹、硬結、局所への単核球湿潤を特徴とする接触皮膚炎が良く知られている。
【0010】
このように分類されたアレルギー反応型により様々な試験法が提唱され、これまでにもアレルギー性疾患の予防又は改善に有効な因子へのアプローチが盛んに行われてきた。
【0011】
例えば、IgE抗体によるアレルギーに対しては平滑筋を弛緩させる鎮痙薬、毛細血管の透過性亢進を抑制する交感神経興奮薬、更には抗ヒスタミン薬などが挙げられる。これらはいずれも対症的治療薬で、そのほとんどが合成医薬品であり、副作用の点で問題があった。また、IgE抗体以外の抗体によるアレルギーに有効な薬剤の開発についても、活発に研究が進められているが、未だ特異的な抗アレルギー剤は見い出されていないのが現状である。
【0012】
一方、サクラについては、古くから日本人に親しまれ、日本の国花として海外にまで知られている。普通「サクラ」と称しているものは、主に北半球の温暖帯に分布しているバラ科サクラ属サクラ亜属の、主として落葉性の樹木であり、その春霞満開の花は美しく、広く鑑賞されている。又、サクラ類の樹皮は「桜皮」と呼ばれ、日本の民間薬として古来、解毒,鎮咳薬として使用されてきた。薬用にする桜皮は、山地に一般的に自生するヤマザクラ( Prunus. jamasakura Sieb.ex Koidz )が主であり、得られるエキス製剤はブロチンと呼ばれ、鎮咳去痰剤として知られている。民間療法としては、おできや湿疹、じんましんに煎剤として用いられ、最近では消臭剤(特開昭60-126162)や皮膚用化粧料組成物(特開平2-299908),皮膚化粧料(特開平3-127714)が報告されている。
【0013】
しかしながら、サクラ類の葉の利用については、塩づけにしたものを餅に巻き(桜餅)食用にする以外にこれといって利用されていないのである。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
こうした事情に鑑み、本発明者らはアレルギー性炎症疾患、特に即時型アレルギー疾患の予防又は改善に有効な抗アレルギー剤を、副作用や刺激が少ない天然成分に求め研究を開始した。その結果、サクラの葉抽出物に有効と考えられる因子が見い出され、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の目的は、サクラの葉抽出物を抗アレルギー剤として応用すること、更に皮膚炎症(例えば、発赤、湿疹、浮腫、腫脹)、かゆみ、肌荒れ、皮膚のカサツキの予防並びにその改善に有効で、安全性の高い抗アレルギー用皮膚外用剤(但し、美白用の皮膚外用剤を除く)及び抗アレルギー用浴用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
尚、本発明で用いられる「サクラの葉」とは、バラ科(Roaceae),サクラ属(Prunus),サクラ亜属(Subgen.Cerasus)の植物オオシマザクラ(Prunus.speciosa), ヤマザクラ(Prunus.jamasakura), オオヤマザクラ(Prunus.sargentii),エドヒガン(Prunus.spachiana),マメザクラ(Prunus.incisa), ミヤマザクラ(Prunus.maximowiczii), ソメイヨシノ(Prunus.yedoensis),タカネザクラ(Prunus.nipponica),カスミザクラ(Prunus.leveilleana),チョウジザクラ(Prunus.apetala),コヒガン(Prunus.subhirtella),サトザクラ(Prunus.lannesiana),カンザクラ(Prunus.kanzakura) などのサクラ類の葉である。
【0017】
本発明で使用するサクラ葉抽出物とは、植物体の葉をそのまま或いは乾燥させて、溶媒で抽出したものである。抽出溶媒としては、水、エタノール、1,3-ブチレングリコールから選ばれる何れか1種か、若しくは2種以上を任意に組み合わせて使用することができ、又、各々の水、エタノール、1,3-ブチレングリコール抽出が組み合わされた状態でも使用できる。又、得られた抽出液は、応用する皮膚外用剤及び浴用剤の形態により乾燥、濃縮、或いは希釈等を任意に行い調整すれば良い。
【0018】
尚、抽出条件は特に制限されるものではないが、通常は常温〜常圧下での溶媒の沸点の範囲であれば良く、抽出後は濾過及び濃縮乾燥して、溶液状、ペースト状、ゲル状、粉末状として用いても良い。更に多くの場合は、そのままの状態で利用できるが、必要ならば、その効力に影響のない範囲で脱臭、脱色等の精製処理を加えても良い。尚、脱臭、脱色等の精製処理手段としては、活性炭カラムなどを用いれば良く、抽出物質により一般的に適用される通常の手段を任意に選択して行えば良い。
【0019】
本発明の皮膚外用剤におけるサクラ葉抽出物は、特に配合量を規定するものではないが、短期間にて皮膚トラブルの改善を目的とするような場合においては、乾燥固形分総量として通常0.005〜2重量%の範囲の任意な割合で配合するのが良い。又、浴用剤の場合では、200〜300Lの浴湯に投じて同程度の濃度になるように処方を考慮すれば良い。
【0020】
一方、そうした種々のトラブルに対し、単に予防的な目的であったり、或いは累積的な効果で徐々に改善していくような、例えば日常的に使用される皮膚化粧料や頭髪用剤、或いは浴用剤といった製品形態においては、その分野で通常に処方されている量(乾燥固形分総量として0.001〜0.5%程度)でも目的効果は十分に期待されるものと考えられる。
【0021】
本発明の皮膚外用剤及び浴用剤は、サクラ葉抽出物に加えて、必要に応じて、通常、医薬品類、医薬部外品類、化粧品類などの製剤に使用される基剤や添加剤を併用して製造することができる。例えば、油分としては動植物油,鉱物油をはじめ、エステル油,ワックス油,高級アルコール,脂肪酸類,シリコン油,リン脂質などが上げられる。
【0022】
又、界面活性剤としては、アニオン界面活性剤,カチオン界面活性剤,両性界面活性剤,非イオン界面活性剤などが用いられる。その他、p-アミノ安息香酸,アントラニル誘導体,サリチル酸誘導体,クマリン誘導体,アミノ酸系化合物,ベンゾトリアゾール誘導体,テトラゾール誘導体,イミダゾリン誘導体,ピリミジン誘導体,ジオキサン誘導体,カンファー誘導体,フラン誘導体,ピロン誘導体,核酸誘導体,アラントイン誘導体,ニコチン酸誘導体,シコニン,ビタミンB6誘導体などの紫外線吸収剤、アスコルビン酸及びその塩,ステアリン酸エステル,トコフェロール及びそのエステル誘導体,ノルジヒドログアセレテン酸,ブチルヒドロキシトルエン(BHT),ブチルヒドロキシアニソール(BHA),パラヒドロキシアニソール,没食子酸プロピル,セサモール,セサモリン,ゴシポールなどの抗酸化剤、ヒドロキシエチルセルロース,メチルセルロース,エチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,カルボキシエチルセルロースナトリウム,ヒドロキシプロピルセルロース,ニトロセルロース,アラビアゴム,トラガントゴム,ポリビニルアルコール,ポリビニルメチルエーテル,ポリビニルピロリドン,ポリビニルメタアクリレート,ポリアクリル酸塩,カルボキシビニルポリマー,カラギーナン,ペクチン,アルギン酸及びその塩,カゼイン,ゼラチン,寒天,デンプン,デキストリンなどの増粘剤、グリセリン,プロピレングリコール,1,3-ブチレングリコール,ヒアルロン酸及びその塩,ポリエチレングリコール,コンドロイチン硫酸及びその塩,水溶性キチン或いはキトサン誘導体,乳酸ナトリウムなどの保湿剤,低級アルコール,多価アルコール,水溶性高分子,pH調整剤,キレート剤,防腐・防バイ剤,香料,着色料,清涼剤,安定化剤,動・植物を起源とした抽出物,動・植物性蛋白質及びその分解物,動・植物性多糖類及びその分解物,動・植物性糖蛋白質及びその分解物,微生物培養代謝成分,血流促進剤,消炎・抗炎症剤,細胞賦活剤,ビタミン類,アミノ酸及びその塩,角質溶解剤,収斂剤,創傷治癒剤,増泡剤,消臭・脱臭剤など必要に応じて併用し、前述のような各種製品とすることができる。
【0023】
又、本発明の皮膚外用剤及び浴用剤には、既に消炎・抗炎症・抗アレルギー作用、活性酸素消去作用、過酸化脂質生成抑制作用を有することが知られている植物抽出物を併用して使用することも可能である。例えば、アルニカ、アロエ、アンゲリカ、イチヤクソウ、ウコン、オウゴン、オウバク、オウレン、オトギリソウ、オドリコソウ、オナモミ、カクシツ、カゴソウ、カッコン、カノコソウ、カバノキ、カミツレ、カワラヨモギ、カンゾウ、キカラスウリ、キク、キュウリ、クジン、クマザサ、クワ、ケイガイ、コウホネ、コウホン、コツサイホ、ゴボウ、サルビア、サンシシ、サンシチソウ、シコン、シソ、シナノキ、シマカンギク、シャクヤク、ジユ、ショウマ、ジュズダマ、シラカンバ、スギナ、セイヨウキズタ、セイヨウトチノキ、セイヨウニワトコ、セイヨウノコギリソウ、セイヨウハッカ、セイヨウボダイジュ、センキュウ、センダン、センブリ、ダイオウ、タイソウ、タイム、タンポポ、チョウセンニンジン、チンピ、ツワブキ、トウカ、トウキ、トウキンセンカ、トクサ、ドクダミ、トマト、トロロアオイ、ニワトコ、ニンジン、ノアザミ、パセリ、ハッカ、ハマゴウ、バラ、ヒシ、ビャクシ、ビワ、フキ、フキタンポポ、フジバカマ、ベニバナ、ボダイジュ、ボタンピ、ホップ、マロニエ、ミルラ、ムクロジ、メリロート、メリッサ、モモ、ヤグルマギク、ヤドリギ、ヤブジラミ、ユーカリ、ユキノシタ、ヨクイニン、ヨメナ、ヨモギ、ラベンダー、リンドウ、レンギョウ、ローズマリー、ローマカミツレなどの植物抽出物が上げられ、本発明のサクラ葉抽出物とこれらの植物抽出物との併用によって、相加的及び相乗的な抗アレルギー・抗炎症、活性酸素消去、過酸化脂質生成抑制作用が期待できる。
【0024】
本発明の皮膚外用剤及び浴用剤の剤型は任意であり、液状、乳液状、クリーム状、軟膏状、ゲル状、パウダー状、顆粒状、固形状、粉末状、気泡状などの、外用医薬品類、外用医薬部外品類、皮膚・頭髪用化粧品類及び浴用剤に配合して用いることができ、又、一般的な食品類にも利用可能である。
【0025】
具体的には、例えば、化粧水、乳液、クリーム、軟膏、ローション、オイル、パックなどの基礎化粧料、洗顔料や皮膚洗浄料、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、整髪料、パーマ剤、ヘアートニック、染毛料、育毛・養毛料などの頭髪化粧料、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラなどのメークアップ化粧料、香水類、浴用剤、その他、液臭・防臭防止剤、口腔用類などが上げられる。
【0026】
又、本発明のサクラ葉抽出物の皮膚外用剤及び浴用剤への添加の方法については、予め加えておいても、製造途中で添加しても良く、作業性を考えて適宜選択すれば良い。
【0027】
【実施例】
以下に、製造例、試験例、処方例を上げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明がこれらに制約されるものではないということは言うまでもない。
【0028】
(製造例1)
サクラの葉100gを30%エタノール溶液1kgに浸漬し、室温にて3昼夜抽出した後、ろ過して抽出液(乾燥固形分0.6〜2.0w/v%を含む)を得る。
【0029】
(製造例2)
サクラの葉100gを50%1,3-ブチレングリコール(以下、1,3-BG)溶液1kgに浸漬し、室温にて3昼夜抽出した後、ろ過して抽出液(乾燥固形分0.6〜2.0w/v%を含む)を得る。
【0030】
(試験1)ヒスタミン遊離抑制試験
IgE抗体が関与するアレルギーにおいて、その特徴的な反応として肥満細胞からの化学伝達物質(ヒスタミンなど)の放出が行われ、その結果アレルギー症状が引き起こされる。従って、ヒスタミン遊離を抑制するような物質はアレルギー性炎症疾患の予防及び改善効果が期待できる。本試験では、製造例1で得られた抽出液について、ラットの肥満細胞からヒスタミン遊離剤であるCompound48/80にてヒスタミンを遊離させる試験法(J.Soc.Cosmet.Japan,25(4),P246(1992))に従い検討した。
(試験方法)
a.試料
抽出液は減圧下にて溶媒留去した後、精製水にて固形分濃度が0.1w/v%となるよう再溶解し、試験に供した。尚、陽性対照として0.1w/v%グリチルリチンジカリウム水溶液及び桜皮抽出液を使用した。
b.遊離ヒスタミン量の測定
ウイスター系ラットの腹腔内より採取した肥満細胞浮遊液3mlに、試料0.5ml及びCompound48/80(終濃度1μg/ml)を加え、37℃で15分間反応させた。氷冷して反応を停止させた後、反応液を遠心分離し、遊離したヒスタミン量をShoreらの方法(J.Pharmacol.Exp.Therap.,P127,182(1959))により測定し、次式(数1)によりヒスタミン遊離抑制率を算出した。
【0031】
A:肥満細胞に被験薬物を共存させてヒスタミン遊離剤を加えた時、遊離したヒスタミンの蛍光強度
B:肥満細胞にヒスタミン遊離剤を加えた時、遊離したヒスタミンの蛍光強度 C:肥満細胞から自然に遊離されるヒスタミンの蛍光強度
(尚、A,B,Cは、測定値から盲検値を差し引いたものである。)
【0032】
【数1】
【0033】
(試験結果)
表1のごとく、本発明のサクラ葉抽出液は、陽性対照のグリチルリチンジカリウム水溶液や桜皮抽出液に比べ、強いヒスタミン遊離抑制作用を有することが確認された。
【0034】
【表1】
【0035】
(試験2)抗補体活性試験
IgE抗体以外の抗体が関与する即時型アレルギーについて、重要な役割を担う反応系が補体系である。この補体系に影響を与える物質は、これが関与するアレルギー,炎症などの病像形成に影響を与える可能性がある。本試験では、製造例1で得られた抽出液について、感作赤血球の溶血反応を指標とした抗補体活性測定法を用いて検討した。
(試験方法)
a.ゼラチン・ベロナール緩衝液(GVB2+)
塩化ナトリウム1.7g、バルビタール0.115g、バルビタールナトリウム0.075g、塩化カルシウム0.015g、塩化マグネシウム0.010g、ゼラチン0.2g、精製水100mlを混合し、pH7.5に調整後、精製水にて全量を200mlにした。
b.ヒツジ赤血球(SRBC)浮遊液
ヒツジ血液を2,000rpm,5分間遠心分離し、生理食塩水で3回洗浄後、沈渣にGVB2+を加えて10%SRBC浮遊液を作成し、最終的にはSRBC浮遊液0.25mlに3.05mlの0.1%炭酸ナトリウム溶液を加えて完全溶血させた時、540nmにおける吸光度が0.455となるよう調整した。
c.抗SRBCマウス血清
10%SRBC浮遊液0.2mlをIVCS系雄性マウスの尾に静脈注射、その4日後に採血、血清を分離し、GVB2+にて40倍に希釈し用いた。
d.補体
モルモットの新鮮血清をGVB2+にて20倍に希釈し用いた。
e.試料
抽出液は減圧下にて溶媒留去した後、精製水にて固形分濃度が0.1w/v%となるよう再溶解し、試験に供した。尚、陽性対照として0.1w/v%グリチルリチンジカリウム水溶液及び桜皮抽出液を使用した。
f.抗補体活性の測定
GVB2+1.3mlに試料0.1mlと抗SRBC血清0.5ml、SRBC浮遊液0.25ml、補体溶液0.25mlを順次加えてから、37℃の恒温槽にて60分間反応させた。氷水中にて10分間放置し、反応を停止させた後、反応液を2000rpmで10分間遠心分離し、未溶血の赤血球を分離した後、その上澄みの540nmにおけるOD値を測定した。 尚、試料の代わりに精製水を入れたものを対照とし、各試料、対照について血清を入れないブランクを設定し、次式(数2)により補体活性抑制率(=抗補体活性作用)を求めた。
【0036】
【数2】
【0037】
(試験結果)
表2のごとく、本発明のサクラ葉抽出液は、陽性対照のグリチルリチンジカリウム水溶液や桜皮抽出液に比べ、強い抗補体活性作用を有することが確認された。
【0038】
【表2】
【0039】
(試験3)アラキドン酸耳浮腫抑制試験
又、IgE抗体が関与するアレルギーにおいて、細胞膜のリン脂質が破壊されてアラキドン酸が遊離し、各種酵素の作用を受けて化学伝達物質の1つであるプロスタグランジン、SRS−Aに代謝され、その結果、各種のアレルギー症状を発現する。従って、このアラキドン酸の代謝活性を抑制する作用を有する物質は抗アレルギー剤としての利用が期待できる。本試験では、製造例1で得られた抽出液を含有する親水ワセリン軟膏を処方し、新納らの方法(「3,4-Dihydroxychalcone類のマウスアラキドン酸耳浮腫に対する作用」:日本薬学会第113年会)を参照して、その作用の検討を行った。
(試験方法)
a.試料
抽出液は減圧下で溶媒を留去して濃縮後、固形分濃度に換算して10重量%になる量を含有する親水ワセリン軟膏を常法により製造、使用した。
b.浮腫腫脹率の測定
上記の軟膏剤をあらかじめアラキドン酸塗布の約3,2,1時間前に計3回、マウス(Slc:ICR系雌性マウス,約6週齢)右側耳介に丹念に擦り込むように塗布した。アラキドン酸塗布直前に耳介に付着している軟膏剤を拭き取り、アセトンに溶解した5w/w%アラキドン酸(SIGMA製)20μlを塗布し、1時間後耳介をパンチ切除(5.0mm)した。同様に左側耳介も切除を行い、左右耳介の重量差よりアラキドン酸耳浮腫腫脹率を測定した。判定はブランクとして基剤のみを塗布した対照群の耳浮腫腫脹率と比較して耳浮腫抑制率を算出した。尚、試験にはマウスを8〜9匹使用した。
【0040】
(試験結果)
表3のごとく、本発明のサクラ葉抽出液はアラキドン酸代謝活性抑制作用を有することが確認された。
【0041】
(試験4)接触皮膚炎抑制試験
接触皮膚炎反応においては、抗原によって感作されたTリンパ球は、再び同一抗原に接触すると、マクロファージやリンパ球を活性化させる種々のリンホカインを放出し、炎症反応を引き起こす。従って、再び同一抗原に対して起こる一連の炎症反応を抑制するような物質は遅延型アレルギー剤としての利用が期待できる。本試験では、製造例1で得られた抽出液を含有する親水ワセリン軟膏を処方し、中村らの方法(日薬理誌,76,595(1980))に準じて、オキサゾロン(oxazolone)誘発接触皮膚炎反応に対する、その作用の検討を行った。
【0042】
(試験方法)
a.試料
抽出液は減圧下で溶媒を留去して濃縮後、固形分濃度に換算して10重量%になる量を含有する親水ワセリン軟膏を常法により製造、使用した。
b.浮腫腫脹率の測定
まず、マウス(Slc:ICR系雌性マウス,約6週齢)の剪毛腹部皮膚にエタノールに溶解した3w/w%オキサゾロン(Aldrich製)0.1mlを塗布し、6日後右側耳介皮膚の両面にアセトンに溶解した3w/w%オキサゾロン20μlを塗布により惹起した。その約24時間後にオキサゾロンを塗布した耳介をパンチ切除(直径5.0mm)し、同様に左側耳介も切除を行い、左右耳介の重量の差より腫脹率を測定し、接触皮膚炎抑制試験を行った。尚、上記の軟膏剤を惹起の約3,2,1時間前と惹起の約17,18時間後の計5回右側耳介に塗布し、惹起直前及び惹起後約19時間目に軟膏剤を拭き取る。判定は右側耳介に基剤のみを塗布した対照群と比較し抑制率を求めた。尚、試験にはマウスを8〜9匹使用した。
【0043】
(試験結果)
表3のごとく、本発明のサクラ葉抽出液は接触皮膚炎抑制作用を有することが確認された。
【0044】
【表3】
【0045】
(試験5)安全性試験
(1)皮膚一次刺激性試験
製造例1〜2によって得られたサクラ葉抽出液を、各固形分濃度に再調整し、背部を除毛したハートレー系モルモット(雌性,1群5匹,体重320g前後)の皮膚に貼付した。判定は、貼付後24時間に一次刺激性の評点法にて紅斑及び浮腫を指標として行った。
その結果は次表(表4)の通り、すべての動物において、何等、紅斑及び浮腫を認めず陰性と判定された。
【0046】
【表4】
【0047】
(試験6)安全性試験
(2)皮膚累積刺激性試験
製造例1〜2によって得られたサクラ葉抽出液を、固形分として1w/v%濃度の水溶液に調整し、側腹部を除毛したハートレー系モルモット(雌性,1群5匹,体重320g前後)の皮膚に1日1回の頻度で、週5回,0.5ml/匹を塗布した。
塗布は4週に渡って行い、除毛は各週の最終塗布日に行った。判定は、各週の最終日の翌日に一次刺激性の評点法にて紅斑及び浮腫を指標として行った。
その結果は次表(表5)の通り、すべての動物において、塗布後1〜4週目にわたって、何等、紅斑及び浮腫を認めず陰性と判定された。
【0048】
【表5】
【0049】
(試験7)安全性試験
(3)急性毒性試験
製造例1〜2によって得られたサクラ葉抽出液を減圧濃縮した後、乾燥する。試験前、4時間絶食させたddy系マウス(雌性,1群5匹,体重28g)に 2000mg/kg量経口投与し、毒性症状の発現、程度などを経時的に観察した。
その結果、すべてのマウスにおいて14日間なんら異状を認めず、又、解剖の結果も異状がなかった。よって、LD50は2000mg/kg以上と判定された。
【0050】
(処方例)各種外用製剤の製造
上記の評価結果に従い、以下にその処方例を示すが、各処方例は各製品の製造における常法により製造したもので良く、配合量のみを示した。又、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0051】
(処方例1)乳液
重量%
1.スクワラン 5.0
2.オリーブ油 5.0
3.ホホバ油 5.0
4.セチルアルコール 1.5
5.グリセリンモノステアレート 2.0
6.ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル 3.0
7.ポリオキシエチレン(20)ソオルビタンモノオレート 2.0
8.1,3-ブチレングリコール 1.0
9.グリセリン 2.0
10.サクラ葉30%エタノール抽出液(固形分1.5%) 5.0
11.香料,防腐剤 適量
12.精製水 100とする残余
【0052】
(処方例2)ピールオフパック
重量%
1.グリセリン 5.0
2.プロピレングリコール 4.0
3.ポリビニルアルコール 15.0
4.エタノール 8.0
5.ポリオキシエチレングリコール 1.0
6.サクラ葉50%1,3-BG抽出液(固形分1.8%) 5.0
7.香料,防腐剤 適量
8.精製水 100とする残余
【0053】
(処方例3)コールドクリーム
重量%
1.サラシミツロウ 11.0
2.流動パラフィン 22.0
3.ラノリン 10.0
4.アーモンド油 15.0
5.ホウ砂 0.5
6.サクラ葉30%エタノール抽出液(固形分1.5%) 10.0
7.香料,防腐剤 適量
8.精製水 100とする残余
【0054】
(処方例4)シャンプー
重量%
1.ラウリル硫酸トリエタノールアミン 5.0
2.ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム12.0
3.1,3-ブチレングリコール 4.0
4.ラウリン酸ジエタノールアミド 2.0
5.エデト酸二ナトリウム 0.1
6.サクラ葉50%1,3-BG抽出液(固形分1.8%) 10.0
7.香料,防腐剤 適量
8.精製水 100とする残余
【0055】
(処方例5)ボディーソープ
重量%
1.ラウリン酸カリウム 15.0
2.ミリスチン酸カリウム 5.0
3.プロピレングリコール 5.0
4.サクラ葉50%1,3-BG抽出液(固形分1.8%) 5.0
5.サクラ葉50%エタノール抽出液(固形分1.8%) 5.0
6.pH調整剤 適量
7.防腐剤 適量
8.精製水 100とする残余
【0056】
(処方例6)リンス
重量%
1.塩化ステアリルトリメチルアンモニウム 2.0
2.セトステアリルアルコール 2.0
3.ポリオキシエチレンラノリンエーテル 3.0
4.プロピレングリコール 5.0
5.サクラ葉70%1,3-BG抽出液(固形分1.8%) 6.0
6.pH調整剤 適量
7.防腐剤 適量
8.精製水 100とする残余
【0057】
(処方例7)ヘアーリキッド
重量%
1.エタノール 29.0
2.ポリオキシプロピレンブチルエーテルリン酸 10.0
3.ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル 5.0
4.トリエタノールアミン 1.0
5.サクラ葉70%エタノール抽出液(固形分1.8%) 3.0
6.防腐剤 適量
7.精製水 100とする残余
【0058】
(処方例8)ヘアートニック
重量%
1.エタノール 40.0
2.オレイン酸エチル 1.0
3.ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油 2.0
4.サクラ葉抽出液(固形分1.8%) 5.0
(エタノール:1,3-BG=1:1エキス)
5.精製水 100とする残余
【0059】
(処方例9)顆粒浴用剤
重量%
1.炭酸水素ナトリウム 60.0
2.無水硫酸ナトリウム 32.0
3.ホウ砂 3.0
4.サクラ葉30%エタノール抽出液の乾燥粉末 5.0
【0060】
(試験8)使用効果試験
本発明の皮膚外用剤及び浴用剤を実際に使用した場合の効果について検討を行った。使用テストは乾燥ぎみの肌や湿疹,じんましん,アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患で悩む2〜30歳の10名をパネラーとし、毎日、朝と夜の2回、洗顔後に処方例1の乳液の適量を顔面に2ヶ月に渡って塗布することにより行った。又、頭皮や髪の生え際に同様の皮膚疾患が見られる10名(2〜10歳)についても、毎日の洗髪後、処方例8のヘアートニックの適量を頭皮に2ヶ月に渡って塗布することにより使用テストを実施した。
【0061】
更に、処方例9のサクラ葉抽出物を含有する浴用剤についても、乾燥ぎみの肌や湿疹,じんましん,アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患で悩む、1〜65歳の20名を対象に、2ヶ月間、必ず1日1回適量の浴用剤を溶解させた浴湯に入浴してもらい、使用テストを実施した。
対照には、乳液,ヘアートニック,浴用剤からサクラ葉抽出物を除いたものを同様な方法にて処方したものを用いた。又、評価方法は下記の基準にて行い、結果は表6のごとくで表中の数値は人数を表す。尚、使用期間中に皮膚又は頭皮の異常を訴えた者はなかった。
【0062】
「皮膚(頭皮)疾患改善効果」
有 効:湿疹などの炎症に伴う赤みやかゆみ、乾燥肌、肌荒れが改善された。
やや有効:湿疹などの炎症に伴う赤みやかゆみ、乾燥肌、肌荒れがやや改善された。
無 効:使用前と変化なし。
【0063】
(試験結果)
表6の結果より明らかなように、本発明のサクラ葉抽出物含有皮膚外用剤及び浴用剤の使用は、湿疹による炎症、かゆみ、乾燥肌、肌荒れなどの皮膚疾患の改善に対して、良好な効果が確認された。
【0064】
【表6】
【0065】
【発明の効果】
本発明のサクラ葉抽出物は、ヒスタミン遊離抑制・抗補体活性作用を有し、人又は動物に対して安全なものである。従って、抗アレルギー剤として利用でき、湿疹、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症等の各種アレルギー性疾患の予防、治療に有効的である。更に、あらゆる形態の製剤(医薬品類、医薬部外品類、化粧品類)への応用も可能であり、本発明のサクラ葉抽出物含有抗アレルギー用皮膚外用剤及び抗アレルギー用浴用剤は、アレルギー性の皮膚炎症(例えば、発赤、湿疹、浮腫、腫脹など)やアトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、更に、湿疹、肌荒れ、皮膚のカサツキ、かゆみ、などといったトラブルを有する皮膚・頭皮に対して、その予防及び改善を目的として使用することができ、その他、口腔用組成物、食品への利用展開も可能である。
Claims (3)
- サクラの葉の水、エタノール、1,3-ブチレングリコール、もしくはこれらの2種以上の混液を用いて得られた抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗アレルギー剤。
- サクラの葉の水、エタノール、1,3-ブチレングリコール、もしくはこれらの2種以上の混液を用いて得られた抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗アレルギー用皮膚外用剤(但し、美白用の皮膚外用剤を除く)。
- サクラの葉の水、エタノール、1,3-ブチレングリコール、もしくはこれらの2種以上の混液を用いて得られた抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗アレルギー用浴用剤。
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