JP3721701B2 - 高温用サーミスタ材料の製造方法及び高温用サーミスタ - Google Patents
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Description
【0001】
【技術分野】
本発明は,抵抗値と抵抗温度係数の選択幅が広い高温用サーミスタ材料の製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
高温用サーミスタは,ガス給湯器等のガス火炎温度,加熱炉の温度,自動車の排気ガス温度等,100〜1300℃という高温度の測定に用いられる温度センサである。
そして,従来高温用サーミスタを構成するサーミスタ材料として,サーミスタ特性の指標である抵抗値と抵抗温度係数に関して選択の自由度が大きい,(Mn・Cr)O4 とYCrO3 との混合焼結体が知られている(特開平5−62805号)。
【0003】
上記サーミスタ材料の原料である(Mn・Cr)O4 は,高抵抗値と高抵抗温度係数とを有し,一方,YCrO3 は低抵抗値と低抵抗温度係数とを有する。このため,上記サーミスタ材料においては,両者の混合比率を適宜変化させることにより,所望の抵抗値と抵抗温度係数を得ることができる。そして,上記サーミスタ材料は,両者の混合比率の広い範囲において,そのサーミスタ特性が安定している。
【0004】
【解決しようとする課題】
しかしながら,上記従来のサーミスタ材料には以下に示す問題がある。
上記サーミスタ材料の優れた特性は,(Mn・Cr)O4 粒子とYCrO3 粒子とが,上記材料中において均一に分散した状態にあることにより発揮される。これは,上述したごとく,(Mn・Cr)O4 の有する高抵抗値,高抵抗温度係数と,YCrO3 の有する低抵抗値,低抵抗温度係数とが,両者が混在することにより,サーミスタ材料全体において平均化するからである。
【0005】
ところが,両粒子間に働く結合力はさほど強くない。このため,上記サーミスタ材料においては,時間の経過と共に両粒子が分離してしまうおそれがある。このような状態となったサーミスタ材料は,そのサーミスタ特性が変化してしまい,この材料よりなるサーミスタは正確な温度検出を行うことができくなってしまう。
【0006】
そして,上記問題は,図1,図5に示す構造の厚膜状の高温用サーミスタにおいて著しく発現する。
即ち,図1に示すごとく,上記高温用サーミスタにおいては,サーミスタ材料9がセラミックよりなる基板11,カバー12により被覆されている。そして,上記セラミックとしては,一般にアルミナが多用されている。
ところが,上述したごとく,上記サーミスタ材料9中における(Mn・Cr)O4 粒子92と,YCrO3 粒子91とは互いに分離しやすく,その上,(Mn・Cr)O4 の92はアルミナとの反応性が高く,YCrO3 粒子91はアルミナと反応し難い。
【0007】
従って,図5に示すごとく,上記高温用サーミスタにおいては,時間経過と共に(Mn・Cr)O4 粒子92の拡散が発生し,サーミスタ材料9の内部にYCrO3 粒子91が,サーミスタ材料9の外部,セラミックよりなる基板11及びカバー12との接触面に(Mn・Cr)O4 粒子92が集合してしまう。
更に,この状態が進行し,(Mn・Cr)O4 粒子92が,アルミナよりなる基板11及びカバー12の内部に逃げてしまうおそれもある。
【0008】
この結果,サーミスタ材料9のサーミスタ特性は,YCrO3 粒子91により支配され,抵抗値,抵抗温度係数が低下する。
よって,従来の材料による高温用サーミスタにおいては,安定したサーミスタ特性を得ることが難しかった。
【0009】
本発明は,かかる問題点に鑑み,安定したサーミスタ特性を有する,高温用サーミスタ材料の製造方法及び高温用サーミスタを提供しようとするものである。
【0010】
【課題の解決手段】
請求項1の発明は,(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末と,Y2 O3 の粉末との混合原料粉末を1400〜1700℃に加熱焼成して両者を反応させ,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとからなるサーミスタ材料を得ることを特徴とする高温用サーミスタ材料の製造方法にある。
【0011】
上記加熱焼成の温度は,上述の(Mn・Cr)O4 とY(Cr+Mn)O3 との反応が最も促進される1450〜1650℃であることが好ましい。
上記温度が1400℃未満である場合には,未反応による結合力不足が生じるおそれがある。一方,上記温度が1700℃より大きい場合には,異常粒成長が生じるおそれがある。
【0012】
なお,上記加熱焼成時において,1500℃〜1650℃の範囲で液相となる,SiO2 ・CaO及びその化合物であるCaSiO3 等の焼結助剤を用いることもできる。
これにより,1500〜1600℃における焼成温度の調整が容易となる。また,上記高温用サーミスタ材料に占める絶縁体の体積が増大するため,若干の抵抗調整が容易となる。
【0013】
また,上記高温用サーミスタ材料は,焼成後に,例えば1000〜1200℃で,30〜50時間程度のエージングを行うことが好ましい。
これにより,内部応力除去や粒子再配列による特性の安定化を得ることができる。
【0014】
また,上記原料として使用した(Mn・Cr)O4 としては,例えば,Mn1.5 Cr1.5 O4 またはMn1.5+Z Cr1.5-Z O4 (但し,0<z<1.5)等の組成式により示されるスピネル型の結晶構造を有する化合物を使用することができる。
【0015】
本発明の作用につき,以下に説明する。
本発明の製造方法においては,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとよりなるサーミスタ材料を得るに当たり,その出発原料として,(Mn・Cr)O4 スピネルよりなる粉末とY2 O3 よりなる粉末とを使用する。
【0016】
これら両粉末を混合し,焼成することにより,(Mn・Cr)O4 スピネル中の一部のMn及びCr原子(またはMn及びCrイオン)が,隣接するY2 O3 側に移動し,該Y2 O3 と反応し,Y(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトを形成する。
【0017】
この過程において,上記(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとの間に,従来材料では得られなかった強い結合力が生じる。そして,この結合力により両者が均一に分散した状態を安定に存続させることができる。
従って,本発明の高温用サーミスタ材料においては,常に均一に(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとが混在しており,従ってそのサーミスタ特性も安定する。
【0018】
以上により,本発明によれば,安定したサーミスタ特性を有する,高温用サーミスタ材料の製造方法を提供することができる。
【0019】
次に,請求項2の発明のように,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルとY2 O3 との合計量に対するY2 O3 の添加量は,10〜90モル%であることが好ましい。
上述の範囲内で(Mn・Cr)O4 とY2 O3 とを混合することにより,特性の安定したサーミスタ材料を得ることができる。
【0020】
そして,Y2 O3 の添加量が10モル%未満である場合,また90モル%より大きい場合には,高温加熱後にサーミスタ材料の抵抗値が大幅に変化するため,実用に耐えない(後述の図2参照)。
また,Y2 O3 の添加量が90モル%を越える場合には,サーミスタ材料の焼結性が悪化し,(Mn・Cr)O4 スピネルとY(Cr+Mn)O3 との間における反応が不十分となるおそれがある。
【0021】
また,上記(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)は750℃における比抵抗が約240(Ω・cm),抵抗温度係数が約12500(k)という高抵抗値,高抵抗温度係数のサーミスタ特性を有する。
一方,上記Y2 O3 より形成されるY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトは750℃における比抵抗が約0.9(Ω・cm),抵抗温度係数が約1500(k)という低抵抗値,低抵抗温度係数のサーミスタ特性を有する。
【0022】
それ故,これらの混合焼結により得られたサーミスタ材料のサーミスタ特性はY2 O3 の添加量に応じて変化する。
従って,上述の10〜90モル%という広い範囲内でこれらを混合することにより,サーミスタ特性の選択値の幅が広い,サーミスタ材料を得ることができる。
【0023】
次に,請求項3の発明のように,上記混合原料中の(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末中における,Cr/Mnのモル比は0.11〜9.0であることが好ましい。
上記条件を満たす(Mn・Cr)O4 スピネルを使用することで,結晶歪の少ない良好なスピネルが得られ,反応も正常に進行し,特性が安定するという効果を得ることができる。
【0024】
上記モル比が,0.11未満である場合には,Mnの異常拡散を生じるおそれがある。一方,9.0よりも大きい場合には,未反応による結合力不足が生じるおそれがある。
【0025】
なお,上記(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末は,上述のCr/Mnのモル比を満たすようMnO2 及びCr2 O3 とを混合し,例えば,1100〜1300℃で仮焼成し,その後粉砕を行うことにより得ることができる。
【0026】
次に,請求項4の発明はアルミナを含有するセラミック基板の上に高温用サーミスタ材料,更にその上にアルミナを含有するセラミックカバーが積層された積層構造を有する高温用サーミスタであって,
かつ上記高温用サーミスタ材料は,(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末と,Y2 O3 の粉末との混合原料粉末を1400〜1700℃に加熱焼成して両者を反応させ,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとからなり,
かつ,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルとY2 O3 との合計量に対するY2 O3 の添加量は10〜90モル%であり,
かつ,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末中における,Cr/Mnのモル比は0.11〜9.0であることを特徴とする高温用サーミスタにある。
【0027】
上記高温用サーミスタ材料は,以上に記した方法にて製造されたものである。このため,上記高温用サーミスタ材料中の(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとの間において分離が生じない。このため,上記(Mn・Cr)O4 スピネルのアルミナを含有する基板及びカバーへの拡散を防止することができる。
よって,安定したサーミスタ特性を有する高温用サーミスタを得ることができる。
【0028】
次に,請求項5の発明は高温用サーミスタ材料を金属筒内に内蔵してなる高温用サーミスタであって,
かつ上記高温用サーミスタ材料は,(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末と,Y2 O3 の粉末との混合原料粉末を1400〜1700℃に加熱焼成して両者を反応させ,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとからなり,
かつ,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルとY2 O3 との合計量に対するY2 O3 の添加量は10〜90モル%であり,
かつ,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末中における,Cr/Mnのモル比は0.11〜9.0であることを特徴とする高温用サーミスタにある。
【0029】
上記高温用サーミスタ材料は,以上に記した方法にて製造されたものである。このため,上記高温用サーミスタ材料中の(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとの間において分離が生じない。
よって,安定したサーミスタ特性を有する高温用サーミスタを得ることができる。
また,上記高温用サーミスタは金属筒内に配置されている。このため,上記高温用サーミスタ材料が,酸化還元雰囲気,火炎に直接晒されること等によって劣化することを防止することができる。
よって,サーミスタ素子20の寿命を格段に向上させることができる。
【0030】
【発明の実施の形態】
実施形態例1
本発明の実施形態例にかかる高温用サーミスタ材料,その製造方法及び上記高温用サーミスタ材料を用いた高温用サーミスタにつき,図1,図2を用いて説明する。
本例の高温用サーミスタ材料は,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとからなる高温用サーミスタ材料である。
そして,本例の高温用サーミスタ材料の製造方法は,(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末と,Y2 O3 の粉末とよりなる混合原料粉末を1400〜1700℃に加熱焼成して両者を反応させることにより,得ることができる。
【0031】
次に,高温用サーミスタにつき説明する。
本例の高温用サーミスタ10は,図1に示すごとく,厚膜タイプであって,アルミナよりなるセラミックの基板11の上に上記高温用サーミスタ材料1が,更にその上にアルミナよりなるセラミックのカバー12が積層された積層構造を有している。
また,上記基板11の上には電極13が設けてあり,上記高温用サーミスタ材料1は上記電極13と接触している。
なお,上記電極13は,その一部が上記カバー12の外にある。
【0032】
次に,上記高温用サーミスタ10の製造方法の詳細につき説明する。なお,本製造方法においては,サーミスタ材料の焼成と高温用サーミスタ10を構成するアルミナよりなる基板,カバーの焼結を同時に行う。
まず,Cr2 O3 及びMnO2 を,それぞれが含有するCr及びMnのモル比が1:1となるよう,Cr2 O3 を46.7g,MnO2 53.3gを秤量した。
その後,両者をポットミルに投入し,12時間混合,1100℃において仮焼成した。以上により,(Mn・Cr)O4 スピネル粉末を得た。
【0033】
次いで,上記(Mn・Cr)O4 スピネル粉末が50モル%,Y2 O3 が50モル%と,全体を100モル%となるように混合した。即ち,(Mn・Cr)O4 スピネル粉末49.8gと,Y2 O3 50.2gとを混合した。
【0034】
更に,両者を混合した混合原料粉末100モル%,100gに対し,焼結助剤として,Si・Ca・O(ケイ酸シリケート)を10外モル%となるよう,5.2g添加,混合した。更に,上記混合物に対し,有機ビヒクル(化合物名エチルセルロースをテルピネオールに溶かしたもの)を25g添加した。
以上によりサーミスタぺーストを得た。
【0035】
次に,焼成後には基板11となるセラミックのグリーンシートを準備する。上記グリーンシートにPtペーストを,更に,サーミスタペーストを印刷する。これらをを被覆するよう,焼成後にはカバー12となる他のグリーンシートを積層する(図1参照)。
以上により得られた積層物を,温度1550℃において焼成し,グリーンシートの焼成と共に,上記ペースト中において(Mn・Cr)O4 スピネルとY2 O3 とを反応させ,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとよりなる混合焼結体となした。
以上により,図1に示す高温用サーミスタ10を得た。
【0036】
次に,本例における作用効果につき説明する。
本例の製造方法においては,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとよりなるサーミスタ材料の原料として,(Mn・Cr)O4 スピネルよりなる粉末とY2 O3 よりなる粉末とを使用する。
これら両粉末を混合し,焼成することにより,(Mn・Cr)O4 スピネル中の一部のMn及びCr原子(またはMn及びCrイオン)が,隣接するY2 O3 側に移動し,該Y2 O3 と反応し,Y(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトを形成する。
【0037】
この過程において,(Mn・Cr)O4 スピネルとY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとの間に,従来材料では得られなかった強い結合力が生じる。そして,この結合力により両者が均一に分散した状態を安定に存続させることができる。
従って,本発明の高温用サーミスタ材料においては,常に均一に(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとが混在しており,従ってそのサーミスタ特性も安定する。
【0038】
また,本例に示した高温用サーミスタ10は,厚膜タイプ高温用サーミスタである。そして,このような高温用サーミスタを従来材料で作成した場合には,サーミスタ特性が安定しなかった。
【0039】
しかし,本発明にかかるサーミスタ材料により作成した場合には,サーミスタ材料中における,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとの間に分離が発生せず,従来例に示すような(Mn・Cr)O4 スピネルのアルミナよりなる基板11,カバー12への逃げが発生しない。このため,本例にかかる高温用サーミスタは安定したサーミスタ特性を有することができる。
【0040】
次に,本例にかかる高温用サーミスタのサーミスタ特性につき,比較例と共に説明する。
まず,本発明にかかる,表1に示す組成のサーミスタ材料を用いた試料1〜6にかかる高温用サーミスタを準備する。なお,同表に示すY2 O3 の添加量(モル%)は,(Mn・Cr)O4 スピネル粉末とY2 O3 粉末との合計量100モル%に対する値で表している。また,試料6にかかるCa・Si・Oの添加量は,上記合計量に対する外モル%である。
そして,上述の試料1〜6を,上述と同様の製造方法により製造した。
【0041】
また,比較試料C1は,従来の製造方法により得られたサーミスタ材料よりなる高温用サーミスタである。
即ち,Cr2 O3 とMnO2 とをCrとMnとのモル比が1モルとなるように配合し,1100℃〜1300℃で仮焼成後,粉砕を行い,Mn1.5 Cr1.5 O4 スピネルの粉末を得た。
【0042】
また,同様にして,Cr2 O3 とY2 O3 とをCrとYのモル比が1:1になるよう配合し,1100℃〜1300℃で仮焼成後,粉砕を行いYCrO3 ペロブスカイトの粉末を得た。
上記原料となる粉末を混合し,上述と同様の製造方法にてサーミスタペーストとなし,図1と同様の高温用サーミスタを得た。これが比較試料C1である。
【0043】
次に,上述の各試料1〜6,比較試料C1とのサーミスタ特性の測定に関して説明する。
まず,500℃/700℃における抵抗値を測定し,これらよりサーミスタ定数を算出し,これを表1に記した。
次に,700℃における比抵抗を測定し,これを表1に記した。
【0044】
次に,上述の各試料1〜6,比較試料C1の高温耐久性につき,以下に示すごとく測定した。
まず,上述の各試料1〜6,比較試料C1の700℃における抵抗値を測定した。次いで,各試料1〜6,比較試料C1を炉に投入し,1100℃,1000時間にて加熱した。その後,炉より取出した各試料1〜6,比較試料C1につき,再び700℃における抵抗値を測定した。
【0045】
加熱前における抵抗値をRM,加熱後における抵抗値をRGとすると,これらの間における抵抗値変化率は(RG/RM)−1となり,この値の百分率を表1に記した。
なお,図2は,縦軸に上記抵抗値変化率,横軸にY2 O3 添加量とし,プロットした線図である。
【0046】
表1より知れるごとく,試料1〜6は,いずれも抵抗値変化率が低く,加熱前と加熱後において,抵抗値が殆ど変化なかったことが分かった。
このため,本発明にかかるサーミスタ材料は高温において,特に安定したサーミスタ特性を維持することができることが分かった。
【0047】
これと対照的に,比較試料C1は,抵抗変化率が+45と非常に高く,高温において,そのサーミスタ特性が安定しないことが分かった。
従って,本発明にかかる試料1〜6は,実際の使用環境に類似した高温雰囲気においても精度よく温度を検出することができることが分かった。
【0048】
また,試料1,2,5,6は,いずれも本発明にかかるサーミスタ材料であるが,Y2 O3 の添加量が各々異なる。そして,試料1,2,5,6の間においては,その比抵抗が80〜1940の範囲にある。
従って,本発明にかかるサーミスタ材料は,Y2 O3 の添加量を変化させることにより,広い範囲の比抵抗を得ることが可能であることが分かった。
【0049】
また,試料2,3,4より,(Mn・Cr)O4 におけるMnとCrとのモル比を違えることにより,その比抵抗が105〜1060まで変化することが分かった。
従って,本発明にかかるサーミスタ材料は,(Mn・Cr)O4 におけるMnとCrとのモル比を違えることにより,広い範囲の比抵抗を得ることが可能であることが分かった。
【0050】
【表1】
【0051】
実施形態例2
本例は,図3に示すごとく,本発明にかかるサーミスタ材料1をバルクタイプのサーミスタ素子20としたものである。
図3に示すごとく,上記サーミスタ素子20は,サーミスタ材料1によりバルク状の本体が構成されてなり,該本体に対し,2本の電極23が埋設された構造を有している。
【0052】
本例のサーミスタ素子20の製造方法につき説明する。
まず,(Mn・Cr)O4 スピネル粉末が50モル%,Y2 O3 が50モル%,全体が100モル%となるように,(Mn・Cr)O4 スピネル粉末を49.8g,Y2 O3 を50.2g混合した。
【0053】
更に,両者を混合した混合原料粉末100モル%,100gに対し,焼結助剤として,Si・Ca・O(ケイ酸シリケート)を10外モル%,5.2g添加,混合した。更に,上記混合物に対し,有機バインダ(化合物名PVA(ポリビニルアルコール)10%濃度溶液)を10g添加した。
【0054】
以上により得られたサーミスタ造粒粉末を,所望の形状(図3参照)に成形した。なお,この成形の際に,上記電極23となるPt線を2本,埋設した。
その後,これらを温度1550℃において焼結し,(Mn・Cr)O4 スピネルとY2 O3 とを反応させ,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとの混合焼結体となした。
以上により,図3に示すサーミスタ素子20を得た。
その他は,実施形態例1と同様である。
また,本例においても,実施形態例1と同様の作用効果を有する。
【0055】
実施形態例3
本例は,図4に示すごとく,本発明にかかる高温用サーミスタを自動車の排気ガス温度測定器として用いたものである。
上記排気ガス温度測定器は,実施形態例2において示したバルクタイプの高温用サーミスタ素子20をセメント22に封入することにより金属筒30内に固定し,高温用サーミスタ3としたものである。
また,上記高温用サーミスタ素子20より延設された2本の電極23は上記金属筒30内においてリード線33に対し接続されている。上記リード線33より上記高温用サーミスタ素子20の出力を外部に取出している。
なお,符号31は,ハウジングである。
その他は実施形態例1と同様である。
【0056】
本例の排気ガス温度測定器である高温用サーミスタ3は,サーミスタ素子20が金属筒30内に内包されている。このため,上記サーミスタ素子20が排気ガスに晒されることを防止できる。
よって,本例によればサーミスタ素子20の寿命を格段に向上させることができる。
その他の作用効果は,実施形態例1と同様である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態例1における,厚膜タイプの高温用サーミスタの断面図。
【図2】実施形態例1における,抵抗変化率とY2 O3 添加量との間の関係を示す線図。
【図3】実施形態例2における,バルクタイプのサーミスタ素子の説明図。
【図4】実施形態例3における,高温用サーミスタの断面図。
【図5】従来例における,厚膜タイプの高温用サーミスタの問題を示す説明図。
【符号の説明】
1...サーミスタ材料,
10...高温用サーミスタ,
11...基板,
12...カバー,
20...サーミスタ素子,
【技術分野】
本発明は,抵抗値と抵抗温度係数の選択幅が広い高温用サーミスタ材料の製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
高温用サーミスタは,ガス給湯器等のガス火炎温度,加熱炉の温度,自動車の排気ガス温度等,100〜1300℃という高温度の測定に用いられる温度センサである。
そして,従来高温用サーミスタを構成するサーミスタ材料として,サーミスタ特性の指標である抵抗値と抵抗温度係数に関して選択の自由度が大きい,(Mn・Cr)O4 とYCrO3 との混合焼結体が知られている(特開平5−62805号)。
【0003】
上記サーミスタ材料の原料である(Mn・Cr)O4 は,高抵抗値と高抵抗温度係数とを有し,一方,YCrO3 は低抵抗値と低抵抗温度係数とを有する。このため,上記サーミスタ材料においては,両者の混合比率を適宜変化させることにより,所望の抵抗値と抵抗温度係数を得ることができる。そして,上記サーミスタ材料は,両者の混合比率の広い範囲において,そのサーミスタ特性が安定している。
【0004】
【解決しようとする課題】
しかしながら,上記従来のサーミスタ材料には以下に示す問題がある。
上記サーミスタ材料の優れた特性は,(Mn・Cr)O4 粒子とYCrO3 粒子とが,上記材料中において均一に分散した状態にあることにより発揮される。これは,上述したごとく,(Mn・Cr)O4 の有する高抵抗値,高抵抗温度係数と,YCrO3 の有する低抵抗値,低抵抗温度係数とが,両者が混在することにより,サーミスタ材料全体において平均化するからである。
【0005】
ところが,両粒子間に働く結合力はさほど強くない。このため,上記サーミスタ材料においては,時間の経過と共に両粒子が分離してしまうおそれがある。このような状態となったサーミスタ材料は,そのサーミスタ特性が変化してしまい,この材料よりなるサーミスタは正確な温度検出を行うことができくなってしまう。
【0006】
そして,上記問題は,図1,図5に示す構造の厚膜状の高温用サーミスタにおいて著しく発現する。
即ち,図1に示すごとく,上記高温用サーミスタにおいては,サーミスタ材料9がセラミックよりなる基板11,カバー12により被覆されている。そして,上記セラミックとしては,一般にアルミナが多用されている。
ところが,上述したごとく,上記サーミスタ材料9中における(Mn・Cr)O4 粒子92と,YCrO3 粒子91とは互いに分離しやすく,その上,(Mn・Cr)O4 の92はアルミナとの反応性が高く,YCrO3 粒子91はアルミナと反応し難い。
【0007】
従って,図5に示すごとく,上記高温用サーミスタにおいては,時間経過と共に(Mn・Cr)O4 粒子92の拡散が発生し,サーミスタ材料9の内部にYCrO3 粒子91が,サーミスタ材料9の外部,セラミックよりなる基板11及びカバー12との接触面に(Mn・Cr)O4 粒子92が集合してしまう。
更に,この状態が進行し,(Mn・Cr)O4 粒子92が,アルミナよりなる基板11及びカバー12の内部に逃げてしまうおそれもある。
【0008】
この結果,サーミスタ材料9のサーミスタ特性は,YCrO3 粒子91により支配され,抵抗値,抵抗温度係数が低下する。
よって,従来の材料による高温用サーミスタにおいては,安定したサーミスタ特性を得ることが難しかった。
【0009】
本発明は,かかる問題点に鑑み,安定したサーミスタ特性を有する,高温用サーミスタ材料の製造方法及び高温用サーミスタを提供しようとするものである。
【0010】
【課題の解決手段】
請求項1の発明は,(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末と,Y2 O3 の粉末との混合原料粉末を1400〜1700℃に加熱焼成して両者を反応させ,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとからなるサーミスタ材料を得ることを特徴とする高温用サーミスタ材料の製造方法にある。
【0011】
上記加熱焼成の温度は,上述の(Mn・Cr)O4 とY(Cr+Mn)O3 との反応が最も促進される1450〜1650℃であることが好ましい。
上記温度が1400℃未満である場合には,未反応による結合力不足が生じるおそれがある。一方,上記温度が1700℃より大きい場合には,異常粒成長が生じるおそれがある。
【0012】
なお,上記加熱焼成時において,1500℃〜1650℃の範囲で液相となる,SiO2 ・CaO及びその化合物であるCaSiO3 等の焼結助剤を用いることもできる。
これにより,1500〜1600℃における焼成温度の調整が容易となる。また,上記高温用サーミスタ材料に占める絶縁体の体積が増大するため,若干の抵抗調整が容易となる。
【0013】
また,上記高温用サーミスタ材料は,焼成後に,例えば1000〜1200℃で,30〜50時間程度のエージングを行うことが好ましい。
これにより,内部応力除去や粒子再配列による特性の安定化を得ることができる。
【0014】
また,上記原料として使用した(Mn・Cr)O4 としては,例えば,Mn1.5 Cr1.5 O4 またはMn1.5+Z Cr1.5-Z O4 (但し,0<z<1.5)等の組成式により示されるスピネル型の結晶構造を有する化合物を使用することができる。
【0015】
本発明の作用につき,以下に説明する。
本発明の製造方法においては,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとよりなるサーミスタ材料を得るに当たり,その出発原料として,(Mn・Cr)O4 スピネルよりなる粉末とY2 O3 よりなる粉末とを使用する。
【0016】
これら両粉末を混合し,焼成することにより,(Mn・Cr)O4 スピネル中の一部のMn及びCr原子(またはMn及びCrイオン)が,隣接するY2 O3 側に移動し,該Y2 O3 と反応し,Y(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトを形成する。
【0017】
この過程において,上記(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとの間に,従来材料では得られなかった強い結合力が生じる。そして,この結合力により両者が均一に分散した状態を安定に存続させることができる。
従って,本発明の高温用サーミスタ材料においては,常に均一に(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとが混在しており,従ってそのサーミスタ特性も安定する。
【0018】
以上により,本発明によれば,安定したサーミスタ特性を有する,高温用サーミスタ材料の製造方法を提供することができる。
【0019】
次に,請求項2の発明のように,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルとY2 O3 との合計量に対するY2 O3 の添加量は,10〜90モル%であることが好ましい。
上述の範囲内で(Mn・Cr)O4 とY2 O3 とを混合することにより,特性の安定したサーミスタ材料を得ることができる。
【0020】
そして,Y2 O3 の添加量が10モル%未満である場合,また90モル%より大きい場合には,高温加熱後にサーミスタ材料の抵抗値が大幅に変化するため,実用に耐えない(後述の図2参照)。
また,Y2 O3 の添加量が90モル%を越える場合には,サーミスタ材料の焼結性が悪化し,(Mn・Cr)O4 スピネルとY(Cr+Mn)O3 との間における反応が不十分となるおそれがある。
【0021】
また,上記(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)は750℃における比抵抗が約240(Ω・cm),抵抗温度係数が約12500(k)という高抵抗値,高抵抗温度係数のサーミスタ特性を有する。
一方,上記Y2 O3 より形成されるY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトは750℃における比抵抗が約0.9(Ω・cm),抵抗温度係数が約1500(k)という低抵抗値,低抵抗温度係数のサーミスタ特性を有する。
【0022】
それ故,これらの混合焼結により得られたサーミスタ材料のサーミスタ特性はY2 O3 の添加量に応じて変化する。
従って,上述の10〜90モル%という広い範囲内でこれらを混合することにより,サーミスタ特性の選択値の幅が広い,サーミスタ材料を得ることができる。
【0023】
次に,請求項3の発明のように,上記混合原料中の(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末中における,Cr/Mnのモル比は0.11〜9.0であることが好ましい。
上記条件を満たす(Mn・Cr)O4 スピネルを使用することで,結晶歪の少ない良好なスピネルが得られ,反応も正常に進行し,特性が安定するという効果を得ることができる。
【0024】
上記モル比が,0.11未満である場合には,Mnの異常拡散を生じるおそれがある。一方,9.0よりも大きい場合には,未反応による結合力不足が生じるおそれがある。
【0025】
なお,上記(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末は,上述のCr/Mnのモル比を満たすようMnO2 及びCr2 O3 とを混合し,例えば,1100〜1300℃で仮焼成し,その後粉砕を行うことにより得ることができる。
【0026】
次に,請求項4の発明はアルミナを含有するセラミック基板の上に高温用サーミスタ材料,更にその上にアルミナを含有するセラミックカバーが積層された積層構造を有する高温用サーミスタであって,
かつ上記高温用サーミスタ材料は,(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末と,Y2 O3 の粉末との混合原料粉末を1400〜1700℃に加熱焼成して両者を反応させ,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとからなり,
かつ,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルとY2 O3 との合計量に対するY2 O3 の添加量は10〜90モル%であり,
かつ,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末中における,Cr/Mnのモル比は0.11〜9.0であることを特徴とする高温用サーミスタにある。
【0027】
上記高温用サーミスタ材料は,以上に記した方法にて製造されたものである。このため,上記高温用サーミスタ材料中の(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとの間において分離が生じない。このため,上記(Mn・Cr)O4 スピネルのアルミナを含有する基板及びカバーへの拡散を防止することができる。
よって,安定したサーミスタ特性を有する高温用サーミスタを得ることができる。
【0028】
次に,請求項5の発明は高温用サーミスタ材料を金属筒内に内蔵してなる高温用サーミスタであって,
かつ上記高温用サーミスタ材料は,(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末と,Y2 O3 の粉末との混合原料粉末を1400〜1700℃に加熱焼成して両者を反応させ,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとからなり,
かつ,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルとY2 O3 との合計量に対するY2 O3 の添加量は10〜90モル%であり,
かつ,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末中における,Cr/Mnのモル比は0.11〜9.0であることを特徴とする高温用サーミスタにある。
【0029】
上記高温用サーミスタ材料は,以上に記した方法にて製造されたものである。このため,上記高温用サーミスタ材料中の(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとの間において分離が生じない。
よって,安定したサーミスタ特性を有する高温用サーミスタを得ることができる。
また,上記高温用サーミスタは金属筒内に配置されている。このため,上記高温用サーミスタ材料が,酸化還元雰囲気,火炎に直接晒されること等によって劣化することを防止することができる。
よって,サーミスタ素子20の寿命を格段に向上させることができる。
【0030】
【発明の実施の形態】
実施形態例1
本発明の実施形態例にかかる高温用サーミスタ材料,その製造方法及び上記高温用サーミスタ材料を用いた高温用サーミスタにつき,図1,図2を用いて説明する。
本例の高温用サーミスタ材料は,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとからなる高温用サーミスタ材料である。
そして,本例の高温用サーミスタ材料の製造方法は,(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末と,Y2 O3 の粉末とよりなる混合原料粉末を1400〜1700℃に加熱焼成して両者を反応させることにより,得ることができる。
【0031】
次に,高温用サーミスタにつき説明する。
本例の高温用サーミスタ10は,図1に示すごとく,厚膜タイプであって,アルミナよりなるセラミックの基板11の上に上記高温用サーミスタ材料1が,更にその上にアルミナよりなるセラミックのカバー12が積層された積層構造を有している。
また,上記基板11の上には電極13が設けてあり,上記高温用サーミスタ材料1は上記電極13と接触している。
なお,上記電極13は,その一部が上記カバー12の外にある。
【0032】
次に,上記高温用サーミスタ10の製造方法の詳細につき説明する。なお,本製造方法においては,サーミスタ材料の焼成と高温用サーミスタ10を構成するアルミナよりなる基板,カバーの焼結を同時に行う。
まず,Cr2 O3 及びMnO2 を,それぞれが含有するCr及びMnのモル比が1:1となるよう,Cr2 O3 を46.7g,MnO2 53.3gを秤量した。
その後,両者をポットミルに投入し,12時間混合,1100℃において仮焼成した。以上により,(Mn・Cr)O4 スピネル粉末を得た。
【0033】
次いで,上記(Mn・Cr)O4 スピネル粉末が50モル%,Y2 O3 が50モル%と,全体を100モル%となるように混合した。即ち,(Mn・Cr)O4 スピネル粉末49.8gと,Y2 O3 50.2gとを混合した。
【0034】
更に,両者を混合した混合原料粉末100モル%,100gに対し,焼結助剤として,Si・Ca・O(ケイ酸シリケート)を10外モル%となるよう,5.2g添加,混合した。更に,上記混合物に対し,有機ビヒクル(化合物名エチルセルロースをテルピネオールに溶かしたもの)を25g添加した。
以上によりサーミスタぺーストを得た。
【0035】
次に,焼成後には基板11となるセラミックのグリーンシートを準備する。上記グリーンシートにPtペーストを,更に,サーミスタペーストを印刷する。これらをを被覆するよう,焼成後にはカバー12となる他のグリーンシートを積層する(図1参照)。
以上により得られた積層物を,温度1550℃において焼成し,グリーンシートの焼成と共に,上記ペースト中において(Mn・Cr)O4 スピネルとY2 O3 とを反応させ,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとよりなる混合焼結体となした。
以上により,図1に示す高温用サーミスタ10を得た。
【0036】
次に,本例における作用効果につき説明する。
本例の製造方法においては,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとよりなるサーミスタ材料の原料として,(Mn・Cr)O4 スピネルよりなる粉末とY2 O3 よりなる粉末とを使用する。
これら両粉末を混合し,焼成することにより,(Mn・Cr)O4 スピネル中の一部のMn及びCr原子(またはMn及びCrイオン)が,隣接するY2 O3 側に移動し,該Y2 O3 と反応し,Y(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトを形成する。
【0037】
この過程において,(Mn・Cr)O4 スピネルとY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとの間に,従来材料では得られなかった強い結合力が生じる。そして,この結合力により両者が均一に分散した状態を安定に存続させることができる。
従って,本発明の高温用サーミスタ材料においては,常に均一に(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとが混在しており,従ってそのサーミスタ特性も安定する。
【0038】
また,本例に示した高温用サーミスタ10は,厚膜タイプ高温用サーミスタである。そして,このような高温用サーミスタを従来材料で作成した場合には,サーミスタ特性が安定しなかった。
【0039】
しかし,本発明にかかるサーミスタ材料により作成した場合には,サーミスタ材料中における,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとの間に分離が発生せず,従来例に示すような(Mn・Cr)O4 スピネルのアルミナよりなる基板11,カバー12への逃げが発生しない。このため,本例にかかる高温用サーミスタは安定したサーミスタ特性を有することができる。
【0040】
次に,本例にかかる高温用サーミスタのサーミスタ特性につき,比較例と共に説明する。
まず,本発明にかかる,表1に示す組成のサーミスタ材料を用いた試料1〜6にかかる高温用サーミスタを準備する。なお,同表に示すY2 O3 の添加量(モル%)は,(Mn・Cr)O4 スピネル粉末とY2 O3 粉末との合計量100モル%に対する値で表している。また,試料6にかかるCa・Si・Oの添加量は,上記合計量に対する外モル%である。
そして,上述の試料1〜6を,上述と同様の製造方法により製造した。
【0041】
また,比較試料C1は,従来の製造方法により得られたサーミスタ材料よりなる高温用サーミスタである。
即ち,Cr2 O3 とMnO2 とをCrとMnとのモル比が1モルとなるように配合し,1100℃〜1300℃で仮焼成後,粉砕を行い,Mn1.5 Cr1.5 O4 スピネルの粉末を得た。
【0042】
また,同様にして,Cr2 O3 とY2 O3 とをCrとYのモル比が1:1になるよう配合し,1100℃〜1300℃で仮焼成後,粉砕を行いYCrO3 ペロブスカイトの粉末を得た。
上記原料となる粉末を混合し,上述と同様の製造方法にてサーミスタペーストとなし,図1と同様の高温用サーミスタを得た。これが比較試料C1である。
【0043】
次に,上述の各試料1〜6,比較試料C1とのサーミスタ特性の測定に関して説明する。
まず,500℃/700℃における抵抗値を測定し,これらよりサーミスタ定数を算出し,これを表1に記した。
次に,700℃における比抵抗を測定し,これを表1に記した。
【0044】
次に,上述の各試料1〜6,比較試料C1の高温耐久性につき,以下に示すごとく測定した。
まず,上述の各試料1〜6,比較試料C1の700℃における抵抗値を測定した。次いで,各試料1〜6,比較試料C1を炉に投入し,1100℃,1000時間にて加熱した。その後,炉より取出した各試料1〜6,比較試料C1につき,再び700℃における抵抗値を測定した。
【0045】
加熱前における抵抗値をRM,加熱後における抵抗値をRGとすると,これらの間における抵抗値変化率は(RG/RM)−1となり,この値の百分率を表1に記した。
なお,図2は,縦軸に上記抵抗値変化率,横軸にY2 O3 添加量とし,プロットした線図である。
【0046】
表1より知れるごとく,試料1〜6は,いずれも抵抗値変化率が低く,加熱前と加熱後において,抵抗値が殆ど変化なかったことが分かった。
このため,本発明にかかるサーミスタ材料は高温において,特に安定したサーミスタ特性を維持することができることが分かった。
【0047】
これと対照的に,比較試料C1は,抵抗変化率が+45と非常に高く,高温において,そのサーミスタ特性が安定しないことが分かった。
従って,本発明にかかる試料1〜6は,実際の使用環境に類似した高温雰囲気においても精度よく温度を検出することができることが分かった。
【0048】
また,試料1,2,5,6は,いずれも本発明にかかるサーミスタ材料であるが,Y2 O3 の添加量が各々異なる。そして,試料1,2,5,6の間においては,その比抵抗が80〜1940の範囲にある。
従って,本発明にかかるサーミスタ材料は,Y2 O3 の添加量を変化させることにより,広い範囲の比抵抗を得ることが可能であることが分かった。
【0049】
また,試料2,3,4より,(Mn・Cr)O4 におけるMnとCrとのモル比を違えることにより,その比抵抗が105〜1060まで変化することが分かった。
従って,本発明にかかるサーミスタ材料は,(Mn・Cr)O4 におけるMnとCrとのモル比を違えることにより,広い範囲の比抵抗を得ることが可能であることが分かった。
【0050】
【表1】
【0051】
実施形態例2
本例は,図3に示すごとく,本発明にかかるサーミスタ材料1をバルクタイプのサーミスタ素子20としたものである。
図3に示すごとく,上記サーミスタ素子20は,サーミスタ材料1によりバルク状の本体が構成されてなり,該本体に対し,2本の電極23が埋設された構造を有している。
【0052】
本例のサーミスタ素子20の製造方法につき説明する。
まず,(Mn・Cr)O4 スピネル粉末が50モル%,Y2 O3 が50モル%,全体が100モル%となるように,(Mn・Cr)O4 スピネル粉末を49.8g,Y2 O3 を50.2g混合した。
【0053】
更に,両者を混合した混合原料粉末100モル%,100gに対し,焼結助剤として,Si・Ca・O(ケイ酸シリケート)を10外モル%,5.2g添加,混合した。更に,上記混合物に対し,有機バインダ(化合物名PVA(ポリビニルアルコール)10%濃度溶液)を10g添加した。
【0054】
以上により得られたサーミスタ造粒粉末を,所望の形状(図3参照)に成形した。なお,この成形の際に,上記電極23となるPt線を2本,埋設した。
その後,これらを温度1550℃において焼結し,(Mn・Cr)O4 スピネルとY2 O3 とを反応させ,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとの混合焼結体となした。
以上により,図3に示すサーミスタ素子20を得た。
その他は,実施形態例1と同様である。
また,本例においても,実施形態例1と同様の作用効果を有する。
【0055】
実施形態例3
本例は,図4に示すごとく,本発明にかかる高温用サーミスタを自動車の排気ガス温度測定器として用いたものである。
上記排気ガス温度測定器は,実施形態例2において示したバルクタイプの高温用サーミスタ素子20をセメント22に封入することにより金属筒30内に固定し,高温用サーミスタ3としたものである。
また,上記高温用サーミスタ素子20より延設された2本の電極23は上記金属筒30内においてリード線33に対し接続されている。上記リード線33より上記高温用サーミスタ素子20の出力を外部に取出している。
なお,符号31は,ハウジングである。
その他は実施形態例1と同様である。
【0056】
本例の排気ガス温度測定器である高温用サーミスタ3は,サーミスタ素子20が金属筒30内に内包されている。このため,上記サーミスタ素子20が排気ガスに晒されることを防止できる。
よって,本例によればサーミスタ素子20の寿命を格段に向上させることができる。
その他の作用効果は,実施形態例1と同様である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態例1における,厚膜タイプの高温用サーミスタの断面図。
【図2】実施形態例1における,抵抗変化率とY2 O3 添加量との間の関係を示す線図。
【図3】実施形態例2における,バルクタイプのサーミスタ素子の説明図。
【図4】実施形態例3における,高温用サーミスタの断面図。
【図5】従来例における,厚膜タイプの高温用サーミスタの問題を示す説明図。
【符号の説明】
1...サーミスタ材料,
10...高温用サーミスタ,
11...基板,
12...カバー,
20...サーミスタ素子,
Claims (5)
- (Mn・Cr)O4 スピネルの粉末と,Y2 O3 の粉末との混合原料粉末を1400〜1700℃に加熱焼成して両者を反応させ,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとからなるサーミスタ材料を得ることを特徴とする高温用サーミスタ材料の製造方法。
- 請求項1において,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルとY2 O3 との合計量に対するY2 O3 の添加量は10〜90モル%であることを特徴とする高温用サーミスタ材料の製造方法。
- 請求項1または2において,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末中における,Cr/Mnのモル比は0.11〜9.0であることを特徴とする高温用サーミスタ材料の製造方法。
- アルミナを含有するセラミック基板の上に高温用サーミスタ材料,更にその上にアルミナを含有するセラミックカバーが積層された積層構造を有する高温用サーミスタであって,
かつ上記高温用サーミスタ材料は,(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末と,Y2 O3 の粉末との混合原料粉末を1400〜1700℃に加熱焼成して両者を反応させ,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとからなり,
かつ,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルとY2 O3 との合計量に対するY2 O3 の添加量は10〜90モル%であり,
かつ,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末中における,Cr/Mnのモル比は0.11〜9.0であることを特徴とする高温用サーミスタ。 - 高温用サーミスタ材料を金属筒内に内蔵してなる高温用サーミスタであって,
かつ上記高温用サーミスタ材料は,(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末と,Y2 O3 の粉末との混合原料粉末を1400〜1700℃に加熱焼成して両者を反応させ,(Mnx・Cry)O4 スピネル(0<x,y≦2,x+y=3)とY(Cr+Mn)O3 ペロブスカイトとからなり,
かつ,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルとY2 O3 との合計量に対するY2 O3 の添加量は10〜90モル%であり,
かつ,上記混合原料粉末中の(Mn・Cr)O4 スピネルの粉末中における,Cr/Mnのモル比は0.11〜9.0であることを特徴とする高温用サーミスタ。
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