JP3720688B2 - ステッピングモータ駆動方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ステッピングモータ駆動におけるトルク制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
5相ステッピングモータ駆動におけるトルク制御は、駆動電流制御により行なわれ、従来では駆動電流の制御は、モータの電源電圧を変換することにより以下に説明するような方法で行なわれる。
【0003】
図11に、5相ステッピングモータ駆動回路の従来例を示す。
電流制御部1の構成要素であるスイッチ素子QlはP型FET(電界効果トランジスタ)であり、ステッピングモータ6への駆動励磁電流を供給するハイサイド側スイッチ素子Pl〜P5はP型FETであり、ローサイド側スイッチ素子Nl〜N5はN型FETである。
【0004】
モータ電源Vmの+側はスイッチ素子Qlのソースに接続され、一側は接地されている。スイッチ素子Qlのゲートには電流制御信号生成部11の出力である信号SQlが接続され、ドレインはコイルLlの一方端に接続されている。コイルLlの他端にはコンデンサーClが接続され、コンデンサーC1の他端はスイッチ素子Nl〜5のソースに接続されている。コンデンサーClの+側にはスイッチ素子Pl〜P5のソースヘ共通に接続されている。コンデンサーClの一側はスイッチ素子Nl〜N5のソースヘ共通に接続されている。コンデンサーClの両端電圧をVClとする。スイッチ素子Pl〜P5各々のドレインはスイッチ素子Nl〜N5各々のドレインに接続されるとともに、ステッピングモータの給電点ア〜オヘ接続されている。
【0005】
ステッピングモータ6は5組の励磁巻線A、B、C、D、Eを有し、ステータでの配列は、A→B→C→D→E→Aの順に環状に並び、巻線A〜Eは以下のように環状結線している。巻線Dの一端と巻線Aの一端を結線して給電点アとする。巻線Aの他端と巻線Cの一端を結線して給電点イとする。巻線Cの他端と巻線Eの一端を結線して給電点ウとする。巻線Eの他端と巻線Bの一端を結線して給電点エとする。巻線Bの他端と巻線Dの他端を結線して給電点オとする。
【0006】
給電点アはスイッチ素子PlおよびNlのドレインに接続され、同様に給電点イ〜オは各々スイッチ素子P2〜P5およびN2〜N5のドレインにそれぞれ接続されている。スイッチ素子Nl〜N5のソースは共通に抵抗R1の一方端に接続されるとともに電流制御信号生成部11へ入力されている。抵抗R1の他端は接地されている。抵抗R1に流れる電流をiとし、その時の両端電圧をVR1とする。電流制御信号生成部11には電圧Vrefが入力されている。
【0007】
励磁信号生成部2には信号DIR、信号MCLKが入力されている。励磁信号生成部2から信号SP10〜50が出力され、電圧変換部3を経て各々信号SPl〜5としてスイッチ素子Pl〜5各々のゲートに接続されている。電圧変換部3にはコンデンサーClの+側電圧が入力されている。励磁信号生成部2から信号SNl〜5が出力されスイッチ素子Nl〜5各々のゲートに接続されている。
【0008】
[電流制御動作]
電流制御信号生成部11には、モータ駆動総和電流iの制御目標値に相当する電圧Vrefが入力され、その値は所望トルクに応じて設定する。
励磁信号生成部2により前記スイッチ素子Pl〜P5およびNl〜N5が給電点ア〜オに所定の順序で電圧を与え、これによりモータ巻線に電流が流れ、その総和電流iが抵抗Rlの両端に電圧VRlを生じる。このVRlと前記Vrefを電流制御信号生成部11で比較し、その結果に基づき信号SQlを生成する。
信号SQlにより、スイッチ素子Qlのソースとドレインがオン(導通)状態とオフ(遮断)状態を繰り返し、モータ駆動電源VmからコイルL1への供給電流が調整される。
【0009】
総和電流iが目標電流より小さい場合VRl<Vrefとなり、信号SQlは、スイッチ素子Qlのオン期間が長くなるよう変更され、その結果VClが上昇し総和電流iが増す。総和電流iが目標電流より大きい場合VRl>Vrefとなり、信号SQlは、スイッチ素子Qlのオン期間が短くなるよう変更され、その結果VClが下降し総和電流iが減る。
このようにして、VCl即ちモータにかかる電圧を変えて総和電流iすなわち駆動電流を目標値へ制御する。
【0010】
[回転駆動動作]
励磁信号生成部2には、ステッピングモータ6を回転駆動するための制御信号として、回転方向を定める信号DIR、回転速度を定める信号MCLKが入力される。励磁信号生成部2では、この2つの信号を元に制御信号SP10〜50(SPl〜5)およびSNl〜5を生成し、それらによってスイッチ素子群Pl〜5およびNl〜5を所定の手順で動作させ巻線を励磁し、ロータ(図示せず)を信号DIRに応じた回転方向へ、信号MCLKに応じた速度で回転駆動する。
【0011】
給電点ア〜オの各々は、ハイサイド側スイッチ素子Pl〜5によりコンデンサーClの+側とのオン(導通)・オフ(遮断)が行なわれ、ローサイド側スイッチ素子Nl〜5によりコンデンサーClの−側とのオン・オフが行なわれる。
【0012】
スイッチ素子Pl〜5のP型FETの動作は、本例では説明の都合上以下のような単純動作とする。ゲート電圧がソース電圧より「充分」低ければ、ソース・ドレイン間はオン状態になる。ゲート電圧とソース電圧の差がなければ、ソース・ドレイン間はオフ状態になる。
ただし、前記電流制御によりソース電圧すなわち「VCl+VRl」は変化するので、励磁信号生成部2の出力信号PSPl〜PSP5を元に生成された電圧変換部3の出力信号SPl〜SP5の電圧は「VCl+VRl」を基準にして変換し、本例ではオン時は「(VCl+VRl)−10ボルト」とし、オフ時は「VCl+VRl」とする。
【0013】
スイッチ素子Nl〜5のN型FETは、同様に以下のように動作するものとする。
ゲート電圧がソース電圧より「充分」高ければ、ソース・ドレイン間はオン状態になる。ゲート電圧とソース電圧の差がなければ、ソース・ドレイン間はオフ状態になる。抵抗Rlの両端電圧VRlはVClに比し充分小さく無視できるので、励磁信号生成部2の出力信号SNl〜SN5は、本例ではオン時は10ボルトとし、オフ時は0ボルトとする。
【0014】
[励磁駆動動作]
図12に、前記5相ステッピングモータの4相励磁駆動を示す。
給電点ア〜オを図12の5角形の頂点で示し、その通電状態を以下の記号で示す。
ハイサイド側スイッチ素子Pl〜5がオン、ローサイド側スイッチ素子Nl〜5がオフで、コンデンサーClの+側へ接続され電圧としてほぼVClが与えられる場合に○を付す。
スイッチ素子Pl〜5がオフ、スイッチ素子Nl〜5がオンで、コンデンサーClの−側へ接続され電圧としてほぼゼロボルトが与えられる場合に●を付す。電流の向きは、図示右回り(時計周り)を正とする。
【0015】
励磁ステップは信号MCLKに同期して進む。信号DIRは回転方向を定める信号で、例えば、信号DIRが"H"では、信号MCLKの立ち上りに同期して励磁ステップが(1)(2)(3)…(10)(1)…と進む。信号DIRが“L"では(1)(10)(9)…(1)(10)…と進み、"H"の場合と回転方向が逆となるが、両者は励磁進段方向が異なるだけで各励磁ステップの給電状態は同一なので、以下は“H”の場合のみ説明する。
【0016】
励磁ステップ(1)では、
(1a)給電点ア・イ・オが+側に接続され、給電点ウ・エが−側に接続された状態
(1b)給電点アが+側に接続され、給電点イ・ウ・エ・オが−側に接続された状態
が交互に時間的に50%ずつの割合で、信号MCLKの周期に比し充分短い周期で繰返される。
【0017】
信号MCLKの立ち上りに同期して励磁ステップが(2)に進むと、
(2a)給電点ア・イ・ウ・オが+側に接続され、給電点エが一側に接続された状態
(2b)給電点ア・イが+側に接続され、給電点ウ・エ・オが−側に接続された状態
が交互に時間的に50%ずつの割合で、信号MCLKの周期に比し充分に短い周期で繰返される。
以下、同様にして励磁ステップ(10)まで進み再びステップ(1)に戻る。
【0018】
この励磁方法は、各ステップ内で巻線両端へ電圧が与えられるため電流の変化が迅速で、モータをより高速に回転駆動できるなどのメリットがある。
【0019】
前記励磁ステップでの電気ベクトルすなわちトルクベクトルを図13に示す。巻線A〜Eの巻線電流の方向により、各々巻線が単独で生じるベクトルの向きは逆になるため、巻線が単独で生じるベクトルは全部で10本となり、隣接するベクトル間の角度すなわち電気角は360度÷10分割=36度となる。
【0020】
励磁ステップ(1a)では巻線Bに負方向に電流が流れ、巻線Cに正方向に電流が流れる。
励磁ステップ(1b)では巻線Aに正方向に電流が流れ、巻線Dに負方向に電流が流れる。
(1a)と(1b)とは同じ割合なので、この状態の各巻線の生じるトルクベクトルの大きさを1とすると、ステップ(1)の合成ベクトルはTl==TA−TB+TC−TDとなり、その大きさ|Tl|≒3.08となる。
以下同様に励磁ステップ(2)の合成ベクトルT2は図13に示すようなり、励磁ステップの進段で電気角は36度ずつ変化する。
以上が、励磁相数が常に4相の、いわゆるフルステップ駆動であるが、回転角(電気角)単位をフルステップより細かくしたマイクロステップ駆動を次に説明する。
【0021】
図14に、4分割マイクロステップの励磁ステップを時系列で示す。励磁ステップ周期をtとする。
以下でのステップ位置は整数部分でフルステップ位置を表わし、その後の分数のうちの分母で分割数、分子でマイクロステップ位置を表現する。
ステップ(1)では、ステップ(1a)と(1b)とが等しい割合すなわち4t/8の時間で繰返す。
ステップ(1 1/4)では、ステップ(1)と(2)とが3:1の比で繰返す。すなわち(1a)が3t/8、(2a)がt/8、(1b)が3t/8、(2b)がt/8の時間で繰返す。
ステップ(12/4)では、ステップ(1)と(2)とが2:2の比で繰返す。すなわち(1a)(2a)(1b)(2b)が各々2t/8の時間で繰返す。
以下、図示のように繰返し、ステップ(2)では、ステップ(2a)と(2b)だけになり各々が4t/8の時間で繰返す。
【0022】
この時のベクトルは、図15に示すように、ステップ(1)から(2)までの間を4つに内分したものとなる。
すなわち、ステップ(1 1/4)の合成ベクトルTl l/4 では、ステップ(1)と(2)とが3:1の比で繰返されるので、1:3に内分するベクトルになる。同様にその後のマイクロステップのベクトルはフルステップのベクトル間の内分点を図示のように進み、歩進パルス1周期当りの回転角(電気角)が、フルステップ時の4分の1に細分化される。ただし、図15から明らかなように、発生トルクは、フルステップ位置で最大値約3.08となり、中点であるハーフステップ位置で最小値約2.93となり、位置によりトルクが変動する。
分割数を細分化するほど歩進パルス1周期当りの電気角も細分化され、ステッピングモータの階動回転が、擬似的に連続回転状態に近づけることができる。ただし、分割数を細分化しても上述のトルク変動はそのままである。
なお、本例はスイッチ素子は全てFETを用いた構成であるが、パイボーラ型トランジスタを用いたものもある。
【0023】
【発明が解決しようとする課題】
従来例では、所望の駆動トルクとなるよう電流制御部によってハイサイド側電圧をローサイド側に対して相対的に変化させる。電流制御部の構成部品であるスイッチ素子Ql、コイルLl、コンデンサーClなどは、充分な耐電圧とともに電流容量も大きい部品を用いる必要があり、該部のコストは非常に高いものとなってしまう。例えば、駆動用電源電圧が40ボルト、モータ駆動電流が最大3アンペアの駆動回路の場合、該部のコストが駆動回路全体のほぼ半分を占めてしまう場合もある。
駆動電流すなわち発生トルクを一定にするよう制御する場合、回転速度が高いほど必要なエネルギーも大きくなる。つまり、従来例では、回転速度が高ければハイサイド側電圧も高くなり、回転速度が低くなるとハイサイド側電圧も低くなる。
【0024】
ここで、複写機の構成要素である原稿読取装置の用途例で見ると、読取期間後に、読取部材(読取センサなど)を高速で基準位置に戻すために高速回転駆動する非常に短期間においてハイサイド側電圧は最も高い。一方、読取期間では、高速回転期間に比し回転速度が数分の一から数十分の一と遅いため、ハイサイド側電圧は非常に低い電圧となる。
従って、耐圧が高く電流容量も大きい事が必要な状態は短期間であり、回路の使用効率から見ると非常に無駄の多い構成となり、かつコストも高いということになる。
【0025】
さらに、先ほど述べたように、駆動速度が小さいとハイサイド側電圧も下がり、ハイサイド側スイッチ素子をオンさせる場合のゲート信号電圧もそれに応じてローサイド側電圧に近づきあるいはローサイド側電圧より低い電圧にする必要が出てくる。そのため、例えば従来例における電圧変換部3は、複電圧電源を用いた複雑な構成としなければならず、駆動回路全体がさらに複雑になるとともに、全体のコストも一層高いものになってしまう。
【0026】
【課題を解決するための手段】
前述の課題を解決するために、本発明は、複数の巻線組を有するステッピングモータの各巻線組を歩進パルスに応じて所定の手順で励磁駆動するステッピングモータ駆動方法において、各巻線電流を正弦波状に変化させるよう給電点の給電状態を変化させ、電気角で1種の給電状態を含み、電気角で1フルステップを超えて離れた2種以上の給電状態を歩進パルス周期より短い周期で歩進パルスと非同期に繰返し、前記2種以上の給電状態を歩進パルスに応じてともに変化させることで、前記各巻線組への電流制御を行うことを特徴とする。
【0027】
【実施例】
本発明の実施例を図1に示す。従来例の図11に対応する構成要素には同一番号を付し、また構成の変わらない部分の説明は省く。
モータ電源Vmの+側は、コンデンサーClの+側およびハイサイド側スイッチ素子Pl〜5のソースに直接接続される。
オフセット信号生成部101には、コンデンサーClの−側電圧と、モータ駆動トルク目標値に対応する電圧Vrefが入力され、信号OFSが出力される。
励磁信号生成都2Aには信号MCLK、信号DIRに加え信号OFSも入力され、スイッチ素子制御信号SPl〜5およびSNl〜5が出力される。
電圧変換部3Aには信号SPl〜5とハイサイド側電圧であるVmが入力され、信号SPl〜5が出力される。
【0028】
[励磁駆動動作]
詳細は後述するが、5給電点のいずれかがハイサイドまたはローサイドに100%の時間割合で接続されるステップが従来例のフルステップに対応するものであり、従来例に対応する整数でステップ状態を表わすことにする。
以下は、従来例のマイクロステップ分割数に相当する値が充分大きく、フルステップ間の変化が連続的に扱える状態であるとする。
【0029】
図2に、給電点のPWM状態、巻線の給電状況、巻線電流、給電電流を示す。横軸は励磁ステップであり約2回転分を示し、2回転目のステップ1をステップ11として示し、同様に2回転目のステップ10をステップ20としてステップ21まで示している。
【0030】
図2(a)は、ア〜オの5給電点のPWM状態を「ハイサイド側のオン時間割合一ローサイド側のオン時間割合」で示したものである。なお、ここでは細線の波形のみを説明し、太線は後述する。
例えば給電点アで見ると、ステップ1では+側へ時間割合100%(+1.0)で接続されており、ステップ6では−側へ時間割合100%(−1.0)で接続されている。その間は図2(a)に示すよう正弦波状に変化し、その後も同様で、全体では電気角1回転=10ステップ周期の正弦波状に変化する。他の給電点も同様で、隣接する給電点間の位相差が72度(=360度÷5)の正弦波状に変化する。
【0031】
図2(b)は、巻線A〜Eの給電状態を、各々巻線両端の給電点のPWM状態の差で示したものである。なお、ここでは細線の波形のみを説明し、太線は後述する。
例えば巻線Aの両端の給電点はアとイであり、アがハイサイド側に接続され、イがローサイド側に接続された状態を+方向とする。ステップ1ではアは「+1.0」であり、イは「+0.31」であるので給電状態は「+0.69」となる。給電点の変化が正弦波状なので、給電状態も10ステップ周期の正弦波状になる。他の巻線も同様であり、巻線A・C・E・B・Dの順で隣接する巻線間の位相差が72度の正弦波になる。
【0032】
図2(c)は巻線電流である。ここでは細線の波形のみを説明し、太線は後述する。巻線電流の変化速度は巻線のインダクタンスLやスイッチ素子の特性などによる充放電回路形成時の時定数の影響などを受けるため、実際の波形を表わすことは簡単ではない。そこで、ここでは、回転速度が低く電流変化が遅くて前記時定数の影響を無視でき、巻線電流が給電状態に比例する場合、すなわち給電状態が「+1.0」のときの巻線電流を「+1.0」として説明する。(回転速度が高く給電状態と巻線電流との関係が複雑になっても、以下に説明することは本質的に同様である。)
よって、巻線電流は、給電状態と同様に、10ステップを周期とする、巻線A・C・E・B・Dの順番で隣接する巻線間の位相差が72度の正弦波になる。
【0033】
図2(d)は図2(c)に対応した給電点電流であり、対応する巻線電流の差となる。ここでは細線の波形のみを説明し、太線は後述する。
例えば給電点アでは「巻線Aの巻線電流一巻線Dの巻線電流」となり、ステップ1では「+1.38」となり、ステップ6では「−1.38」となり、隣接する給電点間の位相羞が72度の正弦波になる。
以上、説明したように、本発明では給電点のPWM変化が正弦波状であり、それにより給電点電流や巻線電流も全て正弦波状になる。
【0034】
[電流制御動作]
本発明では、上述のように、給電点のPWM変化が正弦波状の変化であることを基本として、異なる励磁ステップを組み合わせて電流制御を行なう。その詳細を以下に説明する。
まず、図3(i)に「励磁ステップの組合せが同じ」場合の励磁状態の時間変化を示す。これは、図2の「励磁ステップ1のみを繰返す」状態である。
図4に、図3(i)の「励磁ステップ1」のトルクベクトルSlを示す。給電点のPWM状態は図2(a)に示すように、ア=+1.0、イ=+0.31、ウ=−0.81、エ=−0.81、オ=+0.31、であるので、|Sl|≒2.94となる。
【0035】
以下、同様にして励磁ステップ2、ステップ3…でのトルクベクトルがS2、S3…が図示のように形成される。なお、図2から明らかなように、5つの巻線電流はいわゆる「5相正弦波(交流)」状に変化するので、ベクトルTA〜TEによって合成されるトルクベクトルSl…(S5以降は図示省略)の大きさはもとより、フルステップ相当位置間でのトルクベクトルの大きさも全て等しい。
【0036】
次に、図3(ii)に「励磁ステップの組合せが異なる」場合として、図2の励磁ステップ1と、それよりも4フルステップ相当離れた励磁ステップ5とを組合せ、これらを交互に繰返す場合を示す。なお、励磁ステップ期間の周期Tは図示のように(i)(ii)とも等しく、図示の範囲で信号MCLKは変化しないものとする。
【0037】
トルクベクトルは図5に示すように、SlとS5の合成ベクトルにより生成されるS15となる。この場合、(i)でステップ1がTの周期で繰返される場合に比し(ii)ではステップ1とステップ5とが組となり周期2Tで繰返されるため、S15は、ステップ1のトルクベクトルSlとステップ5のトルクベクトルの合成ベクトルの半分となり、|S15|≒0.91となって、(i)の|Sl|≒2.94よりも小さくなる。
【0038】
図6に、信号MCLKの立ち上りエッジにより励磁ステップがフルステップ単位で進段する状態を示す。
図6(i)は図3 (i)に対応するもので、信号MCLKの立ち上りエッジの後で励磁ステップが1から2へ進み、信号MCLKの、次の立ち上りエッジが来るまでステップ2を繰返す。
図6(ii)は図3(ii)に対応するもので、信号MCLKの立ち上りエッジの後で励磁ステップの繰返し組合せが「ステップ1とステップ5」から「ステップ2とステップ6」へ進み、信号MCLKの、次の立ち上りエッジが来るまで「ステップ2とステップ6」の組合せを繰返す。
ここではフルステップの例を示したがマイクロステップでも同様であり、例えば分割数4の場合には、「ステップ1とステップ5」から「ステップ1 1/4とステップ5 1/4」へ進むことになる。
【0039】
図5から明らかなように、組み合わせる2種のステップの差(以下ではオフセット量と記す)を変えることにより、合成トルクベクトルの大きさすなわち発生トルク(駆動電流)を変えることができる。
【0040】
図5で2種のベクトルのなす電気角をθ(θは0度以上180度以下の範囲とする)とすると、合成ベクトルの大きさは、オフセット0(励磁ステップの組合せが同じ)の場合すなわちθ=0度の時を基準にするとcos(θ/2)倍となる。
【0041】
図7に、オフセット量とトルクベクトルの大きさの対応を示す。オフセット量0とすれはベクトルの大きさは理論的な最大値約2.94となり、オフセット量5すなわち2種のベクトルの向きを正反対にすればトルクベクトルの大きさは0すなわち最小となり、その間は図のように正弦波状に変化する。
よって、発生トルクは、電源電圧やモータ特性などに応じた最大値から0までの任意値すなわち所望の値に必ず制御できることになる。
【0042】
図5に示した「ステップ1とステップ5」すなわちオフセット量4の場合の、給電点のPWM状態と巻線給電状況、巻線電流、給電電流を、前掲の図2に重ねて示す。図4(ii)の「ステップ1とステップ5」の時を(i)のステップ1の位置に対応させている。
図2(a)中の太線は、ア〜オの5給電点のPWM状態をオフセット量0(細線)と比し示したものである。オフセット量0の振幅が土1.0であるのに対しオフセット量4では約士0.31となる。
振幅以外はオフセット量が0の時と同様の正弦波状である。
図2(b)中の太線は、巻線A〜Eの給電状態をオフセット量0(実線)と比し示したものである。
(a)と同様、オフセット量に応じて周期は変らずに振幅のみが相似的に変わる。振幅は、オフセット量0の振幅約土1.18に対しオフセット量4では約土0.36となる。
図2(c)中の太線は、巻線A〜Eの巻線電流を、オフセット量0(細線)と比し示したものである。
巻線電流も給電状態と同様、オフセット量に応じて周期は変らずに振幅のみが相似的に変わる。
図2(d)中の太線は、(c)の太線に対応した給電点電流である。
【0043】
よって、図1のオフセット信号生成部101は以下のように動作し、トルク制御する。
総和電流iがトルク目標値に対応する電圧より小さい場合(VRl<Vref)は、信号OFSは「オフセット量を減らす」値を出力する。
総和電流iがトルク目標値に対応する電圧より大きい場合(VRl>Vref)は、信号OFSは「オフセット量を増やす」値を出力する。
信号OFSに応じて、励磁信号生成部2Aでは、前述のオフセット量を上述のように変化させた信号SP10〜50およびSNl〜5を出力し、電流を制御する。
図示を省略するが、オフセット量に応じて、図2の各々に示したオフセット時の波形は、振幅のみがオフセット量に応じて変わり、波形自体はオフセット0の波形の相似形となる。すなわち、オフセット量を変えても巻線電流すなわち発生トルクのみが変化し、それ以外の回転特性(回転むらなど)はオフセット量に影響を受けない。
【0044】
ここで、比較のために、巻線電流の変化が正弦波状でなく、従来例の項で説明した、マイクロステップ時に2状態を時分割で混合しその比を直線的に変える方法(図14、図15)を、上記のオフセット方式に適用した場合を、図2と同様の方法で示したものが図8である。
【0045】
図8(a)は、ア〜オの5給電点のPWM状態を示したものである。細線はオフセット0、太線はオフセット4の場合である。
例えば給電点アで見ると、オフセット0の場合(細線)、ステップ1から2までは「+1.0」であり、ステップ3では「0」になり、ステップ2からステップ3の間では直線状に変化する。以下同様にして、変化が直線状である、全体としてほぼ台形状の変化が、各給電点で行なわれる。一方、オフセット4(太線)では、図のように、三角状の変化が部分的に混合された複雑な変化となり、オフセット0の場合の波形の相似形とはならない。
【0046】
図8(b)は、巻線A〜Eの給電状態を、各々巻線両端の給電点のPWM状態の差で示したものである。なお、細線はオフセット0の場合、太線はオフセット4の場合である。
例えば巻線Aで見ると、オフセット0の場合(黒線)、台形が連続した形の変化となる。他の巻線も同様である。一方、オフセット4(灰色線)では、図のように、台形状の間に給電「0」期間が生じた複雑な変化となり、オフセット0の場合の波形の相似形とはならない。
【0047】
図8(c)は巻線電流であり、細線はオフセット0の場合、太線はオフセット4の場合である。ここでも、実施例の図2と同様に巻線電流が給電状態に比例し、給電状態が「+1.0」であれば巻線電流も「+1.0」すなわち比例定数を1の場合で示す。
巻線電流は、給電状態の変化と同様、オフセット4(太線)では、オフセット0(細線)の相似形とはならず、実施例のように「振幅のみがオフセット量に応じて変わり、波形自体はオフセット0の波形の相似形になる」関係とは全く異なるものとなる。
【0048】
図8(d)は(c)に対応した給電点電流であり、細線はオフセット0の場合、太線はオフセット4の場合である。
給電電流も、巻線電流の変化と同様、オフセット4(太線)では、オフセット0(細線)の相似形とはならず全く異なるものとなる。
発明者らが実際に上述の方法にて5相ステッピングモータを電流駆動制御した時の、給電点の電流波形を図9、図10に示す。ステッピングモータは従来例として示した環状結線方式のもので、モータ軸1回転あたり500フルステップであり、駆動電流(給電点電流)規格は3アンペアppである。このモータの標準回転速度は毎秒1.8回転であるが、前述のように非常に遅い速度の一例として毎秒約0.22回転で駆動した。
【0049】
図9は図2に示した正弦波状変化で駆動した場合で、給電点の電流波形はほぼ正弦波状である。
図10は図8に示した台形波状変化で駆動した場合で、給電点の電流波形は図8(d)で示した台形波に似た形状であり、理論値に近いことがわかる。
台形波状の駆動をオフセット方式に適用した場合に正常な制御ができないことが以上のことから充分明らかであるので、詳細な説明は省くが、結果だけ述べると、トルクを非常に小さくした場合すなわちオフセット量が5フルステップに近い場合には、回転動作が間欠的に行なわれる状態が出現し、トルク制御自体が全く正常に行なわれなくなる。
【0050】
以上のことから、本発明のオフセット方式では、巻線電流の変化が正弦波状であること、すなわち給電点のPWM変化が正弦波状であることがトルク制御を正常に行なうための条件となる。
本発明ではモータ電源電圧すなわちハイサイド側電圧はVmで一定(電圧VRlは微小)なので、電圧変換部3Aの出力である信号SPl〜5の電圧は、従来例にならって表現するとオン時は「Vm−10ボルト」となり、オフ時は「Vm」とそれぞれ固定値となる。つまり、電圧変換部3Aの出力は、従来例の電圧変換部3のような複電源を用いる必要はなく、単電源の非常に簡単な回路で構成できる。
【0051】
なお、従来例で説明したマイクロステップは、図14および15で示したように「1フルステップ離れて隣接した」2状態を時分割で組合せ、その比率を変えてトルクベクトルの「向きを変える」ものであり、トルクベクトルの実効的な「大きさを変える」本発明とは目的も作用も全く異なるものである。
【0052】
本発明では、図3に示したように、2種の状態を繰返すのでPWM変化の周期単位は2Tとなり、従来例の変化周期Tに比し、PWM動作に因る電流変化がモータコイルなどを微妙に振動させなどにより発生する音の周波数が半分に低くなり、可聴音となってしまうように見える。
しかし、生じると思われる周波数を可聴周波数域より高くする、すなわちTを例えば30マイクロ秒程度にすれば周波数は約16キロヘルツとなり、発生音を聞こえなくすることは容易に可能である。
いままで述べてきたことから明らかなように、PWM周期は「電流制御のために変更する」必要はないため、このようにしても電流制御上は問題ない。
【0053】
本例では5相環状結線のステッピングモータで説明したが、原理的には「5相」「環状結線」「ステッピングモータ」に限定することなく、複数の巻線組を持ち、巻線に対応する給電点から電流を供給し、その量を時間軸方向で変化させることにより駆動するモータであれば、回転モータに限らず、直動モータなどにも広く適用できる。
【0054】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、モータ電源電圧を変換する回路(従来例の電流制御部1)を要さずに、巻線励磁のためのスイッチ素子(Pl〜5およびNl〜5)を用いて電流制御をも行なうため、モータ電源電圧変換部の構成部品であるスイッチ素子Ql、コイルLl、コンデンサーClなどの大きな構成部品が不要となり、さらに、トルクの大小に関係なくハイサイド側電圧は一定であるので、ハイサイドスイッチ素子の動作信号を生成する電圧変換部は単電源の単純な構成にでき、従来方法に比し大幅にコストダウンできるとともに、駆動回路全体もより一層小型に構成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の実施例1の回路図である。
【図2】図2は実施例1の給電状態、電流などの時間変化を示す図である。
【図3】図3は実施例1のタイミングチャートである。
【図4】図4は実施例1のトルクベクトルを示す図である。
【図5】図5は実施例1の合成トルクベクトルを示す図である。
【図6】図6は実施例1の進段状況を示す図である。
【図7】図7はオフセット量とトルクベクトルの大きさを示す図である。
【図8】図8は従来例の給電状態、電流などの時間変化を示す図である。
【図9】図9は正弦波変化での給電電流の時間変化を示す図である。
【図10】図10は台形波変化での給電電流の時間変化を示す図である。
【図11】図11は従来例の回路図である。
【図12】図12は5相ステッピングモータの励磁方法を説明するための図である。
【図13】図13は従来例のトルクベクトルを示す図である。
【図14】図14はマイクロステップのタイミングチャートである。
【図15】図15はマイクロステップのトルクベクトルを示す図である
【符号の説明】
1 電流制御部
2、2A 励磁信号生成部
3、3A 電圧変換部
6 ステッピングモータ
11 電流制御信号生成部
101 オフセット信号生成部
Pl〜P5 Nl〜N5 QI スイッチ素子
Ll コイル
Cl コンデンサー
Rl 抵抗
Vm モータ電源
Claims (4)
- 複数の巻線組を有するステッピングモータの各巻線組を歩進パルスに応じて所定の手順で励磁駆動するステッピングモータ駆動方法において、各巻線電流を正弦波状に変化させるよう給電点の給電状態を変化させ、電気角で1種の給電状態を含み、電気角で1フルステップを超えて離れた2種以上の給電状態を歩進パルス周期より短い周期で歩進パルスと非同期に繰返し、前記2種以上の給電状態を歩進パルスに応じてともに変化させることで、前記各巻線組への電流制御を行うことを特徴とするステッピングモータ駆動方法。
- ステッピングモータの巻線は環状に結線されていることを特徴とする請求項1項記載のステッピングモータ駆動方法。
- ステッピングモータの巻線組すなわち給電点は5点であることを特徴とする請求項1〜2項記載のステッピングモータ駆動方法。
- ステッピングプモータに流れる総和電流を検出し、ステッピングモータの巻線に流れる総和電流値と目標電流値の差に応じて前記2種以上の給電状態を切り換えることを特徴とする請求項1項記載のステッピングモータ駆動方法。
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