JP3720154B2 - プレス加工後の研磨性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents

プレス加工後の研磨性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、深絞り,張出し等のプレス成形加工を受けたとき、表面が粗面化する度合いが低く、しかもプレス成形加工後においても研磨性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】
ステンレス鋼板は、深絞り,張出し等のプレス加工後、美観の向上,鏡面用途への適用等を考慮した研磨加工が施される場合が多い。たとえば、JIS G4305に規定されているSUS304では、軽度の張出し加工を施した後、バフ研磨で鏡面とし、カーブミラー等に利用されている。
SUS304等のステンレス鋼をプレス成形加工後に研磨する場合、加工による肌荒れ,加工硬化等が原因となって目標の仕上げ表面を得るまでに多くの工数及び時間が必要となる。その結果、作業性が低下し、生産性が阻害され、製品のコストが上昇する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
結晶粒度番号の小さい(結晶粒径の大きい)鋼板を成形加工するときに表面肌が荒れる現象は、「オレンジピール」として知られている。このオレンジピールは、隣接する結晶粒の結晶方位が個々に異なり、塑性加工を受けた際に変形挙動が結晶粒単位で異なるため、鋼板表面では凹凸となって表面肌が荒れる現象である。肌荒れは、結晶粒径が大きいほど強調される傾向にある。
他方、結晶粒度番号が大きい(結晶粒径が小さい)鋼板では、結晶粒径に対応する凹凸のピッチが小さくなることから、凹凸自体も小さくなる。したがって、表面肌が粗くなる傾向が抑制され、オレンジピールが問題とならない。
【0004】
しかし、SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒径を小さくすると、成形加工前の素材鋼板の強度が上昇する。具体的には、降伏強度YSと結晶粒径dとの間にYS=C・d-1/2(C:定数)で表されるHall−Petchの関係があり、この関係はオーステナイト系ステンレス鋼においても成立する。そのため、結晶粒径を小さくすることにより成形加工後の表面粗さを小さくできても、素材鋼板の耐力及び硬さの上昇に起因して研磨時間が長くなり、作業性が低下する。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、Ni,Cr,Mn,Cu等の含有量間に特定の相関関係をもたせ、結晶粒径を小さくすることによって成形加工後の鋼板の肌荒れを抑制すると共に、結晶粒径を小さくしても依然として軟質な特性を維持し、加工部位の研磨時間を短くすることが可能なプレス加工品の研磨性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、その目的を達成するため、C:0.04質量%以下,Si:1.0質量%以下,Mn:3.45質量%以下,Ni:5〜9質量%,Cr:15〜20質量%,Cu:1.0〜5.0質量%,N:0.035質量%以下を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ式X=Ni+0.5Cr+0.7(Mn+Cu)−18で定義されるX値が正になる組成を持ち、ビッカース硬さHV130以下,焼鈍後の状態でJIS G0551に規定される結晶粒度番号が8〜11であることを特徴とする。
このオーステナイト系ステンレス鋼は、更にMo:3.0質量%以下,Al:0.5質量%以下,Ti:0.5質量%以下,Nb:0.5質量%以下,Zr:0.5質量%以下,V:0.5質量%以下,B:0.03質量%以下,REM(希土類金属):0.02質量%以下,Ca:0.03質量%以下の何れか1種又は2種以上を含むことができる。
【0006】
【作用】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼においては、各合金成分の含有量範囲を特定すると共に、合金成分相互の間に特定された相関関係を持たせることにより軟質化させ、且つ結晶粒度の規制によって異方性を低減させプレス加工時の特定歪み領域における表面性状の劣化を抑制している。そして、これらが相俟つてプレス加工後の表面研磨工程で生産性を向上させることが可能となる。
【0007】
以下、本発明オーステナイト系ステンレス鋼に含まれる合金成分,含有量等について説明する。
C:0.04質量%以下
多量に含まれると素材硬さが上昇し、C含有量が0.04質量%を超えると
研磨性が低下する。
Si:1.0質量%以下
溶製時に脱酸剤として有効な成分であるが、1.0質量%を超える多量のSiが含まれると素材の硬さが上昇し、研磨性が低下する。
Mn:5.0質量%以下
軟質化に有効な合金成分であり、Mn含有量の増加に応じて硬さが低下する。しかし、過剰のMnが含まれると、焼鈍後の酸洗性が劣化し、光輝焼鈍時の表面着色に起因して製品の意匠性を損ねる虞れがある。そこで、本発明においては、軟質化の効果が飽和する5.0質量%にMn含有量の上限を設定した。
【0008】
Ni:5〜9質量%
オーステナイト系ステンレス鋼においては必要不可欠な元素であり、オーステナイト相を安定化させる上から少なくとも5質量%のNiが必要である。しかし、高価な元素であり、軟質性,オーステナイト相の安定性を確保するため
には15質量%以下のNiで十分である。
Cr:15〜20質量%
耐食性の向上に有効な合金成分であり、15質量%以上の含有でCrの効果が顕著になる。しかし、20質量%を超える過剰のCrが含まれると硬さが上昇し、研磨性が低下する。
Cu:1.0〜5.0質量%
軟質化及び成形性の改善に有効な合金成分であり、高価なNiの代替元素として有効である。そのため、成形加工後の研磨性が要求される本発明に従ったオーステナイト系ステンレス鋼を低コストで製造する上で重要な合金成分であり、1.0質量%以上でCuの添加効果が顕著になる。しかし、5.0質量%を超える多量のCuを含ませると、熱間加工性に悪影響が現れ易い。
【0009】
N:0.035質量%以下
Cと同様に多量に含まれると素材硬さが上昇し、N含有量が0.035質量%を超えると研磨性が低下する。
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、必要に応じて次の合金成分を含むことができる。
Mo:3.0質量%以下
耐食性の向上に有効な合金成分であり、特に建材等の用途に適用する場合にMo添加が効果的である。しかし、3.0質量%を超える多量のMo添加は、
素材硬さを上昇させ、穴拡げ性を阻害する。
【0010】
Al:0.5質量%以下
製鋼時の脱酸剤として有効な成分であり、Si量を低減させることにも役立つ。また、Ti,Zr,B等の添加直前に脱酸剤としてAlを添加して溶鋼中の酸素濃度を下げておくと、Ti,Zr,B等の添加歩留りを向上・安定化させることができる。しかし、0.5質量%以上のAlを添加すると、固溶強化作用が強くなり、素材を硬質化させる。
Ti,Nb,Zr,V:0.5質量%以下
固溶強化元素であるC及びNを固定し、鋼板を軟質化する作用を呈する。このような作用は、それぞれ0.5質量%で飽和する。
【0011】
B:0.03質量%以下
熱間加工性の改善に有効な合金成分であり、熱延時の割れやスリーバ疵の発生を抑制する作用を呈する。しかし、0.03質量%を超える多量のBを添加すると、却って熱間加工性が劣化するばかりでなく、高温での脆化も生じる虞れがある。
REM(希土類金属):0.02質量%以下
Bと同様に熱間加工性の改善に有効な合金成分であるが、その作用は0.02質量%で飽和する。
Ca:0.03質量%以下
製鋼時の脱酸剤として有効な合金成分であり、熱間加工性の改善にも有効に作用する。しかし、Ca添加の効果は、0.03質量%で飽和する。
【0012】
X値:X=Ni+0.5Cr+0.7(Mn+Cu)−18>0・・・・(1)
X値が0を超えると、冷延鋼板のオーステナイト相が安定化され、加工硬化が抑制されて軟質化が図られる。このX値を定める関係式は、本発明者等による多数の実験結果から求められたものであり、実施例でも説明しているようにビッカース硬さHV≦130を確保するためにX>0が必要とされる。ビッカース硬さHV≦130は、成形加工後の鋼材を研磨するとき、大幅に時間短縮された研磨によっても粗さの低い表面状態に仕上げることを可能にする。
JIS G0551に規定される結晶粒度番号:焼鈍後の状態で8〜11
成形加工されたオーステナイト系ステンレス鋼において、研磨前の表面粗さを抑制するため、JIS G0551に規定される結晶粒度番号を8以上にする必要がある。しかし、過度に結晶粒度番号を大きくする(結晶粒径を小さくする)と、板厚方向に関して均一に再結晶させることができなくなる等、工業的に安定した品質の鋼板を生産できなくなる。そのため、本発明では結晶粒度番号の上限を11に設定した。
【0013】
研磨前の加工度の指標:ε≦0.5
本発明者等は、成分設計,結晶粒度番号,表面粗さ,硬さ等が研磨性に及ぼす影響を調査するため多数の実験を行った。その結果、式(2)で定義される研磨前の加工度の指標である相当歪みεが0.5以下の軽度の成形加工を前記のように特定されたオーステナイト系ステンレス鋼に施したとき、研磨性が大幅に改善されることを見い出した。
一般に、プレス加工の一つである深絞り加工等においては、絞り比の増加と共の素材の塑性流動が大きくなり、ポンチ,ダイス等のプレス治具と接触して通過する際に素材外表面とダイスとの接触圧が大きくなる。その結果、加工後の表面粗さは、プレス治具との摩擦の影響を大きく受け、素材の特性を観察するだけでは加工後の表面研磨工程で生産性を向上させることができない。
これに対し、絞り比の低い深絞り加工では塑性流動が小さく、プレス治具との接触圧が小さい。その結果、加工後の表面粗さは、プレス治具との摩擦による影響をほとんど受けず、素材が加工によって受けた塑性歪みの量に依存する。そのため、素材の特性を規制することにより加工後の表面粗さを制御でき、
加工後の表面研磨工程で生産性を向上させることが可能となる。
すなわち、本発明は、プレス治具との摩擦による影響を受けることがなく、
加工後の表面粗さが素材の受ける塑性歪み量に依存する限界加工量が、式(2)で定義される相当歪みεが0.5であることを明らかにしたものである。相当歪み量εが0.5であるとき、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼を用いることにより、軟質であること及び加工後の表面粗さが低減されることと相俟つて、加工後の表面研磨工程で生産性の改善が実現される。なお、相当歪みε=0,すなわち成形加工を受けない冷延鋼板(焼鈍材)についても本発明の範囲に含まれる。
ε=[2/3(εx 2+εy 2+εt 2)]1/2 ・・・・(2)
ただし、εx :鋼板表面に平行な方向の一軸歪み
εy :εx に直交する鋼板表面に平行な方向の一軸歪み
εt :鋼板の板厚方向に関する歪み
以上のように調整されたステンレス鋼は、式(1)を満足し、焼鈍後の状態でJIS結晶粒度番号が8〜11のとき、相当歪みεが0.5以下の比較的軽度のプレス加工を受ける部位において優れた研磨性を呈する。また、粒度番号を大きく(結晶粒径を小さく)しても鋼板素材の耐力が低いため、研磨前の成形加工における変形所要応力が低く、プレス機等の成形機械に対する負荷が軽減される。また、スプリングバックが低いことから、成形後の形状も安定化する。
【0014】
【実施例】
表1の示す組成をもつ各ステンレス鋼を真空溶解炉でそれぞれ30kg溶製し、インゴットとした後、1250℃で幅170mm,厚み40mmに鍛造し、抽出温度1230℃で熱間圧延を施し、板厚3.2mmの熱延鋼板を製造した。この熱延鋼板に1100℃,均熱1分の熱延焼鈍及び酸洗を施した後、1.4mmの厚みまで冷間圧延し、1050℃,均熱1分の中間焼鈍及び酸洗を施し、更に板厚0.7mmまで仕上げ冷間圧延し、材料温度900〜1200℃,均熱10秒の仕上げ焼鈍及び酸洗を施した。このようにして、JIS G0551に規定される結晶粒度番号が5〜11の冷延鋼板(焼鈍材)を得た。
【0015】
Figure 0003720154
【0016】
鋼種番号1,2,6の結晶粒度番号5及び10の冷延鋼板を所定のブランク径Dに切り出した後、ポンチ径P=30,皺押え荷重1トンの深絞り成形に供した。深絞り成形に際しては、ポンチ及びダイスが過熱しないようにポンチ及びダイスの温度を室温近傍の一定値に保った。また、加工量を示す指標としては、ブランク径Dをポンチ径Pで除した絞り比D/Pを使用した。
深絞り加工前に、各鋼板から切り出されたブランク材の表面に直径1mmのスクライブドサークルを描き、深絞り加工前後の周方向及び軸方向のスクライブドサークルの径を測定し、式(3)及び式(4)に従って周方向歪みε1 及び軸方向歪みε2 を求めた。
ε1 =(d1 −d10)/d10 ・・・・(3)
ただし、d10:深絞り加工前の周方向スクライブドサークル径
1 :深絞り加工後の周方向スクライブドサークル径
ε2 =(d2 −d20)/d20 ・・・・(4)
ただし、d20:深絞り加工前の軸方向スクライブドサークル径
2 :深絞り加工後の軸方向スクライブドサークル径
【0017】
また、板厚方向の深絞り加工前後の板厚を測定し、式(5)に従って板厚方向歪みεt を求めた。
εt =(tt −t0 )/t0 ・・・・(5)
ただし、t0 :加工前の板厚
t :加工後の板厚
ブランク材の外周端から10mmの位置、すなわち加工後のカップ側壁部での周方向歪みε1 ,軸方向歪みε2 及び板厚方向歪みεt を式(6)に代入して相当歪みεを求めた。
ε=[2/3(ε1 2+ε2 2+εt 2)]1/2 ・・・・(6)
このようにして得られた相当歪みεと絞り比D/Pとの関係を図1に示す。図1にみられるように、絞り比D/Pの増加に伴って相当歪みεが増加する傾向にあった。この相当歪みεと絞り比D/Pとの関係は、鋼成分,JIS結晶粒度番号に関係なく、同じ傾向を示していた。
【0018】
結晶粒度番号を5〜11に調整した鋼種番号1,2について、加工後のカップ側壁部における表面粗さと結晶粒度との関係を調査した。表面粗さの指標としては、JIS B0601に規定される方法で測定した平均粗さRa を使用した。調査結果を相当歪みεで整理すると、図2にみられるように、相当歪みε≦0.5の軽度の加工では、鋼成分に拘らず結晶粒度番号の増加に応じて表面粗さが低下していた。しかし、相当歪みεが0.5を超える強加工を施した場合、表面粗さは結晶粒度番号に依存することなく一定値を示した。
表面粗さと結晶粒度との関係が相当歪みεの如何に応じて変わることは、本発明者等によって初めて知見された現象である。この現象が起きる原因は、次のように推察される。深絞り加工では、絞り比の増加に伴ってカップ側壁部においてブランク材の周方向からの素材の流込みが大きくなり、ポンチとダイスとの間を通過する際にカップ側壁部外表面のダイスとの接触圧が大きくなる。その結果、加工後のカップの表面粗さは、ダイスとの摩擦の影響を大きく受ける。
【0019】
これに対し、絞り比の低い深絞り加工では、素材の流込みが小さく、カップ側壁部外表面とダイスとの接触圧が小さい。その結果、加工後の表面粗さは、加工によって受けた塑性歪みの量に依存することになり、ダイスとの摩擦の影響はほとんど受けない。したがって、絞り比の低い深絞り加工の場合、表面粗さは、結晶粒の大きさ,すなわち結晶粒度番号に依存することになる。この傾向はプレス加工工具と接触しない部位でも同様であり、たとえばプレス加工部材底部の外側表面の粗さも結晶粒度番号に依存する。
カップ側壁部が相当歪みε=0.4の加工を受けた結晶粒度番号5〜11の冷延鋼板について、表面粗さと研磨時間との関係を調査した。ここで、カップ側壁部に対する研磨条件は、カップ回転速度:300rpm,バフ研磨押え力:面圧1kgf/mm2 に設定した。一定時間研磨した後、表面粗さを測定する操作を繰り返した。調査結果を、鋼種番号1について図3に、鋼種番号2について図4にそれぞれ示す。
【0020】
図3,4にみられるように、結晶粒度番号が大きくなる(結晶粒径が小さくなる)に従って表面粗さの低減に必要な研磨時間が短くなった。特に結晶粒度番号を8以上にしたとき、研磨時間が大幅に短縮された。これは、研磨前の成形加工による表面粗さが結晶粒径に依存し、結晶粒度番号が大きい(結晶粒径が小さい)ほど研磨前の表面粗さが小さいためである。
更に図3と図4とを比較すると、Ra =0.05μmとなる研磨時間は、何れの結晶粒度番号であっても鋼種番号2に比較して鋼種番号1の方が短くなっている。そこで、結晶粒度番号が8及び11で鋼種番号1〜10の冷延鋼板について、相当歪みε=0.4の深絞り成形を施した後、カップ側壁部を研磨し、深絞り前の冷延鋼板の硬さとRa =0.05μmとなる研磨時間との関係を求めた。図5の結果にみられるように、硬さがHV130以下の鋼板では研磨時間が大幅に短縮されていた。このことから、結晶粒度番号が大きく(結晶粒径が小さく)ても、成形加工前の硬さがHV130以下である冷延鋼板を使用すると、相当歪みε≦0.5の加工度が低い成形部位の研磨時間が大幅に短縮されることが判る。
【0021】
鋼種番号1〜11の鋼について、式(1)で定義されるX値と結晶粒度番号8〜11の冷延鋼板の硬さとの関係を図6に示す。図6から明らかなように、同一の鋼種で比較すると結晶粒度番号が大きく(結晶粒径が小さく)なるに従って硬さHVが増加する傾向がみられた。しかし、結晶粒度番号が11以下の範囲では、X>0のステンレス鋼がHV≦130の軟質性を示していた。このことから、細粒であっても軟質な特性をもつ冷延鋼板を得るためには、X値が正となるように成分設計する必要があることが判る。
図6は、結晶粒度番号11の鋼種番号8,9及び結晶粒度番号10,11の鋼種番号10について、X値が正であっても硬さがHV130を例外的に超えていることを示している。そこで、結晶粒度番号が11で鋼種番号1,7,8の冷延鋼板について硬さとC含有量との関係を調査したところ、図7にみられるようにC含有量が0.040質量%以下であればHV≦130の硬さになっていることが判った。また、結晶粒度番号が11で鋼種番号3,9,10の冷延鋼板について硬さとN含有量との関係を調査したところ、図8に示すようにN含有量が0.035質量%以下のとき硬さがHV≦130になっていた。
以上に示したように、結晶粒度番号が8以上の粒径の小さな結晶粒をもち、軟質性の指標であるX値が正で且つC含有量が0.04質量%以下,N含有量が0.035質量%以下を満足する試験番号1,2,8,11は、成形加工後の研磨時間が短く、研磨性に優れた材料であることが確認された。
【0022】
実施例2:
表2に示す組成をもつ試験番号12〜24のステンレス鋼を真空/アルゴンガス雰囲気の溶解炉で1000kg溶製し、幅1100mm,厚み50mmに鍛造した後、抽出温度1230℃で熱間圧延を施し、板厚4.0mmの熱延板を製造した。得られた熱延板に1100℃,均熱5秒の中間焼鈍及び酸洗を施し、更に板厚1.0mmまで仕上げ圧延し、材料温度980℃,均熱5秒の仕上げ焼鈍及び酸洗を施すことにより、結晶粒度番号9の冷延鋼板(焼鈍材)を得た。得られた各冷延焼鈍板の硬さを表2に併せ示す。
【0023】
Figure 0003720154
【0024】
各冷延鋼板から幅1050mm,長さ1050mmのブランク材を切り出した。図9に示すようにブランク材の周囲50mm幅を皺押え部として、皺押え荷重10トン,ポンチ径950mm,ポンチの曲率ρ=0.001の条件下で張出し成形し、図9(b)に示すように成形高さ150mm,底面の直径950mmの球頭状張出し成形部を成形した。このとき、ポンチ及びダイスが過熱しないように、ポンチ及びダイスの温度を室温近傍の一定値に維持した。
球頭状張出し成形部の頂部凸側で、鋼板表面に平行な一軸歪み,これに直交する方向の一軸歪み及び同部の板厚方向に関する歪みから、式(2)に従って相当歪みεを算出した。何れの鋼板においても、相当歪みεは0.37であった。
図9(a)に示した斜線部分を研磨治具回転速度:300rpm,バフ研磨布押え力:面圧1kgf/mm2 の条件で研磨し、一定時間研磨後に表面粗さを測定した。そして、表面が目視観察で鏡面となる基準粗さRa =0.05μmとなる研磨時間を各鋼板について測定した。
【0025】
成形加工前の鋼板の硬さと表面粗さがRa =0.05μmとなる研磨時間の関係を図10に示す。図10にみられるように、本発明で規定したX値が正で、硬さがHV130以下を満足する試験番号12〜18は、65秒以下の短い研磨時間で鏡面仕上げすることができた。
これに対し、X≦0の試験番号19〜21は、硬さがHV130を超えるため、鏡面仕上げに110秒以上の長時間研磨が必要であった。また、X値が正であっても、Si含有量が1.0質量%を超える試験番号22,C含有量が0.040質量%を超える試験番号23及びN含有量が0.035質量%を超える試験番号24では、何れも素材硬さがHV130を超えるため、鏡面が得られる研磨時間が110秒以上であった。
【0026】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、従来の鋼に比較して成形加工後の鋼板表面の研磨時間を著しく低減し、生産性を大幅に改善する。更に成形加工における変形所要応力が低く、プレス機等の成形機械への負荷が軽減されるばかりでなく、スプリングバックが低いために形状安定性にも優れている。このように本発明によるとき、従来ではプレス加工後の研磨時間が長く、生産性が著しく阻害されていたカーブミラー等の用途に適用でき、加工後の研磨性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 絞り比と相当歪みとの関係を示すグラフ
【図2】 冷延鋼板の結晶粒度と成形加工後の表面粗さの関係を示すグラフ
【図3】 深絞りされた鋼板の表面粗さと研磨時間との関係を示すグラフ
【図4】 異なる鋼種について、深絞りされた鋼板の表面粗さと研磨時間との関係を示すグラフ
【図5】 冷延鋼板の硬さと深絞り加工品の表面粗さがRa ≦0.05μmとなる研磨時間との関係を示すグラフ
【図6】 X値と冷延鋼板の硬さとの関係を示すグラフ
【図7】 C含有量と冷延鋼板の硬さとの関係を示すグラフ
【図8】 N含有量と冷延鋼板の硬さとの関係を示すグラフ
【図9】 張出し成形品の形状を示す図
【図10】 冷延鋼板の硬さと張出し成形品の表面粗さがRa ≦0.05μmとなる研磨時間との関係を示すグラフ

Claims (2)

  1. C:0.04質量%以下,Si:1.0質量%以下,Mn:3.45質量%以下,Ni:5〜9質量%,Cr:15〜20質量%,Cu:1.0〜5.0質量%,N:0.035質量%以下を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ式X=Ni+0.5Cr+0.7(Mn+Cu)−18で定義されるX値が正になる組成を持ち、ビッカース硬さHV130以下,焼鈍後の状態でJIS G0551に規定される結晶粒度番号が8〜11であり、相当歪みε≦0.5のプレス加工を受ける部位の研磨性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼。
  2. 更にMo:3.0質量%以下,Al:0.5質量%以下,Ti:0.5質量%以下,Nb:0.5質量%以下,Zr:0.5質量%以下,V:0.5質量%以下,B:0.03質量%以下,REM(希土類金属):0.02質量%以下,Ca:0.03質量%以下の何れか1種又は2種以上を含む組成をもつ請求項1記載の相当歪みε≦0.5のプレス加工を受ける部位の研磨性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼。
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