JP3716903B2 - 金メッキシリカ及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、導電性シリコーンゴム組成物などの各種導電性組成物における導電性フィラー等として好適な金メッキシリカ及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
ゴムやプラスチック製品を電子材料に応用する場合、しばしば導電性が要求されるため、導電性の粉体を混合することは一般的に行われているが、必ずしも良好な結果が得られていなかった。例えば、銅粉、ニッケル粉、銀粉のような金属粉を用いた場合、高価であり、8〜11という高比重のため、低重量が望ましい電子材料の重量が上がるという問題点があり、グラファイトやカーボンのような炭素粉を用いた場合、炭素粉の抵抗率が高いため、mΩ・cmレベルの抵抗率が得にくいという問題点があった。
【0003】
このため、微小のガラスビーズの表面に連続的に銀被膜を形成することで、低価格、低比重でありながら、銀の電気特性をもつ導電性粉体が米国のポッターズ社で開発され、これが昭和53年より東芝バロティーニ社から販売され、いろいろな用途に用いられていることはよく知られている。
【0004】
しかし、銀は高湿度雰囲気下に長時間置かれると、酸化や硫化により抵抗率が上がるという問題点があり、低価格、低比重でありながら、金のように酸化や硫化を受けない電気特性をもつ導電性粉体が望まれていた。また、東芝バロティーニ社のものは、微小のガラスビーズを芯材としているため、SiO2以外に10%以上のNa,K,Ca,Mg,Feといったイオン性の金属を含んでおり、高度な信頼性を要求される電子材料には使用できず、かつまた、その加工性においても、樹脂と混合する時に銀とガラスビーズの界面で剥離を起こしやすいため、火災の危険性のある溶剤類を多用したり、金属製ではなくゴム製のロールを使用するなど、様々な制約があった。
【0005】
ところで、ケイ素系高分子化合物は、炭素に比べてケイ素が金属性と電子非局在性をもつため、高い耐熱性と柔軟性、良好な薄膜形成特性を示す非常に興味深いポリマーである。中でもSi−Si結合あるいはSi−H結合を有するケイ素系高分子化合物、特にポリシランあるいはSi原子に直接結合した水素原子(SiH基)を有するポリシロキサンは、還元性をもつ高分子として知られている。また、ある種のケイ素系高分子化合物、例えばポリシランは炭化ケイ素セラミック材料の前駆体として、ポリシロキサンは酸化ケイ素セラミック材料の前駆体として、熱処理等により非常に耐熱性に優れた材料になることもよく知られていた。
【0006】
本発明者らは、既にこうした還元作用をもつケイ素系高分子化合物を用いて表面を処理した粉体を、金属イオンを含む溶液に接触させると、粉体表面で金属コロイドが生成・保持されることを見出し、これを利用した密着性のよい金属被膜粉体製造方法として提案している(特願平11−193354号)。これは、イオン性の金属を殆ど含まない球状シリカを還元性をもつケイ素系高分子化合物で処理し、無電解ニッケルメッキによりニッケルで表面を覆ったシリカを作製し、このニッケル表面を金で被覆することで、金とシリカ間の密着性のよい金メッキシリカを得たものであるが、更にその密着性を高めることが望まれている。
【0007】
なお、無電解ニッケルメッキは、Brennerらにより1944年に次亜リン酸ナトリウム水溶液中での電解メッキ反応中に偶然発見されたものであるが、1946年にBrennerらの特許としてプロセスが公表されている(A.Brenner;J.of Research of N.B.S.,37,1(1946),USP2,532,283(1950))。陽極から金属の補給が行われる電解メッキと異なり、無電解メッキは、金属の析出の進行と共に変動する金属塩や還元剤を補充する必要があるため、その補充方法がG.Gutzeitらにより改良され(G.Gutzeit;USP2,658,841(1953))、現在では工業用メッキとして広く用いられている(W.H.Safranek,The Properties of Electrodeposited Metals and Alloys,2nd Ed.AmericanElectroplaters and Surface Finishers Soc.(1986))。その後、メッキ面の改良のために様々なメッキ条件の工夫が行われており、例えば、酸素濃度が2ppm以下では金属の過剰な析出によるこぶ状物の生成があり、また酸素濃度が4ppm以上では孔(ボイド、ピット)と呼ばれる析出金属の不足による不連続部の生成があるため、雰囲気ガスの制御によりメッキ液中の酸素濃度を2〜4ppmに制御することで、表面が平らで連続したメッキ化ができることが報告されている(W.A.Alpaugh,C.Forks;USP4,152,467(1979))。
【0008】
この無電解ニッケルメッキでは、ニッケルの析出と同時にリンが析出し、このためニッケル被膜の特性が大きく変わることはよく知られており、また、これらニッケル被膜中のリン含有量の変化がメッキ浴のpH変化や亜リン酸の含有量と深い関係をもち、メッキ浴が低いpHでは含有量が多くなり、高いpHでは低くなることについての知見もある(槙書店 無電解メッキ 神戸徳蔵著,1984年初版)。リン含有量の高いニッケルは、低応力、非磁性、高耐食性、低多孔性をもち、リン含有量の低いニッケルは、高導電性、磁性をもつ。そして、メッキ反応の進行と共に、pH、ニッケル塩濃度、還元剤濃度が低下することでメッキ膜組成が変動するのを防ぐため、pH調整剤、ニッケル塩水溶液、還元剤水溶液を後から滴下補充することは一般的に行われており、最近では自動管理システムにより薬品を被メッキ物の入った溶液中に連続的に制御された速度で滴下することが工業的なプロセスとして行われている(金属表面技術協会編:無電解めっき(1968年,朝倉書店),無電解めっき技術研究会編集委員編:無電解めっき技術研究会報告書(1986年))。特に、メッキ反応で消費される還元剤をメッキ反応の途中で添加補充することで、ニッケル中のリンの含有量を変化させないようにすることはよく知られている(神戸徳蔵,無電解メッキp32(1984年,槙書店))。これらのことは、ニッケル被膜の膜組成を変化させまいとして従来から行われていた技術である。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、高い導電性と高い耐熱性を有し、かつ強固な密着性を有する金メッキシリカ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、シリカ粉体を還元性を有するケイ素系高分子化合物で処理し、次いでその表面を標準酸化還元電位0.54V以上の金属の塩を含む溶液で処理して該金属のコロイドを析出させた後、無電解ニッケルメッキ、次いで金メッキを行うこと、この場合、無電解ニッケルメッキを、リン系還元剤を含む第1の無電解ニッケルメッキ液を用いて無電解ニッケルメッキを行い、次いでリン系還元剤含有量が異なる第2の無電解ニッケルメッキ液を用いて無電解ニッケルメッキを行って、内部と表層部とでリン含有量が互いに異なるニッケル−リン合金層、特に表層部のリン含有量が内部のリン含有量より少ないニッケル−リン合金層を形成することにより、シリカ表面にケイ素系高分子化合物層、内部と表層部とで異なるリン含有量を有するニッケル−リン合金層、金層が順次積層形成された金メッキシリカが得られ、この金メッキシリカは、強固な密着性を有し、また高い導電性と、200℃以上で熱処理してもメッキ層が剥離し難い高い耐熱性を有し、この導電性シリカをシリコーンゴム等に配合することにより、例えば信頼性の高い導電性ゴム成形体を得ることができることを知見した。
【0011】
即ち、本発明者らは、金メッキシリカという導電性粉体の製造において、リン含有量の高いニッケル−リン合金層はシリカとの密着性が上がり、リン含有量の低いニッケル−リン合金層は金との置換メッキ性が上がることを見出した。つまり、無電解ニッケルメッキにおいては、メッキ初期に低pH、ニッケル塩濃度に対して還元剤過剰の条件で行うことで、ニッケル中のリン含有量を高くし、シリカとの密着性を更に高める。その後は、ニッケル塩、錯化剤、pH調整剤を含んでなる水溶液を随時補充してメッキ浴のpHを高くするなどして、ニッケル塩濃度に対して還元剤が少なくなる条件にしてメッキを行う。このように、ニッケル中のリン含有量を少なくして金メッキが行いやすくなることで、強固な密着性を有するシリカ−ケイ素系高分子化合物−ニッケル/リン合金−金という4層構造をもつ導電性シリカが製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
従って、本発明は、
〔I〕シリカ表面上にケイ素系高分子化合物層、ニッケル−リン合金層及び金層が順次形成されてなり、上記ニッケル−リン合金層中のリン含有量が内部と表層部とで異なることを特徴とする金メッキシリカ、
〔II〕シリカ表面上にケイ素系高分子化合物が部分的又は全部がセラミック化した層、ニッケル−リン合金層及び金層が順次形成されてなり、上記ニッケル−リン合金層中のリン含有量が内部と表層部とで異なることを特徴とする金メッキシリカ、
〔III〕(1)還元性を有するケイ素系高分子化合物でシリカ粉体を処理し、シリカの表面に該ケイ素系高分子化合物の層を形成する第1工程、
(2)第1工程で得られた粉体を標準酸化還元電位0.54V以上の金属からなる金属塩を含む溶液で処理し、上記シリカ表面のケイ素系高分子化合物層上に該金属コロイドを析出させる第2工程、
(3)上記金属コロイドを触媒としてリン系還元剤を含む第1の無電解ニッケルメッキ液を用いて無電解ニッケルメッキを行い、次いでリン系還元剤含有量が異なる第2の無電解ニッケルメッキ液を用いて無電解ニッケルメッキを行って、内部と表層部とでリン含有量が互いに異なるニッケル−リン合金層を形成する第3工程、
(4)更に金メッキを行い、上記ニッケル−リン合金層上に金層を形成する第4工程
を含むことを特徴とする金メッキシリカの製造方法、
〔IV〕第2の無電解ニッケルメッキ液が、第1の無電解ニッケルメッキ液に、ニッケル塩、錯化剤、pH調整剤の1種又は2種以上を含み、リン系還元剤を含まない水溶液を補充することにより得られたことを特徴とする上記製造方法、
〔V〕第4工程で得られた粉体を還元性気体雰囲気下に200℃以上の温度で熱処理して、上記ケイ素系高分子化合物の一部又は全部をセラミック化した上記製造方法
を提供する。
【0013】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の金メッキシリカの製造方法において、原料シリカは、二酸化ケイ素で構成される粉体で、高い耐熱性をもっている。形状は、粉末状、繊維状、フレーク状等、特に制限されないが、メッキする金属(ニッケル、金)の使用量を最少にし、シリコーンゴム等に高充填するためには、同一粒径では最も比表面積の低くなる球状が望ましい。このようなシリカは、クロルシランを燃焼させたり、アルコキシシランを加水分解したり、ガス化した金属ケイ素を酸化したり、石英粉末を溶融したりして容易に得ることができる。比表面積を低くするためには、内部に表面に繋がる空洞をもたないものが望ましく、溶融石英が好適に用いられる。シリカ粉末の平均粒径は0.01〜1000μm、より望ましくは0.1〜100μmである。0.01μmより小さいと、比表面積が高くなるため、メッキ金属の量が多くなり、高価となって経済的に望ましくない。また、1000μmより大きいと、シリコーンゴム等に混合しにくくなる場合がある。
【0014】
本発明に係る金メッキシリカの製造方法の第1工程は、上記シリカ粉体を還元性を有するケイ素系高分子化合物で処理し、シリカ表面に該ケイ素系高分子化合物の層を形成する工程である。
【0015】
ここで、還元作用をもつケイ素系高分子化合物としては、Si−Si結合あるいはSi−H結合を有するポリシラン、ポリカルボシラン、ポリシロキサン、ポリシラザンを使用することができ、中でもポリシランあるいはケイ素原子に直接結合した水素原子を有するポリシロキサンが好適に用いられる。
【0016】
このうち、ポリシランとしては、主鎖にSi−Si結合をもつ下記一般式(1)で表される高分子化合物が挙げられる。
【0017】
(R1 m2 npSi)q (1)
上記式(1)中、R1,R2はそれぞれ水素原子、置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、R1とR2とは互いに同一であっても異なっていてもよいが、上記一価炭化水素基としては、脂肪族、脂環式又は芳香族一価炭化水素基が用いられる。脂肪族又は脂環式一価炭化水素基としては、炭素数1〜12、特に1〜6のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基などが挙げられる。また、芳香族一価炭化水素基としては、炭素数6〜14、特に6〜10のものが好適であり、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ベンジル基等が挙げられる。なお、置換一価炭化水素基としては、上記に例示した非置換の一価炭化水素基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、アルコキシ基、アミノ基、アミノアルキル基などで置換したもの、例えばモノフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、m−ジメチルアミノフェニル基等が挙げられる。
【0018】
Xは、R1と同様の基、アルコキシ基、ハロゲン原子、酸素原子又は窒素原子であり、アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等の好ましくは炭素数1〜4のもの、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。Xとしては、これらの中でも通常メトキシ基、エトキシ基が好適に用いられる。
【0019】
mは0.1≦m≦1、好ましくは0.5≦m≦1、nは0.1≦n≦1、好ましくは0.5≦n≦1、pは0≦p≦0.5、好ましくは0≦p≦0.2であり、かつ1≦m+n+p≦2.5、好ましくは1.5≦m+n+p≦2を満足する数であり、qは2≦q≦100,000、好ましくは10≦q≦10,000の範囲の整数である。
【0020】
また、ケイ素原子に直接結合した水素原子(Si−H基)を有するケイ素系高分子化合物は、側鎖にSi−H基、主鎖にSi−O−Si結合をもつ下記一般式(2)で表されるポリシロキサンが好適に用いられる。
【0021】
(R3 a4 bcSiOde (2)
上記式中、R3,R4はそれぞれ水素原子、置換もしくは非置換の一価炭化水素基、アルコキシ基又はハロゲン原子であり、R3とR4とは互いに同一であっても異なっていてもよいが、上記一価炭化水素基としては、脂肪族、脂環式又は芳香族一価炭化水素基が用いられる。脂肪族又は脂環式一価炭化水素基としては、炭素数1〜12、特に1〜6のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基等が挙げられる。芳香族一価炭化水素基としては、炭素数6〜14、特に6〜10のものが好適であり、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ベンジル基等が挙げられる。なお、置換の脂肪族、脂環式又は芳香族の一価炭化水素基としては、上記に例示した非置換の一価炭化水素基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、アルコキシ基、アミノ基、アミノアルキル基などで置換したもの、例えばモノフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、m−ジメチルアミノフェニル基等が挙げられる。アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1〜4のものが好適であり、ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、通常メトキシ基、エトキシ基が好適に用いられる。
【0022】
aは0.1≦a≦1、好ましくは0.5≦a≦1、bは0.1≦b≦1、好ましくは0.5≦b≦1、cは0.01≦c≦1、好ましくは0.1≦c≦1であり、かつ1≦a+b+c≦2.5、好ましくは1≦a+b+c≦2.2を満足する数である。dは1≦d≦1.5である。eは2≦e≦100,000、好ましくは10≦e≦10,000の範囲の整数である。
【0023】
第1工程は、具体的には、還元性を有するケイ素系高分子化合物を有機溶剤に溶解させ、この中にシリカ粉体を投入混合した後に有機溶剤を除くことで、シリカの表面にケイ素系高分子化合物の層を形成することによって行うことができる。
【0024】
この工程において、ケイ素系高分子化合物を溶解させる有機溶剤としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素溶剤、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテルなどのエーテル系溶剤、酢酸エチル等のエステル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒や、ニトロメタン、アセトニトリル等が好適に用いられる。
【0025】
ケイ素系高分子化合物含有溶液の濃度は、0.01〜50%(質量%、以下同様)、好ましくは0.01〜30%、より好ましくは1〜20%が好適であり、濃度が0.01%未満では大量の溶剤を使用することになるのでコストが上昇し、50%を超えるような濃度ではケイ素系高分子化合物を粉体表面全面に十分形成できない場合が生じる。
【0026】
粉体を有機溶剤に溶解したケイ素系高分子化合物で処理する方法としては、ポリマーを溶剤に溶解させて希釈した状態で粉体と混合し、このスラリーを容器内で撹拌羽根を回転させ分散接触させる撹拌式、気流中にこのスラリーを分散させ瞬時に乾燥させる噴霧式などが好適に採用できる。
【0027】
上記処理工程では、温度を上げたり減圧にすることにより、有機溶媒を留去するが、通常は溶媒の沸点以上の温度、具体的には1〜100mmHgという減圧下で40〜200℃程度の温度で撹拌しながら乾燥することが凝集防止の点で効果的である。
【0028】
処理後は、しばらく乾燥雰囲気下、あるいは減圧下で40〜200℃程度の温度で静置することで、溶剤が効果的に留去して処理粉体が乾燥し、ケイ素系高分子化合物処理粉体を製造できる。
【0029】
ケイ素系高分子化合物層の厚さは0.001〜1μm、望ましくは0.01〜0.1μmである。0.001μmより薄いと、シリカを完全に覆うことができなくなるため、メッキが起こらない部分ができるおそれがある。また、厚すぎると、ケイ素系高分子化合物の量が多くなって高価となる場合が生じる。
【0030】
なお、上記シリカ粉体は、ケイ素系高分子化合物処理により疎水性となる。このため、金属塩を溶解させる溶媒との親和性が低下し、液中に分散しないため、金属塩還元反応の効率が低下することがある。このことによって起こる金属塩還元反応の効率の低下は、界面活性剤を添加して向上させることができる。界面活性剤としては、発泡を起こさず表面張力のみを下げるものが望ましく、サーフィノール104,420,504(日信化学工業(株)製)等の非イオン界面活性剤を好適に用いることができる。
【0031】
次に、第2工程は、上記第1工程で得られたシリカ表面にケイ素系高分子化合物層が形成された粉体を標準酸化還元電位0.54V以上の金属からなる金属塩を含む溶液で処理し、ケイ素系高分子化合物層上に該金属コロイドを析出させる工程である。これは、ケイ素系高分子化合物処理粉体の表面を金属塩を含む溶液と接触させるもので、この処理では、ケイ素系高分子化合物の還元作用により、金属コロイドがケイ素系高分子化合物の被膜表面に形成され、金属被膜が形成されるものである。
【0032】
ここで、標準酸化還元電位0.54V以上の金属の塩として、より具体的には、金(標準酸化還元電位1.50V)、パラジウム(標準酸化還元電位0.99V)、銀(標準酸化還元電位0.80V)等の塩が好適に用いられる。なお、標準酸化還元電位が0.54Vより低い銅(標準酸化還元電位0.34V)、ニッケル(標準酸化還元電位−0.25V)等の塩では、ケイ素系高分子化合物で還元し難い。但し、必要に応じて塩化第1錫等の他の金属塩を併用してもよい。
【0033】
金塩としては、Au+又はAu3+を含んでなるもので、具体的には、NaAuCl4、NaAu(CN)2、NaAu(CN)4等が例示される。パラジウム塩としては、Pd2+を含んでなるもので、通常Pd−Z2の形で表すことができる。Zは、Cl、Br、I等のハロゲン、アセテート、トリフルオロアセテート、アセチルアセトネート、カーボネート、パークロレート、ナイトレート、スルフェート、オキサイド等の塩である。具体的には、PdCl2、PdBr2、PdI2、Pd(OCOCH32、Pd(OCOCF32、PdSO4、Pd(NO32、PdO等が例示される。銀塩としては、溶剤に溶解し、Ag+を生成させ得るもので、通常Ag−Z(Zはパークロレート、ボレート、ホスフェート、スルフォネート等の塩とすることができる)の形で表すことができる。具体的には、AgBF4、AgClO4、AgPF6、AgBPh4、Ag(CF3SO3)、AgNO3等が例示される。
【0034】
ここで、金属塩を溶解させる溶媒としては、水や、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒などが挙げられ、中でも水が好適に用いられる。
【0035】
金属塩の濃度は、塩を溶解させる溶媒によって異なるが、0.01%〜塩の飽和溶液までが好ましい。濃度が0.01%未満では、メッキ触媒の効果が十分でない場合があり、飽和溶液を超えると、固体塩の析出がある場合があり、好ましくない。なお、溶媒が水の場合は、金属塩の濃度が0.01〜20%、特に0.1〜5%の範囲であることが好ましい。上記ケイ素系高分子化合物処理粉体を室温〜70℃の温度で0.1〜120分、より好ましくは1〜15分程度、金属塩溶液に浸漬すればよい。これにより、金属コロイド処理粉体が製造できる。
【0036】
なお、この第2工程は、まずケイ素系高分子化合物処理粉体を水で希釈した界面活性剤と接触させ、次いで上記金属塩を含む溶液と接触させることが好ましく、これによりシリカ表面が第1工程のケイ素系高分子化合物処理により疎水性となることで、金属塩を溶解させる溶媒との親和性が低下し、液中に分散し難くなって金属塩還元反応の効率が低下するのを防止することができ、ケイ素系高分子化合物処理粉体を金属塩を含む溶液に短時間で簡単に分散させることができる。
【0037】
ここで、界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤を用いることができる。
【0038】
陰イオン界面活性剤としては、スルホン酸塩系、硫酸エステル塩系、カルボン酸塩系、リン酸エステル塩系を用いることができる。また、陽イオン界面活性剤としては、アンモニウム塩系、アルキルアミン塩系、ピリジニウム塩系を用いることができる。両イオン界面活性剤としては、ベタイン系、アミノカルボン酸系、アミンオキシド系、非イオン界面活性剤としては、エーテル系、エステル系、シリコーン系を用いることができる。
【0039】
より具体的に陰イオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、スルフォコハク酸エステル、ポリオキシエチレン硫酸アルキル塩、アルキルリン酸エステル、長鎖脂肪酸セッケン等を用いることができる。また、陽イオン界面活性剤としては、塩化アルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム塩、塩化アルキルピリジニウム塩等を用いることができる。両イオン界面活性剤としては、ベタイン系スルホン酸塩、ベタイン系アミノカルボン酸アミン塩を用いることができる。非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン変性ポリシロキサン等を用いることができる。また、市販されているこのような界面活性剤を混合した水溶液、例えば商品名ママレモン(ライオン(株)製)などを利用することもできる。
【0040】
なお、必要によっては、上記したような界面活性剤を金属塩溶液100質量部に対して0.0001〜10質量部、特に0.001〜1質量部、とりわけ0.01〜0.5質量部の範囲で使用することができる。
【0041】
また、上記金属塩処理後は、金属塩を含まない上記と同様の溶剤で処理し、粉体に担持されなかった不要な金属塩を除き、最後にこの粉体から不要な溶媒を乾燥除去することができる。乾燥は、通常0〜150℃で常圧又は減圧下で行うのが好ましい。
【0042】
第3工程は、表面に上記金属コロイドが付着された粉体に、この金属コロイドを触媒としてリン系還元剤を含む無電解ニッケルメッキを行い、上記ケイ素系高分子化合物層表面に好ましくはリン含有量が3〜15%のニッケル−リン合金層を形成する工程である。
【0043】
この無電解ニッケルメッキ液は、通常、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル等の水溶性ニッケル塩、錯化剤、pH調整剤、リン系還元剤を含むものである。
【0044】
ここで、ニッケル塩としては、従来より知られている公知の硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケルなどを用いることができ、それらの塩濃度は、メッキ浴全体で0.5〜0.01mol/l、好ましくはメッキ浴全体で0.2〜0.05mol/lとすればよい。ニッケル塩濃度が高すぎると、わずかなpHの変化、錯化剤の濃度変化で水酸化物の生成が生じて浴寿命が短くなること、補充の際に局所的なニッケル塩濃度の偏在を生じさせやすく、メッキ斑が生じやすくなるおそれがあり、ニッケル塩濃度が低すぎると、補充する液量が多くなって、メッキ中の浴容量の変化が大きくなり、実用的でなくなる場合が生じる。
【0045】
錯化剤としても、この種の無電解ニッケルメッキ液に用いられている公知の錯化剤を用いることができ、塩化アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩、リン酸塩、酢酸ナトリウム等のカルボン酸及びその水溶性塩、クエン酸アンモニウム、酒石酸ナトリウム等のヒドロキシカルボン酸及びその水溶性塩、グリシン、EDTA等のアミノ基とカルボキシル基を有するアミン及びその水溶性塩などを挙げることができ、これらの1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができるが、錯化剤はこれらのものに限定されない。これらの中では、メッキ浴のpHが変化しても水酸化ニッケルを生じさせず、かつニッケルとの錯イオンが安定すぎてニッケルを還元析出できなくならないようなクエン酸アンモニウム、酒石酸ナトリウムなどのヒドロキシカルボン酸塩や、酢酸ナトリウムなどのカルボン酸塩、グリシンなどのアミノ基とカルボキシル基を有するアミン類などが好適で、それらの濃度は、ニッケル塩及びpH調整剤濃度と密接な関係があるが、メッキ浴全体で1.5〜0.03mol/lの範囲で用いることができ、メッキ浴全体で0.2〜0.15mol/lとするのが好ましい。錯化剤が多すぎると、ニッケル塩に対して大過剰となり無駄であり、少なすぎると、pHの変化に対して不安定で、ニッケル水酸化物生成の抑止効果が薄い場合が生じる。
【0046】
pH調整剤としては、安価で入手の容易な公知のものを用いればよいが、pHの変化に対してリン系還元剤によるニッケル錯イオンの還元性を大きく変えない水酸化アンモニウム(アンモニア水溶液)や水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリなどを好適に用いることができる。pH調整剤の濃度は、処理中のメッキ浴pHの変化、処理時間、補充量から定めればよいが、メッキ開始時にpH3〜4、メッキ終了時にpH8〜10となるように、好ましくはメッキ開始時にpH4〜5、メッキ終了時にpH6〜7となるように調整すればよい。pHが3より低いとメッキ反応が生じにくく、また、pHが10を超えるとニッケル錯体が不安定となり、ニッケル水酸化物の析出が起こりやすいことと、メッキ析出反応が速すぎてニッケルの異常析出が生じ、浴分解してしまうおそれが生じる。
【0047】
リン系還元剤としては、次亜リン酸又はそのアルカリ金属もしくはアンモニウム塩が使用され、通常は次亜リン酸ナトリウムが用いられる。その濃度は、ニッケル塩に対して0.1〜5倍モル、より望ましくは0.5〜3倍モルで、メッキ浴全体で2.5〜0.001mol/l、特に1.0〜0.1mol/lの範囲とすることが好ましい。
【0048】
本発明においては、まず第1の無電解ニッケルメッキ液を用いて無電解ニッケルメッキを行い、引き続いて第1の無電解ニッケルメッキ液とはリン系還元剤含有量が異なる第2の無電解ニッケルメッキ液を用いて無電解ニッケルメッキを行い、内部と表層部とでリン含有量が相違するニッケル−リン合金層を形成する。
【0049】
この場合、第1のメッキ浴中のリン系還元剤含有量を多く、第2のメッキ浴のリン系還元剤の含有量を少なくして、内部のリン含有量を多く、表層部のリン含有量を少なくすることが好ましい。ここで、第1のメッキ浴中のリン系還元剤量をメッキ浴全体で2.5〜0.05mol/l、特に1.5〜0.1mol/lとして、内部のリン含有量を5〜20%、特に8〜15%とし、また第2のメッキ浴中のリン系還元剤量をメッキ浴全体で1.0〜0mol/l、特に0.5〜0mol/lとして、表層部のリン含有量を0.5〜8%、特に1〜5%とすることが好ましい。
【0050】
なお、上記無電解ニッケルメッキ液としては、市販品を使用することができる。
【0051】
上記第1及び第2の無電解ニッケルメッキを行う方法としては、互いにリン系還元剤量の異なる第1及び第2のメッキ液を用意し、第1のメッキ液でメッキを行った後、第2のメッキ液でメッキを行う方法を採用することができるが、第1のニッケルメッキ液でメッキを行った後、このメッキ液にニッケル塩、錯化剤、pH調整剤の1種又は2種以上を含み、リン系還元剤を含まない水溶液を補充して第2のメッキ液をその場で調製し、第2のメッキを行う方法が好適である。なおこの場合、この補充に用いるニッケル塩、錯化剤、pH調整剤は、第1のメッキ液と同じものが好ましい。また、上記補充は1度に限られず、2度、3度と行ってもよい。
【0052】
このように、第3工程は、メッキ浴中のニッケル塩濃度に対する還元剤濃度の割合、及びメッキ浴のpHを順次変化させてニッケルメッキを行い、内部と表層部でリン含有量の異なるニッケル層を粉体上に析出させる。
【0053】
なお、無電解メッキ法としては、常法を採用することができ、例えば上記第2工程の粉体をメッキ液中に分散させる等の方法を採用することができる。あるいは、ニッケルメッキ液を還元剤、pH調整剤、錯化剤などを含有した水溶液とニッケル塩水溶液に分離し、シリカは、還元剤、pH調整剤、錯化剤などを含有した水溶液に分散し、ニッケルメッキの最適な温度に保温しておく。これにニッケル塩水溶液を気体と同伴させて、シリカの分散した還元剤含有水溶液に加えることが凝集のないニッケル被覆シリカを得るために効果的である。ニッケル塩水溶液は、気体により還元剤、pH調整剤、錯化剤などを含有した水溶液中で速やかに均一に分散され、粉体表面はニッケルメッキ化される。なお、上記補充もこの方法で行うことができる。
【0054】
気体の導入は、しばしば発泡によるメッキの効率の低下をもたらすが、発泡は、消泡性界面活性剤を添加して防止することができる。界面活性剤としては、消泡作用をもち、表面張力を下げるものが望ましく、KS−538(信越化学工業(株)製)等のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を好適に用いることができる。
【0055】
無電解ニッケルメッキにおいては、メッキ液中の酸素濃度がニッケルの析出に影響を及ぼす。溶存酸素の量が多いと、メッキ触媒の核となるコロイド状パラジウムがパラジウムカチオンに酸化され、液中に溶出したり、一度析出したニッケル表面が酸化されたりして、ニッケルの析出が抑制される。逆に、溶存酸素の量が少ないと、メッキ液の安定性が低下し、シリカ以外の場所にもニッケルの析出が起こりやすくなり、微細なニッケル粉の生成やこぶ状の析出物の生成が起こる。このため、メッキ液中の溶存酸素の量を1〜20ppmの間に管理することが好ましい。20ppmを超えると、メッキ速度の低下と未メッキ部の発生が認められるおそれがあり、1ppmより少ないと、こぶ状析出物の発生が認められる場合がある。
【0056】
このために、気体は、空気のような含酸素気体とアルゴンや窒素のような不活性気体を混合して用いるのがよい。粉体のメッキにおいては、しばしばメッキの開始が遅いが、一度メッキが開始されれば反応が暴走するという現象を起こすことがあるので、これを防止するために、例えば窒素を最初に用い、ニッケルメッキ反応が開始するのを確認後、空気に切り替えるということを行うことも効果的である。
【0057】
メッキ浴温度は、浴中のイオン拡散速度が速く、ニッケルのつきまわりがよく、かつ浴成分の揮発による減少、溶媒の減少などが比較的少ない40〜95℃、好ましくは65〜85℃で管理することがよい。40℃より低いと、メッキ反応の進行が非常に遅く、実用的でなく、95℃を超えると、溶媒に水を用いていることから溶媒の蒸発が激しく、浴管理が難しくなること、メッキ反応の進行が早すぎて異常析出、浴分解が生じやすくなる場合が生じる。また、メッキ液とシリカの接触時間は1分〜16時間とすることができ、より望ましくは60〜85℃,10〜60分処理される。ニッケル−リン合金層の厚さは、特に制限されないが、0.01〜10μm、特に0.05〜2μmとすることができ、このうち表層部表面から0.5μmまで、特に0.1μmまでは上記第2のニッケル−リン合金層とすることが好ましい。
【0058】
第4工程は、上記無電解ニッケルメッキ後、金メッキを行って、上記ニッケル−リン合金層上に金メッキ層を形成する工程である。
【0059】
この場合、金メッキ液としては、電気メッキ液でも無電解メッキ液でもよく、公知の組成のものあるいは市販品を用いることができるが、無電解金メッキ液が好ましい。これは、ニッケル表面でのニッケルと金のイオン化傾向の相違からくる置換反応を利用した置換型メッキとすることもできる。この金メッキ工程は、金で表面を覆うことで酸化や硫化を受け難くし、粉体としての導電性を低下し難くするためである。
【0060】
メッキ浴は、シアン浴、塩化浴、亜硫酸浴などを用いることができるが、主に経済的理由から市販され入手しやすいシアン浴を用いるのが容易である。
【0061】
金メッキ方法としては、上述した常法に従って行うことができる。このとき、ニッケルの酸化されて不動態化した表面を希酸で除き、金メッキを行うことは効果的である。メッキ温度、接触時間は、ニッケルメッキの場合と同様でよいが、メッキ温度は10〜40℃でも速やかに進行する。
【0062】
なお、メッキの最後に、不要な界面活性剤を除くため、水洗を行うとよい。
【0063】
こうして得られたシリカは、シリカ−ケイ素系高分子化合物−ニッケル/リン合金−金という4層構造をもつ導電性シリカである。
【0064】
ニッケル−リン合金層の厚さは、上述したように、0.01〜10μm、望ましくは0.05〜2μmである。0.01μmより薄いと、シリカを完全に覆い、かつ十分な硬度や強度が得られにくくなる場合が生じる。また10μmより厚いと、ニッケルの量が多くなり、かつ比重が高くなるため、配合時に高価となる。
【0065】
金層の厚さは0.001〜1μm、望ましくは0.01〜0.1μmである。0.001μm未満では、抵抗率が高くなるため、配合時に十分導電性が得られにくくなるおそれがあり、また1μmを超えると、金の量が多くなって高価となる。
【0066】
最後に、この導電性シリカを還元性気体存在下に200℃以上の温度で熱処理することが望ましい。処理条件は、通常200〜900℃、処理時間は1分〜24時間が好適に用いられる。より望ましくは250〜500℃で処理時間は30分〜4時間行うのがよい。これにより、シリカと金属間にあるケイ素系高分子化合物はセラミックに変化させられ、より高い耐熱性と絶縁性と密着性をもつことになる。このときの雰囲気を水素のような還元系で行うことにより、金属中の酸化物を減少させ、ケイ素系高分子化合物を安定な構造に変えることで、シリカと金属が強固に結合し、高い導電性を示す粉体を得ることができる。
【0067】
なお、このように水素還元系雰囲気で熱処理すると、ケイ素系高分子化合物は主として炭化ケイ素のセラミックを得ることができる。
【0068】
即ち、上記高温処理により、シリカと金属間にあるケイ素系高分子化合物が部分的又は全部がセラミックに変化し、より高い耐熱性と絶縁性と密着性をもつことになる。
【0069】
本発明の金メッキシリカは、導電性フィラー等として好適に使用され、例えばシリコーンゴム組成物などのゴム組成物や樹脂組成物に配合することにより、高い導電性を付与することができ、信頼性の高いコネクター等の原料とすることができる。
【0070】
【発明の効果】
本発明によれば、安価で簡便な工程により、強固な密着性を有するニッケルメッキをもつシリカ−ケイ素系高分子化合物−ニッケル/リン合金−金という4層構造をもつ金メッキシリカを得ることができる。この金メッキシリカは、優れた導電性と高い導電安定性をもち、コネクター等の原料として広い応用をもっている。
【0071】
【実施例】
以下、実施例と比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0072】
〔合成例〕
フェニルポリシラン(以下、PPHSと略記する)の製造
アルゴン置換したフラスコ内に、ビス(シクロペンタジエニル)ジクロロジルコニウムにメチルリチウムのジエチルエーテル溶液を添加することで、系内で触媒であるビス(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウムを調製した。これにフェニルシランを触媒の50倍モル添加し、150℃で24時間加熱撹拌を行った。この後、モレキュラーシーブスを添加濾過することにより、触媒を除去したところ、ほぼ定量的に重量平均分子量2,600のPPHSの固体を得た。
【0073】
〔実施例〕
シリカのケイ素系高分子化合物処理
シリカとして球状シリカUS−10(三菱レーヨン社製;平均粒径10μm;比表面積0.4m2/g)を用いた。PPHS1gをトルエン65gに溶解させ、この溶液をUS−10 100gに加え、1時間撹拌してスラリーにした。濾過によりトルエンとシリカを分離した後、より完全にトルエンを除くため、ロータリーエバポレーターにて回転させながら80℃の温度,45mmHgの圧力で乾燥させた。このPPHS処理球状シリカは、ローラー、ジェットミル等により解砕された。
【0074】
パラジウムコロイド析出シリカの製造
PPHS処理シリカは疎水化され、水に投入すると水表面に浮くようになる。界面活性剤としてサーフィノール504(日信化学工業社製,界面活性剤)の0.5%水溶液50gにこのPPHS処理球状シリカ100gを投入し、撹拌して水中に分散させた。
【0075】
パラジウム処理は、上記シリカ−水分散体150gに対し、1%PdCl2水溶液70g(塩化パラジウムとして0.7g,パラジウムとして0.4g)を添加して30分撹拌後、濾過し、水洗した。これらの処理により、シリカ表面はパラジウムコロイドが付着した黒灰色に着色したシリカが得られた。このシリカは濾過により単離し、水洗後、直ちにメッキ化を行った。
【0076】
パラジウムコロイド析出シリカのニッケルメッキ化
パラジウムコロイド析出シリカ10gをKS−538(信越化学工業社製,消泡剤)0.5gと共に、硫酸ニッケル0.3mol/l、クエン酸アンモニウム0.36mol/l、次亜リン酸アンモニウム0.36mol/lになるようにイオン交換水で希釈した50℃のメッキ浴500mlに撹拌しながら分散させ、85℃のウォーターバスに浸漬し、浴温を素早く85℃に上げた。しばらくして細かな発泡が始まり、浴が深緑色から暗緑色へと変化し始め、浴pHも4から徐々に下がり始めたので、硫酸ニッケル0.3mol/lとクエン酸アンモニウム0.72mol/lの混合溶液500ml及び約8vol%アンモニア水溶液20mlを撹拌しているメッキ浴中へ緩やかに補充し、浴pHを6に上昇させた。この間に要した時間は60分であった。メッキされたシリカを吸引濾過して分別した後、純水にて水洗、再度吸引濾過して分別した後、シリカが乾かないように直ちに次工程へ移った。
【0077】
ニッケルメッキシリカの金メッキ化
金メッキ液としてシアン金酸塩からなる高純度化学研究所製金メッキ液K−24N10gを用いた。全面に金属ニッケルが析出したシリカをイオン交換水中に分散させた。激しく撹拌しながら金メッキ液を滴下し、液温を室温から45℃に上げると、直ちにシリカが金色となり、シリカ表面のニッケルが金に置換された。
【0078】
メッキ水底に沈殿したシリカは、濾過、水洗、乾燥(50℃,30分)の後、水素で置換された電気炉中で250℃で1時間焼成した。実体顕微鏡観察により、シリカ全表面が金により覆われたシリカが得られていることがわかった。このシリカは、IPC分析により、パラジウム、ニッケル、金が検出された。
【0079】
シリカ−ケイ素系高分子化合物−ニッケル/リン合金−金構造をもつ導電性シリカの同定
金メッキシリカをミクロトーム法により樹脂で固定し、ダイヤモンドカッターを用いてスライスした後、透過型電子顕微鏡(日立製作所製,H9000NAR)によりその断面を観察したところ、シリカ部と複相メッキ部の2層構造が確認され、深さ方向に存在する構成元素を分析したところ、深さ方向に金層、ニッケル−リン合金層、ケイ素層の多層構造を形成しており、ニッケル−リン合金層中のリン含有量は、シリカに近い部分は高リン含有量で、金に近い部分は低リン含有量で、傾斜した組成構造をしていることが明らかとなった。
【0080】
図1(A)〜(C)に断面顕微鏡写真と共に元素分析箇所を示し、表1に当該分析箇所におけるSi,P,Ni,Au含有量(wt%)、表3に当該分析箇所におけるP,Ni含有量(wt%)を示す。
【0081】
シリカ−ケイ素系高分子化合物−ニッケル/リン合金−金構造をもつ導電性シリカの特性
金メッキシリカの抵抗率は、4端子をもつ円筒状のセルに金メッキシリカを充填し、両末端の面積0.2cm2の端子からSMU−257(ケースレ社製,電流源)より1〜10mAの電流を流し、円筒の中央部に0.2cm離して設置した端子から2000型ケースレ社製ナノボルトメーターで電圧降下を測定することで求めた。抵抗率は2.2mΩ・cmであった。このシリカを乳鉢に入れ、1分間すり潰し、熱処理(200℃,4時間)後の変化を調べたところ、外観、抵抗率の変化はなかった。
【0082】
〔比較例〕
比較のため、ニッケルメッキ化工程において、ニッケルメッキ用還元液とニッケル金属塩液を混合したものにパラジウムコロイド析出シリカを分散させてメッキ反応を行った。この金メッキシリカを同様な方法でその断面を観察したところ、金層、ニッケル−リン合金層、ケイ素層の多層構造が確認され、深さ方向に存在する構成元素を分析したところ、深さ方向にニッケル−リン合金層のリン含有量はほぼ12〜16質量%で、傾斜構造を形成していなかった。
【0083】
図2(A)〜(C)に断面顕微鏡写真と共に元素分析箇所を示し、表2に当該分析箇所におけるSi,P,Ni,Au含有量(wt%)、表3に当該分析箇所におけるP,Ni含有量(wt%)を示す。
【0084】
また、抵抗率は、初期は4.5mΩ・cmであった。このシリカを乳鉢に入れ、1分間すり潰し、熱処理(200℃,4時間)後の変化を調べたところ、金属の剥離が起こり、外観は褐色になり、抵抗率も75mΩ・cmへと上昇した。
【0085】
【表1】
Figure 0003716903
【0086】
【表2】
Figure 0003716903
【0087】
【表3】
Figure 0003716903

【図面の簡単な説明】
【図1】(A)〜(C)は実施例の金メッキシリカの断面顕微鏡写真である。
【図2】(A)〜(C)は比較例の金メッキシリカの断面顕微鏡写真である。

Claims (14)

  1. シリカ表面上にケイ素系高分子化合物層、ニッケル−リン合金層及び金層が順次形成されてなり、上記ニッケル−リン合金層中のリン含有量が内部と表層部とで異なることを特徴とする金メッキシリカ。
  2. シリカ表面上にケイ素系高分子化合物が部分的又は全部がセラミック化した層、ニッケル−リン合金層及び金層が順次形成されてなり、上記ニッケル−リン合金層中のリン含有量が内部と表層部とで異なることを特徴とする金メッキシリカ。
  3. (1)還元性を有するケイ素系高分子化合物でシリカ粉体を処理し、シリカの表面に該ケイ素系高分子化合物の層を形成する第1工程、
    (2)第1工程で得られた粉体を標準酸化還元電位0.54V以上の金属からなる金属塩を含む溶液で処理し、上記シリカ表面のケイ素系高分子化合物層上に該金属コロイドを析出させる第2工程、
    (3)上記金属コロイドを触媒としてリン系還元剤を含む第1の無電解ニッケルメッキ液を用いて無電解ニッケルメッキを行い、次いでリン系還元剤含有量が異なる第2の無電解ニッケルメッキ液を用いて無電解ニッケルメッキを行って、内部と表層部とでリン含有量が互いに異なるニッケル−リン合金層を形成する第3工程、
    (4)更に金メッキを行い、上記ニッケル−リン合金層上に金層を形成する第4工程
    を含むことを特徴とする金メッキシリカの製造方法。
  4. 第2の無電解ニッケルメッキ液が、第1の無電解ニッケルメッキ液に、ニッケル塩、錯化剤、pH調整剤の1種又は2種以上を含み、リン系還元剤を含まない水溶液を補充することにより得られたものである請求項3記載の製造方法。
  5. 錯化剤が無機酸のアンモニウム塩、カルボン酸及びその水溶性塩、ヒドロキシカルボン酸及びその水溶性塩、並びにアミノ基とカルボキシル基を有するアミン類及びその水溶性塩から選ばれるものである請求項4記載の製造方法。
  6. pH調整剤が水酸化アンモニウム又は水酸化アルカリである請求項4又は5記載の製造方法。
  7. リン系還元剤が次亜リン酸又はそのアルカリ金属もしくはアンモニウム塩である請求項3乃至6のいずれか1項記載の製造方法。
  8. 第3工程の無電解ニッケルメッキのメッキ温度が40〜95℃である請求項3乃至7のいずれか1項記載の製造方法。
  9. 第3工程で得られるニッケル−リン合金層中のリン含有量が3〜15質量%の範囲にある請求項3乃至8のいずれか1項記載の製造方法。
  10. 還元性を有するケイ素系高分子化合物が、Si−Si結合及び/又はSi−H結合を有するポリシラン、ポリカルボシラン、ポリシロキサン又はポリシラザンである請求項3乃至9のいずれか1項記載の製造方法。
  11. ポリシランが下記一般式(1)で表されるものである請求項10記載の製造方法。
    (R1 m2 npSi)q (1)
    (式中、R1,R2はそれぞれ水素原子、置換もしくは非置換の一価炭化水素基、XはR1と同様の基、アルコキシ基、ハロゲン原子、酸素原子又は窒素原子である。mは0.1≦m≦1、nは0.1≦n≦1、pは0≦p≦0.5であり、かつ1≦m+n+p≦2.5を満足する数、qは2≦q≦100,000の整数である。)
  12. ポリシロキサンが下記一般式(2)で表されるものである請求項10記載の製造方法。
    (R3 a4 bcSiOde (2)
    (式中、R3,R4はそれぞれ水素原子、置換もしくは非置換の一価炭化水素基、アルコキシ基又はハロゲン原子である。aは0.1≦a≦1、bは0.1≦b≦1、cは0.01≦c≦1であり、かつ1≦a+b+c≦2.5、dは1≦d≦1.5を満足する数である。eは2≦e≦100,000の整数である。)
  13. 標準酸化還元電位0.54V以上の金属がパラジウム、銀又は金である請求項3乃至12のいずれか1項記載の製造方法。
  14. 第4工程で得られた粉体を還元性気体雰囲気下に200℃以上の温度で熱処理して、上記ケイ素系高分子化合物の一部又は全部をセラミック化した請求項3乃至13のいずれか1項記載の製造方法。
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