JP3705924B2 - コレステロール及び脂肪酸合成促進剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、皮膚表皮層内部で細胞自身のコレステロール及び/又は脂肪酸合成を活発化させ、皮膚バリア機能を改善することにより、荒れ肌改善、各種皮膚疾患の改善及び老化防止作用が期待されるコレステロール及び/又は脂肪酸合成促進剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
コレステロールは動物界に広く分布し、脳神経組織、副腎その他の臓器に多量に含まれ、細胞膜、オルガネラ膜、ミエリン膜等の構成成分をなすとともに、胆汁、性腺ホルモン、副腎皮質ホルモン等の前駆体となる重要な脂質である。脂肪酸はアシルグリセロール、ロウ、リン脂質等、ほとんどすべての脂質に含まれ、細胞膜、オルガネラ膜の構成成分をなすとともに、エネルギー源として重要な役割を果たしている。
【0003】
コレステロール、脂肪酸は皮膚では細胞膜の構成成分をなすとともに、表皮細胞から合成分泌され、角質細胞間脂質として角質細胞間に独特のラメラ構造を形成している(Lukas Landmann:Anat.Embryol. 178, 1−3, 1988)。角質層は、皮膚の保湿能や生体の物理的保護を始めとする一連の生理的役割、いわゆるバリア機能を持っているが、コレステロール、脂肪酸はセラミドとともに角質細胞間脂質の主成分であり、 バリア機能の重要な役割を担っている(Gray GM:J.Lipid Res.16 441-447 1975, Elias PM:J.Invest.Dermatol. 73 339-348 1979, Lampe MA:J.Lipid Res. 24 120-130 1983)。この意味から、皮膚のコレステロール、脂肪酸は生体防御の要の物質の1つになっていると言える。
【0004】
肌荒れや乾燥肌、また各種皮膚疾患では、この角質層の健全な形成が妨げられ、バリア機能低下の起きていることが数多く報告されている。具体的な例としては、皮膚表面の加齢に伴う表皮層のターンオーバーの低下、あるいは光や温度、気象条件などの外的要因によって生じる肌荒れや乾燥肌があげられる。これはバリア機能の低下が生じ、本来皮膚が有している保水能力の低下と水分蒸散量の増加が生じた結果、誘発されると考えられている(赤崎秀一ほか:日皮会誌、98(1)、41−51、1988)。
【0005】
また、皮膚疾患のなかでアトピー性皮膚炎では患者の炎症部のみならず非炎症部でもバリア機能の低下や崩壊が見られ、患者皮膚中角質細胞間脂質の全般的な、あるいは特定の種類の含量低下が報告されている(Imokawa G:J.Invest.Dermatol. 96 523-526 1991)。
【0006】
この他、加齢した皮膚では角質層の脂質量が若い皮膚に比べて減少していることが知られており(Ghadially R:J.Clin.Invest. 95 2281-2290 1994) 、表皮のコレステロール、脂肪酸、セラミドの合成速度が低下していることが報告されている(Ghadially R:J.Invest.Dermatol.106 1064-1069 1996)ことから、加齢によりバリア機能が低下すると考えられている。
【0007】
このような皮膚バリアの低下や崩壊からくる皮膚の疾患や不全に対しては、従来、保湿成分の投与で皮膚の乾燥状態を防ぎ潤いを持たせることや、抗炎症剤による湿疹の抑制が試みられてきた。しかし、これらの方法は、角質表面の水分又は保湿成分の一部を補給することによるためにその効果が一時的なものに留まり、皮膚内部に充分な潤いを持続的に与えることができなかったり(武村俊之:ファルマシア、28、1、1992)、一時的な炎症を抑えても効果の持続性や副作用に問題のあることが多かった。
【0008】
これに対し、最近、バリア構成主要成分であるコレステロール、脂肪酸、セラミドの外部補給で皮膚の改善治療を試みることも行われ、実験的な肌荒れ状態にコレステロール、脂肪酸、セラミドを適切な割合で塗布することでより高いバリア機能が回復されることも報告された(Man Mao-Qiang:J.Invest.Dermatol.106 1096-1101 1996)。
【0009】
しかしながら、この方法は効果の出現が早いと思われる半面、従来用いられていた保湿剤等と同様、効果の持続性の点で不十分であり、皮膚の状態によっては経皮吸収の低下で効果発現が不十分になるなどの欠点も考えられる。
【0010】
一方、ニコチン酸とその誘導体が皮膚の血行促進効果を持つことは従来知られており(J.S.C.English ほか:British Journal of Dermatology, 116,341−349,1987)、また表皮細胞のセラミド合成を著しく促進することは特開平9−2952号公報に記載されている。しかしながら表皮細胞のコレステロール及び/又は脂肪酸の合成を著しく促進することはこれまで報告されていなかった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的とするところは、皮膚表層内部で表皮細胞自身のセラミドの合成のみならず、コレステロール及び脂肪酸の合成を活発化させ、皮膚バリア機能の回復を通して、荒れ肌改善及び各種皮膚疾患の治療に、また老化に伴うバリア機能の低下に、より持続的な効果が期待されるコレステロール及び/又は脂肪酸合成促進剤を提供するにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
係る事情に鑑み、本発明者等は、表皮細胞自身のコレステロール及び/又は脂肪酸合成を促進させることを意図し、培養表皮細胞での探索を鋭意検討してきた結果、ニコチン酸、ニコチン酸誘導体、ニコチニックアルコール、ニコチニックアルコール塩が有効なコレステロール及び脂肪酸合成促進作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、ニコチン酸、ニコチン酸誘導体、ニコチニックアルコール、ニコチニックアルコール塩からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を有効成分とするコレステロール及び/又は脂肪酸合成促進剤にある。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられるニコチン酸誘導体としては、例えば下記一般式(1)、(2)、(3)又は(4)で表される化合物等が挙げられる。これらのニコチン酸誘導体は合成品又は天然から抽出されたものでも良く、具体的にはメチルニコチン酸、エチルニコチン酸、ベンジルニコチン酸、ニコチンアミド、クエン酸ニカメタート、ニコチン酸トコフェロール、キノリン酸、ピリジン3,5−ジカルボン酸、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸およびニコチン酸モノヌクレオチド等が挙げられる。
【0015】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【0016】
本発明に用いられるニコチニックアルコール塩としては例えば下記一般式(5)で表される化合物等が挙げられる。合成品の他天然から抽出されたものでも良く、具体的には酒石酸ニコチニックアルコール等が挙げられる。
【0017】
【化15】
【0018】
本発明に用いられるニコチン酸,ニコチン酸誘導体,ニコチニックアルコール,ニコチニックアルコール塩は、コレステロール及び/又は脂肪酸合成促進剤の総量に対し、0.00001〜5重量%が好ましい。0.00001重量%未満では本発明の効果が得られない場合があり、5重量%を超えて配合しても、配合量に見合った効果が得られない場合がある。
【0019】
本発明のコレステロール及び/又は脂肪酸合成促進剤は、適当な賦形剤,担体,希釈剤を用いて、液剤,カプセル剤,顆粒剤,散剤,軟膏剤,貼付剤,注射剤,坐剤,入浴剤等の剤形とすることができ、またゲル,クリーム,スプレー剤,貼付剤,ローション,パック類,乳液,パウダー等の剤形が挙げられる。
【0020】
また、本発明のコレステロール及び/又は脂肪酸合成促進剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、通常、化粧品や医薬品,医薬部外品,食品等に使用されるものを配合することが可能であり、用途、剤形に応じて適宜選択され、特に限定されるものではない。例えばワセリン,スクワラン等の炭化水素、ステアリルアルコール等の高級アルコール、ミリスチン酸イソプロピル等の高級脂肪酸低級アルキルエステル、ラノリン酸等の動物性油脂、グリセリン,プロピレングリコール等の多価アルコール、グリセリン脂肪酸エステル,モノステアリン酸ポリエチレングリコール,ポリエチレンアルキルエーテルリン酸等の界面活性剤、パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸ブチル等の防腐剤、蝋、樹脂、各種香料、各種色素、クエン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、乳酸等の各種有機酸や無機酸及びそれらの塩、水、及びエタノール等が挙げられる。
【0021】
上記のコレステロール及び/又は脂肪酸合成促進剤は、医薬品、医薬部外品、化粧料等に配合し、皮膚外用剤として好適に用いることができる。
【0022】
【実施例】
以下、実施例により詳細に説明する。実施例に先立ち、コレステロール及び脂肪酸合成促進試験について述べる。
【0023】
試験例1(コレステロール及び脂肪酸合成促進試験)
1)方法
(a)培養表皮細胞
ヒト正常表皮角化細胞は、市販されているもの[Cryopreserved Human Keratinocytes(cells):カスケード社製]を用いた。
【0024】
(b)細胞培養用培地
培地としては、MCDB153HAA(和光純薬社製)をベースにしてこれにハイドロコーチゾン(0.5μM)、エタノールアミン(0.1mM)、インシュリン(5μg/ml)およびEGF(上皮細胞成長因子:10ng/ml)を加えた培地を用いた。また、増殖因子としてこれにBPE(牛脳下垂体:Cascade Biology 社製)を添加した(2μl/ml)。
【0025】
(c)Hepes緩衝液の調製
Hepes7.15g 、グルコース1.8g 、塩化カリウム0.22g 、塩化ナトリウム7.7g 、リン酸水素二ナトリウム・12水和物0.27g を精製水に溶解し、1N水酸化ナトリウム水溶液にてpH7.4に調整後、1lにメスアップした。
【0026】
(d)細胞培養
正常ヒト表皮細胞の細胞数をMCDB153HAA培地にて1×105 個/mlに調製し、60mmコラーゲンコートプレート(ファルコン社製)に1mlずつ播種し、これに培地を2ml加えて95%空気(V/V)−5%(V/V)炭酸ガスの雰囲気下、37℃で4日間静置培養した。
【0027】
培養上清を吸引除去し、ニコチンアミドを添加したMCDB153HAA培地を3mlずつ各ディッシュに加えた。このディッシュを95%空気(V/V)−5%(V/V)炭酸ガスの雰囲気下、37℃で3日間(コレステロール合成促進試験)または6日間(脂肪酸合成促進試験)静置培養した。
【0028】
3日目又は6日目に1.0μCiの[14C]酢酸ナトリウム(アマシャム社製)を培地に添加して6時間インキュベーションを行った。その後以下のごとく細胞を処理した。
【0029】
(e)脂質の抽出
培地上澄を吸引除去し、2mlのHepes緩衝液で2回洗浄した後、細胞をセルスクレーパー(住友ベークライト社製)でディッシュからかきとった。これを1. 6mlのHepes緩衝液に懸濁し、4mlのメタノールと2mlのクロロホルムを加え混合する。20分間室温で静置した後、1. 6mlのクロロホルムと1. 6mlのHepes緩衝液を更に加え、よく撹拌後3000rpm20分間の遠心分離を行った。その後クロロホルム層を採り、脂質画分を得た。クロロホルムを減圧遠心濃縮機により除き、50μlのクロロホルム/メタノール(2:1)溶液に再溶解した。
【0030】
(f)コレステロール、脂肪酸画分の分離
クロロホルム/メタノール(2:1)溶液に溶解した脂質試料を薄層クロマトグラフィー:HPTLC シリカゲル60,20×10cm(メルク社製)で分離した。脂質試料5μlをシリカゲルプレートにアプライし、クロロホルム/メタノール/水(40:10:1)の溶媒で4cm展開し、次にヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(70:30:1)の溶媒で10cm展開して分離した。
【0031】
(g)コレステロール、脂肪酸の合成量の測定
展開後のシリカゲルプレートをイメージングプレート(富士フィルム社製)に18時間接触させ、BAS1500(富士フィルム社製)でコレステロール、脂肪酸に取り込まれた[14C]量を測定し、それぞれの合成量を測定した。
【0032】
(2)結果
ニコチンアミドには下記表1に示す様に、コレステロール、脂肪酸の合成促進効果が見られた。なお、表1の相対合成比率はニコチンアミド0μMを100として示した。
【0033】
【表1】
【0034】
試料1〜4
ニコチンアミド[東京化成社製](試料1)、ニコチン酸[東京化成社製](試料2)、クエン酸ニカメタート[シグマ社製](試料3)、酒石酸ニコチニックアルコール[酒石酸及びニコチニックアルコール(和光純薬社製)より特開平8−217623号公報記載の方法に準じて調製](試料4)、各0. 5gを蒸留水100mlに溶解し、濾過穴径0. 22μmの膜(ミリポア社製)で濾過して各水溶液を得た。
【0035】
試料5〜8
メチルニコチン酸[東京化成社製](試料5)、エチルニコチン酸[東京化成社製](試料6)、ベンジルニコチン酸[東京化成社製](試料7)、ニコチン酸トコフェロール[シグマ社製](試料8)、各0. 5gを、水に溶け易いよう一旦エタノールに溶解し、ついで蒸留水を加えて100mlにし、濾過穴径0. 22μmの膜(ミリポア社製)で濾過して各水溶液を得た。
【0036】
実施例1
下記表2中、親水性成分を湯浴で80℃に加温し、混合した下記親油性成分に攪拌しながら徐々に加えた。次に、ホモゲナイザーで攪拌して、各成分を充分乳化分散させた後、攪拌しながら徐々に冷却し、軟膏を得た。
【0037】
【表2】
【0038】
実施例2〜4
試料1の水溶液の代わりに試料2のニコチン酸水溶液(実施例2)、試料3のクエン酸ニカメタート水溶液(実施例3)、試料4の酒石酸ニコチニックアルコール水溶液(実施例4)をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様な方法で、それぞれの軟膏を得た。
【0039】
実施例5〜8
試料1の水溶液の代わりに試料5のメチルニコチン酸水溶液(実施例5)、試料6のエチルニコチン酸水溶液(実施例6)、試料7のベンジルニコチン酸水溶液(実施例7)、試料8のニコチン酸トコフェロール水溶液(実施例8)をそれぞれを用いた以外は実施例1と同様な方法で、それぞれの軟膏を得た。
【0040】
実施例9
試料1の水溶液1mlを以下の組成物に加えて、常法により100g のローションを得た。
【0041】
【表3】
【0042】
実施例10〜12
試料1の水溶液の代わりに試料2のニコチン酸水溶液(実施例10)、試料3のクエン酸ニカメタート水溶液(実施例11)、試料4の酒石酸ニコチニックアルコール水溶液(実施例12)を用いた以外は実施例9と同様な方法で、それぞれのローションを得た。
【0043】
実施例13〜16
試料1の水溶液の代わりに、試料5のメチルニコチン酸水溶液(実施例13)、試料6のエチルニコチン酸水溶液(実施例14)、試料7のベンジルニコチン酸水溶液(実施例15)、試料8のニコチン酸トコフェロール水溶液(実施例16)を用いた以外は実施例9と同様な方法で、それぞれのローションを得た。
【0044】
【発明の効果】
以上の如く、本発明により荒れ肌改善及び皮膚バリア崩壊を伴う皮膚疾患、例えばアトピー性皮膚炎の治療剤、並びに老化によるバリア機能の低下に伴う荒れ肌の改善が期待されるコレステロール合成促進剤、脂肪酸合成促進剤を提供できることは明らかである。
Claims (2)
- ニコチンアミドを有効成分とするコレステロール合成促進剤。
- ニコチンアミドを有効成分とする脂肪酸合成促進剤。
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