JP3703677B2 - 新規マクロライド系化合物jk - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規化合物JKに関するものであり、更に詳細には、本発明は、新規化合物JK−1およびJK−2、その製造法及び用途に関するものである。新規化合物JK−1、2は、微生物、特に放線菌の培養物から分離採取された従来未知の新規マクロライド系化合物であって、すぐれた生理活性、特にすぐれた抗菌作用、特に抗MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ状球菌)活性を有するものである。本発明の類似物質としてMM46115(R. j. Ashton et. al., J. Antibiot., Vol.43, pp. 1387-1393, 1990, K. Luk et. al., J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, Vol. 7, pp. 1641-1644, 1991)が知られているが、MM46115が強い細胞毒性を有しているのに対し、本発明に係る新規化合物JK−1及びJK−2は全く細胞毒性を有していない点できわめて特徴的である。その詳細なメカニズムについては今後の研究にまたねばならないが、そのひとつとしては、構造上の差異から3'位のCH3基が毒性発現に重要であると推測される。
【0002】
従って、本発明に係る新規マクロライド系化合物JK−1及びJK−2は、抗菌剤として予防及び/又は治療剤として非常に有用であり、また有効に利用することが出来る。本化合物は、抗菌性にすぐれ、特に近年問題となっているMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ状球菌 )に対して有効であるのみでなく、現在用いられているバンコマイシンよりもはるかに抗MRSA活性が高い点で特徴的であり、しかも安全性の面においても問題がなく、特に実用上すぐれた特徴を有するものである。
【0003】
【従来の技術】
抗菌剤として数多く新規化合物が発見され、また合成され、その一部は実用化されている。一方、院内感染に代表される様に多剤耐性菌が出現したことから既存の抗菌剤とは異なる作用点を有する耐性菌にも有効な新規な抗菌剤が求められている。
従来より知られている抗菌剤にはすぐれたものが各種知られているが、MRSAその他の耐性菌にも有効で、安全性、生産性の面から優れた抗菌剤の開発が求められていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような当業界における要望に応えるためになされたものであって、抗菌剤の技術開発の流れに沿いスクリーニングを重ねた結果、今までに知られていない新規な化合物に抗菌活性があることを見い出し、本発明を完成させた。本発明は、耐性菌を含め各種微生物に対する抗菌性、毒性や副作用がないといった安全性、製造が容易であって大量生産が可能であるといった生産性の面からして、従来既知の物質より更にすぐれた抗菌活性を有する新規な化合物を提供する目的でなされたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、新規な抗菌作用を有する物質を得ることを目的として、天然物、特に微生物の代謝産物について広く検索を行い、より有効な抗菌作用を有する物質について検索を行った結果、放線菌Actinomadura pelletieri IFM 0903(FERM BP-7030 )の菌体抽出物中に目的とする作用を有する物質を見出し、本物質についてその物理化学的性質を詳細に調べ、化学構造を明らかにしたところ、従来知られていない新規物質であることが確認された。本物質は請求項1〜3に記載した様に、一般式(1)で示されるマクロライド系の新規な化合物であった。発明者らは、本化合物をJKと命名し、更に、一般式(1)においてRがメチル基の場合の化合物をJK−1、Rが水素原子の場合の化合物をJK−2と命名した。
【0006】
すなわち本発明は、図1に示される一般式(1)を有する新規化合物JK(但し、R=CH3の場合は、JK−1、R=Hの場合はJK−2)又はその医薬的に許容し得る塩に関するものである。
【0007】
本発明において、塩とは、ナトリウム塩、カリウム塩といったアルカリ金属塩、カルシウム塩やマグネシウム塩といったアルカリ土類金属塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩等の無機酸塩のほか、各種有機酸塩、アミン塩やピリジニウム塩等の有機塩等、医薬的に許容される塩がすべて包含される。
【0008】
また、本発明は、新規マクロライド系化合物JK−1、2又はその医薬的に許容される塩を有効成分とする抗菌剤に関するものである。以下、本発明について詳述する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明に係る化合物JKは混合物であり、現時点においてはJK−1、JK−2の2種の化合物が分離されている。これら化合物のうち、JK−1の物理化学的諸性質を、下記表1に示した。
【0010】
(表1)
第1表 JK−1の物理化学的諸性質
(1)物質の色及び状態:無色粉末
(2)赤外吸収スペクトル:有意なシグナルは次のとおりである。
IRυ max(cm-1、in KBr):
813, 936,977, 1006, 1030, 1058, 1094, 1122, 1180, 1219, 1289,
1312, 1343, 1375, 1404, 1453, 1456, 1504, 1580, 1618,1690,
1723,1753, 2950, 3425
(3)紫外吸収スペクトル:
UVλ max(nm、MeOH):235, 280(ε11000)
(4)分子量:877
(5)分子式:C4966210Cl
(6)マススペクトル
HREIMS m/z
実測値: 877.4425(M+
計算値: 877.4440(C49H66N2O10Cl )
(7)比旋光度:
[α]D(MeOH、C=0.15%) -141.5
【0011】
化合物JK−1の1H NMR及び13C NMRスペクトルの内、有意なシグナルは下記表2に示される。
【0012】
Figure 0003703677
Figure 0003703677
Figure 0003703677
【0013】
また、化合物JK−2についてもFAB−MS、HR−FAB−MSでの分析を行い、分子量を測定するとともに、推定分子式から請求項に記載した構造式を推定した。その結果を以下に示す。
JK−2 C4863210Cl (863)
【0014】
本発明に係る化合物JKは、例えばActinomadura pelletieri IFM 0903(FERM BP-7030 )によって生産される。
【0015】
Actinomadura pelletieri IFM 0903株の菌学的性質は、形態学的にはオートミール寒天培地(ISP−3)で培養した時、アクチノミセーテス(Actinomycetes)の一種に見られる様な分岐した長い菌糸と気中菌糸体を有していた。また、培養時間を長くすることによって、桿菌様胞子が数個と気中菌糸断列および栄養菌糸の断列が観察された。栄養菌糸断列も観察されたことから形態学的にActinomadura属に属するものと推定された。
各種培地でのActinomadura pelletieri IFM 0903株の培養的性質を下記表3に示した。また、生理生化学的性質については下記表4に示した。
【0016】
Figure 0003703677
【0017】
Figure 0003703677
【0018】
本菌株を培地(2%グルコースを含むブレインハート・インフュージョン)中で、撹拌数250rpmで30℃、72時間振とう培養し、培地中に生育した菌体を遠心分離(3000rpm×10分)で集め、蒸留水で2回洗浄した。更に菌体をエタノールで洗い、次いで真空乾燥し、乾燥菌体とした。この乾燥菌体の細胞壁のアミノ酸組成、糖組成、脂質組成をBergey's Manual of Determinative Bacteriology 9th ed., Willams, Balitmore, 1993に基づいて調べた。アミノ酸分析の結果よりメソ−ジアミノピメリン酸、糖分析の結果よりマデュロースが検出された。菌体脂質成分であるイソプレノイド・キノンは主たる成分としてMK−9(H6)が確認された。また、表4に示したアデニン、カゼイン、ヒポキサンチン、チロシンの資化性、さらに糖からの酸の生成パターンから、本菌株はActinomadura pelletieriと同定された。
【0019】
この様に本菌株は、Actinomadura pelletieriに分類されるが、化合物JKを生産することで極めて特徴的であるので、これを新菌株としてActinomadura pelletieri IFM 0903株と命名し、工業技術院生命工学工業技術研究所に国際寄託した(FERM BP-7030 )。
【0020】
本発明に係る化合物JKは、Actinomadura pelletieri IFM 0903株(FERM BP-7030 )株によって生産されるほか、Actinomadura属に属する他の菌株によっても生産されることが確認されており、化合物JKの生産はこれらの微生物からX線照射、γ線照射、ナイトロジェンマスタード、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、2−アミノプリン、エチルメタンスルホネート等の変異剤処理により取得できる人工変異株ならびに自然変異株を含めて化合物JKを生産しうるすべての変異株の使用も広く包含するものである。
【0021】
本発明に係る一般式(1)で示される新規化合物JKは、化学合成法によって製造できるほか、上記のように微生物によっても製造することができる。
【0022】
後者の場合、本発明に係る一般式(1)で示される新規化合物JKは、Actinomadura属に属する該化合物生産菌、例えばActinomadura pelletieri IFM 0903株が資化しうる炭素源及び窒素源を含む培地で培養して製造することが出来るが、好気的深部培養条件(例えば振とう培養、通気撹拌培養等)で生産せしめることが好ましい。
【0023】
炭素源としては、グルコース、グリセロール、シュークロース、澱粉、デキストリンその他の炭水化物を使用することが好ましい。
窒素源としては、オートミール、イースト抽出物、牛肉抽出物、ツナ肉抽出物、ペプトン、グルテンミール、綿実油、大豆ミール、コーンスティープリカー、乾燥イースト、小麦胚芽、落花生粉、チキン骨肉ミール等を使用するのが好ましいが、アンモニウム塩(例えば、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等)、尿素、アミノ酸等の無機及び有機の窒素化合物も有利に使用することが出来る。
【0024】
これらの炭素源及び窒素源は併用することが有利であるが、必ずしも純粋なものを使用する必要はない。純粋でないものには、生長因子や微量要素が含まれているため、これを使用することが望ましい為である。
必要ならば、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、マグネシウム塩、銅塩、コバルト塩等のような無機塩類を培地に添加することが出来る。
必要ならば、特に、培地が発泡するのであれば、流動パラフィン、動物油、植物油、鉱物油、シリコン等の消泡剤を加えることが出来る。
【0025】
目的物質を大量に工業生産するには、他の発酵生産物の場合と同様に、通気撹拌培養するのが好ましい。少量生産の場合は、フラスコを用いる振とう培養が好適である。
また、培養を大きなタンクで行う場合、化合物JKの生産工程において菌の生育遅延を防止するため、はじめに比較的少量の培地に生産菌を接種培養した後、次に培養物を大きな生産タンクに移してそこで生産培養するのが好ましい。
この場合、前培養に使用する培地及び生産培養に使用する培地の組成は、両者とも同一であってもよいし必要あれば両者を変えてもよい。
【0026】
培養は、通気撹拌条件で行うのが好ましく、例えばプロペラやその他機械による撹拌、ファーメンターの回転または振とう、ポンプ処理、空気の吹込み等既知の方法が適宜使用される。通気用の空気は滅菌しておくのが良い。
【0027】
培養温度は、化合物JK生産菌が本物質を生産する範囲で適宜変更しうるが、通常は10〜40℃、好ましくは25〜35℃で培養するのがよい。
培養時間は、培養条件や培養量によっても異なるが、通常は約1日〜1週間である。
【0028】
発酵終了後、培養物から目的とする化合物JKを回収する。すなわち、菌体は、直接水及び/又は有機溶媒による抽出、あるいは、これを機械的に又は超音波等既知の手段を用いて破壊した後、水及び/又は有機溶媒で抽出し、常法に従って回収、精製する。培養液の場合は、直接、溶媒で抽出してもよいし、また、培養液の濾過又は遠心分離後、減圧濃縮、凍結乾燥、pH調節、アニオン又はカチオン交換樹脂、活性炭、粉末セルロース、シリカゲル、アルミナ、吸着性樹脂等の担体に接触させて化合物JKを吸着させた後、これを担体から溶出すればよい。
【0029】
回収、精製方法としては、抗生物質採取の際の常法が適宜利用され、例えば、水、有機溶媒これらの混合溶媒による溶媒抽出;クロマトグラフィー;単一溶媒又は混合溶媒からの再結晶等常法が適宜単独であるいは組合わせて使用できる。
【0030】
化合物JKの回収、精製は上記の様に既知の方法を適宜利用して行うが、例えば次の様にしてもよい。
先ず、培養物を遠心分離またはMF膜で処理することによって菌体を集めた後、メタノールで抽出し、この抽出画分を濃縮後、更にジエチルエーテルで抽出する。抽出画分を減圧濃縮し、更にシリカゲルクロマトグラフィーに供し、ヘキサン、酢酸エチルで段階的及び/又は連続的溶出操作を行い分画精製し減圧下で濃縮、乾固しHPLC(ODSカラム)にて分画精製し濃縮、乾固すればよい。
【0031】
本発明化合物JKを医薬として投与する場合、本発明化合物をそのまま又は医薬的に許容される無毒性かつ不活性の担体中に、例えば、0.1%〜99.5%好ましくは0.5%〜90%含有する医薬組成物として投与される。
【0032】
担体としては、固形、半固形、又は液状の希釈剤充填剤、及びその他の処方用の助剤一種以上が用いられる。医薬組成物は、投与単位形態で投与することが望ましい。本発明医薬組成物は、経口投与、組織内投与、局所投与(経皮投与等)、又は経直腸的に投与する事ができるが、外用剤としても使用できる。これらの投与方法に適した剤型で投与されるのはもちろんである。
【0033】
抗菌剤としての用量は、年齢、体重等の患者の状態、投与経路、病気の性質と程度等を考慮した上で調整することが望ましいが、通常は、成人に対して本発明の有効成分量として、一日当たり、10〜2000mg範囲が一般的である。場合によっては、これ以下で足りるし、また逆にこれ以上の用量を必要とする事もある。多量に投与するときは、一日数回に分割して/又は連続的に投与することが望ましい。なお本化合物JKを1日当り500mgラットに対して経口投与したが、10日間経過後においても急性毒性は認められず、安全性が認められた。
【0034】
経口投与は固形又は液状の用量単位、例えば、末剤、散剤、錠剤、糖衣剤、カプセル剤、ドロップ剤、舌下錠その他の剤型によって行う事ができる。
【0035】
末剤は、活性物質を適当な細かさにする事により製造される。散剤は活性物質を適当な細かさと成し、次いで同様に細かくした医薬用担体、例えば、澱粉、マンニトールの如き可食性炭水化物その他と混合することにより製造される。必要に応じて風味剤、保存剤、分散剤、着色剤、香料その他のものを混じても良い。
【0036】
カプセル剤は、まず粉末状となった末剤や散剤あるいは顆粒化したものを、例えばゼラチンカプセルのようなカプセル外皮の中へ充填することにより製造される。滑沢剤や流動化剤、例えばコロイド状のシリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、固形のポリエチレングリコールの如きものを粉末状態のものに混合し、然るのちに充填操作を行う事もできる。崩壊剤や可溶化剤、例えばカルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムを添加すれば、カプセル剤が摂取された時の医薬の有効性を改善する事ができる。
また、本品の微粉末を植物油、ポリエチレングリコール、グリセリン、界面活性剤中に懸濁分散し、これをゼラチンシートで包んで軟カプセル剤とすることもできる。
【0037】
錠剤は粉末混合物を作り、顆粒化若しくはスラグ化し、次いで崩壊剤又は滑沢剤を加えたのち打錠することにより製造される。
【0038】
粉末混合物は、適当に粉末化された物質を上述の希釈剤やベースと混合し、必要に応じ結合剤(例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなど)、溶解遅延化剤(例えばパラフィンなど)、再吸収剤(例えば四級塩)及び/又は吸着剤(例えばベントナイト、カオリン、リン酸ジカルシウムなど)を併用してもよい。粉末混合物は、まずシロップ、でんぷん糊、アラビアゴム、セルロース溶液又は高分子物質溶液などの結合剤で湿らせ、次いで篩を強制通過させて顆粒とする事ができる。このように粉末を顆粒化するかわりに、まず打錠機にかけたのち、得られる不完全な形態のスラグを破砕して顆粒にすることも可能である。
【0039】
このようにして作られる顆粒は、滑沢剤としてステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク、ミネラルオイルその他を添加することにより、互いに付着する事を防ぐ事ができる。このように滑沢化された混合物を次いで打錠する。また薬物は、上述のように顆粒化やスラグ化の工程を経ることなく、流動性の不活性担体と結合したのちに直接打錠しても良い。シェラックの密閉被膜からなる透明又は半透明の保護被膜、糖や高分子材料の被覆、及びワックスよりなる磨上被覆の如きも用いうる。
【0040】
他の経口投与剤型、例えば溶液、シロップ、エリキシルなどもまたその一定量が含有するように用量単位形態とする事ができる。シロップは、化合物を適当な香味化水溶液に溶解して製造され、またエリキシルは非毒性のアルコール性担体中に分散させることにより処方される。可溶化剤や乳化剤(例えばエトキシ化されたイソステアリルアルコール類、ポリオキシエチレンソルビトールエステル類)、保存剤、風味賦与剤(例えばペパーミント油、サッカリン)その他もまた必要に応じて添加できる。
必要とあれば、経口投与のための用量単位処方はマイクロカプセル化してもよい。該処方はまた被覆をしたり、高分子・ワックス等中にうめ込んだりすることにより作用時間の延長や持続放出をもたらす事もできる。
【0041】
非経口的投与は、皮下・筋肉内又は静脈内注射用としたところの液状用量単位形態、例えば溶液や懸濁剤の形態を用いることによって行いうる。これらのものは、化合物の一定量を、注射の目的に適合する非毒性の液状担体、例えば、水性や油性の媒体に懸濁し又は溶解し、次いで該懸濁液又は溶液を滅菌することにより製造される。あるいは化合物の一定量をバイアルにとり、然るのち該バイアルとその内容物を滅菌し密閉しても良い。投与直前に溶解又は混合するために、粉末又は凍結乾燥した有効成分に添えて、予備的なバイアルや担体を準備しても良い。注射液を等張にするために非毒性の塩や塩溶液を添加しても良い。さらに安定剤、保存剤、乳化剤の如きものを併用する事もできる。
【0042】
直腸投与は、化合物を低融点の固体、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級エステル類(例えばパルミチン酸ミリスチルエステル)及びそれらの混合物を混じた座剤を用いることによって行いうる。また、外用剤として直接患部に適用することも可能である。
【0043】
以下、本発明を実施例について更に詳しく説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0044】
【実施例1】
(1)発酵生産
Actinomadura pelletieri IFM 0903株(FERM BP-7030 )を2%グルコース添加Brain Heart lnfusion液体培地(Difco社製)25mlを50ml容三角フラスコに分注したものに接種し30℃、72時間振とう培養した。これを更に、同培地200mlを500ml容の三角フラスコに分注したものに2ml接種し、同様の前培養を行った。この前培養液(1.5L)をグルコース2%、肉エキス(和光純薬株式会社)0.5%、ポリペプトンP1 0.5%、ポリペプトン(日本製薬株式会社)0.5%、塩化ナトリウム0.3%、pH7.0からなる生産培地15Lを入れた20Lタンク培養槽に接種し、通気量毎分15L、攪拌数200rpm、28℃、90時間培養した。
【0045】
(2)回収精製
得られた培養物15Lを濾布で濾過することにより菌体を回収した。菌体にメタノール3Lを加え抽出操作を行い、この抽出液をエバポレーターで濃縮した。濃縮液に蒸留水300mlを加え、酢酸エチル1Lで3回分配抽出をした。酢酸エチル層(3L)をエパポレーターで濃縮、乾固し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した(カラムサイズ;3cm×20cm)。n−ヘキサン、酢酸エチル40:1、20:1、5:1各1Lで段階的に溶出した。その後、分取逆相HPLCにより精製した。溶出画分中のJKの検出はMicrococcus luteusを使用したペーパーディスク法により測定し、活性画分を各々回収しエバポレーターで濃縮、乾固して化合物JK−1、JK−2をそれぞれ13mg、3.5mgの精製標品として得た。
【0046】
【実施例2】
(細胞毒性)
ヒト由来の培養腫瘍細胞株であるHL−60とL1210の2種に対する化合物JKの細胞毒性を以下のように測定した。
【0047】
化合物JK−1、JK−2各々をメタノールに溶解後、各培地を用いて段階希釈を行うことで種々の濃度のJK液を調製した。リンパ球癌細胞であるHL−60、L1210は、RPMI1640培地(10%牛血清を含む)でそれぞれ細胞懸濁液(5×104個/ml)を調製した。JK液20μlと細胞懸濁液180μlを96穴マイクロプレートに分注し、5%CO2、95%空気の湿潤環境下、37℃で培養した。72時間後、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT)を用いた色素定量法により細胞の生育を測定した。すなわち、2mg/ml MTT溶液を20μlずつ各ウェルに添加し、4時間、37℃で培養した後、細胞内に形成しているホルマザン結晶を、50%ジメチルホルムアミド溶液で作成した20%ドデシル硫酸ナトリウム溶液を50μl加え溶解し、マイクロプレート吸光光度計(イムノリーダー)を用いて570nmにおける吸光度を測定して生育の指標とした。以下の式より生育抑制率を算出し検体濃度と抑制率の関係から50%生育阻害する検体濃度(IC50値)を求めた。
【0048】
抑制率(%)=(1−Q)×100
但しQ=被検体を添加した場合の吸光度/被検体未添加の場合の吸光度
【0049】
その結果、リンパ球癌細胞に対し化合物JK−1及びJK−2のIC50値は>100μg/mlと全く細胞毒性を示さなかった。
【0050】
【実施例3】
(抗菌活性)
JK−1の抗菌活性は、以下のようにして最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。
各種微生物に対するJKのMIC値を日本化学療法学会の規定に基づき(抗生物質大要第4版 東京大学出版会1992)、0.2%グルコースを含むミュラーヒントン培地で行った。
【0051】
JK−1はメタノールに溶解後、上記培地を用いて希釈し1mg/ml濃度から2倍希釈を繰り返し調製した。被検菌は上記培地で1×106/mlに調製し被検菌液とした。JK液20μlと被検菌液180μlを96穴マイクロプレートに分注し、37℃で培養した。24時間目の生育の可否を目視によって確認しMIC値を算出した。得られた結果を下記表5、表6に示す。
【0052】
Figure 0003703677
【0053】
Figure 0003703677
【0054】
その結果、JK−1はグラム陽性菌に対してMIC値0.025〜0.39μg/mlと強い抗菌力を示した。一方、グラム陰性菌および真菌類には抗菌力を示さなかった。グラム陽性菌中、特に臨床上問題となっているStaphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)とその薬剤多剤耐性菌であるMRSA間でMIC値に差が認められなかった(表5)。そこで新鮮臨床分離MRSA株11種についてJK−1と上市3種薬剤間での抗菌力の比較を行った結果、MRSAの特効薬であるvancomycinにくらべJK−1は約6倍強い抗菌力を示した(表6)。
【0055】
【実施例4】
(製剤化)
(1)実施例1で製造した化合物JK 20g、(2)ラクトース80g、(3)コーンスターチ30g、(4)ステアリン酸マグネシウム2gを原料として、錠剤を製造した。すなわち、(1)、(2)及び(3)(但し15g)を混合し、(3)(但し5g)と(4)を加えてよく混合し、この混合物を圧縮錠剤機により圧縮し、1錠当たり有効成分(1)を25mg含有する錠剤800個を製造した。
【0056】
【発明の効果】
本発明は、化合物JKを提供するものであるが、本化合物は新規物質であって、すぐれた生理活性を有し、例えば院内感染等で最近特に問題となっているMRSA等抗生物質耐性菌に対して有効な(バンコマイシンよりも有効な)抗菌剤その他各種の抗菌剤等として各種の医薬品に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一般式(1)を有する新規化合物JKの化学構造を示す。

Claims (7)

  1. 下記化1に示される一般式(1)を有する化合物JK又はその医薬的に許容される塩。
    Figure 0003703677
    (式中、RはH又は−CH3である。)
  2. 一般式(1)においてRが−CH3で示されるものであることを特徴とする請求項1に記載の化合物JK−1。
  3. 一般式(1)においてRがHで示されるものであることを特徴とする請求項1に記載の化合物JK−2。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物を有効成分とする抗菌剤。
  5. 抗菌剤が抗MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ状球菌)活性を有するものであることを特徴とする請求項4に記載の抗菌剤。
  6. 請求項1〜3のいずれか1項に記載される1以上の化合物を生産する能力を有する新規Actinomadura pelletieri IFM 0903(FERM BP-7030 )。
  7. Actinomadura属に属し、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物を産生する菌株を培養し、培養物より該化合物を採取することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物またはその塩の製造法。
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