JP3696734B2 - 圧電体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、圧電体に関するものであり、より詳しくは、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする主結晶粒子からなる圧電磁器中に、部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子が分散した圧電体に関するものである。
【0002】
【従来技術】
従来から、圧電磁器組成物を利用した製品としては、例えばセラミックフィルタ、セラミックレゾネータ、超音波応用振動子、圧電ブザー、圧電点火ユニット、超音波モータ、圧電ファン、圧電センサ、圧電アクチュエータ等がある。
【0003】
ここで、セラミックフィルタ、セラミックレゾネータ等の電子部品としては、PbZrO3 −PbTiO3 を主成分とした磁器組成物(PZT)が利用されており、これにNb2 O5 やMnO2 等の金属酸化物、Pb(Mg1/3 Nb2/3 )O3 やPb(Nb2/3 Co1/3 )O3 等の複合ペロブスカイト型酸化物を添加したり置換することにより圧電特性の向上が図られている。
【0004】
しかしながら、圧電素子の共振周波数の温度係数Fr.TC.が大きい場合、環境変化の激しい車両搭載用通信装置や、屋外での使用を前提としている携帯電話機などのフィルタ用として用いると、素子の特性変化によって安定した送受信ができなくなるという問題があった。
【0005】
また、セラミックレゾネータは、マイコンの基準信号発振用として発振回路に組み込まれて使用されるが、圧電素子の共振周波数の温度係数Fr.TC.が大きい場合、基準信号が変化してしまうためマイコンが正常に動作しなくなるという問題があった。
【0006】
従来、PZTでは、Aサイト(Pb)をSr、Caなどで置換したり、BサイトのZr/Ti比を最適化することで圧電素子の温度係数を調整する方法が知られ、それらを組み合わせた組成が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
圧電発振子を電気回路に組み込んで利用する場合、電気回路の温度特性が加算されるため、圧電素子の共振周波数の温度係数Fr.TC.を回路に合わせて変更する必要がある。しかしながら、圧電素子の温度特性を組成で制御する場合、磁器組成から変更する必要があり、温度特性を満足するように、例えばPZT の置換材料や添加材料、その量比を変更する必要があった。
【0008】
本発明は、高い電気的特性を維持できるとともに、主結晶粒子の組成を変更することなく、共振周波数の温度係数Fr.TC.を容易に制御することができる圧電体を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の圧電体は、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする主結晶粒子からなる圧電磁器中に、平均結晶粒径0.3〜1.0μmの部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子を全量中0.05〜5重量%の割合で分散してなるとともに、前記主結晶粒子の平均結晶粒径d1 と、前記部分安定化ジルコニア粒子および/または前記安定化ジルコニア粒子の平均結晶粒径d2 の比(d1 /d2 )が2〜8である。ここで、主結晶粒子の平均結晶粒径d1 が3μm以下であることが望ましい。また、共振周波数の温度係数Fr.TC.が−50〜+50ppm/℃のものである。
【0010】
【作用】
本発明の圧電体は、部分安定化または安定化されたジルコニアは、焼結過程において、チタン酸ジルコン酸鉛と固溶反応を殆ど起こさず、主結晶粒子の粒界部に局在し、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする主結晶粒子の粒成長を抑制し、組織を微細化する。
【0011】
そして、平均結晶粒径0.3〜1.0μmの部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子を全量中0.05〜5重量%含有するとともに、主結晶粒子の平均結晶粒径d1 と、部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子の平均結晶粒径d2 の比(d1 /d2 )を2〜8とすることにより、主結晶粒子の組成を変更せずに共振周波数の温度係数Fr.TC.を−50〜+50ppm/℃に容易に制御することができる。
【0012】
また、部分安定化または安定化されたジルコニアは安定化されていないジルコニアとは異なり、1100℃付近にマルテンサイト変態による異常膨張を示さないことから、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする焼結体内部において、電気的特性の劣化原因となるマイクロクラックを多数発生させないので、添加量を増やしても電気機械結合係数Kr等の電気的特性を大きく低下させることがない。
【0013】
さらに、主結晶粒子の平均結晶粒径を3μm以下とすることにより、機械的強度を向上することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の圧電体は、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする主結晶粒子からなる圧電磁器中に、平均結晶粒径0.3〜1.0μmの部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子を全量中0.05〜5重量%の割合で分散してなるものである。
【0015】
チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電磁器とは、例えば、Pb(Zr、Ti)O3 のPb、Zr、Tiの一部をBa等のアルカリ土類金属、Nb等の周期律表第5a族元素、Y等の希土類元素、Cr等の周期律表第6a族元素、Co等の周期律表第8族元素等で置換したものがある。
【0016】
チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする主結晶粒子は、電気的特性を大きくするため、1μm以上の平均結晶粒径を有することが望ましい。一方、主結晶粒子の平均結晶粒径が3μmよりも大きくなると機械的強度が劣化するため、電気的特性および機械的強度の点からは、主結晶粒子の平均結晶粒径は1〜3μmであることが望ましい。
【0017】
部分安定化ジルコニア(PSZ)および/または安定化ジルコニア(FSZ)は、焼成温度の範囲内において、マルテンサイト変態を起こさないものであれば良い。例えば、CaO、MgOからなる安定化剤を16モル%以上含有するジルコニア、Y2 O3 からなる安定化剤を8モル%以上含有するジルコニアが一般に安定化ジルコニアであり、CaO、MgOや、Y2 O3 の含有量が上記量よりも少ない場合が部分安定化ジルコニアである。
【0018】
部分安定化ジルコニアおよび/または安定化ジルコニアの含有量は、全量中0.05〜5重量%含有することが望ましい。これは含有量が全量中0.05重量%未満ではジルコニアによる粒成長抑制効果が小さく、主結晶粒子の微細化による共振周波数の温度係数Fr.TC.の改善効果が小さいからであり、5重量%よりも多い場合には電気機械結合係数Kr等の電気的特性が大きく低下するからである。部分安定化ジルコニアおよび/または安定化ジルコニアの含有量は、高い電気的特性を維持するためには、全量中0.05〜0.5重量%含有することが望ましい。
【0019】
部分安定化ジルコニアおよび/または安定化ジルコニアの結晶粒子は、平均結晶粒径d2 が0.3μmより小さい場合、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする主結晶粒子内に取り込まれる割合が多くなり、粒成長の抑制効果が小さくなり、一方、平均結晶粒径が1μmよりも大きくなると、電気的特性が大きく低下することから、0.3〜1.0μmの平均結晶粒径d2 を有する必要がある。
【0020】
そして、主結晶粒子の平均結晶粒径d1 と、部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子の平均結晶粒径d2 の比(d1 /d2 )が2〜8であることが重要である。d1 /d2 が8よりも大きい場合は、主結晶粒子内に部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子が取り込まれる割合が多くなり、粒成長の抑制効果が小さくなり、共振周波数の温度係数Fr.TC.が大きくなるからである。一方、d1 /d2 が2よりも小さくなると、電気機械結合係数Kr等の電気的特性が大きく低下する。
【0021】
本発明の圧電体は、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする主結晶粒子の粒界や粒内に、部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子が分散した組織であり、部分安定化ジルコニアおよび/または安定化ジルコニアは主結晶粒子中に固溶しないか、もしくは固溶したとしてもごく僅かである。
【0022】
このような圧電体は、例えば、PbO、ZrO2 、TiO2 、SrCO3 、Nb2 O5 等の粉末を所定の組成に混合し、これを仮焼した後、平均粒径0.2〜1.5μmになるように粉砕する。
【0023】
これに、平均粒径0.3〜1μmの部分安定化ジルコニアおよび/または安定化ジルコニア粉末を全量中0.05〜5重量%添加し、所望によりバインダーや溶媒等を添加混合し、これをプレス成形やドクターブレード法等により所定形状に成形し、大気中等の酸素含有雰囲気にて焼成することにより得られる。焼成温度は、主結晶粒子へのジルコニアの固溶反応を抑えるために、低く設定する方が良く、1100〜1250℃程度であり、焼成時間は1〜2時間あれば良い。
【0024】
尚、ジルコニア粒子は焼成により殆ど粒成長しないため、原料粒径を0.3〜1.0μmとすることにより、磁器中のジルコニア粒子の平均結晶粒径d2 を0.3〜1.0μmに制御できる。
【0025】
また、主結晶粒子の平均結晶粒径d1 と、部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子の平均結晶粒径d2 の比(d1 /d2 )は、ジルコニア粉末の平均粒径や添加量、主結晶粒子の平均結晶粒径d1 、焼成温度等により制御することが可能である。
【0026】
本発明の圧電体は、部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子が、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする主結晶粒子と固溶反応を起こさず、粒界部または粒内に局所的に存在するので、主結晶粒子の粒成長を抑制して組織を微細化する。そして、平均結晶粒径が0.3〜1.0μmの部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子を含有せしめるとともに、主結晶粒子の平均結晶粒径d1 と、部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子の平均結晶粒径d2 の比(d1 /d2 )を2〜8とすることにより、同一組成の主結晶粒子からなる圧電磁器であっても共振周波数の温度係数Fr.TC.を−50〜+50ppm/℃に制御することができる。
【0027】
さらに、本発明の圧電体では、部分安定化または安定化されたジルコニアを分散するので、焼成時において1100℃以上まで加熱する場合でも、マルテンサイト変態による異常体積膨張が起こらず、このため、ジルコニア量を増やしても、マイクロクラックの発生が起こり難く、電気的特性の低下が起こりにくい。
【0028】
【実施例】
チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする材料として、表1に示す平均粒径のPb9.96Sr0.04[(Nb2/3 Co1/3 )0.92Nb0.08]0.06(Ti0.50Zr0.50)0.94O3 (A組成)、Pb0.96Sr0.04[(Nb2/3 Co1/3 )0.92Nb0.08]0.06(Ti0.52Zr0.48)0.94O3 (B組成)、およびPb0.96Sr0.04[(Nb2/3 Co1/3 )0.92Nb0.08]0.06(Ti0.48Zr0.52)0.94O3 (C組成)からなる仮焼粉末を用い、これに、3モル%のY2 O3 で安定化された純度99%以上、平均粒径が表1に示す値のジルコニア粉末(PSZ)を全量中0〜10重量%になるように添加した。この混合物をZrO2 ボールを用いたボールミルで16時間混合した後、バインダーを添加し造粒した。この混合粉体を1t/cm2 の圧力でプレス成形し、大気中1200℃×2時間の条件で焼成した。
【0029】
得られた焼結体を幅2mm、、長さ3.5mm、厚み1.5mmの寸法に加工し、スパン2mmの3点曲げ試験で評価した。
【0030】
また、得られた焼結体を直径20mm、厚さ0.5mmの円板に加工し、円板の上下に銀電極を焼き付けた。銀電極を焼き付けた円板を80℃に設定したシリコンオイル中で3kV/mmの電場を30分間印加して分極処理した後、インピーダンスアナライザーを用い、電気機械結合係数Krおよび共振周波数の温度係数Fr.TC.を測定した。
【0031】
共振周波数の温度係数Fr.TC.は、−30℃〜80℃の温度範囲における共振周波数の最大値frmax と最小値frmin 、25℃における共振周波数fr25の値から、Fr.TC.={(frmax −frmin )/fr25}/110×106 の式を用いて算出した。
【0032】
圧電磁器中のチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする主結晶粒子の平均結晶粒径d1 と、部分安定化ジルコニア(PSZ)および/または安定化ジルコニア(FSZ)の平均結晶粒径d2 とを、焼結体断面のSEM写真を用いてインターセプト法で測定し、d1 /d2 を求めた。以上の結果を表1に示す。尚、表1中試料No.8、11については、8モル%のY2 O3 で安定化されたジルコニア(FSZ)を用いた。試料No.12については安定化されていないジルコニア(純度99%以上、平均粒径0.5μm、mZrO2 )を用いた。
【0033】
【表1】
【0034】
この表1から、部分安定化または安定化したジルコニアを含有させることによって、主結晶粒子の平均結晶粒径を著しく小さくすることができ、特に、平均結晶粒径0.3〜1.0μmの部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子を全量中0.05〜5重量%含有せしめるとともに、主結晶粒子の平均結晶粒径d1 と、部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子の平均結晶粒径d2 の比(d1 /d2 )を2〜8とすることにより、電気機械結合係数Krを50%以上、共振周波数の温度係数Fr.TC.を±50ppm/℃以内に制御できることが判る。
【0035】
一方、ジルコニアの含有量が0.05重量%より少ない場合(試料No.2)は、添加の効果が認められず、共振周波数の温度係数Fr.TC.の改善も見られない。添加量が5重量%を越えると主結晶粒子の平均結晶粒径は小さくなるが、電気機械結合係数Krが著しく低下する(試料No.13、16、26)。
【0036】
また、ジルコニアの平均結晶粒径は、平均粒径が0.3μmより小さい場合(試料No.14)には、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする主結晶粒子内に取り込まれる割合が多くなり、主結晶粒子の粒成長抑制効果が小さくなり、平均粒径が1μmよりも大きくなると(試料No.17)電気的特性が大きく低下する。
【0037】
また、圧電磁器中のチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする主結晶粒子の平均結晶粒径d1 と、部分安定化ジルコニアおよび/または安定化ジルコニアの平均結晶粒径d2 との比率が8よりも大きい場合(試料No.2、3、14)は、部分安定化ジルコニアおよび/または安定化ジルコニアがチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする主結晶粒子内に取り込まれる割合が多くなり、主結晶粒子の粒成長抑制効果が小さくなり、共振周波数の温度係数Fr.TC.が正側に大きくなる。一方比率が2よりも小さくなると(試料No.10、16、17、26、31)、電気的特性が大きく低下する。
【0038】
さらに、安定化されていないジルコニアの場合(試料No.12)には、部分安定化又は安定化したジルコニアを含有させた場合と比較して、電気機械結合係数Krが著しく小さいことが判る。これは、マルテンサイト変態に起因するマイクロクラックが多数発生し、電気的特性を著しく低下させたからである。
【0039】
図1に、圧電磁器中のチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする主結晶粒子の平均結晶粒径d1 と抗折強度の関係を示す。平均結晶粒径d1 が3μmよりも大きくなると急激に抗折強度が低下することが判る。抗折強度の点からは、平均結晶粒径d1 が3μm以下であることが望ましいことが判る。
【0040】
【発明の効果】
以上のように、本発明の圧電体では、平均結晶粒径0.3〜1.0μmの部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子を全量中0.05〜5重量%含有するとともに、主結晶粒子の平均結晶粒径d1 と、部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子の平均結晶粒径d2 の比(d1 /d2 )を2〜8とすることにより、高い電気的特性を維持できるとともに、主結晶粒子の組成を変更することなく、共振周波数の温度係数Fr.TC.を−50〜+50ppm/℃に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】圧電磁器中のチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする主結晶粒子の平均結晶粒径と抗折強度の関係を示すグラフである。
Claims (3)
- チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする主結晶粒子からなる圧電磁器中に、平均結晶粒径0.3〜1.0μmの部分安定化ジルコニア粒子および/または安定化ジルコニア粒子を全量中0.05〜5重量%の割合で分散してなるとともに、前記主結晶粒子の平均結晶粒径d1 と、前記部分安定化ジルコニア粒子および/または前記安定化ジルコニア粒子の平均結晶粒径d2 の比(d1 /d2 )が2〜8であることを特徴とする圧電体。
- 主結晶粒子の平均結晶粒径d1 が3μm以下であることを特徴とする請求項1記載の圧電体。
- 共振周波数の温度係数Fr.TC.が−50〜+50ppm/℃であることを特徴とする請求項1または2記載の圧電体。
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