JP3693781B2 - 直流油浸電力ケーブル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、主に長尺海底電力ケーブル等に好適に用いられ、高粘度の絶縁油を含浸した非加圧タイプの直流油浸電力ケーブルに関する。
【0002】
【従来の技術】
超高圧直流送電ケーブルとして、現在油浸絶縁ケーブルが用いられている。また、直流送電ケーブルは、長尺の海底ケーブルに適用されることが多い。このため超高圧直流送電用の長尺海底ケーブルとしては、条長が極めて長くなることから、低粘度の絶縁油を含浸した油加圧タイプの油浸絶縁ケーブルでは油圧の伝播に限度があるため、ポリブテンなどの高粘度の絶縁油を含浸した無油加圧タイプの油浸絶縁ケーブル、いわゆるMIND(Mass Impregnated Non Draining)ケーブルが用いられることになる。
【0003】
このようなMINDケーブルにあっては、絶縁油が完全に含浸されている状態では良好な直流破壊特性を示す。
しかしながら、例えばヒートサイクルなどが加わったりすると、温度上昇時に絶縁層に含浸されている絶縁油が熱膨張により外部遮蔽層側に押し出され、温度降下時には押し出された絶縁油が非加圧のために完全に元に戻り切らず、冷却収縮に基づく脱油ボイド(気泡)が油浸絶縁体中に生成することになる。
また、このケーブルを高低差の激しい個所に布設した時にも重力による絶縁油の移動により脱油ボイドが形成されることもある。
【0004】
このヒートサイクルなどによる脱油ボイドの生成を抑制するためには、さらに粘度の高い絶縁油を使用し、温度上昇時においても絶縁油が油浸絶縁体中を移動しにくいようにすることが考えられる。
しかしながら、このような高粘度の絶縁油を使用すると、ケーブル製造時の含浸工程において含浸時間が長くなり、生産性の点で難がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
よって、本発明における課題は、直流油浸電力ケーブルにおいて、温度変動などによる脱油ボイドの生成を防止し、しかもケーブル製造時において絶縁油の含浸が速やかに行えるようにすることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
かかる課題は、油浸絶縁体に含浸される高粘度絶縁油として、40℃での動粘度が5000〜40000センチストークス(以下、cstと表す。)で、100℃での動粘度が100〜1000cstであるものを用いることで解決され、この高粘度絶縁油はベースオイルに平均分子量50〜300万のポリイソブチレンゴムを0.5〜5重量%添加し、溶解したものが用いられる。
【0007】
【作用】
このようなポリイソブチレンゴムを溶解した高粘度絶縁油はチクソトロピック性(揺変性)を示し、剪断力を与えると低粘度となり、静置すると高粘度となる。このため、ケーブル製造時の含浸工程では絶縁油を攪拌しながら、含浸することで含浸を低粘度状態で行え、速やかに含浸が進行し、一方含浸後は静置状態となるので高粘度状態となり、ヒートサイクルが加えられたり、高低差の大きな布設がなされたりしても、これによる脱油ボイドの生成が防止できる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明において用いられる高粘度絶縁油を構成するベースオイルとしては、ナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、パラフィン系合成油、ナフテン系合成油などの絶縁油であって、その40℃での動粘度が100〜1000cstであり、100℃での動粘度が5〜100cst程度であるものが用いられる。このベースオイルは、常温では比較的高粘度であり、100℃付近の温度では比較的低粘度となる温度特性の大きなものである。また、なかでもナフテン系油が放電時のガス吸収性に富んでいて好ましい。
【0009】
このベースオイルの40℃での動粘度が100cst未満では、含浸は容易となるが、油の移動による脱油も生じやすく、1000cstを越えると脱油しにくくなるが含浸が困難となって不都合となる。また、100℃での動粘度が5cst未満では含浸しやすい油であるものの油の移動による脱油も行りやすくなりとなり、100cstを越えると含浸がしにくくとなって不都合となる。
ベースオイルは、1種のみならず、2種以上の混合油であってもよく、要は上述の粘度条件を満足するものであればどのようなものでもよい。
【0010】
このベースオイルには、チクソトロピック性を付与するためにポリイソブチレンゴムが添加、溶解されて、揺変性の高粘度絶縁油とされる。これは、絶縁油中でゴムの分子が互いにからみあってチクソトロピック性が表われるものである。ここで使用されるポリイソブチレンゴムとしては、平均分子量が50万〜300万の範囲のものが用いられる。ポリイソブチレンゴムの平均分子量が50万未満では、ゴム分子のからみあいが弱くなり、300万を越えるとベースオイルに対する溶解性が低下して不都合となる。
ポリイソブチレンゴムのベースオイルへの添加量は、重量比で0.5〜5%とされ、0.5%未満ではチクソトロピック性が発現せず、5%を越えると溶解性が不足し、未溶解のゴムが残ることがある。
【0011】
ポリイソブチレンゴムのベースオイルへの混合は、微粉化したゴムを加熱状態のベースオイルに投入し、機械的に攪拌する方法などによって行われる。イソブチレンゴムは1種のみならず、平均分子量の異なるものを2種以上適宜混合してベースオイルに添加することができる。
【0012】
このようにして得られた揺変性の高粘度絶縁油は、40℃での動粘度が5000〜40000cst、100℃での動粘度が100〜1000cstであり、かつ剪断力を与えると、例えば攪拌するとその粘度が低下し、静置すればその粘度はほぼ元の値に復するものとなる。この揺変性は、温度が常温であっても、また100℃を越える温度であっても程度の差はあるものの発現する。このため、常温で静置状態にあるときは、ゲル状態に近い高粘度となり、100℃を越える温度で攪拌したときは、極めて低粘度のサラサラしたものとなる。
上記高粘度絶縁油の40℃および100℃での動粘度が上記範囲外であると、含浸に長時間を要し、かつ脱油ボイドが生じやすくなるなどの不都合を招く。
【0013】
本発明の直流油浸電力ケーブルは、導体上に絶縁紙を巻回し、これに上述の揺変性の高粘度絶縁油を含浸してなる油浸絶縁体を有するものである。
ここでの絶縁紙としては、特に限定されないが、通常のクラフト紙の他に直流特性の優れたプラスチックフィルムラミネート紙を用いることが好ましい。
プラスチックフィルムラミネート紙は、プラスチックフィルムの両面にクラフト紙を貼り合わせたものである。
【0014】
このプラスチックフィルムとしては、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリブデン−1、ポリエチレンなどの無極性ポリオレフィンやテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロポリプロピレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などのフッ素樹脂からなる厚さ20〜150μmのものが用いられる。これらのなかでもポリプロピレンホモポリマーからなるものが好ましい。
【0015】
また、プラスチックフィルムと貼り合せられるクラフト紙として、気密度が5000ガーレ秒以上でかつ密度が0.70g/cm3以上の高気密度でかつ高密 度の層と、気密度が1000ガーレ秒以下でかつ密度が0.70g/cm3以下 の 低気密度でかつ低密度の層とからなる多層構造のクラフト紙を用い、その低 気密度で低密度の層をプラスチックフィルムと接するように貼り合わせたものが、プラスチックフィルムとクラフト紙との接着強度を高めることができて好ましい。
【0016】
また、プラスチックラミネート紙として、巻回後の真空乾燥および絶縁油含浸を容易とし、その作業時間を短縮するために、ラミネート紙の表面に微細な凹凸を形成するエンボス処理を施したものやプラスチックラミネート紙の表面の幅方向に微少な溝を多数形成したものなどを用いてもよい。
【0017】
巻回状態の絶縁紙への揺変性の高粘度絶縁油の含浸は、導体上に巻回された絶縁紙を予め真空乾燥して、水分等を除去し、これに100℃程度に加熱した上述の高粘度絶縁油を含浸させる方法などによって行われるが、絶縁紙に絶縁油を浸透させる直前まで絶縁油を攪拌するなどして低粘度状態としておくことが、含浸性が向上して望ましい。
【0018】
このような直流油浸電力ケーブルにあっては、その油浸絶縁体に含浸される絶縁油として、ポリイソブチレンゴムを溶解した高粘度でチクソトロピック性を示すものを用いているので、ケーブルの常用使用温度領域である20〜60℃の範囲内でのヒートサイクルが加わったとしても、絶縁油が極めて高い粘度となっているため、油浸絶縁体内をほとんど移動することがなく、ヒートサイクルによる脱油ボイドの生成は防止される。
【0019】
また、このケーブルを海底ケーブルなどの高低差の激しい箇所に布設しても、同様の理由により、絶縁油が重力によって移動することがなく、ケーブルの高い位置にある部分に脱油ボイドが生じることもない。
したがって、このケーブルでは、脱油ボイドに起因する絶縁破壊特性の低下はなく、直流275kV以上の超高圧送電用のMINDケーブルとして有用なものとなる。
【0020】
さらに、上述の高粘度絶縁油は、100℃前後では低粘度となり、攪拌することによりそのチクソトロピック性によってさらに低粘度のものとなる。このため、絶縁紙への含浸も比較的容易にかつ短時間で行うことができ、ケーブルの生産性が低下することもない。
【0021】
以下、具体例を示す。
(実施例)
表1に示すように、種々の動粘度のベースオイルに対し、種々の平均分子量のポリイソブチレンゴムを添加、溶解して種々の動粘度の高粘度絶縁油AないしDを作成した。また、ゴムを添加しないベースオイルのみのものEも作成した。
【0022】
【表1】
【0023】
径20mmの導体上に厚さ125μmのクラフト紙を巻回し、これに上記のAないしEの絶縁油を約100℃に加熱して含浸し、厚さ5mmの油浸絶縁体を設けた5種のモデルケーブルを作成した。
これらモデルケーブルに温度20℃−60℃のヒートサイクルを加えたのち、その直流絶縁破壊電圧を測定した。また、絶縁油の脱油性を評価した。
結果を表2に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
表2の結果から、本発明の電力ケーブルでは、ヒートサイクルによる脱油ボイドの生成が防止されて、絶縁破壊特性の低下がなく、しかもその製造時における絶縁油の含浸も容易であることがわかる。
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の直流油浸電力ケーブルによれば、ケーブルにヒートサイクルが加わったり、高低差の激しい箇所に布設されたりしても、油浸絶縁体中に絶縁油の移動による脱油ボイドが生成することがなく、絶縁破壊特性が低下することがない。このため、この直流油浸電力ケーブルは、MINDケーブルとして直流海底ケーブルなどに好適である。
また、ケーブルの製造時において、絶縁紙への絶縁油の含浸が速やかに行われ、生産性が低下することもない。
Claims (2)
- 40℃での動粘度が5000〜40000センチストークスで、100℃での動粘度が100〜1000センチストークスである高粘度絶縁油が、ベースオイルに平均分子量50万〜300万のポリイソブチレンゴムを0.5〜5重量%添加、溶解してなるものであり、これを導体上に巻回された絶縁紙に含浸してなる油浸絶縁体を有することを特徴とする直流油浸電力ケーブル。
- 上記高粘度絶縁油がチクソトロピック性を示すことを特徴とする請求項1記載の直流油浸電力ケーブル。
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1997
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