JP3693124B2 - 水溶液中の金属イオンの処理方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、金属イオンを含有する水溶液、例えば銅や水銀化合物を使用して、これらの金属を含む化合物を製造する工程から排出する金属イオン含有排水、電子部品を製造する際に排出する金属イオン含有排水、工業用触媒を使用し又は廃触媒の処理等から排出される金属イオン含有排水、各種メッキ工場から排出する金属イオン含有排水及び写真工業から排出される銀等の金属錯塩を含有する定着液排水等の水溶液中の金属イオンの処理方法に関する。特には、水溶液に含まれる金、銀、白金、パラジウム、ロジウム又はルテニウム等のいわゆる貴金属イオンを回収するのに有効な処理方法に関する。
【0002】
さらに本発明は、固体の多孔質担体に担持させたアントラキノン又はその誘導体からなるレドックス反応試薬のヒドロキノン型の金属イオン処理剤を用いて、選択的に還元反応を行わせ、排水中に含まれる金属イオンを、流通する水溶液で選択的に0価の金属に変え、金属として回収処理することにより、水中棲物に悪影響を与えるおそれがある排水を無害化し、さらには、酸化されて還元すべき能力を失った該金属イオン処理剤を還元処理し、再利用する技術に関するものである。
【0003】
【従来の技術】
日本は、近年殆どの金属を輸入に頼っており、特に電子部品、自動車や工業排ガスの酸化処理に使用する工業用酸化触媒及び還元触媒等の工業用触媒及び各種のメッキ用金属並びに写真工業で使用される感光剤には、大量の貴金属が使用され、それに応じてこれらを製造したり、回収する際にも重金属若しくは貴金属イオンを含む排水が排出され、又写真工業においてその定着工程からも多量の貴重な金属資源を含む排水が排出され、資源の乏しいわが国ではこれらの金属資源を回収、再利用することが重要視されている。
【0004】
これらの金属の殆どが金属イオン又は金属錯イオン(以下、この両者を合わせて単に金属イオンという。)として水溶液等の水性媒体に含まれている。
この金属イオンを回収する方法としては、例えば、(1)水溶液中から不溶性塩又は還元等によって沈殿物を生成させて、夾雑物と貴金属等の金属とを分離し、精製し回収する方法、(2)イオン交換樹脂又はキレート樹脂に吸着させて回収する方法、(3)酸化還元樹脂によって吸着回収する方法及び(4)金属イオンを電解還元して金属として取得する方法等がある(例えば、Austin C. Cooley,J.Imaging Science Technology第37卷,4号,374〜379頁(1993年))。
【0005】
(1)の方法は廃液中に、金属が同伴される可能性が高く、金属の回収率があまり良くない。(2)の方法はいずれも数種類の金属イオンが共存する場合には選択率があまり高くなく、キレート樹脂は金属イオンが錯体となっている場合には除去しにくいという欠点がある。(3)の方法は酸化還元樹脂を製造するための原料となるモノマー、例えばモノビニルアントラキノン等、を製造する場合においても、アントラキノン等のキノン類を直接アルキル化やアルケニル化する実用的な方法がなく、多くの工程を必要とし非常に高価になる。且つそのモノマーを使用して、例えばジビニルベンゼンと重合させた場合にはビーズ状になりにくい等の欠点があり、実用的なものが製造されていない。(4)の方法、即ち電解法は、高濃度の金属イオンの回収には有力であるが、低濃度の金属イオンの場合には、電流効率が悪くなる上、排水規制等における数ppm以下の金属イオン濃度まで処理することは実質的にできない。
【0006】
水溶液中において、多価の金属イオンをヒドロキノン−キノン型のレドックス反応試薬を用いて還元する方法については、アントラキノンを除くアントラキノン誘導体のヒドロキノン型の有機溶剤溶液を用いて、水溶液中の多価の金属イオンを銅、銀及び水銀等の金属に還元して分離し、回収する方法が知られている(米国特許3,820,979号)。ここで使用するレドックス反応試薬は一度完全に酸化された後、改めて水素化還元することにより、レドックス反応試薬の有機溶剤溶液として循環再使用されている。推定されるヒドロキノン−キノン型の代表的なレドックス反応試薬の挙動は[化1]に示す通りである。
【0007】
【化01】
【0008】
これらのレドックス反応試薬は、従来いずれも溶液中に溶解した状態で使用に供されており、溶液と共に失われる欠点があった。
アントラキノン及びその誘導体のレドックス反応試薬としては、例えば、アントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−プロピルアントラキノン、2−イソプロピルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、テトラヒドロアントラキノン、2置換−テトラヒドロアントラキノン等が知られており、何れもブタジエン又は置換基を有するジエン化合物とナフトキノンとの縮合反応(Diels Alder反応)、又は無水フタル酸と対応するアルキルベンゼンとの縮合反応により合成することができる。
【0009】
前出の米国特許第3,820,979号では、これらのアントラキノンを除くアントラキノン誘導体と、これに組合わせて使用する有機溶剤溶液の例が挙げられている。溶解させるために使用する溶剤としては、高沸点の非極性又は極性の溶媒を混合したものを必要とする欠点があった。例えば、非極性有機溶剤としては、アルキルトルエン、アルキルナフタレン、又は、ジフェニルを、極性有機溶剤としてはオクタノール、エチルヘキサノール、又は、ジイソブチルケトンを、その他にジアルキルフタレート、ジアリルフタレート、アルキルベンゾエート、ベンジルアセテート等のエステル類を使用することが挙げられている。
【0010】
前出の米国特許第3,820,979号の例では、このレドックス反応試薬を有機溶剤溶液として利用するには、可燃性、又は、蒸発損失等の使用上の危険又は不利益を克服する必要があり、工程上、共存する水溶液相、有機溶剤相及び金属に還元し回収する固相の3相分離に困難性があり、また固相の残渣に伴って失われるレドックス反応試薬の量がプロセスの経済性に重大な影響を及ぼす等の問題点があった。
【0011】
【発明が解決しようする課題】
しかして、本発明が解決しようとする課題は、水溶液中の金属イオン類、特に金、銀及び白金族元素からなる貴金属イオンを選択的に、効率よく回収することができ、さらに、水溶液、例えば排水中の金属イオンを無害な濃度以下にまで処理することができ、かつ原料の入手が容易で、簡便に製造することができ、その結果として経済的に比較的安価に製造することが可能な水溶液中の金属イオンの処理剤を効果的に使用するための方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、該レドックス反応試薬、例えば、ヒドロキノン骨格を有する化合物を固体の多孔質担体に吸着固定した担持物で金属イオン、特に貴金属イオンを含有する水溶液を処理したところ、貴金属イオンが選択的に還元され、この担持物に0価の金属として捕捉されること、かつその選択率も従来の樹脂よりも良好であることを見出し、平成5年11月17日に出願した(特願平5−323045)。本発明者等はこの特許出願をさらに追求した結果、驚くべきことには一旦、金属イオンを還元し0価の金属として捕捉した後、破過した金属イオン処理剤を、還元処理した後、この処理剤を再び金属イオン処理剤として使用したところ、再び金属イオンを捕捉する能力があることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、本発明は、水溶液中に含まれる金属イオン(金属錯イオンを含む。以下同じ。)をレドックス反応によって0価の金属に変え、かつ可逆的に酸化還元を行う能力を有する有機試薬(レドックス反応試薬)を、固体の多孔質担体に担持してなる水溶液中の金属イオン処理剤に該金属イオンを含む水溶液を接触処理させ、該金属イオンを0価の金属として該金属イオン処理剤上に還元捕捉し、酸化されて実質的に該金属イオンを捕捉できなくなった該金属イオン処理剤を還元処理した後、該金属イオン処理剤に繰り返し金属イオンを含む水溶液を接触処理させることを特徴とする水溶液中の金属イオンを処理する方法に存する。
【0014】
本発明におけるレドックス反応試薬としては、金属イオンを0価の金属に還元する能力がある化合物であり、多孔質担体に安定に吸着等によって固定される化合物であれば使用することができる。例えば、ヒドロキノン骨格を有する化合物であり、この化合物としては広義には公知のキノン化合物の還元された化合物をも含む。その他インジゴ等を還元した化合物も挙げられる。
【0015】
ヒドロキノン骨格を有する化合物としては、例えばヒドロキノン(1,4−ジヒドロキシベンゼン)、ナフトヒドロキノン(1,4−ジヒドロキシナフタレン)及びアントラヒドロキノン(9,10−ジヒドロキシアントラセン)並びにその水素化化合物及びこれらの置換体から選ばれる炭素単環又は多環のヒドロキノン化合物(以下、断らない限り、炭素単環又は多環のヒドロキノン化合物を単にヒドロキノン化合物と総称する。)が挙げられる。
【0016】
上記のヒドロキノン化合物の置換体における置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、フェニル基、アルキルアミノ基、ハロゲン基等の比較的疎水性の置換基が挙げられる。アルキル基、アルケニル基及びアルコキシル基における炭素数は1〜60、実用的には24以下であり、アルキル基は直鎖又は分岐したもののいずれでもよい。
【0017】
又、本発明の目的に障害にならない限り、これらヒドロキノン化合物の置換基としてスルホン酸基、スルホン酸アミド基、カルボキシル基を含有する置換基を採用することができるが、本発明の金属イオン処理剤は水溶液中で使用されるので、一般に水溶液に溶出しないような疎水性の置換基を有する還元性化合物が好ましい。
【0018】
これらの置換基を有する化合物としては、例えば2−メチルヒドロキノン、2−エチルヒドロキノン、2,3,5−トリメチルヒドロキノン、2−メチルナフトヒドロキノン、2−エチルナフトヒドロキノン、2−プロピルナフトヒドロキノン、2−メチルアントラヒドロキノン、2−エチルアントラヒドロキノン、2−アミルアントラヒドロキノン、2−t−ブチルアントラヒドロキノン、2−(4−メチルぺンチル)アントラヒドロキノン等のアルキル化ヒドロキノン化合物;2−(4−メチル−ペンテニル)アントラヒドロキノン等のアルケニル化ヒドロキノン化合物;1−メトキシアントラヒドロキノン、1,5−ジメトキシアントラヒドロキノン等のアルコキシル化ヒドロキノン化合物;2−フェニルヒドロキノン等のフェニル置換ヒドロキノン化合物;2−N,N−ジメチルアミノアントラヒドロキノン等のアルキルアミノ化ヒドロキノン化合物;2−クロロヒドロキノン、2,3−ジクロロナフトヒドロキノン、1−クロロアントラヒドロキノン、2−クロロアントラヒドロキノン等のハロゲン化ヒドロキノン化合物が挙げられる。
【0019】
ヒドロキノン化合物の水素化化合物としては、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラヒドロキノン、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラヒドロキノン等が挙げられる。
【0020】
又、カテコール(1,2−ジヒドロキシベンゼン、オルトベンゾキノンの還元体)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(ジフェノキノンの還元体)及び1,4−ジヒドロキシアントラセン、9,10−ジヒドロキシフェナンスレン、アントアントロンの還元体等の多環式芳香族キノンに対応する還元性化合物も挙げることができる。これらの化合物は単独でも、又複数の化合物を併用することもできる。
【0021】
本発明において固体の多孔質担体としては、二酸化珪素、活性炭、活性炭繊維等の炭素製品、アルミナ、有機質系の合成ポリマー粒子、例えば、いわゆる有機合成吸着剤であるスチレン−ジビニルベンゼン共重合体又はその成形品等の上記ヒドロキノン骨格を有する化合物を担持することができる多孔質担体が挙げられ、その他、疎水性に調製した二酸化珪素、活性炭等の炭素粒子、例えば、ポリテトラフルオロエチレンの水性エマルジョン加工品(特開昭53−92981)、有機質系の合成ポリマー粒子、例えば、いわゆる有機合成吸着剤であるスチレン−ジビニルベンゼン共重合体又はその成形品等の上記のヒドロキノン骨格を有する化合物を担持することができる多孔質担体が挙げられる。この多孔質担体に好適に使用されるには、細孔径が5オングストローム以上、好ましくは10オングストローム以上、1グラム当たりの比表面積は二酸化珪素及び合成ポリマーの粒子等では50〜1000平方メートル、炭素製品では1グラム当たりの比表面積1000平方メートルが標準となる。活性炭は粉体又はペレット状、球状若しくは破砕炭状等のいずれの形態をも採用することができる。
【0022】
固体の多孔質担体のペレット状、球状又は破砕炭等の粒径は、小さければ小さい程接触効率は良いが、カラム等に充填して連続的に金属イオンを含む水溶液を処理する場合には通液抵抗が大きくなるので、一般に合成ポリマー吸着剤の場合は0.4〜0.8ミリメートル、活性炭の場合は0.3〜2.5ミリメートルが適当である。
【0023】
本発明において、レドックス反応試薬を固体の多孔質担体に担持して、水溶液中の金属イオン処理剤を調製する方法としては、通常は、ヒドロキノン化合物等の還元性化合物が、担持される操作過程において比較的安定な化合物(例えば、ヒドロキノン化合物等)の場合には、そのレドックス反応試薬をそのまま使用することができる。しかしながら、レドックス反応試薬を担持する操作過程において、酸化されやすい等の不安定な化合物、例えば、ナフトヒドロキノン化合物又はアントラヒドロキノン化合物の場合には、上記のレドックス反応試薬に対応する酸化物(キノン化合物)、例えばナフトキノン化合物又はアントラキノン化合物を使用して担持する方法を採用することができる。
【0024】
この場合の酸化物としては、例えばヒドロキノン、ナフトヒドロキノン及びアントラヒドロキノンに対応する化合物として、それぞれベンゾキノン、ナフトキノン(1,4−ナフトキノン)及びアントラキノン(9,10−アントラキノン)並びにその水素化化合物及び前記の置換基を有するキノン化合物が挙げられる。
【0025】
本発明において、金属イオン処理剤の調製方法としては、一般には次のように行う。例えば、回分式方法としては、還元性化合物又はその酸化物を可溶な有機溶媒に溶解した溶液中に、使用する化合物の種類及び溶媒によっても異なるが、一般的には常温以上で、固体の多孔質担体を加えて、撹拌しながら、この多孔質担体にレドックス反応試薬の還元性化合物又はその酸化物を含浸、吸着させて、有機溶媒を留去、乾燥することにより、還元性化合物又はその酸化物の担持物を容易に製造することができる。さらに、必要ならばこの乾燥した担持物に、溶媒を加えて含浸させた後、脱塩した水を加えて撹拌しながら、この担体に吸着されなかった浮上する還元性化合物又はその酸化物を除去、洗浄し、還元性化合物の担持物をそのまま湿潤状態で保持することにより水溶液中の金属イオン処理剤を調製することができる。又、溶媒で湿潤した固体の多孔質担体を予めカラムに充填し、還元性化合物又はその酸化物を溶解した溶液を通液し、担持し、洗浄する方法でも実施できる。一方、還元性化合物に対応する酸化物を使用した場合の担持物は、還元処理することにより、同様の金属イオン処理剤として調製することができる。
【0026】
還元性化合物に対応する酸化物を原料として使用した担持物の還元処理法としては、通常のキノン化合物をヒドロキノン化合物に還元する方法を採用することができる。例えば、亜二チオン酸ナトリウム(ハイドロサルファイトナトリウム)、亜二チオン酸カリウム(ハイドロサルファイトカリウム)、等のハイドロサルファイトの水溶液が好適に使用され、その他キノン化合物の種類に応じて、亜硫酸塩又は亜鉛−酸(又はアルカリ)系の還元剤を使用することができる。ハイドロサルファイトナトリウムによってキノン化合物を還元する場合には、例えば、化学量論量以上のハイドロサルファイトナトリウム水溶液を、pH10以下の条件下にキノン化合物を担持した担持物を回分式に、又は担持物を充填した塔(カラム)等に通液し、接触させることにより実施することができる。
【0027】
なお、キノン化合物からハイドロサルファイトナトリウムを使用して、ヒドロキノン化合物へ還元する反応の反応式は、次の[化02]式に示した通りである。
【0028】
【化02】
【0029】
上記有機溶媒としては、還元性化合物又はその酸化物の必要量を溶解することができるものであれば採用することができるが、還元性化合物又はその酸化物に対する溶解度及び使用する担体に担持しやすい溶媒を選択するのが好ましい。この有機溶媒としては、一般的にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコールが挙げられる。
還元性化合物又はその酸化物の溶液の濃度は、一般にその溶解度以下、飽和濃度近い濃度が好ましい。
【0030】
還元性化合物又はその酸化物の担持量は、特に限定されず、使用する固体の多孔質担体の種類によっても異なり、さらに使用目的等により適宜選択されるが、一般的に0.01〜2モル/リットル−担体、好ましくは0.3〜1.0モル/リットル−担体である。
担持量が少ないと、回収金属に対してコスト高になり、多すぎても金属イオンに作用しない量が増加するので原料が無駄になる。
【0031】
本発明の金属イオン処理剤を製造する方法としては、前述の有機溶媒を使用して担体に担持させる方法とは別に、レドックス反応試薬の還元性化合物であるヒドロキノン骨格を有する化合物のアルカリ金属塩水溶液に、固体の多孔質担体を加え、ヒドロキノン骨格を有する化合物を該多孔質担体に吸着させた後、該多孔質担体を分離し、次いで洗浄処理することからなる方法が挙げられる。
【0032】
本発明において、ヒドロキノン骨格を有する化合物としては、安定にアルカリ金属塩の水溶液を呈する化合物なら、前記の化合物のいずれも使用することできる。しかしながら、アルカリ液中でも縮重合等の変質をしにくいアントラセン構造を有する化合物が有利に用いられる。例えば、アントラヒドロキノン若しくは前記のアルキル置換アントラヒドロキノン又は1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン(1,4−ジヒドロアントラヒドロキノン)若しくはそのアルキル置換化合物のジアルカリ金属塩が挙げられる。
【0033】
本発明におけるヒドロキノン骨格を有する化合物の水溶性塩としては、例えば、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩から選ばれる。アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等が挙げられる。アンモニウム塩としては、通常のアンモニウム(NH4 +)塩、又はテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩若しくはテトラブチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。しかしながら、通常は安価なナトリウム塩が用いられる。
【0034】
特に、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物のジナトリウム塩水溶液は、ナフトキノンと対応する1,3−ブタジエン化合物とのディールス・アルダー反応によって得られる1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン化合物に当量(キノン化合物に対して2倍モル)以上、好ましくは2〜2.4倍モルの水酸化アルカリ金属の水溶液を作用させることによって容易に、その水溶液が得られるので工業的に有利に得ることができる。本発明の方法に使用するヒドロキノン骨格を有する化合物のアルカリ金属塩水溶液の濃度(濃度はアントラキノン等のキノン化合物換算の重量%で表す。)は、1〜23%(本明細書において、「%」は断らない限り「重量%」を示す。)、好ましくは2〜22%であり、吸着処理の温度は、通常は常温でよく、吸着時間は30分〜5時間、好ましくは1〜4時間である。
【0035】
これらのヒドロキノン骨格を有する化合物の使用量は、固体の多孔質担体の種類によっても異なるが、その化合物の溶解度以下であれば、特に制限を受けることはなく、吸着処理した後に得られる母液を再度濃度調整することによって、吸着処理に使用することができる。
【0036】
吸着処理は、通常バッチ(回分式)では多孔質担体とヒドロキノン骨格を有する化合物のアルカリ金属塩水溶液を入れた容器を緩やかに回転又は静置して吸着させる方法、又は充填塔等に多孔質担体を予め充填し、ヒドロキノン骨格を有する化合物のジアルカリ金属塩水溶液を循環して、浸漬させながら、吸着させるような連続的な接触方法も採用することができる。
【0037】
この方法に用いられる固体の多孔質担体としては、前記の担体が挙げられるが、特に、活性炭等の炭素質担体が安価で取り扱いやすく、かつ担持率も高く好ましい。
【0038】
レドックス反応試薬としてのヒドロキノン骨格を有する化合物は、一般に極めて弱い一種の酸であるので、該化合物のアルカリ金属塩を担持した担持物を水等の水性媒体で洗浄処理する程度でもその塩は加水分解してそのアルカリ金属イオンは水素イオンと置換することができる。この水性媒体としては、脱塩水、脱イオン水等の溶存酸素を除去した水性媒体が好ましく、その使用量はアルカリ金属イオンが水素イオンに置換する量でよい。この洗浄処理においては洗浄水量を少なくし、又は水素イオンとの置換を確実にするには酸水溶液による処理が有効である。この酸水溶液による洗浄処理に用いられる酸としては、アルカリ金属塩を遊離させる能力がある酸ならば、有機又は無機の酸でよい。例えば、無機の酸としては硫酸、塩酸等が、有機の酸としては酢酸等のカルボン酸、ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸が挙げられる。
この酸の使用量は、得られる担持物中のアルカリ金属イオンが十分に水素イオンと置換される量であればよく、一般に、吸着した化合物の当量以上、20当量以下であり、その濃度は0.1〜20%の水溶液が用いられる。
【0039】
この洗浄処理においては、予め上記の洗浄処理を行わず、本発明における担持物を使用する用途、例えば、金属イオン処理においては、処理する対象の中性から酸性の金属イオン水溶液によって、洗浄処理と金属イオンの処理を兼ねることも可能であるが、ヒドロキノン骨格を有する化合物、特にアントラヒドロキノンのアルカリ金属塩は極めて酸化されやすく、空気等の酸化剤と接触すると発熱や発火する恐れがあるので、予めこの洗浄処理を行うことが、保存及び輸送における安全上好ましい。
【0040】
この方法を実施するには、一般的に次のように行う。例えば、容器に、所定量の粒状の活性炭を入れ、減圧下で脱気し、さらに窒素置換を十分行った後、窒素雰囲気下で所定濃度のヒドロキノン骨格を有する化合物のアルカリ金属塩、例えば所定濃度の1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩水溶液の所定量に多孔質担体を加え、減圧下で接触させ、所定時間吸着させる。この混合物を窒素雰囲気下で遠心分離機等の分離装置で、該担体を分離し、脱酸素した脱イオン水等の水性媒体で洗浄処理し、又は希酸、例えば5〜10%の硫酸で洗浄し、得られたヒドロキノン骨格を有する化合物を担持した担体(担持物)を十分に脱酸素処理した脱塩水中で保存する。得られる担持物の担持量は、ヒドロキノン骨格を有する化合物の種類、その塩の水溶液の濃度及び固体の多孔質担体の種類によっても異なるが、例えば1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩と粒状活性炭を使用した場合、約0.3〜1.0モル/リットル−担体である。
【0041】
このようにして得られた1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン/活性炭からなる担持物は、例えば金属イオン処理剤として有用であり、例えばチオ硫酸銀錯イオンに使用すると第1回目において、他のヒドロキノン骨格を有する化合物に比べて、2〜5倍の同じモル数当たりの金属イオンの捕捉効率を示す。
【0042】
本発明の金属イオン処理剤は、水溶液中に含まれる金属イオン、例えば貴金属イオンをレドックス反応によって0価の金属に変え、該金属イオン処理剤に捕捉し、回収することができる。
該金属イオン処理の対象とされる金属イオンとしては、本発明の金属イオン処理剤に担持されているレドックス反応試薬としての還元性化合物の平衡酸化還元電位よりも高い金属イオン−金属の平衡酸化還元電位を有する金属イオンに限られる。本発明においては、この金属イオンとしては錯体を形成している金属イオンであってもよい。即ち、これは担持されている還元性化合物により金属イオンが0価の金属に還元されるような金属イオンに相当する。例えば、還元性化合物としてヒドロキノン化合物を使用するならば、この金属イオンに対応する金属としては、貴金属、即ち、金、銀及び白金族元素であり、白金族元素としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金が挙げられ、特には、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムが挙げられる。
【0043】
金属の錯イオンとしては、例えば、チオ硫酸銀錯イオン(チオスルファト銀錯イオンともいう。次の[化03]に示した化学式の化合物)、テトラクロロ金酸イオン及びヘキサクロロ白金酸イオン等が挙げられる。
【0044】
【化03】
【0045】
本発明における金属イオン含有水溶液の接触処理法としては、前記のように調製した金属イオン処理剤を金属イオンを含有する水溶液中の金属イオンに対して、その還元する当量以上を添加して撹拌処理させた後、傾瀉又は濾過等で金属イオン処理剤を濾別するような回分式の処理法を採用することができるが、一般的には前記の金属イオン処理剤をカラム(塔)に充填して、これに金属イオン含有水溶液を通液する方法が採用される。
【0046】
カラムへの通液方法は、特に限定されることはなく通常の方法で行うことができ、上向きの通液方式又は下向きの通液方式等の方法を適宜採用することができる。被処理液のpHは共存する陰イオンによっても影響されるが、金属イオンが水溶液中に安定に存在するならば特に限定されない。しかしながら、例えば、アントラヒドロキノンの場合を例にとると通常0〜12、好ましくは0〜9の広い範囲が採用される。pHが12以上では、ヒドロキノン骨格を有する化合物が溶出する可能性があるので、好ましくない。水溶液中の陰イオンは目的の金属イオンが沈殿しない限り、無機酸や有機酸等の陰イオンが存在していてもよい。水溶液中の金属イオンの濃度は溶解している限り特に限定されないが、一般的には0.01〜10000ppm、好ましくは0.1〜1000ppmであり、処理温度は一般的に10〜70°C、通常は常温で行われる。
【0047】
さらに本発明においては、2種類以上の平衡酸化還元電位の異なる還元性化合物を固体の多孔質担体に担持してなる金属イオン処理剤を使用して、回収すべき少なくとも貴金属イオンを含有する水溶液を処理し、他の金属イオンから選択的に分離する方法を採用することができる。
【0048】
本発明の金属イオン処理剤は、金属イオン、例えば貴金属イオンを含有する水溶液を処理する場合において、還元する能力が失われた、即ち破過した金属イオン処理剤としての担持物を、前記したようなキノン化合物をヒドロキノン化合物に還元する方法、例えばハイドロサルファイトナトリウム水溶液等による還元、その他発生期の水素(例えば、亜鉛と塩酸又はアルカリ水溶液)等の本発明におけるキノン骨格を有する化合物をヒドロキノン骨格を有する化合物に還元できる種々の還元方法によって再度還元処理させた後、再び貴金属イオンを含有する水溶液を処理したところ、担持したレドックス反応試薬の種類によって多少の差はあるものの、かなりの回数にわたって繰り返し、貴金属イオンを還元し吸着捕捉することができる。
【0049】
破過した酸化型(キノン型)を呈したレドックス反応試薬を担持した金属イオン処理剤の還元方法は、前記した金属イオン処理剤のキノン化合物からヒドロキノン化合物への還元方法と同様に実施することができる。
この場合、この破過した金属イオン処理剤を、通常脱塩水等で洗浄した後、前記したような還元処理を行うことによって、この金属イオン処理剤によって繰り返し金属イオン含有水溶液を処理することができる。この洗浄処理は、残留する金属イオンを含む水溶液を置換できる量でよく、一般に金属イオン処理剤の2容量倍以上で十分である。
【0050】
アントラヒドロキノン化合物を活性炭に担持した金属イオン処理剤を使用して、チオ硫酸銀錯イオンを含む水溶液から銀金属として該担持物に捕捉し回収する場合には、該水溶液のpHを7以上、好ましくは8〜12、さらに好ましくは8〜11に調整することによって、単位担持物当たりの銀の捕捉量が高くなる。このpHの影響は、濃度が高い方が顕著であり、銀として10ppm以上、好ましくは20ppm以上である。一般には、約pH8以上では銀の捕捉量が最大になる。アルカリの添加量は経済的には、あまり多くない方が好ましく、pH11以下が好ましい。pHが12より高くなると担持したヒドロキノン骨格を有する化合物が溶出するので好ましくない。
【0051】
繰り返し使用されて最終的に再生する能力を失い、金属を捕捉した担持物(金属イオン処理剤)は有機合成ポリマー吸着剤又は活性炭等の燃焼できるような担体を使用し、貴金属等の高価な金属の場合にはこれらの金属を捕捉した担持物を、例えば焼却することによって貴金属として容易に回収することができる。この焼却法は、特に限定されるものではなく、ロータリーキルンのような回転焼却炉、るつぼ型の焼却炉等の焼却残渣から貴金属が回収されやすいものであればどのような形式のものでも採用することができる。
【0052】
又、捕捉された金属が硝酸、王水等の酸化剤によって金属イオンとして溶解され、回収されるならば、この回収法も採用することができる。
【0053】
本発明において、適用される金属イオンを含有する水溶液としては各種の工業から排出される金属イオン水溶液、特に貴金属を取り扱う工業からの貴金属含有排水に好適に適用することができる。例えば、電子部品処理工場から排出される金、銀のイオン又はこれらの錯イオン等を含有する排水、触媒製造工場から排出されるパラジウム、ルテニウム、ロジウム及び白金等のイオン又はこれらの錯イオンを含有する排水、メッキ工場から排出される金、銀、パラジウム等の金属イオン又はこれらの錯イオンを含有する排水及び写真工業の定着液から排出されるチオ硫酸銀錯イオンを含有する排水等が挙げられる。
【0054】
【作用】
本発明における固体の多孔質担体にレドックス反応試薬を担持した金属イオン処理剤における固定化作用は基本的に吸着されているものと考えられる。この処理剤を使用して前記のように金属イオン、特に貴金属イオン含有水溶液を処理すると貴金属イオンは錯体を形成している場合にも、該処理剤上で貴金属イオンは0価の金属に還元されて、選択的に捕捉され、処理水中には殆ど検出されなくなる。尚、該処理剤の担体が合成吸着剤の場合は、貴金属、例えば銀を捕捉した処理剤では金属特有のいわゆる金属光沢を呈した。この貴金属を捕捉した該処理剤を粉末X線回折法により分析すると金属として捕捉されていることが確認された。
【0055】
金属イオンが該金属イオン処理剤上に金属として捕捉される機構については、まだ明確に解析されていないが、現象面から推定すると、金属イオンが該処理剤に接触すると該処理剤に担持されたヒドロキノン骨格を有する化合物で還元されて金属の核が形成され、この核を介して電子の授受が行われ、金属が積層し成長して該処理剤上に金属被膜が形成されるものと推定している。
【0056】
還元再生時にも該処理剤上に積層した金属被膜を介して電子の授受が行われ、担持されているキノン化合物を還元してヒドロキノン型の化合物とすることにより、再び金属イオンを還元し該処理剤上に積層するものと推定する。
【0057】
【実施例】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中において、「%」とは断らない限り「重量%」を示す。
【0058】
「実施例1」
[2−エチルアントラヒドロキノンを活性炭に担持した金属イオン処理剤の繰り返し使用]
(1)金属イオン処理剤の調製
[2−エチルアントラキノンの担持]
500mlナス型フラスコに、メタノールで湿潤した後脱気処理した石炭系粒状活性炭(三菱化成社製、商品名ダイヤホープC、粒径1.0〜2.5mm)150ml(60g)、2−エチルアントラキノン50g、イソプロパノール100mlを加え、回転エバポレータに取り付け、80°C湯浴中で加熱し、2−エチルアントラキノンを溶解した後、減圧した(560mmHg以下)で緩やかに溶媒を留去し、2−エチルアントラキノンを該活性炭に吸着させた。
該活性炭にメタノール100mlを加え、よく含浸した後、脱塩処理した水1リットルを加え、撹拌しながら浮上する吸着されなかった2−エチルアントラキノンを除去した。さらに、300mlの脱塩処理した水で3回同様な洗浄処理を行い、得られた担持物を湿潤状態で保持した。
この担持物に吸着された2−エチルアントラキノンの吸着量は、活性炭1リットル当たり1.0モルであった。
【0059】
[2−エチルアントラキノン担持物の還元による金属イオン処理剤の調製]
前記の操作によって得られた担持物10mlを、100mlの三角フラスコに採り、脱塩水100mlとハイドロサルファイトナトリウム4gを加え、撹拌した後、密閉状態で30分放置し、還元した。次に、11mmφ×150mmのガラス製カラムに充填し、窒素で脱酸素処理した脱塩水100mlで洗浄し、金属イオン処理剤を調製した(2‐エチルアントラヒドロキノンの担持物)。
【0060】
(2)金属イオン処理剤による金属イオン含有水溶液の処理
[定着水洗モデル廃水の調製]
脱塩水700mlにチオ硫酸アンモニウム200g、無水亜硫酸ナトリウム15g、酢酸15mlを加え、溶解した後、脱塩水で希釈し、1リットルとした。これに塩化銀7.2gを暗室内で溶解した溶液を原液とし、この原液を100倍に希釈した溶液を定着水洗モデル廃水(チオ硫酸銀錯イオンとして溶解、銀濃度50ppm、pH5.0)とした。
【0061】
[金属イオン水溶液の処理]
前記で調製した定着水洗モデル廃水に、20%水酸化ナトリウム溶液を添加しpH8.2に調整した後、前記カラムにS.V.(S.V.は空間速度を表し、単位は1/hrである。以下同じ。)2で通液した。破過後、脱塩水100mlで洗浄し、「表1」に示したように、4〜8%のハイドロサルファイトナトリウム水溶液100mlをS.V.4〜10で通液し、還元処理を行った後、窒素で脱酸素処理した脱塩水50mlで洗浄し再びpH8.2に調整した定着水洗モデル廃水をS.V.2で、該カラムに通液する操作を、「表1」に示した回数で繰り返し、「表1」の結果を得た。処理液中の銀濃度は、ICP発光分析法により測定した(以下、同じ。)。
この結果、該金属イオン処理剤を繰り返し使用しても能力が低下しないことが分かった。
【0062】
【表1】
【0063】
「実施例2」
[金属イオン処理剤の繰り返し使用]
(1)2−エチルアントラヒドロキノンを合成吸着剤に担持した金属イオン処理剤の調製
[2−エチルアントラキノンの担持]
10リットルフラスコに、メタノールで湿潤した後、脱気処理した合成ポリマー吸着剤(三菱化成社製、商品名セパビーズSP207)2.5リットル、2−エチルアントラキノン354g、イソプロパノール2.5リットルを加え、回転エバポレータに取りつけ、80°Cの湯浴中で加熱し、2−エチルアントラキノンを溶解したのち、減圧下(560mmHg以下)で穏やかに溶媒を留去し、2−エチルアントラキノンを該合成ポリマー吸着剤に吸着させた。
該合成ポリマー吸着剤にメタノール2リットルを加え、よく含浸した後、脱塩処理した水10リットルに加え、撹拌しながら浮上する吸着されなかった2−エチルアントラキノンを除去した。さらに吸着されなかった2−エチルアントラキノンが浮上しなくなるまで脱塩処理した水で洗浄処理を行い、得られた担持物を湿潤状態で保持した。この担持物中における吸着された2−エチルアントラキノンの吸着量は、合成ポリマー吸着剤1リットル当たり0.47モルであった。
【0064】
[2−エチルアントラキノン担持物の還元による金属イオン処理剤の調製]
前記の操作によって得られた担持物10mlを、11mmφ×150mmの硝子製カラムに充填し、4%ハイドロサルファイトナトリウム水溶液50mlをS.V.4で通液した後、窒素で脱酸素処理した脱塩水100mlで洗浄し、金属イオン処理剤を調製した(2−エチルアントラヒドロキノンの担持物)。
【0065】
(2)金属イオン処理剤による金属イオン含有水溶液の処理
[金属イオン水溶液の処理]
実施例1で調製した定着水洗モデル廃水を、該カラムにS.V.2で通液した。破過後、「表2」に示したように、脱塩水100mlで洗浄し、4〜8%ハイドロサルファイトナトリウム溶液50〜100mlをS.V.4〜10で通液し、還元処理を行った後、窒素で脱酸素処理した脱塩水50mlで洗浄し、定着水洗モデル廃水をS.V.2で、該カラムに通液する操作を「表2」に示した回数で繰り返し、「表2」の結果を得た。なお、破過するまでの処理水の銀イオン濃度は第1回目は0.01ppm以下であり、第2回目以降は0.05以下であった。 この結果、該金属イオン処理剤を繰り返し使用しても能力が低下しないことが分かった。
【0066】
【表2】
【0067】
「実施例3」
[パラジウムイオン、ロジウムイオン及びルテニウムイオンの金属イオン処理剤による処理]
(1)2−エチルアントラヒドロキノンを合成ポリマー吸着剤に担持した金属イオン処理剤の調製
[2−エチルアントラキノンの担持]
実施例2と同様に行い、同様の結果を得た。この担持物中における吸着された2−エチルアントラキノンの吸着量は合成ポリマー吸着剤1リットル当たり0.47モルであった。
【0068】
[2−エチルアントラキノン担持物の還元による金属イオン処理剤の調製]
前記の操作によって得られた担持物10mlを、11mmφ×150mmの硝子製カラムに充填し、4%ハイドロサルファイトナトリウム水溶液50mlを通液した後、窒素置換した脱塩水100mlで洗浄し、金属イオン処理剤を調製した(2−エチルアントラヒドロキノンの担持物)。
【0069】
(2)金属イオン処理剤による金属イオン含有水溶液の処理
[金属イオン溶液の調製]
(a)パラジウム溶液の調製
塩化パラジウムPdCl2の1.8gを脱塩水500mlに溶解した原液を、100倍に希釈して調製した(Pd2+20ppm)。
(b)ロジウム溶液の調製
塩化ロジウムRhCl3・3H2Oの54mgを脱塩水1リットルに溶解して調製した(Rh3+20ppm)。
(c)ルテニウム溶液の調製
塩化ルテニウムRuCl3・nH2O(n=1〜3)の40mgを脱塩水250mlに溶解して調製した(Ru3+20ppm)。
【0070】
[金属イオン水溶液の処理]
前記で調製したカラムに、前記3種類の金属イオン含有溶液を、S.V.2で通液した。破過するまでの金属捕捉量の結果は、「表3」に示した。なお、処理水中の各金属イオンの濃度はいずれも0.01ppm以下であった。
【0071】
【表3】
【0072】
[パラジウムイオン水溶液の繰り返し処理]
前記で調製したカラムに、前記で調製したパラジウム溶液(20ppm)を、SV2で通液した。破過後脱塩水100mlで洗浄し、「表4」に示したように4〜8%のハイドロサルファイトナトリウム水溶液100mlをSV5〜10で通液し、還元処理を行った後、窒素で脱酸素処理した脱塩水50mlで洗浄し、パラジウム溶液(20ppm)をSV2で通液する操作を、「表4」に示した回数で繰り返し、「表4」の結果を得た。処理液中のパラジウム濃度はICP発光分析法により測定した。なお、処理水中のパラジウムイオンの濃度はいずれも0.01ppm以下であった。
この結果、該金属イオン処理剤を繰り返し使用できることがわかった。
【0073】
【表4】
【0074】
【発明の効果】
本発明に係る金属イオン処理剤を使用すれば、水溶液中の金属イオン、特に貴金属イオンを金属として選択的に、しかも回収率もよく取得することができ、さらには写真工業の定着工程の廃水に含まれるような銀の錯イオンの回収にも有効であり、適当な平衡酸化還元電位を有する還元性化合物、例えばヒドロキノン化合物を複数使用した金属処理剤を調製することにより、さらに金属イオンの捕捉選択性が向上する。又、本発明の処理剤は多孔質の担体に還元性化合物を主として吸着によって担持する方法で調製することができ、原料が通常市販されているものを使用することが可能で、色々の酸化還元電位を有する金属イオン処理剤を製造することができ、その調製法も容易であり、破過して、担持されたレドックス反応試薬が酸化されて酸化体(キノン)になった金属イオン処理剤を還元処理し、還元性化合物(ヒドロキノン化合物)に戻し、再使用することができるので単位処理剤当たりの金属イオンを含む水溶液の処理量が多く、経済的に極めて有利である。これに対して、従来の酸化還元樹脂又はキレート樹脂では、原料も特別であり、かつその製造工程も長く、キレート樹脂では貴金属イオンの捕捉に対する選択性が他の共存する金属イオンがあると減少し、又金属錯イオンに対しては除去しにくい欠点がある。
Claims (9)
- 水溶液中に含まれる金属イオン(金属錯イオンを含む。以下同じ。)をレドックス反応によって0価の金属に変え、かつ可逆的に酸化還元を行う能力を有する有機試薬であってヒドロキノン骨格を有する化合物(以下「レドックス反応試薬」という。)を固体の多孔質担体に担持してなる金属イオン処理剤に、該金属イオンを含む水溶液を接触させ、該金属イオンを0価の金属として該金属イオン処理剤上に還元捕捉し、酸化されて実質的に該金属イオンを捕捉できなくなった該金属イオン処理剤を還元処理した後、該金属イオン処理剤に繰り返し金属イオンを含む水溶液を接触させることを特徴とする水溶液中の金属イオンの処理方法。
- レドックス反応試薬が、ヒドロキノン(ジヒドロキシベンゼン)化合物、ナフトヒドロキノン化合物又はアントラヒドロキノン化合物である請求項1記載の方法。
- レドックス反応試薬が、アントラヒドロキノン、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン又はアルキルアントラヒドロキノンから選ばれた一種又は一種以上の化合物である請求項1記載の方法。
- 固体の多孔質担体が、有機系の合成ポリマー粒子、活性炭又は二酸化珪素又はこれらの成型物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
- レドックス反応によって0価の金属に変わる金属イオンに関する金属イオン−金属系の平衡酸化還元電位が、固体の多孔質担体に担持したレドックス反応試薬の平衡酸化還元電位より大きい金属イオンからなる請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
- 金属イオンが、貴金属イオンである請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
- 貴金属イオンが、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム又はルテニウムの各イオン又はこれらの貴金属の錯イオンである請求項6記載の方法。
- 貴金属の錯イオンが、チオ硫酸銀錯イオン(チオスルファト銀錯イオン)、テトラクロロ金酸イオン又はヘキサクロロ白金酸イオンである請求項7記載の方法。
- 水溶液が、写真現像工程の定着過程において排出される排水である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
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