JP3692208B2 - 溶接施工方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フランジとウェブで構成された部材を、例えば橋梁I桁のようにフランジが水平、ウェブが垂直の姿勢で突き合わせ溶接する場合において、下フランジ部を欠陥なく高能率に突き合わせ多層盛溶接する溶接施工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
図6に示す橋梁のI桁の溶接方法としては、まず下フランジ1Aの開先部3Aを被覆アーク溶接またはガスシールドアーク溶接方法で下向き溶接した後、ウェブ2の開先部4を被覆アーク溶接またはガスシールドアーク溶接方法で立向溶接する。次いで、上フランジ1Bを被覆アーク溶接またはガスシールドアーク溶接方法で下向き溶接して完了する。
【0003】
近年、橋梁の大型化に伴いI桁の使用鋼板も厚肉長尺になり、ウェブ2の開先部4を単層で溶接できるフラックス入りワイヤを用いたエレクトロガス溶接方法が採用されるようになった。
一方、フランジの溶接においては、ソリッドワイヤを用いたガスシールドアーク溶接方法で多層盛溶接されるが、下フランジ1Aとウェブ2の交差部のウェブ2が障害となって、下フランジ1Aとウェブ2の交差部下の下フランジの開先部3Aを溶接することが困難となる。そこで、図7に示すように下フランジ1Aとウェブ2の交差部のウェブ開先4の下部の下フランジ開先部3Aの溶接を可能とするためにスカラップ5を設け、ウェブ2を挟んでそれぞれの開先を個別に溶接される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前記下フランジの突き合わせ多層盛溶接は、スカラップを設けてもウェブが中央にあるので連続して溶接することができず、下フランジとウェブとの交差部下で両側溶接部が結合される。しかし、この結合部分で融合不良やスラグ巻き込み欠陥等が発生しやすく、補修溶接に多大な時間を要していた。
そこで、本発明は、下フランジの突き合わせ多層盛溶接時に下フランジとウェブとの交差部下で両側溶接部を結合しても、融合不良やスラグ巻き込み欠陥等が生じず、健全な溶接部が高能率に得られる溶接施工方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨とするところは、フランジおよびウェブで構成される鋼構造物をフランジが水平、ウェブが垂直の姿勢で突き合わせ溶接する方法において、下フランジを突き合わせ多層盛溶接とし、該下フランジの突き合わせ溶接をウェブを挟んで両側からガスシールドアーク溶接し、各溶接層ごとに該ウェブ下で両側溶接ビードを接続させることを特徴とする溶接施工方法にある。
また、ウェブ下での両側ビードの接続は、両側溶接の各々の溶接トーチを傾斜させてワイヤ先端間距離が0〜7mm離れた位置で行うことも特徴とする。
さらに、溶接トーチの傾斜角度は、ウェブに対して30゜以下であることも特徴とする。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。図1は本発明方法の一実施態様を示す説明図で、下フランジ1Aの上に下フランジの開先部3Aに沿ってx方向に延びる溶接レール6A、6Bをウェブ2を挟んで敷設し、2台のガスシールドアーク溶接機7A、7Bをレール6A、6Bに沿ってx方向に案内する。
【0007】
溶接トーチ8A、8Bは、トーチ支持機構15A、15Bにトーチ支持部材9A、9Bで支持され、上下調整ノブ10A、10Bでz方向に移動して溶接ワイヤ14A、14Bの付き出し長さを調整し、角度調整ノブ11A、11Bでy方向へ傾斜角度を調整することができる。
【0008】
トーチ支持機構15A、15Bは、トーチ傾斜機構12A、12Bとトーチ支持アーム(図示せず)で結合している。トーチ傾斜機構12A、12Bは、例えば特公昭51−12011号公報にある溶接角度変動機構を備え、溶接トーチを下フランジの開先部3Aとの高さが変わらないようにx方向に傾斜させる機構を有する。図2に溶接トーチ8A、8Bがウェブ2を挟んで下フランジ1Aとウェブ2の交差部下の下フランジ開先3A内で傾斜した状態を示す。
【0009】
図3に下フランジ1Aの溶接前の状態を示す。左右の下フランジ1AをギャップGを設けて突き合わせ、下フランジ開先部3A下部に裏当材16を付けて、必要に応じて鉄粉または鋼粒を開先内に散布する。また、下フランジ開先部3A端部には固形タブ材17(図示せず)を当てる。
【0010】
図4に溶接開始時および溶接開始からの溶接トーチ8A、8Bの軌跡を示す。溶接開始は、ウェブ2下の溶接トーチ位置▲1▼、▲1▼´から開始する方法と下フランジ1Aの両端部の溶接トーチ位置▲3▼から開始する方法の何れでも良いが、裏波ビードが連続して得られやすいウェブ2下の溶接トーチ位置▲1▼、▲1▼´から開始するのが好ましい。ウェブ2下の溶接トーチ8A、8Bは、ガスシールドアーク溶接機7A、7Bがウェブ2に接触しないようにウェブ2下方向に傾斜した状態で溶接を開始する。溶接が開始されると溶接トーチ8Aは、傾斜した状態から垂直方向に戻りつつ溶接を継続し、溶接トーチ位置▲2▼の状態となる。さらに、下フランジ開先部3A端部に近づくと溶接トーチ8Aは、溶接開始時とは逆方向に傾斜して▲3▼の状態となり、溶接トーチ8Aが固形タブ17に接触したり、ガスシールドアーク溶接機7Aが走行レール6Aを逸脱しないようにして初層の溶接が完了する。2層目は溶接トーチ位置▲3▼、▲2▼、▲1▼の順で初層溶接と逆方向に溶接する。以後、前記溶接トーチ8Aの軌跡を繰り返して多層盛溶接を行う。
【0011】
ウェブ2下の傾斜した溶接トーチ8Aおよび8Bから送り出されるワイヤ14A、14Bの先端間距離Lは0〜7mmとする。図5にウェブ2下のビード縦断面形状を示すが、ウェブ2下でのワイヤ14A、14Bの先端間距離Lが0〜7mmの範囲であると、図5(a)および図5(b)に示すように、溶接開始部の裏ビードが均一に連続して得られ、2層目以後のクレータ、溶接スタートを繰り返しても両側溶接ビードの接続部にスラグ巻き込みや融合不良等の欠陥が生じることがない。
【0012】
ウェブ2下でのワイヤ14A、14Bの先端間距離Lが7mmを超えると、図5(c)に示すように、初層の溶接では溶接開始部で裏ビードが不足し(符号U)、2層目以後では両側溶接ビードの接続部にスラグ巻き込みや融合不良等の欠陥が生じる(符号S)。一方、ウェブ2下でのワイヤ14A、14Bの先端間距離Lが0mm未満であると、図5(d)に示すように、初層の溶接では溶接開始部で裏ビードが出過ぎて、2層目以後では両側溶接ビードの接続部のビードの重なり部が多いので、ウェブ2直下のみビードが高くなる。
【0013】
また、ウェブ2下における溶接トーチ8A、8Bの傾斜角度θは、ウェブに対して30゜未満である。ウェブ2下における溶接トーチ8A、8Bの傾斜角度θがウェブに対してに30゜を超えると、溶接開始時に裏ビードが出過ぎる。また2層目以後ウェブ2下方向に向かう溶接の場合は、溶融池がアーク点よりも先行してビードが乱れるとともに開先面に融合不良が生じる。逆にウェブ2下から下フランジ1A端部方向に向かう溶接の場合は、ビードが凸状となる等ビード外観が不良となる。
なお、下フランジ1A端部での溶接トーチの傾斜角度もウェブ下での溶接トーチの傾斜角度もウェブに対して30゜以下とする。
【0014】
また、ウェブ下からの溶接開始は、2台のガスシールドアーク溶接機を同時に溶接開始することが好ましいが、片側のガスシールドアーク溶接機による積層数が複数層先行しない範囲内でのズレは問題ない。また上記のように2台の溶接機がウェブを挟んで対称位置になるように往復運動させて溶接するのがむだな動きがなく作業能率の上からも好ましいが、たとえばある層について2台の溶接機を同方向に走行させることも可能である。
【0015】
本発明に用いるガスシールドアーク溶接機は、下フランジの板厚、下フランジの開先角度、ギャップおよびウェブ下から下フランジ端部までの距離等のデータが与えられると演算によって最適積層設計をして、連続累層溶接を自動的に行う直交型4軸ポータブルロボットであることが好ましい。
【0016】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
板厚50mm、長さ1000mmの490N/mm2 級高張力鋼である下フランジに、板厚28mmの490N/mm2 級高張力鋼であるウェブを、図7に示すように下フランジ1Aの中央にスカラップ5を設け、ウェブ開先4を幅25mmとして下フランジと交差する方向に組み立てた。下フランジ開先部3Aの角度は30゜、ギャップは6mmとし、セラミックタイプの固形裏当て材を裏面に取り付けた後、鋼粒(1mm径のワイヤを1mm長さに切断したもの)を2mm高さ、溶接開始部のみ約15mm長さ散布した。なお、下フランジ開先部端には固形タブを付した。
【0017】
溶接機は直交4軸ポータブルロボットを、図1および図2に示すようにウェブを挟んで設置し、図4に示すようにウェブ下から溶接を開始し、表2に示すようにウェブ下の溶接ビードを接続させる部分でワイヤ先端間距離Lおよび溶接トーチ傾斜角度θを変えて、表1に示す溶接条件で、図8に示すように10層13パスの多層盛溶接を行った。なお、溶接に供したワイヤは、ワイヤ径1.2mmでJIS Z3312 YGW11のソリッドワイヤを用い、下フランジ開先端部では溶接トーチを20゜傾けた。
【0018】
【表1】
Figure 0003692208
【0019】
溶接後表ビード、裏ビード外観の観察とウェブ下の溶接ビード接続部の横断面マクロ組織を調査して欠陥の有無を調べた。それらをまとめて表2に示す。
【0020】
【表2】
Figure 0003692208
【0021】
表中、No.1〜No.3が本発明例、No.4〜No.6が比較例である。本発明例であるNo.1〜No.3は、2台のガスシールドアーク溶接機で、ウェブ下の溶接開始時および溶接ビードの接続時のワイヤ先端間距離Lおよび溶接トーチの傾斜角度θが適正であるので、裏ビードが均一で、表ビード外観も良好であり、溶接ビード接続部に融合不良やスラグ巻き込み欠陥がない等、極めて満足な結果であった。
【0022】
比較例中No.4は、ワイヤ先端間距離Lが大きいので、ウェブ下の裏ビードの出方が不足し、溶接ビード接続部にスラグ巻き込み欠陥が生じた。
No.5は、ワイヤ先端間距離Lが小さく、ラップしたので、ウェブ下の裏ビードが出過ぎ、かつ表ビード高さがウェブ下のみ高くなった。
No.6は、ウェブ下での溶接トーチ角度θが大きいので、ウェブ下でビード外観が凹凸となって不良で、ウェブ下の開先面に融合不良が生じた。
【0023】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の溶接施工方法によれば、フランジとウェブで構成される鋼構造物の、下フランジの突き合わせ多層盛溶接をする時に下フランジとウェブとの交差部下で溶接部の結合を行っても、表、裏ビード外観とも良好で、融合不良やスラグ巻き込み欠陥が生じず、健全な溶接部を高能率に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施態様を示す図
【図2】図1の溶接トーチが傾斜した状態を示す図
【図3】下フランジの溶接前の状態を示す図
【図4】溶接開始からの溶接トーチの軌跡を示す図
【図5】(a)、(b)、(c)、(d)は溶接部の結合部の横断面マクロ組織を示す図
【図6】橋梁I桁を示す斜視図
【図7】スカラップ有りのフランジとウェブの交差部を示す斜視図
【図8】本発明の実施例における積層方法を示す断面図
【符号の説明】
1A、1B フランジ
2 ウェブ
3A、3B フランジ開先部
4 ウェブ開先
5 スカラップ
6A、6B レール
7A、7B ガスシールドアーク溶接機
8A、8B 溶接トーチ
9A、9B トーチ支持部材
10A、10B 上下調整ノブ
11A、11B 角度調整ノブ
12A、12B トーチ傾斜機構
14A、14B ワイヤ
15A、15B トーチ支持機構
16 裏当材
17 固形タブ材

Claims (3)

  1. フランジおよびウェブで構成される鋼構造物をフランジが水平、ウェブが垂直の姿勢で突き合わせ溶接する方法において、下フランジを突き合わせ多層盛溶接とし、該下フランジの突き合わせ溶接をウェブを挟んで両側からガスシールドアーク溶接し、各溶接層ごとに該ウェブ下で両側溶接ビードを接続させることを特徴とする溶接施工方法。
  2. ウェブ下での両側溶接ビードの接続は、両側溶接の各々の溶接トーチを傾斜させてワイヤ先端間距離が0〜7mm離れた位置で行うことを特徴とする請求項1記載の溶接施工方法。
  3. 溶接トーチの傾斜角度は、ウェブに対して30゜以下であることを特徴とする請求項2記載の溶接施工方法。
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