JP3687153B2 - バルーンカテーテルおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、たとえば血管などの体腔内に挿入してバルーン膜を拡張させることにより、体腔内流路を拡張したり、バルーン膜の拡張および収縮を交互に繰り返すことにより心臓の脈動の補助を行うなどの治療に用いられるバルーンカテーテルに関する。
【0002】
【従来の技術】
たとえばIABP(大動脈内バルーンポンピング)の治療に際しては、バルーンカテーテルが用いられ、カテーテル管の遠位端に設けられたバルーン膜が拡張および収縮を交互に繰り返すことにより心臓の脈動の補助を行う。また、PTCA(経皮的冠動脈形成術)の治療に際しては、IABP用バルーンカテーテルとは異なる材質および寸法形状のバルーンカテーテルが用いられ、血管などの体腔内に挿入してバルーン膜を拡張させることにより、体腔内流路を拡張する。IABP用バルーンカテーテルでは、PTCA用バルーンカテーテルに比較して、バルーン膜を多数回にわたり拡張および収縮させる必要があり、バルーン膜の拡張および収縮の応答性が早いことと、長期間バルーン膜が破損しないこととが要求される。
【0003】
これらのいずれのタイプのバルーンカテーテルにおいても、バルーンカテーテルを、血管などの体腔内に挿入する際には、挿入時の容易性および患者の負担などを考慮して、バルーン膜は折り畳まれた状態で体腔内に挿入される。
たとえばIABP用バルーンカテーテルでは、図6(A)に示すように、バルーンカテーテルの内管10にバルーン膜22aを収縮させて巻き付けた状態で、血管に挿入する。バルーンカテーテルのバルーン膜が血管内の所定位置に到達した場合には、心臓の拍動に合わせてバルーン膜22a内にHeなどの流体を導入および導出して、図6(B)から(D)または(D)から(B)に示すバルーン膜の拡張および収縮を繰り返す。
【0004】
また、PTCA用バルーンカテーテルでは、図7(A)に示すように、バルーンカテーテルの内管10にバルーン膜22bを収縮させて巻き付けた状態で、血管に挿入する。バルーンカテーテルのバルーン膜が血管内の所定位置に到達した場合には、バルーン膜22a内に生理食塩水などの流体を導入して、図7(B)に示すように、バルーン膜22bを拡張し、血管内壁の狭窄部を拡張する。血管内壁の狭窄部を拡張した後には、図7(C)に示すように、バルーン膜内の流体を抜いてバルーン膜22bを収縮させる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、従来のIABP用バルーンカテーテルでは、図6(A)に示すように、挿入時にバルーン膜22aを収縮させて巻き付けるために、血管内でバルーン膜22aを拡張状態から収縮状態にする際に、図6(D)に示すように、バルーン膜22aは、挿入時の巻き付け状態にスイングして戻ろうとする。ただし、完全に元に戻るわけではない。また、図6(D)に示す状態から同図(C)を経て同図(B)に示す拡張状態に移行する際には、バルーン膜22aは、当初の巻き付け状態に近い状態からスイングして拡張状態に移行する。
【0006】
このように、バルーン膜の拡張および収縮の繰り返し時に、IABP用バルーン膜では、バルーン膜がスイング運動を行い、この無駄な動きのために、バルーン膜の拡張および収縮の応答速度が遅くなると言う課題を有する。また、この無駄な動きのために、バルーン膜が血管などの体腔壁と擦れ、バルーン膜の破損時期を早めるおそれがある。
【0007】
また、PTCA用バルーンカテーテルでは、バルーン膜を多数回にわたり拡張および収縮を繰り返すことはないので、IABP用バルーンカテーテルが有する課題は有さないが、次に示す課題を有する。
すなわち、図7(C)に示すように、バルーン膜をいったん拡張した後で収縮させた場合には、バルーン膜は、当初の挿入時の巻き付け状態に戻ろうとはするが、完全に戻ることはできない。このため、一度使用したバルーンカテーテルを、別の狭窄部に通してPTCA治療を行うことはできない。その対策としては、一度狭窄部の拡張に用いたバルーンカテーテルを取り出し、別のPTCA用バルーンカテーテルを再度血管内に入れ直していた。この作業が煩雑であると共に、新たなバルーンカテーテルを必要とするので、医療コストが増大すると言う課題も有する。
【0008】
なお、特開平7−112,029号公報に示すように、架橋樹脂で構成されたバルーン膜を有するバルーンカテーテルは知られている。しかしながら、従来例に係るバルーンカテーテルでは、バルーン膜を構成する樹脂の架橋は、バルーン膜の拡張状態で行われていた。このため、この公報に記載してあるバルーンカテーテルでも、上述した従来技術が有する課題を解決することはできなかった。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、バルーン膜の拡張および収縮を繰り返し行うタイプのバルーンカテーテルでは、膨張および収縮の応答性に優れ、耐久性に優れたバルーンカテーテルおよびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、一つの治療部でバルーン膜を短時間に繰反して拡張収縮させないタイプのバルーンカテーテルにおいて、バルーン膜の収縮時に、バルーンカテーテル挿入時にきわめて近い状態に戻ることが可能なバルーンカテーテルおよびその製造方法を提供することも目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係るバルーンカテーテルは、カテーテル管近位端からカテーテル管のルーメンを通して、カテーテル管の遠位端部にあるバルーン膜内に流体を送り込み、該バルーン膜を拡張でき、かつバルーン膜から流体を抜いて該バルーン膜を収縮できるバルーンカテーテルであって、前記バルーン膜が、収縮状態の形状で架橋された樹脂で構成してあることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るバルーンカテーテルの製造方法は、拡張状態の形状に樹脂を成形してバルーン膜を得る工程と、次いで、このバルーン膜を収縮状態の形状に折り畳み、該バルーン膜を構成する樹脂を架橋する工程とを有する。
本発明において、バルーン膜の近位端がカテーテル管の遠位端に接合してあり、バルーン膜の遠位端が、バルーン膜およびカテーテル管の内部を軸方向に延在する内管の遠位端に接合してあることが好ましい。
【0012】
本発明において、バルーンカテーテルがIABP治療に用いられる場合のように、バルーン膜が多数回にわたり拡張・収縮を繰り返す場合には、バルーン膜の拡張・収縮時にバルーン膜のスイングが生じない収縮形状で、バルーン膜を構成する樹脂の架橋を行うことが好ましい。具体的には、バルーン膜を単純偏平形状に収縮させて、架橋を行うことが好ましい。
【0013】
本発明において、バルーンカテーテルがPTCA治療に用いられる場合のように、一つの治療部位に対してバルーン膜が数回以下の膨張・収縮を行う場合には、バルーンカテーテルの挿入時と同等なバルーン膜の収縮時の形状で、バルーン膜を構成する樹脂の架橋を行うことが好ましい。具体的には、バルーン膜を収縮して巻回した状態で架橋を行うことが好ましい。
【0014】
本発明において、樹脂の架橋を行うための方法は、特に限定されず、バルーン膜が収縮状態で電子線あるいはγ線などのエネルギービームを照射する方法、架橋剤(過酸化物、加硫酸化合物、硫黄、金属など)を樹脂に分散させて拡張状態のバルーン膜を形成し、収縮状態で加熱して架橋する方法、成形した樹脂表面から架橋剤を含浸させ加熱して架橋する方法、水分と接触させて架橋させる方法などを例示することができる。架橋工程は、バルーン膜をカテーテル管および/または内管に取り付けた後に行っても良いが、それらの前に行っても良い。
【0015】
本発明において、バルーン膜の収縮状態で架橋する際に、バルーン膜を構成する樹脂膜相互が接着しないようにするために、拡張状態に成形後の樹脂膜の表面に潤滑剤などを被覆してから架橋することが好ましい。潤滑剤としては、たとえばシリコーンオイル、グリセリン、多価アルコール、高級アルコール、高級脂肪酸などが用いられる。
【0016】
【作用】
本発明に係る製造方法で得られたバルーンカテーテルを、IABP治療のように、バルーン膜の拡張・収縮を多数回繰り返す用途に用いる場合には、バルーン膜の拡張・収縮時にバルーン膜のスイングが生じない収縮形状で、バルーン膜を構成する樹脂の架橋を行う。具体的には、バルーン膜を単純偏平形状に収縮させて、架橋を行う。バルーン膜は、この架橋時の形状を記憶することになる。
【0017】
このため、バルーン膜を収縮して巻回させた状態でバルーンカテーテルを体腔内に挿入したとしても、バルーン膜の拡張・収縮の繰り返し時において、バルーン膜の収縮時には、バルーン膜は、巻回時ではなく架橋時の形状に近い状態に収縮し、その結果、バルーン膜のスイング動作を低減できる。したがって、バルーン膜の拡張・収縮時におけるバルーン膜の無駄な動きがなくなり、拡張・収縮の応答性が向上すると共に、バルーン膜が体腔内壁で擦れることが少なくなり、バルーン膜の耐久性が向上する。なお、収縮状態で架橋した後又は前に、拡張状態の形状で架橋すると、さらに応答性が高くなる。
【0018】
本発明に係る製造方法で得られたバルーンカテーテルを、PTCA治療のように、一つの治療部位に対してバルーン膜が数回以下の膨張・収縮を行う用途に用いる場合には、バルーンカテーテルの挿入時と同等なバルーン膜の収縮時の形状で、バルーン膜を構成する樹脂の架橋を行うことが好ましい。具体的には、バルーン膜を収縮して巻回した状態で架橋を行うことが好ましい。バルーン膜は、この架橋時の形状を記憶することになる。
【0019】
このため、バルーン膜を収縮して巻回させた状態でバルーンカテーテルを体腔内に挿入し、一つの治療部位(たとえば狭窄部)でバルーン膜の拡張を行い、血管の拡張治療を終了し、バルーン膜を収縮させた場合に、バルーン膜は、挿入時である巻回時の形状にきわめて近い状態に収縮する。その結果、同じバルーンカテーテルを用いて、そのバルーンカテーテルのバルーン膜を次の治療部である狭窄部に押し進め、その狭窄部に容易に挿入することができる。したがって、同一のバルーンカテーテルを用いて、数カ所の治療部位で、血管拡張などの複数の治療を行うことができ、治療中にバルーンカテーテルを交換するなどの作業を必要としなくなる。このため、治療作業の容易化、医療コストの低減を図ることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るバルーンカテーテルを、図面に示す実施形態に基づき、詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテルの要部概略断面図、図2は同実施形態のバルーンカテーテルの一使用例を示す概略図である。
【0021】
第1実施形態
図1に示す実施形態に係るバルーンカテーテル2は、たとえばIABP治療に用いられるものであり、心臓の拍動に合わせて拡張および収縮するバルーン4を有する。バルーン4は、膜厚約50〜150μm程度の筒状のバルーン膜22で構成される。本実施形態では、図3(B)に示すように、拡張状態のバルーン膜22の形状は円筒形状であるが、本発明では、これに限定されず、多角筒形状であっても良い。
【0022】
IABP用バルーン膜22は耐屈曲疲労特性に優れた材質であることが好ましく、例えばポリウレタン、シリコーン、軟質ポリエチレン、軟質ポリアミド、軟質ポリエステルなどの材料で形成され、特にポリウレタンで形成されたものが血栓の発生抑止能が高く、耐摩耗性も高いので好適である。バルーン膜22の外径および長さは、心機能の補助効果に大きく影響するバルーン膜22の内容積と、動脈血管の内径などに応じて決定される。バルーン膜22は、通常、その内容積が20〜50ccであり、外径が拡張時10〜25mmであり、長さが150〜300mmである。本実施形態に係るバルーン膜の製造方法については後述する。
【0023】
このバルーン膜22の遠位端には先細と成る遠位端側テーパ部24が形成され、その最遠位端が短チューブを介してまたは直接に内管10の遠位端外周に熱融着または接着などの手段で取り付けてある。
バルーン膜22の近位端には、先細と成る近位端側テーパ部26が形成され、その最近位端が、金属チューブ製の造影マーカーを介してまたは直接に、カテーテル管6の遠位端に接合してある。このカテーテル管6の内部に形成された第1ルーメン14を通じて、バルーン膜22内に、圧力流体が導入または導出され、バルーン膜22が拡張または収縮するようになっている。バルーン膜22とカテーテル管6との接合は熱融着あるいは紫外線硬化樹脂などの接着剤による接着により行われる。
【0024】
内管10の遠位端はカテーテル管6の遠位端より遠方へ突き出ている。内管10はバルーン膜22およびカテーテル管6の内部を軸方向に挿通されている。内管10の近位端は後述する分岐部8の第2ポート18に連通するようになっている。内管10の内部には、バルーン膜22の内部およびカテーテル管6内に形成された第1ルーメン14とは連通しない第2ルーメン12が形成してある。内管10は、後述するように、遠位端の開口端20で取り入れた血圧を分岐部8の第2ポート18へ送り、そこから血圧変動の測定を行うようになっている。
【0025】
バルーンカテーテル2を動脈内に挿入する際に、バルーン膜22内に位置する内管10の第2ルーメンはバルーン膜22を都合良く動脈内に差し込むためのガイドワイヤー挿通管腔としても用いられる。バルーンカテーテルを血管などの体腔内に差し込む際には、図3(A)に示すように、バルーン膜22は内管10の外周に折り畳んで巻回される。図1に示す内管10は、たとえばカテーテル管6と同様な材質で構成されて良く、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリイミド等の合成樹脂チューブ、あるいは金属スプリング補強チューブ、ステンレス細管等で構成される。なお補強材として、ステンレス線、ニッケル・チタン合金線などが用いられることもある。内管10の内径は、ガイドワイヤを挿通できる径であれば特に限定されず、たとえば0.15〜1.5mm、好ましくは0.5〜1mmである。この内管10の肉厚は、0.1〜0.4mmが好ましい。内管10の全長は、血管内に挿入されるバルーンカテーテル2の軸方向長さなどに応じて決定され、特に限定されないが、たとえば500〜1200mm、好ましくは700〜1000mm程度である。
【0026】
カテーテル管6は、ある程度の可撓性を有する材質で構成されることが好ましく、たとえばポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル(PVC)、架橋型エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリイミド、ポリイミドエラストマー、シリコーンゴム、天然ゴムなどが使用でき、好ましくは、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリイミドで構成される。カテーテル管6の外径は、軸方向に均一でも良いが、バルーン膜22側近傍で小さく、その他の部分(近位端側)で大きくなるように、途中に段差部またはテーパ部を形成しても良い。第1ルーメン14の流路断面を大きくすることにより、バルーン膜22を拡張及び収縮させる応答性を良好にすることができる。カテーテル管6の内径は、好ましくは1.5〜4.0mmであり、カテーテル管6の肉厚は、好ましくは0.05〜0.4mmである。カテーテル管6の長さは、好ましくは300〜800mm程度である。
【0027】
カテーテル管6の近位端には患者の体外に設置される分岐部8が連結してある。分岐部8はカテーテル管6と別体に成形され、熱融着あるいは接着などの手段で固着される。分岐部8にはカテーテル管6内の第1ルーメン14およびバルーン膜22内に圧力流体を導入または導出するための第1ポート16と、内管10の第2ルーメン12内に連通する第2ポート18とが形成してある。分岐部8は、たとえばポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアクリレート、メタクリレート−ブチレン−スチレン共重合体などの熱可塑性樹脂で形成される。
【0028】
第1ポート16はたとえば図2に示すポンプ装置28に接続され、このポンプ装置28により流体圧がバルーン膜22内に導入または導出されるようになっている。導入される流体は特に限定されないが、ポンプ装置28の駆動に応じて素早くバルーン膜22が拡張または収縮するように、粘性及び質量の小さいヘリウムガスなどが用いられる。また、ポンプ装置28としては例えば特公平2−39265号公報に示すような装置が用いられる。
【0029】
第2ポート18は図2に示す血圧変動測定装置29に接続され、バルーン膜22の遠位端の開口端20から取り入れた動脈内の血圧の変動を測定可能になっている。この血圧測定装置29で測定した血圧の変動に基づき、図2に示す心臓1の拍動に応じてポンプ装置28を制御し、0.4〜1秒の短周期でバルーン膜22を拡張および収縮させるようになっている。
【0030】
本実施形態では、バルーン膜22を、以下に示す方法により製造する。
まず、図1および図3(B)に示すように、バルーン膜22が拡張された状態の形状で、未架橋の筒状樹脂膜を成形する。この筒状の樹脂膜を形成するための方法としては、特に限定されないが、拡張状態のバルーン膜を成形するための型を成形溶液中に浸し、型の外周面に樹脂膜を形成し、これを乾燥して脱型する方法(ディピッング成形法)を例示することができる。また、パリソンをブロー成形することにより、拡張状態のバルーン膜に相当する未架橋の樹脂膜を形成する方法(ブロー成形法)もある。
【0031】
次に、バルーン膜22を構成する筒状樹脂膜を、図1に示すように、カテーテル管6および内管10に接合した後、またはその前に、図3(D)に示すように、収縮して偏平形状にし、その状態で樹脂膜の架橋を行う。
樹脂の架橋を行うための方法は、特に限定されず、電子線あるいはγ線などのエネルギービームを照射する方法、架橋剤(過酸化物、加硫酸化合物、硫黄、金属など)を樹脂に分散させて拡張状態の樹脂膜を形成し、収縮状態で加熱して架橋する方法、成形した樹脂表面から架橋剤を含浸させ加熱して架橋する方法、水分と接触させて架橋させる方法などを例示することができる。
【0032】
樹脂膜として、ポリウレタン膜を用いる場合には、架橋方法としては、架橋剤を用いた方法を好適に用いることができ、その際の架橋剤としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートなどを用いることができる。架橋させる際の加熱温度としては、90〜120°Cが好ましく、架橋時間は60〜120分が好ましい。また、架橋方法として、電子線を用いる場合には、その照射エネルギーが100〜800Doseであり、照射時間が0.1〜3分であることが好ましい。
【0033】
バルーン膜22を構成する樹脂膜の収縮状態で架橋する際に、バルーン膜を構成する樹脂膜相互が接着しないようにするために、拡張状態に成形後の樹脂膜の表面に潤滑剤などを被覆してから架橋することが好ましい。潤滑剤としては、たとえばシリコーンオイルなどが用いられる。なお、収縮状態で架橋する前又は後に、拡張状態の形状で架橋をすると応答性がさらによくなる。
【0034】
本実施形態に係るバルーンカテーテル2を用いて、IABP治療を行うには、まずバルーン膜22の内部の空気を抜いておき、バルーン膜22を図3(A)に示すように、収縮させて内管10の回りに巻回する。次に、この巻回されて外径が小さくなったバルーン4側から、ガイドワイヤなどを用いて、図2に示すように患者の血管に挿入する。バルーン4が心臓1の近くの血管内に位置した状態で、心臓1の拍動に合わせてバルーン4の拡張・収縮を行う。
【0035】
バルーン4を構成するバルーン膜22の内部にヘリウムガスなどの流体を送り込んでバルーン膜22を拡張した状態を図3(B)に示す。また、バルーン膜22の内部から流体を排出してバルーン膜22を収縮される途中を図3(C)に示し、完全収縮時の状態を図3(D)に示す。
【0036】
本実施形態に係るバルーンカテーテル2のバルーン膜22は、図3(D)に示す収縮状態で架橋されているため、この架橋時の形状に戻り易いという性質を有している。このため、バルーン膜22を収縮して巻回させた状態でバルーンカテーテル2を血管内に挿入したとしても、バルーン膜22の拡張・収縮の繰り返し時において、バルーン膜22の収縮時には、バルーン膜22は、図3(D)に示すように、巻回時ではなく架橋時の形状に近い状態に収縮し、その結果、バルーン膜のスイング動作を低減できる。したがって、バルーン膜22の拡張・収縮時におけるバルーン膜22の無駄な動きがなくなり、拡張・収縮の応答性が向上すると共に、バルーン膜22が血管内壁で擦れることが少なくなり、バルーン膜22の耐久性が向上する。なお、バルーン膜22は、柔軟性に富んだ材質で構成してあるため、血管の内壁を傷つけることはない。
【0037】
第2実施形態
本実施形態のバルーンカテーテルは、たとえば経皮的冠動脈形成術(PTCA)、四肢等の血管の拡張術、上部尿管の拡張術、腎血管拡張術などの方法に用いられ、血管あるいはその他の体腔に形成された狭窄部を拡張するために用いられるバルーンカテーテルである。このバルーンカテーテルの全体構成は、図1に示すものと同様であるが、以下に示す部分が多少相違する。以下の説明では、前述した実施形態と異なる部分のみについて説明し、その他の部分は同一なので、その説明は一部省略する。
【0038】
本実施形態では、カテーテル管6の外径は、軸方向均一に0.6〜1.2mmでも良いが、バルーン膜22との接続部近傍では、0.6〜1.0mm程度とし、分岐部8側では、0.8〜1.2mm程度とし、外径を軸方向で断続的あるいは連続的に変化させても良い。なお、カテーテル管6の肉厚は、軸方向均一に0.05〜0.15mm程度が好ましい。
【0039】
本実施形態において、バルーン膜22を構成する材質は、ある程度の可撓性を有する材質であることが好ましく、たとえばポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル(PVC)、架橋型エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリイミド、ポリイミドエラストマー、シリコーンゴム、天然ゴムなどが使用でき、好ましくは、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドである。
【0040】
バルーン膜22は、両端部にテーパ部24,26を持つ筒状の薄膜で構成され、その膜厚は、特に限定されないが、50〜500μm、好ましくは70〜200μm程度である。拡張時のバルーン膜22の外径は血管の内径などの因子によって決定され、1.5〜4.0mm程度が好ましい。このバルーン膜22の軸方向長さは血管内狭窄部の大きさなどの因子によって決定され、通常、15〜50mm、好ましくは20〜40mmである。拡張する前のバルーン膜22は、内管10の周囲に折り畳まれて巻き付けられ、カテーテル管6の外径と同等以下になっている。
【0041】
バルーン膜22内に位置する内管10の周囲には、一箇所または複数箇所に放射線不透過性マーカーを装着することもできる。このマーカーとしては、たとえば金、白金、タングステン、イリジウムあるいはこれらの合金などで構成される金属チューブ、金属スプリングなどを用いることができる。このマーカーをバルーン膜内の内管10の周囲に付けることにより、バルーンカテーテル2の使用時のX線透視下で、バルーン4の位置やバルーンの拡張部分の長さを検出することができる。
【0042】
分岐部8の第1ポート16は、本実施形態では、拡張ポートとなり、拡張ポートを通して第1ルーメン14内に圧力流体が導入される。導入される圧力流体としては、特に限定されないが、たとえば放射線不透過性色素と塩類との50/50混合水溶液などが用いられる。放射線不透過性色素を含ませるのは、バルーンカテーテル2の使用時に、放射線を用いてバルーン4およびカテーテル管6の位置を造影するためである。バルーン4を膨らますための圧力流体の圧力は、特に限定されないが、絶対圧で5〜20気圧、好ましくは、6〜15気圧程度である。
【0043】
分岐部8の第2ポート18は、PTCA用では、ガイドワイヤを挿通するためのガイドポート18となる。
本実施形態においても、前記第1実施形態と同様に、バルーン膜22は、収縮状態で架橋して形成してある。ただし、本実施形態では、バルーン膜22を構成する拡張状態の筒状樹脂膜を形成した後、バルーンカテーテルの挿入時と同等なバルーン膜の収縮時の形状で、バルーン膜を構成する樹脂膜の架橋を行う。具体的には、図5(A)に示すように、バルーン膜22を内管10に収縮して巻回した状態で架橋を行う。架橋方法は、前記第1実施形態と同様である。
【0044】
なお、バルーン膜22を内管10に取り付ける前に、バルーン膜22を構成する樹脂膜の架橋を行う場合には、内管10に相当する治具に樹脂膜を図5(A)に示すように巻き付けて架橋を行う。
次に、図1に示す実施例のバルーンカテーテル2を体腔拡張用バルーンカテーテルとして用いて、PTCA治療を行う方法について説明する。
【0045】
まず、バルーンカテーテル2内の空気をできる限り除去する。そこで、分岐部8の第2ポート18から内管10内の第2ルーメン12に生理食塩水などの液体を入れ、第2ルーメン12内の空気を置換する。また、分岐部8の第1ポート16にはシリンジなどの吸引・注入手段を取り付け、シリンジ内に血液造影剤(たとえばヨウ素含有)などの液体を入れ、吸引および注入を繰り返し、第1ルーメン14およびバルーン膜22内の空気を液体と置換する。
【0046】
バルーンカテーテル2を動脈血管内に挿入するには、まず、セルジンガー法などにより、血管内にガイドカテーテル用ガイドワイヤ(図示せず)をその先端がたとえば心臓の近くまで届くように挿入する。その後、ガイドカテーテル用ガイドワイヤに沿ってガイドカテーテルを動脈血管内に挿入し、その先端を狭窄部を有する心臓の冠動脈入口に位置させる。なお、狭窄部は、たとえば血栓または動脈硬化などにより形成される。血管への挿入時には、図5(A)に示すように、バルーン膜22は、収縮されて内管10の回りに巻回してある。
【0047】
次に、ガイドカテーテル用ガイドワイヤのみを抜き取り、それよりも細いバルーンカテーテル用ガイドワイヤをガイドカテーテルに沿って挿入し、その先端を狭窄部を通過する位置まで差し込む。
その後、ガイドワイヤの端を図1に示すバルーンカテーテル2の開口端20に差し込み、内管10の第2ルーメン12内に通し、バルーン膜22が折り畳まれた状態で、バルーンカテーテル2をガイドカテーテル内に通す。そして、バルーンカテーテル2のバルーン膜22を、図4に示すように、狭窄部36の手前まで差し込む。あるいはガイドカテーテルからガイドカテーテル用ガイドワイヤを抜きとった後、分岐部8の第2ポート18より内管10の第2ルーメン12内にガイドワイヤを挿通したバルーンカテーテルをガイドカテーテルの近位端部より挿入して、バルーン膜22を冠動脈内に導き、ガイドワイヤ42の先端を狭窄部36を通過する位置まで差し込んでもよい。
【0048】
その後、図4(A)に示すように、バルーンカテーテル2の最先端に形成されたバルーン膜22の遠位端をガイドワイヤ42に沿って、狭窄部36間に差し込む。
次に、図4(B),(C)に示すように、バルーン膜22の位置をX線透視装置などで観察しながら、狭窄部36の中央部にバルーン膜22を正確に位置させる。その位置でバルーン膜22を膨らますことにより血管34の狭窄部36を広げ、良好な治療を行うことができる。なお、バルーン膜22を膨らますには、図1に示す第1ポート16から第1ルーメン14を通して、バルーン膜22に造影剤などの液体を注入することにより行う。バルーン膜22が最大限に拡張した状態を図5(B)に示す。
【0049】
この拡張時間は、特に限定されないが、たとえば約1分間程度である。その後、迅速にバルーン膜22から液体を抜いてバルーン膜を収縮させ、拡張された狭窄部36の末梢側の血流を確保する。バルーン膜22の拡張は、通常は、同一狭窄部36に対して一回であるが、狭窄部36の条件によっては複数回でも良い。
【0050】
本実施形態では、バルーンカテーテルの挿入時と同等なバルーン膜の収縮時の形状で、バルーン膜を構成する樹脂膜の架橋を行う。このため、一つの狭窄部36でバルーン膜22の拡張を行い、血管の拡張治療を終了し、バルーン膜22を収縮させた場合に、バルーン膜22は、図5(A)に示すように、挿入時である巻回時の形状にきわめて近い状態に収縮する。その結果、同じバルーンカテーテル2を用いて、そのバルーンカテーテルのバルーン膜22を次の治療部である狭窄部に押し進め、その狭窄部に容易に挿入することができる。したがって、同一のバルーンカテーテル2を用いて、数カ所の治療部位で、血管拡張などの複数の治療を行うことができ、治療中にバルーンカテーテルを交換するなどの作業を必要としなくなる。このため、治療作業の容易化、医療コストの低減を図ることができる。
【0051】
【実施例】
次に、本発明を、さらに具体的な実施例について説明する。
実施例1
図1に示すようなIABP用バルーンカテーテル2を準備した。バルーン膜22を構成する薄膜としては、膜厚が0.1mmのポリウレタン膜を用い、拡張時バルーン部の外径が15mmであり、バルーン部の内容積が30ccであり、その軸方向長さが230mmであった。このバルーン膜22は、カテーテル管6および内管10に接合した後で、図3(D)に示す偏平収縮状態で、電子線を照射して架橋させた。電子線の照射条件は、300Dose、1分であった。
【0052】
内管10としては、外径が1.5mmであり、肉厚が0.3mmであるポリアミド製細管を用いた。内管10の全長は、830mmであった。また、カテーテル管6としては、長さ550mmのポリウレタン製のチューブを用い、その外径は3.0mm、肉厚が0.25mmであった。
【0053】
分岐部としては、図1に示す分岐部8を用いた。
このバルーンカテーテルを、内径20mm、長さ350mmであり、内面をセメントで被ったアクリル製疑似血管内に通し、疑似血管内で毎分80のサイクルで拡張および収縮を14日間繰り返し行い、バルーン膜の状況(耐久性)を観察した。
【0054】
結果を表1に示す。
また、バルーン膜の拡張・収縮の応答性を調べるために、拡張・収縮の限界サイクル(応答性)を求めた。なお、限界応答性は次のようにして求めた。すなわち、30ccの容積のバルーンカテーテルを、図8に示すように、60mmHg(ゲージ圧)の密封容器中の水の中に入れ、バルーンの拡張、収縮を繰り返し、水位のminとmaxとの差hが29.5cc未満となるときのビートサイクル数を限界応答性とした。
【0055】
【表1】
【0056】
比較例1
バルーン膜22を構成する樹脂膜を架橋させない以外は、前記実施例1と同様にしてバルーンカテーテルを作成し、実施例1と同様な条件でバルーン膜の耐久性及び応答性を調べた。結果を表1に示す。
【0057】
実施例2
実施例1において収縮状態での架橋した後さらに、拡張状態で架橋した他は実施例1と同様にバルーンカテーテルを得、その限界応答性等を調べた。結果を表1に示す。
【0058】
評価1
前記表1に示すように、実施例1および2に係るバルーンカテーテルは、比較例1に比較して、膨張・収縮の応答性および耐久性が大幅に向上することが確認された。
【0059】
実施例3
図1に示すようなPTCA用バルーンカテーテル2を準備した。バルーン膜22を構成する薄膜としては、膜厚が0.05mmのポリエチレン膜を用い、拡張時バルーン部の外径が3mmであり、外径3mm部分の軸方向長さが20mmであった。このバルーン膜22は、カテーテル管6および内管10に接合した後で、図5(A)に示す収縮巻き付け状態で、電子線を照射して架橋させた。電子線の照射条件は、300Dose、1分であった。
【0060】
内管10としては、外径が0.6mmであり、肉厚が0.1mmであるポリアミド製細管を用いた。内管10の全長は、1400mmであった。また、カテーテル管6としては、長さ1370mmのポリエチレン製のチューブを用い、その外径は1mm、肉厚が0.1mmであった。
【0061】
分岐部としては、図1に示す分岐部8を用いた。
このバルーンカテーテルのバルーン膜22を図5(A)に示すように収縮させて内管10に巻き付けた。巻き付け後のバルーン膜22の外径は0.85mmであった。バルーン膜を8気圧で30秒間拡張し、収縮することを3回繰り返した。最終的に収縮後のバルーン膜22の最大外径を調べたところ、0.89mmであり、当初巻き付け時の外径に極めて近いことが確認された。
【0062】
比較例2
バルーン膜22を構成する樹脂膜を架橋させない以外は、前記実施例2と同様にしてバルーンカテーテルを作成し、実施例3と同様な条件で収縮後のバルーン膜22の最大外径を調べたところ、1.1mmであり、当初巻き付け時の外径に比較して大幅に大きくなり、そのままでは、次の狭窄部の治療に用いることができないことが確認された。
【0063】
なお、本発明は、上述した実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0064】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、IABP治療のように、バルーン膜の拡張・収縮を多数回繰り返す用途に用いる場合には、バルーン膜の拡張・収縮時におけるバルーン膜の無駄な動きがなくなり、拡張・収縮の応答性が向上すると共に、バルーン膜が体腔内壁で擦れることが少なくなり、バルーン膜の耐久性が向上する。
【0065】
また、本発明によれば、PTCA治療のように、一つの治療部位に対してバルーン膜が数回以下の膨張・収縮を行う用途に用いる場合には、同じバルーンカテーテルを用いて、そのバルーンカテーテルのバルーン膜を次の治療部である狭窄部に押し進め、その狭窄部に容易に挿入することができる。したがって、同一のバルーンカテーテルを用いて、数カ所の治療部位で、血管拡張などの複数の治療を行うことができ、治療中にバルーンカテーテルを交換するなどの作業を必要としなくなる。このため、治療作業の容易化、医療コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテルの概略断面図である。
【図2】図2は図1に示すバルーンカテーテルの使用方法の一例を示す概略断面図である。
【図3】図3(A)〜(D)はバルーン膜の挿入時から膨張・収縮状態に至る状態を示す横断面図である。
【図4】図4(A)〜(C)は図1に示すバルーンカテーテルの他の使用例を示す概略断面図である。
【図5】図5(A),(B)はバルーン膜の挿入時から膨張・収縮状態に至る状態を示す横断面図である。
【図6】図6(A)〜(D)は従来例に係るバルーン膜の挿入時から膨張・収縮状態に至る状態を示す横断面図である。
【図7】図7(A)〜(C)は従来例に係るバルーン膜の挿入時から膨張・収縮状態に至る状態を示す横断面図である。
【図8】図8はバルーンカテーテルの応答性を調べるための装置の概略図である。
【符号の説明】
2… バルーンカテーテル
4… バルーン
6… カテーテル管
8… 分岐部
10… 内管
12… 第2ルーメン
14… 第1ルーメン
22… バルーン膜
Claims (2)
- カテーテル管近位端からカテーテル管のルーメンを通して、カテーテル管の遠位端部にあるバルーン膜内に流体を送り込み、該バルーン膜を拡張でき、かつバルーン膜から流体を抜いて該バルーン膜を収縮できるバルーンカテーテルであって、
前記バルーン膜が、収縮状態の形状で架橋された樹脂で構成してあるバルーンカテーテル。 - 拡張状態の形状に樹脂を成形してバルーン膜を得る工程と、
次いで、このバルーン膜を収縮状態の形状に折り畳み、該バルーン膜を構成する樹脂を架橋する工程とを有するバルーンカテーテルの製造方法。
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