JP3682932B2 - 抗菌性材料の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、溶液状の抗菌性組成物および同組成物を用いて抗菌性の付与された抗菌性材料を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、合成樹脂製品が多用されるにいたり、例えば、台所用品等のように衛生面で注意を払う必要がある分野に用いられる場合に、合成樹脂表面の菌による汚染が問題となってきている。また、建築用資材として使用されているコーキング材表面に菌や黴がはえ、衛生面であるいは外観が悪くなる等の問題が生じている。その対策として、合成樹脂中に抗菌性組成物を混入し、合成樹脂表面にこの組成物を溶出させて樹脂表面の殺菌を行う方法が用いられている。また、合成樹脂中の抗菌・抗黴性組成物を積極的に溶出させ、この樹脂表面およびその周囲に対して抗菌・抗黴効果を得るためには、チアベンダゾール等の有機抗菌抗黴性組成物が用いられる。
【0003】
また、抗菌性組成物もその表面の永久的かつ完全な殺菌性を保証するものでないため、定期的な表面殺菌を行う方が、より清潔性を維持できる。この場合の表面殺菌として、従来より一般的に次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系漂白剤がよく用いられる。
さらに、植物抽出物の中には、テルペン系化合物が抗菌効果を有することが知られている。この種の化合物を用いた技術として、白せん菌の治療剤作成(特開昭63−30424号公報)、植物からフィトンチッドを取り出して冷蔵庫に取り付けた、防臭防黴ユニット付冷蔵庫(特開昭61−228283公報)、空気清浄器(特開昭61−268934公報)が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、有機抗菌抗黴材料は揮発性を有するため、これを合成樹脂に含有させると、この合成樹脂の周囲環境が汚染され、またこの合成樹脂の表面と接触した排液中には、抗菌抗黴材料が含有されており、これが排水環境汚染の原因となり、さらに、下水処理中の活性汚泥に影響を及ぼすなどの問題がある。
また、銀イオン(Ag+)を用いた銀系抗菌剤は、台所で常用する漂白剤を用いると、銀イオンが塩素系漂白剤中の塩素イオンと反応し不溶性の塩化銀を生成する。さらに、この塩化銀は光反応活性が高いためすぐに金属銀、酸化銀に変化することにより、黒変するのみならず、抗菌性能を低下させるという問題点があった。また、樹脂中に混練した場合、銀塩安定化のため用いる担持体の屈折率が混練樹脂のそれと異なるため、樹脂を不透明にさせたり、担持体の吸湿性により成形樹脂表面の平滑性を損なうなどの問題点もあった。
さらに、植物抽出物の場合、植物内に存在する物質の多くは芳香性物質であり、揮発性を有するため、これら物質を樹脂に混入しようとしても、樹脂の成形時の加熱により蒸発するため、混入することができないという問題がある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の抗菌性材料の製造方法に用いる抗菌性組成物は、銀イオン、亜硫酸イオンおよびチオ硫酸イオンを構成成分とするチオスルファト銀錯体の水溶液からなり、前記亜硫酸イオンおよびチオ硫酸イオンの銀イオンに対するモル比がそれぞれ1〜6および1〜18であり、さらにチオスルファト亜鉛錯体を含むものである。
ここに用いるチオスルファト金属錯体は、銀錯体で説明すると、酢酸銀、硫酸銀および硝酸銀の少なくとも一種の可溶性銀塩を純水に溶解し、その溶液に亜硫酸カリウムとチオ硫酸カリウムチオまたは硫酸ナトリウムと亜硫酸ナトリウムを順次添加して溶解することにより調製することができる。また、チオ硫酸ナトリウムまたはチオ硫酸カリウムの飽和溶液に少なくとも一種の可溶性銀塩を溶解する方法、亜硫酸ナトリウムまたは亜硫酸カリウムの飽和溶液に少なくとも一種の可溶性銀塩を溶解した後、チオ硫酸ナトリウムまたはチオ硫酸カリウムを溶解する方法によって調製することができる。
【0006】
また、本発明における抗菌性組成物は、さらに、チオスルファト亜鉛錯体を含む。このチオスルファト亜鉛錯体を形成するための亜鉛塩としては、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛および硝酸亜鉛の少なくとも一種の可溶性亜鉛塩が好ましい。
さらに、上記のチオスルファト金属錯体の水溶液をpH6〜8に保つのが好ましい。pH調整には、上記溶液に酢酸、クエン酸、酒石酸などのカルボン酸、あるいはほう酸、燐酸などの無機物弱酸を添加する。
【0007】
また、本発明における抗菌性組成物は、さらに非水溶媒を含み、上述の水溶液を非水溶媒に分散させたエマルションからなる抗菌性組成物であってもよい。
【0008】
さらに、本発明は、上記の抗菌性組成物を用いて各種の抗菌性材料を製造する方法を提供する。
すなわち、上記の水溶液を用いる場合は、これを水性塗料中に混合し、この塗料を被塗装物に塗装して抗菌性の付与された塗装皮膜を形成する。
また、上記の水溶液を抄紙工程で添加することにより、抗菌性の付与された紙を製造する。
さらに、上記の水溶液を抄紙後の乾燥工程あるいは塗工工程、さらには完成後に、紙に添着して抗菌性の付与された紙を製造する。
【0009】
また、上記のエマルションからなる抗菌性組成物を用いる場合は、この抗菌性組成物を熱硬化牲樹脂に混合し、硬化させて抗菌性の付与された樹脂成形体を製造する。
さらに、この抗菌性組成物を塗料樹脂中に混合し、これを被塗装物に塗装して抗菌性の付与された塗装皮膜を形成する。
ここにおいて、上記のエマルションの分散媒である非水溶媒は、前記熱硬化性樹脂、塗料樹脂またはそれらの溶媒と相溶するものであることを要する。
なお、上記塗装皮膜と金属基地面の間に、含水率の低い樹脂塗膜を設けることが好ましい。
【0010】
【作用】
本発明で抗菌性組成物として用いるチオスルファト金属錯体の水溶液は、その錯体の安定性が高いため担持体を必要とせず、従って樹脂中に混練した場合、樹脂の透明性、樹脂表面の平滑性などの樹脂固有の特性をそのまま維持させることができる。特に、可溶性銀塩の水溶液に、亜硫酸塩を添加して亜硫酸錯体を形成させた後、さらにチオ硫酸塩を加えて形成したチオスルファト銀錯体は、安定性が向上している。この際、亜硫酸塩およびチオ硫酸塩と銀の比率を制御することでさらに安定性を向上させることができる。具体的には、原料中のチオ硫酸イオンと銀イオンのモル比(S23 2-)/(Ag+)を1から18、亜硫酸イオンと銀イオンのモル比(SO3 2-)/(Ag+)を1から6にすることにより、生成する抗菌性組成物の安定性、とりわけ耐光・耐熱変色性を向上させることができる。また、pHを6〜8に制御することで一層の安定性を向上させることができる。
【0011】
本発明の抗菌性組成物は、担体を使用することが困難な材料や、紙のように繊維に直接添着できる材料にも、適用が可能である。
さらに、本発明の抗菌性組成物は、溶液状であることから、液体状の樹脂や塗料中に容易に分散させて抗菌性を付与することができる。
また、銀を錯体化して安定化させているため、安定した抗菌作用が得られる。さらに、環境中に溶出しても環境汚染の原因となりにくい。また、塩素濃度の高い雰囲気中で使用しても変色抗菌性能の低下がみられにくい。
【0012】
また、原料中の酢酸銀の代わりに硫酸銀を用いることにより、生成溶液状抗菌性組成物中の酢酸残留をなくし、溶液状抗菌性組成物の酢酸臭および溶液状抗菌性組成物の加熱加工時の酢酸臭を除去できる。
金属基地面に銀を含む抗菌性塗装膜を設けた場合、金属表面と塗装膜が接し、その部分に水が介在すると局部電池を形成し、金属のイオン化傾向が銀よりも高い場合、腐食現象を引き起こす。ただし、金属がアルミニウムの場合は、表面にアルミナ層を形成し、腐食を起こしにくい。そこで、金属表面に水を含みにくい樹脂を用いた絶縁層を設けることで、銀を含む塗装膜を形成しても腐食を起こしにくくなる。
【0013】
【実施例】
[実施例1]
まず、酢酸銀の水溶液を調製した。酢酸銀(CH3COOAg)は溶解度が小さいので、飽和溶解度に近い7.7g/lを60℃以下の温度で溶解した。この溶解工程において、60℃を越える温度では酢酸銀が分解するので、60℃以下室温以上の温度範囲が好ましい。次に、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)を酢酸銀1モルにたいして3モルの割合で添加し、充分溶解させた後、チオ硫酸ナトリウム(Na223)を酢酸銀1モルに対して12モルの割合で添加し溶解させた。この時の溶解工程は40℃〜室温の温度範囲が好ましい。
【0014】
このようにして調製されたチオスファト銀錯体の水溶液に、酢酸亜鉛を亜鉛/銀比率が2になるように添加し、溶解させた。これに酢酸を加えてpHを7.0に調製した。こうして溶液状抗菌性組成物を得た。
表1は、上記と同様にして酢酸銀に対する亜硫酸塩およびチオ硫酸塩のモル比を変えて各種の抗菌性組成物を調製し、その抗菌性や安定性などのついて評価した結果を示す。
【0015】
【表1】
Figure 0003682932
【0016】
なお、評価基準は以下のとおりである。
黒変:溶液調製中あるいは調製後に、溶液に色調変化がある。
▲ :やや溶液に色調変化がある。
△ :実用上差し支えのない抗菌性がある。
○ :抗菌性、色調とも良好。
◎ :抗菌性、色調ともに良好、とりわけ耐光性極めて良好。
粘凋:乾燥後、その表面に粘凋性あるいは若干の吸湿性がある。
【0017】
本実施例では、pH調節のために酢酸を用いたが、クエン酸、酒石酸などのカルボン酸、あるいはほう酸、燐酸などの無機弱酸を添加しても溶液の安定性は若干低下するが実用上差し支えがない。
また、実施例では酢酸銀を銀原料として用いたが、その代わりに硫酸銀を用いても同様の抗菌性能が得られた。硫酸銀を用いることにより、生成する溶液状抗菌性組成物中の酢酸残留をなくし、酢酸臭およびこれを樹脂と混練する際の酢酸臭を除去することができる。
さらに、銀錯体のカチオンとしてナトリウムを用いたが、カリウムを用いても実用上差し支えのない耐熱性が得られる。
【0018】
[実施例2]
実施例1の溶液状抗菌性組成物100重量部を界面活性剤のラウリン酸カリウム1重量部とともに、非水溶媒のキシレン100重量部中に分散・乳化させ、非水溶媒に抗菌性材料を分散させたエマルション抗菌性組成物を得た。
【0019】
[実施例3]
実施例2のエマルション抗菌性組成物を、その銀換算重量にして1.5重量部相当を不飽和ポリエステル樹脂100重量部に添加し、均一に分散させ、さらに硬化剤、着色剤、骨材などと共に成形型に注型し、120℃で1時間加熱して硬化させ、抗菌性を付与した樹脂成形体を得た。
[実施例4]
実施例2のエマルション抗菌性組成物を、その銀換算重量にして1.5重量部相当をウレタン樹脂塗料100重量部に配合し、均一に分散させた。この塗料を溶媒で希釈し、下塗り層を設けた金属表面に約20μmの塗膜厚みにスプレー塗装した。
【0020】
[実施例5]
実施例1の溶液状抗菌性組成物を水分散アクリル−スチロールエマルジョン樹脂塗料に加えて均一に分散させた。溶液状抗菌性組成物の添加割合は、樹脂分100重量部に対して銀換算重量にして1.5重量部相当である。この分散液を木質生地表面に約30μmの塗膜厚みで刷毛塗り塗装した。
[実施例6]
製紙工程は、パルプ化工程、調成工程、抄造工程、加工工程および仕上げ工程からなる。この抄造工程に用いるパルプの中にサイズ剤などと共に実施例1の溶液状抗菌性組成物を繊維分換算100重量部に対し、銀換算重量にして1.5重量部の割合となるよう配合し、均一に分散させ、丸網抄紙装置で抄紙し、抗菌性の付与された紙を得た。
なお、抄紙装置には、防錆処理が施されている。
【0021】
[実施例7]
製紙工程の最終工程で紙に塗料を塗布する。この塗料中に、カオリンなどの顔料と共に実施例1の溶液状抗菌性組成物を添加し、抗菌性の付与された紙を製造した。
[比較例1]
溶液状抗菌性組成物を用いない他は実施例3と同様にして、不飽和ポリエステル樹脂を硬化し、成形体を得た。
【0022】
以上実施例3〜7および比較例1の樹脂成形体などの各サンプルについて、以下に示す抗黴試験、抗菌試験を行った。その結果を表2に示す。
表2より、実施例3〜7のサンプルは、いずれも実用的な抗菌・抗黴性能を有することがわかる。
【0023】
抗黴試験:日本工業規格のカビ抵抗牲試験(JIS Z 2911)の繊維製品用防黴試験によるハローテスト法に準じ、14日後に評価した。用いた黴は、クラドスポリウム クラドスポリオイデス(Cladosporium cladosporioides)、ケトミウム グロボサム(Chaetomium globosum)、ペニシリウム シトリナム(Penicillium citrinum)、およびアスペリギルス ニゲル(Asperigillus n
iger)の4種である。
抗菌試験:エスケリチア コ−ライ(Escherichia coli)、スタフィロコックス アウレウス(Staphylococcus aureus)、およびバチルス サブチリス(Bacillus subtillis)の各菌約104cfu/mlを懸濁させた液滴0.2mlをサンプルの表面に滴下し、温度37℃、湿度90%以上の環境で24時間放置後、生存菌数を計測し、102以上の菌数減少が見られた場合効果ありとした。
【0024】
【表2】
Figure 0003682932
【0025】
[実施例8]
実施例1の処方と異なる溶液状抗菌性組成物の製法について説明する。
まず、酢酸銀を40〜50℃において7.7g/lの割合で純水に溶解し、次いで、この溶液に酢酸銀1モルに対して3モルの亜硫酸ナトリウム、次に3モルのチオ硫酸ナトリウムをそれぞれ添加して溶解させた。
このように調製された溶液状抗菌性組成物について、実施例1と同様の使用用途を試みた結果、同様あるいはそれ以上の効果が得られた。
【0026】
【発明の効果】
以上のように本発明の溶液状抗菌性組成物は、組成物そのものの安定性が高いため担持体を必要とせず、樹脂中に混練した場合、担持体に起因する弊害を生じることなく、すなわち樹脂の透明性、樹脂表面の平滑性をそのまま維持することができる。また、従来の抗菌剤のように担持体の粒度にとらわれることなく、各種材料に容易に抗菌性を付与することができる。

Claims (3)

  1. 銀イオン、亜硫酸イオンおよびチオ硫酸イオンを構成成分とするチオスルファト銀錯体の水溶液からなり、前記亜硫酸イオンおよびチオ硫酸イオンの銀イオンに対するモル比がそれぞれ1〜6および1〜18であり、さらにチオスルファト亜鉛錯体とを含み、前記水溶液を非水溶媒に分散させたエマルションからなる抗菌性組成物、を熱硬化牲樹脂に混合し、硬化させて抗菌性の付与された樹脂成形体を得る抗菌性材料の製造方法。
  2. 銀イオン、亜硫酸イオンおよびチオ硫酸イオンを構成成分とするチオスルファト銀錯体の水溶液からなり、前記亜硫酸イオンおよびチオ硫酸イオンの銀イオンに対するモル比がそれぞれ1〜6および1〜18であり、さらにチオスルファト亜鉛錯体とを含み、前記水溶液を非水溶媒に分散させたエマルションからなる抗菌性組成物、を塗料樹脂中に混合し、これを被塗装物に塗装して抗菌性の付与された塗装皮膜を形成する抗菌性材料の製造方法。
  3. 金属基地面に含水率の低い樹脂塗膜を設け、この樹脂塗膜上に前記塗装皮膜を形成する請求項記載の抗菌性材料の製造方法。
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