JP3668762B2 - 透湿防水性布帛 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、透湿防水性布帛に関し、さらに詳しくは、布帛表面が熱可塑性ポリエーテル-エステル系エラストマーで構成された透湿性、耐水圧性に優れ、接着性が良好で、廃棄処理の対策がなされた透湿防水性布帛に関する。
【0002】
【従来の技術】
透湿防水性布帛には、身体からの発汗による水蒸気を衣服外へ放出し、且つ、雨が衣服内に入ることを防止する機能が必要とされる。これらの機能を付与するために、従来は、ポリテトラフルオロエチレンからなるラミネート布帛、ポリウレタン系エラストマーからなるラミネート布帛及びコーティング布帛が用いられてきた。しかしながら、これらポリテトラフルオロエチレン及びポリウレタン樹脂は、廃棄されて燃焼された場合、毒ガスが発生するといった環境問題が発生し現在ではこれらの問題を回避することは出来ない。
【0003】
一方、ポリエーテル−エステル系エラストマーは、優れた成形加工性、耐熱性、機械特性を有し、そのフィルムは弾性等の風合面で優れており、燃焼時の環境保護の面でも問題はないため、前記ポリテトラフルオロエチレンフィルム及びポリウレタン系エラストマーフィルムの代替品として好ましい。ポリエーテル−エステル系エラストマーを用いた例として、米国特許第4493870号公報には、短鎖エステル単位のテトラメチレングリコールが70モル%以上であるエーテル-エステル系エラストマーフィルムのラミネート布帛が開示されているが、該ポリエーテル-エステル系エラストマーフィルムをラミネートする場合には、フィルムの弾性が高すぎるため、布帛との接着性が不良でフィルムが剥離するという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来廃棄処理の際に問題となっているポリテトラフルオロエチレンやポリウレタン系エラストマーに代えてポリエステル系エラストマーを使用し、さらに該ポリエステル系エラストマーが有していた剥離の問題点を解決し、これにより透湿性、耐水圧性に優れ、接着性が良好で、廃棄処理にも考慮された透湿防水性布帛を提案することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、少なくとも布帛の片側面の一部がポリエーテル−エステル系エラストマーからなる層により被覆されてなる透湿防水布帛において、ポリエーテル−エステル系エラストマーによる被覆がコーティングまたはラミネートによるものであり、該ポリエーテル−エステル系エラストマーが長鎖エステル単位及び短鎖エステル単位からなり、該長鎖エステル単位がポリエチレングリコールとジカルボン酸若しくはそのエステル形成性等価体との共重合体からなり、該短鎖エステル単位がエチレングリコール及びテトラメチレングリコールとジカルボン酸若しくはそのエステル形成性等価体との共重合体からなり、且つ、該短鎖エステル単位のエチレングリコールとテトラメチレングリコール中に占めるテトラメチレングリコールのモル分率が70モル%未満であることを特徴とする透湿防水性布帛にある。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の透湿防水性布帛は、少なくとも該布帛の片側面の一部が、ポリエーテル−エステル系エラストマーからなる層により被覆されてなるものである。該ポリエーテル−エステル系エラストマーは、長鎖エステル単位及び短鎖エステル単位からなり、該短鎖エステル単位は、全ポリエーテル−エステル系エラストマーの30〜70重量%の範囲にあることが好ましい。該短鎖エステル単位の割合が、30重量%未満であるポリエーテル−エステル系エラストマーは比較的低融点であって、加工性が不良であり、また、該短鎖エステル単位が、70重量%を超えるポリエーテル−エステル系エラストマーの場合には、比較的高融点であり、さらに、コーティングを施す際に溶剤に溶け難いという問題があり、やはり加工性が不良である。
【0007】
本発明において使用し得るポリエーテル-エステル系エラストマーの酸成分は、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3−スルホイソフタル酸ナトリウム等の芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、又は、これらのエステル形成性誘導体から選ばれた少なくとも1種が挙げられるが、好ましくは、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸又はこれらのエステル形成性誘導体が例示される。
【0008】
勿論、このような酸成分の一部(通常は、全酸成分を基準として30モル%以下)は、他のジカルボン酸成分やオキシカルボン酸成分で置換されていてもよい。なお、該ポリマー中には、各種安定剤、紫外線吸収剤等必要に応じて配合されていてもよい。
【0009】
次に、本発明において使用し得るポリエーテル−エステル系エラストマーの長鎖エステル単位のグリコール成分としては、ポリエチレングリコール、ポリ1,2−プロピレングリコール、ポリ1,3−プロピレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体等のポリアルキレングリコールのうち少なくとも1種が挙げられるが、満足できる透湿性を得るためにはポリエチレングリコールが最も好ましく例示され、その平均分子量が600〜8000の範囲にあるものが好ましい。該平均分子量が600未満であると、満足できる機械的物性が得られず、また、該平均分子量が8000を超えた場合には、相分離のためにポリエーテル-エステルの調整において問題を引き起こす場合がある。
【0010】
また、ポリエーテル−エステル系エラストマーの短鎖エステル単位のグリコール成分は、エチレングリコール及びテトラメチレングリコールからなり、該エチレングリコール及びテトラメチレングリコール中に占めるテトラメチレングリコールのモル分率が70モル%未満のものが好ましく使用される。該テトラメチレングリコールが70モル%を超えると、コート層又はフィルム層自体は柔軟となるが、布帛とのモジュラス差が大きすぎるため、耐揉み性が悪く、コート層及びフィルム層と布帛の界面に剥離が生じやすい。
【0011】
上記テトラメチレングリコールのモル分率のさらに好ましい範囲は、70モル%未満〜50モル%以上の範囲である。
【0012】
本発明の透湿防水性布帛は、このようなポリエーテル−エステル系エラストマーが少なくとも布帛の片側面の一部にコーティングされるか、若しくは、ポリエーテル−エステル系エラストマーからなるフィルムが少なくとも布帛の片側面の一部にラミネートされているものである。
【0013】
ポリエーテル−エステル系エラストマーを布帛の片側面の一部にコーティングする方法としては、ポリエーテル−エステル系エラストマーを該エラストマーが溶解可能な溶剤で溶解した後に、該布帛表面上にコーティングし、乾式法、若しくは、湿式法により溶剤を除去することにより得られる。
【0014】
該ポリエーテル−エステル系エラストマーが溶解可能な溶剤としては、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、エチレンホルマール、トルエン、クロロホルム、塩化メチレンの1種、又は、2種以上の有機溶剤が挙げらが、低沸点及び毒性を考慮した場合、エチレンホルマールを使用するものが最も好ましい。
【0015】
エチレンホルマールを用いる場合は、該ポリエーテル−エステル系エラストマーを2〜30重量%、好ましくは、5〜20重量%の範囲で使用して、50〜60℃の温度でエチレンホルマールに溶解させ溶液を調合する。
【0016】
また、布帛上にコーティングする方法としては、通常のコーティング法、例えば、ナイフコーター等を用いて行えばよいが、コーティングの量としては、コーティング層が5〜50μm、好ましくは、10〜20μmの範囲となるように行えばよい。該コーティング層が5μm未満の場合には、均一な皮膜を形成することが困難であり、また、50μmを超える場合には風合として弾性が強くなり、また、透湿性も低下するので好ましくない。
【0017】
該エチレンホルマールを除去する方法としては、乾式法と湿式法とがあるが、乾式法においては、温度:70〜170℃の乾熱条件下、好ましくは、温度:70〜150℃の範囲で行われる。湿式法においては、ポリエステル系エラストマーが不溶で、エチレンホルマールが可溶な溶液、例えば、温水中にてエチレンホルマールを抽出した後、乾燥を行う。
【0018】
また、ポリエーテル−エステル系エラストマーからなるフィルムを作成する方法としては、公知の方法、例えば、インフレーション法やダイ押出し法により得た、厚さ:3〜30μmの均一なフィルムを使用するものがよい。該フィルムの厚さが3μm未満の場合には、ラミネートの作業が困難となり均一な耐水圧が得られないおそれがあり、また、フィルムの厚さが30μmを超える場合には、透湿性が低下するおそれがある。得られたフィルムは種々の方法、例えば、熱処理、ミシン掛け、あるいは、接着剤の使用により付着することが出来る。
【0019】
なお、本発明で使用する布帛に用いる繊維としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系合成繊維、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド系合成繊維、ポリアクリルにトリル系合成繊維、ポリビニル系合成繊維、トリアセテート等の半合成繊維が挙げられ、さらに、ポリエチレンテレフタレート/木綿、ナイロン6/木綿等の混合繊維から成る織物、編物、不織布等の繊維布帛を挙げることができる。
【0020】
本発明では、耐水性を向上させるために、前記の繊維布帛に撥水処理を施すことが好ましい。該撥水加工はコーティング層やラミネート層の形成前後のいずれでもよいが、特に、コーティングの場合には、溶液の布帛内部への浸透を防ぐという点で、予め撥水加工を施した布帛を使用し、該撥水加工布帛にコーティングを施すものがより好ましい。この場合の撥水剤としては、パラフィン系撥水剤やポリシロキサン系撥水処理剤、フッ素系撥水処理剤等の公知のものが使用でき、その処理も一般に行われているパディング法、スプレー法等の公知の方法で行えばよい。
【0021】
【発明の効果】
本発明は、前記のようなポリエーテル-エステル系エラストマーを布帛上の片側面の一部にコーティング、若しくは、フィルムをラミネートすることにより、接着性、風合いに優れた透湿防水性布帛が得られる。すなわち、ポリエーテル-エステル系エラストマーに長鎖エステル単位と短鎖エステル単位とからなるものを使用し、該短鎖エステル単位のグリコール成分であるテトラメチレングリコールを70モル%未満としたことにより、繰返しの引張り試験の後も剥離が全くないものが得られた。さらに、本発明により得られた布帛は燃焼時に結う毒ガスを発生しないために、廃棄処理の際に起こる問題を解決することが可能である。
【0022】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれにより制限されるものではない。実施例において、各物性の測定は下記の方法により行い、また、実施例で使用したポリエーテル−エステル系エラストマーは、下記の方法により作成した。
【0023】
(1)ポリエーテル−エステル系エラストマーの固有粘度
フェノールとテトラクロロエタンとの混合溶剤(重量比=6:4)を用い、35℃の温度条件下で固有粘度を測定した。
【0024】
(2)融点
示差走査型熱量計(TA instrument製、DSC29290)を用いて、窒素気流中10℃/分の昇温速度で走査させ測定した。
【0025】
(3)テトラメチレングリコール/エチレングリコール含有率
90MHz FT-NMR(日立製作所製 R1900)を用いて定量した。
【0026】
(4)透湿度試験
JIS L−1099法(塩化カルシウム法)に準拠して行った。
【0027】
(5)耐水圧試験
JIS L−1092法(高水圧法)に準拠して行った。
【0028】
(6)繰返し引張り試験
布帛の経緯45度方向の幅:10mm、試験長:50cmのサンプルを試験速度:50mm/分で5mm(10%)引張り、これを繰返して100回繰り返す。試験後に布帛と樹脂層に剥離が見られなかったら「○」、剥離が見られたら「×」とする。
【0029】
(7)ポリエーテル-エステル系エラストマーの作成
テレフタル酸ジメチル:194部、エチレングリコール:43.3部、テトラメチレングリコール:72部、ポリエチレングリコール(平均分子量:4000):124部、及び、触媒として、テトラブチルチタネート:0.391部を蒸留装置を備えた反応容器に仕込み、この反応物を窒素ガス雰囲気下、220℃の温度で反応缶中に生成するメタノールを系外に除去しながら210分間エステル交換させた。エステル交換反応終了後、このエステル交換反応物を攪拌装置、窒素導入口、減圧口、蒸留装置を備えて、240℃の温度に加熱した反応容器に移し、該反応混合物に熱安定剤としてスミライザーGS(住友化学工業(株)製)を0.31部添加し窒素置換した後、常圧で約10分、15〜20mmHgで約30分、さらに0.1mmHgで255℃まで昇温し重縮合反応を行い、所定の溶融粘度に到達した後、酸化防止剤としてスミライザーGA−80(住友化学工業(株)製):0.62部を添加し反応終了とした。得られたポリマーの固有粘度は、1.163、長鎖エステル単位と短鎖エステル単位の重量比=60:40、融点は176℃、テトラメチレングリコール/エチレングリコールのモル比は67:33であった。
【0030】
[実施例1]
前記(7)により得られたポリエーテル−エステル系エラストマー:10部をエチレンホルマール:90部に60℃の温度で加熱し完全に溶解させ、ナイフコーターにより、撥水処理を施したポリエステル布帛(耐水圧:600mmH2O、透湿度:9000g/m2・24hr)上に、コーティング層が15μmになるようにクリアランスを調整してコートした後、120℃の温度で乾燥を行った。得られた布帛は、適度な弾性を有する風合の良好なものであった。該布帛の評価結果を表1に示す。
【0031】
[実施例2]
前記(7)により得られたポリエーテル-エステル系エラストマーを用いて、インフレーションフィルム製造装置(プラコー社製)により厚み:15μmのフィルムを作成し、ポリエステル布帛(耐水圧:600mmH2O、透湿性:9000g/m2・24Hr)上に熱融着させた。得られた布帛は、実施例1と同様に風合良好なものであった。該布帛の評価結果を表1に併せて示す。
【0032】
[実施例3]
エチレングリコールとテトラメチレングリコールのモル比を50:50に変更する以外は、前記(7)と同様に行って、ポリエーテル-エステル系エラストマーを作成し、実施例2と同様に行い透湿防水性布帛を作成した。得られた布帛は、実施例2と同様に風合良好なものであった。該布帛の評価結果を表1に併せて示す。
【0033】
[比較例1]
テトラメチレングリコールとエチレングリコールのモル比を80:20に変更する以外は、前記(7)と同様に行って、ポリエーテル-エステル系エラストマーを作成し、実施例2と同様に行い透湿防水性布帛を作成した。該布帛の評価結果を表1に併せて示す。
【0034】
[実施例4]
実施例1において、コーティング層を30μmとしたものを作成し、他の条件については実施例1と同様に行って、透湿防水性布帛を得、布帛の性能を実施例1と同様に評価した。該布帛の評価結果を表1に併せて示す。
【0035】
[実施例5]
実施例2において、ラミネート層を25μmとする以外、他の条件については実施例2と同様に行って、透湿防水性布帛を得、布帛の性能を実施例2と同様に評価した。該布帛の評価結果を表1に併せて示す。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例では、いずれも良好な引張り試験結果が得られたが、比較例では、剥離が見られ満足できるものではなかった。
Claims (7)
- 少なくとも布帛の片側面の一部がポリエーテル−エステル系エラストマーからなる層により被覆されてなる透湿防水布帛において、ポリエーテル−エステル系エラストマーによる被覆がコーティングまたはラミネートによるものであり、該ポリエーテル−エステル系エラストマーが長鎖エステル単位及び短鎖エステル単位からなり、該長鎖エステル単位がポリエチレングリコールとジカルボン酸若しくはそのエステル形成性等価体との共重合体からなり、該短鎖エステル単位がエチレングリコール及びテトラメチレングリコールとジカルボン酸若しくはそのエステル形成性等価体との共重合体からなり、且つ、該短鎖エステル単位のエチレングリコールとテトラメチレングリコール中に占めるテトラメチレングリコールのモル分率が70モル%未満であることを特徴とする透湿防水性布帛。
- ジカルボン酸がテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸又はこれらのエステル形成性誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種のジカルボン酸である請求項記載の透湿防水性布帛。
- ポリエーテル−エステル系エラストマーの30〜70重量%が短鎖エステル単位である請求項1又は2記載の透湿防水性布帛。
- 短鎖エステル単位のエチレングリコールとテトラメチレングリコール中に占めるテトラメチレングリコールのモル分率が70モル%未満乃至50モル%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の透湿防水性布帛。
- 長鎖エステル単位のポリエチレングリコールが600〜8000の範囲の平均分子量を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の透湿防水性布帛。
- ポリエーテル−エステル系エラストマーによる被覆がコーティングによる厚さ5〜50μmのものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の透湿防水性布帛。
- ポリエーテル−エステル系エラストマーによる被覆がラミネートによる厚さ3〜30μmのものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の透湿防水性布帛。
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