JP3660230B2 - 天然型抗腫瘍性又は抗ウイルス性物質およびその用途 - Google Patents
天然型抗腫瘍性又は抗ウイルス性物質およびその用途 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬の分野で有用であり、腫瘍細胞・ウイルスの増殖を阻害し、抗腫瘍効果・抗ウイルス効果を発揮する天然由来の新規化合物、その製造法、その用途及びその産生細胞に関する。
更に詳細には、本発明は、ヒト胎盤脱落膜由来の細胞株、代表的にはTTK−1細胞からさらにクローニングされたCD57陽性、HLA−DR強陽性のヒト型ナチュラルサップレッサー(NS)細胞「CD57+ HLA−DRbrightNScell line(TTK−1)」(以下、「NS細胞」と略記する。)の培養生産物、その製造方法、その用途及び当該NS細胞に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
背景技術
癌化学療法の分野では、ブレオマイシン(Bleomycin)及びアドリアマイシン(Adriamycin)等の多くの微生物代謝産物を臨床的に応用することが試みられ、またこれらは実際に臨床において使用されている。
しかしながら、種々の腫瘍に対してその効果は必ずしも充分ではなく、また、臨床上これらの薬剤に対する腫瘍細胞の耐性現象が明らかにされるにつれ、その臨床的応用性は複雑化している[第47回日本癌学会総会記事、12頁〜15頁(1988年)参照]。
一方、胎仔に対する母系の免疫反応は、一次的には脱落膜組織で制御されており、NK細胞マーカーを有する大顆粒性リンパ球(LGL)に属する大群の細胞集団が初期妊娠のヒトを含む哺乳動物の脱落膜層に集積していることが明らかにされている(森等、イミュノモルキュラー メカニズムズ イン マンマリアンインプランティション、エンドクリン、J.41(サプリメント):S17 [Mori, T et. al, Immunomolecular mechanisms in mammalian implantation. Endocrine. J.41 (Suppl): S17. ])。
このLGLに属するNS細胞は、マウスにおいてはWGAレクチンに対するレセプターを有し、ヒトにおいてはCD57の糖鎖マーカーを有するため、免疫T細胞、B細胞、マクロファージーとは、異なる細胞群であることが知られている。
その機能はMHC−非拘束性にマイトジェンによるリンパ球の分裂反応や混合リンパ球反応等のリンパ球分裂反応を強力に抑制することから、更にNS細胞は癌細胞の分裂を抑制する機能を有していると報告されている(Tilden等、ジャーナル オブ イムノロジー 130巻、1171頁)。
しかしながら、NS細胞の免疫抑制作用、癌細胞増殖抑制作用を司る原因物質については、TGF−βファミリーの蛋白や分子量1万以下のリピッド様物質が指摘されているが(クラーク等、ジャーナル オブ イムノロジー、144巻、3008頁(Clark et. al., J. Immunol )及び(モルタリ等、ジャーナル オブ イムノロジー、144巻、3037頁(Mortari et. al., J. Immunol )、現在のところ正確な構造と機能は全く不明で、その解明が望まれてきた。
本発明の化合物と化学構造が近似する既存の抗腫瘍・抗ウイルス効果を有する化合物としては、フルオロウラシル(Fluorouracil)(米国特許第2802005号及び同2885396号)、ドキシフルリジン(Doxifluridine)(米国特許第4071680号)、テガフール(Tegafur)(英国特許第1168391号)、ジドブジン(Zidovudine;AZT)(ドイツ国特許第3608606号)、ジダノシン(Didanosine;ddI)(欧州特許公開第206497号公報)等が挙げられる。
しかしながら、これらの核酸系抗癌剤、抗ウイルス剤は、効果が見込まれる腫瘍細胞・ウイルスの種類が限られているのみならず、ヒトの正常細胞にも作用するため、細胞毒性が高くその副作用が社会問題化している。
【0003】
発明の開示
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、既存の抗腫瘍剤及び抗ウイルス剤が充分に効果を発揮できない種類の癌及びウイルスを含めて有効性を有する物質をヒト細胞代謝産物中に探索し、種々の耐性癌に対して制癌作用及び抗ウイルス作用を有し、ヒト正常細胞を傷害しない副作用が低減された物質を提供することにある。
【0004】
【発明を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意研究を重ねた結果、NS細胞株がK562,Molt4,U937,BeWo,GCIYヒトがん細胞のアポトーシスによる細胞死を誘導し、がん細胞の分裂反応を抑制し、更に、この細胞株が分泌するアポトーシスによるがん細胞死を誘導する核酸系物質(AIFと命名)を見出し、分離、精製し、構造決定を行った。そして、これらの物質が全く新しい発想による副作用の少ない天然型の制癌剤、抗ウイルス剤およびその他の医薬品として応用開発が可能であると考えられた。
本発明者らは、式(1)の化合物を産生する能力を有するヒト胎盤脱落膜由来のNS細胞を培養し、その培養液(上清および細胞、特に上清)から式(1)の化合物を採取し、要すれば医薬上許容される塩とすることにより、式(1)
【化3】
で表わされる基、R2は、水素原子、水酸基又はメトキシ基を示す。)で表される化合物又はその医薬上許容される塩を得、式(1)の化合物又はその医薬上許容される塩が、ヒト癌細胞のアポトーシスによる細胞死を誘導し、癌細胞の増殖反応を抑制し、抗腫瘍効果又は抗ウイルス効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、上記式(1)(式中のR1およびR2は、上記と同じ定義である。)で表される抗腫瘍性若しくは抗ウイルス性物質又はその医薬上許容される塩、その製造法、上記式(1)の抗腫瘍性もしくは抗ウィルス性物質またはその医薬として許容される塩を有効成分とする医薬、上記化合物の医薬製造および治療への使用、並びにCD57陽性、HLA.DR強陽性のヒト胎盤脱落膜由来のNS細胞に関する。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本明細書で言及する各種の用語及び定義について説明する。
式(1)の化合物は、NS細胞株の培養上清中のアポトーシス インデューシング ファクター(AIF)を物理・化学的方法による分離・精製により得られ、次式(1)
【化4】
で表わされる基、R2は、水素原子、水酸基又はメトキシ基を示す。)で表される化合物で示されるが、これらは逆相高速液体クロマトグラフィーによる活性分画に因んで、P1、P2、P3、P4、P5及びP6と命名される。
ここで、「P1、P2、P3、P4、P5及びP6」とは、具体的には、それぞれ2′−デオキシウリジン、リボチミジン、2′−O−メチルウリジン、チミジン、2′−O−メチルイノシン及び2′−O−メチルグアノシンを意味する。
即ち、式(1)において、R1及びR2がそれぞれ
【化5】
【0006】
以下に、本発明の代表的化合物の理化学的性状を示す。
a)P1の理化学的性状
性状:無色結晶
分子式:C9H12N2O5
mp:165℃
マススペクトル:高分解能FAB−MS;m/z 229[M+1]
UVスペクトル:λ[H2O(pH7.2),max,258.5nm]
1H−NMRスペクトル(300MHz,d−クロロホルム,δppm):図1にP1のNMRチャートを示す。
溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒に溶け、水に溶ける。酸性、中性、塩基性物質の区別:塩基性物質
薄層クロマトグラフィー(メルク社製、キーゼルゲル60F254)
Rf値:0.64[展開溶媒:クロロホルム/メタノール/水(60:40:8)]
高速液体クロマトグラフィー
カラム:TSKgel ODS−80TM 4.6×150mm(トーソー社製)
移動相:0.1%トリフルオロ酢酸を含む水中に、0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルを濃度勾配5%/360分で増加させた系
流速:0.5ml/分
検出:UV214nm
保持時間:20分
【0007】
b)P2の理化学的性状
性状:無色結晶
分子式:C10H14N2O6
mp:183〜185℃
マススペクトル:高分解能FAB−MS;m/z 259[M+1]
UVスペクトル:λ[H2O(pH7),max,267nm]
1H−NMRスペクトル(300MHz,d−クロロホルム,δppm):図2にP2のNMRチャートを示す。
溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒に溶け、水に溶ける。
酸性、中性、塩基性物質の区別:塩基性物質
薄層クロマトグラフィー(メルク社製、キーゼルゲル60F254)
Rf値:0.66[展開溶媒:クロロホルム/メタノール/水(60:40:8)]
高速液体クロマトグラフィー
カラム:TSKgel ODS−80TM 4.6×150mm(トーソー社製)
移動相:0.1%トリフルオロ酢酸を含む水中に、0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルを濃度勾配5%/360分で増加させた系
流速:0.5ml/分
検出:UV214nm
保持時間:29分
【0008】
c)P3の理化学的性状
性状:無色結晶
分子式:C10H14N2O6
mp:159℃
マススペクトル:高分解能FAB−MS;m/z 259[M+1]
UVスペクトル:λ[H2O(pH7),max,263nm]
1H−NMRスペクトル(300MHz,d−クロロホルム,δppm):図3にP3のNMRチャートを示す。
溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒に溶け、水に溶ける。
酸性、中性、塩基性物質の区別:塩基性物質
薄層クロマトグラフィー(メルク社製、キーゼルゲル60F254)
Rf値:0.72[展開溶媒:クロロホルム/メタノール/水(60:40:8)]
高速液体クロマトグフィー
カラム:TSKgel ODS−80TM 4.6×150mm(トーソー社製)
移動相:0.1%トリフルオロ酢酸を含む水中に、0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルを濃度勾配5%/360分で増加させた系
流速:0.5ml/分
検出:UV214nm
保持時間:40分
【0009】
d)P4の理化学的性状
性状:無色結晶
分子式:C10H14N2O5
mp:185℃
マススペクトル:高分解能FAB−MS;m/z 243[M+1]
UVスペクトル:λ[H2O(pH7),max,267nm]
1H−NMRスペクトル(300MHz,d−クロロホルム,δppm):図4にP4のNMRチャートを示す。
溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒に溶け、水に溶ける。酸性、中性、塩基性物質の区別:塩基性物質
薄層クロマトグラフィー(メルク社製、キーゼルゲル60F254)
Rf値:0.69[展開溶媒:クロロホルム/メタノール/水(60:40:8)]
高速液体クロマトグラフィー
カラム:TSKgel ODS−80TM 4.6×150mm(トーソー社製)
移動相:0.1%トリフルオロ酢酸を含む水中に、0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルを濃度勾配5%/360分で増加させた系
流速:0.5ml/分
検出:UV214nm
保持時間:50分
【0010】
e)P5の理化学的性状
性状:無色結晶
分子式:C11H14N4O5
mp:210〜212℃
マススペクトル:高分解能FAB−MS;m/z 283[M+1]
UVスペクトル:λ[H2O(pH7),max,283nm]
1H−NMRスペクトル(300MHz,d−クロロホルム,δppm):図5にP5のNMRチャートを示す。
溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒に溶け、水に溶ける。酸性、中性、塩基性物質の区別:塩基性物質
薄層クロマトグラフィー(メルク社製、キーゼルゲル60F254)
Rf値:0.67[展開溶媒:クロロホルム/メタノール/水(60:40:8)]
高速液体クロマトグラフィー
カラム:TSKgel ODS−80TM 4.6×150mm(トーソー社製)
移動相:0.1%トリフルオロ酢酸を含む水中に、0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルを濃度勾配5%/360分で増加させた系
流速:0.5ml/分
検出:UV214nm
保持時間:64分
【0011】
f)P6の理化学的性状
性状:無色結晶
分子式:C11H15N5O5
mp:218〜220℃
マススペクトル:高分解能FAB−MS;m/z 298[M+1]
UVスペクトル:λ[H2O(pH11,pH1)max,pH11で258nm、pH1で256nm]
1H−NMRスペクトル(300MHz,d−クロロホルム,δppm):図6にP6のNMRチャートを示す。
溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒に溶け、水に溶ける。
酸性、中性、塩基性物質の区別:塩基性物質
薄層クロマトグラフィー(メルク社製、キーゼルゲル60F254)
Rf値:0.59[展開溶媒:クロロホルム/メタノール/水(60:40:8)]
高速液体クロマトグラフィー
カラム:TSKgel ODS−80TM 4.6×150mm(トーソー社製)
移動相:0.1%トリフルオロ酢酸を含む水中に、0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルを濃度勾配5%/360分で増加させた系
流速:0.5ml/分
検出:UV214nm
保持時間:83分
【0012】
以下に、本発明の細胞株の細胞学的性質を示す。
1)細胞の形態:大顆粒性リンパ球(LGL)
2)細胞の由来:妊娠7週齢のヒト胎盤より分離した脱落膜組織細胞
3)継代培養:永久増殖可能
4)生長因子要求性:ヒト正常子宮内皮細胞生長因子やヘパリンを含まない培地で増殖可能である。
5)細胞の維持・増殖条件・増殖依存性:本細胞株は一般に36〜38℃、好ましくは37℃の温度条件下及びpH6.5〜7.5好ましくは7.0の条件下で良好に維持増殖する。
6)細胞増殖能:本細胞の2×105 個細胞/mlを上記培養条件下で培養すると、3日後には少なくとも5×105 個細胞/mlの密度に達する。
7)機能:エストロゲン及びプロゲステロンレセプターを有さず、プロラクチンを分泌しないことより脱落膜間質細胞ではない。核酸系機能物質を産生し、MLRやマイトゲン刺激によるリンパ球分裂反応を抑制する。
8)コロニーの形式:ペトリ皿上ではコロニーを形成するが、軟寒天中では形成しない。
9)凍結保存:−70℃〜−196℃できわめて長期間保存可能である。
10)染色体の性状:メタセントリック
11)染色体分析による確認:ヒト組織由来の細胞
12)染色体数:99〜100、107〜108
13)細胞表面マーカー:CD57陽性、HLA−DR強陽性であることより免疫系細胞である
14)維持・増殖用培地:10%FCS+RPMI−1640培養液又はチミジンを除去した無血清培地において良好に維持増殖する。
【0013】
本発明の細胞株を得るには、例えば、次のような方法を採用すればよい。
即ち、ヒト胎盤脱落膜細胞を取得するには、例えば、ジャーナル・オブ・クリニカル・インヴェスティゲーション(J.Clin.Invest.)第52巻、2745頁−2756頁(1973年)に記載の方法に従って行なえばよい。その概要は、ヒト子宮内膜又は胎盤脱落膜(ヒト子宮内組織であればいずれの組織でもよいが、例えば、胎盤脱落膜部位は入手が容易で好適である。)をできるだけ無菌的に採取し、洗浄後、トリプシン処理により細胞を結合組織より分離して集めることによって得られる。
本発明で使用される細胞は、CD57陽性、HLA.DR強陽性のヒト胎盤脱落膜由来の細胞であって、式(1)の化合物を産生する能力を有するものであれば何れの細胞でもよいが、好ましくはNS細胞又はそのクローン株若しくはサブクローン株が挙げられる。本細胞株(NS)は、常法により選択クローニング株化することにより得ることができる。
例えば、NS細胞を常法によりクローニングする際に、式(1)の化合物産生量をチェックすることにより、式(1)の化合物の産生能の高いクローン株を得ることができる。具体的には、予め1×105 個のTTK−1細胞を限界希釈法により、0〜1個細胞/ウェルになるように、37℃、5%炭酸ガス存在下培養を重ね、式(1)の化合物の産生能の高い細胞クローンを選択した。
なお、本発明の細胞株は通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号)に寄託されており、その生命研受託番号はF ERM BP6350(原寄託日:平成9年5月19日)(国内寄託FERM P−16233号より移管(移管日:平成10年5月13日))である。
また、図13に本発明のNS細胞株(TTK−1)の位相差顕微鏡写真(400倍)を示す。NS細胞株は自らラミニンを分泌し培養基質に接着しLGL細胞株の形態を示した。
【0014】
次に、本発明化合物の製造法を説明する。
ヒト胎盤脱落膜由来の細胞、代表的にはNS細胞を栄養源含有培地に接種して好気的にCO2インキュベーター内で培養させることにより、その培養液(上清および細胞、好ましくは上清)から本発明の式(1)の化合物を採取し、要すれば薬学的に許容しうる塩とすることにより製造することができる。
上記のように得られたヒト胎盤脱落膜由来のNS細胞は、一般に動物細胞の培養に用いられる培地に必要に応じて血清を加えたもの、具体的には20%牛胎児血清を含む通常の細胞培養用培地で培養することができる。
該細胞培養用培地としては、例えば、BME培地、MEM培地(アール、アルファ、ダルベッコ、High−GEM)、ハム培地(F−10、F−12)、イスコフ培地、119培地、L−15培地、マッコイ5A培地、NCTC135培地、ウイリアムスE培地、ウェイマウス培地等の該細胞の培養可能な培地であれば、いずれの培地でもよいが、特にRPMI−1640が好ましい。
培養方法は、一般の細胞株代謝産物の生産方法と同様に行うことができ、固体培養でも液体培養でもよい。液体培養の場合は、静置培養、攪拌培養、振盪培養、通気培養等のいずれの培養方法を実施してもよいが、特に振盪培養又は深部通気攪拌培養等が好ましい。該細胞を培養するに当り、上記培地に数%、好ましくは5%程度の炭酸ガスを含有させることが好ましい。
かかる培地のpHは、6〜8であり、特に中性付近が好都合である。培養は、30〜40℃で可能であり、特に、37℃付近が好ましい。培養時間は使用する培地、pH、温度条件等により一概にはいえないが、通常、4〜5日の培養により、該細胞は継代することができる。
培養液から目的とする式(1)の化合物を採取するには、微生物の生産する代謝物の培養物から採取するのに通常使用される分離手段が適宜利用される。
生成した式(1)の化合物は、公知の単離・精製法、例えば溶媒抽出法、イオン交換樹脂法、吸着又は分配クロマトグラフィー法、ゲル濾過法等を単独又は組合せて行うことにより精製することができる。
培養濾液より通常の分離手段、また逆相高速液体クロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィーなども抽出精製に適宜利用可能である。例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィーを適宜組合せることにより高度に精製することができる。
【0015】
後述するように(「本発明の有用性の確認」の項)、本発明化合物は、ヒトをはじめとする哺乳動物の腫瘍及びウイルス性疾患の治療剤等の医薬として期待される。
なお、本発明化合物は、生体内でリン酸化されて薬理作用を示す可能性があるが、かかるリン酸化合物も本発明の範囲内に含まれるのは言うまでもない。
本発明化合物の治療効果が期待される好適な腫瘍としては、例えば、ヒトの血液癌のみならず、一般の胃、大腸癌等の消化器系癌、肺癌等の呼吸器系癌、卵巣癌、絨毛癌等の生殖系癌などの上皮性癌が挙げられる。
本発明化合物の治療効果が期待される好適なウイルスとしては、例えば、ヒトのレトロウイルス系のHTLV、HIV等が挙げられる。
本発明の式(1)の化合物は、抗腫瘍剤又は抗ウイルス剤として使用される場合には、その医薬上許容される塩としても使用することができる。
式(1)で表される本発明の化合物の無毒性塩としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸若しくはリン酸等の無機酸との塩、酢酸、クエン酸若しくは酒石酸等の有機酸との塩、メタンスルホン酸若しくはp−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸との塩又はアスパラギン酸、グルタミン酸若しくはリジン等のアミノ酸との塩が挙げられる。
本発明の化合物の医薬上許容しうる塩の製造法は、有機合成化学分野で通常用いられる方法を適宜組み合わせて行うことができる。具体的には、本発明化合物の遊離型の溶液を酸性溶液で中和滴定すること等が挙げられる。
【0016】
本発明化合物を抗腫瘍剤又は抗ウイルス剤として使用する際の投与形態としては各種の形態を選択でき、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、液剤等の経口剤、例えば溶液、懸濁液等の殺菌した液状の非経口剤等が挙げられる。本発明の製剤は、本発明化合物(1種または複数種)を有効成分として含み、必要に応じて担体、希釈剤もしくは賦形剤など通常の種々の添加物を含むことができる(医薬組成物)。
固体の製剤は、そのまま錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は粉末の形態として製造することもできるが、適当な添加物を使用して製造することもできる。
該添加物としては、例えば乳糖、ブドウ糖等の糖類、例えばトウモロコシ、小麦、米等の澱粉類、例えばステアリン酸等の脂肪酸、例えばメタケイ酸ナトリウム、アルミン酸マグネシウム、無水リン酸カルシウム等の無機塩、例えばポリビニルピロリドン、ポリアルキレングリコール等の合成高分子、例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸塩、例えばステアリルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の合成セルロース誘導体、その他、水、ゼラチン、タルク、植物油、アラビアゴム等通常用いられる添加物等が挙げられる。
これらの錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末等の固形製剤は、一般的には0.1〜100重量%、好ましくは5〜100重量%の有効成分を含むことができる。液状製剤は、水、アルコール類又は例えば大豆油、ピーナツ油、ゴマ油等の植物由来の油等液状製剤において通常用いられる適当な添加物を使用し、懸濁液、シロップ剤、注射剤等の形態として製造することができる。
特に、非経口的に筋肉内注射、静脈内注射、皮下注射、腫瘍内注射で投与する場合の適当な溶剤としては、例えば注射用蒸留水、塩酸リドカイン水溶液(筋肉内注射用)、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノール、静脈内注射用液体(例えばクエン酸、クエン酸ナトリウム等の水溶液)、電解質溶液(例えば点滴静注、静脈内注射用)等又はこれらの混合溶液が挙げられる。
また、これらの注射剤は予め溶解したものの他、粉末のまま又は適当な添加物を加えたものを用時溶解する形態もとることができる。これらの注射液は、通常0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%の有効成分を含むことができる。経口投与の懸濁剤又はシロップ剤等の液剤は、0.5〜10重量%の有効成分を含むことができる。
本発明の製剤は、有効成分として本発明化合物の1種または複数種を含むことができ、有効成分の好ましい例は、本発明の代表的化合物P1〜P6の1種、より好ましくは2〜6種の組合せである。
本発明の化合物の実際に好ましい投与量は、使用される化合物の種類、配合された組成物の種類、適用頻度及び治療すべき疾患部位及び患者の病状によって適宜増減することができる。
例えば、一日当りの成人一人当りの投与量は、経口投与の場合、10ないし500mgであり、非経口投与、好ましくは静脈内注射の場合、1日当り10ないし100mgである。なお、投与回数は、投与方法及び症状により異なるが、単回又は2ないし5回に分けて投与することができる。
【0017】
本発明の有用性の確認
〔概要〕
ヒトの胎盤脱落膜組織に由来したCD57陽性、HLA.DR強陽性ナチュラルサプレッサー(NS)細胞株はK562,Molt4,U937,GCIY,BeWo等ヒトガン細胞のアポトーシスを誘導し、それらの細胞の増殖を抑制する。アポトーシス誘導物質(AIF)はNS細胞株培養上清中に産生、放出される。そこで、NS細胞の産生するAIFを物理、化学的方法を持って、分離、精製した。AIFの活性測定は細胞への3Hチミジンの取り込み能とDNA断片化法で行った。先ず、NS細胞株の培養上清中のAIFの分離はC18カラムに吸着させて溶出した。この粗抽出物を薄層クロマトグラフィー(TLC)に展開し、活性分画を逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製、純化した。HPLCで得られた六つのピークに由来するコンポーネント(P1−P6)はK562,Molt4,U937,GCIY,BeWoガン細胞の細胞死と増殖抑制を誘導したがヒト胎児肺由来の正常WI−38細胞は全く傷害しなかった。この六つのAIFの物理、化学的性質は核酸またはその誘導体であることが示唆され、実際、FAB−MS,NMRで構造解析をしたところP1は2′−デオキシウリジン、P2はリボチミジン、P3は2′−O−メチルウリジン、P4はチミジン、P5は2′−O−メチルイノシン、P6は2′−O−メチルグアノシンであった。これらの6種類のAIFをヒトがん組織を移植したマウスに投与した動物実験においても著明な腫瘍退縮効果をみとめた。
【0018】
〔確認試験〕
HPLCで最終的に分離、生成したAIFを標的がん細胞に添加して試験管内のアポトーシス誘導能を検討する(試験管内実験)と共に、がん細胞を接種したSCIDマウスでのAIFによる治療効果を検討した(動物実験)。
[I]試験管内実験
次に、本発明の有用性を示すために、まず本発明に係る代表例のNS細胞株と代表的な各種ヒト由来の癌細胞を標的細胞として使用して、直接又は間接の共培養による相互作用を測定した。使用した細胞は下記の通りである。
(1)NS細胞株(TTK−1)(ヒト胎盤脱落膜由来細胞株)
妊娠7週齢のヒト胎盤脱落膜組織細胞の培養から株化した細胞でありCD57陽性、HLA−DR強陽性の骨髄リンパ系組織由来の自然免疫抑制細胞である。
(2)Molt4(ヒトT細胞性白血病細胞株)
(3)K562(ヒト赤芽球性白血病細胞株)
(4)U937(ヒト組織球性白血病細胞株)
(5)GCIY(ヒト胃がん細胞株)
(6)BeWo(ヒト絨毛がん細胞株)
(7)WI−38(ヒト胎児肺組織由来正常細胞株)
以上の細胞は、10%FCS+RPMI−1640培養液又はチミジンを除去した無血清培地で5%CO2、37℃インキュベーター内で培養を継代したものである。
【0019】
試験例1:NS細胞株とMolt4/K562/U937/GCIY/BeWo/WI−38標的細胞の直接共培養試験(直接反応)
直接共培養試験:
NS、Molt4(ヒトT細胞性白血病細胞株)、K562(ヒト赤芽球性白血病細胞株)、U937(ヒト組織球性白血病細胞株)、GCIY(ヒト胃がん細胞株)、BeWo(ヒト絨毛がん細胞株)及びWI−38(ヒト胎児肺組織由来正常細胞株)を使用し、24ウエルのプレートに培養液2mlずつNS(104 、105 、106 )とMolt4/U937/GCIY/BeWo/WI−38細胞(106 )とを24時間から48時間直接共培養した。
NS細胞株と標的細胞間の直接相互作用(共培養)の結果、24時間後に細胞のDNAを抽出し、2%アガロースゲル上で電気泳動を行った。
その結果、図14Aに示すように、レーン1、2、3はNS細胞数それぞれ 104 、105 、106 /ウエルとMolt4 106 /ウエル間の共培養で標的細胞におけるDNA断片化の程度は接種したNS細胞数の増加に依存し上昇した。
一方、レーン4ではNS 106 /ウエルのみ、レーン5ではMolt4 106 /ウエルのみの場合はDNA断片化は認められなかった。Mレーンは DNAのサイズを示すマーカーである。
図14Bに示すように、レーン1、2、3はNS細胞数がそれぞれ104 、105 、106 /ウエルとK562 106 /ウエル間の共培養で標的細胞におけるDNA断片化の程度は接種したNS細胞数の増加に依存し上昇した。
一方、レーン4はK562 106 /ウエルのみ、レーン5ではNS 106 /ウエルのみの場合はDNA断片化は認められなかった。
図14Cに示すように、レーン1、2、3はK562細胞及びMolt4細胞それぞれ106 、105 、104 /ウエル間の共培養で、レーン4はMolt4106 /ウエルのみ、レーン5はK562 106 /ウエルのみの場合はいずれもDNA断片化は惹起されなかった。
図14Dに示すように、レーン1、2、3はNS細胞数がそれぞれ104 、105 、106 /ウェルとBeWo 106 /ウェル間の共培養で標的細胞におけるDNA断片化の程度は接種したNS細胞数の増加に依存し上昇した。一方、レーン4ではNS 106 /ウェルのみ、レーン5はBeWo 106 /ウェルのみ、レーン6はBeWo 106 /ウェルとGCIY 106 /ウェル間の共培養、レーン7はGCIY 106 /ウェルのみの場合はいずれもDNA断片化はみとめられなかった。
図14Eに示すように、レーン1、2、3、4はNS細胞数それぞれ103 、104 、105 、106 /ウエルとU937 106 ウエル間の共培養で標的細胞におけるDNA断片化の程度は接種したNS細胞数の増加に依存し上昇した。一方、レーン7はMolt4 106 ウエルとU937 106 /ウエル間の共培養で、レーン8はMolt4 106 /ウエルのみ、レーン6はU937 106 /ウエルのみ、レーン5はNS 106 /ウエルのみの場合はDNA断片化は惹起されなかった。
図14Fに示すように、レーン1、2、3はNS細胞数それぞれ104 、105 、106 /ウエルとGCIY 106 /ウエル間の共培養で標的細胞におけるDNA断片化の程度は接種したNS細胞数の増加に依存し上昇した。
一方、レーン4はGCIY 106 /ウエルのみ、レーン5はNS 106 /ウエルのみの場合はDNA断片化は認められなかった。
図14Gに示すように、レーン1、2、3はNS細胞数それぞれ104 、105 、106 /ウエルとWI−38 106 /ウエル間の共培養で標的細胞は接種したNS細胞数の増加にもかかわらずDNA断片化が認められなかった。レーン4はWI−38 106 /ウエルのみ、レーン5はNS 106 /ウエルのみの場合はDNA断片化は惹起されなかった。
即ち、NS細胞とMolt4,K562,Bewo、U937,GCIY細胞間の相互作用(共培養)の結果、24時間後に標的細胞のDNA断片化が認められた。また、標的細胞におけるDNA断片化の程度は接種したNS細胞数の増加に依存していた。
一方、DNA断片化はK562とMolt4細胞間共培養、あるいはMolt4とU937細胞間、またBewoとGCIY細胞間共培養ではいずれも惹起されなかった。また、NS細胞とWI−38正常細胞間の共培養でもDNA断片化は認められなかった。これは、NS細胞株はヒト正常細胞を傷害しないことを示している。つまり、NS細胞株はヒトがん細胞の特異的なアポトーシス(DNA断片化)による細胞死をもたらしたといえる。
【0020】
試験例2:NS細胞と標的K562/Molt4細胞をチャンバー内へ入れた間接相互作用(間接共培養)
間接共培養試験:
ウエル中に底部がフィルター状(0.45μm径)になった細胞間反応用のカルチャーチャンバーをはめ込み内部にMolt4/K562(104 )細胞を分注する。
3日間5%CO2 、37℃の条件下で培養を行った後、標的細胞を採取し、 3Hチミジンの取り込み放射能法、トリパンブルー取り込み染色法、DNA断片化法を行い、細胞間相互作用の結果を測定した。
この系では接種したNS細胞数の増加に伴って72時間後にはチャンバー内の標的がん細胞数の減少が認められた(図15)。
この実験結果は、チャンバーのミリポアー膜を通して低分子の可溶性の標的がん細胞死をもたらす物質がNS細胞株より産生されていることを示すものである。
【0021】
試験例3:薄層クロマトグラフィー(TLC)で粗抽出したAIFによる標的細胞の 3H−チミジンの取り込み抑制及びDNA断片化確認試験
NS細胞株培養上清50mlから凍結乾燥した試料をC18カラム(ボンドエリユート)にかけ、カラムに停留したものをアセトニトリルとメタノールで分離、溶出し、窒素ガスによって溶媒を揮撥させ濃縮乾燥した。カラムに停留した分画はK562/Molt4細胞の増殖を抑制し、DNA断片化を誘導した。
更にこの分画をTLCで展開した。すなわち、C18カラムで分離した物質をクロロホルム:メタノール(1:1)液中に溶かしてから薄層にスポットして、クロロホルム:メタノール:蒸留水(60:40:8)によって展開させる。展開後、培地中に含まれるフェノールレッド試薬のバンド(Rf=0.5)より下の分画部(Rf<0.5,TLC−A)、上の分画部(Rf>0.5,TLC−B)とに分け、ゲルを掻き取ってクロロホルム/メタノールによって、それぞれを抽出回収し、窒素ガスで乾燥させた。フェノールレッド(Rf値0.5)のTLC上の位置より上部に存在する分画(U)にK562/Molt4細胞の増殖を抑制し(図16A〜B)、DNA断片化を誘導する物質の存在を認めた(図17A〜B)。
対照として、用いた新鮮培地、あるいは標的細胞のK562/Molt4細胞の培養上清中には標的細胞の増殖を抑制したり、DNA断片化を誘導する物質の産生は認められなかった。そして、NS細胞株培養上清中にヒトがん細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導できる物質(AIF)が産生され、TLC上でフェノールレッドよりすみやかに移動する分画中(フェノールレッドRf=0.5)にAIFが存在していることを確認した。
【0022】
試験例4:HPLCで最終分離精製したAIFの標的細胞Molt4の 3H−チミジンの取り込み抑制試験
ODS−80TMカラム(TOSOH)を用いて活性を有するTLCのB分画物をアセトニリトル、0.1%トリフルオロ酢酸0から5%までの濃度で360分間で流速0.5ml/分でOD214nmでの吸光度で測定しながら分離、精製する。
得られた主要な6つのピーク(1−6)(図18A、HPLCチャート)からの試料(7μg/ml)はいずれもMolt4細胞の 3H−チミジンの取り込みを抑制した。特にピーク1とピーク4からの試料が強い活性を示し、各ピークの1/10に濃度を薄めた混合試料(0.7μg/ml)も強い活性を示した(図19)。
図19のカラムMに示したように、これは各ピーク(AIF)の相乗効果を示すものである。
【0023】
試験例5:Molt4細胞のDNA断片化を誘導できるAIFの限界量
図20A、図20Bに示すように、HPLCより分離した各活性ピーク(1−6)由来の試料(A:7μg/ml、B:7×3-2μg/ml)を48時間 Molt4細胞5×105 に作用させ、標的細胞のDNAを抽出し、2%アガロースゲル上で電気泳動を行った。7μg/mlおよび7×3-2μg/mlの濃度でMolt4細胞のDNA断片化が認められたが、図20Cに示すように、7×3-5μg/mlの低濃度ではもはやその作用は消失した。
【0024】
試験例6:HPLCで最終分離したAIFの標的細胞BeWoのDNA断片化試験
図21Aに示すように各ピーク(1−6)由来の試料(21μg/ml)をBeWo細胞に48時間反応させBeWo細胞のDNAを抽出し、2%アガロースゲル上で電気泳動を行った。いずれのピークもBeWo細胞のDNA断片化を誘導した(図21A)。
【0025】
試験例7:HPLCで最終分離したAIFの標的細胞U937のDNA断片化試験
図21Bに示すように各ピーク(1−6)由来の試料(21μg/ml)をU937細胞に48時間反応後U937細胞のDNAを抽出し、2%アガロースゲル上で電気泳動を行った。いずれのピークもU937細胞のDNA断片化を誘導した(図21B)。
【0026】
試験例8:HPLCで最終分離したAIFの標的細胞GCIYのDNA断片化試験
図21Cに示すように、各ピーク(1−6)由来の試料(21μg/ml)をGCIY細胞に48時間反応後GCIY細胞のDNAを抽出し、2%アガロースゲル上で電気泳動を行った。いずれのピークもGCIY細胞のDNA断片化を誘導した。
【0027】
試験例9:HPLCで最終分離したAIFのヒト正常細胞WI−38のDNA断片化試験
またヒト正常細胞WI−38を標的とするとき各ピーク(1−6)由来の試料の3倍量(63μg/ml)を作用させても細胞増殖の抑制やDNA断片化をきたさなかった(図21D)。これは図14Gに示したように、NS細胞とWI−38細胞との直接作用でも正常細胞の傷害をもたらさなかった結果と対応する。
【0028】
このシリーズの実験結果は重大な意味を有している。つまり本発明者らの分離、精製してきたAIFはがん細胞特異的にアポトーシス(DNA断片化)による細胞死をもたらし、正常細胞はほとんど傷害しないこと、つまりがん患者に投与した場合に副作用を示さない、理想的な抗癌剤として開発できることを示唆している。
また、従来の免疫抑制剤がリンパ球の分裂阻害的薬理作用でもってその効果を示すことにより、本発明化合物を免疫抑制剤として開発することも可能である。HPLCでの最終分離対照としてMolt4細胞の培養上清や新鮮培地をNS細胞株培養培地とまったく同様の処理を施し、最終的にHPLCにかけてみたところ、NS細胞株培養培地より得られたような活性ピーク(1−6)はそのHPLCチャート上では存在しなかった(図18B、C)。
一方、NS細胞株そのものを破壊し、抽出した試料のHPLCチャートではNS細胞株培養上清と同じパターンを示した。このことは、NS細胞自体も培養上清中と同じ活性ピーク(1−6)を含有することを示す。
【0029】
以上の試験管内実験結果をまとめると、下記のように示すことができる。
(1)「NS細胞株は標的がん細胞のアポトーシスによる細胞死を誘導する」
NS細胞とK562,Molt4,BeWo,U937,GCIY細胞間の直接の相互作用(共培養)の結果、24時間後に標的細胞のDNA断片化が認められた(図14A.B.C.D.E.F)。
標的細胞におけるDNA断片化の程度は接種したNS細胞数の増加に依存していた。一方、DNA断片化はK562,Molt4細胞間共培養(図14C)、あるいはMlot4とU937あるいはGCIYとBeWo細胞間共培養ではいずれも惹起されなかった。また、NS細胞とWI−38細胞間の共培養ではDNA断片化が認められなかった(図14G)。これは、NS細胞はヒト正常細胞を傷害しないことを示している。つまり、NS細胞のみがヒトがん細胞の特異的なアポトーシスを誘導する能力を有している所見が認められた。
【0030】
(2)「NS細胞株はAIFを培養上清中へ放出する」
NS細胞と標的K562/Molt4細胞をチエンバー内へ入れた間接相互作用(間接共培養)の系では接種したNS細胞数の増加に伴って72時間後にはチエンバー内の標的がん細胞数の減少も認められた(図15)。更に、チエンバー内の標的がん細胞のDNA断片化が認められた。この実験結果はチエンバーのミリポアー膜を通して低分子の可溶性の標的がん細胞死をもたらす物質がNS細胞株より産生されていることを示すものである。
【0031】
(3)「薄層クロマトグラフィー(TLC)で粗精製したAIFは標的細胞の3H−チミジンの取り込みを抑制し、DNA断片化を誘導する」
NS(TTK−1)細胞培養上清約50mlから凍結乾燥した試料をC18カラムにかけ、カラムに停留したものをアセトニトリルで溶出し濃縮した分画はK562/Molt4細胞の分裂を抑制し、DNA断片化を誘導した。
さらにこの分画をTLCにかけ、培地中に存在するフェノールレッド(Rf値0.5)のTLC上の位置より上部に存在する分画(RF値>0.5、TLC−B)にK562/Molt4細胞の分裂を抑制し(図16A,B)、DNA断片化を誘導する物質の存在を認めた(図17A,B)。
対照として、用いた新鮮無血清培地(SFM)、あるいは標的細胞のK562/Molt4細胞の培養上清中には標的細胞の増殖を抑制したり、DNA断片化を誘導する物質の産生は認められなかった。
そして、NS細胞培養上清中にヒトがん細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導できる物質(AIF)が産生され、TLC上でフェノールレッド(Rf=0.5)よりすみやかに移動する分画中(Rf>0.5)にAIFが存在していることを確認した。
【0032】
(4)「HPLCで最終分離したAIFは標的細胞のDNAの断片化を誘導する」 NS細胞培養上清の500mlからTLCで粗精製したトータルの活性分画(TLC−B)をTSKgelODS−80TMcolumn(東ソー)によって、逆相HPLCで分離、抽出した。
主要な6つのピーク(1−6)が得られた(図18A.HPLCチャート)。3H−チミジンの取り込み能で測定したところ、各ピーク1−6からの試料(7μg/ml)はいずれもMolt4細胞の3H−チミジンの取り込みを抑制した(図19)。つまり、Molt4細胞の分裂を抑制した。特にピーク1とピーク4からの試料が強い活性を示し、各ピークからの試料を1/10に希釈した混合試料(各0.7μg/ml)も強い活性を示た。図19のカラムMに示したように、これは各ピーク(AIF)の相乗効果を示すものである。
【0033】
(5)「標的細胞のDNA断片化能を誘導出来るAIFの限界量」
各活性ピーク(1−6)のMolt4細胞分裂抑制効果に対応して、各ピーク(1−6)由来の試料(7μg/ml)はいずれもMolt4細胞のDNA断片化を誘導した(図20A)。
HPLCより分離した各活性ピーク(1−6)由来の試料7×3-2μg/mlを48時間Molt4細胞に作用させると、標的細胞のDNA断片化が認められたが(図20B)、7×3-5μg/mlの低濃度ではもはやその作用は消失した(図20C)。
【0034】
(6)標的細胞として、BeWo,U937,GCIYを使用すると、いずれのピーク(1−6)由来の試料(21μg/ml)及び1/10に希釈した混合試料(各2.1μg/ml)も標的細胞の断片化を誘導した(図21A,B,C)。 またヒト正常細胞WI−38を標的とするとき各ピーク(1−6)由来の試料を標的がん細胞に作用させた3倍量(63μg/ml)を反応させても細胞分裂の抑制やDNA断片化をきたさなかった(図21D)。これは図14Gに示したように、NS細胞とWI−38細胞との直接作用でも正常細胞の傷害をもたらさなかった結果と対応する。この実験結果は重大な意味を有している。つまり本発明者らの分離、精製してきたAIFはがん細胞特異的にアポトーシス(DNA断片化)による細胞死をもたらし、正常細胞はほとんど傷害しないこと、つまりがん患者に投与した場合に副作用を示さない、理想的な抗癌剤として開発できることを示唆している。また、Molt4細胞の培養上清や新鮮培地をNS細胞培養培地とまったく同様の処理を施し、最終的にHPLCにかけてみたところ、TTK−1培養培地より得られたような活性ピーク(1−6)はそのHPLCチャート上では見い出せなかった(図18B.C)。
一方、NS細胞そのものを破壊し、抽出した試料のHPLCチャートではNS細胞培養上清と同じパターンを示した。
以上の結果をまとめると、AIFはNS細胞株からのみ産生され、培養培地中に放出される物質であると結論できる。
【0035】
(7)AIFの物理化学的特性の検討と構造決定
HPLCで最終的に分離、精製したAIF中のアミノ酸や六炭糖の有無はオルシノル硫酸反応やニンヒドリン反応で定性的に検討した。さらにUVスペクトラム解析より、最大吸収値が260nm前後に認められることから、核酸系物質であることが判明した。分子量は質量分析計(FAB−MASS)で推定した。プロトン核磁気共鳴(NMR)法により最終構造を決定した。
HPLCにより分離したAIFの各活性ピーク(1−6)は耐熱性で、ニンヒドリン、オルシノル反応陰性であり、非蛋白性、非六炭糖性のものであることが示唆された。
さらにUVスペクトラム解析より、最大吸収値が260nm前後に認められることから、核酸系物質であることが判明した(図7〜12左上パネル)
構造解析の方向が確定したので、NS細胞の大量培養(約300L)を行い、最終的にHPLCで分離精製した各ピーク(1−6)より分取して試料を調整した。質量分析(FAB−MASS)と核磁気共鳴(NMR)法により最終構造を決定した。AIFの活性ピーク1〜6は、P1;2′−デオキシウリジン、P2;リボチミジン、P3;2′−O−メチルウリジン、P4;チミジン、P5;2′−O−メチルグアノシン、P6;2′−O−メチルグアノシンであった(図右上パネル)。
なおそれぞれのAIFの活性ピーク(1−6)の分子量(+H)は質量分析図(図7〜12下パネル)の矢印の下に示してある。
【0036】
[II]動物実験
試験管内実験でAIFの効果が確認された血液がん細胞の代表としてMolt4および上皮性がん細胞の代表としてGCIYを使用した。
(1)SCIDマウス各20匹に約108個のヒト胃癌細胞(GCIY)を接種し、腫瘍の径が0.5cm(0.25cm2 )に到達した際(約2週後)に各4組群に分け、AIFによる担癌マウスでの治療実験をとり行った。一群は各担癌マウス5匹より構成される。
試験例1.
担癌マウス各5匹に前記TLCで分画し、6種類のヌクレオシド(AIF)を含む試料(TLC−B分画)をリン酸緩衝液(PBS)に溶解して毎回総量1mg(2′−デオキシウリジン90μg、リボチミジン110μg、2′−O−メチルウリジン135μg、チミジン322μg、2′−O−メチルイノシン226μg、2′−O−メチルグアノシン116μgに相当)を0.5mlのPBSに溶解して経静脈(尾部静脈)より合計18回(総量18mg)投与した。
対照としてはTLCで分画した際に得られたTLC上でフェノールレッドより下の分画−つまり6種類のヌクレオシドを含まない試料(TLC−A分画)を使用し、やはり経静脈(尾部静脈)より合計18回投与した。腫瘍のサイズは長径×短径の積(面積)で計測した。図22には1週、2週、3週目の各5匹の腫瘍の平均サイズを示している。グラフに示すように明らかにAIF投与群と対照群の両者の差異が認められ、AIF投与群は対照群に比べて有意に強い腫瘍抑制効果を示した(t検定でP<0.01)。
試験例2.
担癌マウス各5匹に試験例1と同様にTLC−A、B分画をそれぞれ1mgを0.3mlのPBSに溶解して腫瘍内に直接3回(0.1ml/回)に分けて、3日間投与したところ、TLC−B分画の6種類のヌクレオシド(AIF)を含む試料(構成量は実験1と同じ)では腫瘍の完全退縮をもたらした。対照としてのAIFを含まないTLC−A分画では腫瘍の退縮はまったく誘導できなかった(代表的例として対照担がんマウスと治療マウス各一匹及び腫瘍を切除したAIF投与群3例と対照群3例を図23A、Bに示す)。このAIFによる腫瘍の退縮の機序は図23Cに示すようにAIFはDNAの断片化、つまりアポトーシスによる腫瘍死を誘導した。
【0037】
(2)SCIDマウス各10匹に約108個のヒトT細胞白血病細胞(Molt4)を接種し、腫瘍の径が0.3cm(0.09cm2 )に達した際(約2週後)各二群に分け、AIFによる担癌マウスでの治療実験をとり行った。
担癌マウス5匹に3種類のAIFヌクレオシド(2′−デオキシウリジン、リボチミジン、チミジン、各400μg、三者合計1.2mg)を0.5mlのPBSに溶解して、経静脈と直接腫瘍内投与を交互にくりかえし合計18回(総量21.6mg)投与した。腫瘍のサイズは長径×短径の積(面積)で計測し、3週間追跡した。5匹のうち3匹の腫瘍は完全に退縮し、残り2匹の腫瘍も極めて小さなサイズに抑制した。図24のグラフは1週、2週、3週目の各5匹の腫瘍の平均サイズを示している。一方、対照群のグラフに示しているようにPBS投与対照群では腫瘍の増大がもたらされ、両者の間には完全な有意差が認められた(t検定でp<0.001)。
【0038】
〔III〕考察
胎仔に対する母系の免疫反応は、一次的には脱落膜組織で制御されている。
NK細胞マーカーを有するLGL細胞と考えられる大群の細胞集団が初期妊娠のヒトを含む哺乳類の脱落膜層に集積していることが本発明者らの研究で明らかにされている。そして、おそらくこれらのNK細胞集団は胚盤胞の着床の局面で重要な役割を担っている。つまり、妊娠時のたえず増殖し発生途上にある胎児胎盤の形成をNK細胞は制御している。いいかえれば天然のがん免疫反応が妊娠の場で遂行されている。
本発明者らの有するNS細胞株はヒト妊娠3カ月の脱落膜層より本発明者らがクローニングし樹立したCD57陽性、HLA−DR強陽性のヒトナチュラルサプレッサー細胞である。この細胞株は脱落膜間質細胞の特長であるエストロゲンやプロゲステロンレセプターをもたず、プロラクチンも分泌しないことから、むしろ、骨髄やリンパ系組織から遊走してきた細胞系譜と考えられる。
NS細胞の具体的機能としては抗体産生、MLRやマイトゲン刺激によるリンパ球分裂反応の抑制だけでなく、最近では腫瘍細胞の増殖抑制作用も報告されてきた(Sugiura,K.,M.Inaba.,H.Ogata.,R.Yasumuzu.,E.E.Sardina.,K.Inaba.,
S.Kuma.,R.A.Good.,and S.Ikehara.1990.Inhibition of tumor cell proliferation by natural suppressor cells present in murine bone marrow.Cancer.Res.50:2582 )。このNS細胞の基本的には細胞分裂制御を介在するエフェクター物質としては、TGF−βファミリーの蛋白(Clark,D.A.,K.C.Flanders.,D.Banwatt.,W.Millar-Book.,J.Manuel.,J.Stedronska-Clark.,and B.Rowley.1990.Murine pregnancy decidua produces a unique immunosuppressive molecule related to transforming growth factor beta-2.J.Immunol.144:3008)や、分子量1万以下のリピッド様物質(Mortari,F.,and S.K.Singhal.1988.Production of human bone marrow - derived suppressor factor.Effect on antibody synthesis and lectin-activated cell proliferation.J.Immunol.141:3037 )が指摘されてきたがその実体については不明であった。またNS細胞による免疫抑制作用機序として、本発明者らの以前の研究(〔Tatsumi,K,T.Mori.,E.Mori.,H.Kanzaki.,and T.Mori.1987.Immunoregulatory factor released form a cell line derived from human decidual tissue.Am.J.Reprod.Immunol.Microbiol.13:87 )でも 指摘してきたように、NS細胞株の上清中の蛋白性物質がIL−2を介するT細胞分裂反応を抑制する。
本発明において、驚くべきことに、このNS細胞株はヒト血液がん細胞であるK562/Molt4/U937だけでなく、悪性度の極めて高いヒト胃がん細胞GCIYやヒト絨毛がん細胞BeWoもアポトーシス(DNA断片化)作用によってがん細胞死を誘導し、その増殖を抑制することが明らかとなった。
そして、さらにこの細胞株の培養上清中より、がん細胞のアポトーシスを誘導する物質(AIF)の分離、精製、構造決定を行った。その過程はまず、NS細胞株培養上清の凍結乾燥試料をC18−カラムに疎水性結合した物質をアセトニトリルで溶出した。溶出した活性因子をさらにTLCで粗精製した。活性画分はフェノールレッドより大きなRf値を示し、K562/Molt4細胞の分裂を抑制し、DNA断片化を招来した。そして最終的にはC18逆相カラムでHPLCにより活性分子を6つの主要ピークとして分離、精製した。これら6つのピークより得られた試料はいずれも標的がん細胞の増殖を抑制し、DNA断片化を誘導したことにより、当初の目的物つまりAIFであることが確認出来た。またこの6種類のAIFは混合してカクテルとして使用した場合(現在がん化学療法で行われている多剤併用この場合天然の多剤併用)に、最も有効に作用することを見い出している。さらに、この6種のAIFの物理化学的性質はオルシノール反応やニンヒドリン反応陰性であることから、非蛋白性であり、六炭糖を含まない物質であった。そして500ダルトンカットの透析膜を通過し、質量分析計からの測定より、その分子量は100〜500にあたると推定された。
さらに図7〜12左上に示すようにHPLCで分画した各活性ピークはUVスペクトラムで最大吸収値245nmから265nmを示した。すなわち、AIFは核酸またはその誘導体関連の物質であることが強く示唆された。
大量のNS細胞培養上清から最終的にAIFを分離、精製して構造解析に耐え得る試料を調整し、FAB−MSで分子量をプロトンNMRで最終的にそれらの構造を決定した(図1〜12)。6種類のAIFは塩基またはリボースの一部がデオキシ化されたりメチル化されたユニークな構造を有するヌクレオシド系に属するものであった。
本発明のようにヒトNS細胞が一連の核酸系物質を分泌し、ヒトのあらゆるがん細胞のアポトーシスを誘導することが見出されたのは本発明者らが知る限り世界でも最初である。
現在、臨床的に使用されている核酸系抗癌剤、抗ウイルス剤(たとえば5− FU、フトラフール(FT)、フルツロン、AZT、DDI、Ara−c)が細胞毒性が高くその効果もさることながら、人体に投与した場合に副作用が強く社会問題化している。
本発明者らが見出したAIFは試験管内おひ動物実験の所見ではあるが(これらの実験系は、ヒト用の抗癌剤、抗ウイルス剤の評価を目的としてこの分野で確立された従来の試験管内および動物実験系である(たとえば図22,23,24参照))、ヒト正常細胞はまったく傷害せず、つまり将来人体に投与した場合副作用の軽減化をはかりながら、がん細胞特異的なアポトーシス(DNA断片化)の誘導という自然の薬理作用機序でもってがん細胞死をもたらす天然型の理想的な制癌剤を開発できる基盤を開拓したのである。
【0039】
〔IV〕図の補足説明
図14:NS細胞株は標的がん細胞のアポトーシスによる細胞死を誘導するが正常細胞のアポトーシスによる細胞死を誘導しないことを示す。
NS細胞と標的細胞間の直接の相互作用(共培養)の結果、24時間後細胞DNAを抽出し、2%アガロースゲルで電気泳動を行った。
図14Aに示すように、レーン1,2,3はNS細胞数それぞれ104,105,106/ウエルとMolt4 106/ウエル間の共培養で標的細胞におけるDNA断片化の程度は接種したNS細胞数の増加に依存していた。一方、レーン5はMolt4 106/ウエルのみ、レーン4はNS106/ウエルのみの場合はDNA断片化をおこさなかった。Mはマーカーである。
図14Bに示すように、レーン1,2,3はNS細胞数それぞれ104,105,106/ウエルとK562 106/ウエル間共培養で標的細胞におけるDNA断片化の程度は接種したNS細胞数の増加に依存していた。一方、レーン4はK562の106/ウエルのみ、レーン5はNS106/ウエルのみの場合はDNA断片化をおこさなかった。Mはマーカーである。
図14Cに示すように、レーン1,2,3はK562細胞及びMolt4細胞それぞれ106,105,104/ウエル間共培養で、レーン4はMolt4 106/ウエルのみ、レーン5はK562 106/ウエルのみの場合はいずれもDNA断片化をおこさなかった。Mはマーカーである。
図14Dに示すように、レーン1,2,3はNS細胞数それぞれ104,105,106/ウエルとBeWo 106/ウエル間の共培養で標的細胞におけるDNA断片化の程度は接種したNS細胞数の増加に依存し上昇した。一方、レーン4ではNS106/ウエルのみ、レーン5はBeWo 106/ウエルのみ、レーン6はBeWo 106/ウエルとGCIY106/ウエル間の共培養、レーン7はGCIY106/ウエルのみの場合はいずれもDNA断片化は認められなかった。
図14Eに示すように、レーン1,2,3はNS細胞数それぞれ103,104,105,106/ウエルとU937 106/ウエル間共培養で標的細胞におけるDNA断片化の程度は接種したNS細胞数の増加に依存していた。一方、レーン7はMolt4 106/ウエルとU937 106/ウエル間共培養で、レーン8はMolt4 106/ウエルのみ、レーン6はU937 106/ウエルのみ、レーン5はNS106/ウエルのみの場合はDNA断片化をおこさなかった。Mはマーカーである。
図14Fに示すように、レーン1,2,3はNS細胞数それぞれ104,105,106/ウエルとGCIY106/ウエル間共培養で標的細胞におけるDNA断片化の程度は接種したNS細胞数の増加に依存していた。一方、レーン4はGCIY106/ウエルのみ、レーン5はNS106/ウエルのみのは場合はDNA断片化をおこさなった。Mはマーカーである。
図14Gに示すように、レーン1,2,3はNS細胞数それぞれ104,105,106/ウエルとWI−38 106/ウエル間共培養で標的細胞は接種したNS細胞数が増加してもDNA断片化が認められなかった。レーン4は WI−38 106/ウエルのみ、レーン5はNS106/ウエルのみの場合はDNA断片化をおこさなかった。Mはマーカーである。
図15:NS細胞株はK562/Molt4細胞と間接共培養において標的細胞の増殖を抑制することを示す。
図15に示すようにNS(TTK−1)細胞とK562/Molt4細胞をチエンバー内へ入れた間接相互作用(間接共培養)の系では接種したNS細胞数の増加に伴って72時間後にはチエンバー内の標的がん細胞数の減少が認められた。図16〜17:薄層クロマトグラフィー(TLC)で粗精製したAIFは標的細胞の3H−チミジンの取り込みを抑制し、DNA断片化を誘導することを示す。
NS(TTK−1)細胞培養上清(TTK−1 Sup)約50mlから凍結乾燥した試料をC18カラムにかけ、カラムに停留したものをアセトニトリルで溶出し濃縮した分画はK562/Molt4細胞の分裂を抑制した。
図16Aに示すようにさらにこの分画をTLCにかけ、培地中に存在するフェノールレッド(Rf値0.5)のTLC上の位置より上部に存在する分画(U)は無血清培地(SFM)、対照群(C)およびTLC上の位置より下部に存在する分画(L)と比べ、K562細胞の分裂を抑制することが認められた。
一方、図16Bに示すようにさらにこの分画をTLCにかけ、培地中に存在するフェノールレッド(Rf値0.5)のTLC上の位置より上部(U)に存在する分画にTLC上の位置より下部(L)に存在する分画と比べ、有意にMolt4細胞の分裂を抑制することが認められた。
対照群(C)および用いた新鮮無血清培地(SFM)は標的細胞の増殖を抑制することは認められなかった。
図17A,Bに示すようにNS(TTK−1)細胞培養上清約50mlから凍結乾燥した試料をC18カラムにかけ、カラムに停留したものをアセトニトリルで溶出し濃縮した分画をTLCにかけ、培地中に存在するフェノールレッド(Rf値0.5)の位置より上部(U,レーン1,3)に存在する分画と下部(L,レーン2,4)に存在する分画とに分けて抽出し、K562細胞(A)/Molt4細胞(B)のDNA断片化を誘導する物質の存在を調べた。
これらの抽出物をK562/Molt4細胞と反応させ、24時間(レーン1,2)、48時間(レーン3,4)後に細胞DNAを抽出し、2%アガロースゲル電気泳動を行った。この図に示すようにNS細胞培養上清中にはヒトがん細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導する物質(AIF)が産生され、TLC上でフェノールレッドよりすみやかに移動する分画(Rf>0.5)中にAIFが存在していることを確認した。
図18:HPLCで最終分離したAIFのHPLCチャート
図18Aに示すようにNS(TTK−1)培養上清の500mlからTLCで粗精製したトータルの活性分画をTSKgelODS−80TMcolumn(東ソー)によって、逆相HPLCで分離、抽出した。主要な6つのピーク(1−6)が得られた。
図18B,Cに示すようにMolt4細胞の培養上清(B)や新鮮培地(C)をNS(TTK−1)細胞培養培地とまったく同様の処理を施し、最終的にHPLCにかけてみたところ、NS細胞培養培地より得られたような活性ピーク(1−6)はそのHPLCチャートでは見い出せなかった。
図19,20:HPLCで最終分離したAIFは標的がん細胞Molt4の3H−チミジンの取り込みを抑制し、DNAの断片化を誘導すること、および断片化を誘導できるAIFの限界量を示す。
図19に示すようにHPLCにより分離した主要な6つのピーク(1−6)からの試料(7μg/ml)はいずれもMolt4細胞の3H−チミジンの取り込みを抑制した。つまり、Molt4細胞の分裂を抑制した。特にピーク1とピーク4からの試料が強い活性を示し、1/10に希釈した各ピークの混合試料(各0.7μg/ml)も強い活性を示した。図19のカラムMに示すように、これは各ピークの相乗効果を示すものである。
図20Aに示すように各ピーク(1−6)より調整した試料をMolt4細胞に48時間反応後Molt4細胞のDNAを抽出し、2%アガロースゲル電気泳動を行った。各活性ピーク(1−6)のMolt4細胞分裂抑制効果に対応して、各ピーク(1−6)由来の試料(7μg/ml)と各ピーク(1−6)由来の1/10に希釈した試料(0.7μg/ml)の混合物はいずれもMolt4細胞のDNA断片化を誘導した(図20A、レーン1〜7)。
図20B、Cに示すようにHPLCにより分離した各活性ピーク(1−6)由来の試料(B;7×3-2μg/ml,C;7×3-5μg/ml)を48時間Molt4細胞に作用させ、細胞DNAを抽出し、2%アガロースゲル電気泳動を行った。図20Bに示すように各ピーク(1−6)由来の試料(7×3-2μg/ml)と各ピーク(1−6)由来の1/10に希釈した試料(0.7×3-2μg/ml)の混合物によりMolt4細胞のDNA断片化が認められたが(レーン、1−7)、図20Cに示すように単独で7×3-5μg/ml、また1/10に希釈した混合物で0.7×3-5μg/mlの低濃度ではもはやその作用は消失した(レーン、1−7)。
図21:HPLCで最終分離したAIFはヒトがん細胞BeWo/U937/ GCIYのDNAの断片化を誘導するが、ヒト正常細胞WI−38のDNAの断片化を誘導しないことを示す。
図21A、B、Cに示すように各ピーク(1−6)由来の試料(21μg/ml)と各ピーク(1−6)由来の1/10に希釈した混合物(2.1μg/ml)をBeWo(A)/U937(B)/GCIY(C)細胞に48時間反応後の各標的細胞のDNAを抽出し、2%アガロースゲル電気泳動を行った。各活性ピーク(1−6)の標的細胞の分裂抑制効果に対応して、各ピーク(1−6)由来の試料及び各ピーク(1−6)由来の1/10希釈した試料の混合物はいずれも標的細胞のDNA断片化を誘導した(レーン1−7)。
図21Dに示すように、各ピーク(1−6)由来の試料を標的がん細胞に対する3倍量(63μg/ml)をヒト正常細胞WI−38に48時間反応後のWI−38細胞のDNAを抽出し、2%アガロースゲル上で電気泳動を行った。いずれのAIFも正常細胞の分裂の抑制やDNA断片化をきたさなかった。
図7〜12:HPLCにより分離した各活性ピーク1−6(AIF)の物理化学特性と構造決定
NS細胞株の大量の培養(約300L)を行い、最終的にHPLCで分離精製した各ピーク(1−6)より分取した試料を調整した。
図7〜12各P1−P6の左上パネルに示すようにUVスペクトラム解析より、最大吸収値が260nm前後に認められることから、AIFは核酸系物質であることが判明した。
UVスペクトラム解析により構造解析の方向が確定したので、質量分析(FAB−MASS)法により分子量を決定した(下パネル矢印)。さらに核磁気共鳴(NMR)法によりAIFの最終構造を図7−12(右上)のように決定した。
【0040】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(培地、培養液を説明する。)
3日間5%CO2 、37℃の条件下で培養を行った後、NS細胞培養上清(500ml)を凍結乾燥し、C18カラムに通して分離を行った。活性物質はカラムに結合するので、アセトニトリル、メタノールによってカラムより分離、溶出し、窒素ガスによって溶媒を気撥させ、溶質を濃縮乾燥させた。
C18カラムで分離した物質をクロロホルム:メタノール(1:1)液中に溶かしてから薄層(kieselgel)にスポットして、クロロホルム:メタノール:蒸留水(60:40:8)によって展開させる。展開後、フェノールレッド試薬のバンドより下の分画部(L)、上の分画部(u)と分け、ゲルを掻き取ってクロロホルム/メタノールによって、それぞれの分画をクロロホルム:メタノール(1:1)液で抽出回収し、窒素ガスで乾燥させた。
ODS−80TMカラム(TOSOH)を用いて活性能を有するTLCのu分画物をアセトニトリル、0.1%トリフルオロ酢酸溶媒で0から5%までの直線濃度勾配で360分間、流速0.5ml/分でOD214nmでの吸光度で測定しながら分離、精製し、主要な6つのピーク(1−6)が得られた(図18A、HPLCチャート)。
目的物P1、P2、P3、P4、P5及びP6をそれぞれ0.014mg、0.017mg、0.021mg、0.050mg、0.035mg、及び0.018mg得た。
【0041】
以下に本発明の化合物の製剤化例を示すが、本発明の化合物の製剤化は、本製剤化例に限定されるものではない。
製剤化例1
本物質(P1)10(部)(以下、重量割合を示す)
重炭酸化マグネシウム15
乳糖75
を均一に混合して350μm以下の粉末状又は細粒状の散剤とする。この散剤をカプセル容器に入れてカプセル剤とした。
【0042】
製剤化例2
本物質(P2)45(部)
澱粉15
乳糖16
結晶性セルロース21
ポリビニルアルコール 3
蒸留水30
を均一に混合した後、破砕造粒して乾燥し、次いで篩別して177〜1410μmの大きさの顆粒剤とした。
【0043】
製剤化例3
製剤化例2と同様の方法で顆粒剤を作った後、この顆粒剤96部に対してステアリン酸カルシウム4部を加えて圧縮成形し、直径10mmの錠剤を作製した。
【0044】
製剤化例4
製剤化例2の方法で得られた顆粒剤の90部に対して結晶性セルロース10部及びステアリン酸カルシウム3部を加えて圧縮成形し、直径8mmの錠剤とした後、これにシロップゼラチン、沈降性炭酸カルシウム混合懸濁液を加えて糖衣状を作製した。
【0045】
製剤化例5
本物質(P3)0.6(部)
非イオン系界面活性剤2.4
生理的食塩水97
を加温混合してからアンプルに入れ、滅菌を行って注射剤を作製した。
【0046】
産業上の利用可能性
本発明の式(1)の化合物又はその医薬上許容される塩は、ヒト正常細胞を全く傷害せず、人体に投与した場合には副作用の軽減化を図りながら、癌細胞を特異的にアポトーシスによる癌細胞死をもたらすという自然の作用機序でもってヒトの癌疾患及びウイルス疾患を治療することが期待され、医薬の分野で抗腫瘍剤又は抗ウイルス剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】化合物P1のNMRチャートである。
【図2】化合物P2のNMRチャートである。
【図3】化合物P3のNMRチャートである。
【図4】化合物P4のNMRチャートである。
【図5】化合物P5のNMRチャートである。
【図6】化合物P6のNMRチャートである。
【図7】AIF(P1)のUVスペクトル、マススペクトルおよび構造式を示す。
【図8】AIF(P2)のUVスペクトル、マススペクトルおよび構造式を示す。
【図9】AIF(P3)のUVスペクトル、マススペクトルおよび構造式を示す。
【図10】AIF(P4)のUVスペクトル、マススペクトルおよび構造式を示す。
【図11】AIF(P5)のUVスペクトル、マススペクトルおよび構造式を示す。
【図12】AIF(P6)のUVスペクトル、マススペクトルおよび構造式を示す。
【図13】本発明のNS細胞株の位相差顕微鏡写真である。
【図14】(A〜G)はDNA断片化試験の結果を示す写真である。
【図15】NS細胞と標的細胞との間接共培養の結果を示すグラフである。
【図16】(A,B)はAIFによる標的細胞の 3H−チミジンの取り込み抑制の結果を示すグラフである。
【図17】(A,B)はAIFによる標的細胞のDNA断片化試験の結果を示す写真である。
【図18】(A〜C)はAIFのHPLCチャートである。
【図19】3H−チミジンの取り込み抑制の結果を示すグラフである。
【図20】AIFによる標的細胞のDNA断片化試験の結果を示す写真(A〜C)である。
【図21】(A〜D)はAIFによる標的細胞のDNA断片化試験の結果を示す写真である。
【図22】AIFのヒト胃癌細胞に対する抑制効果を示すグラフである。
【図23】AIFによるヒト胃癌組織退縮の効果(A〜B)およびDNA断片化試験の結果(C)を示す写真である。
【図24】AIFのヒトT細胞白血病細胞に対する抑制効果を示すグラフである。
Claims (5)
- ヒト胎盤脱落膜由来細胞が、CD57陽性、HLA−DR強陽性のヒト型ナチュラルサップレツサー細胞である、請求項1記載の方法。
- ヒト型ナチュラルサップレッサー細胞が、受託番号FERM BP−6350の細胞株に相当する細胞である、請求項2記載の方法。
- CD57陽性、HLA.DR強陽性のヒト型ナチュラルサップレッサー細胞であって、請求項1中に記載された式(1)の化合物を産生する能力を有する細胞。
- CD57陽性、HLA.DR強陽性のヒト型ナチュラルサップレッサー細胞であって、受託番号FERM BP−6350の細胞株に相当する、請求項4に記載の細胞。
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