JP3659469B2 - 有機ガス分離フィルタおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の有機ガス、より詳細には、特定の有機ガスを含有する混合ガスから前記特定の有機ガスのみを効率良く分離して除去、又は回収するのに有用な有機ガス分離フィルタおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来技術】
近年、電子部品や金属部品等の洗浄分野や印刷分野、塗装分野、あるいは油槽所やタンカー等の石油精製プラント関連分野では、取り扱われる各種有機溶剤の使用量が大幅に増加し、それに伴って大気中に放出される有機ガスの量も年々増加している。また、自動車の排気ガス等に含まれる有機ガスの排出量も交通量の増加とともに増えている。
【0003】
かかる有機ガス、例えば、洗浄用に広範囲に使用されてきたトリクロロエタン等はオゾン層破壊や地球温暖化、光化学スモッグ等の原因物質であり、これらが有機ガスとして大気中に排出されることは地球規模での環境破壊につながっており、このような有機ガスを含有する混合ガスから該有機ガスを回収して大気中に放出しないことが環境保全の見地から要求されている。
【0004】
従来より、このような各種分野において有機ガスを含有する混合ガスから該有機ガスを分離、回収する方法としては、100〜20000ppm程度の濃度の特定の有機ガスを含有する混合ガスを活性炭等の吸着剤に接触させて吸着させた後、スチームにて有機ガスを回収する吸着法や、有機ガスを含む混合ガスを液状の有機溶剤に接触させて前記有機ガスを該有機溶剤に吸収させて回収する吸収法あるいは膜分離法等が知られている。
【0005】
しかしながら、前記吸着法は、大型の設備を必要とすると共に、前記吸着剤に特定の有機ガスを吸着させた後、該吸着剤から前記特定の有機ガスを脱着させる操作を繰り返し行う必要がある上、前記吸着剤からの有機ガスの脱着に大量のエネルギーを要するため、経済的に極めて不利であるという問題があった。
【0006】
さらに、このように吸着剤への吸脱着を利用する方法では、有機ガスを高濃度に含有する混合ガスから該有機ガスを回収する場合には、十分に分離除去することができず不向きである。
【0007】
また、前記吸収法は、有機ガスを比較的高濃度に含む混合ガスから該有機ガスを濃縮分離するために利用されてはいるが、設備及び運転の経費が高く、経済的には決して有利な方法ではない。
【0008】
このような知見から、前記吸着法や吸収法に比べて有機ガスの分離操作が簡便で装置が小型化できると共に、省エネルギープロセスと成り得る等の優れた特徴を有する膜分離法が有望視されている。
【0009】
例えば、特開平5−68860号公報、特開平7−155571号公報では、シリコーン樹脂が架橋されて形成された架橋シリコーン膜を、有機ガスを含有する混合ガスから該有機ガスを分離するための気体分離膜として用いることが開示されている。
【0010】
また、特開平10−323547号公報には、シリコンアルコキシドとフェニル基を有するシリコンアルコキシドを複合化し、加水分解した後、300〜600℃で焼成してなる焼結体を二酸化炭素や酸素等の無機ガスを分離するためのガス分離膜として用いることが開示されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記架橋シリコーン膜を気体分離膜とした膜分離法では、該架橋シリコーン膜内に混合ガス中の有機ガスが溶け込んだ後、拡散により有機ガスが膜内を透過する、いわゆる溶解拡散機構によるものであり、有機ガスが膜内に溶け込むことが律速して、有機ガスの膜透過速度は、透過率が3×10-11 mol/m2 ・Pa・s程度と非常に小さいものであった。
【0012】
その結果、有機ガスの分離回収効率が低く、とりわけ、キシレンなど環状炭化水素ガスに対しては分離性が極めて低く、さらに、高流速の混合ガスから有機ガスを十分に分離、除去あるいは回収することができなかった。また、多量の有機ガスを処理するためには装置が大型になり、コスト高となる恐れがあった。
【0013】
また、特開平10−323547号公報に開示されるフェニル基を含有するシリコンの焼結体からなるガス分離膜では、二酸化炭素や酸素等の無機ガスを分離するためには有効であるものの、300℃以上で焼成することによって前記フェニル基の残存量が著しく低下するために、特定の有機ガス、特にトルエンおよびキシレンに対する親和性が低く、有機ガスの分離能は低いものであった。
【0014】
本発明は前記課題に鑑み成されたもので、その目的は、各種揮発性有機化合物のガスを含有する混合ガスから特定の有機化合物のガスのみを経済的に、選択的かつ効率的に分離して除去、又は回収するのに好適な特定の有機ガスに対して分離機能を有する有機ガス分離フィルタおよびその製造方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、トルエンまたはキシレンに対する高い有機ガス分離特性を有する有機ガス分離フィルタを実現すべく、フィルタの有機ガスの透過性能、および分離性能について種々検討した結果、有機ガスと分離フィルタとの親和性の強さが、有機ガスの分離特性に大きく関与し、中でもシロキサン結合の側鎖に結合した有機官能基がトルエンまたはキシレンと強い親和性を持つことに基づき、多孔質支持体の表面に側鎖に有機官能基が結合したシロキサン結合を有するゲル膜をトルエンまたはキシレンの分離膜として用いることにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明の有機ガス分離フィルタは、多孔質支持体の少なくとも一方の表面に、側鎖に有機官能基が結合してなるシロキサン結合を有するゲル膜からなるトルエンまたはキシレンの分離膜を被着形成したことを特徴とするものである。
【0017】
ここで、前記有機官能基がメチル基、エチル基、エチレン基、プロピル基、フェニル基から選ばれる少なくとも1種からなることが望ましい。
【0018】
また、本発明の有機ガス分離フィルタの製造方法は、シリコンアルコキシドを加水分解して前駆体ゾルを作製し、該前駆体ゾルを多孔質支持体の少なくとも一方の表面に塗布した後、50〜150℃で乾燥してゲル膜からなるトルエンまたはキシレンの分離膜を形成することを特徴とするものである。
【0019】
ここで、前記シリコンアルコキシドがテトラアルコキシシランと、一般式が下記化1
【0020】
【化1】
【0021】
で表されるアルコキシシランとの混合物であることが望ましい。
【0022】
【作用】
本発明の有機ガス分離フィルタによれば、多孔質支持体表面に被着形成されるシロキサン結合を有するゲル膜の側鎖に結合する有機官能基が、特定の有機ガス、とりわけトルエン、キシレンと強い親和性を示し、特定の有機ガス分子の吸着点として作用することから、有機官能基を有する分離膜表面に混合ガス中の特定の有機ガスが吸着し、分離膜表面を移動することによって、前記分離膜内に存在する細孔内を前記特定の有機ガスが毛管凝縮現象により透過する、いわゆる表面拡散機構により透過することから、特定の有機ガスを選択的にかつ効率よく分離することができる。
【0023】
また、前記気孔の表面が前記有機官能基と親和性の高い特定の有機ガスにより飽和し、閉塞されるために、その他のガスは細孔内に侵入することが抑制されることから、特定の有機ガスの選択的な分離が可能となり、分離性能が向上する。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明の有機ガス分離フィルタの一例について、その多孔質支持体表面部分の一部拡大図を図1に示す。本発明の有機ガス分離フィルタ1は、多孔質支持体( 以下、支持体と略す。) 2の少なくとも一方の表面に側鎖に有機官能基が結合してなるシロキサン結合を有するゲル膜からなる分離膜 (以下、ゲル膜と略す。) 3を被着形成した複合体からなるものである。
【0025】
ゲル膜3は、シリコンアルコキシドが加水分解により架橋、重合してなるコロイド粒子の凝集体として存在し、該凝集体内には、1〜3nmの細孔が形成されている。そして、コロイド粒子表面のシロキサン結合の側鎖には有機官能基が結合しており、前記細孔の表面(内壁)に該有機官能基が多数存在する構造となっている。なお、コロイド粒子の内部にもシロキサン結合の側鎖に結合した有機官能基が存在する。
【0026】
また、ゲル膜3は、支持体2表面に存在する気孔の内壁部に被着形成されていてもよいが、ゲル膜3の厚みは、有機ガス分離性能の向上および有機ガス分離の処理速度を向上させるために0.1〜1.0μmであることが望ましい。
【0027】
また、ゲル膜3内に存在する有機官能基は特に限定されるものではないが、ゲル膜3を製造する際のゾルの安定性、および、特に、キシレンやトルエン等の特定の有機ガスとの親和性の強さからメチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、フェニル基が望ましい。
【0028】
一方、支持体2の平均細孔径は、ガスの透過速度およびガス分離性能の点で、1〜100nmであることが望ましい。
【0029】
なお、かかる支持体2としては、例えば、γ−アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア等が挙げられ、ゲル膜との間に反応性生物を生じず、表面を層状に覆い平滑な表面を形成するものであればよい。
【0030】
本発明においては、ゲル膜3のシロキサン結合の側鎖に結合する有機官能基とトルエンまたはキシレンとの親和性が異なることから、例えば、トルエンまたはキシレンを含有する複数種類の有機ガスの混合ガスから前記トルエンまたはキシレンを分離することが可能であり、その一例としてメタンとトルエンとを含有する混合ガスからトルエンを選択的に分離することができる。また、トルエンまたはキシレンと無機ガスとの混合ガスから特定の有機ガスを分離することも可能である。
【0031】
さらに、複数種類の有機ガスおよび無機ガス中からトルエンまたはキシレンを分離することも可能であるが、いずれの場合においても、上記混合ガス中に含まれる前記トルエンまたはキシレンの濃度は、約0.02〜50容量%であることが望ましい。
【0033】
また、本発明によれば、前記無機ガスとは、例えば、窒素、酸素、水、塩酸、アンモニア等のガスを1種あるいは2種以上含有するガスを指す。
【0034】
本発明の有機ガス分離フィルタおよびそれを用いた有機ガス分離方法においては、とりわけ、ゲル膜3表面に存在する有機官能基と高い親和性を有するトルエン、あるいはキシレンのガスを分離して除去、又は回収するのに有効である。
【0035】
また、本発明によれば、支持体2は、単体で存在してもよいが、構造体として必要な強度を有する基体4上に被着形成されていてもよい。また、支持体2の厚みは、ゲル膜3の成膜性およびガスの透過速度の点で2〜4μmであることが望ましい。基体4は、支持体2の成膜性を高め、有機ガス分離の処理速度を向上させるために0.1〜2μmの細孔径を有することが望ましい。また、成膜性を高める上で、基体4は平滑な表面を有することが望ましい。
【0036】
また、高い圧力をかけることなく混合ガスが基体4中を透過するためには、基体4は20%以上の気孔率を有することが望ましく、また、基体4の強度を確保するためには、基体4の気孔率が40%以下であることが望ましい。
【0037】
基体4としては、α−アルミナや安定化ジルコニアを主成分とするセラミッ
クスや、シリカ系ガラス(分相ガラス)等によって形成できるが、耐熱性が高いこと、容易に作製できること、コストの点で、α−アルミナを主成分とするセラミックスからなることが望ましい。
【0038】
また、基体4の形状形態は、特に限定されるものではなく、平板状や管状体等のいずれでも良いが、有機ガス分離効率やフィルタとしての取り扱いを考慮すれば管状体が望ましい。
【0039】
管状体の径は、単位面積当たりに占めるゲル膜3の面積割合を増し、ガスの分離効率を高める上では、内径2mm程度が望ましく、また、取り扱いに支障のない強度を保つために、その肉厚は0.3〜1mmが好適である。
【0040】
上記の構成においては、支持体2およびゲル膜3は基体4の内面および/または外面に被着形成される。
【0041】
本発明の有機ガス分離フィルタ1は、フィルタ1の一方の表面側に特定の有機ガスを含有した混合ガスを流すとともに、フィルタ1の反対側の面でフィルタ1を透過した前記特定の有機ガスを含むガスを捕獲し、分離、回収することができるものであるが、フィルタ1の前記ガス透過面の前記特定の有機ガス分圧を低めることにより、前記混合ガスから特定の有機ガスの分離を効率的に行うことができるものである。
【0042】
ガスの透過経路としては、支持体2を通過した後、ゲル膜3を透過してもよく、逆にゲル膜3を透過した後、支持体2を透過してもよい。また、支持体2が管状体からなる場合には、管状体の内部に混合ガスを流し、管状体の外部にガスを透過させ、回収してもよく、逆に管状体の外部に混合ガスを流し、管状体の内部にガスを透過させ、回収してもよい。
【0043】
前記特定の有機ガスの分圧を低める方法としては、特定の有機ガスの排出面側に特定の有機ガス以外のガスを流すこともできるが、前記特定の有機ガスを含む混合ガス供給面側の気圧よりも前記特定の有機ガス排出面側の気圧を低めることにより、より効率的に特定の有機ガスの分離ができる。
【0044】
また、上記気圧差を設ける方法としては、前記特定の有機ガス排出面側を減圧する方法、前記特定の有機ガスを含む混合ガス供給面側を加圧する方法、さらに、上記2つの方法を併用する方法が挙げられる。
【0045】
本発明の有機ガス分離フィルタを用いて特定の有機ガスを分離する有機ガス分離装置の一例を図2に示す。図2によれば、有機ガス分離装置11は、内径1〜3mm、肉厚0.3〜1mm、長さ5〜500mmの円筒形状の有機ガス分離フィルタ12を50〜100本程度束ねたものが、固定用部材13で固定され、さらにハウジング14中に接着固定されている。
【0046】
固定用部材13およびハウジング14は、塩化ビニル、ポリウレタン等の樹脂、ステンレス等の金属、アルミナやジルコニア等の緻密質セラミックス等のガスを透過しないものによって形成されるが、ハウジング14については、系内を加圧または減圧する場合には、ステンレス等の機械的強度の高いものが好適である。
【0047】
さらに、ハウジング14には、系内に混合ガスを導入するための混合ガス導入口15、有機ガス分離フィルタ12表面を通過した混合ガスが系外に排出されるための非透過ガス排出口16および有機ガス分離フィルタ12内を透過したガスを系外へ排出するための透過ガス排出口17が形成され、上記3個所にてのみガスが出入りする。
【0048】
有機ガス分離装置11によれば、系内に気圧差を設けることができ、例えば、透過ガス排出口17にアスピレータや真空ポンプを接続して有機ガス分離フィルタ12の外周表面の気圧を下げることができる。
【0049】
次に、本発明の有機ガス分離フィルタを製造する方法の一例について説明する。まず、平均粒径0.1〜2.0μmのアルミナ粉末原料に、所定量の有機バインダ、潤滑剤、可塑剤、水を添加、混合した後、該混合物をプレス成形、押し出し成形、射出成形、冷間静水圧プレス等の公知の成形手段によって成形する。
【0050】
さらに、該成形体を大気中、1000〜1500℃にて焼成することにより所望の特性を有する基体を作製することができる。
【0051】
この基体としては、前述した材質、気孔率、平均細孔径を有するとともに、表面粗さ0.1〜0.9μmの平滑な表面を有することが望ましく、また、内径2mm、肉厚0.3〜1mmの管状体であることが望ましい。
【0052】
次に、支持体を形成する方法としては、アルミニウムセカンダリーブトキシド等のアルミニウムアルコキシドの加水分解によりベーマイトゾルを作製し、前記支持体の表面に前記ベーマイトゾルを塗布、注入または前記ベーマイトゾル中に前記支持体を含浸して引き上げることにより、該支持体の表面にベーマイトゲル膜を被着形成する。
【0053】
具体的には、管状体の先端部に栓をして前記ベーマイトゾル中に含浸することにより管状体の外周表面に支持体を被着形成でき、注射器等を用いて前記ベーマイトゾルを前記管状体内部に注入することにより、管状体の内周表面に支持体を被着形成できる。
【0054】
その後、得られたベーマイトゾルを被着形成した基体を、大気中、400〜900℃にて焼成することにより、α−アルミナ質基体の表面にγ−アルミナ質支持体を設けることができる。焼成温度を上記範囲に限定した理由は、400℃以下では、基体と支持体との結合力が弱く支持体が剥離してしまうためであり、逆に900℃以上では、焼結が進行しすぎ支持体の細孔径を所望の範囲に制御することができないためである。
【0055】
一方、支持体の表面にゲル膜を作製するには、まず、シリコンアルコキシドを準備する。シリコンアルコキシドとしては、後述するゾルの安定性およびゲル膜3表面のシロキサン結合の側鎖の有機官能基の存在率を高める点で、テトラアルコキシシランと一般式が下記化1
【0056】
【化1】
【0057】
で表されるアルコキシシランとからなることが望ましい。
【0058】
具体的には、テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等が使用可能であり、中でも原料コスト、特定の有機ガスとの親和性および成膜性の点で、テトラメトキシシランおよび/またはテトラエトキシシランからなることが望ましい。
【0059】
また、前記他のアルコキシシランとしては、前記化1におけるR1 、R2 、R3 、R4 で表される有機官能基が、メチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、フェニル基から選ばれる少なくとも1種であることが望ましく、これら有機官能基がゲル膜3表面に存在することによって、特定の有機ガス、特にキシレンあるいはトルエンとの強い親和性を有することから、特定の有機ガスの分離能が向上する。
【0060】
また、アルコキシシランゾルの安定化のために、前記シリコンアルコキシシラン全量中の前記化1のアルコキシシランの含有量が5〜50モル%であることが望ましい。
【0061】
また、上記シリコンアルコキシドに対して、ジルコニウムアルコキシド、具体的には、テトラエトキシジルコニウム、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム等を添加することが望ましいが、アルコールへの溶解性およびゲルの成膜性の点から、テトラエトキシジルコニウム、テトラプロポキシジルコニウムが望ましく、前記シリコンアルコキシドに対して5〜50重量部、望ましくは10〜30重量部の割合で添加することが望ましい。
【0062】
上述したアルコキシドは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール等のアルコールに溶解させる。上記アルコールの中でも、前述したアルコキシドの溶解性、後述するゲルの親和性および乾燥性の点で、メタノールまたはエタノールが好適である。
【0063】
また、上記2種類のシリコンアルコキシドを混合する場合には、あらかじめ前記テトラアルコキシシラン1molに対して1〜3molの水を酸等とともに添加し、部分的に加水分解することが望ましく、これにより前記加水分解された部分が前記化1のアルコキシシランと反応することによって溶液中の組成の均質性を高めることができる。
【0064】
次に、上記アルコキシド溶液を混合し、窒素気流下にて撹拌して複合アルコキシドを作製した後、これに所定の濃度の水、酸等を添加する公知の加水分解法によって加水分解し、ゾルを形成する。なお、前記加水分解のために添加する水の量は、アルコキシド溶液中のSi1モルに対して1〜20モルが望ましい。
【0065】
すなわち、前記水の量が1モルより少ないと加水分解が充分でなく、シロキサン結合が進行しないために成膜性が悪くなり、膜内にクラックが生じたり、膜の剥離が発生するためであり、前記水の量が20モルより多いと、加水分解が急激に進行しすぎ、沈殿を生じて安定なゾルを得ることができないためである。
【0066】
そして、前記支持体の表面に前記ペーストを塗布、注入または前記ペースト中に前記支持体を含浸して引き上げることにより、該支持体の表面にゲル膜を被着形成する。
【0067】
具体的には、管状体の先端部に栓をして前記ペースト中に含浸することにより管状体の外周表面にシリカ膜を被着形成でき、注射器等を用いて前記ペーストを前記管状体内部に注入することにより、管状体の内周表面にシリカ膜を被着形成できる。
【0068】
得られたシリカ膜を被着形成した支持体を、大気中、50〜150℃にて乾燥することにより支持体表面にゲル膜を形成することができる。なお、乾燥温度を上記範囲に限定した理由は、50℃より低いと、フィルタ使用時の温度上昇に伴い、ゲル膜の有機官能基の量や結合状態および細孔径等が変化して、ガス分離能が変化してしまうためであり、また、150℃より高いとゲル膜がアモルファスシリカ膜へ変質するとともに、ゲル膜の表面に結合する有機官能基が分解酸化され、消失してしまう結果、特定の有機ガスとの親和性が損なわれるからである。
【0069】
また、ゲル膜および支持体を形成する方法としては、上記以外にもCVD法等の薄膜法によっても形成できる。
【0070】
【実施例】
まず、純度99.9%、平均粒径0.1μmのアルミナと、有機バインダと、潤滑剤と、可塑剤と水とを混合し、押し出し成形にて管状体に成形した後、大気中、1200℃にて焼成して、内径2mm、肉厚0.4mm、長さ250mmの管状体で、平均細孔径0.2μm、気孔率39%を有する表1に示すα−アルミナ質多孔質支持体(試料No.1、2)またはα−アルミナ質多孔質基体(試料No.3〜14)を作製した。
【0071】
次に、水にセカンダリーブトキシドを添加して加水分解し、さらに硝酸を添加した後16時間還流してベーマイトゾルを作製した後、α−アルミナ質多孔質基体の先端部に栓をして前記ベーマイトゾル内に含浸して30秒間保持し、5mm/sec.の速度で引き上げ、室温にて1時間乾燥した後、500℃で熱処理する工程を繰り返し、平均細孔径5nm、厚さが2μmのγ−アルミナからなる支持体を被覆したα−アルミナ質基体を作製した(試料No.3〜13)。
【0072】
一方、表1に示すシリコンアルコキシドおよびジルコニウムアルコキシドをエタノールに溶解し、エタノールと水と塩化水素(HCl)とを含む混合物を滴下して加水分解し、ペースト状のゾルを作製した。そして、前記α−アルミナ(Al2 O3 )多孔質支持体に先端部に栓をし、得られたペースト状のゾル内に含浸して30秒間保持した後、5mm/秒の速度で引き上げ、表1に示す温度にて1時間乾燥する一連の作業工程を繰り返し、支持体の外周表面に表1に示す膜厚の分離膜を形成した有機ガス分離フィルタ12を作製した。
【0073】
得られた有機ガス分離フィルタ12について、フィルタ12の破面SEM写真から分離膜の膜厚を求めた。また、フィルタを粉砕した粉砕粉末について、拡散反射IR法により、フィルタ中に存在する有機官能基の存在の有無を調べ、有機官能基が存在していたものについては、分離膜の状態がゲル膜である、有機官能基が存在していないものについては、分離膜の状態がアモルファスシリカ膜であるとみなして表1に示した。
【0074】
また、得られた有機ガス分離フィルタ50本をポリウレタン製の固定用部材13にて固定した後、さらにステンレス製のハウジング14内に固定し、図2の有機ガス分離装置11を作製した。
【0075】
なお、前記有機ガス分離フィルタ12内に形成された分離膜の長さは220mmで、有機ガス分離装置11内の分離膜の面積は0.10m2 であった。
【0076】
得られた有機ガス分離装置11の混合ガス導入口15よりトルエンまたはキシレン濃度が1%、残部が空気からなる混合ガスを10リットル/minの流速で流すとともに、透過ガス排出口17を真空ポンプで100torrに減圧した。この時、透過ガス排出口17より回収された混合ガス中のトルエンまたはキシレン濃度を測定した。結果は表1に示した。
【0077】
【表1】
【0078】
表1の結果から明らかなように、乾燥温度が高く、膜の状態がアモルファスシリカ状態となった試料No.9および14については、トルエンの透過率が1.0×10-8以下、キシレンの透過率が9.5×10-9以下と低いものであった。
【0079】
これに対し、本発明のゲル膜からなる試料では、トルエンの透過率が2.0×10-7以上、キシレンの透過率が3.0×10-7以上の優れた特性を有するものであった。
【0080】
【発明の効果】
以上詳述したとおり、本発明の有機ガス分離フィルタは、トルエンまたはキシレンに対して高い親和性を有することから、該トルエンまたはキシレンを含有した混合ガスから、該トルエンまたはキシレンのみを選択的に、かつ効率的に分離・濃縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の有機ガス分離フィルタの一部拡大図である。
【図2】本発明の有機ガス分離フィルタを組み込んだ有機ガス分離装置の概略断面図である。
【符号の説明】
1 有機ガス分離フィルタ
2 支持体
3 ゲル膜
4 基体
5 細孔
Claims (5)
- 多孔質支持体の少なくとも一方の表面に、側鎖に有機官能基が結合してなるシロキサン結合を有するゲル膜からなるトルエンまたはキシレンの分離膜を被着形成したことを特徴とする有機ガス分離フィルタ。
- 前記有機官能基がメチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、フェニル基から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1記載の有機ガス分離フィルタ。
- シリコンアルコキシドを加水分解して前駆体ゾルを作製し、該前駆体ゾルを多孔質支持体の少なくとも一方の表面に塗布した後、50〜150℃で乾燥してゲル膜からなるトルエンまたはキシレンの分離膜を形成することを特徴とする有機ガス分離フィルタの製造方法。
- 前記化1におけるR1、R2、R3、R4がメチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、フェニル基から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項4記載の有機ガス分離フィルタの製造方法。
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