JP3656073B2 - 新規ネコ免疫不全ウイルス株及びその外被膜蛋白質遺伝子rnaに対応するdna並びにネコ免疫不全ウイルスワクチン - Google Patents

新規ネコ免疫不全ウイルス株及びその外被膜蛋白質遺伝子rnaに対応するdna並びにネコ免疫不全ウイルスワクチン Download PDF

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本発明は、塩基配列が公知のものと異なっているネコ免疫不全ウイルス(feline immunodeficiency virus、FIV)静岡株とそれらより作製されたワクチン、またそれらの外被膜(envelope membrane、env)遺伝子RNAに対応するDNA、それらのDNAの遺伝子組み換えにより作製された発現ベクター、それらベクターを含む菌あるいは動物の細胞等を培養することにより得られる外被膜蛋白質、それらを用いて作製された遺伝子組み換え型ワクチンに関する。
現在世界的な規模において、ヒト後天性免疫不全症候群(エイズ)が猛威をふるい、現代のペストと言われるほどの脅威となっている。この病気はヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって伝染され、未だに有効な治療法やワクチンが開発されていない。一方、1986年アメリカ、カリフォルニア州ペタルマにおいて免疫不全症の病状を持ったネコからHIVとよく似たウイルスがPedersenらにより発見されて(Science、235巻、p790、1987)大きな話題となった。
このウイルスはネコ免疫不全ウイルス(FIV)と命名され、それ以降日本も含めて世界中で多数の報告例を見るに至った。その後ネコ免疫不全ウイルスの全塩基配列が決定されて(Talbottら、Pro、N.A.S.86巻、p5743、1989)HIVの遺伝子構成と良く類似していることが示された。また感染を受けたネコの病状の経過観察などから、この病気は基本的にはヒトのエイズに相当するものであることが判明し、ヒトエイズの動物実験モデルとして有用であると考えられている。
この免疫不全症候群に対する有効な予防対策となるワクチンの開発等に関してはどの様な状況であるかというと、ヒトの場合にはワクチンを作製しても逃避変異株がすぐ生ずるためにワクチンが効かなくなると考えられており、ワクチン開発の大きな障害となっている。また、ワクチンの有効性を確認するための適切で簡便な実験系が存在しない。
このような変異に関しての状況はネコの場合においても同様と考えられる実験成績がすでにSiebelinkらにより報告されているが(J.virol.、67巻、p2202、1993)、ネコの場合においては感染実験を簡単に行うことができるので試作されたワクチンが有効か否かを実験によって検証することが可能という非常に有利な側面を持っている。
試作ワクチンによるネコ免疫不全ウイルス感染に対する防御効果を調べた研究に関してはYamamotoらにより報告されている(J.virol、67巻、p601、1993)。この報告によれば、ペタルマ株を使用して作製されたワクチンで免疫されたネコは、ペタルマ株のウイルスやウイルス感染の成立に直接関与していると考えられている外被膜蛋白質のアミノ酸配列の相違度が約10%程度のウイルス株を感染させた場合、ペタルマ株ワクチンの投与により感染防御効果を示したという結果が得られている。
本発明者らは同様にして作製したペタルマ株ワクチンが、アミノ酸配列の相違度において、約20%異なった静岡株ウイルスの感染に対しては防御できないという実験結果を得ており、従って、新たなネコ免疫不全ウイルスワクチンの開発が望まれている。
上記したように、後天性免疫不全症候群のワクチンを使用する場合は、天然痘、麻疹等のように単一のウイルス株で作製されたワクチンでは不十分であると考えられた。ワクチンの作製法はむしろ現行のインフルエンザワクチンのように複数ウイルス株の混合されたものの方が適当であると思われる。この場合、混合されるべきウイルス株は感染に関与する外被膜蛋白質のアミノ酸配列の相違性が大きいものを含むほどより広範な有効性を持つものとなる。
これまで我が国において分離されたネコ免疫不全ウイルスの塩基配列に関しては槇らにより報告されたTM2株の塩基配列しか決定されておらず(Arch、Virol、123巻、p29、1992)、この株は上記した米国のペタルマ株に代表される欧米タイプの外被膜蛋白質アミノ酸配列とは20%以上異なっている。
本発明者らは日本国内において分離された10株近くのネコ免疫不全ウイルスの外被膜遺伝子塩基配列を決定して解析を行った。その結果TM2株、あるいはまたペタルマ株等の欧米タイプともアミノ酸配列が20%以上異なるネコ免疫不全ウイルス株が存在することが明らかとなった。このような結果と前記した試験結果より我が国で有効なワクチンを作製しようとするならば静岡株、ペタルマ株、TM2株等を混合した多価ワクチンにすることが望ましい。
本発明のネコ後天性免疫不全症候群ウイルスワクチンを調製するに当たっては、先ず日本国内で分離された多数のネコ免疫不全ウイルス株の外被膜遺伝子の塩基配列を決定する必要がある。そのための手段としては、DNAを増幅する有力な方法であるポリメレース連鎖反応(PCR)と自動塩基配列決定機が使用される。
本発明においては、先ず外被膜遺伝子の増幅が行われる。ネコ免疫不全ウイルスは、青森、静岡、仙台、福岡、旭川、横浜、名古屋、等の地域で飼育されているネコから分離した。ネコ免疫不全ウイルスのウイルス粒子に含まれている遺伝子は1本鎖RNAであるが、ウイルスが感染している細胞中で増殖する過程においては2本鎖DNAとなって染色体DNAに結合された状態になる。
これらのことはネコ免疫不全ウイルスが属するレトロウイルス科レンチウイルス亜科に共通する性質である。ネコ免疫不全ウイルスはTリンパ球を加えれば培養することが可能である。また、このウイルスの感染を受けたネコから採取された血液中のTリンパ球の染色体DNAにはウイルスの遺伝子が含まれている。本発明においてはこれらの染色体DNA中に含まれたネコ免疫不全ウイルス遺伝子を利用して実験が行われる。
即ち、ネコ免疫不全ウイルスに感染したネコの血液よりTリンパ球を遠心分離で沈澱として採取した後、細胞溶解用緩衝液(トリス塩酸(pH8.3)10mM、NaCl 150mM、KCl 50mM、MgCl2
2mM、NP40 0.45%、ツイーン20 0.45%、プロテネースK 60μg/ml)に分散して、インキュベートし、フェノール抽出、クロロフォルム抽出後、エタノールを加えて染色体DNAを沈澱させ、少量の水を加えてPCR用のDNA溶液とする。インキュベートは56℃で1時間が好ましい。
ネコ免疫不全ウイルスペタルマ株の外被膜遺伝子は2565塩基長であることがすでに明らかになっている(Talbottら、Proc.Natl.Acad.Sci.,86巻、p5743、1989)。PCRは、外被膜遺伝子DNAを境界部分を互いに重複するような3つの領域に分けて行うのが好適である。PCRに必要な化学合成されたDN
AプライマーのDNA5’末端側にはいずれも適当な制限酵素の切断認識配列を含ませてPCRの後で塩基配列決定用のベクターに容易に結合できるようにするのがよい。増幅された遺伝子断片は1%の低融点アガロース電気泳動により精製することができる。
次に、このようにして得られた外被膜遺伝子の塩基配列が決定される。上記のようにして増幅されたネコ免疫不全ウイルスの遺伝子DNAを切断認識配列に対応した制限酵素で切断して、同じ制限酵素で切断されたM13ファージ2本鎖DNAにT4DNAライゲースで結合させ、カルシウムで処理された大腸菌JM109株にDNA感染させて、外被膜遺伝子DNA断片を1本鎖DNAとして含むファージブラックを得る。このファージブラックを大腸菌に感染して増幅させ、1本鎖DNAを回収する。
またTaqポリメレースによるDNA誤合成の可能性を避けるため、PCRで増幅された同一遺伝子断片から得られた5個のファージ由来の1本鎖DNAを混合して塩基配列決定に用いるのがよい。以降の塩基配列の決定は、例えばアプライドバイオシステム社(ABI)から市販されている塩基配列用のキット及び同社の自動塩基配列決定機373Aを使用することで行われる。
このようにして得られた塩基配列が決定された外被膜遺伝子を用いてネコ免疫不全ウイルス不活化ワクチンの生産が行われる。ネコ免疫不全ウイルスは主としてネコのTリンパ球の中で増殖する。ネコ免疫不全ウイルスを持続的に増殖しながら継代できるTリンパ系細胞株を樹立するためには、例えばHIVの場合には、米国のギャロのグループが樹立したHIV持続感染細胞MOLT−4が良く知られている(Popovicら、Science、224巻、p497、1984)。
ネコ免疫不全ウイルスに関しては、ペタルマ株ウイルスを持続的に産生するFL−4細胞が報告されている(Yamamotoら、Intervirol.,32巻、p361、1991)。本発明においてはこれらと同様な手法を用いることで、静岡株等のTリンパ球持続感染細胞系が樹立できる。これらを用いてワクチンを製造するには、上記のYamamotoらによりすでに報告されている通り、ウイルス感染細胞そのものを使用する方法と、ウイルスを精製する方法を応用することができる。
前者は感染細胞をパラフォルムアルデヒド等で含まれているウイルスを固定不活化して適当なアジュバントを加えて作製する。後者は持続感染細胞を除去してウイルスを集めて不活化し、アジュバントを加えてワクチンとする。
別のワクチン製造法としては、遺伝子組み換え法を用いたコンポーネントワクチンの作製が挙げられる。外被膜遺伝子の全部またはウイルスの感染に重要な働きを持つ領域を部分的に含む組み換え遺伝子発現用のベクターは既に公知となっている遺伝子組み換えの手法を用いて作製することが可能である。本発明においてもそのような手段を静岡株ウイルスの外被膜遺伝子の全部または感染に重要な部分の蛋白質を発現させることのできるベクターが調製される。
多価ワクチンの作製は、一種のワクチンを必要な種類だけ、例えば静岡株ワクチン、ペタルマ株ワクチン、TM2株ワクチンを調製し、これらを夫々等量ずつ混合することにより3価の多価ワクチンを調製することできる。
表1に本発明者らにより日本国内で分離され、外被膜遺伝子の塩基配列が決定された静岡株および公知となっている米国のペタルマ株、ディクソン株および唯一の全塩基配列が決定された日本国内分離株であるTM2株、これら4種類の外被膜蛋白質のアミノ酸配列の相違度を示す。
表1より本発明におけるネコ免疫不全ウイルスの静岡株と公知のペタルマ株とは20.3%、TM2株とは20.0%、ディクソン株は21.0%、また日本分離株と欧米分離株とでは全体として互いに約20%近く異なっていることが明らかである。またこれ以外のデータでは、欧米株に類似したウイルスも数株分離されており、これらは輸入されたネコにより国内に持ち込まれたものと推定される。
Figure 0003656073
これまでに日本国内で分離されて塩基配列が決定されたネコ免疫不全ウイルスとしては、槇らによるTM1株、TM2株しかなく、これらは互いに極めて類似しているが、欧米タイプとは20%以上異なっている(Rigbyら,J.gen.Virol.,74巻、p425、1993)。
このことから、欧米で分離された多数のネコ免疫不全ウイルスに関しては一つのグループを形成し、日本ではTM2株タイプのネコ免疫不全ウイルスのみが流行しているのではないかと考えられていた。しかし、日本においてはTM2株タイプだけではなく多様に変異したネコ免疫不全ウイルスが存在し、また欧米タイプのウイルス株も持ち込まれていることが明らかとなっている。
Yamamotoらはペタルマ株を用いた試作ワクチンの免疫により同一のペタルマ株や外被膜蛋白質のアミノ酸配列が11%異なったディクソン株の感染を防御できたことを報告している(J.Virol.,67巻、p601、1993)。本発明においては、例えばペタルマ株及び外ペタルマ株と外被膜蛋白質のアミノ酸配列が20%異なる静岡株の試作ワクチンを作製し、これらのワクチンを用いてネコに夫々免疫しておき、攻撃ウイルスとして夫々にペタルマ株及び静岡株ウイルスを接種して防御効果を調べた。
防御効果の結果を表2に示した。ペタルマ株ワクチンで免疫されたネコはYamamotoらの報告通り同じペタルマウイルスの感染を防御することはできたが、静岡株の感染は防御できないことが判った。
尚、本明細書および図面中において使用されているアミノ酸の略号は下記の意味を有する。
A:アラニン
C:システイン
D:アスパラギン酸
E:グルタミン酸
F:フエニルアラニン
G:グリシン
H:ヒスチジン
I:イソロイシン
K:リジン
L:ロイシン
M:メチオニン
N:アスパラギン
P:プロリン
Q:グルタミン
R:アルギニン
S:セリン
T:スレオニン
V:バリン
W:トリプトフアン
Y:チロシン
本発明によりネコ免疫不全ウイルス静岡株の外被膜遺伝子RNAに対応する新規DNA塩基配列が決定された。更に、同DNAを組み込んだベクターを用いて外被膜ペプチドを生産させ、これを用いてワクチンを製造することが可能となった。また、新規ネコ免疫不全ウイルス静岡株を培養により増殖させ、同株に対するワクチンが作製された。更にネコ免疫不全ウイルスTM株、ペタルマ株のワクチンも作製され、これら3種のワクチンを混合することにより多価ワクチンが製造される。
実施例1
(1)外被膜遺伝子の増幅
ネコ免疫不全ウイルスの感染を受けたネコから採取された血液中のTリンパ球を遠心分離で沈澱させて、細胞溶解用緩衝液(トリス塩酸(pH8.3)10mM、NaCl 150mM、KCl 50mM、MgCl2
2mM、NP40 0.45%、ツイーン20 0.45%、プロテネースK 60μg/ml)に分散して、56℃で1時間インキュベートし、フェノール抽出、クロロフォルム抽出後、エタノールを加えて染色体DNAを沈澱させ、水50μlを加えてPCR用のDNA溶液とした。
ネコ免疫不全ウイルスペタルマ株の外被膜遺伝子は2565塩基長であることがすでに明らかになっている(Talbottら、Proc.N.A.S.,86巻、p5743、1989)。PCRを実施するに当たっては、これを境界部分を互いに重複するような3つの領域に分けて行った。
PCRに必要な化学合成されたDNAプライマーは、ペタルマ株ウイルスにおける塩基番号では(1)5904〜5922(+鎖)、6854〜6872(−鎖)、(2)6490〜6518(+鎖)、7848〜7867(−鎖)、(3)7805〜7822(+鎖)、8827〜8845(−鎖)であった。
これらプライマーDNAの5’末端側にはいずれも適当な制限酵素の切断認識配列を含ませてPCRの後で塩基配列決定用のベクターに容易に結合できるようにした。またそれらの塩基配列は以下の通りりである。
(1)GGGGAATTCAGCGTTTTGTTTCTCCT (+鎖)
GGGCAGCTGGTGCCCAACAATCCCA (−鎖)
(2)GGGGGATCCAATGCAGGTAAGTTTAGAAG
(+鎖)
GGGAAGCTTGCAAGACCAATTTCCAGCA
(−鎖)
(3)GGGAGATCTTATTGTACATTT (+鎖)
GGGAAGCTTCATCATTCCTCCTCT (−鎖)
PCRは50μlの反応溶液あたり、遺伝子DNAを5μl、2.75ユニットのTaqポリメレース、各々25mMのdATP、dCTP、dGTP、TTP混合液を1μl、前記(1)〜(3)のプライマーのいずれかを+鎖、−鎖それぞれ1μlづつ加え、94℃で1分、55℃で1分、72℃で2分を1サイクルとして27回繰り返して遺伝子断片を増幅させた。増幅された遺伝子断片は1%の低融点アガロースゲル電気泳動により精製した。
上記と同様の方法を用いて、ネコ免疫不全ウイルス静岡株の外被膜遺伝子を増幅し、精製した。
(2)外被膜遺伝子の塩基配列決定
上記(1)のようにして例えば、(2)のプライマーのペアを使用して増幅されたネコ免疫不全ウイルスの遺伝子DNA断片の塩基配列を決定する方法は次の通りである。0.5μgの遺伝子断片を制限酵素のBamHI(GGATCC)およびHindIII(AAGCTT)で末端を切断しておき、同じ制限酵素で切断されたM13ファージ2本鎖DNA0.2μgにT4DNAライゲース(宝酒造社製キット)で14℃で2時間以上反応させて結合させ、カルシウムで処理した大腸菌JM109株にDNAを感染させて、37℃で一晩培養して外被膜遺伝子DNA断片を1本鎖DNAとして含むファージプラックを得た。
このファージブラックを大腸菌JM109株菌液1mlに感染させ、37℃で6時間培養して増殖させた。大腸菌を12000rpm、5分間の遠心分離で除去した上清に25%PEG(ポリエチレングリコール)、2.5M食塩水を1/10量加えて20℃で20分間放置後、15000rpm、5分の遠心分離でファージを沈澱させた。
ファージの沈澱を水に溶解させ、フェノール抽出後エタノールを加えて1本鎖DNAを回収した。また、TaqポリメレースによるDNA誤合成を考慮して、PCRで増幅された同一遺伝子断片から得られた5個のファージ由来の1本鎖DNAを混合して塩基配列決定に用いた。
以降の塩基配列を決定する手段としては、アプライドバイオシステム社(ABI)から市販されている塩基配列用のキットに記載された蛍光プライマー法に従った。この方法は塩基配列の決定に繁用されるSangerらによるジデオキシ法(Pro.N.A.S.,74巻、p5463、1977)を基本として、この方法で使用されるM13プライマーをA、C、G、Tを識別できるように蛍光標識させたものである。
標識されたDNAを電気泳動にかけて塩基配列を決定する際にはABIの自動塩基配列決定機373Aを使用して行った。
上記と同様の方法に従ってネコ免疫不全ウイルス静岡株の外被膜遺伝子の塩基配列が図1および図2に示すように決定された。
(3)ネコ免疫不全ウイルス不活化ワクチンの生産
静岡株ウイルスを持続的に増殖する感染細胞をPBS(0.1Mリン酸緩衝生理食塩水)で5×107 細胞/mlとし、これに2.5%パラフォルムアルデヒドを等量加えて、4℃で24時間振とうさせて、含まれているウイルスを固定不活化した。
これを3000rpm、15分で細胞を沈澱させてパラフォルムアルデヒドを除去し、PBSに再浮遊させて、この操作を3回繰り返してPBSに5×107 /mlに浮遊させた。これにアジュバントとして500μg/mlのA−MDP(adenyl−muramyldipeptide、Syntex社製)(Byarsら、Vaccine、5巻、223、1987)を等量加えてワクチンを作製した。
実施例2
静岡株、TM株およびペタルマ株を含む多価ワクチンの作製
ネコ免疫不全ウイルス静岡株、TM2株およびペタルマ株単味のワクチンを個々に実施例1と同様にして作製した。これらを等量づつ混合して3価の多価ワクチンを調製した。また、別に3倍の濃度の単味ワクチンを作製して、これらを等量混合することで各株について単味の場合と同じ力価のワクチンを作製した。
実施例3
遺伝子組み替え法を用いたコンポーネントワクチンの作製
外被膜遺伝子の全部またはウイルスの感染に重要な働きを持つ領域を部分的に含む組み替え遺伝子発現用のベクターは既に公知となっている手法たとえばバキュロウイルス、ワクシニアウイルス、酵母等を用いて容易に作製し得る。
本発明においては一例としてネコ免疫ウイルスの外被膜遺伝子を部分的に発現させることのできるカイコ−多角体病(バキュロ)ウイルス系(前田進、日本蚕糸学雑誌、53巻、p547、1984)における組み換えウイルスの作製法について記載する。
先ず、ネコ免疫不全ウイルス外被膜遺伝子を増幅するためのプライマーDNAを合成する。この場合は外被膜蛋白質においてウイルスの感染に中心的な役割を果たす領域を発現させる。また、蛋白質を発現させることから、+鎖プライマーは開始コドンATG、−鎖プライマーは終了コドンのTAGをアミノ酸の読み取り枠を合わせる配列で加え、発現ベクターに結合させるためにBamHI部分をも含ませる。これらの塩基配列および図1および図2における塩基番号を以下に示す。
+鎖:CTCGGATCCACCATGGTCCCAGTAGAAGAAAC AGA (550〜569)
−鎖:CTCGGATCCTATCGCTTTTCACTAGGTTTGT
(1817〜1836)
これらのプライマーを用いて、上記の実施例1(1)に記載した方法と全く同様にして外被膜遺伝子の断片(1287塩基長、429アミノ酸残基)を増幅した。これをBamHI(GGATCC)で切断し、図3に示すBglII(AGATCT、BamHI部位に結合できる)で切断した多角体病ウイルスの発現ベクターpBM050にT4DNAライゲースで結合させ、カルシウムで処理した大腸菌JM105株に加えてクローニングを行った。
外被膜遺伝子断片を含むクローンDNA3μgとカイコ多角体病ウイルスのゲノムDNA15μg(モル比50:1)とを混合して、リポフェクチンを20μg/mlに加えて、シャーレで培養したカイコの卵巣由来の細胞Bm−N4に共感染させて27℃で培養してプラックを形成させた。
プラックを実体顕微鏡で観察すると、野性型ウイルスのプラックでは感染細胞の核内に多角体が観察されるのに対して、外被膜遺伝子を含むウイルスにより形成されたプラック
では核内から多角体が消失するので組み換え体ウイルスは容易に区別される。この組み換え体ウイルスを鈍化してBm−N4細胞に感染させ外被膜蛋白質を得た。このものを用いて実施例1(3)記載の方法に従いコンポーネントワクチンを作製した。
試験例
ペタルマ株及びペタルマ株と外被膜蛋白質のアミノ酸配列が20%異なる静岡株の試作ワクチンを実施例1(3)に記載した通りに作製した。これらのワクチンをネコに夫々3回接種することにより免疫しておき、攻撃ウイルスとして夫々にペタルマ株及び静岡株ウイルスを接種して防御効果を調べた。
また、対照としてはPBSを投与した。表2のそれらの結果を示した。これによりペタルマ株ワクチンで免疫されたネコはYamamotoらの報告通り同じペタルマウイルスの感染を防御することはできたが、静岡株の感染は防御できなかった。これに対して、静岡株で作製したワクチンを接種されたネコは両株のネコ免疫ウイルス感染を防御することができた。
Figure 0003656073
本発明によりネコ免疫不全ウイルス静岡株の外被膜遺伝子RNAに対応するDNA塩基配列が決定され、同DNAを組み込んだベクターを用いて外被膜ペプチドを生産させ、これを用いてワクチンを製造することができ、新たなネコ免疫不全ウイルスワクチンが得られる。また、新規ネコ免疫不全ウイルス静岡株を培養により増殖させ、同株に対するワクチンが作製でき、更にネコ免疫不全ウイルスTM、ペタルマ株のワクチンも差製でき、これら3種のワクチンを混合することにより多価ワクチンが得られる。
ネコ免疫不全ウイルスの外被膜蛋白質遺伝子RNAに対応するDNAの塩基配列(1〜1500)およびその配列から指定される外被膜蛋白質のアミノ酸配列を示すものである。 ネコ免疫不全ウイルスの外被膜蛋白質遺伝子RNAに対応するDNAの塩基配列(1501〜2571)およびその配列から指定される外被膜蛋白質のアミノ酸配列を示すものである。 多角体病ウイルスの発現ベクターを示す地図である。

Claims (5)

  1. ネコ免疫不全ウイルスの外被膜遺伝子RNAに対応するDNAであり、その塩
    基配列が、
    Figure 0003656073
    Figure 0003656073
    示される全長配列の中で、ウイルスの感染に中心的な役割を果たす領域を発現
    させる一部の長さを持つことを特徴とするDNA。
  2. ネコ免疫不全ウイルス外被膜蛋白質であり、そのアミノ酸配列が、
    Figure 0003656073
    Figure 0003656073
    で示される全配列の中で、ウイルスの感染に中心的な役割を果たす領域である
    一部の長さを持つ蛋白質、さらにそれに糖鎖が付加されたことを特徴とする蛋白
    質。
  3. ネコ免疫不全ウイルスの外被膜遺伝子を含むDNAであり、請求項2に記載さ
    れたウイルスの感染に中心的な役割を果たす蛋白質の一部を発現し得るように構
    築されたことを特徴とする発現用プラスミド、ファージあるいはウイルスのベク
    ターDNA構造物。
  4. ネコ免疫不全ウイルス外被膜蛋白質の一部であり、ウイルスの感染に中心的な
    役割を果たす請求項3の発現用ベクターDNAを含む菌あるいは動物の細胞の培
    養によって生産されたことを特徴とする蛋白質。
  5. 生産された蛋白質が前記請求項2記載の蛋白質であることを特徴とする請求項
    4記載の蛋白質。
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