JP3650840B2 - 単結晶引き上げ装置用の断熱材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、単結晶引き上げ装置内のルツボを加熱するヒータの熱が密閉本体の外部へ移動しないようにするための単結晶引き上げ装置用の断熱材に関し、詳しくは、基材が炭素質繊維成形体で形成され、この基材の表面に熱分解炭素からなる被膜が形成されてなる単結晶引き上げ装置用の断熱材に関する。
【0002】
【従来の技術】
単結晶引き上げ装置は、所謂チョクラルスキー法と称される方法により、雰囲気ガスの存在下で、ルツボ内のシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げるもので、例えば、特公昭57−15079号公報にて示されているような「単結晶製造装置」として知られる。この公報に示された装置は、図3に示すように、「炉体容器1内にその下方より回転軸2が導入され、その回転軸2の端面上に載置台3を介してルツボ4が配される。又該ルツボ4の周りに発熱体5と保温筒6が配され、而してルツボ4内でシリコンが溶融され融液7を得る。一方、炉体容器1の上方には上下に滑動する回転軸9が設けられている。該回転軸9の遊端にシリコンの種結晶8を取付け、回転軸9を種結晶8がルツボ4内の融液7に触れている状態より上方に移動させて、種結晶8の下に続くシリコンの単結晶10を得る。
単結晶を育成する際、不必要な反応生成ガスが、単結晶10及び融液7の液面で反応しないように、これを排除する必要がある。このためにアルゴン等の不活性ガスを雰囲気ガスとして、炉体容器1の上方より単結晶及び液面に送給し、炉体容器1下部より排出する」というものである(上記公報の第2欄)。なお、図3中の符号5を付した部材はヒータであり、保温筒6と炉体容器1との間には、図1に示すように断熱材が配置されるものである。
【0003】
一方、以上の単結晶引き上げ装置によって製造される単結晶は、半導体素子を形成するための材料として使用されるものであるが、半導体素子に要求されている高集積化や高速化に伴って、単結晶から製造される半導体ウエハの大口径化と高品位化が望まれている。すなわち、現在の半導体ウエハの口径としては、100mm以下では種々のサイズがあるが、100mm以上では、100mm、125mm、150mm、200mmの4種類のサイズが国際的にも使用されている規格となっている。そして、最近では300mm、あるいはそれ以上のものの規格化が進められている。
【0004】
半導体ウエハの大口径化が進められれば、当然単結晶引き上げ装置によって引き上げられる単結晶の直径も大型化しなければならず、単結晶引き上げ装置及びこれを構成する各部品も大型化せざるを得なかった。
【0005】
しかし、上記のように単結晶引き上げ装置を大型化して、単結晶を大口径化するには、以下に述べるような種々の問題点があった。
(1)単結晶の大口径化に伴うメリットを十分生かすためには、コスト上昇を伴わない単結晶の製造技術の開発が望まれるが、単結晶引き上げ装置を構成する各部品を大型化するためには、材料費や加工費に従来サイズの単結晶引き上げ装置より高コストを必要とした。
(2)密閉本体を大型化することによる密閉本体内の熱効率の低下は、多くの電気エネルギーを必要とした。
【0006】
また、半導体ウエハの高品位化に伴い、密閉本体は高真空化し、たとえ保温筒が存在しても単結晶を育成するSiOガスが断熱材にまわり込み、次のような化学反応が生じると考えられる。
SiO+2C→SiC+CO
つまり、炭素繊維1本1本が珪化し、それにより繊維が脱落し炉内を汚染したり、又繊維が珪化して断熱特性が劣化する原因となる。
【0007】
そこで、本発明者は密閉本体が従来の大きさである単結晶引き上げ装置により、半導体ウエハの大口径化を達成するにはどうしたらよいか、また単結晶引き上げ装置内の汚染や単結晶の汚染を防ぐためにはどうしたらよいかと鋭意検討した結果、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上のような経緯に基づいてなされたもので、その解決しようとする課題は、高い断熱性を備えるともに、単結晶引き上げ装置内の汚染や単結晶の汚染を引き起こすことがなく、耐久性が高くて低コストであり、かつルツボを加熱するヒータと断熱材の間に配される保温筒の設置を省略可能にする単結晶引き上げ装置用の断熱材を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために請求項1に記載の発明の採った手段を実施形態の説明中において使用する符号を付して説明すると、
「単結晶引き上げ装置100内のルツボ10を加熱するヒータ20の熱が密閉本体50の外部へ移動しないようにするための断熱材40であって、
炭素質繊維成形体41からなる断熱剤の基材と、熱分解炭素からなる被膜とを形成してなり、
前記炭素質繊維成形体41と前記熱分解炭素からなる被膜42の間に、熱硬化性樹脂を前記炭素質繊維成形体41に塗り付け、加熱硬化した後、再度塗布して硬化処理をし、炭化してなる熱硬化性樹脂炭化物を中間層として形成し、
炭素質繊維成形体41の繊維の1本1本に熱分解炭素の被膜42形成が防止されてなることを特徴とする単結晶引き上げ装置100用の断熱材40」
というものである。
【0010】
本発明に係る断熱材40は、図1に示すように、密閉本体50内のルツボ10を加熱するためのヒータ20と、密閉本体50の内壁面との間に介装されるものであり、その基材全体を炭素質繊維成形体41によって形成することが必要である。その理由は、このような炭素質繊維成形体41は熱伝導性が小さく極めて高い断熱性を備えているため、ヒータ20の周りに円筒状に形成すれば、ヒータ20による輻射熱を十分に遮断するとともに、密閉本体50内の熱を密閉本体50外へ逃すことがなく、密閉本体50内の熱効率を向上させるからである。
【0011】
また、本発明を構成する断熱材40において、上記炭素質繊維成形体41の表面には熱分解炭素からなる被膜42を形成しなければならない。その理由は、熱分解炭素の被膜42の表面層は緻密であるため、耐酸化性、気体不浸透性も極めて向上し、SiOガスやSiガスと炭素質繊維成形体41とが接触して、炭素質繊維成形体41の炭素と反応することを防ぐためである。一方、熱分解炭素の被膜42の表面層の熱伝導率は、熱分解炭素沈積面に垂直な方向においては、非常に低いことから、炭素質繊維成形体41の本来の熱伝導率は上昇せず、高断熱性は十分確保される。
【0012】
上記のごとく形成された断熱材40の表面に形成された熱分解炭素からなる被膜42の有する極めて高い耐酸化性、気体不浸透性により、単結晶を育成する際に発生するSiOガスやSiガスと炭素質繊維成形体41が反応することを防止することができるので、上記密閉本体50内の熱効率の向上と相俟って、従来のように断熱材40が炭素質繊維で形成される場合に、ヒータ20と断熱材40との間に黒鉛等の保温筒を設けることが不可欠であったにも拘らず、本発明に係る断熱材40を使用する単結晶引き上げ装置100にあっては、保温筒を設置しなくともよく、その分、密閉本体50内の空間スペースが増大し、密閉本体50をスケールアップすることなく、ルツボ10のスケールアップが可能となり、半導体ウエハの大口径化を達成できるのである。また、炭素質繊維成形体41の表面には熱分解炭素からなる被膜42が形成されているので、断熱材40の外表面上は緻密質となり、繊維等の脱落がなく、密閉本体50内をクリーンに保持することができるのである。又、スケールアップの必要がない場合は、従来通り保温筒30を設けることも可能である。その場合、断熱材寿命の向上、半導体ウエハの高品位化を図ることができる。
【0013】
さらに、請求項1又は2に記載の発明を構成する断熱材40は、炭素質繊維成形体41と熱分解炭素からなる被膜42の間に中間層として、熱硬化性樹脂炭化物からなる中間層43を包含するものである。そして、この熱硬化性樹脂炭化物からなる中間層43は、フェノール樹脂、フラン樹脂、ジビニルベンゼン樹脂、又は縮合多環芳香族化合物とヒドロキシメチル基、ハロメチル基のいずれか少なくとも一種の基を二個以上有する一環または二環以上の芳香環から成る芳香族架橋剤と酸触媒とを組み合わせて成る組成物の中から選ばれる、一種または二種以上の熱硬化性樹脂を加熱硬化した後炭化して形成される。
なお、中間層を形成する際、熱硬化性樹脂に予め黒鉛粉等の粉末を添加してもよい。
【0014】
上記のごとく形成された炭素質繊維成形体41と熱分解炭素の被膜42の間に熱硬化性樹脂炭化物からなる中間層43を形成する理由は、中間層43が存在しないと熱分解炭素の被膜が形成されにくく、繊維1本1本に熱分解炭素がコーティングされるので、さらにその上に熱分解炭素が被覆されることにより重量が増加したり、それに伴う熱容量アップや断熱特性の劣化につながるからである。
【0015】
さらに、上記課題を解決するために請求項2に係る本発明の採った手段は、
「被膜42が形成される被形成体における全表面積の5〜95%の範囲で熱分解炭素からなる被膜42が形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の単結晶引き上げ装置用の断熱材40」というものである。
上述のように熱分解炭素からなる被膜42を被形成体の全表面積の5〜95%に形成する理由は、熱分解炭素からなる被膜42は気体不浸透性に優れるため、取扱い等により熱分解炭素からなる被膜42の欠けや傷が発生する場合に、そこから内部気体がゆっくりと放出され、真空リークチェック時に装置の不具合と誤認されることがある。そこで、炭素質繊維成形体41の一部を露出することにより、炭素質繊維成形体41に含まれる気体の脱気を促し、内部の気体の排出を短時間に行うことができるようにするものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
次に本発明を、図面に示した実施の形態について説明すると、図1には、本発明に係る断熱材40が適用される単結晶引き上げ装置100の縦断面図が示してある。この単結晶引き上げ装置100は、その密閉本体50内に、半導体原料を溶融させるためのルツボ10を回転軸にて回転可能に収容したものであり、このルツボ10の周囲にはこれを加熱するためのヒータ20が配置してある。このヒータ20の外側には、保温筒30が配置され、さらに、この保温筒30と密閉本体50の内壁面との間には、本発明に係る断熱材40が配置してある。
【0017】
ルツボ10は、溶融した半導体原料と直接接触する部分を、石英ルツボ11とした二重構造のものであり、ヒータ20は、一般的には、いわゆる黒鉛ヒータが採用されるものであり、図1に示したような位置関係となるものである。そして、本発明に係る断熱材40を備える単結晶引き上げ装置100にあっては、ヒータ20との間に保温筒30の設置を省略してもよいので、保温筒30を設置しない場合には、密閉本体50内の空間が拡充し、密閉本体50自体を大型化しなくとも、ルツボ10のサイズは従来のルツボよりもスケールアップされるものである。
【0018】
断熱材40には、図2に示したように、炭素質成形体41の表面には熱分解炭素からなる被膜42が形成してある。断熱材40は、図2右図に示したように、この炭素質繊維成形体41の表面に熱硬化性樹脂炭化物からなる中間層43を形成し、更にこの熱硬化性樹脂炭化物からなる中間層43の表面に熱分解炭素からなる被膜42を形成して構成したものである。これらの炭素質繊維成形体41、熱分解炭素からなる被膜42及び熱硬化性樹脂炭化物からなる中間層43は、以下の実施例にてより詳細に示すように製造又は形成されるものである。
【0019】
単結晶引き上げ装置100を構成している各部材の内、Si蒸気やSiOガスに直接さらされるものについては、本発明に係る断熱材40のように構成して実施するとよい。例えば、密閉本体50の底部上には、断熱材44を介して底部遮熱板53が載置してあり、これらの底部遮熱板53及び断熱材44に形成した排気口を介して、当該単結晶引き上げ装置100の作動中において、その内部のガスの排出がなされているのである。よって、断熱材44もSiOガスにさらされるものであり、従来の技術の項で説明した断熱材40と略同じ問題を抱えているものである。従って、断熱材44を、断熱材40の基材と同様な炭素質繊維成形体41によって形成するとともに、その表面に熱分解炭素からなる被膜42を形成するとよいのである。
【0020】
さて、本発明に係る断熱材を、その製造方法を含んだ実施例とともにさらに詳述すると、次の通りである。
【0021】
(参考例)
外径φ680mm、内径φ600mm,高さ600mmの筒状に炭素質繊維を成形した。
得られた炭素質繊維成形体41をCVD炉に入れて1400℃に加熱するとともに、水素ガスをキャリアとしてメタンガスを炉内に連続的に供給した。これにより、炭素質繊維成形体41の表面全体に厚さ50μmの熱分解炭素からなる被膜42を形成した。
【0022】
(実施例1)
参考例と同様の筒状の炭素質繊維成形体41に、熱硬化性樹脂として、軟化点80℃の石油系ピッチのベンゼン可溶分(平均分子量340)とP−キシレングリコールをモル比で1:2の割合で混合し、そこに1wt%のP−トルエンスルホン酸を加えた混合物を用い、これを130℃で40分間反応させた。
この反応生成物を130℃で溶融させ、前記炭素質繊維成形体41に塗り付け、180℃で硬化させた後、再度塗布して硬化処理をし、1900℃で焼成した。
ひきつづき、熱分解炭素蒸着CVD炉内へ設置し、原料をメタンとし、蒸着温度2000℃、圧力30Torrの条件下で熱分解炭素からなる被膜を50μm形成させた。
(参考例2)
参考例1と同様、外径φ680mm、内径φ600mm、高さ600mmの筒状に炭素質繊維を成形した。
得られた炭素質繊維成形体41をCVD炉に入れて1400℃に加熱するとともに、水素ガスをキャリアとしてメタンガスを炉内に連続的に供給した。これにより、炭素質繊維成形体41の表面全体に厚さ50μmの熱分解炭素からなる被膜42を形成した。
これを機械加工により外周表面を削り落とし、熱分解炭素からなる被膜42を70%残した。なお、予めCVD炉内で処理する段階で、マスキングにより実施することも可能である。
【0023】
【発明の効果】
請求項1に記載の単結晶引き上げ装置100用の断熱材40は、「単結晶引き上げ装置100内のルツボ10を加熱するヒータ20の熱が密閉本体50の外部へ移動しないようにするための断熱材40であって、前記断熱材40の基材を、炭素質繊維成形体41で形成するとともに、前記炭素質繊維成形体41の表面に熱分解炭素からなる被膜42を形成してなり、前記炭素質繊維成形体41と前記熱分解炭素からなる被膜42の間に、熱硬化性樹脂を前記炭素質繊維成形体41に塗り付け、加熱硬化した後、再度塗布して硬化処理をし、炭化してなる熱硬化性樹脂炭化物を中間層として形成し、炭素質繊維成形体41の繊維の1本1本に熱分解炭素の被膜42形成が防止されてなる」ことを特徴とすることにより、高断熱性を備え、ヒータ20による輻射熱を十分に遮断し、密閉本体50内の熱を密閉本体50の外部に移動させないので、密閉本体50内の熱効率が向上し、保温筒30の設置が省略可能となり、密閉本体50自体を大型化することなく、半導体ウエハの大口径化が達成できる。また、炭素質繊維成形体41の表面には、緻密質な熱分解炭素からなる被膜42が形成されるので、単結晶引き上げ装置100内の汚染や単結晶の汚染を防止でき、さらに、断熱材40が珪化することを防ぐので、耐久性の高い低コストの断熱材40を提供できる。また、熱分解炭素からなる被膜42がより堅固に形成され、上記の効果がより一層高められた断熱材40を提供できる。
【0024】
請求項2に記載の単結晶引き上げ装置100用の断熱材40は、「被膜42が形成される被形成体における全表面積の5〜95%の範囲で熱分解炭素からなる被膜42が形成されてなる」ことを特徴とすることにより、炭素質繊維成形体41に含まれる気体の脱気を促し、密閉本体50内の気体の排出を短時間で行うことができるので、真空リークチェック時に単結晶引き上げ装置の不具合と誤認されることがなく、密閉本体50内の高真空化の達成が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る断熱材を採用した単結晶引き上げ装置の概略縦断面図である。
【図2】同断熱材の拡大断面図である。
【図3】従来のシリコン単結晶引き上げ装置を示す断面図である。
【符号の説明】
100 単結晶引き上げ装置
10 ルツボ
11 石英ルツボ
20 ヒータ
30 保温筒
40 断熱材
41 炭素質繊維成形体
42 熱分解炭素からなる被膜
43 熱硬化性樹脂炭化物からなる中間層
44 断熱材
50 密閉本体
Claims (2)
- 単結晶引き上げ装置内のルツボを加熱するヒータの熱が密閉本体の外部へ移動しないようにするための断熱材であって、
炭素質繊維成形体からなる断熱剤の基材と、熱分解炭素からなる被膜とを形成してなり、
前記炭素質繊維成形体と前記熱分解炭素からなる被膜の間に、熱硬化性樹脂を前記炭素質繊維成形体に塗り付け、加熱硬化した後、再度塗布して硬化処理をし、炭化してなる熱硬化性樹脂炭化物を中間層として形成し、
炭素質繊維成形体の繊維の1本1本に熱分解炭素の被膜形成が防止されてなることを特徴とする単結晶引き上げ装置用の断熱材。 - 被膜が形成される被形成体における全表面積の5〜95%の範囲で熱分解炭素からなる被膜が形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の単結晶引き上げ装置用の断熱材。
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