次世代の薄型表示素子(FPD)として、有機EL表示素子が携帯電話等に使用され始めている。有機EL表示素子は、有機発光材料を備え自発発光によって表示が行われ、高速応答性、視認性、輝度などの点で、従来のLCDやPDPに比して格段に優れている。
その基本的構成や動作原理は、以下のとおりである(例えば、非特許文献1参照。)。発光を行うために、少なくとも一方が透明な電極(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO))と他の電極との間に、陽極側から正孔輸送層、発光層、電子輸送層などの有機質層が備えられる。現在、有機EL表示素子の長寿命化と高輝度化、フルカラー化等を達成できるよう、さらなる研究が進められている。
有機EL表示素子は、電流駆動型のディスプレイである。なかでも、パッシブ駆動型の有機EL表示素子では、各行の選択期間だけ電流が流れ、それに応じて発光層が発光し表示が行われる。その結果、電圧駆動型のLCDの場合と比較して、大電流が電極に流れ込むことになる。
たとえば、画素サイズが300μm×300μmで、陽極本数が100本のパネルを1/64デューティ比で駆動する場合を想定する。発光効率が1cd/Aであって、平均輝度300cd/m2で点灯させるには、選択期間に陰極に流れ込む電流の総和は172.8mAとなる。
近年の薄型表示装置(FPD)における、フルカラー化や高精細表示化の要求に伴い、透明電極のさらなる低抵抗化が望まれている。しかし、LCD等に従来から用いられているITOの低抵抗化は限界が近づいている。そこで、TFT−LCD等で広く用いられている低抵抗金属をITOと併用する低抵抗配線技術が導入されている。
このように、有機EL表示素子の陰極と接続端子との間には、大電流による電圧上昇を抑制するため低抵抗配線技術が必要となる。一般的に、陰極と接続端子との間に補助配線が設けられ、電流が補助配線を介して接続端子に流れるような構造を採用する。
しかしながら、表示パネルの大型化、高精細化、高輝度化の要求は非常に強い。これを達成しようとすると、補助配線のさらなる低抵抗化が必要となる。一般的に、FPDの低抵抗配線材料として、AlまたはAl合金がよく用いられる。しかし、AlまたはAl合金には、ヒロックが生じやすく、また表面にAl酸化物が形成されやすい。また、他の金属と電気的コンタクトを取ろうとしても、接触抵抗が高く、そのままでは使用することが難しい。
そのため、多くの場合、MoまたはMo合金(Cr、Ti、Ta、Zr、HfまたはVとMoとの合金)で、AlまたはAl合金をキャップする手法が採用される(例えば、特許文献1参照。)。MoはAlと同じエッチング液でエッチングすることができるからである。よって、MoとAlの組合せの場合、表示パネルを形成するためのフォトリソ工程で、AlとMoとを一括してパターニング形成することができる。
しかし、一般的にMoの耐湿性は低く、空気中の水分で腐食しやすいので、MoをFPDの配線材料に用いると配線が劣化しやすいという問題があった。一方、耐湿性の高いCrでAlをキャップすると、Alと同じエッチング液でエッチングすることができず、製造工程で一括パターニングを行うことが困難であった。
また、耐湿性が高いNiは、高湿条件で放置しても、抵抗値がほとんど変化しない。しかし、ある種のエッチング液(リン酸:硝酸:酢酸:水=16:1:2:1(体積比))では、事実上Niをエッチングすることができない(たとえば、非特許文献2参照。)。
また、Niは強磁性体であるため、一般的な薄膜形成法であるマグネトロンスパッタ法を用いることが難しい。よって、Ni薄膜をFPDの配線材料として用いることは困難である。
さらに、有機EL表示素子においては、陰極と補助配線とのコンタクトや接続端子と補助配線との低抵抗化が新たな課題となる。特に、陰極と補助配線とのコンタクト特性は低抵抗特性だけでなく、流れる電流によりコンタクト部で発生するジュール熱に対しても安定であることが必要となる。
つまり、ジュール熱によりコンタクト抵抗が上昇しにくいことが必要である。ジュール熱によりコンタクト抵抗が上昇するのは、補助配線等に使用されている金属の酸化によるものと考えられている。
ここで、従来技術による有機EL表示素子の部分断面図を図17に示す。ガラスなどの透明基板1上に陽極20aが設けられている。素子内部の電極と駆動回路との接続は、補助配線30xを用いてなされている。接続端子側のパターン30b及び内側パターン部30aとから構成される。陰極70は補助配線30xを介して外部の接続配線150と電気的に接続されている。そして、陽極20aと陰極70との間に電流を供給することによって、有機EL層60が発光する。有機EL層60などを封止するために対向基板80が設けられる。
絶縁膜40は、有機EL層60と陽極20aとが接触する開口部位40aを画定する役割を有している。このような構造においては、通常、陽極20aにはITO(酸化インジウム−酸化スズ)が、陰極にはAl、Mg、Ag等の酸化されやすい金属が使用される。そして、補助配線についてはCr等の金属を用いている。
この場合、補助配線として、たとえば膜厚300nm、幅150μm、長さ4mm、抵抗率20μΩcmのCrパターンを用いると、その抵抗値は17.7Ωとなり、上述のような電流を流した場合には3.1V程度の電圧降下が配線抵抗に応じて生じ、所望の電位より上昇することになる。
また、図17に示したように、補助配線30xには、製造の工程を経るにしたがって、表面酸化層が形成され、これにより陰極70と補助配線30xとのコンタクト抵抗が上昇してしまう。そして、これらの電圧上昇は、階調表示時の表示ムラの原因となったり、使用する陽極ドライバの耐圧が上昇するなど、悪影響を及ぼすものと考えられる。
ここで、特開平11−317292号公報(以下、特許文献2という。)に示された補助配線の技術を説明する。この特許文献2では、駆動回路との接続端子に透明電極材料を用い、かつ、陰極材料と補助配線材料とを同一にする点に特徴がある。この場合、陰極材料と補助配線材料との接続前に陰極表面や補助配線表面が酸化されなければ、陰極と補助配線とのコンタクト抵抗の問題は生じないと考えられる。
しかしながら、一般的に、酸化しやすい材料を、有機EL表示素子の陰極に用いる。このため、補助配線を陰極と同一材料とする場合には、有機EL表示素子の製作過程で補助配線表面が酸化されてしまい、陰極とのコンタクト抵抗が高くなるという問題が生じる。特に高温で保持した場合に、コンタクト抵抗の上昇は顕著である。陰極及び補助配線にAlあるいはAl合金を適用した場合には、100℃程度の保持で、コンタクト抵抗が著しく上昇してしまう。
また、特開平11−329750号公報(以下、特許文献3という。)には、陰極と補助配線とのコンタクト抵抗を低減するための技術が開示されている。この特許文献3では、補助配線を下地パターンと電極パターンとの二つに分けて形成し、下地パターンにTiNあるいはCrを適用し、電極パターンにAlを適用して、陰極とコンタクトさせることで、低抵抗なコンタクト特性が得られるとしている。
しかし、この特許文献3では、補助配線の形成に二回のフォトリソ工程が必要となる。しかも、配線材料としてTiNを用いるには、パターニングにドライエッチングを適用する必要があり、生産性に問題が生ずる。また、下地パターンにCrを用いた場合には、初期コンタクト特性が良好な場合であっても、100℃程度の高温に放置した場合には、コンタクト抵抗が著しく高くなることがある。
有機EL表示素子では、前述のとおり、電極に大電流を流す必要があり、陰極接続配線は、低抵抗性の金属で形成することが望ましい。接続端子部は、密封された素子内部ではなく、使用環境下に暴露されるので、耐環境性、特に耐湿性に優れていることが望ましい。
このように補助配線材料を有機EL表示素子に適用する場合には、陰極との良好なコンタクトが必要なだけでなく、表示パネルのシール外部まで延在させるので、湿分による腐食などを極力抑制することが必要となる。
特開平13−311954号公報
特開平11−317292号公報
特開平11−329750号公報
Appl.Phys.Lett.,51,913(1987)
「フォトエッチングと微細加工」 楢岡清威他1名、総合電子出版社(1977年5月10日発行)82〜83頁
本発明では、有機EL表示素子に適用できる積層体を得ようとする。基本的に、優れた耐湿性を有する配線付き基体を構成できるものである。また、低抵抗でパターニング性能に優れるものである。そして、この積層体を用いて形成した配線付き基板を提供することを目的とする。
特に有機EL素子ディスプレイなどのFPDに好適な積層体を形成し、次いで、その積層体を容易に平面状にエッチングし、配線付き基体を製造する製造方法及び得られた配線付き基体を提供することを目的とする。
また、有機EL表示素子のように、発光のための駆動電流を流す際に、回路を構成するコンタクト部位において、優れた低抵抗性を示す回路構成を得ようとするものである。
また、大電流が流れる配線電極に対して、低抵抗コンタクト性を維持でき、かつ、信頼性のあるコンタクト特性を実現することである。また、電極や配線を構成する金属材料について、耐腐食性を向上した高信頼性の有機EL表示素子を提供することを目的とする。
本発明の態様1は、配線付き基体の形成用の積層体であって、基体の上に、AlまたはAl合金を主成分とする第1の導体層と、第1の導体層の上にNi−Mo合金を主成分とするキャップ層とが備えられた積層体を提供する。
態様2は、第1の導体層と基体との間に、基体側からITO層と下地層とをこの順に備える態様1に記載の積層体を提供する。
態様3は、下地層の主成分がMoまたはMo合金である態様2に記載の積層体を提供する。
態様4は、下地層がNiMoを主成分とし、酸素、窒素、酸素と窒素、酸素と炭素または酸素と窒素と炭素から選ばれた一つが含まれる態様2または3に記載の積層体を提供する。
態様5は、下地層におけるNiの含有率が全成分に対して20〜90質量%であり、Moの含有率が全成分に対して10〜80質量%である態様2、3または4に記載の積層体を提供する。
態様6は、第1の導体層とキャップ層との間にNiを含まないNi拡散防止層が備えられてなる態様1、2、3、4または5に記載の積層体を提供する。
態様7は、Ni拡散防止層がMoを主成分とし、Niを含有しない態様6に記載の積層体を提供する。
態様8は、Ni拡散防止層はMoNb、MoTa、MoVまたはMoWである態様6または7に記載の積層体を提供する。
態様9は、Ni拡散防止層の導電性物質は、MoとNbまたはTaを含有し、Moの含有率が80〜98質量%であり、NbまたはTaの含有率が2〜20質量%である態様6、7または8に記載の積層体を提供する。
態様10は、キャップ層に酸素、窒素、酸素と窒素、酸素と炭素または酸素と窒素と炭素から選ばれた一つが含まれる態様1〜9のいずれかに記載の積層体を提供する。
態様11は、キャップ層におけるNiの含有率が全成分に対して20〜90質量%であり、Moの含有率が全成分に対して10〜80質量%である請求項1〜10のいずれか1項に記載の積層体を提供する。
態様12は、態様1〜11のいずれかに記載の積層体が用いられて形成された有機EL表示素子であって、基体上に、第1の電極層に対向して第2の電極層が備えられ、第1の電極層と第2の電極層との間に有機EL層が配置され、基体側から、基体、第1の導体層、キャップ層がこの順に配置されてなる有機EL表示素子を提供する。
態様13は、基体の上に、対向する第1の電極層と第2の電極層とが備えられ、第1の電極層と第2の電極層との間に有機EL層が配置された有機EL表示素子であって、第1の電極層に導電接続された第1の導体層が備えられ、第1の導体層の上側にキャップ層が備えられ、第1の導体層の主成分はAlまたはAl合金であり、キャップ層の主成分はNi−Mo合金である有機EL表示素子を提供する。
態様14は、キャップ層に酸素、窒素、酸素と窒素、酸素と炭素または酸素と窒素と炭素、から選ばれた一つが含まれてなる態様13に記載の有機EL表示素子を提供する。
態様15は、第1の導体層とキャップ層との間に、Niを含まないNi拡散防止層が備えられてなる態様13または14に記載の有機EL表示素子を提供する。
態様16は、Ni拡散防止層がMoNb、MoTa、MoV、MoWのいずれかから選択された一つである態様13、14または15に記載の有機EL表示素子を提供する。
態様17は、第1の導体層の下側にMoまたはMo合金を含む下地層が備えられてなる態様13、14、15または16に記載の有機EL表示素子を提供する。
態様18は、第2の電極層がITO層である態様13〜17のいずれかに記載の有機EL表示素子を提供する。
態様19は、有機EL表示素子の基体上に備えられた第1の電極層と駆動回路とを接続するための有機EL表示素子の接続端子であって、AlまたはAl合金を主成分とする第1の導体層と、第1の導体層の上側にNi−Mo合金を主成分とするキャップ層を備え、駆動回路から第1の電極層に電流が供給されるように回路が構成されてなる有機EL表示素子の接続端子を提供する。
態様20は、キャップ層に酸素、窒素、酸素と窒素、酸素と炭素または酸素と窒素と炭素、から選ばれた一つが含まれてなる態様19に記載の有機EL表示素子の接続端子を提供する。
態様21は、第1の導体層とキャップ層との間に、Niを含まないNi拡散防止層が備えられてなる態様19または20に記載の有機EL表示素子の接続端子を提供する。
態様22は、複数の第2の電極から一本の第1の電極に対して電流が流れるように回路が構成され、一本の第1の電極層に流れる瞬時最大電流が50mA以上である態様19、20または21に記載の有機EL表示素子の接続端子を提供する。
態様23は、態様1〜11のいずれかに記載の積層体の製造方法であって、基体の上に第1の導体層を成膜し、その後、キャップ層を成膜する積層体の製造方法を提供する。
態様24は、透明な第2の導体層を成膜し、パターニングし、その後に、第1の導体層を成膜する態様23に記載の積層体の製造方法を提供する。
態様25は、キャップ層の成膜の際に、酸化、窒化、酸窒化、酸炭化、窒炭化または酸窒炭化の処理をする態様23または24に記載の積層体の製造方法を提供する。
態様26は、態様1〜11のいずれかに記載の積層体に平面状にパターニングを施した配線付き基体を提供する。
態様27は、態様19、20、21または22に記載の有機EL表示素子の接続端子の製造方法であって、透明な第2の導体層を成膜し、パターニング後、第1の導体層とキャップ層とを含む積層膜を形成し、積層膜をパターニングする有機EL表示素子の接続端子の製造方法を提供する。
態様28は、態様12〜18のいずれかに記載の有機EL表示素子を製造する製造方法であって、基体上に透明な第2の導体層を成膜し、第1の導体層とキャップ層とを含む積層膜を形成し、第2の導体層を第2の電極として用い、第1の導体層から接続端子に至る配線の少なくとも一部に積層膜を用いるように、積層膜のパターニングを行う有機EL表示素子の製造方法を提供する。
態様29は、基体上に透明な第2の導体層を成膜し、第2の電極層としてパターニングし、その後に、第1の導体層、キャップ層を成膜して積層膜を形成し、その後、積層膜をパターニングする態様28に記載の有機EL表示素子の製造方法を提供する。
態様30は、態様12〜18のいずれかに記載の有機EL表示素子に駆動回路が接続され、100cd/m2以上の輝度で表示が行われてなる有機EL表示素子を提供する。
以下、本発明の実施の形態を図、実施例等により説明する。なお、これらの図、実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
本発明に使用される基体は、必ずしも平面で板状である必要はなく、曲面でも異型状でもよい。基体としては、透明または不透明のガラス基板、セラミック基板、プラスチック基板、金属基板などが挙げられる。
基体側から発光させる構造の有機EL素子に用いる場合には、基体は透明であることが好ましく、特にガラス基板が強度及び耐熱性の点から好ましい。ガラス基板としては、無色透明なソーダライムガラス基板、石英ガラス基板、ホウケイ酸ガラス基板、無アルカリガラス基板が例示される。有機EL素子に用いる場合のガラス基板の厚さは0.2〜1.5mmであるのが、強度及び透過率の点から好ましい。
本発明の配線付き基体形成用の積層体は、基体上にAlまたはAl合金(以下、Al系金属ともいう。)を主成分とする導体層と、該導体層の上にNi−Moを主成分とするキャップ層との2層を必ず含む2層以上の積層体である。導体層がAl系金属であるため、配線を低抵抗にすることができる。特に、Al−Nd合金は低抵抗を保持したまま、Alのヒロック発生を防止することができるので好ましい。なお、Al合金とは、AlとNd、Ag、Cu等の金属との合金であり、配線の抵抗値を上げる等の問題が少ない金属であることが好ましい。
Al系金属層には、不純物としてTi、Mn、Si、Cu、Na、Oが含有されていてもよく、その含有量は合計で1質量%以下であることが好ましい。Al合金層のAl含有率は、配線の抵抗を低くする点から、好ましくは80〜100質量%、より好ましくは90〜100質量%である。
導体層の膜厚は、充分な導電性や良好なパターニング性が得られるように100〜600nm、100〜400nmであるのが好ましく、150〜400nm、さらには150〜300nmであるのがより好ましい。
導体層の上に形成するキャップ層は、Ni−Mo合金を主成分とする層である。Ni−Mo合金層は耐湿性が優れるので、キャップ層は配線の低抵抗を維持するとともに、Al系金属層の表面にAl酸化物層が発生するのを抑え、接触抵抗の増加を防止する機能を有する。
したがって、得られた配線付き基体を用いた電子装置の信頼性を向上させることができる。しかも、得られる積層体は精細なパターニングが可能である。さらにNi−Mo合金層はフォトリソグラフを用いてパターニングをする際に、導体層(Al系金属層)とキャップ層(Ni−Mo合金層)が同じエッチング液(酸性水溶液)でほぼ同じ速度でエッチングすることができる。すなわち、導体層と一括してパターニングすることが可能となる。
導体層とキャップ層とのエッチング速度が大きく異なると、配線を形成する際にオーバーエッチングや残渣の原因となるので、好ましくない。Ni−Mo合金層のエッチング速度は、エッチング液の種類に応じてNiとMoの組成比を変えて、容易に調整することができる。Niに対するMoの比率が大きい方が、該エッチング速度が速くなる。
前記キャップ層の膜厚は、耐湿性及びパターニング性の観点から好ましくは10〜200nmであり、より好ましくは15〜50nmである。
Ni−Mo合金層のNiの含有率は、好ましくは20〜90質量%、より好ましくは55〜75質量%である。Niの含有率が20質量%未満であるとNi−Mo合金層の耐湿性が充分でなく、90質量%を超えるとエッチング液によるエッチング速度が遅く、導体層のエッチング速度と同程度に調整することが困難になる。またNi−Mo合金層のMoの含有率は好ましくは10〜80質量%、より好ましくは20〜40質量%である。
Moの含有率が10質量%未満であるとエッチング液によるエッチング速度が遅く、導体層のエッチング速度と同程度に調整することが困難になり、80質量%を超えるとNi−Mo合金層の耐湿性が充分でなくなる。Ni−Mo合金層のNi及びMoの含有率の合計は90〜100質量%であることが好ましい。
Ni−Mo合金層は、Ti、V、Cr、Fe、Co、Zr、Nb、Ta、Wなどの金属を1種または2種以上、耐湿性、エッチング性などを劣化させない範囲、例えば、10質量%以下含有していてもよい。
本発明の配線付き基体形成用の積層体は、スパッタ法を用いて形成される。例えば、ガラス基板の一方の表面上に、Al系ターゲットを用い、不活性ガス雰囲気でスパッタリングすることにより、導体層を形成する工程と、該導体層の上に、Ni−Mo合金系ターゲットを用いて、スパッタリングすることにより、キャップ層を形成する工程との組合わせにより形成される。
Al系ターゲットは、例えば、Al金属ターゲット、Ndを含有するAl合金ターゲット、Ndを含有するAl非合金ターゲットなどである。また、Ni−Mo合金ターゲットは、例えば、Ni−Mo合金ターゲット、Feを含有するNi−Mo合金ターゲット、Feを含有するNi−Mo非合金ターゲットなどである。
Feを含有するNi−Mo非合金ターゲットとしては、例えば、ターゲット面積よりも小さいNi板、Mo板、Fe板をモザイク状に組合わせたものや、Ni−Mo合金ターゲット板とFe板を組合わせたものも含む。スパッタ法により、大面積にわたり、膜厚が均一な配線付き基体形成用の積層体が形成できる。
本発明の配線付き基体形成用の積層体は、導体層としてAl層、キャップ層としてNi−Mo合金層を形成する場合、例えば次のような方法により形成される。
Al系タ−ゲット及びNi−Mo合金ターゲットを直流マグネトロンスパッタ装置のカソードに別々に取付ける。さらに、基体を基板ホルダーに取付ける。次いで、成膜室内を真空に排気後、スパッタガスとしてArガスを導入する。Arガス以外にHe、Ne、Krガスなども用いることができるが、放電が安定で、安価なArガスが好ましい。スパッタ圧力は0.1〜2Paが適当である。また背圧は1×10−6〜1×10−2Paであるのが好ましい。基体温度は室温〜400℃であるのが好ましい。成膜温度が高いと概して抵抗値が低くなるので好ましい。しかし、表面粗さが大きくなる。表面粗さを小さくすることが必要なときは、基板温度を低くすることが好ましい。なお、表面粗さを低くするとAl層の上部に形成するNiMo層のカバレッジが良好となるという利点がある。
Al金属層を形成するときは、Al金属ターゲットを用い、Al合金層を形成するときは、Alと合金を形成する他の金属とをそれぞれ別々のターゲットとして用いて合金層を形成してもよいが、導体層の組成の制御性及び均一性の向上の観点から予め所望の組成のAl合金を作製して、これをターゲットとして用いることが好ましい。
まず、Al金属ターゲットを用いてスパッタリングすることにより、基体上に導体層としてのAl金属層を形成する。次いで、その上にNi−Mo系ターゲットを用いてスパッタリングすることにより、Ni−Mo合金層を形成し、積層体を形成する。
本発明の積層体は、以上説明したように、2層を基体上に有するものが基本であるが、これに限定されずに、さらに下記のような他の層を有する3層以上の層を有するものも包含する。他の層もスパッタ法により形成されるのが好ましい。
本発明の積層体は、Ni−Mo合金層(キャップ層)とAlまたはAl合金を主成分とするAl金属層(導体層)の間に、キャップ層とは異なる組成を有するNi拡散防止層を有していてもよい。キャップ層と導体層とが接しているときに熱処理すると、キャップ層からNiが導体層に拡散し、導体層の抵抗が増大する。該抵抗の増大は、該Ni拡散防止層により防止することができる。該Ni拡散防止層もスパッタ法により形成されるのが好ましい。また、Ni拡散防止層を形成する場合も、Al層と同様の条件(スパッタ圧等)で形成することが好ましい。
Ni拡散防止層の膜厚はバリア性及びパターニング性の観点から10〜200nmが好ましく、15〜80nm、さらには15〜50nmがより好ましい。
Ni拡散防止層は、キャップ層及び導体層と一括エッチングできる点から、Moを主成分とするMo系金属層であることが好ましい。前記Mo系金属層をNi拡散防止層として導体層とキャップ層との間に形成すると、パターニング後のパターン断面部では、Moが露出するが、Mo系金属層の大部分がキャップ層と導体層とに覆われているので、耐湿性の向上はほとんど妨げられない。
しかし、耐湿性をより向上することを目的として、Ni拡散防止層は、Mo以外に、Nb、Ta、V、W、Cr、Zr、Tiなどの金属を一種または二種以上、2〜20質量%の範囲で含有することができる。2質量%未満では、元素添加による耐湿性向上の効果が充分ではなく、20質量%以上では、エッチング性が劣化し製造上好ましくない。Moを主成分とするMo系合金層のMo含有率は、80〜98質量%であることが好ましい。
本発明の積層体は、そのキャップ層を、酸化、窒化、酸窒化、酸炭化、窒炭化または酸窒炭化などの処理を行うことが好ましい。つまり、キャップ層形成時にそのような処理を施し、Ni−Mo合金層を酸化、窒化、酸窒化、酸炭化、窒炭化または酸窒炭化等されたNi−Mo合金層とすることによっても、前記Ni拡散防止層と同様に抵抗増大を防止することができる。
この処理は、Ni−Mo合金層をスパッタリングにより形成する時に、スパッタガスとして、O2、N2、CO、CO2などの反応性ガスとArガスとの混合ガスを用いる方法により実施される。反応性ガスの含有率は、Ni拡散防止効果の観点から5〜50体積%であることが好ましく、20〜40体積%であることがより好ましい。
また、本発明の積層体は、錫ドープ酸化インジウム層(ITO層)を有していてもよい。その場合、Al系金属層はITO層との接触抵抗が大きいという不都合があるので、実際には、前記下地層を介して、キャップ層/導体層/下地層/ITO層/基板とするのが好ましい。
ITO層は透明電極として用いることができるので、本発明の積層体において、基板上にITO層を形成した後に、下地層、導体層及びキャップ層を形成する際に必要箇所をマスクしておけば、マスクされた箇所は下地層、導体層及びキャップ層がなく、ITO層のみとなる。これを電極として用いて、例えば、必要な場合は、その上に、有機質層を形成して有機EL素子とすることができる。一方、マスクしない箇所は、ITO層の上に、下地層、導体層及びキャップ層が形成され、電極であるITO層と配線としての下地層、導体層及びキャップ層が段差なく接続される。
ITO層は、例えばガラス基板上にITO層をエレクトロンビーム法、スパッタ法、イオンプレーティング法などを用いて成膜することにより形成される。ITO層は、例えばIn2O3とSnO2との総量に対して、SnO2が3〜15質量%含有されるITOターゲットを用いて、スパッタリングにより成膜するのが好ましい。スパッタリングガスはO2とArの混合ガスであることが好ましく、O2ガス濃度は0.2〜2体積%であるのが好ましい。
ITO層の膜厚は50〜300nmが好ましく、100〜200nmがより好ましい。
そして、該ITO膜の上にスパッタ法により、さらに導体層及びキャップ層を形成することにより、ITO層を有する配線付き基体形成用積層体が得られる。
導体層はITO層との接触抵抗が大きいという不都合があるので、ITO層を基体と導体層との間に形成するときには、ITO層と配線との接触抵抗の増大を防止するために、導体層の下に下地層を形成する。下地層は、MoまたはMo合金を主成分とする層であるのが好ましい。MoまたはMo合金を主成分とする層とは、MoまたはMo合金の含有率が層中に90〜100質量%であることを意味する。また、下地層を形成する場合も、Al層と同様の条件(スパッタ圧等)で形成することが好ましい。
下地層の膜厚はバリア性及びパターニング性の観点から10〜200nmが好ましく、15〜50nmがより好ましい。
MoまたはMo合金を主成分とする層としてはNi−Mo合金層が好ましく、Ni−Mo合金層を下地層とする場合は、該合金層のNi含有率は全成分に対して好ましくは20〜90質量%、より好ましくは55〜75質量%であり、Mo含有率は全成分に対して好ましくは10〜80質量%、より好ましくは20〜40質量%である。
さらに、Ti、V、Cr、Fe、Co、Zr、Nb、Ta、Wなどの金属が1種または2種以上、耐湿性、エッチング性などを劣化させない範囲、例えば10質量%以下で含有されていてもよい。
導体層の下に形成された下地層のNi−Mo合金層の組成は、キャップ層のNi−Mo合金層の組成と同じであっても、異なっていてもよい。同じ組成であれば、同じ材質のターゲットを用いることができ、経済性に優れる。上下のNi−Mo合金層の組成を調整して、エッチング速度がNi−Mo合金層(キャップ層)、Al系金属層(導体層)、Ni−Mo合金層(下地層)の順に速くなるようにすれば、パターニングの時にパターン断面形状をテーパ状に加工することができる。よって、耐磨耗性、密着性が向上する点で好ましい。また、導体層と下地層のNi−Mo合金層との間にNi拡散防止層を設けてもよい。該Ni拡散防止層の構成は、前述した導体層とキャップ層との間に設けるNi拡散防止層と同じである。
MoまたはMo合金を主成分とする層を下地層として導体層の下に形成すると、パターニング後のパターン断面部では、Moが露出するが、MoまたはMo合金を主成分とする層の大部分が基体またはITO膜と、導体層とに覆われているので、耐湿性の向上は妨げられない。
上記のNi拡散防止層を形成せずに、成膜する際に、酸化処理、窒化処理、炭化処理(または、これらの組み合わせ)を行うことで、所望の特性の積層体を形成することもできる。この場合は、少ない層数で積層体を形成できる長所がある。
あるいは、4層または5層の金属積層膜を形成する場合は、インライン型の連続成膜装置のシステムを用いて、連続生産できるという長所がある。
また、本発明の積層体は、導体層と基体との間に、シリカ層を有していてもよい。該シリカ層は、基体と接していても、接していなくてもよい。該シリカ層は、通常シリカターゲットを用いて、スパッタリングして形成される。基体がガラス基板の場合は、ガラス基板中のアルカリ成分が導体層に移行して導体層が劣化するのを防止する。膜厚は5〜30nmであることが好ましい。
本発明の積層体は、低抵抗でパターニング性能に優れ、かつ耐湿性が高い。該積層体を用いて、有機EL表示素子を製造すると、低抵抗で信頼性の高い配線で構成できるので、素子寿命も長い発光特性の向上した有機EL表示素子が得られる。かくして得られた本発明の積層体は、好ましくはフォトリソグラフ法でエッチングして配線付き基体に形成される。
積層体に対して、その最表面であるキャップ層の上にフォトレジストを塗布し、配線パターンを焼き付け、フォトレジストのパターンに従って、金属層の不要部分をエッチング液で除去して配線付き基体が形成される。エッチング液は、好ましくは酸性水溶液であり、リン酸、硝酸、酢酸、硫酸、塩酸またはこれらの混合物、硝酸セリウムアンモニウム、過塩素酸またはこれらの混合物である。
リン酸、硝酸、酢酸、硫酸及び水の混合溶液が好ましく、リン酸、硝酸、酢酸及び水の混合溶液がより好ましい。
配線付き基体の形成の際に、積層体の各層、例えば、(1)キャップ層/導体層/基板、(2)キャップ層/導体層/下地層/ITO層/基板、(3)キャップ層/Ni拡散防止層/導体層/Ni拡散防止層/下地層/ITO層/基板の各層はエッチング液により同一パターンに形成される。
積層体が、ITO層を有する場合には、キャップ層/導体層とITO層とを一緒にエッチング液により除去してもよいが、キャップ層と導体層を先に除去して、別にITO層を除去してもよいし、またITO層を先にパターニングしておいて、導体層及びキャップ層をスパッタリングしてから、配線部分以外のキャップ層/導体層を除去してもよい。
次に、本発明の積層体を用いて、配線付き基体を形成して、有機EL表示素子を作製する好適例を、図1〜3を用いて説明するが、本発明はこれに限定されない。
まずガラス基板1上にITO膜を形成する。ITO膜をエッチングしてストライブ状のパターンとしてITO陽極3を形成する。次に、Ni−Mo合金層(図示せず)をスパッタリングによりガラス基板1全面を覆うように形成する。該合金層の上に、下地層としてのMo系金属層(図示せず)、導体層としてのAl系金属層2a、さらにNi拡散防止層としてのMo系金属層(図示せず)、キャップ層としてのNi−Mo層2bをこの順序でスパッタリングにより形成して、配線付き基体形成用の積層体を得る。無論、ITO膜は、ガラス基板1の全面に形成しても、一部に形成してもよい。
この積層体の上にフォトレジストを塗布し、フォトレジストのパターンに従って、金属層の不要部分をエッチングし、レジストを剥離して、Ni−Mo合金層、Mo系金属層、Al系金属層2a、Mo系金属層及びNi−Mo合金層2bからなる配線2が形成される。その後、紫外線照射洗浄を行い、積層体全体を、紫外線−オゾン処理または酸素プラズマ処理する。紫外線照射洗浄は、通常、紫外線ランプにより紫外線を照射し、有機物を除去する。
次に正孔輸送層、発光層、電子輸送層を有する有機質層4を、ITO陽極3の上に形成する。カソードセパレータ(隔壁)を有する場合は、有機質層4の真空蒸着を行う前に、隔壁をフォトリソグラフにより形成する。
カソード背面電極であるAl陰極5は、配線2、ITO陽極3、有機質層4が形成された後、ITO陽極3と直行するように、スパッタリングにより形成する。
次に、破線で囲まれた部分を樹脂封止して封止缶6とする。
本発明の配線付き基体は、上記の積層体を用いているので、すなわち、低抵抗のAlまたはAl合金を導体層に用い、耐湿性が高いNi−Mo合金をキャップ層に用いているため、低抵抗でパターニングに優れ、かつ耐湿性が高いので、配線が劣化しない。
また、本発明の積層体を有機EL表示素子用の基体として用いる場合、配線付き基体に有機EL特有の処理である紫外線−オゾン処理を施す必要があるが、本発明の配線付き基体は、この処理に対しても耐性を有するため好ましい。
本発明の積層体を用いることにより、低抵抗であって、パターニング性能に優れ、かつ耐湿性が高い配線付き基体を形成することができる。そして、高精彩で信頼性の高いディスプレイを作製できる。特に、素子寿命が長く、発光特性の向上のため、配線の低抵抗化が望まれる有機EL表示素子に有効に使用することができる。
以下、実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、これに限定されないことは言うまでもない。
(参考例1〜5)
厚さ0.7mm×縦100mm×横100mmのソーダライムガラス基板を洗浄した。その後、スパッタ装置にセットし、シリカターゲットを用いて、高周波マグネトロンスパッタ法により、厚さ20nmのシリカ層を該基板の上に形成し、シリカ層付きガラス基板を得た。
次に、ITO(In2O3とSnO2との総量に対してSnO210質量%含有)ターゲットを用い、直流マグネトロンスパッタ法により、厚さ160nmのITO層を形成して、ITO層付きガラス基板(単に基板とも称す)を得た。スパッタガスには、O2ガスを0.5体積%含有するArガスを用いた。
次に、該ITO層付きガラス基板の全面(ただし、基板保持のために形成されない部分を除く)に、表1に示すように、5種のターゲットを用いて、直流マグネトロンスパッタ法により、Arガス雰囲気で5種の単層膜を形成し、膜付きガラス基板を得た。背圧は1.3×10−3Pa、スパッタ圧力を0.3Paとし、基板の加熱はしなかった。Niターゲットは、ターゲットの厚さを1mmまで薄くすることで、マグネトロンスパッタを可能にした。
該膜付きガラス基板の膜厚、シート抵抗、エッチング速度及び耐湿性(1)を測定して結果を表1に示した。
シート抵抗は、三菱油化(株)製のLoresta IP MCP−T250 を用いて4探針法で測定した。
エッチング速度は、リン酸、硝酸、酢酸及び水の体積比が順に16:1:2:1のエッチング液中に、該膜付きガラス基板を5分間浸漬させて、膜が溶解するまでの時間を測定して求めた。5分後にエッチングが終了しないものを×と評価した。
耐湿性(1)は、恒温恒湿槽(エスペック(株)製、PR−1S)を用いて、60℃−95%RHの条件で、該膜付きガラス基板を1日放置し抵抗の変化を測定して評価した。シート抵抗の変化率が5%未満の場合を○、5%以上の場合を×と評価した。
表1から、Mo層は耐湿性が低く、Ni層及びNi−Mo合金層の耐湿性が優れることがわかる。Mo層の場合では、表面に腐食が目視で観察できた。一方、Ni層及びNi−Mo合金層では表面に腐食が目視で確認できなかった。
Ni層は、5分間浸漬させてもエッチングが終了しなかった。一方、Ni−Mo合金層は、Al層と同程度ないしそれ以上のエッチング速度でエッチングされ、エッチング性に優れていた。特にNi−Mo−Fe合金ターゲットを用いた場合は、ほぼAl層と同等のエッチング速度が得られた。よって、以後の例では、Mo合金層の形成には質量百分率が65%−32%−3%のNi−Mo−Fe合金ターゲット(以後、Ni−Moターゲットとも称す)を用いた。なお、Ni−Moターゲットにより形成された層をNi−Mo合金層と称す。
(例1〜2)
厚さ0.7mm×縦100mm×横100mmのソーダライムガラス基板を洗浄した。その後、スパッタ装置にセットし、シリカターゲットを用いて、高周波マグネトロンスパッタ法により、厚さ20nmのシリカ層を該基板の上に形成し、シリカ層付きガラス基板を得た。該シリカ層付きガラス基板の全面(ただし、基板保持のために成膜されない部分を除く)に、Al金属ターゲットを用いて、直流マグネトロンスパッタ法により、Arガス雰囲気でAl層(導体層)を形成した。背圧は1.3×10−3Pa、スパッタ圧力を0.3Paとし、基板の加熱はしなかった。
得られた導体層付き基板に、Moターゲット(例1)またはNi−Moターゲット(例2)を用いて、直流マグネトロンスパッタ法により、Arガス雰囲気でキャップ層としてのMo層(例1)またはNi−Mo合金層(例2)を形成して、配線付き基板形成用の積層体を得た。背圧は1.3×10−3Pa、スパッタ圧力を0.3Paとし、基板の加熱はしなかった。該配線付き基板形成用積層体の膜厚、耐湿性(1)、熱処理前の該積層体のシート抵抗及び耐熱性を測定して、結果を表2に示した。
耐湿性(1)の評価は、参考例1と同様に行った。なお、キャップ層がMo層の場合(例1)には、表面に腐食が目視で観察されたが、キャップ層がNi−Mo合金層の場合(例2)には表面に腐食が目視で確認できなかった。キャップ層がどちらであっても、耐湿性(1)(シート抵抗の変化率)の評価は良好であった。
また、該積層体の熱処理は、恒温槽(エスペック(株)製、PMS−P101)を用いて、該積層体を大気雰囲気下320℃で1時間放置して実施し、該熱処理前の該積層体のシート抵抗、熱処理前後の抵抗変化率(耐熱性)を測定した。シート抵抗の変化率が10%以下の場合を○、10%を超え、100%以下の場合を△、100%超えの場合を×と評価した。
(例3)
参考例1におけるITO層付きガラス基板の全面(ただし、基板保持のために成膜されない部分を除く)に、Ni−Moターゲットを用いて、直流マグネトロンスパッタ法により、Arガス雰囲気でNi−Mo合金層(下地層)を形成し、下地層付きガラス基板を得た。
背圧は1.3×10−3Pa、スパッタ圧力を0.3Paとし、基板の加熱はしなかった。その後、該下地層の上に、例2と同様な方法と条件で、Al層(導体層)及びNi−Mo合金層(キャップ層)を形成し、配線付き基板形成用の積層体を得た。該積層体の膜厚、耐湿性(1)、熱処理前の該積層体のシート抵抗及び耐熱性を例1と同様に測定して、結果を表2に示した。
また、例3の熱処理前後の該積層体のESCAデプスプロファイルを図4(a)、(b)に示した。例3の該積層体においては、Ni金属がAl層(導体層)に熱処理により拡散していることがわかる。
(例4〜7)
例3の下地層付きガラス基板の下地層の上に、Moターゲットを用いて、直流マグネトロンスパッタ法により、Arガス雰囲気でMo層(Ni拡散防止層)を形成した。その後、該Ni拡散防止層の上に、例2と同様な方法で、Al層(導体層)を形成し、該導体層の上に、上記Ni拡散防止層と同様な方法と条件でMo層(Ni拡散防止層)を形成した。
さらに、該Ni拡散防止層の上に、Ni−Moターゲットを用い、例2と同様の方法と条件で、Ni−Mo合金層(キャップ層)を形成し、配線付き基板形成用の積層体を得た。該積層体の膜厚、耐湿性(1)、熱処理前の該積層体のシート抵抗及び耐熱性を例1と同様に測定して、結果を表2に示した。
表2及び図4(a),(b)から、例1の通りキャップ層がMo層の場合は、耐湿性が悪いが、例2の通りNi−Mo合金層の場合は、耐湿性が優れることが明らかである。さらに、例3の通りNi−Mo合金層とAl層が接した状態で熱処理すると、NiがAl層に拡散し、耐熱性が悪化することがわかる。
一方、例4〜7の結果が示すように、Ni−Mo合金層とAl層との間にMo層が介在すると耐熱性の悪化が防止できることが明らかである。また、Mo層の膜厚は10nm以上、60nm以下であれば良いことがわかる。
(例8〜11)
例3において、下地層及びキャップ層を形成するためのスパッタガスを、Arガスの代わりに表3に示す組成の混合ガスを用いた以外は、例3と同様な方法と条件でスパッタリングを行い、配線付き基板形成用積層体を得た。該積層体の膜厚、耐湿性(1)、熱処理前の該積層体のシート抵抗及び耐熱性を例1と同様に測定して、結果を表3に示した。
表3から、Ni−Mo合金層を窒化または酸炭化すると、NiがAl系金属層へ拡散することが防止され、耐熱性悪化が防止できることがわかる。
(例12)
例5の配線付き基板形成用の積層体に対し、ライン/スペースが25μm/65μmのマスクパターンを用い、フォトリソグラフ法により、Alエッチング液を用いてパターニングを行い、配線付き基板を形成した。該積層体の膜厚、パターニング前のシート抵抗、及び熱処理前後の該積層体の抵抗変化率(耐熱性)を例1と同様に測定して、結果を表4に示した。
パターニング性は、パターニングラインを超えてエッチングが進んだ距離をラインから直角方向で測定し、オーバエッチを観察した。オーバエッチが2μm以下の場合を○、2μm超えの場合を×と評価した。
パターニング後の配線付き基板の耐湿性(2)は、恒温恒湿槽(エスペック(株)製、PR−1S)を用いて、60℃−95%RHの条件で、該配線付き基板を1日放置し、レーザー顕微鏡を用いて配線を観察することにより評価した。配線に腐食が認められなかったものを○、腐食が認められたものを×と評価した。パターニング性、耐湿性(2)の評価結果を表4に示した。また、例12の配線付き基板の耐湿性(2)の評価後のレーザー顕微鏡による観察結果(倍率500倍)を図5(a)に示した。
(例13)
参考例1におけるITO層付きガラス基板の全面(ただし、基板保持のために成膜されない部分を除く)に、Ni−Moターゲットを用いて、直流マグネトロンスパッタ法により、表4に示す組成のAr−CO2混合ガス雰囲気でNi−Mo合金層(下地層)を形成した。背圧は1.3×10−3Pa、スパッタ圧力を0.3Paとし、基板の加熱はしなかった。
その後、該下地層の上に、Al金属ターゲットを用いて、Al層(導体層)を形成し、該導体層の上に、Moターゲットを用いて、Mo層(Ni拡散防止層)を形成し、さらに、該Ni拡散防止層の上に、Ni−Moターゲットを用いて、Ni−Mo合金層(キャップ層)を形成し、配線付き基板形成用の積層体を得た。該積層体の膜厚、パターニング前のシート抵抗、及び熱処理前後の該積層体の抵抗変化率(耐熱性)を例1と同様に測定して、結果を表4に示した。
その後、例12と同様の方法と条件でパターニングを行い、配線付き基板を得た。該配線付き基板の、パターニング性及び耐湿性(2)を、例12と同様に測定し、その評価結果を表4に示した。また、積層体をパターニングした後の配線付き基体の耐湿性(3)を、5日間放置した以外は、耐湿性(2)と同様にして評価し、その結果を表5に示す。
(例14)
参考例1におけるITO層付きガラス基板の全面(ただし、基板保持のために成膜されない部分を除く)に、Ni−Moターゲットを用いて、直流マグネトロンスパッタ法により、表4に示す組成のAr−CO2混合ガス雰囲気でNi−Mo合金層(下地層)を形成した。背圧は1.3×10−3Pa、スパッタ圧力を0.3Paとし、基板の加熱はしなかった。
その後、該下地層の上に、Al金属ターゲットを用いて、Al層(導体層)を形成した。さらに、該導体層の上に、直流マグネトロンスパッタ法により、Ni−Moターゲットを用いて、表4に示す組成のAr−CO2混合ガス雰囲気でNi−Mo合金層(キャップ層)を形成し、配線付き基板形成用の積層体を得た。該積層体の膜厚、パターニング前のシート抵抗、及び熱処理前後の該積層体の抵抗変化率(耐熱性)を例1と同様に測定して、結果を表4に示した。
その後、例12と同様な方法と条件でパターニングを行い、配線付き基板を得た。該線付き基板のパターニング性及び耐湿性(2)を例12と同様に測定し、その評価結果を表4に示した。
(例15)
参考例1におけるITO層付きガラス基板の全面(ただし、基板保持のために成膜されない部分を除く)に、Moターゲットを用いて、直流マグネトロンスパッタ法により、Arガス雰囲気でMo層を形成した。背圧は1.3×10−3Pa、スパッタ圧力を0.3Paとし、基板の加熱はしなかった。
その後、該下地層の上に、Al金属ターゲットを用いて、Al層(導体層)を形成し、該導体層の上に、Moターゲットを用いて、Mo層(キャップ層)を形成し、配線付き基板形成用の積層体を得た。該積層体の膜厚、パターニング前のシート抵抗、及び熱処理前後の該積層体の抵抗変化率(耐熱性)を例1と同様に測定して、結果を表4に示した。
その後、例12と同様の方法と条件でパターニングを行い、配線付き基板を得た。該配線付き基板のパターニング性及び耐湿性(2)を例12と同様に測定し、その評価結果を表4に示した。また、例15の配線付き基板の耐湿性(2)の評価後のレーザー顕微鏡による観察結果(倍率500倍)を図5(b)に示した。
表4及び図5(b)から、キャップ層がMo層の場合は、耐湿性が低いことがわかる。
(例16)
例13において、Ni拡散防止層を形成しなかった以外は、例13と同様の方法と条件でスパッタリングを行い、本発明に係わる積層体を形成した。この積層体の膜厚、パターニング前のシート抵抗、及び熱処理前後の該積層体の抵抗変化率(耐熱性)を例1と同様に測定して、結果を表4に示した。
その後、例13と同様の方法と条件で、パターニングを行い、配線付き基板を形成した。この配線付き基板の、パターニング性、耐湿性(2)及び耐湿性(3)を例13と同様にして測定し、その結果を表5に示した。なお、耐湿性(2)は1日、耐湿性(3)は連続5日間の試験である。表中、○は腐食なし、△はわずかに腐食あり、×は腐食ありを意味する。
(例17)
例13において、Ni拡散防止層を、Nbの含有率が5質量%であるMo−Nb合金ターゲットを用いて形成した。Ni拡散防止層をMoNb合金層とした以外は、例13と同様の方法と条件でスパッタリングを行い積層体を形成した。この積層体の膜厚、パターニング前のシート抵抗、及び熱処理前後の該積層体の抵抗変化率(耐熱性)を例1と同様に測定して、結果を表4に示した。
その後、例13と同様の方法と条件でパターニングを行い、配線付き基板を得た。この配線付き基板の、パターニング性、耐湿性(2)及び耐湿性(3)を例13と同様に測定し、その評価結果を上記の表5に示した。
(例18)
例13において、Ni拡散防止層を、Nbの含有率が10質量%であるMo−Nb合金ターゲットを用いて形成した。Ni拡散防止層をMoNb合金層とした以外は、例13と同様の方法と条件でスパッタリングを行い積層体を形成した。この積層体の膜厚、パターニング前のシート抵抗、及び熱処理前後の該積層体の抵抗変化率(耐熱性)を例1と同様に測定して、結果を表4に示した。
その後、例13と同様の方法と条件でパターニングを行い、配線付き基板を得た。この配線付き基板の、パターニング性、耐湿性(2)及び耐湿性(3)を例13と同様に測定し、その評価結果を上記の表5に示した。
(例19)
例13において、基板温度を200℃とした以外は、例13と同様な方法と条件でスパッタリングを行い積層体を得た。該積層体の膜厚、パターニング前のシート抵抗、耐熱性、パターニング性、耐湿性(2)及び耐湿性(3)を例13の場合と同様に測定し、結果を表5に示した。
表5から、Ni拡散防止層をMoNb合金とすることで、耐湿性をさらに向上させることができることがわかる。
なお、表面粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(デジタルインスツルメンツ社製、NanoScope3a)を用いて測定し、例13のRaは3nm、例19のRaは21nmであった。この結果から、基板加熱を行うと抵抗値が低下することがわかる。一方、基板加熱により表面粗さは増すことがわかる。
上記の例において、酸化、窒化、炭化、酸窒化、窒炭化、酸窒炭化の処理を行う場合、成膜された金属膜に含有されている当該原子は、たとえば、数%〜30%程度がこのましいと考えられる。
本発明に係わる積層体の部分断面図を図21、図22に示す。図21は、積層体の積層膜35が3層構成のものである。たとえば、NiMo−Ox/Al系金属/NiMoNyの層構成があげられる。図22は、積層膜35が4層構成のものである。たとえば、NiMo−Ox/Al系金属/Mo/NiMoやNiMo−Ox/Al系金属/MoNb/NiMoの層構成が挙げられる。さらに、上述した実施例のように、積層膜が5層構成のものも含まれる。たとえば、NiMo−Ox/Mo/Al系金属/Mo/NiMoの層構成が挙げられる。
図23は、有機EL表示素子の接続端子付近の状態を示す模式図である。外部からの接続リード41が本発明に係わる接続端子と接続される。次に、有機EL表示素子を形成する場合の実施例B1〜B4の説明をする。なお、例B1〜B4はパッシブ駆動型の有機EL表示素子であるが、低抵抗性の電極を用いたTFT駆動型の有機EL表示素子に適用できることは言うまでもない。
(例B1)
図6は、本発明に係る有機EL表示素子の一例の平面図を示す。図7は図6のC−C’断面である。図6では、対向基板及びTCPの図示を省略している。また、図20は本発明に係る有機EL表示素子の形成方法のフローチャートである。以下、図6、7を参照しつつ、図20のステップの順に従って説明する。
また、各ステップに対応した有機EL表示素子の部分的断面図を図24〜図28に、平面図を図29〜図33に示す。この例においては、まず、基板上に透明導電膜(ITO層)を成膜し、パターニングして陽極20aとなる電極層を形成する。その接続端子部20bが基板上の端部に位置する。次いで、基板面のほぼ全体に金属の積層膜35を形成する(図29)。その後、積層膜35をパターニングして補助配線30を形成する(図30)。
そして、補助配線30及び陽極20aを含め、基板面全体を覆うように絶縁膜40を成膜する(図31)。そして、画素開口部40aと絶縁膜開口パターン40bとを形成する(図32)。さらに、それらの部分でコンタクトするようにして、陰極70の金属パターンを形成し、補助配線30と接続する(図33)。補助配線の端部は接続端子側パターンとなり、外部の駆動回路と接続される。
本発明の積層体としては、陽極のパターニングを行い、その後に金属の積層膜を基板面上に成膜したものであってもよい(図29参照)。あるいは、基板面の領域に応じて、所望の膜を適宜形成することもできる。
まず、ステップS1に従って、シリカコート層を有するガラス基板1のシリカコート層上に導電性層を成膜する。この導電性層は上記における第2の電極層に該当する。ガラス基板としては、たとえばソーダライムガラスを使用することができる。シリカコート層の厚さは通常5〜30nmであり、たとえばスパッタリング法によって成膜することができる。
なお、この導電性層は透光性を有するのが一般的である。透光性を有するとは、いわゆる透明導電性層の場合のように光の透過率が90〜100%と高い場合以外に、ある程度の透明性を有する場合も含み得ることを意味する。第2の電極層は透明導電性層であることが好ましい。表示素子としての機能を充分に発揮できるからである。
導電性層の厚さは通常50〜300nmである。より好ましくは100〜200nmである。典型的には、DCスパッタ法により作製したITO膜である。本例ではITO膜を使用する。導電性層は、一般的には、このほか、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法(PVD)で作製することができる。
ついで、ステップS2に従って、フォトリソ工程でレジストをパターニングし、その後ステップS3に従って、ITO膜をエッチングし、ついでステップS4に従ってレジストを剥離し、陽極パターン20a及び陽極配線接続端子20bを得る。レジストとしては、本発明の趣旨に反しない限り、公知のどのようなものを使用してもよい。エッチングには、たとえば塩酸及び硝酸の混合水溶液を使用することができる。レジストの剥離についても、本発明の趣旨に反しない限り、公知のどのような剥離剤を使用してもよい。
その後、ステップS5に従って、たとえばDCスパッタ法により、AlまたはAl合金の低抵抗層及びNi合金で形成されたキャップ層を含む金属積層膜を成膜する。配線を低抵抗にするため低抵抗層はAlで形成することが望ましい。このとき、耐食性を向上するために、AlNdやAlSiCuなどのAl合金を用いることも可能である。詳細な成膜例は後述する。
その後、ステップS6に従って、フォトリソ工程でレジストパターニングし、ついで、ステップS7に従って、積層金属膜をエッチングし、ステップS8に従って、レジストを剥離する。この場合のレジストも、本発明の趣旨に反しない限り、公知のどのようなものを使用してもよい。
エッチングには、たとえば燐酸、酢酸、硝酸の混合水溶液よりなるエッチング液を使用することができる。レジストの剥離についても、本発明の趣旨に反しない限り、公知のどのような剥離剤を使用してもよい。本発明に係わる積層膜については、このエッチング液で一括エッチングが可能である。これにより補助配線30が形成される。素子の内側に位置する内部側パターン部30a及び接続端子側パターン部30bが形成される。
なお、上記のITO膜のパターニング工程(ステップS2〜S4)と積層金属膜のパターニング工程(ステップS6〜S8)の代わりに、ITO膜と積層金属膜とをスパッタ法で順に成膜し、その後積層金属膜とITO膜とをこの順番でパターニングすることも可能である。しかし、補助配線のパターニング後に、ITOのエッチングを行う場合、ITOのエッチング液が強酸なので、もし、レジストにピンホールがあった場合、補助配線パターンが消失してしまう可能性があるため、ITOのパターニングを先行する製造方法であることが好ましい。
その後、ステップS9に従って、絶縁膜として、たとえば感光性ポリイミド膜をスピンコーティングし、ステップS10に従ってフォトリソ工程でパターニングを行った後、ステップS11に従って硬化し、図6、7に示すように、画素部に画素開口部40aを有する絶縁膜パターン40を得る。硬化後の絶縁膜パターン40の膜厚は、通常1.0μm程度である。画素開口部が300μm×300μm程度の場合、陰極と補助配線とのコンタクト形成部40bを200μm×200μm以下とすると、表示素子全体の大きさに影響を与えないので好ましい。
その後、ステップS12に従って、たとえば感光性アクリル樹脂をスピンコートし、フォトリソ工程でパターニングを行った後、硬化し、陰極分離パターン50を形成する(図9参照)。この陰極分離パターンを形成する際には、逆テーパー構造となるように、ネガタイプの感光性樹脂を用いることが好ましい。ネガタイプの感光性樹脂を用いると、上から光を照射した場合、深い場所ほどキュアが不十分となり、その結果、上から見た場合、硬化部分の断面積が、上の方より下の方が狭い構造を有する。これが逆テーパー構造を有するという意味である。
このような逆テーパー構造を設けると、その後の工程において、陰極のマスク蒸着時に上から見て陰になる部分には蒸着が及ばない。そのため、陰極同士を分離することが可能となる。なお、上記の感光性ポリイミド樹脂、感光性アクリル樹脂は、相互に互換可能である場合もある。また、本発明の趣旨に反しない限り、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂等公知のどのような絶縁膜用樹脂を使用することも可能である。
その後、ステップS13に従って、たとえば、並行平板RFプラズマ(高周波プラズマ)装置を用い、酸素プラズマ照射を実施して、ITO膜の表面改質を行い、ついで、ステップS14に従って、たとえば蒸着装置を用い、有機EL層60と陰極70とをマスク蒸着する(図27〜図28及び図29〜図33を参照)。
この陰極は本発明に係る第1の電極層に該当する。有機EL層は、界面層、正孔輸送層、発光層、電子注入層等を構成要素とすることが多い。ただし、これとは異なる層構成を適用することもできる。有機EL層の厚さは、通常100〜300nmである。
なお、この絶縁膜パターンの形成により、陽極20aの端部は絶縁膜で覆われる。このため、有機EL層が陽極20aに接する面が平坦化され、電界集中等による有機EL層あるいは陰極の断線の可能性が減少し、陽極と陰極との絶縁耐圧が向上する。陰極にはAlを使用することが多いが、その代わりにLi等のアルカリ金属、Ag、Ca、Mg、Y、Inやそれらを含む合金を用いることもできる。
陰極の厚さは、通常50〜300nmである。なお、陰極のすべてがAlまたはAl合金を含んでいる必要はなく、導電性層が前記補助配線と接続される部位がAlまたはAl合金を含んでいればよい。陰極は、このほか、スパッタリング、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法(PVD)で作製することができる場合もある。
これにより、有機EL層よりなる有機ELパターン60及び陰極パターン70が形成される(図6の平面図を参照)。補助配線及び陰極端子部に本発明の積層膜を適用することにより、低抵抗であり、陰極及び駆動回路接続端子に対して低コンタクト抵抗を維持できる。かつ、信頼性のあるコンタクト特性を有する補助配線を有する有機EL表示素子及びこの有機EL表示素子とこれを駆動するための駆動回路とを得ることができる。
その後、S15として、対向基板80に捕水材100としてCaOを樹脂に練り込んだフィルムを貼り付ける。そのため、対向基板80はガラス基板をサンドブラスト等で部分的に掘り込んだ構造とすることが望ましい。ついで、素子基板の周辺に、紫外線硬化型樹脂をディスペンスした後、対向基板8と貼り合わせ、紫外線を照射して周辺シール90を形成し対向基板80を固定する。これらの工程は表示パネル中に水分や酸素が入らないように窒素雰囲気下で実施する。その後、基板を切断して、各パネルに分離し、かつ実装端子部を露出させる。
ついで、S16として、外部に駆動回路を実装する。具体的には、接続端子となる接続端子側パターン部30bに異方性導電膜110を貼り付け、その後TCPの銅箔配線を端子とTCP側接続配線が重なるよう配置し、その後、熱圧着して貼り付ける。
ここで、有機EL表示素子において重要な、封止工程とその後の実装工程を図17を参照して説明する。有機LED素子は水分により劣化するので対向基板80を周辺シール90を用いて封止する。この際用いる封止材料は感光性エポキシ樹脂が好ましい。
次に有機EL表示素子における捕水材について説明する。有機EL表示素子では、封止する際に水分を除去する為に、捕水材を入れることが好ましい。捕水材としては、酸化バリウム、酸化カルシウム、ゼオライト等がある。例えば、酸化カルシウムを樹脂フィルムに練り込んだ捕水材フィルム100を対向基板80の内面側の凹部に接着する(図17参照)。
その後、陽極及び陰極と外部駆動回路とを接続する。その後陽極及び陰極端子部に駆動回路をTCP実装する。また有機EL表示素子を駆動回路と接続する方法としては、素子内配線と電気的に接続されている端子を設け、それを駆動回路と接続する。
高密度の接続に関しては、外部の駆動回路を銅薄配線がパターニングされたポリイミドフィルムの一方に接続し、他方を異方性導電フィルム(ACF)を介して素子端子に接続したり(TCP実装)、駆動回路ベアチップに金バンプを設け、ACFを介して端子に接続する(COG実装)方法が取られている。
TCPとは、駆動IC及び接続用配線をポリイミドのようなフィルム上に設けた形態のものである。TCP実装を施した端子部平面図を図18に、図18のE−E‘切断線における断面を図19に示す。ガラス基板1に端子30Cが形成されており、その上に異方性導電フィルム(ACF)110を貼り、更にその上からTCP12のポリイミドフィルム上に形成された接続配線150を端子に対してアライメントして貼りつける。異方性導電フィルムは樹脂の中に導電粒子130が分散しているものである。一般的に、樹脂にはエポキシ樹脂が、導電粒子にプラスチックにNi、AuをコートしたものやNi粒子を適用したものが用いられている。
TCPは駆動IC140及び接続配線150をポリイミドテープ160の上に形成したものである。接続配線150には主にCuが用いられている。TCP接続プロセスは、まず端子部にACFを仮圧着する。その際の温度は50〜150℃程度であり圧力は1〜2MPaが一般的である。
その後TCPの接続配線150と端子30Cの位置関係を調整してTCPを本圧着する。その際の温度は150〜250℃程度であり圧力は2〜3MPaが一般的である。本圧着後、接続配線150と端子30Cの間に存在していた導電粒子が潰され電気的な接続が得られる。また実装が完了した後、実装部を樹脂で被覆して腐食を防止する方法も取られている。一般的には、シリコーン系樹脂やUV硬化型エポキシ樹脂などを用いる。
このようにして、有機EL表示素子を作成する。一方で、個別部位の機能の確認や各プロセスの性能を把握する為、テストエレメントグループ(以下、TEGと呼ぶ)を形成することがある。上記プロセスと同様に作成したTEGを図8及び図9に示す。
これらは、一部の構成材料によって形成される一方、図20のS15までの全ての工程を経て形成される。このことにより材料の性能及び加工性のみならず、材料がプロセス履歴から受ける影響も評価することが可能である。図8ではS1〜S8で、ITO膜をエッチング除去し、その後、金属の積層膜である補助配線30のパターンを形成する。このパターンにより、積層膜で形成される配線の抵抗を知ることができる。ここで配線幅は40μmであり、配線の長さは、6.8mmである。図9はS1〜S14のプロセスで形成される。図9のD−D’切断線における断面を図10に示す。
まずS1〜S4でITO膜を除去する。ついでS5〜S8で積層膜のパターンで補助配線30を形成し、ついでS9〜S11で絶縁膜パターン40及び絶縁膜の開口パターン40bを形成する。絶縁膜開口パターンは一辺が200μmの正方形である。その後、S12に従って陰極分離パターン50を形成する。本パターンは絶縁膜開口部近傍にスリット50aを有している。
その後、S14で陰極70のパターンを形成し、TEGが完成する。このTEGにおいて、金属の積層膜のパターンである補助配線30は絶縁膜開口部40bで陰極パターン70と接続している。隣接している補助配線(積層膜のパターン)30に電圧を印加した場合、電流は上記の開口パターン40bから陰極パターンに流れ、さらに隔壁パターンのスリット50aを経て隣接する補助配線(積層膜のパターン)30に流れ込む。
このとき、電流は二つの金属パターン(積層膜の一部)と陰極パターンの接続部を流れることになり、他の部分の抵抗を差し引くと接合部の抵抗(コンタクト抵抗)を算出することができる。ここで陰極分離パターンを設けているのは、陰極分離パターン現像時に現像液が絶縁膜開口パターン40bに溜まるなどして、コンタクト抵抗に影響を及ぼす可能性があり、それを忠実に再現する必要性があるためである。これらより、配線抵抗、補助配線と陰極メタルのコンタクト抵抗を評価することが可能となる。
上記の説明に従って、有機EL表示素子を作製した。各工程の内容は、特記しない限り、上記と同様である。
(例B2)
上記の説明に従って、図8、図9及び図10に示した配線抵抗TEG及びコンタクト抵抗TEGを作成した。まず、S1〜S4に従って150nmのITO膜を成膜、除去した。その後、DCスパッタ法により、順にNiMo,Mo,Al,Mo,NiMoを成膜した。下地層のNiMoを成膜する際には、CO2を流して酸炭化した。
各膜厚は、NiMo層が50nm、Moが20nm、Al層が400nmである。この積層膜は燐酸、酢酸、硝酸水溶液で一括エッチング可能である。これにより積層金属パターン3を得た。その後、絶縁膜パターン40を得た。このとき図8では絶縁膜パターンは形成されない。その後、陰極分離パターン50を得た。先と同様に、図8では陰極分離パターンは形成されない。このとき陰極分離パターンのスリット50aは300μmである。
その後、並行平板RFプラズマ装置を用いて、ITO膜の表面改質条件で酸素プラズマ照射を実施した。具体的には、酸素流量50sccm(標準状態で50mL/min),ガスの合計圧力6.7Pa,1.5kWのプラズマ処理条件でRIE(反応性イオンエッチング)モードのプラズマ処理を60秒実施した。
ついで、蒸着装置を用いて、陰極としてAlを300nmマスク蒸着し、陰極パターン70を得た。このようにして作成された配線抵抗TEGを4端子法で測定したところ、25.5Ωであった。これをシート抵抗に換算すると0.15Ω/□となる。この膜のスパッタ直後のシート抵抗は0.13Ω/□であった。
このことは、有機EL表示素子の形成プロセスを経て、若干の抵抗上昇が認められるものの、低抵抗の配線が形成されていることが分かった。また、コンタクトTEGでの電流電圧特性を図11に、コンタクト抵抗を図12に示す。なおコンタクト抵抗は得られた抵抗から、常温での配線部分の抵抗を差し引いたものである。
電圧をTEGの隣接金属パターンにプローブを用いて印加したところ、4.8Vでプローブと端子の接しているところで、端子が焼ききれてしまい、それ以上の電圧を印加することができなかった。測定結果からわかるとおり、上記の5層積層膜を補助配線に適用した場合に、コンタクト抵抗が0.5〜3.0Ω程度と低く、かつ電流は350mA以上流すことが可能であると推定される。ここで電流値が次第に頭打ちになるのは、配線部分が電流で加熱され温度が上がり、抵抗値が上昇しているものと考えられる。
同様のパターンをCrで作成して評価した場合、コンタクト抵抗は10Ω程度に抑えることができるが、10mA程度電流を流したときに、コンタクト部でパターンが焼ききれてしまった。
このように上述の積層金属膜を有機EL表示素子の補助配線に適用すれば、従来用いられているCrに比べ、低抵抗でかつコンタクト抵抗が低く、大電流を流すことが可能になり、高輝度でありかつ高デユーティの表示をすることができるディスプレイを作成できると考えられる。
(例B3)
例B1と同様に、別の金属積層膜を適用して、TEGを作成した。用いた金属積層膜は、順にNiMo,Al,NiMoを成膜した。下地層のNiMoを成膜する際には、CO2を流して酸炭化し、キャップのNiMo成膜時にはN2を流して窒化した。各膜厚は、NiMo層が50nm、Al層が400nmである。その他のプロセスについては、例B1と同一である。
このようにして作成された配線抵抗TEGを4端子法で測定したところ、18.7Ωであった。これをシート抵抗に換算すると0.11Ω/□となる。またコンタクトTEGでの電流電圧特性を図11に、コンタクト抵抗を図12に示す。この例の場合には、4.2V印加したところで、プラスに印加した配線が焼ききれてしまい、それ以上の電圧が印加できなかった。この積層膜を有機EL表示素子の補助配線に適用すれば、例B1の場合と同様かそれ以上高性能のディスプレイを作成できると考えられる。
(例B4)
前述の説明に従って、有機EL表示素子及びTEGを作製した。TEGの作成に関しては、省略する。本例の有機EL表示素子の平面図を図6に、C−C’断面を図7に示す。
まず、スパッタリングによって成膜した20nmのシリカコート層を有する厚さ0.7mmのソーダライムガラス基板1のシリカコート層上に、DCスパッタ法により、150nmのITO膜を成膜した。その後、フォトリソ工程でレジストをパターニングし、その後塩酸及び硝酸の混合水溶液を用いて、ITO膜をエッチングし、ついでレジストを剥離して、陽極20a及び陽極配線接続端子20bのパターンを得た。
レジストとしてはフェノールノボラック樹脂を使用し、レジスト剥離剤としてはモノエタノールアミンを使用した。その後、DCスパッタ法により、順にNiMo、Al、Mo、NiMoよりなる積層金属膜を成膜した。この積層金属膜の膜厚は、NiMo層が50nm、Mo層が20nm、Alが360nmである。ここで下地層のNiMo膜はCO2を流して、酸炭化した。
その後、フォトリソ工程でレジストをパターニングし、ついで、燐酸、酢酸、硝酸の混合水溶液よりなるエッチング液を用いて、積層金属膜をエッチングしてからレジストを剥離した。これにより補助配線30として、内部側パターン30a及び接続端子側パターン30bとが形成された。レジストとしてはフェノールノボラック樹脂を使用し、レジスト剥離剤としてはモノエタノールアミンを使用した。その後、画素開口部40aを有する絶縁膜パターン40を得た。この絶縁膜パターン40は、図6に示すように、補助配線30のパターン上にも、補助配線コンタクト形成部40bが形成するように設けられている。
画素開口部を300μm×300μm、陰極と補助配線とのコンタクト形成部40bを200μm×200μmとした。その後、陰極分離パターン50を得た。その後、並行平板RFプラズマ装置を用いて、酸素プラズマ照射を実施して、ITO膜の表面改質を行い、ついで、蒸着装置を用いて、有機EL層と陰極とをマスク蒸着した。具体的には、酸素流量50sccm(標準状態で50mL/min)、ガスの合計圧力6.7Pa、1.5kWのプラズマ処理条件でRIE(反応性イオンエッチング)モードのプラズマ処理を60秒実施した。
その後、銅フタロシアニン(以下、CuPcという)よりなる界面層,N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(以下、α−NPDという)よりなる正孔輸送層,トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(以下、Alqと略す。)よりなる発光層,LiFよりなる電子注入層、Alよりなる陰極を、それぞれ、10nm、60nm。50nm、0.5nm、200nm成膜した。
このうち、CuPcよりなる界面層、α−NPDよりなる正孔輸送層、Alqよりなる発光層、LiFよりなる電子注入層とで、有機EL層が形成される正孔輸送層について、α−NPDの代わりにトリフェニルジアミン(以下、TPDという)などのトリフェニルアミン系の物質を使用することができる。
これにより、有機EL層よりなる有機ELパターン60及び陰極パターン70を形成した。その後、この有機EL表示素子と対向基板80とを紫外線硬化型樹脂の周辺シール90で貼り合わせる。具体的には、対向基板に捕水材100として、CaOを練り込んだフィルムを貼り付け、有機EL表示素子の周辺に、ディスペンサを用いて紫外線硬化型樹脂を塗布し、その後紫外線を照射することで、二つの基板を張り合わせた。紫外線硬化樹脂には、ナガセチバXNR5516を用いた。
その後、端子部に異方性導電フィルムを貼り付けそれを介してTCPを接続する。具体的には、実装端子部に異方性導電フィルム110を仮圧着する。異方性導電フィルムは例えば日立化成製アニソルム7106Uである。仮圧着温度は80℃で圧着圧力は1.0MPa、圧着時間は5秒である。
ついで駆動回路が内蔵されたTCPを接続端子部に本圧着する。本圧着温度は170℃で圧着圧力は2.0MPa、圧着時間は20秒である。このようにして作成された、有機EL表示素子は、低抵抗で、陰極とのコンタクト抵抗も低い補助配線と、耐湿性に優れた端子を形成できる。
本発明に係わる積層体として、金属膜を適用したTEGを前述と同様に作成したところ、配線抵抗は0.14Ω/□であった。なおスパッタ時のシート抵抗は0.11Ω/□であった。またコンタクトTEGから得られたコンタクト抵抗は、0.5〜0.8Ω/200μm□であり、およそ350mAでメタルパターンが焼失した。
また、本例の基板で実装していない端子部を80℃・90%RHの高温高湿環境下に保存した。比較として、端子部の金属として、MoNb(10原子%)、Al、MoNb(10原子%)を用いたものも同様に評価した。このときの膜厚はMoNbが70nm、Alが350nmである。100時間経過した時の腐食の状態を図15、図16に示す。ここで図15が本例の積層膜のパターンであり、図16がMoNbとAlで形成された積層膜である。
このように、本発明に係わる積層膜を用いた場合では、MoNbをキャップ膜に用いた場合よりも、腐食が軽減されていることがわかる。また実装したものを700時間経過後、実装したFPCやACFを除去して観察した結果、腐食はさらに軽微になっていた。
このことは、NiMo合金がキャップ膜として腐食耐性に優れていることを示唆するものである。また積層金属でパターンを形成した場合、パターン端面では、Ni拡散防止層のMoが露出する。このMoをMoNbのように腐食性が改善された金属にすれば、NiのAl中への拡散が防止できて、かつ腐食を抑制することができる。