JP3648079B2 - 水性透湿低汚染性塗料組成物 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、水性透湿低汚染性塗料組成物に関するものであり、主に建築物、土木構造物等の躯体に使用するものである。
【0002】
【従来技術】
【0003】
従来、建築物、土木構築物等の躯体の保護、意匠性の付与および、美観性の向上のため塗装仕上げが行われている。このような塗装仕上げの中で、建築物、土木構築物等の躯体の保護という観点では、躯体内部への雨水の浸入を防止する防水性が重要な機能となっている。近年このような防水性の塗膜を施すことにより、外部からの雨水の浸入は遮蔽することが可能となった。しかしながら、反対に建築物内部や土木構築物内部で発生する水蒸気の、躯体内部への浸入による水分が、防水性塗膜の水分遮蔽性能によって躯体内部に留まり、冬期には躯体内部での凍結による躯体の破壊を生じたり、防水性塗膜の裏面への局在化による塗膜の膨れの原因になるという新たな問題を生じることになった。これに対して、防水性塗膜の改良によって、従来の防水性能を維持し、水蒸気の透過のみを許容する、透湿機能を有した新たな塗料組成物が開発されるようになってきた。
【0004】
このような透湿機能を有する水性塗料組成物としては、特開昭62−127365号公報において、コロイダルシリカとアクリル系樹脂を同時乳化したエマルションを結合材として使用することが開示されている。また、特開昭64−6068号公報では、特定のノニオン系乳化剤とポリアルキレングリコールの存在下で乳化重合したビニル系エマルションを使用することが開示されている。
しかし、これらの水性塗料組成物は、何れも耐汚染性を考慮したものではなく、経時的に塗膜が汚染されるために、当初の透湿機能が低下してしまうという問題を有するものである。
特開平4−363373号公報では、特定のシラン化合物とポリシロキサン化合物を用いるエマルションからなる組成物が開示され、耐久性を高めるとともに、塗膜表面の撥水性を高くすることで耐汚染性の向上が図られている。
しかし、該組成物によって形成された塗膜は、その表面撥水性のために、特に都心や都市近郊においては、大気中に浮遊している自動車排出ガス等の油性の汚染物質により、著しいすす状あるいはすじ状の汚染(以下、「雨筋汚れ」という)を生じてしまうという問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、透湿性と防水性の相反する効果を有しながら、塗膜表面の耐汚染性、特に雨筋汚れに対する耐汚染性に優れ、経時的な透湿効果の低下を生じない塗膜を形成することができる水性塗料組成物を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、これらの課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、合成樹脂エマルションと特定のシラン化合物とを複合化したものを結合材とする塗料組成物を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記の水性透湿低汚染性塗料組成物に係るものである。
1.固形分換算で、合成樹脂エマルション100重量部と分子量が150〜3500のアルキレンオキサイド鎖含有アルコキシシラン化合物(水溶化されたものを除く)1〜50重量部とを複合化したものを結合材とする水性透湿低汚染性塗料組成物。
2.アルキレンオキサイド鎖含有アルコキシシラン化合物のアルキレンオキサイド鎖がエチレンオキサイド鎖であることを特徴とする1.に記載の水性透湿低汚染性塗料組成物。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をその実施の形態に基づき詳細に説明する。
【0009】
(1)合成樹脂エマルション
本発明に使用することができる合成樹脂エマルションは、特に限定されず、たとえば、アクリル樹脂系エマルション、アクリルシリコン樹脂系エマルション、フッ素樹脂系エマルション、ウレタン樹脂系エマルションなどが挙げられる。
【0010】
▲1▼アクリル樹脂系エマルションについて
アクリル樹脂系エマルションとしては、アクリル系単量体、およびアクリル系単量体と共重合可能な他の単量体とをラジカル共重合により得られるものが使用できる。
【0011】
アクリル系単量体は、特に限定されないが、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリル酸などのエチレン性不飽和カルボン酸;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド含有(メタ)アクリル系単量体;アクリロニトリルなどのニトリル基含有(メタ)アクリル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル系単量体等を例示できる。
【0012】
アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族炭化水素系ビニル単量体;マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸などのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸などのスルホン酸含有ビニル単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレンなどの塩素含有単量体;ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどの水酸基含有アルキルビニルエーテル;エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテルジエチレングリコールモノアリルエーテルなどのアルキレングリコールモノアリルエーテル;エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのα−オレフィン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどのビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルなどのビニルエーテル;エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテルなどのアリルエーテル等を例示できる。
【0013】
合成樹脂エマルションとして、アクリル樹脂系エマルションを用いた場合は、耐久性、光沢の高さ、コスト面、樹脂設計の自由度の高さなどが有利である。
【0014】
▲2▼アクリルシリコン樹脂系エマルションについて
アクリルシリコン樹脂系エマルションとしては、珪素含有アクリル系単量体、および珪素含有アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体とをラジカル共重合により得られるものが使用できる。
【0015】
珪素含有アクリル系単量体としては、特に限定されないが、たとえば、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどの加水分解性シリル基含有ビニル系単量体等を例示できる。
【0016】
珪素含有アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、たとえば、前述のアクリル樹脂系エマルションで使用される単量体等を、特に限定されず使用できる。
【0017】
合成樹脂エマルションとして、アクリルシリコン樹脂系エマルションを用いた場合は、耐候性、耐黄変性、耐久性、耐薬品性、耐汚染性などが有利である。
【0018】
▲3▼フッ素樹脂系エマルションについて
フッ素樹脂系エマルションとしては、フッ素含有単量体、およびフッ素含有単量体と共重合可能な他の単量体とをラジカル共重合により得られるものが使用できる。
【0019】
フッ素含有単量体としては、たとえば、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペンタフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンなどのフルオロオレフィン;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのフッ素含有(メタ)アクリレート等が例示される。
【0020】
フッ素含有単量体と共重合可能な他の単量体としては、たとえば、前述のアクリル樹脂系エマルションで使用される単量体等を、特に限定されず使用できる。
【0021】
合成樹脂エマルションとして、フッ素樹脂系エマルションを用いた場合は、耐候性、耐黄変性、耐久性、耐薬品性、耐汚染性などが有利である。
【0022】
▲4▼ウレタン樹脂系エマルションについて
ウレタン樹脂系エマルションとは、塗膜形成後の塗膜中にウレタン結合を持つようになるエマルションを総称する。即ち、塗膜形成前からウレタン結合を有するものでもよいし、塗膜形成後の反応によりウレタン架橋を形成するものでもよい。エマルションの形態としては、1液型でもよいし、2液型であってもよい。
1液型としては、ウレタン結合を有する重合性単量体を他の共重合可能な単量体と共重合する方法、ウレタン結合を有する水性樹脂の存在下に重合性不飽和単量体を重合する方法、反応基を有する水性ウレタン樹脂と、該反応基と反応することのできる基を含むエマルションとを混合する方法等が挙げられる。
2液型としては、水分散性イソシアネートと水酸基含有エマルションとの組み合わせ等が挙げられる。
【0023】
合成樹脂エマルションとして、ウレタン樹脂系エマルションを用いた場合は、耐久性、耐溶剤性、耐薬品性、耐汚染性などが有利である。
【0024】
▲5▼その他の架橋反応型エマルションについて
合成樹脂エマルションの中で、前記の水酸基とイソシアネート化合物による架橋反応以外に、カルボニル基とヒドラジド基、カルボン酸と金属イオン、エポキシ基とアミン、エポキシ基とカルボキシル基、カルボン酸とアジリジン、カルボン酸とカルボジイミド、カルボン酸とオキサゾリン、アセトアセテートとケチミンなどを利用した架橋反応を形成するエマルションを使用することも可能である。
【0025】
合成樹脂エマルションとして、架橋反応型エマルションを用いた場合は、耐久性、耐溶剤性、耐薬品性、耐汚染性などが有利である。
【0026】
合成樹脂エマルションの製造方法はとくに限定されないが、たとえば乳化重合法として、バッチ重合、モノマー滴下重合、乳化モノマー滴下重合などの方法により製造することができる。
【0027】
重合に用いる乳化剤は一般に使用されるものであれば特に限定はなく、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性、ノニオン−カチオン性、ノニオン−アニオン性のものを単独あるいは併用して使用することができる。また、耐水性の向上として反応性基をもった乳化剤も使用することができる。
【0028】
重合開始剤としては、通常のラジカル開始剤を使用することができ、過硫酸アンモニウム塩などの過硫酸塩、過酸化水素と亜硫酸水素ナトリウムなどとの組み合わせからなるレドックス開始剤、さらに第一鉄塩、硝酸銀などの無機系開始剤を混合させた系、または、ジコハク酸パーオキシド、ジグルタール酸パーオキシドなどの二塩基酸過酸化物、アゾビスブチロニトリルなどの有機系開始剤などが挙げられる。
【0029】
重合開始剤の使用量は、単量体100重量部に対して0.01〜5重量部程度で使用できる。その他、乳化物のpH調整のため炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、チオ硫酸ナトリウムなどの無機塩およびトリエチルアミン、トリエタノールアミンなどの有機塩基類を添加することができる。
【0030】
(2)アルキレンオキサイド鎖含有アルコキシシラン化合物
本発明に使用されるアルキレンオキサイド鎖含有アルコキシシラン化合物(以下(A)成分という)は、アルキレンオキサイド基の繰り返し単位と、少なくとも1個以上のアルコキシシリル基を有する化合物である。かかる(A)成分のアルキレンオキサイド基繰り返し単位は、そのアルキレン部分の炭素数が1〜4、さらには2のエチレンオキサイドであることが好ましい。
【0031】
(A)成分は、その両末端がアルコキシシリル基であってもよく、一端がアルコキシシリル基であって他端がその他の官能基であってもよい。このような片末端に有することのできる官能基としては、例えば、ビニル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基などが挙げられる。また、該官能基は、アルコキシシリル基との間にウレタン結合、尿素結合、シロキサン結合、アミド結合等を介して結合されたものであっても良い。
このような(A)成分は、例えば、ポリアルキレンオキサイド鎖含有化合物と、アルコキシシリル基含有化合物(以下カップリング剤という。)を反応させて合成したものが使用できる。
【0032】
前記ポリアルキレンオキサイド鎖含有化合物は、分子量が150〜3500であることが好ましく、200〜1500がさらに好ましい。分子量が150未満の場合、最終的に得られる硬化塗膜の親水性に劣り、降雨による汚染物質の洗浄効果が得られず、分子量が3500を越える場合、塗膜の耐水性や硬度が低下する。このようなポリアルキレンオキサイド鎖含有化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレン−プロピレングリコール、ポリエチレン−テトラメチレングリコール、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリオキシエチレンジグリコール酸、ポリエチレングリコールビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどが挙げられる。また、該ポリアルキレンオキサイド鎖含有化合物は、1種もしくは2種以上の組み合わせから選択することができる。
【0033】
一方、カップリング剤は、例えば、一分子中に、少なくとも1個以上のアルコキシシリル基とそのほかの置換基を有する化合物である。カップリング剤としては具体的には、例えば、β−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、イソシアネート官能性シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0034】
(A)成分の合成は、特に限定されないが、ポリアルキレンオキサイド鎖含有化合物とカップリング剤とを別々に用意し、例えば重合性二重結合を有する各化合物についてはラジカル重合開始剤を用いて共重合させる他、イソシアネート基/水酸基、イソシアネート基/アミノ基、またはアミノ基/エポキシ基等の付加反応など公知の方法によって合成することができる。
また、第1級、または第2級アミノ基等の活性水素基を有するアルコキシシリル化合物にエチレンオキサイドを開環付加せしめる方法によっても合成可能である。
【0035】
ラジカル重合開始剤を用いて共重合させる場合は、重合性二重結合を有するポリアルキレンオキサイド鎖含有化合物の少なくとも1種以上と、カップリング剤の少なくとも1種以上を非反応性の適当な溶媒中で反応させて得る事ができる。この際、使用されるラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロルベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジ(パーオキシベンゾエート)ヘキシン−3,1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーベンゾエートなどのパーエステル化合物、アゾビスイソブチロニトリルおよびジメチルアゾブチレートなどのアゾ化合物、および有機過酸化物などが挙げられる。
【0036】
重合性二重結合を有するポリアルキレンオキサイド鎖含有化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールビニルエーテルを用いることができ、カップリング剤には、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランおよびγ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどを単独もしくは2種以上の組み合わせで使用できる。
【0037】
イソシアネート/水酸基の付加反応により合成する場合、例えばポリアルキレンオキサイド鎖含有化合物には、ポリエチレングリコールなどの末端にヒドロキシル基を有する化合物と、カップリング剤にはイソシアネート含有カップリング剤などのイソシアネート基を有する化合物を混合し合成させる。この合成方法においては、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレートまたはジオクチル錫ジマレートなどの反応触媒を使用することも可能である。
【0038】
イソシアネート基/水酸基の付加反応において、その反応比率は限定されないが、当量比で0.2〜2の範囲で反応させることが好ましい。イソシアネート基/水酸基の反応比率が、それぞれの当量比で0.2以下になると架橋反応が十分でなく、耐水性が低下する。反応比率が、それぞれの当量比で2を超えると、塗膜の親水性化と耐候性が低下する。
【0039】
これら(A)成分の内で、アルキレンオキサイド鎖がエチレンオキサイド鎖であり片末端が水酸基であるものが、本発明の低汚染効果が高いため最も好ましい。
【0040】
(3)合成樹脂エマルションとアルキレンオキサイド鎖含有アルコキシシラン化合物との複合化
合成樹脂エマルションと(A)成分との複合化は、合成樹脂エマルションに(A)成分を添加し、加水分解縮合反応させることにより行われる。
(A)成分の配合割合は、合成樹脂エマルションの樹脂固形分100重量部に対し、固形分で1〜50重量部である。1重量部未満では得られる塗膜の透湿性や耐汚染性が十分でなく、50重量部を越えると、樹脂との相溶性、塗膜の耐水性などが劣る結果となる。
(A)成分の添加は、その加水分解縮合において適切な反応性を得るために、5℃〜80℃、好ましくは10℃〜60℃の温度範囲で行うことが望ましい。pHは4〜10、好ましくは7〜9の範囲で行うことが望ましい。
【0041】
(A)成分の加水分解縮合反応により、合成樹脂エマルションの粒子の表層部分あるいは内部に、アルキレンオキサイド鎖を有するシロキサン結合が形成される。また、反応進行の際には、合成樹脂エマルション中の官能基に対して水素結合やエステル結合が形成される。
【0042】
本発明組成物が透湿性と低汚染性とを発揮する作用機構については明らかでないが、アルキレンオキサイド鎖の親水性と、シロキサン結合による微細空隙との相乗作用が寄与しているものと推測される。また、アルキレンオキサイド鎖がシロキサン結合を介して合成樹脂エマルションと結合しているため、形成塗膜が良好な耐水性を示すものと推測される。
【0043】
本発明の水性透湿低汚染性組成物には、必要に応じて通常塗料に用いられる造膜助剤、無機系着色顔料、有機系着色顔料、体質顔料、可塑剤、防腐剤、防黴剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などの添加剤を単独あるいは併用して配合することができる。
【0044】
本発明の水性透湿低汚染組成物は、合成樹脂エマルションの組成調整等により、所望の硬度または伸びを示す塗膜を得ることができる。
【0045】
本発明の水性透湿低汚染組成物は、主に建築物、土木構築物等の躯体の保護に使用するものである。この際、本発明の水性塗料組成物は、最終の仕上面に施されるものであり、基材に直接塗装し単層塗膜として使用することもできるし、積層塗膜の仕上材として使用することも可能である。
積層塗膜の仕上材として使用する場合は、下塗材・仕上材からなる2層構造、下塗材・中塗材・仕上材からなる3層構造等の組み合わせが可能である。このとき用いる下塗材や中塗材は、100g/m2・24H以上の透湿度を有することが好ましい。
【0046】
塗装方法としては、ハケ塗り、スプレー塗装、ローラー塗装、ロールコーター、フローコーター等種々の方法により塗装することができる。さらには、建材表面に工場等においてプレコートすることも可能である。
【0047】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0048】
(1)アルキレンオキサイド鎖含有アルコキシシラン化合物の合成
(合成例1)
アルキレンオキサイド鎖含有アルコキシシラン化合物1合成例
加熱装置、撹拌器、還流装置、脱水装置、温度計を備えた反応槽に、ポリエチレングリコール200(平均分子量200;和光純薬(株)社製)20重量部と、イソシアネート含有シランであるY−9030(日本ユニカー(株)社製)54.3重量部を、ジブチルスズジラウレート0.05重量部とを仕込み、50℃にて8時間反応させ、淡黄色のアルキレンオキサイド鎖含有アルコキシシラン化合物1を得た。このアルキレンオキサイド鎖含有アルコキシシラン化合物の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下GPCという)のポリスチレン換算により測定した結果800であった。
【0049】
(合成例2)
アルキレンオキサイド鎖含有アルコキシシラン化合物2合成例
加熱装置、撹拌器、還流装置、脱水装置、温度計を備えた反応槽に、ポリエチレングリコールグリシジルエーテルであるエポライト40E(平均分子量170:共栄社化学(株)社製)100重量部と、アミノ基含有シランであるA−1100(日本ユニカー(株)社製)63.0重量部とを仕込み、50℃にて8時間反応させ、淡黄色のアルキレンオキサイド鎖含有アルコキシシラン化合物2を得た。このアルキレンオキサイド鎖含有アルコキシシラン化合物の重量平均分子量は、GPCのポリスチレン換算により測定した結果、980であった。
【0050】
(2)試験および結果
メチルメタクリレート38重量部、スチレン25重量部、2−エチルヘキシルアクリレート35重量部、メタクリル酸2重量部を乳化重合して得られた合成樹脂エマルションに、アンモニア水を添加してpHが8.5となるように調整した。次に、合成樹脂エマルションを攪拌しながら25℃に保ち、表1に示す化合物を添加して複合化を行い、結合材を得た。
得られた結合材の固形分100重量部に対し、着色顔料として酸化チタンが68重量部含有されるように配合して塗料組成物を作製し、以下の試験を行った。
▲1▼光沢
塗料組成物を透明なガラス板にWET膜厚が150μmとなるようにアプリケーター引きし、20℃、65%RH(以下、「標準状態」という)で48時間乾燥養生したものを試験板とした。作製した試験板について、JIS K 5400 7.6鏡面光沢度に準じ、60度の角度での光沢度を測定した。
▲2▼耐水性
▲1▼にて作製した試験板を20℃の水に96時間浸漬し、浸漬による光沢変化を光沢保持率にて評価した。評価は、○:90%以上、△:80%〜90%、×:80%未満とした。
▲3▼防水性
塗料組成物を300×300×6mmのスレート板に塗付量で0.2kg/m2となるようにスプレー塗装し、標準状態で7日間乾燥させたものを試験体とした。作製した試験体について、JIS K 5400 8.16透水度に準じて試験を行い、防水性を評価した。評価は、○:0.5ml未満、×:0.5ml以上とした。
▲4▼透湿性
塗料組成物をろ紙に塗付量で0.2kg/m2となるようにスプレー塗装し、標準状態で7日間乾燥させた後、直径約70mmの円形に切り取り試験体とした。作製した試験体についてJIS Z 0208「防湿包装材料の透湿度試験方法」に準じて透湿性試験を行い、透湿度を算出した。評価は、○:100g/m2・24h以上、△:70〜100g/m2・24h、×:70g/m2・24h未満とした。
▲5▼接触角
塗料組成物をアルミ板にWET膜厚が150μmとなるようにアプリケーター引きし、標準状態で48時間乾燥養生したものを試験板とした。作製した試験板に水を滴下したときの接触角を、接触角測定器CA−DT(協和界面科学株式会社製)を用いて測定した。
▲6▼耐汚染性
塗料組成物を300×150×6mmのスレート板に塗付量で0.2kg/m2となるようにスプレー塗装し、標準状態で7日間乾燥させたものを試験体とした。作製した試験体を水平面からの角度が60度となるように固定し、試験体上部からカーボンブラック0.1重量%分散液を流し、72時間経過後のL値変化(ΔL)にて評価を行った。評価は、○:1.0未満、△:1〜2、×:2以上とした。
【0051】
【表1】
【0052】
試験結果を表2に示す。
アルキレンオキサイド鎖含有アルコキシシラン化合物で複合化した合成樹脂エマルションを結合材として用いた実施例1〜3では、透湿性に優れ、さらに接触角が低く耐汚染性にも優れる結果となった。
比較例1では、合成樹脂エマルションをそのまま結合材として用いたところ、透湿性、耐汚染性に劣る結果となった。
比較例2では、アルキレンオキサイド鎖を含まないアルコキシシラン化合物で複合化した合成樹脂エマルションを結合材として用いたところ、透湿性、耐汚染性に劣る結果となった。
比較例3では、ポリエチレングリコールを添加した合成樹脂エマルションを結合材として用いたところ、耐水性、透湿性、耐汚染性に劣る結果となった。
【0053】
【表2】
【0054】
【発明の効果】
本発明の水性透湿低汚染性塗料組成物は、透湿性と防水性の相反する効果を有しながら、塗膜表面が親水性化し、塗膜表面の耐汚染性、特に雨筋汚れに対する耐汚染性に優れるため、経時的な透湿効果の低下を生じることなく、長期にわたり透湿効果を維持することができる。また、アルキレンオキサイド鎖が化学的に合成樹脂エマルションに結合しているため、耐水性にも優れる。
本発明の水性透湿低汚染性塗料組成物では結合材自体が透湿性を有するため、顔料容積濃度が低いつや有り塗料の設計も可能である。
Claims (2)
- 固形分換算で、合成樹脂エマルション100重量部と分子量が150〜3500のアルキレンオキサイド鎖含有アルコキシシラン化合物(水溶化されたものを除く)1〜50重量部とを複合化したものを結合材とする水性透湿低汚染性塗料組成物。
- アルキレンオキサイド鎖含有アルコキシシラン化合物のアルキレンオキサイド鎖がエチレンオキサイド鎖であることを特徴とする請求項1に記載の水性透湿低汚染性塗料組成物。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP35086598A JP3648079B2 (ja) | 1998-12-10 | 1998-12-10 | 水性透湿低汚染性塗料組成物 |
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