JP3644854B2 - ブラシレスモータ、および、そのブラシレスモータの磁極位置判別回路 - Google Patents
ブラシレスモータ、および、そのブラシレスモータの磁極位置判別回路 Download PDFInfo
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブラシレスモータ、及び、そのブラシレスモータの磁極位置判別回路に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ブラシレスモータの駆動には、回転子磁石の磁極位置を検出して、転流タイミングを決定するためのホール素子が用いられている。しかし、ホール素子はノイズや熱に弱いというだけではなく、ホール素子を使用した場合には、ブラシレスモータの小型化や低コスト化が困難になったり、ブラシレスモータから延出されるリード線の数が多くなって配線が煩雑になってしまう等という種々の欠点を有している。
【0003】
そこで、本願出願人は、特開平9−37586号(特願平7−207665号)に記載されるように、ホール素子を使用しないセンサレス駆動が可能なブラシレスモータ駆動回路を発明した。かかるブラシレスモータ駆動回路は、図13(a)に示すようなモータ各相の電機子電流波形を構成する4つの波形ブロック81〜84の各ブロックに共通する波形的特徴に着目して、各相の通電領域の各ブロックにあらわれる2つの顕著な電流増加領域91,92(図13(b)参照)のうち、第2の電流増加領域92を検出して、これを転流時期の到来(転流タイミング)として、転流制御を行うものである。かかるブラシレスモータ駆動回路によれば、ホール素子などの回転子磁石の位置検出素子を用いることなく、センサレスでブラシレスモータを駆動することができる。
【0004】
しかしながら、かかるブラシレスモータ駆動回路は、停止時における回転子磁石の磁極位置を検出することはできないので、ブラシレスモータを始動すると、僅かではあるものの初期逆転を起こすことがある。このため、僅かではあっても逆回転を好まない装置のモータ、例えば介護用椅子の座面を上下させるモータ等としては使用することができない。また、初期逆転の有無により移動量(回転角度)に誤差が生じるので、精度を要するモータ、例えばサーボモータとしても使用することはできない。特に、駆動と停止とを繰り返す装置においては、移動量の誤差が累積するので、その位置を全く把握することができなくなってしまう。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ブラシレスモータの始動時における初期逆転を防止するためには、停止時における回転子磁石の磁極位置を検出し、その磁極位置に応じて、通電開始第1波の通電パターンを決定する必要がある。このために従来では、ホール素子等の位置検出素子を用いずに回転子磁石の磁極位置を検出するため、電機子巻線へ定格電圧の何倍もの大きさの電圧を印加して固定子鉄心の主脚部を磁気飽和させ、その際の電機子電流の値に基づいて、停止時における回転子磁石の磁極位置を判別している。例えば、停止時における回転子磁石の磁極位置を判別するために、定格電圧が200ボルトの電機子巻線へ、その4倍の800ボルトの電圧を印加している。
【0006】
しかしながら、かかる判別を行うためには、ブラシレスモータの駆動電圧の何倍もの大きさの電圧を出力する電源回路が必要になるばかりか、電機子巻線の絶縁耐圧を強化する必要が有るので、電源回路およびブラシレスモータのコストが大幅にアップしてしまうという問題点がある。また、かかる大きな電圧を電機子巻線へ印加すると、ブラシレスモータを振動させたり、ブラシレスモータから騒音を発生させたり、更には、停止状態にあるブラシレスモータを磁極位置の判別のために回転させてしまうことがあるという問題点がある。
【0007】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、電源回路およびブラシレスモータの大幅なコストアップを防ぐと共に、騒音や振動を発したり回転子磁石を回転させることなく、その回転子磁石の磁極位置を判別することができるブラシレスモータ及びそのブラシレスモータの磁極位置判別回路を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために請求項1記載のブラシレスモータは、固定子鉄心と、その固定子鉄心に巻回される複数相の電機子巻線へ通電することによって回転される回転子磁石とを備え、更に、前記固定子鉄心は、前記電機子巻線が巻回される複数の主脚部と、その複数の主脚部にそれぞれ連設される複数の歯部と、その複数の歯部のうち隣接する歯部同士を連結する極間ヨークとを備えており、その極間ヨークは、前記電機子巻線への非通電時には非磁気飽和の状態にある一方、前記電機子巻線への通電時には僅かな磁束の増加で磁気飽和するように構成されている。
【0009】
ブラシレスモータの電機子巻線に通電を行うと、固定子鉄心に磁束が鎖交する。この磁束は、電機子巻線に流れる電機子電流の増加と共に増加する。固定子鉄心には、回転子磁石による磁界によっても磁束が鎖交しているが、その回転子磁石により鎖交する磁束と、電機子巻線を通電することにより鎖交する磁束とが同方向(加算方向)である場合には、両磁束が逆方向(減算方向)であったり、ズレている場合に比べて、固定子鉄心は速く磁気飽和する。固定子鉄心が磁気飽和すると、電機子巻線の自己インダクタンス値が急激に減少し、電機子電流が急増する。即ち、回転子磁石により鎖交する磁束と、電機子巻線を通電することにより鎖交する磁束とが同方向(加算方向)である場合には、電機子電流は速い時期に急増する。よって、この電機子電流の急増タイミングによって、停止時における回転子磁石の極性を判別することができる。
【0010】
請求項1記載のブラシレスモータによれば、固定子鉄心の隣接する歯部同士を連結する極間ヨークは、電機子巻線への非通電時には非磁気飽和の状態にある一方、電機子巻線への通電時には僅かな磁束の増加で磁気飽和するように構成されている。よって、回転子磁石によって鎖交する磁束と同方向の磁束が鎖交するように電機子巻線へ通電を行うと、回転子磁石を回転させることのない僅かな電機子電流で、固定子鉄心を極間ヨークの部分で磁気飽和させることができる。即ち、僅かな電機子電流を流すだけで、固定子鉄心を部分的に磁気飽和させることができるのである。固定子鉄心が部分的であっても磁気飽和すると、電機子巻線の自己インダクタンス値は急激に減少し、電機子電流が急増する。従って、電機子巻線へ回転子磁石を回転させることのない僅かな電機子電流を流して、その場合の電機子電流の急増タイミングを比較することによって、モータの停止時における回転子磁石の磁極位置を判別することができる。
【0011】
請求項2記載のブラシレスモータは、請求項1記載のブラスレスモータにおいて、前記極間ヨークは前記主脚部と同一材料で形成されると共に、前記極間ヨークの1つの断面積は、前記主脚部の1つの断面積の略1/20から略1/30に形成されている。
【0012】
請求項3記載のブラシレスモータは、請求項1記載のブラスレスモータにおいて、前記極間ヨークは角形の磁化特性を有するフェライトにより構成される一方、前記主脚部は電磁鋼板により構成されており、前記フェライトにより構成される極間ヨークの1つの断面積は、前記電磁鋼板により構成される主脚部の1つの断面積の略1/5から略1/8に形成されている。角形の磁化特性を有するフェライトは、電磁鋼板より飽和磁束密度が低く透磁率変化が急激である。よって、そのフェライトで極間ヨークを構成することにより、極間ヨークの断面積を主脚部の断面積の略1/5から略1/8に形成しても、回転子磁石を回転させることなく、極間ヨークの部分で固定子鉄心を急激に磁気飽和させることができる。
【0013】
請求項4記載のブラシレスモータは、請求項1から3のいずれかに記載のブラスレスモータにおいて、前記極間ヨークは、隣接する前記歯部間の前記回転子磁石の反対側に配設されている。
【0014】
極間ヨークは、回転子磁石に対して磁束のバイパス磁路となる。よって、極間ヨークを設けると、その極間ヨークにバイパスされる磁束の分だけ固定子鉄心の主脚部へ鎖交する磁束が減少し、ブラシレスモータの駆動時における発生トルクが低下する。しかし、請求項4記載のブラシレスモータは、極間ヨークと回転子磁石との間隔を、歯部と回転子磁石との間隔に対して、少なくとも歯部の厚さ分、大きく形成している。即ち、極間ヨークを回転子磁石に対して、歯部の厚さ分、その歯部より遠ざけて配設している。よって、回転子磁石の磁束によって極間ヨークが磁気飽和することがないので、回転子磁石の磁極位置の判別を容易に行うことができる。しかも、僅かな電機子電流で極間ヨークが磁気飽和するので、発生トルクの低下率を小さく抑えることができるのである。
【0015】
請求項5記載のブラシレスモータは、請求項1から4のいずれかに記載のブラスレスモータにおいて、前記複数の歯部およびその複数の歯部のうち隣接する歯部同士を連結する複数の極間ヨークにより、前記回転子磁石を内包する閉スロット構造に構成されている。
【0016】
請求項6記載のブラシレスモータの磁極位置判別回路は、請求項1から5のいずれかに記載のブラスレスモータについて、前記回転子磁石の停止時における磁極位置を判別するためのものであり、前記電機子巻線へ検査電圧を通電する検査電圧通電回路と、その検査電圧通電回路による検査電圧の通電により前記電機子巻線へ流れる電流を検出する電流検出回路と、その電流検出回路により検出された電機子電流の増加速度に基づいて、前記回転子磁石の停止時における磁極位置を判別する極性判別回路とを備えている。
【0017】
この請求項6記載のブラシレスモータの磁極位置判別回路によれば、検査電圧通電回路により電機子巻線へ検査電圧が通電されると、電機子巻線へ電機子電流が流れる。電機子巻線へ流れる電機子電流は電流検出回路によって検出され、その検出された電機子電流の増加速度に基づいて、極性判別回路により回転子磁石の停止時における磁極位置が判別される。
【0018】
即ち、請求項1から5に記載のブラスレスモータにおける固定子鉄心の隣接する歯部同士は、電機子巻線への非通電時には非磁気飽和の状態にあり、一方、電機子巻線への通電時には僅かな磁束の増加で磁気飽和するように構成された極間ヨークにより連結されている。よって、電機子巻線への検査電圧の通電により僅かな電機子電流が流れると、その電機子電流により鎖交する磁束の方向に応じて、極間ヨークの部分で磁気飽和が生じる。即ち、検査電圧の通電により、その検査電圧の通電パターンに応じて、固定子鉄心が部分的に磁気飽和する。その結果、電機子巻線の自己インダクタンス値が急減し、電機子電流が急増する。かかる電機子電流の急増は電流検出回路によって検出され、その急増タイミング、即ち、電流増加速度によって、極性判別回路によりブラシレスモータの停止時における回転子磁石の磁極位置が判別される。なお、電機子電流の増加速度(急増タイミング,磁気飽和のタイミング)は、例えば、検査電圧の通電開始後、所定時間経過後の電機子電流の値によって検出することができる。
【0019】
請求項7記載のブラシレスモータの磁極位置判別回路は、請求項6記載のブラシレスモータの磁極位置判別回路において、前記検査電圧通電回路は、前記ブラシレスモータの駆動時における周波数の略15倍以上の周波数の電圧を検査電圧として通電するものである。よって、ブラシレスモータはコギングトルクにより停止状態を保つので、回転子磁石を回転させることなく、検査電圧を通電することができる。また、騒音や振動を発生させることなく、検査電圧を通電することができる。
【0020】
請求項8記載のブラシレスモータの磁極位置判別回路は、請求項6又は7に記載のブラシレスモータの磁極位置判別回路において、前記検査電圧通電回路は、前記電機子巻線のすべての通電パターンについて少なくとも1回以上の検査電圧を出力すると共に、前記電流検出回路は、前記電機子巻線へ流れる電流を電圧に変換して検出するものであり、前記極性判別回路は、前記検査電圧通電回路による検査電圧の通電により、前記電流検出回路によって最も大きい電圧値が検出された通電パターンに基づいて、前記回転子磁石の停止時における磁極位置を判別するものである。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。なお、本実施例におけるブラシレスモータの駆動原理については、既に、特開平9−37586号(特願平7−207665号)に記載されているので、その説明は省略する。
【0022】
図1は、本実施例のブラシレスモータ51の断面図である。このブラシレスモータ51は、永久磁石の界磁を回転子とした4極の回転子磁石52と、固定子鉄心53および3相の電機子巻線54を固定子とした、表面磁石形のブラシレスモータである。
【0023】
回転子磁石52は、N極52aおよびS極52bがそれぞれ2極ずつ形成された4極で構成されており、回転軸52cを回転中心にして、ブラシレスモータ51のフレーム(図示せず)に回転可能に軸支されている。この回転子磁石52を内包する固定子鉄心53は、その外周に円筒形のヨーク53aを有しており、ヨーク53aの内周、即ち回転子磁石52側には、6本の主脚部53bがそれぞれ等間隔に回転軸52cへ向けて突設されている。この6本の主脚部53bには、U相、V相およびW相の3相の電機子巻線54u,54v,54wが2組ずに分かれてそれぞれ巻回されている。具体的に図1では、上下にU相の電機子巻線54uが巻回され、そのU相の電機子巻線54uに対して、左回りに、V相の電機子巻線54v、W相の電機子巻線54wがそれぞれ順に巻回されている。
【0024】
各主脚部53bの回転子磁石52側には、先端が回転子磁石52の外形に沿って円弧状に形成された歯部53cがそれぞれ連設されている。この歯部53cは、主脚部53bと同数の6つ形成されており、その6つの歯部53cは、それぞれ隣接する2つの歯部53c同士が極間ヨーク53dによって磁気的に連結されている。このためブラシレスモータ51は、歯部53cおよび極間ヨーク53dによって、固定子鉄心53内に回転子磁石52を内包した閉スロット構造に形成されている。
【0025】
極間ヨーク53dによる歯部53c同士の連結は、歯部53cの回転子磁石52の反対側で行われている。後述するように、極間ヨーク53dは回転子磁石52の磁束のバイパス磁路となるので、極間ヨーク53dにバイパスされる磁束の分だけ主脚部53bへ鎖交する磁束が減少して、ブラシレスモータ51の駆動時における発生トルクが低下する。このため、極間ヨーク53dによる歯部53c同士の連結を回転子磁石52の反対側で行って、極間ヨーク53dを歯部53cの厚さ分、回転子磁石52から遠ざけて配設し、ブラシレスモータ51の駆動時における発生トルクの低下率を小さくしているのである。また、極間ヨーク53dによる歯部53c同士の連結を回転子磁石52の反対側で行うことにより、回転子磁石の磁束によって極間ヨークが磁気飽和することがないので、回転子磁石の磁極位置の判別を容易に行うことができるのである。
【0026】
固定子鉄心53のヨーク53a、主脚部53bおよび歯部53cは、それぞれ電磁鋼板で形成されているのに対し、極間ヨーク53dは、角形の磁化特性を有するフェライトで形成されている。このため、極間ヨーク53dは、1つの断面積が1つの主脚部53bの断面積の略1/5から略1/8に形成されており、回転子磁石52の停止時において、電機子巻線54への通電が行われていない場合に非磁気飽和の状態にあり、一方、電機子巻線54への通電が行われた場合には、僅かな電機子電流で磁気飽和するように構成されている。
【0027】
極間ヨーク53dで磁気飽和が生じると、即ち、固定子鉄心53が部分的に磁気飽和すると、電機子巻線54のインダクタンス値は急激に減少し、電機子電流が急増する。本実施例では、かかる固定子鉄心53の部分的な磁気飽和を利用して、停止時における回転子磁石52の磁極位置を判別してる。なお、回転子磁石52の磁極位置判別の詳細については図2から図4を参照して後述する。
【0028】
極間ヨーク53dを形成するフェライトは、固定子鉄心53の他の部分53a〜53cを形成する電磁鋼板に比べて、飽和磁束密度が略1/4であり磁気飽和が急激に起こる。具体的には、本実施例で使用されるフェライトの飽和磁束密度は略0.5テスラであるのに対し、電磁鋼板の飽和磁束密度は略2.0テスラとなっている。よって、極間ヨーク53dをフェライトで形成すれば、電磁鋼板で形成する場合に比べて、その断面積を略4倍まで大きくしても、僅かな電機子電流で磁気飽和するように構成できる。
【0029】
一方、極間ヨーク53dをフェライトで形成する場合に、その極間ヨーク53dの断面積を電磁鋼板で形成する場合の略4倍まで大きくしなければ、極間ヨーク53dにおいて一層急激に磁気飽和を起こすことができるので、電機子巻線54のインダクタンス変化を一層大きくすることができる。従って、その分、ブラシレスモータ51の磁極位置の判別を容易に行うことができるのである。
【0030】
なお、極間ヨーク53dをフェライトではなく固定子鉄心53の他の部分53a〜53cと同様に電磁鋼板で形成する場合、例えば極間ヨーク53dを固定子鉄心53の他の部分53a〜53cと一体に形成する場合には、極間ヨーク53dの1つの断面積を、1つの主脚部53bの断面積の略1/20から略1/30に形成すれば良い。これにより、回転子磁石52の停止時において、電機子巻線54への通電が行われていない場合に非磁気飽和の状態にあり、一方、電機子巻線54への通電が行われた場合には僅かな電機子電流で磁気飽和するように、極間ヨーク53dを構成することができる。
【0031】
ここで、図2から図5を参照して、停止時における回転子磁石52の磁極位置の判別方式と、その判別結果に基づく通電開始第1波の決定方式とについて説明する。なお、図2から図5は、ブラシレスモータ51の断面を図示しており、特に、図2及び図3は、ブラシレスモータ51の断面を部分的に拡大して示した図である。図2及び図3については、理解を容易にするために、電機子巻線54の図示を省略している。
【0032】
ブラシレスモータ51の回転子磁石52が、図2(a)に示す位置に停止している場合には、固定子鉄心53には回転子磁石52によって実線の矢印で示す方向に磁束が鎖交している。この状態で図2(b)に示すように、回転子磁石52による磁化力と電機子電流による磁化力とが主脚部53bで対向するように電機子巻線54への通電を行うと、その通電により流れる電機子電流によって、固定子鉄心53には点線の矢印で示す方向に磁束が鎖交する。かかる磁束の方向は極間ヨーク53dの部分において回転子磁石52の磁束と同方向であるので、電機子巻線54への通電によって、極間ヨーク53dの鎖交磁束は増加する(増加方向となる)。よって、電機子巻線54への通電による僅かな磁束の増加によって極間ヨーク53dを磁気飽和させることができる。なお、このように、電機子巻線54への通電により、極間ヨーク53dの磁束が増加方向となる場合を「加極性」と称している。
【0033】
一方、ブラシレスモータ51の回転子磁石52が図3(a)に示す位置に停止している場合に、図3(b)に示すように、回転子磁石52による磁化力と電機子電流による磁化力とが主脚部53bで同一方向となるように電機子巻線54への通電を行うと、その通電により流れる電機子電流によって、固定子鉄心53には点線の矢印で示す方向に磁束が鎖交する。かかる磁束の方向は極間ヨーク53dの部分において回転子磁石52の磁束と逆方向であるので、電機子巻線54への通電によって、極間ヨーク53dの鎖交磁束は減少する(減少方向となる)。よって、電機子巻線54への通電による僅かな磁束の増加では、極間ヨーク53dを磁気飽和させることはできない。なお、このように、電機子巻線54への通電により、極間ヨーク53dの磁束が減少方向となる場合を「減極性」と称している。
【0034】
電機子巻線54への通電が「加極性」に行われる場合には、騒音や振動が発生せず且つ回転子磁石52が回転することのない僅かな電機子電流によって、極間ヨーク53dを磁気飽和させることができる。前記した通り、極間ヨーク53dで磁気飽和が生じると、即ち固定子鉄心53が部分的であっても磁気飽和すると、電機子巻線54のインダクタンス値が急激に減少し、電機子電流が急増する。よって、かかる電機子電流の増加速度に基づいて、停止時における回転子磁石52の磁極位置を判別することができる。
【0035】
図4を参照しつつ、更に具体的に、回転子磁石52の磁極位置の判別方式を説明する。本実施例のブラシレスモータ51は4極の3相モータで構成されているので、回転子磁石52は、図4(a)〜(f)に示す6カ所に停止し得る。前記した通り、図4(a)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、V相の電機子巻線54vが巻回される主脚部53bの歯部53cがS極に、W相の電機子巻線54wが巻回される主脚部53bの歯部53cがN極に、それぞれ励磁されるように電機子巻線54への通電を行うと、「加極性」の傾向が最も強く現れ、極間ヨーク53dで最も速く磁気飽和が生じて、最も速く電機子電流が急増する。即ち、短時間で見た場合には、電機子電流の値が最大となる。
【0036】
同様に、図4(b)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、V相の電機子巻線54vに対する歯部53cがS極に、U相の電機子巻線54uに対する歯部53cがN極に、図4(c)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、W相の電機子巻線54wに対する歯部53cがS極に、U相の電機子巻線54uに対する歯部53cがN極に、図4(d)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、W相の電機子巻線54wに対する歯部53cがS極に、V相の電機子巻線54vに対する歯部53cがN極に、図4(e)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、U相の電機子巻線54uに対する歯部53cがS極に、V相の電機子巻線54vに対する歯部53cがN極に、更に、図4(f)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、U相の電機子巻線54uに対する歯部53cがS極に、W相の電機子巻線54wに対する歯部53cがN極に、それぞれ励磁されるように電機子巻線54への通電を行うと、「加極性」の傾向が最も強く現れ、極間ヨーク53dで最も速く磁気飽和が生じ、最も速く電機子電流が急増する。
【0037】
本実施例のブラシレスモータ51は、V相の電機子巻線54vからW相の電機子巻線54wへ電機子電流が流れるように通電を行うと、V相の電機子巻線54vに対する歯部53cがS極に、W相の電機子巻線54wに対する歯部53cがN極に、それぞれ励磁されるように電機子巻線54が巻回されている。電機子巻線54への通電パターンは全部で6通りあるので、6通りすべての通電パターンによる電機子巻線54への通電を行った結果、各通電後の所定時間の経過後に電機子電流の電圧変換された値(電流検出回路4の出力電圧)を読み取り、その読み取った値が最大である通電パターンによって、停止時における回転子磁石52の磁極位置を判別している。
【0038】
即ち、電機子電流がV相からW相の電機子巻線54へ流れるように通電を行った場合の所定時間経過後に最も大きな電機子電流が検出されれば、回転子磁石52は図4(a)に示す位置に停止している。また、電機子電流がV相からU相の電機子巻線54へ流れるように通電を行った場合の所定時間経過後に最も大きな電機子電流が検出されれば、回転子磁石52は図4(b)に示す位置に停止している。更に、電機子電流がU相からW相の電機子巻線54へ流れるように通電を行った場合の所定時間経過後に最も大きな電機子電流が検出されれば、回転子磁石52は図4(f)に示す位置に停止している。なお、磁極位置の判別のための電機子巻線54への通電は、騒音や振動、および回転子磁石52の回転を防止するために、通常駆動時の略1/100程度の時間である1ms(ミリ秒)の間行われる。
【0039】
図5は、回転子磁石52を反時計回りに回転させる場合の通電開始第1波の励磁状態を示した図である。図5(a)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、U相の電機子巻線54uが巻回される主脚部53bの歯部53cがS極に、V相の電機子巻線54vが巻回される主脚部53bの歯部53cがN極にそれぞれ励磁されるように、電機子巻線54への通電開始第1波を設定する。即ち、本実施例のブラシレスモータ51では、図5(a)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、U相からV相の電機子巻線54へ電機子電流が流れるように通電開始第1波を設定するのである。
【0040】
同様に、図5(b)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、U相の電機子巻線54uに対する歯部53cがS極に、W相の電機子巻線54wに対する歯部53cがN極にそれぞれ励磁されるように、即ちU相からW相の電機子巻線54へ電機子電流が流れるように、通電開始第1波を設定する。更に、図5(f)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、W相の電機子巻線54wに対する歯部53cがS極に、V相の電機子巻線54vに対する歯部53cがN極にそれぞれ励磁されるように、即ちW相からV相の電機子巻線54へ電機子電流が流れるように、通電開始第1波を設定するのである。
【0041】
図6は、本実施例のブラシレスモータ51をセンサレス駆動するためのモータ駆動回路1の回路図である。このモータ駆動回路1により、ホール素子などの位置検知素子を用いることなく、停止時におけるブラシレスモータ51の回転子磁石52の磁極位置を検出して、通電開始第1波を決定すると共に、ブラシレスモータ51をセンサレスで駆動することができるのである。
【0042】
このモータ駆動回路1は、補助電源回路2と、インバータ回路3と、電流検出回路4と、ROM12およびRAM13を内蔵すると共に複数の入出力ポートなどを有する1チップマイコンであるMPU11を備えている。補助電源回路2は、30ボルトの直流電源50からMPU11を駆動するための安定した5ボルトの電圧を生成し出力する回路である。
【0043】
インバータ回路3は、ブラシレスモータ51の3相(U相、V相、W相)の電機子巻線54u〜54wに、30ボルトの直流電圧を順次通電切替するための回路である。インバータ回路3の直流電源50のプラス側入力端Pには、3つのP−MOS電界効果トランジスタQu,Qv,Qwのソース端子が接続され、直流電源50のグランド側入力端Nには、3つのN−MOS電界効果トランジスタQx,Qy,Qzのソース端子が接続されて、これらにより3相の電機子巻線54u〜54wに対応した3つのアームが形成されている。各電界効果トランジスタQu〜Qzは、ゲート端子が1kΩの抵抗Ru1〜Rz1を介してMPU11の各出力PT0〜PT5とそれぞれ接続されており、MPU11の出力に応じてオン又はオフされるように構成されている。
【0044】
また、各電界効果トランジスタQu〜Qzのゲート・ソース間には、保護及びゲート電圧のフローティング防止用の10kΩの抵抗Ru2〜Rz2がそれぞれ接続されている。更に、各電界効果トランジスタQu〜Qzのソース・ドレイン間には、各電界効果トランジスタQu〜Qzのオンオフ時に、ブラシレスモータ51の電機子巻線54に生じる逆起電力作用に起因する電流を還流させるためのフリーホイールダイオードDu〜Dzが、それぞれ逆並列に接続されている。
【0045】
電流検出回路4は、ブラシレスモータ51の電機子巻線54に流れる電流を電圧に変換して、MPU11のA/D端子へ出力するための回路である。後述するように、A/D端子へ入力されたアナログ電圧値は、MPU11のA/D変換器17によってデジタルデータに変換される。電流検出回路4は、直流電源50のグランド側入力端Nとインバータ回路3との間に挿入された1Ωのシャント抵抗Rsから構成されている。ブラシレスモータ51の3相の電機子電流は、フリーホイールダイオードDu〜Dzへの還流電流を除いて、全てこのシャント抵抗Rsを流れ、このシャント抵抗Rsによって電圧に変換される。なお、シャント抵抗Rsの発熱が問題となる場合には、シャント抵抗Rsの抵抗値を例えば0.1Ω程度に小さくして、その発熱を抑制すれば良い。かかる場合には、シャント抵抗RsとMPU11との間に、シャント抵抗Rsによって変換された電圧値を増幅するための増幅回路を接続することが好ましい。
【0046】
MPU11は、ROM12と、RAM13と、1msインターバル割込発生回路14と、タイマ割込発生回路15と、フリーランニングカウンタ16と、A/D変換器17と、出力ポートPT0〜PT5とを備えている。
【0047】
ROM12は、図8から図12のフローチャートに示す各種の制御プログラム12aや固定値データを記憶する書き替え不能な不揮発性のメモリである。このROM12内には、固定値データの1つとして通電相テーブル12bが記憶されている。通電相テーブル12bは、U相、V相およびW相の3相の電機子巻線54u〜54wへの6種類の通電パターンを記憶するデータテーブルであり、具体的には「1AH(16進数、以下同様),19H,29H,2CH,34H,32H」の6つのデータが記憶されている。
【0048】
図7は、この通電相テーブル12bの構成を模式的に示した図である。図7に示すように、後述する通電カウンタ13iの値に応じて、MPU11の出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力される通電相データが定まる。具体的には、通電カウンタ13iの値番目の通電相テーブル12bのデータが通電相データ(通電パターン)としてインバータ回路3へ出力される。例えば、通電カウンタ13iの値が「0」であれば、0番目の通電相データである「1AH」がMPU11の出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力されて電機子巻線54への通電が行われる。その結果、電機子巻線54のU相54uからV相54vへ電機子電流が流れる。また、通電カウンタ13iの値が「4」であれば、4番目の通電相データである「34H」がMPU11の出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力され、その結果、電機子巻線54のW相54wからU相54uへ電機子電流が流れる。
【0049】
図6に示すRAM13は、書き替え可能な揮発性のメモリであり、極性判別済フラグ13aと、初回割込済フラグ13bと、第0〜第5の6種類の電圧値メモリ13c〜13hと、通電カウンタ13iと、始動補償カウンタ13jと、サンプル済フラグ13kと、サンプル電圧値メモリ13lと、比較電圧値メモリ13mと、前回カウント値メモリ13nと、今回カウント値メモリ13oとを備えている。極性判別済フラグ13aから通電カウンタ13iまでのフラグ、メモリ及びカウンタ13a〜13iは回転子磁石52の磁極位置の判別制御に使用される。一方、通電カウンタ13iから今回カウント値メモリ13oまでのフラグ、メモリ及びカウンタ13i〜13oはブラシレスモータ51の駆動制御に使用される。なお、通電カウンタ13iは双方の制御に使用される。
【0050】
極性判別済フラグ13aは、停止している回転子磁石52の磁極位置の判別が完了した場合にオンされるフラグである。この極性判別済フラグ13aがオンされると、回転子磁石52の磁極位置が判別されたということであるので、ブラシレスモータ51を回転させるための第1波通電処理(S8)およびモータ駆動処理(S9)が順に実行され、ブラシレスモータ51が回転を開始する。
【0051】
初回割込済フラグ13bは、図9に示す1msインターバル割込処理の最初の実行時にオンされるフラグである。電源投入時における回転子磁石52の磁極位置の判別は、図7に示す6つの通電相データ(通電パターン)をそれぞれ1msずつ出力し、その1msの経過時において電圧に変換された電機子電流の値が最大となる通電相データに基づいて行われる(図4参照)。よって、磁極位置の判別を正確に行うためには、6つの通電相データを正確に1msずつ出力する必要がある。
【0052】
しかし、割込を許可してから最初の1msインターバル割込処理が発生するまでの時間は不定であるので、初回(最初)の1msインターバル割込処理において電圧に変換された電機子電流の値を測定することは好ましくない。従って、初回の1msインターバル割込処理では電圧に変換された電機子電流の値の測定をキャンセルするために、初回割込済フラグ13bを設けている。即ち、1msインターバル割込処理において初回割込済フラグ13bの状態を調べ、オフされている場合には、その割込は最初に発生した1msインターバル割込処理である。よって、初回割込済フラグ13bがオフされている場合には、電圧に変換された電機子電流の値の測定をキャンセルするのである。なお、この初回割込済フラグ13bは、初回(最初)の1msインターバル割込処理においてオンされる。
【0053】
第0〜第5電圧値メモリ13c〜13hは、回転子磁石52の磁極位置の判別のために6つの通電相データを出力した場合の電圧変換された電機子電流の値をそれぞれ記憶するための6つのメモリである。図7に示すように、通電カウンタ13iの値が「0」である場合には「1AH」の通電相データが出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力されて、U相の電機子巻線54uからV相の電機子巻線54vへ電機子電流が流れる。かかる電機子電流の1ms経過時における電圧変換された値、即ち電流検出回路4の出力電圧が第0電圧値メモリ13cに記憶される。
【0054】
同様に、通電カウンタ13iの値が「1」である場合には「19H」の通電相データが出力されて、U相からW相の電機子巻線54へ電機子電流が流れ、かかる電機子電流の1ms経過時における電圧変換された値が第1電圧値メモリ13dに記憶される。更に、通電カウンタ13iの値が「5」である場合には「32H」の通電相データが出力されて、W相からV相の電機子巻線54へ電機子電流が流れ、かかる電機子電流の1ms経過時における電圧変換された値が第5電圧値メモリ13hに記憶される。
【0055】
なお、第0〜第5電圧値メモリ13c〜13hのすべてに電圧値が記憶されると、その記憶された6つの電圧値の中から最大の電圧値を記憶する電圧値メモリ13c〜13hが検出される。そして、図4に示すように、その最大の電圧値を記憶する電圧値メモリ13c〜13hに基づいて、回転子磁石52の磁極位置が判別されるのである。例えば、第0電圧値メモリ13cが最大の電圧値を記憶する場合には、U相からV相の電機子巻線54へ電機子電流が流れるように電機子巻線54への通電を行った結果、電機子電流値が最大となったということであるので、回転子磁石52は図4(e)の状態に停止していると判別することができる。同様に、第1電圧値メモリ13dが最大の電圧値を記憶する場合には、回転子磁石52は図4(f)の状態に停止していると、更に、第5電圧値メモリ13hが最大の電圧値を記憶する場合には、回転子磁石52は図4(c)の状態に停止していると、それぞれ判別することができる。
【0056】
通電カウンタ13iは、MPU11の出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力される通電相データを決定するためのカウンタである。本実施例の電機子巻線54は3相で構成されるので、図7に示すように、6種類の通電相データを有している。よって、通電カウンタ13iは「0〜5」の範囲で更新され、前記した通り、通電カウンタ13iの値番目の通電相テーブル12bのデータがMPU11の出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力される。具体的には、通電カウンタ13iの値が「0」であれば「1AH」の通電相データが、「1」であれば「19H」の通電相データが、「2」であれば「29H」の通電相データが、「3」であれば「2CH」の通電相データが、「4」であれば「34H」の通電相データが、「5」であれば「32H」の通電相データが、それぞれMPU11の出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力される。
【0057】
始動補償カウンタ13jは、ブラシレスモータ51の始動時に、電機子巻線54へ十分な電機子電流を流すために使用されるカウンタである。始動補償カウンタ13jには電源投入時に初期値が設定され、回転子磁石52の磁極位置の判別が完了した後は、即ち、極性判別済フラグ13aオンされた後は、1msインターバル割込処理において、1カウントずつ、「0」になるまで減算される。始動補償カウンタ13jの値はデジタルデータに変換された電圧値データとして使用されるので、この始動補償カウンタ13jの値によって、ブラシレスモータ51の始動開始から徐々に逓減する電圧波を擬似的に生成することができる。この始動補償カウンタ13jの値は、後述するサンプル電圧値メモリ13lに記憶されたデータ(電圧値)と比較され、比較の結果、始動補償カウンタ13jの値が大きい場合に限って、ブラシレスモータ51の転流タイミングを決定するための電圧値データとして使用される。
【0058】
サンプル済フラグ13kは、ブラシレスモータ51の駆動時において転流タイミングを決定する比較電圧のサンプルを完了した場合にオンされるフラグであり、サンプル電圧値メモリ13lは、そのサンプルされた電圧値を記憶するためのメモリである。従来技術の欄で説明した通り、ブラシレスモータ51の転流は、電機子電流の第2の電流増加領域92(図13参照)を検出した場合に行われる。本実施例では、かかる第2の電流増加領域92を判別するために、前回の転流周期における略1/3周期のタイミングで電機子電流の値をサンプルし、そのサンプルした電機子電流の値の略1.4倍の電機子電流を検出した場合に、第2の電流増加領域92の現出と判断して、転流を行うように制御している。
【0059】
即ち、サンプル電圧値メモリ13lは、前回の転流周期の略1/3周期のタイミングでサンプルした電機子電流の電圧値を記憶するためのメモリであり、サンプル済フラグ13kは、そのサンプルが完了したことを示すためのフラグである。よって、サンプル電圧値メモリ13lの値は図11に示すタイマ割込処理において更新されると共に、サンプル済フラグ13kは、タイマ割込処理においてサンプル電圧値メモリ13lへのデータ書き込み後にオンされ、図12に示すモータ駆動処理においてブラシレスモータ51の転流を行った後にオフされる。
【0060】
比較電圧値メモリ13mは、サンプル電圧値メモリ13lと始動補償カウンタ13jとの値の大きい方のデータが書き込まれるメモリであり、図12に示すモータ駆動処理において、ブラシレスモータ51の転流タイミングの検出のために使用される。具体的には、電機子電流の電圧変換された値が、この比較電圧値メモリ13mの1.4倍になった時にブラシレスモータ51の転流が行われる。
【0061】
前回カウント値メモリ13nは、前回の転流時におけるフリーランニングカウンタ16の値を記憶するためのメモリであり、今回カウント値メモリ13oは、今回の転流時におけるフリーランニングカウンタ16の値を記憶するためのメモリである。フリーランニングカウンタ14は、MPU11に内蔵される16ビットのカウンタであり、MPU11の動作クロック信号をn分周した信号に同期して1カウントずつカウントアップされる(nは自然数)。このフリーランニングカウンタ16は「FFFFH」までカウントアップされると、次のカウントアップによって「0000H」に戻される。よって、フリーランニングカウンタ16の値の差によって経過時間を算出することができる。従って、今回カウント値メモリ13oの値と前回カウント値メモリ13nの値との差によって、前回の転流周期を算出することができるのである。
【0062】
この今回カウント値メモリ13oの値と前回カウント値メモリ13nの値との差によって前回の転流周期を算出し、その1/3の時間をタイマ15aへセットして、転流タイミングを決定するための電機子電流のサンプル時期(サンプル電圧値メモリ13lへ書き込まれる電圧値の読み取り時期)を設定している。このように構成することにより、ブラシレスモータ51の回転速度に合わせて、転流タイミングを決定するための電機子電流のサンプル時期を調整することができるのである。
【0063】
1msインターバル割込発生回路14は、図9に示す1msインターバル割込処理を、1ms(ミリ秒)の間隔で定期的に発生させるための回路であり、タイマ割込発生回路15は、タイマ15aに設定された時間の経過後に、図11に示すタイマ割込処理を発生させるための回路である。A/D変換器17は、A/D端子に入力されたアナログ電圧値を8ビットのデジタルデータに変換するためのものである。出力ポートPT0〜PT5は、図7に示す通電相データをインバータ回路3へ出力するためのポートであり、出力ポートPT0はインバータ回路3のu端子に、出力ポートPT1はv端子に、・・・、出力ポートPT5はz端子に、それぞれ接続されている。
【0064】
次に、図8から図12に示すフローチャートを参照して、モータ駆動回路1の動作を説明する。図8は、モータ駆動回路1の電源投入によって実行されるメイン処理のフローチャートである。電源が投入されると、まず、割り込みの発生を禁止し(S1)、初期設定を行う(S2)。RAM13内のすべてのメモリを0クリアした後(S3)、始動補償カウンタ13jへ初期値を書き込む(S4)。更に、通電相データの代わりに38H(00111000B(2進数))を出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力して(S5)、すべての電解効果トランジスタQu〜Qzをオフして、電機子巻線54への通電を停止する。
【0065】
その後は、禁止していた割り込みを許可し(S6)、極性判別済フラグ13aがオンされるまで待機する(S7:No)。回転子磁石52の極性判別は、割り込みの許可後に実行される1msインターバル割込処理(図9)によって行われる。回転子磁石52の極性判別が完了すると、極性判別済フラグ13aがオンされる(S24)。よって、極性判別済フラグ13aがオンされた後は(S7:Yes)、判別された極性に基づいて第1波通電処理を実行し(S8)、その後は、モータ駆動処理を繰り返し実行する(S9)。
【0066】
図9は、1msインターバル割込処理のフローチャートである。この1msインターバル割込処理では、回転子磁石52の磁極位置の判別と、その判別結果に基づく通電開始第1波の設定、及び、始動補償カウンタ13jの値のカウントダウンが行われる。1msインターバル割込処理では、まず、極性判別済フラグ13aがオンされているか否かを調べ(S11)、オンされていなければ(S11:No)、未だ回転子磁石52の磁極位置の判別は完了していないので、その磁極位置の判別のために、A/D端子の入力電圧の値、即ち電流検出回路4の出力電圧の値を読み取る(S12)。
【0067】
次に、初回割込済フラグ13bがオンされているか否かを調べ(S13)、オンされていなければ(S13:No)、実行中の処理は、最初に発生した1msインターバル割込処理である。よって、かかる場合には、読み取った電圧値をいずれの電圧値メモリ13c〜13hへも保存することなく破棄すると共に、初回割込済フラグ13bをオンして(S14)、初回の1msインターバル割込処理が実行されたことを記憶する。前記した通り、最初の1msインターバル割込処理が発生するまでの時間間隔は不定であるので、初回の1msインターバル割込処理において読み取った電圧値データの記憶をキャンセルしているのである。
【0068】
一方、初回割込済フラグ13bがオンされていれば(S13:Yes)、S12の処理で読み取りA/D変換器17で8ビットのデジタルデータに変換した電圧値データを通電カウンタ13iの値番目の電圧値メモリ13c〜13hへ書き込む(S15)。即ち、S12の処理で読み取りデジタルデータに変換した電圧値データを、通電カウンタ13iの値が「0」であれば第0電圧値メモリ13cに、「1」であれば第1電圧値メモリ13dに、・・・、「5」であれば第5電圧値メモリ13hに、それぞれ書き込むのである。
【0069】
電圧値メモリ13c〜13hへの書き込み後は、通電カウンタ13iの値を「0〜5」の範囲で1カウント加算方向に更新し(S16)、更新後の通電カウンタ13iの値番目の通電相テーブル12bの値(通電相データ)をインバータ回路3へ出力して(S17)、電機子巻線54への通電を行う。
【0070】
この通電は、次の1msインターバル割込処理が発生するまでの1msの間継続される。そして、1msの経過後に発生するこの1msインターバル割込処理のS12の処理によって、かかる通電による電機子電流の電圧変換された値が読み取られ、通電カウンタ13iの値番目の電圧値メモリ13c〜13hへ書き込まれるのである(S15)。即ち、通電カウンタ13iの値番目の通電相テーブル12bの値を出力したときの1ms経過後の電機子電流の値が、次の1msインターバル割込処理によって読み取られ、その通電カウンタ13iの値番目の電圧値メモリ13c〜13hに書き込まれるのである。
【0071】
S18の処理において、第0〜第5電圧値メモリ13c〜13hのうち、「0」を記憶するものがあるか否かを調べる(S18)。1つでも「0」を記憶するものがある場合には(S18:Yes)、未だ回転子磁石52の磁極位置の判別をすることができないので、以降のS19〜S24の各処理をスキップして、今回の1msインターバル割込処理を終了する。
【0072】
一方、第0〜第5電圧値メモリ13c〜13hのうち、「0」を記憶するものがなければ(S18:No)、既に、6つあるすべての通電パターンについて電機子巻線54への通電が行われ、その各通電時における1ms経過後の電機子電流の電圧変換された値が第0〜第5電圧値メモリ13c〜13hにそれぞれ記憶されている。よって、かかる場合には、第0〜第5電圧値メモリ13c〜13hのうち最も高い電圧値(最も大きな値)を記憶する電圧値メモリ13c〜13hの番号を求めて(S19)、回転子磁石52の磁極位置を判別する。
【0073】
即ち、第0電圧値メモリ13cに最も大きな値が記憶される場合には、6つの通電パターン(通電相データ)のうち、「1AH」の通電相データをインバータ回路3へ出力してU相からV相の電機子巻線54へ電機子電流を流した時に、電機子電流が最大となったということである。よって、前記した通り、かかる場合には、図4(e)に示す位置に回転子磁石52が停止していると判別することができる。また、第1電圧値メモリ13dに最も大きな値が記憶される場合には、「19H」の通電相データを出力してU相からW相の電機子巻線54へ電機子電流を流した時に、電機子電流が最大となったということであるので、図4(f)に示す位置に回転子磁石52が停止していると判別することができる。更に、第5電圧値メモリ13hに最も大きな値が記憶される場合には、「32H」の通電相データを出力してW相からV相の電機子巻線54へ電機子電流を流した時に、電機子電流が最大となったということであるので、図4(d)に示す位置に回転子磁石52が停止していると判別することができる。
【0074】
ここで、図4および図5を参照すれば分かるように、回転子磁石52を反時計回りに回転させるための通電開始第1波は、S19の処理で求めた番号から「2」を減算した値番目の通電相テーブル12bの値である。例えば、第2電圧値メモリ13eの値が最大である場合、回転子磁石52は図4(a)に示す位置に停止している。よって、回転子磁石52を反時計回りに回転させるための通電開始第1波は、図5(a)に示すように、通電相テーブル12bの0(=2−2)番目のデータ、即ち、「1AH」の通電相データである。また、第3電圧値メモリ13fの値が最大である場合、回転子磁石52は図4(b)に示す位置に停止している。よって、回転子磁石52を反時計回りに回転させるための通電開始第1波は、図5(b)に示すように、通電相テーブル12bの1(=3−2)番目のデータ、即ち、「19H」の通電相データである。
【0075】
一方、S19の処理で求めた番号から「2」を減算した結果がマイナスとなる場合には、回転子磁石52を反時計回りに回転させるための通電開始第1波は、その減算結果に「6」を加算した値番目の通電相テーブル12bの値である。例えば、第0電圧値メモリ13cの値が最大である場合、回転子磁石52は図4(e)に示す位置に停止している。よって、回転子磁石52を反時計回りに回転させるための通電開始第1波は、図5(e)に示すように、通電相テーブル12bの4(=0−2+6)番目のデータ、即ち、「34H」の通電相データである。また、第1電圧値メモリ13dの値が最大である場合、回転子磁石52は図4(f)に示す位置に停止している。よって、回転子磁石52を反時計回りに回転させるための通電開始第1波は、図5(f)に示すように、通電相テーブル12bの5(=1−2+6)番目のデータ、即ち、「32H」の通電相データである。
【0076】
従って、S19の処理で求めた番号から「2」を減算し(S20)、その減算結果がマイナスでなければ(S21:No)、減算結果を通電カウンタ13iへ書き込んで(S23)、通電開始第1波の通電相データを設定する。一方、S19の処理で求めた番号から「2」を減算した結果がマイナスであれば(S21:Yes)、その減算結果に「6」を加算し(S22)、加算後の値を通電カウンタ13iへ書き込んで(S23)、通電開始第1波の通電相データを設定する。これにより、回転子磁石52を反時計回りに回転させるための通電開始第1波を設定することができる。通電開始第1波の設定後は、極性判別済フラグ13aをオンして(S24)、今回の1msインターバル割込処理を終了する。
【0077】
S11の処理において、極性判別済フラグ13aがオンされていれば(S11:Yes)、既に、回転子磁石52の磁極位置が判別され、通電開始第1波の設定が完了しているので、かかる場合には、処理をS25へ移行して始動補償カウンタ13jの値を減算する。まず、始動補償カウンタ13jの値が「0」であるか否かを調べ(S25)、「0」でなければ(S25:No)、始動補償カウンタ13jの値を「1」減算して(S26)、今回の1msインターバル割込処理を終了する。一方、始動補償カウンタ13jの値が「0」であれば(S25:Yes)、この1msインターバル割込処理を停止して(S27)、この処理を終了する。よって、S27の処理の実行後は、1msインターバル割込処理は発生しない。従って、S27の処理の実行後は、MPU11の制御をモータ駆動処理(図12)およびタイマ割込処理(図11)に集中することができるので、2以上の割り込みの同時発生を回避して、ブラシレスモータ51の駆動制御を一層正確に行うことができる。
【0078】
図10は、第1波通電処理(S8)のフローチャートである。第1波通電処理は、ブラシレスモータ51の駆動を開始するための通電開始第1波を励磁する処理であり、図8のメイン処理において、極性判別済フラグ13aのオンが確認された後に実行される(S7:Yes)。
【0079】
第1波通電処理では、まず、通電カウンタ13iの値番目の通電相テーブル12bの値、即ち通電相データをインバータ回路3へ出力し、ブラシレスモータ51へ第1波の通電を行う(S31)。その後は、次回の通電のために通電カウンタ13iの値を「0〜5」の範囲で1カウント加算方向に更新し(S32)、サンプル済フラグ13kをオフして(S33)、フリーランニングカウンタ16の値を読み取り前回カウント値メモリ13hへ書き込む(S34)。更に、最初の電機子電流のサンプル時期を設定するために、タイマ15aへ初期値をセットして(S35)、タイマ15aをスタートし(S36)、この処理を終了する。
【0080】
図11は、タイマ割込処理のフローチャートである。タイマ割込処理は、転流の基準となる電圧変換された電機子電流の値をサンプルするための処理であり、タイマ割込発生回路15のタイマ15aのスタート後、そのタイマ15aにセットされた時間の経過時に実行される。このタイマ割込処理では、まず、A/D端子へ入力される電流検出回路4の出力電圧を読み取り(S41)、A/D変換器17によってデジタルデータに変換した後に、その値をサンプル電圧値メモリ13lへ書き込む(S42)。更に、電機子電流のサンプルが完了したことを示すためにサンプル済フラグ13kをオンして(S43)、タイマ15aを停止し(S44)、この処理を終了する。
【0081】
図12は、モータ駆動処理(S9)のフローチャートである。モータ駆動処理は、ブラシレスモータ51の駆動制御を行うための処理であり、図8のメイン処理において、第1波通電処理(S8)の実行後、繰り返し実行される。
【0082】
モータ駆動処理では、まず、サンプル済フラグ13kがオンされているか否かを調べ(S51)、オンされていなければ(S51:No)、未だ転流の基準となる電圧変換された電機子電流の値のサンプルが完了していないので、S52以降の処理を実行することなく、この処理を終了する。
【0083】
一方、サンプル済フラグ13kがオンされていれば(S51:Yes)、既に転流の基準となる電圧変換された電機子電流の値はサンプルされ、サンプル電圧値メモリ13lに記憶されているので、かかる場合には、そのサンプル電圧値メモリ13lの値と始動補償カウンタ13jの値との大小を比較して(S52)、大きい方の値を比較電圧値メモリ13mへ書き込む(S53,S54)。即ち、サンプル電圧値メモリ13lの値の方が始動補償カウンタ13jの値より小さければ(S52:No)、始動補償カウンタ13jの値を比較電圧値メモリ13mへ書き込み(S53)、逆に、サンプル電圧値メモリ13lの値の方が始動補償カウンタ13jの値より大きければ(S52:Yes)、サンプル電圧値メモリ13lの値を比較電圧値メモリ13mへ書き込む(S54)。
【0084】
前記した通り始動補償カウンタ13jは、ブラシレスモータ51の始動時に電機子巻線54へ十分な電機子電流を流すために使用されるカウンタであり、この始動補償カウンタ13jによって、ブラシレスモータ51の始動開始から徐々に逓減する電圧波を擬似的に生成している。具体的には、始動補償カウンタ13jには電源投入時に初期値が設定された後(S4)、回転子磁石52の磁極位置の判別完了後、1msインターバル割込処理において1カウントずつ「0」になるまで減算される。よって、ブラシレスモータ51の始動時には、始動補償カウンタ13jの値はサンプル電圧値メモリ13lの値より大きいので、始動補償カウンタ13jの値が比較電圧値メモリ13mへ書き込まれる(S53)。逆に、ブラシレスモータ51の十分な始動後には、始動補償カウンタ13jの値は「0」か、或いは、十分に小さな値になっているので、サンプル電圧値メモリ13lの値が比較電圧値メモリ13mへ書き込まれる(S54)。
【0085】
比較電圧値メモリ13mへの書き込み後(S53,S54)、A/D端子へ入力される電流検出回路4の出力電圧を読み取り(S55)、A/D変換器17によってデジタルデータに変換された値が比較電圧値メモリ13mの値の1.4倍以上あるか否かを判断する(S56)。読み取った電圧値が比較電圧値メモリ13mの値の1.4倍以上なければ(S56:No)、未だ第2の電流増加領域92(図13参照)は到来していないので、転流タイミングではない。よって、かかる場合には、S57以降の処理をスキップして、この処理を終了する。
【0086】
一方、読み取った電圧値が比較電圧値メモリ13mの値の1.4倍以上あれば(S56:Yes)、第2の電流増加領域92(図13参照)、即ち、転流タイミングの到来である。よって、かかる場合には、通電カウンタ13iの値番目の通電相テーブル12bの値をインバータ回路3へ出力して転流を行う(S57)。その後は、次回の通電のために通電カウンタ13iの値を「0〜5」の範囲で1カウント加算方向に更新し(S58)、サンプル済フラグ13kをオフする(S59)。
【0087】
更に、フリーランニングカウンタ16の値を読み取って今回カウント値メモリ13oへ書き込み(S60)、前回カウント値メモリ13nの値と今回カウント値メモリ13oの値とから前回の転流周期を算出する(S61)。そして、算出した転流周期の1/3の時間をタイマ15aへセットして(S62)、タイマ15aをスタートし(S63)、今回カウント値メモリ13oの値を前回カウント値メモリ13nへ書き込んで(S64)、この処理を終了する。
【0088】
このモータ駆動処理(S9)は、第1波通電処理(S8)の実行後、タイマ割込処理(図11)と並行しつつ繰り返し実行され、ブラシレスモータ51が反時計回りに回転する。
【0089】
なお、各請求項に記載の検査電圧通電回路としては、図9に示す1msインターバル割込処理のS17の処理が、極性判別回路としてはS19の処理が、それぞれ該当する。
【0090】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0091】
例えば、本実施例では、極間ヨーク53dをすべての歯部53c間に形成した。即ち、U相とV相の電機子巻線54の間と、U相とW相の電機子巻線54の間と、V相とW相の各電機子巻線54の間とに、それぞれ2つずつ計6つの極間ヨーク53dを形成した。しかし、これに代えて、U相とV相の電機子巻線54の間と、U相とW相の電機子巻線54の間と、V相とW相の各電機子巻線54の間とに、それぞれ1つずつ計3つの極間ヨーク53dを形成するだけにしても良い。また、本実施例のモータ駆動回路1は、常に、ブラシレスモータ51を反時計回りに回転するように構成したが、回転方向を指定するためのスイッチを設けて、そのスイッチによって指定される方向に、ブラシレスモータ51を回転させるように構成しても良い。
【0092】
【発明の効果】
本発明のブラシレスモータ、及び、そのブラシレスモータの磁極位置判別回路によれば、固定子鉄心を極間ヨークで部分的に磁気飽和させて回転子磁石の磁極位置を判別するので、僅かな電機子電流を流すだけで回転子磁石の磁極位置を判別することができる。よって、騒音や振動を発することなく、かつ、回転子磁石を回転させることなく、その回転子磁石の磁極位置を判別することができるという効果がある。また、駆動電圧の何倍もの大きさの電圧を出力可能な電源回路や電機子巻線の絶縁耐圧が強化されたブラシレスモータを用いる必要がないので、コストを大幅に低減することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例であるブラシレスモータの断面図である。
【図2】 ブラシレスモータの断面を部分的に拡大して示した図であり、(a)は、電機子巻線への通電を行っていない状態を図示しており、(b)は、電機子巻線への通電を加極性に行っている状態を図示している。
【図3】 ブラシレスモータの断面を部分的に拡大して示した図であり、(a)は、電機子巻線への通電を行っていない状態を図示しており、(b)は、電機子巻線への通電を減極性に行っている状態を図示している。
【図4】 回転子磁石の停止位置と、その停止位置に応じて電機子電流が最大となる通電パターンとの関係を示した図であり、回転子磁石の6カ所の停止位置に対応して、(a)〜(f)の6図がそれぞれ図示されている。
【図5】 回転子磁石の停止位置と、その回転子磁石を反時計回りに回転させる場合の通電開始第1波の通電パターンとの関係を示した図であり、回転子磁石の6カ所の停止位置に対応して、(a)〜(f)の6図がそれぞれ図示されている。
【図6】 ブラシレスモータ駆動回路の回路図である。
【図7】 通電相テーブルの構成を模式的に示した図である。
【図8】 電源投入により実行されるメイン処理のフローチャートである。
【図9】 1msインターバル割込処理のフローチャートである。
【図10】 第1波通電処理のフローチャートである。
【図11】 タイマ割込処理のフローチャートである。
【図12】 モータ駆動処理のフローチャートである。
【図13】 (a)は、ブラシレスモータの電機子巻線の1相に流れる電流波形を示した図であり、(b)は、(a)の電流波形の1ブロックを拡大して示した図である。
【符号の説明】
1 モータ駆動回路(磁極位置判別回路)
3 インバータ回路
4 電流検出回路
11 MPU
12 ROM
12b 通電相テーブル
13 RAM
13i 通電カウンタ
51 ブラシレスモータ
52 回転子磁石
53 固定子鉄心
53b 主脚部
53c 歯部
53d 極間ヨーク
54 電機子巻線
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブラシレスモータ、及び、そのブラシレスモータの磁極位置判別回路に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ブラシレスモータの駆動には、回転子磁石の磁極位置を検出して、転流タイミングを決定するためのホール素子が用いられている。しかし、ホール素子はノイズや熱に弱いというだけではなく、ホール素子を使用した場合には、ブラシレスモータの小型化や低コスト化が困難になったり、ブラシレスモータから延出されるリード線の数が多くなって配線が煩雑になってしまう等という種々の欠点を有している。
【0003】
そこで、本願出願人は、特開平9−37586号(特願平7−207665号)に記載されるように、ホール素子を使用しないセンサレス駆動が可能なブラシレスモータ駆動回路を発明した。かかるブラシレスモータ駆動回路は、図13(a)に示すようなモータ各相の電機子電流波形を構成する4つの波形ブロック81〜84の各ブロックに共通する波形的特徴に着目して、各相の通電領域の各ブロックにあらわれる2つの顕著な電流増加領域91,92(図13(b)参照)のうち、第2の電流増加領域92を検出して、これを転流時期の到来(転流タイミング)として、転流制御を行うものである。かかるブラシレスモータ駆動回路によれば、ホール素子などの回転子磁石の位置検出素子を用いることなく、センサレスでブラシレスモータを駆動することができる。
【0004】
しかしながら、かかるブラシレスモータ駆動回路は、停止時における回転子磁石の磁極位置を検出することはできないので、ブラシレスモータを始動すると、僅かではあるものの初期逆転を起こすことがある。このため、僅かではあっても逆回転を好まない装置のモータ、例えば介護用椅子の座面を上下させるモータ等としては使用することができない。また、初期逆転の有無により移動量(回転角度)に誤差が生じるので、精度を要するモータ、例えばサーボモータとしても使用することはできない。特に、駆動と停止とを繰り返す装置においては、移動量の誤差が累積するので、その位置を全く把握することができなくなってしまう。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ブラシレスモータの始動時における初期逆転を防止するためには、停止時における回転子磁石の磁極位置を検出し、その磁極位置に応じて、通電開始第1波の通電パターンを決定する必要がある。このために従来では、ホール素子等の位置検出素子を用いずに回転子磁石の磁極位置を検出するため、電機子巻線へ定格電圧の何倍もの大きさの電圧を印加して固定子鉄心の主脚部を磁気飽和させ、その際の電機子電流の値に基づいて、停止時における回転子磁石の磁極位置を判別している。例えば、停止時における回転子磁石の磁極位置を判別するために、定格電圧が200ボルトの電機子巻線へ、その4倍の800ボルトの電圧を印加している。
【0006】
しかしながら、かかる判別を行うためには、ブラシレスモータの駆動電圧の何倍もの大きさの電圧を出力する電源回路が必要になるばかりか、電機子巻線の絶縁耐圧を強化する必要が有るので、電源回路およびブラシレスモータのコストが大幅にアップしてしまうという問題点がある。また、かかる大きな電圧を電機子巻線へ印加すると、ブラシレスモータを振動させたり、ブラシレスモータから騒音を発生させたり、更には、停止状態にあるブラシレスモータを磁極位置の判別のために回転させてしまうことがあるという問題点がある。
【0007】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、電源回路およびブラシレスモータの大幅なコストアップを防ぐと共に、騒音や振動を発したり回転子磁石を回転させることなく、その回転子磁石の磁極位置を判別することができるブラシレスモータ及びそのブラシレスモータの磁極位置判別回路を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために請求項1記載のブラシレスモータは、固定子鉄心と、その固定子鉄心に巻回される複数相の電機子巻線へ通電することによって回転される回転子磁石とを備え、更に、前記固定子鉄心は、前記電機子巻線が巻回される複数の主脚部と、その複数の主脚部にそれぞれ連設される複数の歯部と、その複数の歯部のうち隣接する歯部同士を連結する極間ヨークとを備えており、その極間ヨークは、前記電機子巻線への非通電時には非磁気飽和の状態にある一方、前記電機子巻線への通電時には僅かな磁束の増加で磁気飽和するように構成されている。
【0009】
ブラシレスモータの電機子巻線に通電を行うと、固定子鉄心に磁束が鎖交する。この磁束は、電機子巻線に流れる電機子電流の増加と共に増加する。固定子鉄心には、回転子磁石による磁界によっても磁束が鎖交しているが、その回転子磁石により鎖交する磁束と、電機子巻線を通電することにより鎖交する磁束とが同方向(加算方向)である場合には、両磁束が逆方向(減算方向)であったり、ズレている場合に比べて、固定子鉄心は速く磁気飽和する。固定子鉄心が磁気飽和すると、電機子巻線の自己インダクタンス値が急激に減少し、電機子電流が急増する。即ち、回転子磁石により鎖交する磁束と、電機子巻線を通電することにより鎖交する磁束とが同方向(加算方向)である場合には、電機子電流は速い時期に急増する。よって、この電機子電流の急増タイミングによって、停止時における回転子磁石の極性を判別することができる。
【0010】
請求項1記載のブラシレスモータによれば、固定子鉄心の隣接する歯部同士を連結する極間ヨークは、電機子巻線への非通電時には非磁気飽和の状態にある一方、電機子巻線への通電時には僅かな磁束の増加で磁気飽和するように構成されている。よって、回転子磁石によって鎖交する磁束と同方向の磁束が鎖交するように電機子巻線へ通電を行うと、回転子磁石を回転させることのない僅かな電機子電流で、固定子鉄心を極間ヨークの部分で磁気飽和させることができる。即ち、僅かな電機子電流を流すだけで、固定子鉄心を部分的に磁気飽和させることができるのである。固定子鉄心が部分的であっても磁気飽和すると、電機子巻線の自己インダクタンス値は急激に減少し、電機子電流が急増する。従って、電機子巻線へ回転子磁石を回転させることのない僅かな電機子電流を流して、その場合の電機子電流の急増タイミングを比較することによって、モータの停止時における回転子磁石の磁極位置を判別することができる。
【0011】
請求項2記載のブラシレスモータは、請求項1記載のブラスレスモータにおいて、前記極間ヨークは前記主脚部と同一材料で形成されると共に、前記極間ヨークの1つの断面積は、前記主脚部の1つの断面積の略1/20から略1/30に形成されている。
【0012】
請求項3記載のブラシレスモータは、請求項1記載のブラスレスモータにおいて、前記極間ヨークは角形の磁化特性を有するフェライトにより構成される一方、前記主脚部は電磁鋼板により構成されており、前記フェライトにより構成される極間ヨークの1つの断面積は、前記電磁鋼板により構成される主脚部の1つの断面積の略1/5から略1/8に形成されている。角形の磁化特性を有するフェライトは、電磁鋼板より飽和磁束密度が低く透磁率変化が急激である。よって、そのフェライトで極間ヨークを構成することにより、極間ヨークの断面積を主脚部の断面積の略1/5から略1/8に形成しても、回転子磁石を回転させることなく、極間ヨークの部分で固定子鉄心を急激に磁気飽和させることができる。
【0013】
請求項4記載のブラシレスモータは、請求項1から3のいずれかに記載のブラスレスモータにおいて、前記極間ヨークは、隣接する前記歯部間の前記回転子磁石の反対側に配設されている。
【0014】
極間ヨークは、回転子磁石に対して磁束のバイパス磁路となる。よって、極間ヨークを設けると、その極間ヨークにバイパスされる磁束の分だけ固定子鉄心の主脚部へ鎖交する磁束が減少し、ブラシレスモータの駆動時における発生トルクが低下する。しかし、請求項4記載のブラシレスモータは、極間ヨークと回転子磁石との間隔を、歯部と回転子磁石との間隔に対して、少なくとも歯部の厚さ分、大きく形成している。即ち、極間ヨークを回転子磁石に対して、歯部の厚さ分、その歯部より遠ざけて配設している。よって、回転子磁石の磁束によって極間ヨークが磁気飽和することがないので、回転子磁石の磁極位置の判別を容易に行うことができる。しかも、僅かな電機子電流で極間ヨークが磁気飽和するので、発生トルクの低下率を小さく抑えることができるのである。
【0015】
請求項5記載のブラシレスモータは、請求項1から4のいずれかに記載のブラスレスモータにおいて、前記複数の歯部およびその複数の歯部のうち隣接する歯部同士を連結する複数の極間ヨークにより、前記回転子磁石を内包する閉スロット構造に構成されている。
【0016】
請求項6記載のブラシレスモータの磁極位置判別回路は、請求項1から5のいずれかに記載のブラスレスモータについて、前記回転子磁石の停止時における磁極位置を判別するためのものであり、前記電機子巻線へ検査電圧を通電する検査電圧通電回路と、その検査電圧通電回路による検査電圧の通電により前記電機子巻線へ流れる電流を検出する電流検出回路と、その電流検出回路により検出された電機子電流の増加速度に基づいて、前記回転子磁石の停止時における磁極位置を判別する極性判別回路とを備えている。
【0017】
この請求項6記載のブラシレスモータの磁極位置判別回路によれば、検査電圧通電回路により電機子巻線へ検査電圧が通電されると、電機子巻線へ電機子電流が流れる。電機子巻線へ流れる電機子電流は電流検出回路によって検出され、その検出された電機子電流の増加速度に基づいて、極性判別回路により回転子磁石の停止時における磁極位置が判別される。
【0018】
即ち、請求項1から5に記載のブラスレスモータにおける固定子鉄心の隣接する歯部同士は、電機子巻線への非通電時には非磁気飽和の状態にあり、一方、電機子巻線への通電時には僅かな磁束の増加で磁気飽和するように構成された極間ヨークにより連結されている。よって、電機子巻線への検査電圧の通電により僅かな電機子電流が流れると、その電機子電流により鎖交する磁束の方向に応じて、極間ヨークの部分で磁気飽和が生じる。即ち、検査電圧の通電により、その検査電圧の通電パターンに応じて、固定子鉄心が部分的に磁気飽和する。その結果、電機子巻線の自己インダクタンス値が急減し、電機子電流が急増する。かかる電機子電流の急増は電流検出回路によって検出され、その急増タイミング、即ち、電流増加速度によって、極性判別回路によりブラシレスモータの停止時における回転子磁石の磁極位置が判別される。なお、電機子電流の増加速度(急増タイミング,磁気飽和のタイミング)は、例えば、検査電圧の通電開始後、所定時間経過後の電機子電流の値によって検出することができる。
【0019】
請求項7記載のブラシレスモータの磁極位置判別回路は、請求項6記載のブラシレスモータの磁極位置判別回路において、前記検査電圧通電回路は、前記ブラシレスモータの駆動時における周波数の略15倍以上の周波数の電圧を検査電圧として通電するものである。よって、ブラシレスモータはコギングトルクにより停止状態を保つので、回転子磁石を回転させることなく、検査電圧を通電することができる。また、騒音や振動を発生させることなく、検査電圧を通電することができる。
【0020】
請求項8記載のブラシレスモータの磁極位置判別回路は、請求項6又は7に記載のブラシレスモータの磁極位置判別回路において、前記検査電圧通電回路は、前記電機子巻線のすべての通電パターンについて少なくとも1回以上の検査電圧を出力すると共に、前記電流検出回路は、前記電機子巻線へ流れる電流を電圧に変換して検出するものであり、前記極性判別回路は、前記検査電圧通電回路による検査電圧の通電により、前記電流検出回路によって最も大きい電圧値が検出された通電パターンに基づいて、前記回転子磁石の停止時における磁極位置を判別するものである。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。なお、本実施例におけるブラシレスモータの駆動原理については、既に、特開平9−37586号(特願平7−207665号)に記載されているので、その説明は省略する。
【0022】
図1は、本実施例のブラシレスモータ51の断面図である。このブラシレスモータ51は、永久磁石の界磁を回転子とした4極の回転子磁石52と、固定子鉄心53および3相の電機子巻線54を固定子とした、表面磁石形のブラシレスモータである。
【0023】
回転子磁石52は、N極52aおよびS極52bがそれぞれ2極ずつ形成された4極で構成されており、回転軸52cを回転中心にして、ブラシレスモータ51のフレーム(図示せず)に回転可能に軸支されている。この回転子磁石52を内包する固定子鉄心53は、その外周に円筒形のヨーク53aを有しており、ヨーク53aの内周、即ち回転子磁石52側には、6本の主脚部53bがそれぞれ等間隔に回転軸52cへ向けて突設されている。この6本の主脚部53bには、U相、V相およびW相の3相の電機子巻線54u,54v,54wが2組ずに分かれてそれぞれ巻回されている。具体的に図1では、上下にU相の電機子巻線54uが巻回され、そのU相の電機子巻線54uに対して、左回りに、V相の電機子巻線54v、W相の電機子巻線54wがそれぞれ順に巻回されている。
【0024】
各主脚部53bの回転子磁石52側には、先端が回転子磁石52の外形に沿って円弧状に形成された歯部53cがそれぞれ連設されている。この歯部53cは、主脚部53bと同数の6つ形成されており、その6つの歯部53cは、それぞれ隣接する2つの歯部53c同士が極間ヨーク53dによって磁気的に連結されている。このためブラシレスモータ51は、歯部53cおよび極間ヨーク53dによって、固定子鉄心53内に回転子磁石52を内包した閉スロット構造に形成されている。
【0025】
極間ヨーク53dによる歯部53c同士の連結は、歯部53cの回転子磁石52の反対側で行われている。後述するように、極間ヨーク53dは回転子磁石52の磁束のバイパス磁路となるので、極間ヨーク53dにバイパスされる磁束の分だけ主脚部53bへ鎖交する磁束が減少して、ブラシレスモータ51の駆動時における発生トルクが低下する。このため、極間ヨーク53dによる歯部53c同士の連結を回転子磁石52の反対側で行って、極間ヨーク53dを歯部53cの厚さ分、回転子磁石52から遠ざけて配設し、ブラシレスモータ51の駆動時における発生トルクの低下率を小さくしているのである。また、極間ヨーク53dによる歯部53c同士の連結を回転子磁石52の反対側で行うことにより、回転子磁石の磁束によって極間ヨークが磁気飽和することがないので、回転子磁石の磁極位置の判別を容易に行うことができるのである。
【0026】
固定子鉄心53のヨーク53a、主脚部53bおよび歯部53cは、それぞれ電磁鋼板で形成されているのに対し、極間ヨーク53dは、角形の磁化特性を有するフェライトで形成されている。このため、極間ヨーク53dは、1つの断面積が1つの主脚部53bの断面積の略1/5から略1/8に形成されており、回転子磁石52の停止時において、電機子巻線54への通電が行われていない場合に非磁気飽和の状態にあり、一方、電機子巻線54への通電が行われた場合には、僅かな電機子電流で磁気飽和するように構成されている。
【0027】
極間ヨーク53dで磁気飽和が生じると、即ち、固定子鉄心53が部分的に磁気飽和すると、電機子巻線54のインダクタンス値は急激に減少し、電機子電流が急増する。本実施例では、かかる固定子鉄心53の部分的な磁気飽和を利用して、停止時における回転子磁石52の磁極位置を判別してる。なお、回転子磁石52の磁極位置判別の詳細については図2から図4を参照して後述する。
【0028】
極間ヨーク53dを形成するフェライトは、固定子鉄心53の他の部分53a〜53cを形成する電磁鋼板に比べて、飽和磁束密度が略1/4であり磁気飽和が急激に起こる。具体的には、本実施例で使用されるフェライトの飽和磁束密度は略0.5テスラであるのに対し、電磁鋼板の飽和磁束密度は略2.0テスラとなっている。よって、極間ヨーク53dをフェライトで形成すれば、電磁鋼板で形成する場合に比べて、その断面積を略4倍まで大きくしても、僅かな電機子電流で磁気飽和するように構成できる。
【0029】
一方、極間ヨーク53dをフェライトで形成する場合に、その極間ヨーク53dの断面積を電磁鋼板で形成する場合の略4倍まで大きくしなければ、極間ヨーク53dにおいて一層急激に磁気飽和を起こすことができるので、電機子巻線54のインダクタンス変化を一層大きくすることができる。従って、その分、ブラシレスモータ51の磁極位置の判別を容易に行うことができるのである。
【0030】
なお、極間ヨーク53dをフェライトではなく固定子鉄心53の他の部分53a〜53cと同様に電磁鋼板で形成する場合、例えば極間ヨーク53dを固定子鉄心53の他の部分53a〜53cと一体に形成する場合には、極間ヨーク53dの1つの断面積を、1つの主脚部53bの断面積の略1/20から略1/30に形成すれば良い。これにより、回転子磁石52の停止時において、電機子巻線54への通電が行われていない場合に非磁気飽和の状態にあり、一方、電機子巻線54への通電が行われた場合には僅かな電機子電流で磁気飽和するように、極間ヨーク53dを構成することができる。
【0031】
ここで、図2から図5を参照して、停止時における回転子磁石52の磁極位置の判別方式と、その判別結果に基づく通電開始第1波の決定方式とについて説明する。なお、図2から図5は、ブラシレスモータ51の断面を図示しており、特に、図2及び図3は、ブラシレスモータ51の断面を部分的に拡大して示した図である。図2及び図3については、理解を容易にするために、電機子巻線54の図示を省略している。
【0032】
ブラシレスモータ51の回転子磁石52が、図2(a)に示す位置に停止している場合には、固定子鉄心53には回転子磁石52によって実線の矢印で示す方向に磁束が鎖交している。この状態で図2(b)に示すように、回転子磁石52による磁化力と電機子電流による磁化力とが主脚部53bで対向するように電機子巻線54への通電を行うと、その通電により流れる電機子電流によって、固定子鉄心53には点線の矢印で示す方向に磁束が鎖交する。かかる磁束の方向は極間ヨーク53dの部分において回転子磁石52の磁束と同方向であるので、電機子巻線54への通電によって、極間ヨーク53dの鎖交磁束は増加する(増加方向となる)。よって、電機子巻線54への通電による僅かな磁束の増加によって極間ヨーク53dを磁気飽和させることができる。なお、このように、電機子巻線54への通電により、極間ヨーク53dの磁束が増加方向となる場合を「加極性」と称している。
【0033】
一方、ブラシレスモータ51の回転子磁石52が図3(a)に示す位置に停止している場合に、図3(b)に示すように、回転子磁石52による磁化力と電機子電流による磁化力とが主脚部53bで同一方向となるように電機子巻線54への通電を行うと、その通電により流れる電機子電流によって、固定子鉄心53には点線の矢印で示す方向に磁束が鎖交する。かかる磁束の方向は極間ヨーク53dの部分において回転子磁石52の磁束と逆方向であるので、電機子巻線54への通電によって、極間ヨーク53dの鎖交磁束は減少する(減少方向となる)。よって、電機子巻線54への通電による僅かな磁束の増加では、極間ヨーク53dを磁気飽和させることはできない。なお、このように、電機子巻線54への通電により、極間ヨーク53dの磁束が減少方向となる場合を「減極性」と称している。
【0034】
電機子巻線54への通電が「加極性」に行われる場合には、騒音や振動が発生せず且つ回転子磁石52が回転することのない僅かな電機子電流によって、極間ヨーク53dを磁気飽和させることができる。前記した通り、極間ヨーク53dで磁気飽和が生じると、即ち固定子鉄心53が部分的であっても磁気飽和すると、電機子巻線54のインダクタンス値が急激に減少し、電機子電流が急増する。よって、かかる電機子電流の増加速度に基づいて、停止時における回転子磁石52の磁極位置を判別することができる。
【0035】
図4を参照しつつ、更に具体的に、回転子磁石52の磁極位置の判別方式を説明する。本実施例のブラシレスモータ51は4極の3相モータで構成されているので、回転子磁石52は、図4(a)〜(f)に示す6カ所に停止し得る。前記した通り、図4(a)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、V相の電機子巻線54vが巻回される主脚部53bの歯部53cがS極に、W相の電機子巻線54wが巻回される主脚部53bの歯部53cがN極に、それぞれ励磁されるように電機子巻線54への通電を行うと、「加極性」の傾向が最も強く現れ、極間ヨーク53dで最も速く磁気飽和が生じて、最も速く電機子電流が急増する。即ち、短時間で見た場合には、電機子電流の値が最大となる。
【0036】
同様に、図4(b)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、V相の電機子巻線54vに対する歯部53cがS極に、U相の電機子巻線54uに対する歯部53cがN極に、図4(c)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、W相の電機子巻線54wに対する歯部53cがS極に、U相の電機子巻線54uに対する歯部53cがN極に、図4(d)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、W相の電機子巻線54wに対する歯部53cがS極に、V相の電機子巻線54vに対する歯部53cがN極に、図4(e)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、U相の電機子巻線54uに対する歯部53cがS極に、V相の電機子巻線54vに対する歯部53cがN極に、更に、図4(f)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、U相の電機子巻線54uに対する歯部53cがS極に、W相の電機子巻線54wに対する歯部53cがN極に、それぞれ励磁されるように電機子巻線54への通電を行うと、「加極性」の傾向が最も強く現れ、極間ヨーク53dで最も速く磁気飽和が生じ、最も速く電機子電流が急増する。
【0037】
本実施例のブラシレスモータ51は、V相の電機子巻線54vからW相の電機子巻線54wへ電機子電流が流れるように通電を行うと、V相の電機子巻線54vに対する歯部53cがS極に、W相の電機子巻線54wに対する歯部53cがN極に、それぞれ励磁されるように電機子巻線54が巻回されている。電機子巻線54への通電パターンは全部で6通りあるので、6通りすべての通電パターンによる電機子巻線54への通電を行った結果、各通電後の所定時間の経過後に電機子電流の電圧変換された値(電流検出回路4の出力電圧)を読み取り、その読み取った値が最大である通電パターンによって、停止時における回転子磁石52の磁極位置を判別している。
【0038】
即ち、電機子電流がV相からW相の電機子巻線54へ流れるように通電を行った場合の所定時間経過後に最も大きな電機子電流が検出されれば、回転子磁石52は図4(a)に示す位置に停止している。また、電機子電流がV相からU相の電機子巻線54へ流れるように通電を行った場合の所定時間経過後に最も大きな電機子電流が検出されれば、回転子磁石52は図4(b)に示す位置に停止している。更に、電機子電流がU相からW相の電機子巻線54へ流れるように通電を行った場合の所定時間経過後に最も大きな電機子電流が検出されれば、回転子磁石52は図4(f)に示す位置に停止している。なお、磁極位置の判別のための電機子巻線54への通電は、騒音や振動、および回転子磁石52の回転を防止するために、通常駆動時の略1/100程度の時間である1ms(ミリ秒)の間行われる。
【0039】
図5は、回転子磁石52を反時計回りに回転させる場合の通電開始第1波の励磁状態を示した図である。図5(a)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、U相の電機子巻線54uが巻回される主脚部53bの歯部53cがS極に、V相の電機子巻線54vが巻回される主脚部53bの歯部53cがN極にそれぞれ励磁されるように、電機子巻線54への通電開始第1波を設定する。即ち、本実施例のブラシレスモータ51では、図5(a)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、U相からV相の電機子巻線54へ電機子電流が流れるように通電開始第1波を設定するのである。
【0040】
同様に、図5(b)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、U相の電機子巻線54uに対する歯部53cがS極に、W相の電機子巻線54wに対する歯部53cがN極にそれぞれ励磁されるように、即ちU相からW相の電機子巻線54へ電機子電流が流れるように、通電開始第1波を設定する。更に、図5(f)に示す位置に回転子磁石52が停止している場合には、W相の電機子巻線54wに対する歯部53cがS極に、V相の電機子巻線54vに対する歯部53cがN極にそれぞれ励磁されるように、即ちW相からV相の電機子巻線54へ電機子電流が流れるように、通電開始第1波を設定するのである。
【0041】
図6は、本実施例のブラシレスモータ51をセンサレス駆動するためのモータ駆動回路1の回路図である。このモータ駆動回路1により、ホール素子などの位置検知素子を用いることなく、停止時におけるブラシレスモータ51の回転子磁石52の磁極位置を検出して、通電開始第1波を決定すると共に、ブラシレスモータ51をセンサレスで駆動することができるのである。
【0042】
このモータ駆動回路1は、補助電源回路2と、インバータ回路3と、電流検出回路4と、ROM12およびRAM13を内蔵すると共に複数の入出力ポートなどを有する1チップマイコンであるMPU11を備えている。補助電源回路2は、30ボルトの直流電源50からMPU11を駆動するための安定した5ボルトの電圧を生成し出力する回路である。
【0043】
インバータ回路3は、ブラシレスモータ51の3相(U相、V相、W相)の電機子巻線54u〜54wに、30ボルトの直流電圧を順次通電切替するための回路である。インバータ回路3の直流電源50のプラス側入力端Pには、3つのP−MOS電界効果トランジスタQu,Qv,Qwのソース端子が接続され、直流電源50のグランド側入力端Nには、3つのN−MOS電界効果トランジスタQx,Qy,Qzのソース端子が接続されて、これらにより3相の電機子巻線54u〜54wに対応した3つのアームが形成されている。各電界効果トランジスタQu〜Qzは、ゲート端子が1kΩの抵抗Ru1〜Rz1を介してMPU11の各出力PT0〜PT5とそれぞれ接続されており、MPU11の出力に応じてオン又はオフされるように構成されている。
【0044】
また、各電界効果トランジスタQu〜Qzのゲート・ソース間には、保護及びゲート電圧のフローティング防止用の10kΩの抵抗Ru2〜Rz2がそれぞれ接続されている。更に、各電界効果トランジスタQu〜Qzのソース・ドレイン間には、各電界効果トランジスタQu〜Qzのオンオフ時に、ブラシレスモータ51の電機子巻線54に生じる逆起電力作用に起因する電流を還流させるためのフリーホイールダイオードDu〜Dzが、それぞれ逆並列に接続されている。
【0045】
電流検出回路4は、ブラシレスモータ51の電機子巻線54に流れる電流を電圧に変換して、MPU11のA/D端子へ出力するための回路である。後述するように、A/D端子へ入力されたアナログ電圧値は、MPU11のA/D変換器17によってデジタルデータに変換される。電流検出回路4は、直流電源50のグランド側入力端Nとインバータ回路3との間に挿入された1Ωのシャント抵抗Rsから構成されている。ブラシレスモータ51の3相の電機子電流は、フリーホイールダイオードDu〜Dzへの還流電流を除いて、全てこのシャント抵抗Rsを流れ、このシャント抵抗Rsによって電圧に変換される。なお、シャント抵抗Rsの発熱が問題となる場合には、シャント抵抗Rsの抵抗値を例えば0.1Ω程度に小さくして、その発熱を抑制すれば良い。かかる場合には、シャント抵抗RsとMPU11との間に、シャント抵抗Rsによって変換された電圧値を増幅するための増幅回路を接続することが好ましい。
【0046】
MPU11は、ROM12と、RAM13と、1msインターバル割込発生回路14と、タイマ割込発生回路15と、フリーランニングカウンタ16と、A/D変換器17と、出力ポートPT0〜PT5とを備えている。
【0047】
ROM12は、図8から図12のフローチャートに示す各種の制御プログラム12aや固定値データを記憶する書き替え不能な不揮発性のメモリである。このROM12内には、固定値データの1つとして通電相テーブル12bが記憶されている。通電相テーブル12bは、U相、V相およびW相の3相の電機子巻線54u〜54wへの6種類の通電パターンを記憶するデータテーブルであり、具体的には「1AH(16進数、以下同様),19H,29H,2CH,34H,32H」の6つのデータが記憶されている。
【0048】
図7は、この通電相テーブル12bの構成を模式的に示した図である。図7に示すように、後述する通電カウンタ13iの値に応じて、MPU11の出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力される通電相データが定まる。具体的には、通電カウンタ13iの値番目の通電相テーブル12bのデータが通電相データ(通電パターン)としてインバータ回路3へ出力される。例えば、通電カウンタ13iの値が「0」であれば、0番目の通電相データである「1AH」がMPU11の出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力されて電機子巻線54への通電が行われる。その結果、電機子巻線54のU相54uからV相54vへ電機子電流が流れる。また、通電カウンタ13iの値が「4」であれば、4番目の通電相データである「34H」がMPU11の出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力され、その結果、電機子巻線54のW相54wからU相54uへ電機子電流が流れる。
【0049】
図6に示すRAM13は、書き替え可能な揮発性のメモリであり、極性判別済フラグ13aと、初回割込済フラグ13bと、第0〜第5の6種類の電圧値メモリ13c〜13hと、通電カウンタ13iと、始動補償カウンタ13jと、サンプル済フラグ13kと、サンプル電圧値メモリ13lと、比較電圧値メモリ13mと、前回カウント値メモリ13nと、今回カウント値メモリ13oとを備えている。極性判別済フラグ13aから通電カウンタ13iまでのフラグ、メモリ及びカウンタ13a〜13iは回転子磁石52の磁極位置の判別制御に使用される。一方、通電カウンタ13iから今回カウント値メモリ13oまでのフラグ、メモリ及びカウンタ13i〜13oはブラシレスモータ51の駆動制御に使用される。なお、通電カウンタ13iは双方の制御に使用される。
【0050】
極性判別済フラグ13aは、停止している回転子磁石52の磁極位置の判別が完了した場合にオンされるフラグである。この極性判別済フラグ13aがオンされると、回転子磁石52の磁極位置が判別されたということであるので、ブラシレスモータ51を回転させるための第1波通電処理(S8)およびモータ駆動処理(S9)が順に実行され、ブラシレスモータ51が回転を開始する。
【0051】
初回割込済フラグ13bは、図9に示す1msインターバル割込処理の最初の実行時にオンされるフラグである。電源投入時における回転子磁石52の磁極位置の判別は、図7に示す6つの通電相データ(通電パターン)をそれぞれ1msずつ出力し、その1msの経過時において電圧に変換された電機子電流の値が最大となる通電相データに基づいて行われる(図4参照)。よって、磁極位置の判別を正確に行うためには、6つの通電相データを正確に1msずつ出力する必要がある。
【0052】
しかし、割込を許可してから最初の1msインターバル割込処理が発生するまでの時間は不定であるので、初回(最初)の1msインターバル割込処理において電圧に変換された電機子電流の値を測定することは好ましくない。従って、初回の1msインターバル割込処理では電圧に変換された電機子電流の値の測定をキャンセルするために、初回割込済フラグ13bを設けている。即ち、1msインターバル割込処理において初回割込済フラグ13bの状態を調べ、オフされている場合には、その割込は最初に発生した1msインターバル割込処理である。よって、初回割込済フラグ13bがオフされている場合には、電圧に変換された電機子電流の値の測定をキャンセルするのである。なお、この初回割込済フラグ13bは、初回(最初)の1msインターバル割込処理においてオンされる。
【0053】
第0〜第5電圧値メモリ13c〜13hは、回転子磁石52の磁極位置の判別のために6つの通電相データを出力した場合の電圧変換された電機子電流の値をそれぞれ記憶するための6つのメモリである。図7に示すように、通電カウンタ13iの値が「0」である場合には「1AH」の通電相データが出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力されて、U相の電機子巻線54uからV相の電機子巻線54vへ電機子電流が流れる。かかる電機子電流の1ms経過時における電圧変換された値、即ち電流検出回路4の出力電圧が第0電圧値メモリ13cに記憶される。
【0054】
同様に、通電カウンタ13iの値が「1」である場合には「19H」の通電相データが出力されて、U相からW相の電機子巻線54へ電機子電流が流れ、かかる電機子電流の1ms経過時における電圧変換された値が第1電圧値メモリ13dに記憶される。更に、通電カウンタ13iの値が「5」である場合には「32H」の通電相データが出力されて、W相からV相の電機子巻線54へ電機子電流が流れ、かかる電機子電流の1ms経過時における電圧変換された値が第5電圧値メモリ13hに記憶される。
【0055】
なお、第0〜第5電圧値メモリ13c〜13hのすべてに電圧値が記憶されると、その記憶された6つの電圧値の中から最大の電圧値を記憶する電圧値メモリ13c〜13hが検出される。そして、図4に示すように、その最大の電圧値を記憶する電圧値メモリ13c〜13hに基づいて、回転子磁石52の磁極位置が判別されるのである。例えば、第0電圧値メモリ13cが最大の電圧値を記憶する場合には、U相からV相の電機子巻線54へ電機子電流が流れるように電機子巻線54への通電を行った結果、電機子電流値が最大となったということであるので、回転子磁石52は図4(e)の状態に停止していると判別することができる。同様に、第1電圧値メモリ13dが最大の電圧値を記憶する場合には、回転子磁石52は図4(f)の状態に停止していると、更に、第5電圧値メモリ13hが最大の電圧値を記憶する場合には、回転子磁石52は図4(c)の状態に停止していると、それぞれ判別することができる。
【0056】
通電カウンタ13iは、MPU11の出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力される通電相データを決定するためのカウンタである。本実施例の電機子巻線54は3相で構成されるので、図7に示すように、6種類の通電相データを有している。よって、通電カウンタ13iは「0〜5」の範囲で更新され、前記した通り、通電カウンタ13iの値番目の通電相テーブル12bのデータがMPU11の出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力される。具体的には、通電カウンタ13iの値が「0」であれば「1AH」の通電相データが、「1」であれば「19H」の通電相データが、「2」であれば「29H」の通電相データが、「3」であれば「2CH」の通電相データが、「4」であれば「34H」の通電相データが、「5」であれば「32H」の通電相データが、それぞれMPU11の出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力される。
【0057】
始動補償カウンタ13jは、ブラシレスモータ51の始動時に、電機子巻線54へ十分な電機子電流を流すために使用されるカウンタである。始動補償カウンタ13jには電源投入時に初期値が設定され、回転子磁石52の磁極位置の判別が完了した後は、即ち、極性判別済フラグ13aオンされた後は、1msインターバル割込処理において、1カウントずつ、「0」になるまで減算される。始動補償カウンタ13jの値はデジタルデータに変換された電圧値データとして使用されるので、この始動補償カウンタ13jの値によって、ブラシレスモータ51の始動開始から徐々に逓減する電圧波を擬似的に生成することができる。この始動補償カウンタ13jの値は、後述するサンプル電圧値メモリ13lに記憶されたデータ(電圧値)と比較され、比較の結果、始動補償カウンタ13jの値が大きい場合に限って、ブラシレスモータ51の転流タイミングを決定するための電圧値データとして使用される。
【0058】
サンプル済フラグ13kは、ブラシレスモータ51の駆動時において転流タイミングを決定する比較電圧のサンプルを完了した場合にオンされるフラグであり、サンプル電圧値メモリ13lは、そのサンプルされた電圧値を記憶するためのメモリである。従来技術の欄で説明した通り、ブラシレスモータ51の転流は、電機子電流の第2の電流増加領域92(図13参照)を検出した場合に行われる。本実施例では、かかる第2の電流増加領域92を判別するために、前回の転流周期における略1/3周期のタイミングで電機子電流の値をサンプルし、そのサンプルした電機子電流の値の略1.4倍の電機子電流を検出した場合に、第2の電流増加領域92の現出と判断して、転流を行うように制御している。
【0059】
即ち、サンプル電圧値メモリ13lは、前回の転流周期の略1/3周期のタイミングでサンプルした電機子電流の電圧値を記憶するためのメモリであり、サンプル済フラグ13kは、そのサンプルが完了したことを示すためのフラグである。よって、サンプル電圧値メモリ13lの値は図11に示すタイマ割込処理において更新されると共に、サンプル済フラグ13kは、タイマ割込処理においてサンプル電圧値メモリ13lへのデータ書き込み後にオンされ、図12に示すモータ駆動処理においてブラシレスモータ51の転流を行った後にオフされる。
【0060】
比較電圧値メモリ13mは、サンプル電圧値メモリ13lと始動補償カウンタ13jとの値の大きい方のデータが書き込まれるメモリであり、図12に示すモータ駆動処理において、ブラシレスモータ51の転流タイミングの検出のために使用される。具体的には、電機子電流の電圧変換された値が、この比較電圧値メモリ13mの1.4倍になった時にブラシレスモータ51の転流が行われる。
【0061】
前回カウント値メモリ13nは、前回の転流時におけるフリーランニングカウンタ16の値を記憶するためのメモリであり、今回カウント値メモリ13oは、今回の転流時におけるフリーランニングカウンタ16の値を記憶するためのメモリである。フリーランニングカウンタ14は、MPU11に内蔵される16ビットのカウンタであり、MPU11の動作クロック信号をn分周した信号に同期して1カウントずつカウントアップされる(nは自然数)。このフリーランニングカウンタ16は「FFFFH」までカウントアップされると、次のカウントアップによって「0000H」に戻される。よって、フリーランニングカウンタ16の値の差によって経過時間を算出することができる。従って、今回カウント値メモリ13oの値と前回カウント値メモリ13nの値との差によって、前回の転流周期を算出することができるのである。
【0062】
この今回カウント値メモリ13oの値と前回カウント値メモリ13nの値との差によって前回の転流周期を算出し、その1/3の時間をタイマ15aへセットして、転流タイミングを決定するための電機子電流のサンプル時期(サンプル電圧値メモリ13lへ書き込まれる電圧値の読み取り時期)を設定している。このように構成することにより、ブラシレスモータ51の回転速度に合わせて、転流タイミングを決定するための電機子電流のサンプル時期を調整することができるのである。
【0063】
1msインターバル割込発生回路14は、図9に示す1msインターバル割込処理を、1ms(ミリ秒)の間隔で定期的に発生させるための回路であり、タイマ割込発生回路15は、タイマ15aに設定された時間の経過後に、図11に示すタイマ割込処理を発生させるための回路である。A/D変換器17は、A/D端子に入力されたアナログ電圧値を8ビットのデジタルデータに変換するためのものである。出力ポートPT0〜PT5は、図7に示す通電相データをインバータ回路3へ出力するためのポートであり、出力ポートPT0はインバータ回路3のu端子に、出力ポートPT1はv端子に、・・・、出力ポートPT5はz端子に、それぞれ接続されている。
【0064】
次に、図8から図12に示すフローチャートを参照して、モータ駆動回路1の動作を説明する。図8は、モータ駆動回路1の電源投入によって実行されるメイン処理のフローチャートである。電源が投入されると、まず、割り込みの発生を禁止し(S1)、初期設定を行う(S2)。RAM13内のすべてのメモリを0クリアした後(S3)、始動補償カウンタ13jへ初期値を書き込む(S4)。更に、通電相データの代わりに38H(00111000B(2進数))を出力ポートPT0〜PT5からインバータ回路3へ出力して(S5)、すべての電解効果トランジスタQu〜Qzをオフして、電機子巻線54への通電を停止する。
【0065】
その後は、禁止していた割り込みを許可し(S6)、極性判別済フラグ13aがオンされるまで待機する(S7:No)。回転子磁石52の極性判別は、割り込みの許可後に実行される1msインターバル割込処理(図9)によって行われる。回転子磁石52の極性判別が完了すると、極性判別済フラグ13aがオンされる(S24)。よって、極性判別済フラグ13aがオンされた後は(S7:Yes)、判別された極性に基づいて第1波通電処理を実行し(S8)、その後は、モータ駆動処理を繰り返し実行する(S9)。
【0066】
図9は、1msインターバル割込処理のフローチャートである。この1msインターバル割込処理では、回転子磁石52の磁極位置の判別と、その判別結果に基づく通電開始第1波の設定、及び、始動補償カウンタ13jの値のカウントダウンが行われる。1msインターバル割込処理では、まず、極性判別済フラグ13aがオンされているか否かを調べ(S11)、オンされていなければ(S11:No)、未だ回転子磁石52の磁極位置の判別は完了していないので、その磁極位置の判別のために、A/D端子の入力電圧の値、即ち電流検出回路4の出力電圧の値を読み取る(S12)。
【0067】
次に、初回割込済フラグ13bがオンされているか否かを調べ(S13)、オンされていなければ(S13:No)、実行中の処理は、最初に発生した1msインターバル割込処理である。よって、かかる場合には、読み取った電圧値をいずれの電圧値メモリ13c〜13hへも保存することなく破棄すると共に、初回割込済フラグ13bをオンして(S14)、初回の1msインターバル割込処理が実行されたことを記憶する。前記した通り、最初の1msインターバル割込処理が発生するまでの時間間隔は不定であるので、初回の1msインターバル割込処理において読み取った電圧値データの記憶をキャンセルしているのである。
【0068】
一方、初回割込済フラグ13bがオンされていれば(S13:Yes)、S12の処理で読み取りA/D変換器17で8ビットのデジタルデータに変換した電圧値データを通電カウンタ13iの値番目の電圧値メモリ13c〜13hへ書き込む(S15)。即ち、S12の処理で読み取りデジタルデータに変換した電圧値データを、通電カウンタ13iの値が「0」であれば第0電圧値メモリ13cに、「1」であれば第1電圧値メモリ13dに、・・・、「5」であれば第5電圧値メモリ13hに、それぞれ書き込むのである。
【0069】
電圧値メモリ13c〜13hへの書き込み後は、通電カウンタ13iの値を「0〜5」の範囲で1カウント加算方向に更新し(S16)、更新後の通電カウンタ13iの値番目の通電相テーブル12bの値(通電相データ)をインバータ回路3へ出力して(S17)、電機子巻線54への通電を行う。
【0070】
この通電は、次の1msインターバル割込処理が発生するまでの1msの間継続される。そして、1msの経過後に発生するこの1msインターバル割込処理のS12の処理によって、かかる通電による電機子電流の電圧変換された値が読み取られ、通電カウンタ13iの値番目の電圧値メモリ13c〜13hへ書き込まれるのである(S15)。即ち、通電カウンタ13iの値番目の通電相テーブル12bの値を出力したときの1ms経過後の電機子電流の値が、次の1msインターバル割込処理によって読み取られ、その通電カウンタ13iの値番目の電圧値メモリ13c〜13hに書き込まれるのである。
【0071】
S18の処理において、第0〜第5電圧値メモリ13c〜13hのうち、「0」を記憶するものがあるか否かを調べる(S18)。1つでも「0」を記憶するものがある場合には(S18:Yes)、未だ回転子磁石52の磁極位置の判別をすることができないので、以降のS19〜S24の各処理をスキップして、今回の1msインターバル割込処理を終了する。
【0072】
一方、第0〜第5電圧値メモリ13c〜13hのうち、「0」を記憶するものがなければ(S18:No)、既に、6つあるすべての通電パターンについて電機子巻線54への通電が行われ、その各通電時における1ms経過後の電機子電流の電圧変換された値が第0〜第5電圧値メモリ13c〜13hにそれぞれ記憶されている。よって、かかる場合には、第0〜第5電圧値メモリ13c〜13hのうち最も高い電圧値(最も大きな値)を記憶する電圧値メモリ13c〜13hの番号を求めて(S19)、回転子磁石52の磁極位置を判別する。
【0073】
即ち、第0電圧値メモリ13cに最も大きな値が記憶される場合には、6つの通電パターン(通電相データ)のうち、「1AH」の通電相データをインバータ回路3へ出力してU相からV相の電機子巻線54へ電機子電流を流した時に、電機子電流が最大となったということである。よって、前記した通り、かかる場合には、図4(e)に示す位置に回転子磁石52が停止していると判別することができる。また、第1電圧値メモリ13dに最も大きな値が記憶される場合には、「19H」の通電相データを出力してU相からW相の電機子巻線54へ電機子電流を流した時に、電機子電流が最大となったということであるので、図4(f)に示す位置に回転子磁石52が停止していると判別することができる。更に、第5電圧値メモリ13hに最も大きな値が記憶される場合には、「32H」の通電相データを出力してW相からV相の電機子巻線54へ電機子電流を流した時に、電機子電流が最大となったということであるので、図4(d)に示す位置に回転子磁石52が停止していると判別することができる。
【0074】
ここで、図4および図5を参照すれば分かるように、回転子磁石52を反時計回りに回転させるための通電開始第1波は、S19の処理で求めた番号から「2」を減算した値番目の通電相テーブル12bの値である。例えば、第2電圧値メモリ13eの値が最大である場合、回転子磁石52は図4(a)に示す位置に停止している。よって、回転子磁石52を反時計回りに回転させるための通電開始第1波は、図5(a)に示すように、通電相テーブル12bの0(=2−2)番目のデータ、即ち、「1AH」の通電相データである。また、第3電圧値メモリ13fの値が最大である場合、回転子磁石52は図4(b)に示す位置に停止している。よって、回転子磁石52を反時計回りに回転させるための通電開始第1波は、図5(b)に示すように、通電相テーブル12bの1(=3−2)番目のデータ、即ち、「19H」の通電相データである。
【0075】
一方、S19の処理で求めた番号から「2」を減算した結果がマイナスとなる場合には、回転子磁石52を反時計回りに回転させるための通電開始第1波は、その減算結果に「6」を加算した値番目の通電相テーブル12bの値である。例えば、第0電圧値メモリ13cの値が最大である場合、回転子磁石52は図4(e)に示す位置に停止している。よって、回転子磁石52を反時計回りに回転させるための通電開始第1波は、図5(e)に示すように、通電相テーブル12bの4(=0−2+6)番目のデータ、即ち、「34H」の通電相データである。また、第1電圧値メモリ13dの値が最大である場合、回転子磁石52は図4(f)に示す位置に停止している。よって、回転子磁石52を反時計回りに回転させるための通電開始第1波は、図5(f)に示すように、通電相テーブル12bの5(=1−2+6)番目のデータ、即ち、「32H」の通電相データである。
【0076】
従って、S19の処理で求めた番号から「2」を減算し(S20)、その減算結果がマイナスでなければ(S21:No)、減算結果を通電カウンタ13iへ書き込んで(S23)、通電開始第1波の通電相データを設定する。一方、S19の処理で求めた番号から「2」を減算した結果がマイナスであれば(S21:Yes)、その減算結果に「6」を加算し(S22)、加算後の値を通電カウンタ13iへ書き込んで(S23)、通電開始第1波の通電相データを設定する。これにより、回転子磁石52を反時計回りに回転させるための通電開始第1波を設定することができる。通電開始第1波の設定後は、極性判別済フラグ13aをオンして(S24)、今回の1msインターバル割込処理を終了する。
【0077】
S11の処理において、極性判別済フラグ13aがオンされていれば(S11:Yes)、既に、回転子磁石52の磁極位置が判別され、通電開始第1波の設定が完了しているので、かかる場合には、処理をS25へ移行して始動補償カウンタ13jの値を減算する。まず、始動補償カウンタ13jの値が「0」であるか否かを調べ(S25)、「0」でなければ(S25:No)、始動補償カウンタ13jの値を「1」減算して(S26)、今回の1msインターバル割込処理を終了する。一方、始動補償カウンタ13jの値が「0」であれば(S25:Yes)、この1msインターバル割込処理を停止して(S27)、この処理を終了する。よって、S27の処理の実行後は、1msインターバル割込処理は発生しない。従って、S27の処理の実行後は、MPU11の制御をモータ駆動処理(図12)およびタイマ割込処理(図11)に集中することができるので、2以上の割り込みの同時発生を回避して、ブラシレスモータ51の駆動制御を一層正確に行うことができる。
【0078】
図10は、第1波通電処理(S8)のフローチャートである。第1波通電処理は、ブラシレスモータ51の駆動を開始するための通電開始第1波を励磁する処理であり、図8のメイン処理において、極性判別済フラグ13aのオンが確認された後に実行される(S7:Yes)。
【0079】
第1波通電処理では、まず、通電カウンタ13iの値番目の通電相テーブル12bの値、即ち通電相データをインバータ回路3へ出力し、ブラシレスモータ51へ第1波の通電を行う(S31)。その後は、次回の通電のために通電カウンタ13iの値を「0〜5」の範囲で1カウント加算方向に更新し(S32)、サンプル済フラグ13kをオフして(S33)、フリーランニングカウンタ16の値を読み取り前回カウント値メモリ13hへ書き込む(S34)。更に、最初の電機子電流のサンプル時期を設定するために、タイマ15aへ初期値をセットして(S35)、タイマ15aをスタートし(S36)、この処理を終了する。
【0080】
図11は、タイマ割込処理のフローチャートである。タイマ割込処理は、転流の基準となる電圧変換された電機子電流の値をサンプルするための処理であり、タイマ割込発生回路15のタイマ15aのスタート後、そのタイマ15aにセットされた時間の経過時に実行される。このタイマ割込処理では、まず、A/D端子へ入力される電流検出回路4の出力電圧を読み取り(S41)、A/D変換器17によってデジタルデータに変換した後に、その値をサンプル電圧値メモリ13lへ書き込む(S42)。更に、電機子電流のサンプルが完了したことを示すためにサンプル済フラグ13kをオンして(S43)、タイマ15aを停止し(S44)、この処理を終了する。
【0081】
図12は、モータ駆動処理(S9)のフローチャートである。モータ駆動処理は、ブラシレスモータ51の駆動制御を行うための処理であり、図8のメイン処理において、第1波通電処理(S8)の実行後、繰り返し実行される。
【0082】
モータ駆動処理では、まず、サンプル済フラグ13kがオンされているか否かを調べ(S51)、オンされていなければ(S51:No)、未だ転流の基準となる電圧変換された電機子電流の値のサンプルが完了していないので、S52以降の処理を実行することなく、この処理を終了する。
【0083】
一方、サンプル済フラグ13kがオンされていれば(S51:Yes)、既に転流の基準となる電圧変換された電機子電流の値はサンプルされ、サンプル電圧値メモリ13lに記憶されているので、かかる場合には、そのサンプル電圧値メモリ13lの値と始動補償カウンタ13jの値との大小を比較して(S52)、大きい方の値を比較電圧値メモリ13mへ書き込む(S53,S54)。即ち、サンプル電圧値メモリ13lの値の方が始動補償カウンタ13jの値より小さければ(S52:No)、始動補償カウンタ13jの値を比較電圧値メモリ13mへ書き込み(S53)、逆に、サンプル電圧値メモリ13lの値の方が始動補償カウンタ13jの値より大きければ(S52:Yes)、サンプル電圧値メモリ13lの値を比較電圧値メモリ13mへ書き込む(S54)。
【0084】
前記した通り始動補償カウンタ13jは、ブラシレスモータ51の始動時に電機子巻線54へ十分な電機子電流を流すために使用されるカウンタであり、この始動補償カウンタ13jによって、ブラシレスモータ51の始動開始から徐々に逓減する電圧波を擬似的に生成している。具体的には、始動補償カウンタ13jには電源投入時に初期値が設定された後(S4)、回転子磁石52の磁極位置の判別完了後、1msインターバル割込処理において1カウントずつ「0」になるまで減算される。よって、ブラシレスモータ51の始動時には、始動補償カウンタ13jの値はサンプル電圧値メモリ13lの値より大きいので、始動補償カウンタ13jの値が比較電圧値メモリ13mへ書き込まれる(S53)。逆に、ブラシレスモータ51の十分な始動後には、始動補償カウンタ13jの値は「0」か、或いは、十分に小さな値になっているので、サンプル電圧値メモリ13lの値が比較電圧値メモリ13mへ書き込まれる(S54)。
【0085】
比較電圧値メモリ13mへの書き込み後(S53,S54)、A/D端子へ入力される電流検出回路4の出力電圧を読み取り(S55)、A/D変換器17によってデジタルデータに変換された値が比較電圧値メモリ13mの値の1.4倍以上あるか否かを判断する(S56)。読み取った電圧値が比較電圧値メモリ13mの値の1.4倍以上なければ(S56:No)、未だ第2の電流増加領域92(図13参照)は到来していないので、転流タイミングではない。よって、かかる場合には、S57以降の処理をスキップして、この処理を終了する。
【0086】
一方、読み取った電圧値が比較電圧値メモリ13mの値の1.4倍以上あれば(S56:Yes)、第2の電流増加領域92(図13参照)、即ち、転流タイミングの到来である。よって、かかる場合には、通電カウンタ13iの値番目の通電相テーブル12bの値をインバータ回路3へ出力して転流を行う(S57)。その後は、次回の通電のために通電カウンタ13iの値を「0〜5」の範囲で1カウント加算方向に更新し(S58)、サンプル済フラグ13kをオフする(S59)。
【0087】
更に、フリーランニングカウンタ16の値を読み取って今回カウント値メモリ13oへ書き込み(S60)、前回カウント値メモリ13nの値と今回カウント値メモリ13oの値とから前回の転流周期を算出する(S61)。そして、算出した転流周期の1/3の時間をタイマ15aへセットして(S62)、タイマ15aをスタートし(S63)、今回カウント値メモリ13oの値を前回カウント値メモリ13nへ書き込んで(S64)、この処理を終了する。
【0088】
このモータ駆動処理(S9)は、第1波通電処理(S8)の実行後、タイマ割込処理(図11)と並行しつつ繰り返し実行され、ブラシレスモータ51が反時計回りに回転する。
【0089】
なお、各請求項に記載の検査電圧通電回路としては、図9に示す1msインターバル割込処理のS17の処理が、極性判別回路としてはS19の処理が、それぞれ該当する。
【0090】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0091】
例えば、本実施例では、極間ヨーク53dをすべての歯部53c間に形成した。即ち、U相とV相の電機子巻線54の間と、U相とW相の電機子巻線54の間と、V相とW相の各電機子巻線54の間とに、それぞれ2つずつ計6つの極間ヨーク53dを形成した。しかし、これに代えて、U相とV相の電機子巻線54の間と、U相とW相の電機子巻線54の間と、V相とW相の各電機子巻線54の間とに、それぞれ1つずつ計3つの極間ヨーク53dを形成するだけにしても良い。また、本実施例のモータ駆動回路1は、常に、ブラシレスモータ51を反時計回りに回転するように構成したが、回転方向を指定するためのスイッチを設けて、そのスイッチによって指定される方向に、ブラシレスモータ51を回転させるように構成しても良い。
【0092】
【発明の効果】
本発明のブラシレスモータ、及び、そのブラシレスモータの磁極位置判別回路によれば、固定子鉄心を極間ヨークで部分的に磁気飽和させて回転子磁石の磁極位置を判別するので、僅かな電機子電流を流すだけで回転子磁石の磁極位置を判別することができる。よって、騒音や振動を発することなく、かつ、回転子磁石を回転させることなく、その回転子磁石の磁極位置を判別することができるという効果がある。また、駆動電圧の何倍もの大きさの電圧を出力可能な電源回路や電機子巻線の絶縁耐圧が強化されたブラシレスモータを用いる必要がないので、コストを大幅に低減することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例であるブラシレスモータの断面図である。
【図2】 ブラシレスモータの断面を部分的に拡大して示した図であり、(a)は、電機子巻線への通電を行っていない状態を図示しており、(b)は、電機子巻線への通電を加極性に行っている状態を図示している。
【図3】 ブラシレスモータの断面を部分的に拡大して示した図であり、(a)は、電機子巻線への通電を行っていない状態を図示しており、(b)は、電機子巻線への通電を減極性に行っている状態を図示している。
【図4】 回転子磁石の停止位置と、その停止位置に応じて電機子電流が最大となる通電パターンとの関係を示した図であり、回転子磁石の6カ所の停止位置に対応して、(a)〜(f)の6図がそれぞれ図示されている。
【図5】 回転子磁石の停止位置と、その回転子磁石を反時計回りに回転させる場合の通電開始第1波の通電パターンとの関係を示した図であり、回転子磁石の6カ所の停止位置に対応して、(a)〜(f)の6図がそれぞれ図示されている。
【図6】 ブラシレスモータ駆動回路の回路図である。
【図7】 通電相テーブルの構成を模式的に示した図である。
【図8】 電源投入により実行されるメイン処理のフローチャートである。
【図9】 1msインターバル割込処理のフローチャートである。
【図10】 第1波通電処理のフローチャートである。
【図11】 タイマ割込処理のフローチャートである。
【図12】 モータ駆動処理のフローチャートである。
【図13】 (a)は、ブラシレスモータの電機子巻線の1相に流れる電流波形を示した図であり、(b)は、(a)の電流波形の1ブロックを拡大して示した図である。
【符号の説明】
1 モータ駆動回路(磁極位置判別回路)
3 インバータ回路
4 電流検出回路
11 MPU
12 ROM
12b 通電相テーブル
13 RAM
13i 通電カウンタ
51 ブラシレスモータ
52 回転子磁石
53 固定子鉄心
53b 主脚部
53c 歯部
53d 極間ヨーク
54 電機子巻線
Claims (8)
- 固定子鉄心と、その固定子鉄心に巻回される複数相の電機子巻線へ通電することによって回転される回転子磁石とを備えたブラシレスモータにおいて、
前記固定子鉄心は、前記電機子巻線が巻回される複数の主脚部と、その複数の主脚部にそれぞれ連設される複数の歯部と、その複数の歯部のうち隣接する歯部同士を連結する極間ヨークとを備えており、
その極間ヨークは、前記電機子巻線への非通電時には非磁気飽和の状態にある一方、前記電機子巻線への通電時には僅かな磁束の増加で磁気飽和するように構成されていることを特徴とするブラシレスモータ。 - 前記極間ヨークは前記主脚部と同一材料で形成されると共に、前記極間ヨークの1つの断面積は、前記主脚部の1つの断面積の略1/20から略1/30に形成されていることを特徴とする請求項1記載のブラシレスモータ。
- 前記極間ヨークは角形の磁化特性を有するフェライトにより構成される一方、前記主脚部は電磁鋼板により構成されており、
前記フェライトにより構成される極間ヨークの1つの断面積は、前記電磁鋼板により構成される主脚部の1つの断面積の略1/5から略1/8に形成されていることを特徴とする請求項1記載のブラシレスモータ。 - 前記極間ヨークは、隣接する前記歯部間の前記回転子磁石の反対側に配設されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のブラシレスモータ。
- 前記複数の歯部およびその複数の歯部のうち隣接する歯部同士を連結する複数の極間ヨークにより、前記回転子磁石を内包する閉スロット構造に構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のブラシレスモータ。
- 請求項1から5のいずれかに記載のブラシレスモータについて、前記回転子磁石の停止時における磁極位置を判別するブラシレスモータの磁極位置判別回路において、
前記電機子巻線へ検査電圧を通電する検査電圧通電回路と、
その検査電圧通電回路による検査電圧の通電により前記電機子巻線へ流れる電流を検出する電流検出回路と、
その電流検出回路により検出された電機子電流の増加速度に基づいて、前記回転子磁石の停止時における磁極位置を判別する極性判別回路とを備えていることを特徴とするブラシレスモータの磁極位置判別回路。 - 前記検査電圧通電回路は、前記ブラシレスモータの駆動時における周波数の略15倍以上の周波数の電圧を検査電圧として通電することを特徴とする請求項6記載のブラシレスモータの磁極位置判別回路。
- 前記検査電圧通電回路は、前記電機子巻線のすべての通電パターンについて少なくとも1回以上の検査電圧を出力すると共に、前記電流検出回路は、前記電機子巻線へ流れる電流を電圧に変換して検出するものであり、
前記極性判別回路は、前記検査電圧通電回路による検査電圧の通電により、前記電流検出回路によって最も大きい電圧値が検出された通電パターンに基づいて、前記回転子磁石の停止時における磁極位置を判別することを特徴とする請求項6又は7に記載のブラシレスモータの磁極位置判別回路。
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