JP3635876B2 - 画像記録媒体及び記録媒体における画像形成方法及び消去方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、露光と加熱によって画像の記録および消去を可能とする画像記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、森林資源保護などの地球環境保全やスペースセーブといった事務環境改善などの理由から、紙に替わるハードコピー技術としてリライタブルマーキング技術の研究が活発に行われている。
特に、加熱を引き金とした化学変化を利用したリライタブルマーキング技術の研究が盛んであり、ロイコ染料/両性顕減色剤系、ロイコ染料/顕色剤/有極性有機化合物系、ロイコ染料/長鎖アルキル顕減色剤系などを材料として使用した記録媒体が提案されている。これらロイコ染料を用いる記録媒体への画像形成は、そのラクトン環の開閉に伴う発消色変化を利用する化学変化型であり、現在のところ高い白黒コントラストと画像の維持性とを両立することは困難である。
【0003】
これに対し、画像の維持性が比較的得易い物理変化型の画像形成を用いるものとしては、高分子/長鎖アルキル低分子系、ポリマーブレンド系、高分子液晶系などを材料として使用した記録媒体が提案されている。
高分子/長鎖アルキル低分子系は、内部の空隙を加熱温度によって変化させ光散乱性を制御する方式であり、ポリマーブレンド系は冷却速度によってミクロ相分離状態を変化させ、光散乱性を制御する方式である。
また、高分子液晶系は、主に冷却速度によって結晶性を変化させて光散乱性を制御する方式である。
しかし、これらの光散乱性を制御する方式は、画像の維持性は得易いがコントラストが低く商品の応用範囲が限られている。
【0004】
そこで、これらの技術に加えてアゾベンゼン誘導体などの光異性化反応を利用したリライタブル情報記録技術が提案されている。
アゾベンゼン誘導体は、一般に無色のトランス型が安定であるが、紫外域の特定の波長の光を照射することによって青色に吸収のピークを示すシス体へと異性化する。このようなフォトクロミズムと一般に呼ばれる現象は古くから知られていおり、書き込みや消去の際の高いエネルギー効率、熱伝導の影響を受けないことによる高密度/高解像度記録、高温状態を経由しないことによる基材の熱劣化の解消などの優れた特徴が活かされることが期待されている。
【0005】
しかしながら、従来のフォトクロミック材料を使用した光記録は、読み出し波長が消去波長と一致してしまうため数回〜数10回の再生内で記録が劣化してしまい、また、画像記録においては1日以内のオフィス照明下の放置により記録が消去されてしまうという問題が知られている。
このような問題に対し、特開昭62−109245号に開示されている発明においては、フォトクロミック機能をコレステリック液晶に付与し、フォトクロミズムの消去波長領域と異なる波長領域におけるコレステリック液晶の選択反射特性の変化を読み出すことによって記録の劣化を防いでいる。
【0006】
また、特開昭64−88935号に開示されている発明においては、フォトクロミック機能を持たせた液晶をマイクロカプセルに封入した記録層を用いることにより記録情報の安定化を図っている。
特開平3−276127号に記載されている発明においては、液晶とアゾベンゼン誘導体を高分子媒体中に分散した光応答フィルムが開示されている。
【0007】
すなわち、上述したような光を引き金とする化学変化によるフォトクロミズムを用いてシート状の記録媒体とする場合には、シート状の形態を実現するための安定な自己保持性、オフィス照明下に放置しても長時間の記録保持が行える記録の安定性、視覚的に必要かつ十分な表示分解能、オフィスで一般的な電源を利用できる記録・消去装置などが求められる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したような記録媒体は、長時間の記録保持が行えるように安定化を図ってはいるが、あくまでも遮光された筐体中で使用することを前提としており、消去光である青色波長光を含む室内照明下ではきわめて不安定であるという問題点がある。
【0009】
また、記録分解能を得るために露光用光源として半導体レーザーを利用した場合には、発光のエネルギー効率の低さに加えて光化学反応の量子収率の低さが加わるため、記録のためのエネルギー効率が低くハードコピーとして使うには極端に遅い記録速度になる、もしくは装置および消費電力が大きくなってしまうという問題点があった。
【0010】
また、上述の記録媒体では二値的な情報記録のみしか扱うことができず、ハードコピーに要請される階調表現やカラー再現などの機能を実現することができないという問題点もあった。
更に、シート状の形態を実現するための安定な自己保持性も十分ではなかった。
【0011】
本発明は上記実情に鑑みてなされたもので、フォトクロミック材料を用いた記録媒体の欠点を解消し、小型の装置で効率よく記録ができ、高解像度で階調表現やカラー再現が可能であり、繰り返し記録及び消去が可能で自己保持性に優れたフォトクロミック材料を用いた画像記録媒体を提供することを目的としている。
また、フォトクロミック材料を用いた画像記録媒体における画像の形成方法及び消去方法を提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため本発明の画像記録媒体は、高分子液晶を成膜して薄膜状の高分子液晶層を支持体上に形成して成るシート状部材であって、次の構成を含むことを特徴としている。
前記高分子液晶層は、ガラス転位点の異なる複数の高分子液晶からなり、フォトクロミック化合物を含んで構成されている。このフォトクロミック化合物は、加熱手段による前記高分子液晶のガラス転移点以上の温度への加熱と、第1の波長域の光の露光とによって異性化するように構成している。そして、前記フォトクロミック化合物の異性化によって前記高分子液晶層に光学的な変化を起こさせて画像を形成する。第1の波長域の光とは、露光を行うことにより、フォトクロミック化合物の分子をより直線に近い形状から直線とはかけ離れた形状へと変化させるものである。
また、高分子液晶層は、ガラス転位点の異なる複数の高分子液晶からなるので、多色表示を行うことが可能となる。
【0013】
また、フォトクロミック化合物は、カイラル剤を含むものであることにより、画像形成において優れたコントラストを達成させることができる。
【0014】
本発明の画像記録媒体に使用される支持体は、ハードコピーの形態として使用できるシート状の物体である。
【0015】
高分子液晶層に含まれるフォトクロミック化合物とは、光を吸収することによって異性化,開環,閉環,会合などの可逆的化学変化のうち少なくとも1つの反応を示すものであり、この化学変化によって高分子液晶の相変化温度、螺旋ピッチなどの物性を変化させるものである。
【0016】
高分子液晶層を構成する高分子液晶とは、メソゲン基が液晶の機能を発現する主鎖形高分子液晶や側鎖形高分子液晶を好例とするがこれに限定されるものではない。高分子液晶は、単体でフォトクロミック化合物、カイラル剤などの機能を有していても、また、有していなくても構わないが、いずれの機能も有していない場合にはフォトクロミック化合物やカイラル剤の添加が必要な状況が生じる。
また、高分子液晶の分子量は、安定な自己保持性を確保するためにできるだけ大きいことが望ましい。
【0017】
本発明で用いられるカイラル剤とは、単体もしくは混合物としてネマチック液晶の性質を示す物質に添加することによりコレステリック相を誘起することができる光学活性体である。光学活性体は、それ自身が液晶である場合、または液晶でない場合にかかわらず、ネマチック相に添加すればねじれ構造を持つコレステリック相を作ることができる。
【0018】
本発明で利用する高分子液晶のガラス転位点とは、主鎖形高分子液晶や側鎖形高分子液晶を代表とする高分子液晶の挙動が、固体的なもから液体的なものへ、またはその逆へ変化する温度である。
ガラス転位点よりも高い温度においては、高分子液晶は液体に近い挙動を示す。したがって、液晶の分子は比較的弱い電界を印加することによっても速やかに分子の配向を変化させる。
一方、ガラス転位点よりも低い温度においては、高分子液晶は固体に近い挙動を示し、比較的強い電界を印加することによってもその分子配向をほとんど変化させることがない。
【0019】
異なるガラス転位点を示す複数の高分子液晶を用意する方法としては、高分子液晶の主鎖の剛直度を調整する方法、重合度の違いを利用する方法、非液晶性モノマとの共重合、複数種の高分子液晶前駆体の共重合、非重合性液晶成分の添加、非重合性非液晶成分の添加などが利用できる。
【0020】
また、本発明の画像形成方法は、フォトクロミック化合物を含む高分子液晶層が支持体上に形成された記録媒体に対し、次の手順で行うことを特徴としている。
前記高分子液晶層における高分子液晶をガラス転移点以上の温度へ加熱すると同時に、前記フォトクロミック化合物の分子をより直線に近い形状から直線とはかけ離れた形状へと変化させる第1の波長域の光により露光を行う。
これにより、前記フォトクロミック化合物を異性化させ、この異性化によって前記高分子液晶層に光学的な変化を起こさせて記録媒体に画像を形成する。
【0021】
本発明の画像消去方法は、フォトクロミック化合物を含む高分子液晶層が支持体上に形成された記録媒体について、前記フォトクロミック化合物を異性化させて前記高分子液晶層に光学的な変化を起こさせて形成した画像に対して、次の手順で行うことを特徴としている。
前記フォトクロミック化合物の分子を直線からかけ離れた形状から直線に近い形状へと変化させる第2の波長域の光を露光する。
そして、この露光と同時に、高分子液晶をガラス転位点以上の温度へと加熱する。
これら露光及び加熱により前記画像が消去される。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態の一例について図面を参照しながら説明する。
本発明に係る画像記録媒体は、図1に示すように、透明部材で構成された支持体1上に、高分子液晶を成膜して薄膜状の高分子液晶層2を形成し、更に保護層3を設けたシート状部材で構成されている。
高分子液晶層2は、カイラル剤を含んだフォトクロミック化合物により構成されている。
このフォトクロミック化合物は、高分子液晶層2に密着する発熱抵抗体(サーマルヘッド等の加熱手段)(図示せず)による高分子液晶のガラス転移点以上の温度への加熱と、支持板1の下面からの所望の波長の光の露光とを同時に行うことより、高分子液晶層2の一部(加熱領域)が異性化され、この異性化によって分子配向の変化を起こし、前記加熱領域部分に光学的な変化を起こさせて画像を形成するものである。
【0023】
高分子液晶層2に含まれるフォトクロミック化合物とは、光を吸収することによって異性化,開環,閉環、会合などの可逆的化学変化のうち少なくとも1つの反応を示すものであり、この化学変化によって高分子液晶の相変化温度、螺旋ピッチなどの物性を変化させるものである。
より具体的には、アゾベンゼン、スチルベン、インジゴ、チオインジゴ、スピロピラン、スピロオキサジン、フルギド、アントラセン、桂皮酸などの骨格を含む化合物があげられる。これらのなかでも化学変化の前後で分子骨格のジオメトリーが大きく変化し、高分子液晶の相変化温度、螺旋ピッチ、屈折率異方性などを比較的大きく変化させることのできるアゾベンゼン、スチルベン、チオインジゴなどの骨格を含む化合物が特に好ましい。
これらのフォトクロミック化合物は、単体で液晶としての性質を示すもの、または単体で液晶性を示す物質と混合したときに液晶性を示すもの、のいずれでも構わないが、高分子液晶の調整が容易になることから単体で液晶性を示す物質であることが好ましい。
【0024】
高分子液晶とは、メソゲン基が液晶の機能を発現する主鎖形高分子液晶や側鎖形高分子液晶を好例とするがこれに限定されるものではない。
主鎖形高分子液晶とは、より具体的には比較的剛直で異方性に富む直線状原子団であるメソゲン基それ自身が、またはメソゲン基と、屈曲性の原子団が交互に直線状に結合した高分子である。
側鎖形高分子液晶とは、屈曲性の原子団からなる主鎖に対して直接、または屈曲性の原子団を介して、剛直性の大きいメソゲン基からなる側鎖が結合しているものである。メソゲン基には低分子液晶の中心骨格を成す原子団と同様のものが用いられる。
【0025】
メソゲン基に好適な原子団としては、ベンジリデンアニリン、アゾベンゼン、アゾキシベンゼン、スチルベン、フェニルベンゾエート、ベンゾイルアニリン、ビフェニル、ベインジリデンアセトフェノン、ベンジリデンアジンなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。
これらの中でもフォトクロミック化合物になることのできるアゾベンゼン、スチルベンなどが特に好ましい。
屈曲性の大きな原子団としては、アルキル鎖、オキシエチレン鎖、シロキサン共重合体鎖などが好適であるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
支持体1は、ハードコピーの形態として使用できるシート状の物体である。
具体的には、ポリエチレン、ポリエーテルサルホン、ポリスチレン、木材系/非木材系セルロース樹脂などからなるフィルム、木材紙、非木材紙、合成紙などを用いることができる。
これらの材料は、単体として支持体を形成しても、積層して支持体を形成してもよい。サーマルヘッドで記録する場合には、表面が平滑でない木材紙、非木材紙、合成紙などは、高分子液晶層2と支持体1の間に支持体表面を平滑化させるためのアンダーコート層を設けることが記録に必要な熱伝達の効率をあげるために望ましい。
【0027】
保護層3は高分子液晶層2における表示部表面を保護するためのものであり、その構成材料としては、シリコーン系樹脂、含フッ素系樹脂が良好な特性が得られるので好ましい。
また、臨界表面エネルギーの改善のために、シリコーン系の低分子物質や含フッ素系樹脂の粉末を混入させるのが好ましい。これらの粉末の含有量は、20重量%以下が好ましく、より好ましくは、1重量%から10重量%の範囲である。保護層の厚さは、0.1μmから20μmの範囲、特に0.3μmから2μmの範囲が好ましい。
【0028】
本発明で用いるカイラル剤とは、具体的には不斉炭素を少なくとも1つ含む物質である。高分子液晶との相溶性を確保し、かつフォトクロミック化合物とすることが均一性の高い画像を得るための要件である。すなわち、フォトクロミック化合物がカイラル剤であることにより、優れたコントラストを達成することができる。
具体的には、アゾベンゼン、スチルベンなどの原子団を持つ分子に、不斉炭素を導入してフォトクロミック化合物とすることが特に望ましい。
【0029】
より具体的には、A−(CH2)nC*HCH3Et、 A−(CH2)nC*HCH3Et、 A−O(CH2)nC*HCH3Et、 A−OCOC*HCH3OR、 A−OC*HCH3R、 A−OCH2C*HCH3CH2OCOR、 A−CH2C*HCH3OCOR、 A−COOC*HCH3R、 A−OCOC*HCH3Et、 A−OCH2C*HCH3OR、 A−OCH2C*HCH3OCOR、 A−OCH2C*HFRなどである(Aはアゾベンゼン、スチルベンなどの原子団)。
【0030】
例えば、フォトクロミック材料としてアゾベンゼン誘導体を用いた場合、直線に近い形状とはトランス体であり直線からかけ離れた形状とはシス体となる。
このとき本発明で用いる第1の光の波長は、第1の光の波長は360nm程度であり市販のブラックランプなどによって発生させることができるものである。
第2の光の波長は420nm程度であり市販の殺菌ランプなどによって発生させることができるものである。
【0031】
したがって、露光用光源としてのようなエネルギー効率の低い光源ではなく、蛍光ランプ等エネルギー効率の高い光源が利用可能となるために、記録のためのエネルギー効率が高く記録速度の速い画像形成が可能となる。
【0032】
また、本発明で利用する高分子液晶のガラス転位点は、感熱記録や熱転写記録に用いられるサーマルヘッドを利用するために80〜150℃の間とすることが望ましい。
【0033】
次に、より具体的な画像記録媒体に対する画像の記録及び消去のプロセスについて、図2を参照しながら説明する。
透明な支持体11上に、第1の高分子液晶層12aと第2の高分子液晶層12bを順次積層して画像記録媒体10を形成する。各高分子液晶層12は、側鎖形高分子液晶とフォトクロミック構造としてアゾベンゼンの原子団を含むカイラル剤を含むもので、第1の高分子液晶層12aはガラス転位点Tg1が約130℃、選択反射波長λ1が600nm、該第2の高分子液晶層12bはガラス転位点Tg2が約90℃、選択反射波長λ2が480nmである(図2(a))。
【0034】
画像記録媒体10に加熱を行うための加熱手段20は、基板21上に第1の発熱体22、第2の発熱体23および第3の発熱体24を形成した加熱ヘッドを有している。加熱手段20の各発熱体は、画像記録媒体10の第2の高分子液晶層12bの表面側に密着配置が可能なようになっている。
この加熱手段20において、第1の発熱体22および第2の発熱体23を140℃に加熱し、各発熱体を画像記録媒体10に密着させると同時に、波長360nmの光31を画像記録媒体10の反加熱手段配置側から照射する(図2(b))。
【0035】
第1の発熱体22および第2の発熱体23が密着される第1の加熱領域41および第2の加熱領域42において、第1の高分子液晶層12aおよび第2の高分子液晶層12bがガラス転位点以上の温度となり分子の配向が容易となる。同時に波長360nmの光によってアゾベンゼン原子団は初期状態のトランス体からシス体へと変化する。その結果、アゾベンゼンを含むカイラル剤機能は弱まり第1の加熱領域41および第2の加熱領域42は選択反射を失う(図2(c))。
【0036】
一方、第3の発熱体24により加熱を行わなかった第3の加熱領域43においては、各高分子液晶層12がガラス転位点よりも低い温度であるため、分子の立体障害のためアゾベンゼン原子団のトランスーシス異性化反応はほとんど起こらず、したがって高分子液晶の分子配向の変化も起こらない。このため高分子液晶層12の第3の加熱領域43においては、第1の高分子液晶層12aおよび第2の高分子液晶層12bともに選択反射を保つ(図2(c))。
【0037】
次に、加熱ヘッドにおいて第2の発熱体23を100℃に加熱し、発熱体23を画像記録媒体に密着させると同時に、波長460nmの光32を画像記録媒体10の反加熱手段配置側から照射する(図2(d))。
第2の加熱領域42において第1の高分子液晶層12aはガラス転位点以上の温度となり分子の配向が容易となる。同時に波長460nmの光32によってアゾベンゼン原子団はシス体からトランス体へと変化する。その結果、アゾベンゼンを含むカイラル剤の機能は強まり、第2の加熱領域42は第1の高分子液晶層12aの部分だけ再び選択反射を得る(図2(e))。
【0038】
一方、第1の加熱領域41および第3の加熱領域43においては、いずれの高分子液晶層12もガラス転位点以下の温度しか経由しないため、波長460nmの光32を照射した場合でも状態の変化は起こらない(図2(e))。
【0039】
次に、加熱ヘッドにおいて第3の発熱体24を100℃に加熱し、発熱体24を画像記録媒体10に密着させると同時に、波長360nmの光33を画像記録媒体10の反加熱手段配置側から照射する(図2(f))。
第3の加熱領域43において、第2の高分子液晶層12bはガラス転位点以上の温度となり分子の配向が容易となる。同時に波長360nmの光33によってアゾベンゼン原子団はトランス体からシス体へと変化する。その結果、アゾベンゼンを含むカイラル剤機能は弱まり、第3の加熱領域43は第2の高分子液晶層12bの部分だけ選択反射を失う(図2(g))。
【0040】
一方、第1の加熱領域41および第2の加熱領域42においては、いずれの高分子液晶層もガラス転位点以下の温度しか経由しないため、波長360nmの光33を照射した場合でも状態の変化は起こらない(図2(g))。
【0041】
したがって、画像記録媒体10の各部に対して、上述した加熱及び露光のプロセスを施すことにより、最終的には、第1の加熱領域41は各高分子液晶層12a,12bにおいて選択反射なしの状態(無色)、第2の加熱領域42は第1の高分子液晶層12aのみが選択反射の状態(第1の高分子液晶層12aの選択反射光の色)、第3の加熱領域43は第2の高分子液晶層12bのみが選択反射の状態(第2の高分子液晶層12aの選択反射光の色)とすることができる。
第1の高分子液晶層12aにおける選択反射波長λ1は600nm(選択反射光の色は赤)、第2の高分子液晶層12bにおける選択反射波長λ2は480nm(選択反射光の色は青)に設定されているので、前記各加熱領域においては各選択反射色と無色の状態(3状態)を表現でき、これに高分子液晶層12a,12bがともに選択反射の状態(高分子液晶層12a及び高分子液晶層12bの選択反射光の色が重なった色)(背景色)を加えて、画像記録媒体としては4色の表示を行うことができ、多色画像記録が可能となる。
【0042】
【実施例】
続いて、本発明に係る画像記録媒体の各実施例について説明する。
(実施例1)
画像記録媒体の第1の実施例について、図3を参照しながら説明する。
メソゲンモノマーとして、4−メタクリロヘキシルオキシ4’−シアノビフェニル20重量部、フォトクロミック材料として4−メタクリロヘキシルオキシ4’−シアノアゾベンゼン2重量部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部、溶媒としてテトラヒドロフラン100重量部を用いてラジカル重合を行った。得られた重合体溶液をエチルアルコールを沈澱溶媒として3回繰り返して沈澱させて精製し、高分子液晶14重量部を得た。高分子液晶の平均分子量は30000であった。高分子液晶のガラス転位温度は90℃、Ch−I転位温度は150℃であった。
厚さ75μmの透明なPETフィルムよりなる支持体51上に、高分子液晶10重量部をメチルエチルケトン15部に溶解したものをバーコーターによって塗布し高分子液晶層52を形成して画像記録媒体10とした(図3(a))。高分子液晶層24の膜厚は、約8μmであった。この高分子液晶層52は散乱により白色を示した。
【0043】
このようにして作成した画像記録媒体10を、発光波長ピークが360nmにある東芝ライテック製ブラックランプ60の上に設置したガラス板61の上に固定し、ホットスタンプ62(加熱手段)によって140℃、3秒の加熱を行い冷却したところ(図3(b))、ホットスタンプ62によって加熱した部分の高分子液晶層52は散乱を失い透明化した(図3(c))。透明部52aは、室温で3ヶ月間、オフィス照明下に放置しても変化することはなかった。
【0044】
(実施例2)
画像記録媒体の第2の実施例を図3を参照しながら説明する。
メソゲンモノマーとして、4−メタクリロヘキシルオキシ4’−シアノビフェニル20重量部、フォトクロミック材料として4−メタクリロヘキシルオキシ4’−シアノアゾベンゼン2重量部、カイラル剤であるS(−)−2メチルブチルメタクリレート7重量部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部、溶媒としてテトラヒドロフラン100重量部を用いてラジカル重合を行った。得られた重合体溶液をエチルアルコールを沈澱溶媒として3回繰り返して沈澱させて精製し、高分子液晶25重量部を得た。高分子液晶の平均分子量は28000であった。高分子液晶のガラス転位温度は87℃、Ch−I転位温度は140℃であった。
厚さ75μmの透明なPETフィルムよりなる支持体51上に、高分子液晶10重量部をメチルエチルケトン15部に溶解したものをバーコーターによって塗布し高分子液晶層52として画像記録媒体10を形成した(図3(a))。高分子液晶層52の膜厚は約8μmであった。この高分子液晶層52は青色の選択反射光を示した。
【0045】
このようにして作成した画像記録媒体10を東芝ライテック製ブラックランプ60の上に設置したガラス板61の上に固定し、ホットスタンプ62(加熱手段)によって140℃、3秒の加熱を行い(図3(b))冷却したところ、ホットスタンプ62によって加熱した部分の高分子液晶層52は選択反射を失い透明化した(図3(c))。透明部52aは、室温で3ヶ月間、オフィス照明下に放置しても変化することはなかった。
【0046】
(実施例3)
画像記録媒体の第3の実施例について、図3を参照しながら説明する。
メソゲンモノマーとして、4−メタクリロヘキシルオキシ4’−シアノビフェニル20重量部、カイラル剤となるフォトクロミック材料として4−メタクリロヘキシルオキシ4’−S(−)−2メチルブチルアゾベンゼン2重量部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部、溶媒としてテトラヒドロフラン100重量部を用いてラジカル重合を行った。得られた重合体溶液をエチルアルコールを沈澱溶媒として3回繰り返して沈澱させて精製し、高分子液晶20重量部を得た。高分子液晶の平均分子量は30000であった。高分子液晶のガラス転位温度は110℃、Ch−I転位温度は180℃であった。
厚さ75μmの透明なPETフィルムよりなる支持体51上に、高分子液晶10重量部をメチルエチルケトン15部に溶解たものをバーコーターによって塗布し高分子液晶層52として画像記録媒体10を形成した(図3(a))。高分子液晶層52の膜厚は約8μmであった。この高分子液晶層52は赤色の選択反射光を示した。
【0047】
このようにして作成した画像記録媒体10を東芝ライテック製ブラックランプ60の上に設置したガラス板61上に固定し、ホットスタンプ62(加熱手段)によって140℃、3秒の加熱を行い(図3(b))冷却したところ、ホットスタンプ62によって加熱した部分の高分子液晶層52は選択反射を失い透明化した(図3(c))。
この時の透明化した部分(透明部52a)の透明度を前記した実施例2のものと比較したところ、より良好な透明度が得られていることが目視により確認できた。透明部52aは、室温で3ヶ月間、オフィス照明下に放置しても変化することはなかった。
【0048】
(実施例4)
実施例3で説明した画像記録媒体10について、画像を形成した後、オーブンに入れ可視部に発光を持つ蛍光ランプの光を照射しながら130℃で30分放置した後、室温に戻したところ透明部52aは消失し、全体が赤色の選択反射を示した。
【0049】
(実施例5)
画像記録媒体の第5の実施例について、図4を参照しながら説明する。
メソゲンモノマーとして、4−メタクリロヘキシルオキシ4’−シアノビフェニル20重量部、カイラル剤となるフォトクロミック材料として4−メタクリロヘキシルオキシ4’−S(−)−2メチルブチルアゾベンゼン2重量部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部、溶媒としてテトラヒドロフラン100重量部を用いてラジカル重合を行った。得られた重合体溶液をエチルアルコールを沈澱溶媒として3回繰り返して沈澱させて精製し、第1の高分子液晶20重量部を得た。第1の高分子液晶は平均分子量35000、ガラス転位温度110℃、Ch−I転位温度180℃、選択反射光は赤であった。
【0050】
また、もう一方のメソゲンモノマーとして、4−メタクリロヘキシルオキシ4’−シアノビフェニル10重量部と4−アクリロヘキシルオキシ4’−シアノビフェニル10重量部、カイラル剤となるフォトクロミック材料として4−メタクリロヘキシルオキシ4’− S(−)−2メチルブチルアゾベンゼン4重量部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部、溶媒としてテトラヒドロフラン100重量部を用いてラジカル重合を行った。得られた重合体溶液をエチルアルコールを沈澱溶媒として3回繰り返して沈澱させて精製し、第2の高分子液晶20重量部を得た。第2の高分子液晶は平均分子量27000、ガラス転位温度は80℃、Ch−I転位温度190℃、選択反射光は青であった。
【0051】
厚さ75μmの透明なPETフィルムよりなる支持体71上に、第1の高分子液晶10重量部をメチルエチルケトン15部に溶解したものをバーコーターによって塗布し第1の高分子液晶層72とした。第1の高分子液晶層72の膜厚は約8μmであった。第1の高分子液晶層72の上に2μm厚のポリビニルアルコールからなる分離層73を形成した後、第2の高分子液晶10重量部をメチルエチルケトン15部に溶解したものをバーコーターによって塗布し第2の高分子液晶層74とした。第2の高分子液晶層74の膜厚は約8μmであった。第1の高分子液晶層72と第2の高分子液晶層74を有する画像記録媒体10全体の外観は紫色であった(図4(a))。
【0052】
このようにして作成した画像記録媒体10を東芝ライテック製ブラックランプ60の上に設置したガラス板61上に固定し、ホットスタンプ62(加熱手段)によって140℃、3秒の加熱を行い(図4(b))冷却したところ、ホットスタンプ62によって加熱した部分の第1の高分子液晶層72および第2の高分子液晶層74は選択反射を失い透明化(透明部72a,透明部74a)した(図4(c))。
画像記録媒体10をオーブンに入れ可視部に発光を持つ蛍光ランプ63の光を照射しながら100℃で30分放置(図4(d))した後、室温に戻したところ、第2の高分子液晶層74の透明部74aは消失し、第1の高分子液晶層72の透明部72aのみが残った(図4(e))。
さらに画像記録媒体10を東芝ライテック製ブラックランプ60の上に設置したガラス板61上に固定し、第1の高分子液晶層72の透明部72aと一部重なるようにホットスタンプ62(加熱手段)によって105℃、3秒の加熱を行い(図4(f))冷却したところ、ホットスタンプ62によって加熱した部分の第2の高分子液晶層74は選択反射を失い透明化(透明部74b)した(図4(g))。
【0053】
このように構成された画像記録媒体10は、紫の背景に対して、第1の高分子液晶層72のみが透明化した領域に対応する青色表示部分、第2の高分子液晶層74のみが透明化した領域に対応した赤色表示部分、第1の高分子液晶層72および第2の高分子液晶層74がともに透明化した領域に対応した無色部分、の合計4色の表示・記録が可能であることが確認できた。各透明部は、室温で3ヶ月間、オフィス照明下に放置しても変化することはなかった。
【0054】
上記と同様の画像記録媒体について、加熱手段としてホットスタンプに代えてサーマルヘッドを用いて記録を行ったところ、300dpiで記録が可能であり、発熱部のパルス幅変調により中間調再現も可能であることが確認できた。
【0055】
【発明の効果】
本発明の画像記録媒体によれば、フォトクロミック化合物を含む高分子液晶層を薄膜状に支持体上に形成し、加熱手段による高分子液晶のガラス転移点以上の温度への加熱と、第1の波長域の光の露光とを同時に行うことによってフォトクロミック化合物を異性化させ、この異性化によって高分子液晶層に光学的な変化を起こして画像を形成するので、安定な自己保持性を有することができ、オフィス照明下に放置しても長時間の記録保持が行える安定記録が可能となる。
【0056】
本発明の記録媒体における画像形成方法及び消去方法によれば、高分子液晶をガラス転移点以上の温度へ加熱すると同時に、第1の波長域の光により露光を行うことによって、フォトクロミック化合物を異性化させて画像を形成し、また、第2の波長域の光を露光すると同時に、高分子液晶をガラス転位点以上の温度へと加熱することにより、前記画像を消去することができるので、記録媒体に対して繰り返し記録及び消去を可能とし、自己保持性に優れたフォトクロミック材を用いて高解像度で階調表現が可能な画像形成を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の画像記録媒体の断面構造を示す断面説明図である。
【図2】(a)〜(g)は、画像記録媒体に対する画像の記録及び消去のプロセスを示すプロセス説明図である。
【図3】(a)〜(c)は、第1〜第4の実施例の画像記録媒体の構造断面説明図、加熱及び露光の記録プロセス説明図、記録された状態の断面説明図をそれぞれ示している。
【図4】(a)〜(g)は、画像記録媒体の第5の実施例についての構造断面説明図及び画像記録媒体への記録及び消去のプロセスを示すプロセス説明図である。
【符号の説明】
1…支持体、 2…高分子液晶層、 3…保護層、 10…画像記録媒体、 11…支持体、 12a…第1の高分子液晶層、 12b…第2の高分子液晶層、 22…第1の発熱体(加熱手段)、 23…第2の発熱体、 24…第3の発熱体、 31…波長360nmの光、 32…波長460nmの光、 33…波長360nmの光、 41…第1の加熱領域、 42…第2の加熱領域、 43…第3の加熱領域、 51…支持体、 52…高分子液晶層、 52a…透明部、 60…ブラックランプ、 61…ガラス板、 62…ホットスタンプ(加熱手段)、 63…蛍光ランプ、 71…支持体、 72…第1の高分子液晶層、 72a…透明部、 73…分離層、 74…第2の高分子液晶層、 74a,74b…透明部
Claims (3)
- 支持体上に、高分子液晶を成膜して薄膜状の高分子液晶層を形成して成るシート状部材であって、前記高分子液晶層は、ガラス転位点の異なる複数の高分子液晶からなり、フォトクロミック化合物を含む一方、
このフォトクロミック化合物は、加熱手段による前記高分子液晶のガラス転移点以上の温度への加熱と、第1の波長域の光の露光とによって異性化し、この異性化によって前記高分子液晶層に光学的な変化を起こさせて画像を形成することを特徴とする画像記録媒体。 - フォトクロミック化合物を含み、ガラス転位点の異なる複数の高分子液晶からなる高分子液晶層が支持体上に形成された記録媒体に対し、
前記高分子液晶層における高分子液晶をガラス転移点以上の温度へ加熱すると同時に、前記フォトクロミック化合物の分子をより直線に近い形状から直線とはかけ離れた形状へと変化させる第1の波長域の光により露光を行うことによって、
前記フォトクロミック化合物を異性化させ、
この異性化によって前記高分子液晶層に光学的な変化を起こさせて前記記録媒体に画像を形成することを特徴とする画像形成方法。 - フォトクロミック化合物を含み、ガラス転位点の異なる複数の高分子液晶からなる高分子液晶層が支持体上に形成された記録媒体について、
前記フォトクロミック化合物を異性化させて前記高分子液晶層に光学的な変化を起こさせて形成した画像に対して、
前記フォトクロミック化合物を直線からかけ離れた形状から直線に近い形状へと変化させる第2の波長域の光を露光すると同時に、高分子液晶をガラス転位点以上の温度へと加熱することにより、前記画像を消去することを特徴とする画像消去方法。
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