JP3630714B2 - 第四級アンモニウムハイドロオキサイド乃至その塩の包接錯体並びに該包接錯体の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、特定の第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩をゲスト分子とし且つ特定のジオール化合物をホスト分子とする分子包接錯体及びその製造方法、並びに該第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩の吸湿防止方法関する。本発明は、特に農薬、フォトレジスト剤、医薬品、触媒として重要な化合物であるコリン、コリン塩及び(3−クロロ−2−ハイドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド等と、特定のジオール化合物とから成る新規な分子包接錯体及びその製造方法、並びにこれらの第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩の吸湿防止方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
本発明者らは既に、「ヒドラジン類の包接錯体、その製造及び該錯体を用いる分離法」(特開平1−192711号公報)において、ヒドラジン類とヒドロキシ化合物の包接錯体の製造方法を提案している。
【0003】
一方、コリン、マレイン酸ヒドラジッドコリン塩、及び(3−クロロ−2−ハイドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロライドは水溶液状態で、コリンクロライド、及びコリンブロマイドは、強い吸湿性を有する固体状態で使用されているが、その取り扱いを容易にするための提案は未だなされていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
この点について、具体例を挙げて説明すると、マレイン酸ヒドラジッドコリン塩は、植物成長調整剤として使用されているが、液状であり、固体剤としての利用はなされていない。近年、使用用途、散布方法の多様化等により、固体剤の開発が希望されている。また、コリンは、フォトレジスト剤として液体で使用されているが、室温での結晶化は困難である。更に、コリンハライド誘導体は固体だが、強い吸湿性を有しており、そのままでは取り扱いが必ずしも容易でなかった。
更に、これらの化合物は何れも強塩基であり、包接化により吸湿性の少ない固体化合物として提供可能になれば新用途開発が期待される。
【0005】
本発明者らは、前記提案に引き続き研究を重ねた結果、特定の第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩が特定のジオール化合物と分子包接錯体を形成すること、又該分子包接錯体の形成により該第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩の吸湿が防止できることを見いだし、本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明の目的は、特定の第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩を吸湿性のない固体状態で取り扱いを容易にできる分子包接錯体及びその製造方法、並びに該第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩の吸湿防止方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、下記式(1)もしくは(3)で表される第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩をゲスト分子とし且つジオール化合物として1,1’−ビス−β−ナフトールまたは1,1,6,6−テトラフェニルヘキサ−2,4−ジイン−1,6−ジオールをホスト分子とする分子包接錯体が提供される。
【化7】
式(1)中、Rは低級アルキル基であり、Xはハイドロオキシアニオン、ハライドイオンまたはマレイン酸ヒドラジドアニオンである。
【化8】
式(3)中、Rは低級アルキル基であり、Xはクロールイオンである。
【0008】
又、本発明によれば、下記式(1)もしくは(3)で表される第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩と、ジオール化合物として1,1’−ビス−β−ナフトールまたは1,1,6,6−テトラフェニルヘキサ−2,4−ジイン−1,6−ジオールとを溶液中で反応させることを特徴とする前記第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩をゲスト分子とし且つ前記ジオール化合物をホスト分子とする分子包接錯体の製造方法が提供される。
【化9】
式(1)中、Rは低級アルキル基であり、Xはハイドロオキシアニオン、ハライドイオンまたはマレイン酸ヒドラジドアニオンである。
【化10】
式(3)中、Rは低級アルキル基であり、Xはクロールイオンである。
更に、本発明によれば、ジオール化合物として1,1’−ビス−β−ナフトールまたは1,1,6,6−テトラフェニルヘキサ−2,4−ジイン−1,6−ジオールとの分子包接錯体を形成することによる、下記式(1)もしくは(3)で表される第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩の吸湿防止方法が提供される。
【化11】
式(1)中、Rは低級アルキル基であり、Xはハイドロオキシアニオン、ハライドイオンまたはマレイン酸ヒドラジドアニオンである。
【化12】
式(3)中、Rは低級アルキル基であり、Xはクロールイオンである。
【0009】
【作用】
ある化合物(分子)が他の分子を取り込んで錯体を形成するとき、この錯体を分子包接錯体と言い、前者の分子をホスト分子、後者の分子をゲスト分子と言う。
【0010】
本発明は、前記式(1)もしくは(3)で表される第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩とジオール化合物として1,1’−ビス−β−ナフトールまたは1,1,6,6−テトラフェニルヘキサ−2,4−ジイン−1,6−ジオールとの組み合わせが、前者がゲスト分子及び後者がホスト分子となった分子包接錯体を形成するという新規な知見に基づくものであり、前記第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩が上記分子包接錯体となることにより、室温で液体である前記第四級アンモニウムハイドロオキサイドを固体としての取り扱いを可能にしたものである。
【0011】
前記第四級アンモニウムハイドロオキサイドと前記ジオール化合物の分子包接錯体並びに前記第四級アンモニウム塩と前記ジオール化合物の分子包接錯体とでは、錯体形成の分子比が異なり、前者の場合ほぼ1:2、後者の場合ほぼ1:1である。
【0012】
前記第四級アンモニウムハイドロオキサイドの場合、該第四級アンモニウムハイドロオキサイドと前記ジオール化合物が水を1分子脱離して塩を形成し、該塩が更に、該ジオール化合物と反応して分子包接錯体を形成する。従って、分子包接錯体を形成するゲスト分子の第四級アンモニウムハイドロオキサイドとホスト分子のジオール化合物との分子比は1:2(但し、水が1分子脱離)となっている。
【0013】
一方、前記第四級アンモニウム塩の場合は、ゲスト分子が直接ホスト分子の前記ジオール化合物と反応して包接される。従って、分子包接錯体を形成するゲスト分子の第四級アンモニウム塩とホスト分子のジオール化合物との分子比は1:1となる。
【0014】
本発明では、前記式(1)もしくは(3)で表される第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩と、ジオール化合物として1,1’−ビス−β−ナフトールまたは1,1,6,6−テトラフェニルヘキサ−2,4−ジイン−1,6−ジオールとを溶液中で反応させることにより、上記分子包接錯体を簡単な操作でしかも高収率で製造することができる。
【0015】
【発明の好適態様】
本発明に使用するホスト化合物は、ジオール化合物であり、特に1,1’−ビス−β−ナフトール、即ち、下記式(4)
【0016】
【化13】
【0017】
の化合物、及び1,1,6,6−テトラフェニルヘキサ−2,4−ジイン−1,6−ジオール、即ち下記式(5)
【0018】
【化14】
【0019】
の化合物が好ましい。本発明に使用するゲスト化合物は、前記第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩であり、その適当なものとして、次のものが使用される。尚以下の式中、低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が例示されるが、メチル基が好適である。
【0020】
式(1)
式中、Rは低級アルキル基であり、Xはハイドロオキシアニオン、ハライドイオンまたはマレイン酸ヒドラジドアニオンである、
である化合物。特にコリン水溶液、マレイン酸ヒドラジッドコリン塩水溶液、コリンクロライド、コリンブロマイド。
【0021】
式(2)
式中、Rは低級アルキル基であり、R1は低級アルキル基またはアラールキル基であり、Xはハイドロオキシアニオンまたはハライドイオンである、
である化合物。特にテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラn−プロピルアンモニウムクロライド、テトラn−プロピルアンモニウムブロマイド、テトラn−ブチルアンモニウムクロライド、テトラn−ブチルアンモニウムブロマイド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリメチルベンジルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムブロマイド。
【0022】
式(3)
式中、Rは低級アルキル基であり、Xはクロールイオンである、
である化合物。特に(3−クロロ−2−ハイドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド水溶液。
【0023】
本発明の包接錯体合成に使用する化合物は、いずれも市販品が利用できる。
【0024】
本発明の包接錯体は、以下のような簡単な方法で合成できる。ホスト化合物/第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩=1〜過剰量(モル比)を、極性溶媒(例えば、メタノール−水混合溶媒、メタノール等のアルコール溶媒)に溶解し、室温で、1〜7日間放置し、析出結晶を濾別するという操作で、目的物である包接錯体を合成できる。
【0025】
得られた包接錯体の包接比は、ホスト化合物/第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩=1〜2/1である。単離した包接錯体は、固体ゆえに、室温、大気中での取り扱いが容易である。
【0026】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に寄って何ら制限されるものではない。なお、ジオール化合物/第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩の包接比の決定は、NMR(60MHz)及び元素分析により行った。
【0027】
(実施例1)
1,1,6,6−テトラフェニルヘキサ−2,4−ジイン−1,6ジオール/マレイン酸ヒドラジドコリン塩包接錯体の合成
1,1,6,6−テトラフェニルヘキサ−2,4−ジイン−1,6−ジオール1.0g(2.41mmol)と60%マレイン酸ヒドラジドコリン塩水溶液30g(83.62mmol)を、メタノール20gに溶解し、2日間、室温で放置し、析出結晶1.0g、収率79.4%で単離した。NMRから、包接錯体の分子比が、1,1,6,6−テトラフェニルヘキサ−2,4−ジイン1,6−ジオール/マレイン酸ヒドラジドコリン塩=2/1であることを確認した。
mp 155−158℃
【0028】
(実施例2)
1,1’−ビス−β−ナフトール/マレイン酸ヒドラジドコリン塩包接錯体の合成
1,1’−ビス−β−ナフトール1.0g(3.49mmol)と、60%マレイン酸ヒドラジドコリン塩水溶液20g(55.75mmol)を、メタノール20gに溶解し、1日間、室温で放置し、析出結晶1.30g、収率74.3%で単離した。NMR、元素分析から、包接錯体の分子比が、1,1’−ビス−β−ナフトール/マレイン酸ヒドラジドコリン塩=1/1であることを確認した。
mp 211−214℃
【0029】
(実施例3)
1,1’−ビス−β−ナフトール/コリンクロライド包接錯体の合成
1,1’−ビス−β−ナフトール858mg(3.00mmol)と、95%コリンクロライド441mg(3.00mmol)を、メタノール20gに溶解し、1日間、室温で放置し、析出結晶610mg、収率47.7%で単離した。NMR、元素分析から、包接錯体の分子比が、1,1’−ビス−β−ナフトール/コリンクロライド=1/1であることを確認した。
mp 280−285℃
【0030】
(実施例4)
1,1’−ビス−β−ナフトール/コリンクロライド包接錯体の合成
1,1’−ビス−β−ナフトール1.145g(4.00mmol)と、95%コリンクロライド2.35g(16.0mmol)を、メタノール30gに溶解し、実施例3と同様な操作で、1,1’−ビス−β−ナフトール/コリンクロライド包接錯体1.38g、収率81.0%で単離した。
【0031】
(実施例5)
1,1’−ビス−β−ナフトール/コリン包接錯体の合成
1,1’−ビス−β−ナフトール1.145g(4.00mmol)と、48%コリン水溶液1.009g(4.00mmol)を、メタノール20gに溶解し、2日間、室温で放置し、析出結晶760mg、収率27.4%で単離した。NMR、元素分析から、包接錯体の分子比が、1,1’−ビス−β−ナフトール/1,1’−ビス−β−ナフトールのコリン塩/水=1/1/1であることを確認した。
mp 142−145℃
【0032】
(実施例6)
1,1’−ビス−β−ナフトール/コリン包接錯体の合成
1,1’−ビス−β−ナフトール1.145g(4.00mmol)と、48%コリン水溶液2.02g(8.00mmol)を、メタノール30gに溶解し、実施例5と同様な操作で、1,1’−ビス−β−ナフトール/1,1’−ビス−β−ナフトールのコリン塩/水包接錯体1.30g、収率46.80%で単離した。
【0033】
(実施例7)
1,1’−ビス−β−ナフトール/コリンブロマイド包接錯体の合成
1,1’−ビス−β−ナフトール858mg(3.00mmol)と、コリンブロマイド1120mg(6.08mmol)を、メタノール20gに溶解し、5日間、室温で放置し、析出結晶840mg、収率59.5%で単離した。NMR、元素分析から、包接錯体の分子比が、1,1’−ビス−β−ナフトール/コリンブロマイド=1/1であることを確認した。
mp 267−270℃
【0034】
(実施例8)
1,1’−ビス−β−ナフトール/テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド包接錯体の合成
1,1’−ビス−β−ナフトール1.145g(4.00mmol)と、15%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液2.430g(4.00mmol)を、メタノール30gに溶解し、3日間、室温で放置し、析出結晶1.05g、収率40.1%で単離した。NMR、元素分析から、包接錯体の分子比が、1,1’−ビス−β−ナフトール/1,1’−ビス−β−ナフトールのテトラメチルアンモニウム塩/水=1/1/0.5であることを確認した。
mp 258−261℃(分解)
【0035】
(実施例9)
1,1’−ビス−β−ナフトール/テトラメチルアンモニウムクロライド包接錯体の合成
1,1’−ビス−β−ナフトール858mg(3.00mmol)と、テトラメチルアンモニウムクロライド658mg(6.00mmol)を、メタノール20gに溶解し、3日間、室温で放置し、析出結晶1010mg、収率85.0%で単離した。NMR、元素分析から、包接錯体の分子比が、1,1’−ビス−β−ナフトール/テトラメチルアンモニウムクロライド=1/1であることを確認した。
mp >290℃
【0036】
(実施例10)
1,1’−ビス−β−ナフトール/テトラメチルアンモニウムブロマイド包接錯体の合成
1,1’−ビス−β−ナフトール858mg(3.00mmol)と、テトラメチルアンモニウムブロマイド930mg(6.04mmol)を、メタノール20gに溶解し、3日間、室温で放置し、析出結晶710mg、収率53.7%で単離した。NMR、元素分析から、包接錯体の分子比が、1,1’−ビス−β−ナフトール/テトラメチルアンモニウムブロマイド=1/1であることを確認した。
mp >290℃
【0037】
(実施例11)
1,1’−ビス−β−ナフトール/(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド包接錯体の合成
1,1’−ビス−β−ナフトール858mg(3.00mmol)と、65%(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド水溶液1736mg(6.00mmol)を、メタノール20gに溶解し、5日間、室温で放置し、析出結晶1190mg、収率83.6%で単離した。NMR、元素分析から、包接錯体の分子比が、1,1’−ビス−β−ナフトール/(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド=1/1であることを確認した。
mp 190−193℃
【0038】
【発明の効果】
本発明によれば、水溶液状態又は強い吸湿性を有する固体状態で使用されている第四級アンモニウムハイドロオキサイドまたはその塩をゲスト分子とし、ジオール化合物をホスト分子とする分子包接錯体を形成することにより、▲1▼液体化合物は固体状態で、▲2▼強い吸湿性を有する固体は、吸湿性を包接化により改良して使用することが可能になる。
【0039】
▲1▼液剤としての使用に限定されているマレイン酸ヒドラジドコリン塩の固体剤としての用途、▲2▼液体として使用されているコリン又はテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドの強塩基化合物を固体として提供可能である。更に、コリンハライド等の強い吸湿性も包接化により改良される。
Claims (5)
- 式(1)もしくは(3)で表される第四級アンモニウム塩とジオール化合物が、実質上1:1の分子比で存在する請求項1記載の分子包接錯体。
- 式(1)もしくは(3)で表される第四級アンモニウムハイドロオキサイドとジオール化合物が、実質上1:2の分子比で存在する請求項1記載の分子包接錯体。
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