JP3629674B2 - 建物の制振構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、基礎梁の履歴減衰作用(自身の変形により外部エネルギを吸収する作用)で地震エネルギを吸収することにより、地震に対する上部建物の応答性を低減するようにした建物の制振構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、地震対策を講じた建築構造物として、建物全体を基礎から切り離して浮かせた状態にし、建物の下端と基礎の間に免震体を介挿するとともに、建物の下端の外側壁と基礎との間にダンパを設けて、建物およびその支持部からなる振動系の固有振動数を小さくした構造が知られている。
【0003】
この構造によれば、免震体の介挿によって建物の固有周期が地震波の卓越周期よりも長くなるので、上部建物に作用する地震力を低減させることができるとともに、ダンパによって振動エネルギを吸収することで建物の安全性を確保することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記従来の構造は、地震による微小な水平方向の振動には効果があるが、大地震時の高層建築物における転倒モーメントの影響までは考慮しておらず、一層の応答性低減が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記事情を考慮し、大地震時に建物に入力するエネルギを有効に減少させることができ、地震に対する応答性の低減を図ることのできる建物の制振構造を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、建物の荷重を基礎を介して地盤に伝える杭群のうち、建物の外周隅部に位置する杭のさらに外側に、地震時の軸力を負担する軸力負担杭を配置し、前記外周隅部の杭の頭部と軸力負担杭の頭部とを、自身が変形することで地震エネルギを吸収する履歴減衰型の基礎梁で連結したことを特徴とする。
【0007】
この構造では、外周隅部の杭の外側に配した軸力負担杭が地震時の軸力を負担するので、それだけ他の杭、特に外周隅部の杭の地震時の負担を減らすことができる。また、軸力負担杭が地盤に拘束されるので、建物に転倒モーメントが作用した場合、基礎梁には曲げモーメントがかかり、過大な転倒モーメントが建物に作用した場合には、基礎梁が降伏することで、その履歴減衰作用により地震エネルギを吸収する。従って、上部建物の地震に対する応答性を低減することができる。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、前記杭群が縦横多列に配列され、前記軸力負担杭が前記外周隅部の各杭に対して2本ずつ、前記杭群の縦列の延長上と横列の延長上に配置され、2本の軸力負担杭の頭部と外周隅部の杭の頭部が前記基礎梁で連結されていることを特徴とする。
【0009】
この構造では、杭群の縦列と横列の各延長上に軸力負担杭を設けたので、任意の方向の転倒モーメントに対して(例えば縦方向の転倒モーメントに対しても、横方向の転倒モーメントに対しても)、基礎梁が減衰作用を発揮することができる。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2において、前記基礎梁が、X形配筋を備えた鉄筋コンクリートで構成されていることを特徴とする。
【0011】
この構造では、せん断耐力を向上させるX形配筋を基礎梁内に埋設したので、基礎梁の降伏時のエネルギ吸収能力が高まる。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかにおいて、前記建物の基礎として前記杭群の上部に配された基礎スラブを、前記軸力負担杭の上部を覆う位置まで拡大して設け、該基礎スラブに軸力負担杭の頭部を連結したことを特徴とする。
【0013】
この構造では、軸力負担杭を、外側に拡張した基礎スラブに連結したので、杭群の受け持つ水平力の負担を、軸力負担杭にも分担させることができる。特に、外周隅部の杭は、建物から加わる水平力を一番多く負担するが、その負担を軽減することができるので、建物の荷重を支持する杭群の損害を最小限に止めることができる。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかにおいて、前記軸力負担杭が、建物の施工時は建物の基礎に対し上下方向に絶縁され、施工完了時に基礎に対して連結されたものであることを特徴とする。
【0015】
この構造では、軸力負担杭が、建物の重量を負担しないように施工されているので、建物から加わる水平力と地震時の付加軸力を最も多く負担することができる。そして、軸力負担杭が建物の重量自体は負担していないので、大地震時に基礎梁や軸力負担杭が破損した場合でも、上部建物の支持性能には影響がほとんど出ない。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は実施形態の構造における杭の配置を示す平面図、図2(a)は図1のIIa−IIa矢視断面図、図2(b)は図2(a)のIIb部の配筋内容を示す断面図である。
【0017】
この制振構造では、矩形平面の建物1(図1では建物の位置を符号1で示す)の重量が、矩形版状の基礎スラブ2を介して、縦横多列(3×4列)に配置した12本の杭3の群により支持されている。杭3群は、建物1の直下に位置している。また、四隅の杭3aのさらに外側には、地震時の軸力を負担する軸力負担杭4が配されている。そして、外周隅部の杭3aの頭部と軸力負担杭4の頭部とが基礎梁7によって連結されている。
【0018】
この場合の基礎梁7は、自身が変形することで地震エネルギを吸収する履歴減衰作用をなすものであり、図2(b)に示すように、X形配筋10を備えた鉄筋コンクリートで構成されている。なお、軸力負担杭4は、外周隅部の各杭3aに対して2本ずつ、杭3群の縦列の延長上と横列の延長上に配置されており、2本の軸力負担杭4の頭部と、1本の外周隅部の杭3aの頭部が基礎梁7で連結されている。
【0019】
また、この実施形態では、基礎スラブ2が軸力負担杭4の上部を覆う位置まで拡張されており、基礎スラブ2に軸力負担杭4の頭部が連結されている。なお、拡張した基礎スラブ2は、軸力負担杭4の頭部を含む外周部では厚く形成され、それより内周部では、下面に周回溝6を形成することで薄く形成されている。それにより、基礎スラブ2の薄い部分では、基礎梁7が主として軸力負担杭4と外周隅部の杭3aとの間の力を伝達する。
【0020】
また、この場合の軸力負担杭4は、図3(a)に示すように、施行時には上下方向の付着を絶縁するべく、杭頭部の鉄筋4aが基礎スラブ2(あるいは基礎梁7)の開口16内にただ単に挿入されており、建物完成直前(施工完了時)に、図3(b)に示すように、開口16内にコンクリート17を充填することで、基礎スラブ2と一体に結合されたものである。従って、この軸力負担杭4は、建物1の重量は負担せず、主として地震時の軸力及び水平力のみを負担できるようになっている。
【0021】
次に作用を説明する。
上記の制振構造では、外周隅部の杭3aの外側に配した軸力負担杭4が、地震時の軸力を負担するので、それだけ他の杭3、特に外周隅部の杭3aの地震時の負担を減らすことができる。また、建物1の外側に位置する軸力負担杭4が地盤に拘束され、基礎梁7により建物1直下の杭3aと連結されているので、図4に示すように、建物1に転倒モーメントM1が作用した場合、基礎梁7に曲げモーメントM2(一方は引き抜きによる曲げモーメントで、他方は押し込みによる曲げモーメント)が作用することになる。そして、過大な転倒モーメントM1が建物1に作用した場合には、曲げモーメントM2により基礎梁7が降伏に至り、その過程で履歴減衰作用により地震エネルギを吸収する。従って、上部建物1に対する地震入力を低減することができる。
【0022】
特に、実施形態の構造の場合、杭3群の縦列と横列の各延長上に軸力負担杭4を設けているので、縦方向及び横方向を含む任意の方向の転倒モーメントに対して、基礎梁7の減衰作用を有効に発揮させることができる。また、せん断耐力を向上させるためのX形配筋10を基礎梁7内に埋設しているので、基礎梁7の降伏時のエネルギ吸収能力が高まり、有効な制振効果を発揮することができる。
【0023】
さらに、軸力負担杭4に対し基礎スラブ2を拡張した上で連結しているので、建物1直下の杭3群の受け持つ水平力の負担を、軸力負担杭4に分担させることができ、特に水平力を一番負担する外周隅部の杭3aの負担を軽減することができ、建物1の荷重を支持する杭群の損害を最小限に止めることができる。
【0024】
また、軸力負担杭4は建物1の重量を負担しないように施工されているので、建物1から加わる水平力と地震時の付加軸力を最も多く負担することができる。そして、軸力負担杭4が建物1の重量を負担していないので、大地震時に基礎梁7や軸力負担杭4が破損した場合でも、上部建物1の支持性能には影響がほとんど出ないようにすることができる。
【0025】
なお、基礎スラブ2は必ずしも軸力負担杭4の上まで拡張しなくてもよい。その場合は、基礎梁7だけで軸力負担杭4と外周隅部の杭3aとが連結された形となる。
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、建物の外周隅部に位置する杭のさらに外側に軸力負担杭を配置し、外周隅部の杭の頭部と軸力負担杭の頭部とを履歴減衰型の基礎梁で連結したので、建物に過大な転倒モーメントが作用した場合には、基礎梁が降伏することで、地震エネルギを吸収することができ、その結果、上部建物の地震に対する応答性を低減することができる。
【0027】
請求項2の発明によれば、建物の荷重を支持する杭群の縦列と横列の各延長上に軸力負担杭を設けたので、任意の方向の転倒モーメントに対して基礎梁の減衰作用を発揮させることができる。
【0028】
請求項3の発明によれば、X形配筋を基礎梁内に埋設したので、基礎梁の降伏時のエネルギ吸収能力を高めることができ、より高い制振効果を発揮させることができる。
【0029】
請求項4の発明によれば、軸力負担杭を、外側に拡張した基礎スラブに連結したので、杭群の受け持つ水平力の負担を軸力負担杭に分担させることができ、特に外周隅部の杭の負担の軽減により地震被害を最小限に止めることができる。
【0030】
請求項5の発明によれば、軸力負担杭が建物の重量を負担しないので、地震時の水平力と軸力を最も多く負担することができ、大地震時に基礎梁や軸力負担杭が破損した場合でも上部建物の支持性能に影響を出さずにすむ。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態における杭の配置を示す平面図である。
【図2】(a)は図1のIIa−IIa矢視断面図、(b)は(a)図のIIb部の配筋内容を示す図である。
【図3】同実施形態における軸力負担杭と基礎スラブの結合のタイミングについて説明するための図であり、(a)は施工時の状態、(b)は施工完了時の状態を示す断面図である。
【図4】実施形態の構造の制振メカニズムの説明図である。
【符号の説明】
1 建物
2 基礎スラブ
3 杭
3a 四隅の杭(外周隅部の杭)
4 軸力負担杭
7 基礎梁
10 X形配筋
Claims (5)
- 建物の荷重を基礎を介して地盤に伝える杭群のうち、建物の外周隅部に位置する杭のさらに外側に、地震時の軸力を負担する軸力負担杭を配置し、前記外周隅部の杭の頭部と軸力負担杭の頭部とを、自身が変形することで地震エネルギを吸収する履歴減衰型の基礎梁で連結したことを特徴とする建物の制振構造。
- 前記杭群が縦横多列に配列され、前記軸力負担杭が前記外周隅部の各杭に対して2本ずつ、前記杭群の縦列の延長上と横列の延長上に配置され、2本の軸力負担杭の頭部と外周隅部の杭の頭部が前記基礎梁で連結されていることを特徴とする請求項1記載の建物の制振構造。
- 前記基礎梁が、X形配筋を備えた鉄筋コンクリートで構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の建物の制振構造。
- 前記建物の基礎として前記杭群の上部に配された基礎スラブを、前記軸力負担杭の上部を覆う位置まで拡大して設け、該基礎スラブに軸力負担杭の頭部を連結したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の建物の制振構造。
- 前記軸力負担杭が、建物の施工時は建物の基礎に対し上下方向に絶縁され、施工完了時に基礎に対して連結されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の建物の制振構造。
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