JP3625159B2 - 演算装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転体の回転速度を演算する演算装置に関し、特に、自動車の車輪速の演算に適用するのに好適な演算装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、回転体の回転速度を演算する演算装置として、例えば、自動車に搭載された車輪速演算装置がよく知られている。このような車輪速演算装置として、例えば、特開平6−92116号公報に記載されている技術が知られている。この公報には、自動車の各タイヤの回転角速度を算出し、これに基づいてタイヤ空気圧低下検出を行う技術について記載されているもので、特に、この検出精度を高めるために、車輪速パルスを正確にカウントする技術について記載されている。この従来技術にあっては、車輪速センサから入力したパルスが所定数貯まった時点から、次にパルスが所定数貯まる時点までの間に、今回のパルスデータに基づいて車輪速の演算や、この車輪速を用いて制御システム用の演算を行うよう構成されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の従来技術にあっては、車輪速センサが出力するパルスにノイズが重畳するなどした場合、通常では起こり得ないような早い時点でパルスが所定数貯まってしまい、車輪速や他のシステム用の演算を行っている途中に、次の演算開始タイミングになってしまって、現在実行中の演算が無効になってしまうおそれがあるという問題点があった。さらに、上述のようにノイズが重畳した場合、演算した車輪速が過大な値となるおそれもあった。
【0004】
本発明は、上述の従来の問題点に着目してなされたもので、ノイズが重畳しても高い精度で車輪速演算を含む演算を実行できるようにすることを目的としており、さらには、この目的を安価あるいは低容量で達成できるようにすることを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、回転体の回転速度に対応したパルスを出力する回転速度検出手段と、この回転速度検出手段から出力されたパルスを所定数積算する積算手段と、この積算手段に所定数パルスが積算された時点で、今回のパルス積算周期に基づいて回転速度を求める演算を実行する回転速度演算手段と、を有した演算装置において、前記回転速度演算手段が演算に要する時間を、前記積算手段が正常回転速度範囲内で出力されるパルスを所定数積算するのに要する時間よりも短く設定し、前記回転速度演算手段が回転速度演算中に、前記積算手段でパルスが所定数積算されたときには異常と判断し、積算手段におけるパルス積算値を無効とする異常判断手段を設けたことを特徴とする手段とした。
【0006】
また、請求項2に記載の発明は、回転体の回転速度に対応したパルスを出力する回転速度検出手段と、この回転速度検出手段から出力されたパルスを所定数積算する積算手段と、この積算手段に所定数パルスが積算された時点で、今回のパルス積算周期に基づいて回転速度を求める演算を実行する回転速度演算手段と、この回転速度演算手段で演算された回転速度を基に制御用演算を行う制御手段と、を有した演算装置において、前記回転速度演算手段が回転速度を求める演算を行うとともに前記制御手段が制御用演算を行うのに要する時間を、前記積算手段が正常回転速度範囲内で出力されるパルスを所定数積算するのに要する時間よりも短く設定し、前記回転速度演算手段の回転速度演算中あるいは制御手段の制御用演算中に、前記積算手段でパルスが所定数積算されたときには異常と判断し、前記積算手段におけるパルス積算値を無効とする異常判断手段を設けたことを特徴とする手段とした。
【0007】
なお、請求項3に記載の発明のように、請求項1または2に記載の演算装置において、前記異常判断手段を、異常と判断して無効としたパルス積算値はメモリから消去するよう構成してもよい。
【0008】
また、請求項4に記載の発明のように、請求項2に記載の演算装置において、前記制御手段は、前記制御用演算として予め定めた複数の演算処理を順次行う演算処理手段と、複数の演算処理のそれぞれの終了数をカウントするカウント手段と、前記複数の演算処理の全てが終了したときにカウンタをリセットするリセット手段と、を備え、前記異常判断手段は、前記カウント手段のカウント値が0以外のときに前記積算手段でパルスが所定数積算されたときに異常と判断し、前記演算手段がそれ以降の演算処理を実行するのを中止するよう構成されているとともに、この異常判断による処理の中止前の演算処理の処理結果を保持する保持手段を備え、前記制御手段は、異常判断を行った次の制御用演算時には、中止した処理よりも前工程の演算処理には保持手段に保持した演算結果を用いるとともに、中止した処理以降の演算処理を行って今回の演算処理結果とするよう構成してもよい。
【0009】
【発明の作用および効果】
請求項1に記載の発明では、回転速度検出手段が出力するパルスを積算手段で積算し、積算手段の積算値が所定数になったら、この時点で、回転速度演算手段による回転速度演算を開始する。また、積算手段は、積算値が所定数になった時点で、積算値をクリアして次回の演算処理に向けて、新たなパルスの積算を開始し、一方、回転速度演算手段は、回転速度の演算を終了したら、積算手段の積算値が再び所定数になるのを待つ。なお、回転速度演算手段は、積算値が所定数になった時点で、再びこの積算値と周期に基づいて回転速度の演算を行う。
【0010】
このような作動を行っているときに、回転速度検出手段が出力するパルスが正常な場合は、回転速度演算手段が演算に要する時間は、積算手段が所定数を積算するのに要する時間よりも短く、今回の積算値に基づいて回転速度の演算が成された後に、積算手段において次回の所定数の積算が成され、この積算に応じて回転速度演算手段が、再び回転速度演算を行うことになる。
【0011】
ところが、回転速度検出手段が出力するパルスにノイズが重畳されるなどの異常が生じてパルス数が多くなった場合、積算手段において所定数を積算するタイミングが早くなる。そこで、このタイミングが、回転速度演算手段が前回の積算値に基づいて回転速度演算を終了するよりも早いタイミングになると、異常判断手段が異常発生と判断して、今回、積算手段において積算されているパルス積算値を無効とする。
【0012】
したがって、請求項1に記載の発明にあっては、ノイズの重畳などにより積算手段における所定数の積算が早いタイミングで成された場合、これを無効とするため、ノイズの影響を受けることなく高い精度で回転速度を演算できるという効果を奏する。
【0013】
請求項2に記載の発明では、回転速度検出手段が出力するパルスが正常な場合は、回転速度演算手段が回転速度演算を実行するとともに制御手段が制御用演算を実行するのに要する時間は、積算手段が所定数を積算するのに要する時間よりも短い。よって、今回の積算値に基づいて回転速度演算および制御用演算が成された後に、積算手段において次回の所定数の積算が成され、この積算に応じて回転速度演算手段および制御手段が、それぞれ、再び回転速度演算および制御用演算を行うことになる。
【0014】
それに対して、回転速度検出手段が出力するパルスにノイズが重畳されるなどの異常が生じてパルス数が多くなった場合、積算手段において所定数を積算し終えるタイミングが早くなる。そこで、この積算タイミングが、回転速度演算手段および制御手段により前回の積算値に基づいた回転速度演算および制御用演算を終了するよりも早いタイミングになると、異常判断手段が異常発生と判断して、今回、積算手段において積算されているパルス積算値を無効とする。
【0015】
したがって、請求項2に記載の発明にあっては、ノイズの重畳などにより積算手段における所定数の積算が早いタイミングで成された場合、これを無効とするため、ノイズの影響を受けることなく高い精度で回転速度の演算および制御用演算を実行できるという効果を奏する。
【0016】
請求項3に記載の発明では、異常判断手段が、異常判断時に無効としたパルス積算値は、メモリから消去する。したがって、この無効と判断したパルス積算値を別途メモリすることが不要で、それだけ低コストで構成することができるという効果を奏する。
【0017】
請求項4に記載の発明にあっては、通常、積算手段で所定数のパルスが積算されたら、回転速度演算手段が回転速度を演算し、さらに、この演算結果に基づいて制御手段が制御用演算を行う。この制御手段は、この制御用演算として、複数の演算処理を順に実行するものであり、各演算処理を実行し終えるたびにカウント手段により処理の終了数をカウントし、複数の演算処理の全てが終了すると、カウンタをリセットする。
【0018】
ここで、パルスに異常がない場合には、複数の演算処理の全てが終了してカウンタが0にリセットされた後、積算手段のパルス積算値が所定数となるもので、したがって、異常判断手段は、異常と判断することはない。
【0019】
それに対して、パルスにノイズが重畳されるなどの異常が発生して、制御手段が制御を行っている途中の時点で積算手段のパルス積算値が所定数に達した場合には、カウント手段のカウント値が0以外のタイミングで積算手段が所定数を積算することになる。したがって、異常判断手段が、異常と判断し、まず、制御手段が、以降の演算処理を実行するのを中止し、また、中止よりも前の時点の演算処理結果を保持手段に保持する。
【0020】
その後、次の積算により積算手段の積算値が所定数となると、回転速度演算手段ならびに制御手段は、それぞれ演算を実行するが、制御手段にあっては、保持手段に保持されている演算処理結果を用いるとともに、それ以降の演算処理を前回保持された処理結果に基づいて実行する。
【0021】
このように請求項4に記載の発明にあっては、異常判断を行った時には、その判断の次の時点における制御手段の演算処理では、保持手段に保持されている前回処理を中止する以前の演算処理結果を用いて演算処理を行うため、異常判断時における演算負荷を抑えることができ、ノイズが重畳しても高い精度で車輪速演算を含む演算を実行することを低容量の演算手段により達成できるという効果を奏する。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(実施の形態1)
実施の形態1のブレーキ装置は、請求項2および4に記載の発明に対応している。
【0023】
図1は実施の形態1の演算装置を有した車両制御装置が搭載された車両のシステム図であって、この車両制御装置は、検出した車両挙動に応じてブレーキユニットBUの作動、ならびにエンジンENGの駆動状態、および自動変速機ATの変速を制御するよう構成されている。
【0024】
図においてMCUはメインコントロールユニットであって、車両挙動を検出する各センサ1,2,3からの入力に基づいて車両挙動を判定するとともにブレーキユニットBUに向けて制御信号を出力し、かつ、自動変速機ATの制御を行うATコントロールユニットATCUならびにエンジンENGの駆動を制御するENGコントロールユニットENGCUに向けて必要な信号を出力するよう構成されている。
【0025】
前記メインコントロールユニットMCUは、車両挙動を検出するセンサとしては、各輪の車輪速を検出する車輪速センサ1と、操舵角を検出する舵角センサ2と、車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ3とが設けられている。なお、車輪速センサ1は、特許請求の範囲の回転速度検出手段に相当するものであり、車輪Wが1回転すると所定数Nのパルスを出力する周知のもので、本実施の形態では、例えば、N=42である。
【0026】
さらに、前記メインコントロールユニットMCUは、特許請求の範囲の回転速度演算に相当する車輪速演算を実行するとともに、特許請求の範囲の制御用演算に相当するタイヤ異常警報制御を実行するよう構成され、かつ、車輪速センサ1の出力パルス異常を判断する特許請求の範囲の異常判断手段を備えている。
【0027】
なお、前記タイヤ異常警報制御は、各輪Wの空気圧に異常が無いかを判定して異常がある場合には、これを報知するもので、このタイヤ異常警報制御は、後述するが、基本的には以下の考え方に基づいて異常判断を行うものである。すなわち、4輪のいずれかのタイヤ空気圧が正常圧よりも低下すると、この輪のタイヤ半径が正常圧のタイヤ半径よりも小さくなる結果、この異常輪の車輪速が正常輪の車輪速に比べて僅かに高速になる。このようにある車輪の車輪速が他の輪よりも僅かに高速の状態が所定異常続いたときにはその輪のタイヤ空気圧が低下していると判断する。
【0028】
上述のメインコントロールユニットMCUの制御流れについて、フローチャートを参照しつつ説明する。
図2は全体の制御流れを示すフローチャートであって、ステップ10では、特許請求の範囲の積算手段に相当するパルスカウンタ(図示省略)にカウントされるパルス数NCNTが所定数2N(=84)以上となったか否かを判定し、所定数2Nを越えればステップ11に進み、所定数2Nを越えない間はステップ18に進む。なお、前記パルスカウンタは、車輪Wが2回転するのに相当するパルスをカウントするもので、各輪についてそれぞれ行う。
【0029】
ステップ11では、パルス異常判断フラグIHFが1であるか否かを判定し、IHF=1であればステップ12に進んでIHF=0にリセットし、IHF≠1であればステップ13に進んでIHF=0にリセットする。なお、この異常判断フラグIHFは、初期設定時は0にリセットされる。
【0030】
ステップ14では、後述する処理カウンタSHCが0以外であるか否かを判定し、0以外の場合はステップ15に進んでパルスカウンタに積算したパルス数NCNTを0にクリアし、続くステップ16において異常判断フラグIHF=1にセットする。また、ステップ14において処理カウンタSHCが0以外の場合はステップ17に進んで、パルスカウンタに積算したパルス数NCNTを0にクリアする。
【0031】
また、ステップ10においてパルス数NCNTが2N(=84)に満たない場合は、ステップ18に進んで異常判断フラグIHFが1にセットされているか否かを判定し、IHF=1の場合はステップ10に戻り、IHF≠1の場合はステップ19に進んで処理カウンタSHCが0以外であるか否かを判定し、処理カウンタSHCが0であればステップ10に戻り、処理カウンタSHCが0以外の場合はステップ20に進む。
【0032】
ステップ20では、処理カウンタSHCが0であるか否かを判定し、SHC=0の場合はステップ23に進んで処理Aを実行し、SHC≠0の場合はステップ21に進む。なお、この処理カウンタSHCは、後述する複数の演算処理(ステップ23,24,25)を実行し終えるたびに加算(インクリメント)されるカウンタであり、ステップ26に示す最後の演算処理である処理Dを実行すると0にリセットされる。すなわち、この処理カウンタSHCは、演算処理の進行程度を示すものである。
【0033】
ステップ21では、処理カウンタSHC=1であるか否か判定し、SHC=1の場合はステップ24に進んで処理Bを実行し、SHC≠1の場合はステップ22に進む。
【0034】
ステップ22では、処理カウンタSHC=2であるか否か判定し、SHC=2の場合はステップ25に進んで処理Cを実行し、SHC≠2の場合はステップ26に進んで処理Dを実行する。そして、この処理Dを終了したらステップ27に進んで処理カウンタSHC=0にリセットし、処理A,B,Cの実行後は、まだ処理の途中であるので、ステップ28に進んで処理カウンタSHCを1だけ加算(インクリメント)する。
【0035】
最後にステップ29に進んで10msの経過を判定して10msが成果したらステップ10に戻る。
【0036】
次に、ステップ23からステップ26の処理Aから処理Dの車輪速演算処理ならびにタイヤ異常警報制御の詳細について説明する。
【0037】
図3は車輪速演算処理ならびにタイヤ異常警報制御の全体を示すフローチャートであって、まず、ステップ101において、各輪についてパルスカウントにおいて積算したパルス数NCNTxxと周期TCNTxxとから車輪速Vxxを求め、続くステップ102で、パルス数NCNTxxおよび周期TCNTxxを0にクリアする。これらステップ101およびステップ102の処理が回転速度演算手段による回転速度演算に相当する。
【0038】
なお、図2においても示したパルス数NCNTxxをカウントするパルスカウンタは、メインコントロールユニットMCUに含まれ、車輪速演算処理における車輪速パルス測定は、図2の制御と並列のサブルーチンにおいて処理される。図4はこの車輪速パルス測定の流れを示すフローチャートであって、まず、ステップ91で、各車輪速センサ1から得られるパルスが入力される毎にパルス数NCNTxxをインクリメントし、続くステップ92において、FRC(フリーランニングカウンタ)キャプチャ値を加算して周期TCNTxxを求める。この車輪速センサ1から出力されるパルス数NCNTを、タイヤ2回転の周期TCNTで割って各車輪速Vxxが得られる。ここでxxは、右前FR,左前FL,右後RR,左後RLのそれぞれを示す。
【0039】
以下の、ステップ103からステップ113は、タイヤ異常の警報判断を行うか否かの判定を行うもので、所定の判定条件が成立しない不適切な走行状態の場合には、警報判断を行うことなく1回の流れを終える。
【0040】
ステップ103では、4輪のうちで最も低い値が所定速度である15km/h未満の低速走行時であるか否かを判定し、15km/h未満の低速走行時には、警報判断を行うことなく1回の流れを終え、15km/h以上の場合にステップ104に進む。すなわち、低速走行時には路面の凹凸などによる車輪速への影響があるため、車輪速に基づいてタイヤ空気圧異常を判定するには不適切として警報判断を行わない。
【0041】
ステップ104では、図外のストップランプスイッチSTSがONになっているか否か、すなわち制動中であるか否かを判定し、制動中であれば警報判断を行うことなく1回の流れを終え、制動中でなければステップ106に進む。すなわち、制動時には、タイヤスリップなどによる車輪速への影響があるため、車輪速に基づいてタイヤ空気圧異常を判定するには不適切として警報判断を行わない。
【0042】
ステップ105では、各輪の加速度ACCxxを演算する。この場合、今回の車輪速Vxxから、前回(10ms前)の車輪速Vxx10ms前を差し引いた値に基づく演算を行う。続くステップ106では、各輪の加速度ACCxxの最も高い値を求め、この値が所定のしきい値である+0.1gよりも大きいか否かを判定し、+0,1gよりも大きい加速時には警報判断を行うことなく1回の流れを終え、+0.1g未満でステップ107に進む。ステップ107では、4輪の加速度の最も低い値を求め、この値が所定の値である−0.1gよりも低い減速時には警報判断を行うことなく1回の流れを終える。すなわち、所定以上の加速時および所定以上の減速時にあっても、タイヤスリップなどによる車輪速への影響があるため、車輪速に基づいてタイヤ空気圧異常を判定するには不適切として警報判断を行わない。
【0043】
次にステップ108では、右の前後輪の車輪速比Hi_VRと左の前後輪の車輪速比Hi_VLとをそれぞれ、
Hi_VR=(VFR/VRR)−1,Hi_VL=(VFL/VRL)−1
の演算式により求める。これら前後比HiVR,HiVLは、それぞれ前後のいずれに空気圧異常があるかを判定するもので、例えば、前輪に空気圧異常がある場合には、HiVR,HiVLは正の値となり、後輪に空気圧異常がある場合には、HiVR,HiVLは負の値となる。
【0044】
続いてステップ109では、2つの前後比Hi_VR,Hi_VLの大きい方の値が、所定のしきい値である1%越えているか否かを判定する。このように前後比がしきい値よりも大きい場合も、タイヤ空気圧低下以外の要因により生じた車輪速異常であると判断し、車輪速に基づいてタイヤ空気圧異常を判定するには不適切として警報判断を行うことなく1回の流れを終える。
【0045】
一方ステップ109において、2つの前後比Hi_VR,Hi_VLの大きい方の値がしきい値(1%)以下である場合にステップ110に進んでセレクト横加速度YGSを演算する。
【0046】
このステップ110におけるセレクト横加速度YGSというのは、前輪の左右車輪速差に基づいて得られた前輪横加速度YGFと、後輪の左右車輪速差に基づいて得られた後輪横加速度YGRとのいずれか一方を選択した値であり、要は車輪速から求めた横加速度である。
【0047】
このステップ110においてセレクト横加速度YGSを求めたら、ステップ111に進み、セレクト横加速度の絶対値|YGS|が所定のしきい値0.1gよりも大きいか否か判断し、横加速度の絶対値|YGS|がしきい値よりも大きい場合には、車両が旋回中など定常運転状態でないため、警報判断を行うことなく1回の流れを終え、横加速度の絶対値|YGS|がしきい値(0.1g)以下の場合にステップ112に進む。
【0048】
ステップ112では、旋回半径RSを以下の演算に基づいて演算する。
RS={(VxR+VxL)/(VxR−VxL)}×Kb
ここで、xは、前輪Fあるいは後輪Rのいずれか一方を示す。また、Kbは、予め設定されている係数である。このステップ112にあっては、要は、左右輪の車輪速差に基づいて両者に差がある場合、旋回内外輪差による差として係数を乗じて旋回半径を求めるもので、左旋回か右旋回かで得られた値の+−が異なることになる。
【0049】
続くステップ113では、旋回半径Rがしきい値30m未満であるか否かを判定し、半径30m未満の旋回時には、旋回内外輪により車輪速が大きく異なり車輪速によりタイヤ空気圧異常の判断ができないことから、警報判断を行うことなく1回の流れを終え、旋回半径Rがしきい値30m以上の場合にステップ114に進んで、タイヤ異常判断すなわちタイヤ空気圧の減圧判断値D1を求める演算を行う。
なお、このタイヤ空気圧の減圧判断値D1の演算の仕方は、図6に示すフローチャートに基づいて後述する。
【0050】
ステップ115では、減圧判断値D1がしきい値(0.5%)以上であるか否か(タイヤ空気圧が異常に低下しているか否か)を判断し、しきい値以上でステップ116に進んで減圧フラグを1にセットする。ちなみに、この減圧判断値D1と比較するしきい値は、ここでは固定値を示しているが、例えば、車速が40km/hでは0.5%、車速が80km/hでは0.3%というように車速に応じて変化させるのが好ましい。というのは、空気圧が低圧となったタイヤは、比較的低速の回転速度では小径であるが、高回転速度となると外側に膨らんで径が拡大されて正常輪との径差が小さくなる。そこで、上記のように車速に応じてしきい値を変更するのが精度の点で好ましい。
【0051】
続くステップ117では、減圧フラグが1であるか否かを判断し、減圧フラグが1にセットされている場合にはステップ118に進んで警報作動を実行する。なお、この警報作動としては、警報ランプを点灯させたり車載モニタに表示するなどの視覚的警報作動を実行したり、また、声によるメッセージやブザーなどによる聴覚的警報を実行したり、その両方を実行したりすることが考えられる。
【0052】
次に、ステップ110の横Gの演算処理の流れを図5のフローチャートにより説明する。
まず、ステップ201において、前輪の車輪速VFR,VFLに基づいて前輪横加速度YGFを下記の式により演算し、同様にステップ202において、後輪の車輪速VRR,VRLに基づいて前輪横加速度YGRを下記の式により演算する。
YGF={(VFR+VFL)/(VFR−VFL)}×Kc
YGR={(VRR+VRL)/(VRR−VRL)}×Kd
ステップ203では、前後比HiVR,HiVLの絶対値を比較し、左輪の前後比HiVLの方が大きい場合はステップ204に進み、右輪の前後比HiVRの方が大きい場合にはステップ207に進む。
【0053】
ステップ204では、左輪の前後比HiVLが0以上であるか否かを判定し、0以上であれば前輪に異常があるとして、ステップ206に進んで選択横加速度YGSとして後輪横加速度YGRを選択し、0未満であればステップ207に進んで選択横加速度YGSとして前輪横加速度YGFを選択する。
【0054】
同様に、ステップ207では、右輪の前後比HiVRが0以上であるか否かを判定し、0以上であれば前輪に異常があるとして、ステップ209に進んで選択横加速度YGSとして後輪横加速度YGRを選択し、0未満であれば後輪に異常があるとしてステップ208に進んで選択横加速度YGSとして前輪横加速度YGFを選択する。
【0055】
次に、図6により減圧判断値D1を求める手順について説明すると、ステップ301において、D10=(VFL/VFR)−(VRR/VRL)
の演算により基準値D10を求め、さらに、ステップ302において、
D1=D10−YGS×ke
の演算により、演算した選択横加速度YGSに基づいて補正を行って基準値D10を求める。すなわち、旋回時には、内外輪で速度差が生じるため、この分を補正して精度を高めている。
【0056】
以上説明した図3に示すタイヤ異常警報制御により、タイヤの空気圧が低圧になっている場合には、これを車輪速に基づいて検出して警報を発するもので、本実施の形態1では、車輪速が、タイヤ空気圧異常以外の要因の影響を受けている状態を的確に判断してこの場合にはタイヤ空気圧異常判断を行わないようにして異常判断精度の向上を図っている。
【0057】
以上説明した制御流れのうちでステップ101からステップ107までが処理Aに相当し、ステップ108からステップ109までが処理Bに相当し、ステップ110からステップ113までが処理Cに相当し、ステップ114からステップ118までが処理Dに相当するもので、図2のステップ20からステップ28の処理に基づいて、処理AからDを全く実行していないときには処理カウンタSHCは0となっており、処理Aの実行を終了したら処理カウンタSHCが1にインクリメントされ、処理Bの実行を終了したら処理カウンタSHCが2にインクリメントされ、処理Cの実行を終了したら処理カウンタSHCが3にインクリメントされ、処理Dの実行を終了したら、処理カウンタSHCが0にリセットされるものである。
【0058】
また、本実施の形態1にあっては、上記処理Aから処理Dの処理を実行するのに要する時間は、車輪速センサ1からの出力をカウントするパルスカウンタのパルス数NCNTが所定数2Nとなるのに要する時間よりも短く設定されている。すなわち、本装置が搭載されている車両が考えられる最高速度(例えば、250km/h)で走行したときに車輪Wが2回転して所定数2Nのパルスがカウントされる時間よりも、回転数演算ならびにタイヤ異常警報制御を実行するのに要する時間の方が短く設定されている。
【0059】
次に、実施の形態1の作用を説明する。
(イ)車輪速センサ1の出力パルスが正常な場合
車輪速センサ1からの出力パルスが正常な場合、図7に示すように車輪速センサ1からパルスが接続され、このパルス数が所定数2Nに達するまでは、図2のフローチャートにおいてステップ10→ステップ18→ステップ19→ステップ10を繰り返す。
【0060】
その後、パルス数が所定数2Nになると、ステップ10→ステップ11→ステップ13→ステップ14と流れ、異常判断フラグIHF=0にリセットされるとともに、処理カウンタSHC=0であるからステップ17に進んで、パルスカウンタに積算していたパルス数を0にクリアする。
【0061】
さらに、ステップ20からステップ29の処理に基づいて、車輪速演算ならびにタイヤ異常警報制御の処理を順に実行する。これらの演算ならびに制御の処理を実行している間に、次のパルスの積算を行うが、これらの演算ならびに制御の処理の実行に要する時間は、所定数2Nのパルスの積算に要する時間よりも短いことから、図7に示すように、全ての処理を終えてステップ27の処理に基づいて処理カウンタSHCが0にリセットされるまで所定数2Nがカウントされることはない。
【0062】
(ロ)車輪速センサ1の出力パルスに異常が発生した場合
車輪速センサ1の出力パルスにノイズが重畳されるなどして図7に示すようにパルス数が多くなった場合、パルスカウンタにおいて所定数2Nを積算するタイミングが早くなり、処理カウンタSHCが0にリセットされる前のタイミングで積算される。
【0063】
この場合、図2のフローチャートでは、ステップ10においてYESと判定され、まず、ステップ11→ステップ13→ステップ14→ステップ15→ステップ16と進み、パルスカウンタに積算していたパルス数をクリアし、さらに異常判断フラグIHF=1にセットする。以上のように図2のフローチャートにおいてステップ10からステップ19までが、特許請求の範囲の異常判断手段に相当するもので、すなわち処理カウンタSHCが0にリセットされていないうちにパルス数NCNTが所定数2Nに達すると異常と判断する。
【0064】
この場合、再びパルスカウンタの積算値が所定数2Nとなるまで、ステップ10→ステップ18→ステップ10の流れを繰り返し、処理Aから処理Dの演算を実行することはない。また、異常判断フラグIHF=1にセットされるまでに実行された処理はそのまま保存されるとともに処理カウンタSHCのカウント値も保持されるもので、この図2に示すフローチャートの部分に、請求の範囲の保持手段が含まれている。
【0065】
その後、再びパルスカウンタの積算値が所定数2Nに達したら(この時、ノイズの重畳などの異常は生じていないものとする)、ステップ10→ステップ11→ステップ12→ステップ17と流れて、異常判断フラグIHFを0にリセットするとともにパルスカウンタの積算値をクリアし、保持されたカウント値に応じてステップ23からステップ26のいずれかの処理を実行する。
したがって、パルス異常により中断した処理の次の処理から、前回得られた演算結果に基づいて再開される。
【0066】
以上説明してきたように、実施の形態1にあっては、ノイズの重畳などによりパルスカウンタにおける所定数2Nの積算が早いタイミングで成された場合、これを無効とするため、ノイズの影響を受けることなく高い精度で車輪速の演算ならびにタイヤ異常警報制御を実行できるという効果を奏する。
【0067】
加えて、車輪速センサ1からのパルスが異常と判断した時には、その判断の次の時点における演算処理では、前回処理を中止する以前の演算処理結果を用い、中止以降のみ算処理を行うため、異常判断時における演算負荷を抑えることができ、ノイズが重畳しても高い精度で車輪速演算ならびにタイヤ異常警報制御を低容量の演算手段により達成できるという効果を奏する。
【0068】
さらに、実施の形態1にあっては、タイヤの空気圧異常を検出するにあたり、横加速度YGSおよび旋回半径RSに基づいて、車輪速が走行状態の影響を受けているときには、空気圧異常判断を行わないようにしているため、タイヤ空気圧異常判断においても高い精度が得られる。
【0069】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。この実施の形態2は、請求項1および請求項3に記載の発明に対応している。この実施の形態2も、自動車の車輪速を演算するもので、この車輪速演算に要する時間は、パルスカウンタNCNTが所定数2Nを積算するのに要する時間よりも短く設定されている。
【0070】
以下に、図8のフローチャートに基づいて説明すると、まず、ステップ401においてパルスカウンタのパルス数NCNTが所定数2Nを越えたか否かを判定し、越えた場合ステップ402に進む。ステップ402では、車輪速を演算中であるか否かを、車輪速演算中にカウントされるカウンタCALが0にリセットされているか否かで判定し、CAL≠0であれば、車輪速演算中に所定数2Nの計測を終了しているから、ステップ403に進んで異常と判断して、カウンタCAL=0とすることにより車輪速の演算を中止する。
一方、ステップ402においてCAL≠0でなければ、車輪速演算を終えてから所定数2Nの計測を終了しているから正常と判断しステップ404に進んで、カウンタCALをインクリメントして車輪速演算を開始する。
【0071】
したがって、実施の形態2にあっては、ノイズの重畳などによりパルスカウンタにおけるパルス数NCNTが所定数2Nに達するのが、車輪速演算を実行するよりも早いタイミングで成された異常発生時には、積算手段における所定数の積算が早いタイミングで成された場合、これを無効とするため、ノイズの影響を受けることなく高い精度で回転速度を演算できるという効果を奏する。また、異常判断時には、今回の車輪速演算を中止するだけであるので、この異常と判断したパルス積算値を別途メモリすることが不要で、それだけ低コストで構成することができるという効果を奏する。
【0072】
以上図面により実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態の構成に限定されるものではない。
例えば、実施の形態では、自動車の車輪の回転速度を演算する装置に適用した例を示したが、これに限られるものではなく、回転体の回転速度を演算する装置に広く適用することができる。
【0073】
また、制御手段における演算処理として、タイヤ異常判断処理を一例として挙げたが、演算した回転速度に基づいて演算処理を行うものであれば、他の演算処理にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態1のブレーキ装置の全体システムを示すシステム図である。
【図2】実施の形態1の制御流れを示すフローチャートである。
【図3】実施の形態1の演算処理を示すフローチャートである。
【図4】実施の形態1の車輪速パルス測定の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施の形態1の横加速度演算の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施の形態1の演算処理の要部を示すフローチャートである。
【図7】実施の形態1の作動例を示すタイムチャートである。
【図8】実施の形態2の制御流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
MCU メインコントロールユニット
ENGCU エンジンコントロールユニット
ATCU ATコントロールユニット
ENG エンジン
AT 自動変速機
BU ブレーキユニット
W 車輪
1 車輪速センサ
2 操舵角センサ
3 ヨーレイトセンサ
Claims (4)
- 回転体の回転速度に対応したパルスを出力する回転速度検出手段と、
この回転速度検出手段から出力されたパルスを所定数積算する積算手段と、
この積算手段に所定数パルスが積算された時点で、今回のパルス積算周期に基づいて回転速度を求める演算を実行する回転速度演算手段と、を有した演算装置において、
前記回転速度演算手段が演算に要する時間を、前記積算手段が正常回転速度範囲内で出力されるパルスを所定数積算するのに要する時間よりも短く設定し、
前記回転速度演算手段が回転速度演算中に、前記積算手段でパルスが所定数積算されたときには異常と判断し、積算手段におけるパルス積算値を無効とする異常判断手段を設けたことを特徴とする演算装置。 - 回転体の回転速度に対応したパルスを出力する回転速度検出手段と、
この回転速度検出手段から出力されたパルスを所定数積算する積算手段と、
この積算手段に所定数パルスが積算された時点で、今回のパルス積算周期に基づいて回転速度を求める演算を実行する回転速度演算手段と、
この回転速度演算手段で演算された回転速度を基に制御用演算を行う制御手段と、を有した演算装置において、
前記回転速度演算手段が回転速度を求める演算を行うとともに前記制御手段が制御用演算を行うのに要する時間を、前記積算手段が正常回転速度範囲内で出力されるパルスを所定数積算するのに要する時間よりも短く設定し、
前記回転速度演算手段の回転速度演算中あるいは制御手段の制御用演算中に、前記積算手段でパルスが所定数積算されたときには異常と判断し、前記積算手段におけるパルス積算値を無効とする異常判断手段を設けたことを特徴とする演算装置。 - 請求項1または2に記載の演算装置において、
前記異常判断手段が、異常と判断して無効としたパルス積算値はメモリから消去されるよう構成されていることを特徴とする演算装置。 - 請求項2に記載の演算装置において、
前記制御手段は、前記制御用演算として予め定めた複数の演算処理を順次行う演算処理手段と、複数の演算処理のそれぞれの終了数をカウントするカウント手段と、前記複数の演算処理の全てが終了したときにカウンタをリセットするリセット手段と、を備え、
前記異常判断手段は、前記カウント手段のカウント値が0以外のときに前記積算手段でパルスが所定数積算されたときに異常と判断し、前記演算手段がそれ以降の演算処理を実行するのを中止するよう構成されているとともに、この異常判断による処理の中止前の演算処理の処理結果を保持する保持手段を備え、
前記制御手段は、異常判断を行った次の制御用演算時には、中止した処理よりも前工程の演算処理には保持手段に保持した演算結果を用いるとともに、中止した処理以降の演算処理を行って今回の演算処理結果とするよう構成されていることを特徴とする演算装置。
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