JP3624727B2 - 極厚鋼板の多層サブマージアーク溶接方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、極厚鋼板の多層サブマージアーク溶接方法に関し、特に高層ビルの柱に用いられるボックス柱等の極厚鋼板を溶接する場合に、高温割れの発生を効果的に防止しつつ、高能率の溶接施工を可能ならしめようとするものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、ビルの高層化および柱なし空間を創出するための大スパン化により、ボックス柱に用いられる鋼板の板厚が極厚化する傾向にある。このような極厚鋼板の溶接には、能率を重視して、可能な限り2電極以上の多電極による1パスのサブマージアーク溶接が適用されているが、設備的な制約や技術的限界から1パス溶接が適用できない場合には何らかの多層溶接が施される。
多層溶接法としては、 CO2溶接による多層溶接と大入熱サブマージアーク溶接との組み合わせ、またはサブマージアーク溶接単独による多層溶接等がある。
【0003】
このうち CO2溶接による多層溶接とサブマージアーク溶接との組み合わせでは、 CO2溶接のパス数が非常に多くなるため、能率が低いところに問題が残る。
また、パス数が多いため、融合不良などの溶接欠陥が発生し易いところにも問題を残していた。
【0004】
一方、サブマージアーク溶接による多層溶接法としては、特開平2−179392号公報に開示されているような、溶接入熱:200 kJ/cm 前後で多層溶接を行う方法がある。
この方法は、 CO2溶接の多層溶接に比べると、パス数は大幅に減少するものの、製造ラインで溶接するようになることから、ボックス柱1本のライン占有時間が長くなり、オフラインでロボットを利用して溶接できる CO2溶接に比べると、トータルの能率はパス回数の減少から期待されるほどは改善されないという問題がある。
とはいえ、能率を高めるために入熱を高めると、初層においては、溶接金属の最終凝固部に割れが発生するおそれがあり、また2層目以降の溶接においては、溶融した溶接金属が開先中央に向かって流れ、溶接止端部がオーバーラップ形状になり易く、開先内部での融合不良や余盛り不足などを発生させるという問題がある。
このような欠陥が発生した場合、溶接後、アークガウジングではつり、 CO2溶接ではつった部分を埋め戻す作業が必要となり、溶接自体は高能率になっても補修が必要となるため、総合的な能率の向上には結びつかない。
【0005】
初層の大入熱溶接金属の高温割れを防止する溶接法としては、特開平2−25819号公報に、多段階に開先角度を変化させた開先形状を適用することが提案されている。また、特開平3−118978号公報には、V開先の開先角度を40°以上とし、溶接条件を最適化することにより、初層における大入熱溶接金属割れを防止する方法が提案されている。
しかしながら、溶接金属の化学組成が高温割れに対して敏感な組成になっている場合には、これらの方法を適用しても必ずしも高温割れを完全に防止することはできなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、上記の問題を有利に解決するもので、初層に大入熱溶接を施したとしても、初層溶接金属における高温割れの発生や開先内部における融合不良、余盛り不足などの発生を効果的に防止して、高能率の下で安定した溶接施工を実施することができる極厚鋼板の多層サブマージアーク溶接方法を提案することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく、種々検討を重ねた結果、初層を凝固割れの発生し易い大入熱で溶接したとしても、2パス目の狙い位置を開先中央として溶接を行い、初層溶接金属に発生する可能性のある高温割れ発生位置を2パス目の溶接で溶解することによって、従来懸念された初層における割れの発生を効果的に防止することができ、また、2パス目の溶接金属を1パス目の溶接金属のみに接するようにすることによって、2パス目溶接金属と開先内壁との間に発生し易い融合不良を防止することができ、さらに、後続のパスによる開先中央部への溶接金属の流れ込みを防止することによって、後続のパスの大入熱化およびビード止端部のオーバーラップ発生による融合不良を効果的に防止することができ、かくして極厚鋼板のサブマージアーク溶接をより高品質かつ高能率の下で実施できることの知見を得た。
この発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0008】
すなわち、この発明の要旨構成は次のとおりである。
1.極厚鋼板に、少なくとも初層を大入熱とする4パス以上の多層サブマージアーク溶接を施すに際し、
2パス目の溶接を、1パス目の溶融金属の凝固割れ危険部を再溶融するに足る溶接条件下で、しかも2パス目の溶接金属が被処理鋼板に接しないように行うことを特徴とする、極厚鋼板の多層サブマージアーク溶接方法。
【0009】
2.上記1において、サブマージアーク溶接を、2電極以上の多電極で行うものとし、その際、2パス目の第1電極の溶接電流を1150A以上とすることを特徴とする、極厚鋼板の多層サブマージアーク溶接方法。
【0010】
3.上記1において、サブマージアーク溶接を、2電極以上の多電極で行うものとし、その際、2パス目の第1電極の溶接電流を1200A以上とすることを特徴とする、極厚鋼板の多層サブマージアーク溶接方法。
【0011】
4.上記1,2または3において、2パス目およびそれ以降の連続する少なくとも1パスについて、溶接金属が鋼板に接しないように溶接することを特徴とする、極厚鋼板の多層サブマージアーク溶接方法。
【0013】
この発明において、大入熱溶接とは、少なくとも初層について溶接入熱:300 kJ/cm 以上で行う溶接のことをいい、形成される初層の深さが40mm以上であれば、大入熱溶接であるといえる。
また、この発明で対象とする極厚鋼板とは、板厚が少なくとも55mmのものを意味するが、この発明は特に板厚が60mm以上さらには70mm以上の極厚部材に適用して好適なものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体的に説明する。
さて、ボックス柱の角継手部を大入熱で溶接するに当たっては、通常、ルートフェースを数mmとり、開先角度30°以上のV開先が使用される。
この時、多パス溶接ということになると、初層の高温割れとスラグ剥離が問題となることから、前述したような2段開先や40°以上の開先角度のV開先が用いられることもある。
【0015】
この発明における大入熱溶接において、電極については、1極でも2極以上でも良いが、十分な入熱を与えるためには、2極以上とすることが好ましい。
高温割れの発生は、溶接金属の形状に大きな影響を受け、ビードの深さが幅に対して大きい場合、すなわち大入熱で開先内部に溶接金属を留めるような溶接を行った場合に発生し易く、発生場所は溶接金属の最終凝固部、すなわち溶接金属の中央上部である。
この発明では、この割れが発生する可能性のある開先中央部に集中させて、2パス目の溶接を高電流で行い、割れが発生する可能性のある場所を積極的に再溶解することによって、初層の凝固割れを防止するのである。
【0016】
このような2パス目の溶接としては、1電極の場合は勿論のこと、2極以上の多電極の場合でも、第1電極の電流を1150A以上、特に鋼板板厚が60mm以上の場合には1200A以上として行うことが望ましい。
というのは、2パス目における先行電極の電流が1150Aより小さいと、2パス目の溶込みが浅くなり、初層溶接金属を溶かし込む深さが浅くなるために、完全に凝固割れの発生を防止することが難しくなるからである。
ここに、凝固割れの発生を完全に防止するためには、2パス目による初層溶接金属の溶かし込み深さは13mm以上、鋼板板厚が60mm以上の場合には15mm以上とすることが望ましい。
【0017】
また、2パス目の溶接金属は、1パス目の溶接金属のみに接するようにすることが重要である。
というのは、2パス目が開先内壁と接するような施工では、開先内壁と2パス目溶接金属との間に未溶融部つまり融合不良が生じる場合が発生し、この融合不良部は後続の溶接で溶解しきれずに欠陥として残る可能性が高いためである。
なお、2パス目の溶接金属を1パス目の溶接金属のみに接するようにするには、ワイヤの狙い位置を開先中央付近とすると共に、溶接金属が過多にならないように溶接条件(電極速度など)を調整すれば良い。
従って、2パス目の溶接は、多電極の場合でも単一電極だけの使用としてもかまわない。
【0018】
さらに、2パス目のビードを、開先中央部のみに置くことによって、3パス目以降の溶接金属が開先中央部に向かって流れ込み、オーバーラップとなるのを有利に防止することができる。オーバーラップとなるとその部分が最後まで未溶融部として残る場合があり、好ましくない。特に大入熱化するほど溶融池が大きくなり、溶融金属が流れ易くなるが、上記したように2パス目のビードを開先中央部に置くことによって、かような溶融金属の流れ込みを防止できるため、大入熱化が可能となる。
【0019】
なお、上述したような、溶接金属の中央部のみにビードを置くような溶接は、2パス目だけに限るものではなく、連続的に行うのであれば、2パス目+3パス目、さらには2パス目+3パス目+4パス目のように多パスとしても良い。
このように、溶接金属の中央部のみにビードを置くような溶接を複数回にわたって行うと、中央部のビード高さが高くなるので、それ以降のパスによる溶接金属層が開先中央部への流れ込みのために薄くなることを効果的に防止でき、必要な溶接パス数を削減できる利点がある。
【0020】
【実施例】
以下、実施例について述べる。
供試鋼材の成分組成を表1に示す。表1中、鋼板Aは板厚:70mmの 490 MPa級鋼板、鋼板Bは板厚:70mmの 590 MPa級鋼板、鋼板Cは板厚:80mmの 490 MPa級鋼板、鋼板Dは板厚:55mmの 490 MPa級鋼板である。
また、溶接ワイヤとしては、直径:6.4mm のものと 5.1mmのものを用いた。供試ワイヤの成分組成を表2に示す。表2中、ワイヤaは直径:6.4 mmの 490 MPa級鋼溶接用ワイヤ、ワイヤbは直径:6.4 mmの 590 MPa級鋼溶接用ワイヤ、ワイヤcは直径:5.1 mmの 490 MPa級鋼溶接用ワイヤである。
さらに、フラックスとしては、SiO2−MgO−CaO−Al2O3を主成分として鉄粉を添加した焼成型のものを用いた。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
実施例1
表1のAに示した成分組成の板厚:70mmの 490 MPa級鋼板に図1に示すような2段開先加工を施し、これに2電極サブマージアーク溶接により、表3に示す条件下で4パス溶接を行った。用いたワイヤは先行極(L極)および後行極(T極)とも表2にaで示した直径:6.4mm のものを用いた。なお、ワイヤの狙い位置は図2に示すとおりである。
図3にビードの積層状態を、また図4にその断面外観を示したが、この発明に従って溶接施工を行った場合には、内部欠陥もなく、良好な溶接ビードが得られた。
また、この時、2パス目の溶接による初層溶接金属の溶かし込み深さは17mm以上であった。
【0024】
比較例1
実施例1と同じ鋼種および開先形状の鋼板に対し、図5に示す積層法で多層サブマージアーク溶接を行った。溶接条件を表3に併記する。
その結果、初層溶接金属に割れが発生しただけでなく、2パス目止端部が余盛り不足となった。また、2パス目の溶接による初層溶接金属中央部の溶かし込み深さはせいぜい9mm程度であった。
【0025】
【表3】
【0026】
実施例2
表1のBに示した成分組成の板厚:70mmの 590 MPa級鋼板に図6に示すような開先加工を施し、2電極サブマージアーク溶接により、表4に示す条件下で4パス溶接を行った。
図7に、ビードの積層状態を示したが、この発明に従い溶接施工を行った場合には、内部欠陥もなく、良好な溶接ビードが得られた。
また、この時、2パス目の溶接による初層溶接金属の溶かし込み深さは16mm以上であった。
【0027】
比較例2
実施例2と同じ鋼種および開先形状の鋼板に対し、同じ積層法にて2電極サブマージアーク溶接を行った。ただし、2パス目は、溶接入熱は同じとしたが、先行極電流を1100Aとした。溶接条件を表4に併記する。
その結果、初層溶接金属の一部に割れが発生した。2パス目の溶接による初層溶接金属の溶かし込み深さは11〜14mm程度であり、割れが発生したのは溶かし込み深さが13mmより少ない場合であった。
【0028】
【表4】
【0029】
実施例3
表1のCに示した成分組成の板厚:80mmの 490 MPa級鋼板に図8に示すような開先加工を施し、2電極サブマージアーク溶接により、表5に示す条件下で4パス溶接を行った。
図9に、ビードの積層状態を示したが、内部欠陥もなく、良好な溶接ビードが得られていた。
また、この時、2パス目の溶接による初層溶接金属の溶かし込み深さは16mm以上であった。
【0030】
比較例3
実施例3と同じ鋼種および開先形状の鋼板に対し、同じ積層法にて2電極サブマージアーク溶接を行った。ただし、2パス目は電極速度を下げて入熱量を増やし、2パス目の溶接金属が開先壁に達する条件とした。
その結果、2パス目溶接金属と開先壁との間に融合不良が発生した。また、2パス目の溶接による初層溶接金属の溶かし込み深さは16mm以上であった。
【0031】
【表5】
【0032】
実施例4
表1のDに示した成分組成の板厚:55mmの 490 MPa級鋼板に図10に示すような開先加工を施し、2電極サブマージアーク溶接により、表6に示す条件下で4パス溶接を行った。
その結果、内部欠陥もなく、良好な溶接ビードが得られていた。
また、この時、2パス目の溶接による初層溶接金属の溶かし込み深さは13mm以上であった。
【0033】
比較例4
実施例4と同じ鋼種および開先形状の鋼板に対し、同じ積層法にて2電極サブマージアーク溶接を行った。ただし、2パス目は、溶接入熱は同じであるが、先行極電流を1100Aとした。溶接条件を表6に併記する。
その結果、初層溶接金属の一部に割れが発生した。また、2パス目の溶接による初層溶接金属の溶かし込み深さは12〜13mm程度でり、割れが発生したのは溶かし込み深さが13mmより少ない場合であった。
【0034】
【表6】
【0035】
以上、実施例では、4パスでサブマージアーク溶接を行った場合について開示したが、この発明はこれだけに限るものではなく、図11に積層状態を、また図12に断面外観を示すように、溶接金属が1パス目の溶接金属のみに接するように施工した2パス目の溶接金属の上に、引き続く3パス目のビードを置き、その後に4パス目および5パス目を実施するようにしても良い。
とくに、2パス目の溶接が終了した時点で開先部が広く残されている場合には、開先中央部に3パス目のビードを置かないと、ビードが開先部に広がりすぎて厚みがとれず、開先部を埋めるのに必要なパス数が増加する(図13参照)不利が生じる。
なお、3パス目においても、開先内壁との間に融合不良を生じさせないためには、溶接金属が鋼板に接しないように溶接することが重要である。
【0036】
【発明の効果】
かくして、この発明によれば、従来、大入熱溶接を実施する場合に懸念された初層における高温割れの発生は勿論のこと、開先内部における融合不良や余盛り不足などの発生を効果的に防止することができ、ひいては、高品質、高能率の下で極厚鋼板の多層サブマージアーク溶接を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1および比較例1における開先形状を示した図である。
【図2】ワイヤの狙い位置を示した図である。
【図3】実施例1に従い多層サブマージアーク溶接を実施した場合のビードの積層状態を示した図である。
【図4】実施例1に従い多層サブマージアーク溶接を実施した場合のビードの断面外観を示した図である。
【図5】比較例1に従い多層サブマージアーク溶接を実施した場合のビードの積層状態を示した図である。
【図6】実施例2および比較例2における開先形状を示した図である。
【図7】実施例2に従い多層サブマージアーク溶接を実施した場合のビードの積層状態を示した図である。
【図8】実施例3および比較例3における開先形状を示した図である。
【図9】実施例3に従い多層サブマージアーク溶接を実施した場合のビードの積層状態を示した図である。
【図10】実施例4および比較例4における開先形状を示した図である。
【図11】この発明に従い5パスのサブマージアーク溶接を実施した場合のビードの積層状態を示した図である。
【図12】この発明に従い5パスのサブマージアーク溶接を実施した場合のビードの断面外観を示した図である。
【図13】2パス目の溶接が終了した時点で開先部が広く残されている場合に、それ以降のビードが開先部に広がりすぎて厚みがとれず、開先部を埋めるのに必要なパス数が増加した状態を示した図である。
Claims (4)
- 極厚鋼板に、少なくとも初層を大入熱とする4パス以上の多層サブマージアーク溶接を施すに際し、
2パス目の溶接を、1パス目の溶融金属の凝固割れ危険部を再溶融するに足る溶接条件下で、しかも2パス目の溶接金属が被処理鋼板に接しないように行うことを特徴とする、極厚鋼板の多層サブマージアーク溶接方法。 - 請求項1において、サブマージアーク溶接を、2電極以上の多電極で行うものとし、その際、2パス目の第1電極の溶接電流を1150A以上とすることを特徴とする、極厚鋼板の多層サブマージアーク溶接方法。
- 請求項1において、サブマージアーク溶接を、2電極以上の多電極で行うものとし、その際、2パス目の第1電極の溶接電流を1200A以上とすることを特徴とする、極厚鋼板の多層サブマージアーク溶接方法。
- 請求項1,2または3において、2パス目およびそれ以降の連続する少なくとも1パスについて、溶接金属が鋼板に接しないように溶接することを特徴とする、極厚鋼板の多層サブマージアーク溶接方法。
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